プロットなんてありません、完結するかも分かりません。そんな筆者が書く物語です。
白銀色と白紫色の閃光が縦横無尽に飛び交う。
宇宙空間を連想させるその空間で、二体の竜が向かい合っていた。
一体は紫掛かった白色の体色をした二本足で立つドラゴンだ。その背からは二対の翼を生やし、両肩の真珠が荒ぶる意思に共鳴する様に煌々と輝く。
もう一方は、深い藍色の体色を持つ四脚のドラゴン。頭や麒麟の様に長い首、胸や腰には銀色の装甲を纏い、胸部の中心には金剛の結晶が寒色の光を閃かせた。
身体に引かれた紫色のラインが薄く、脈動する様に燐光を発する。白龍――パルキアが吠える。
対の竜――ディアルガのラインも呼応する様に、青色の光が浮き上がった。
空間をも両断する斬撃が、時すらも軋む極光が――
――衝突する。
▱▱▱
――あの日、非日常というのは前触れもなくやって来た。朝の報道番組の占いコーナーは的外れ、事前の虫の知らせは発揮されず、マヤ文明の予言にもきっと記されていない事だろう。唐突に、突然に、超常現象は僕達を呑み込んだ。
きっと、この世界中の誰もが予想していなかったに違いない。
とある少年のレポートより抜粋。
いつも通り一人で学校へ登校し、黙々と退屈な授業に耳を傾け、孤独に寂しく昼休みを過ごし、本日最後となる授業を眠気と戦いながら受けていた。
窓外では寒空が広がり、暖かい教室に居ながらも冬の寒さが容易に想像できた。
「(もうすぐクリスマスか)」
ふと明日、世界的にも有名なイベントがある事を思い出し、外に目をやった。
降り始めた粉雪が風に吹かれるまま中空を舞う。
数え切れない白が視界を埋め尽くさんとばかりに段々と勢いを増していく。
「(……荒れるかな)」
傘持ってくればよかった、と今朝の自分を恨んでいると次第に降雪は落ち着いていった。やがて雪は速度を失い、春斗の目の前で静止する。
「うわぁッ!?」
思わず奇声を挙げて、椅子から立ち上がった。クラス中から好奇や軽蔑の篭った視線が集中している事にも気付かず、唯々窓外を見詰める。
目をこすり、再び見る。目をこすり、三度観る。
――間違いなく、雪が止まっていた。
それだけではない。寒々とした空気を切って飛翔する小鳥達も、上から糸で吊るされているかの様に空中で動きをやめている。
気が付けば、単調にチョークを黒板に叩く音もやんでいた。
――グニャリ。
擬音として表すのならば、これが適切だろう。
直後に、視界が歪んだ。平衡感覚を失い、春斗は椅子から転げ落ちた。窓ガラスが音を立てて破れ、壁掛け時計の針が不規則に回る。
数々の悲鳴が教室中から上がり――
――テレビの画面を切り替えるかの様に突然、情景が変化する。
春斗達は360度岩に囲まれた薄暗い洞窟の中に居た。
先程までの暖かな空間とは一転、肌寒いでは済まない寒気(かんき)が春斗を襲った。
数十秒の思考停止の後、破裂するかの様に悲鳴が響き渡った。
「な、なんだよコレ⁉︎」
「ココどこだよ‼︎」
春斗は唯、呆然と首を巡らす事しかできなかった。
厚い岩の壁に四方を囲まれた空間。天井は闇に覆われ、確かな高さは分かりかねるが春斗の身長の何十倍だというのは考えずとも分かった。
「――皆、落ち着けよ‼︎」
これからどうしよう、と焦燥心にも似た不安感を胸の中で膨れさせていた春斗の耳に生徒会長兼学級委員長――
「落ち着けだと!? この状況でか!?」
出席番号11番――
「――こんな所で騒いでいても仕方ないだろ! まずは此処から脱出する事だけを考えよう!」
と一蹴される。
そこからは凄かった。神威の統率力とカリスマ性により、この場を支配していた恐怖心は一先ず収まり、出席番号順に列が出来ていた。
整った列が一例出来上がり、点呼を取ると、今この場に転移してきたのは教師を除いた朝日ヶ丘中学校2年4組の生徒達だけだという事が判明した。
「(冷静になってみると、他のクラスってどうなったんだろ)」
一向に拭えない思考をぐるぐると巡らす春斗や不満そうに唾を吐く彦丸を置いて、2年4組のクラスメート達は神威を先頭に、闇を掻き分け、洞窟内を進んでいく。
はっ、と現実に回帰した春斗は大急ぎで列の後を追った。
春斗達はその後、転移した1日目に滝が流れ落ちる川を発見し、意外にも順調に川下へと降りていった。
しかし、2日目。空腹に苦しみながらも下層への道を探す彼等は、一寸先は闇とは良く言ったものである、と身に沁みて実感出来る様な事故に遭遇する。
▱▱▱
――「ポケットモンスター」シリーズ。
タイトルにもなるポケットモンスター――略してポケモンが住まう架空の世界を冒険するRPG。
日本のみならず、海外でも人気を博した傑作ファンタジーである。
なぜこの様な時にゲームの事を考えているのか。「春斗はこのゲームが大好きだから、空腹を紛らわす為の現実逃避」というのも理由の一つに挙げられるだろう。
しかし〝この状況〟で、ポケモンをよく知る人ならばこの思考は別段可笑しくはない。
事の発端は些細な事だった。女子のスクールカーストの頂点、出席番号10番――
――彼女もまさか石が動き出すなんて思いもよらなかったんだろう。
石は2本の腕を生やし、ゴツゴツの手で地を掴むと反動を付けてクラスメート達に襲い掛かった。
『イシツブテ⁉︎』
春斗を含め、片手で数えられる人数の生徒が叫んだ。
ポケモンの一種だ。石と見分けがつかない程に似た身体を持つ「がんせきポケモン」。
「(体重は……確か20kg位あったっけ? ――当たるとヤバイじゃん)」
なぜ空想上のポケモンが現実にいるんだ、と喚く生徒がいたが、居るんだから仕方が無い、と春斗は頭の中で簡潔に纏めた。
石より硬く、重量20kgの弾丸が跳んでくる。打ち所が良かろうが悪かろうが重傷は必至だ。
もしも、などと考えたら足がすくんで動けないだろう。春斗は皆より1テンポ早く回避に行動を移していた。
「――皆、避けろッ‼︎」
神威が張った声に弾かれる様に、生徒達はイシツブテの体当たりを躱す。
一先ずは危機を逃れた、と一息吐く間もなく再び災難が春斗達を襲う。
生きた弾丸の向かう先には、己の運を呪いたくなる程の物が静かに佇んでいたのだ。
イシツブテの体当たりにより、深い眠りから目覚めたのは、
「ゴロォオオオオッ!!」
ゴローン。イシツブテの進化形であり、平均体長は1mを超える怪物だ。
「さ、最悪だ」
誰かが漏らした呟きは、クラスメート全員の心を代弁したものだった。
イシツブテならまだしも、寝起きで怒れるゴローンなど中学生の手に負える相手ではない。
春斗は小難しく考えるまでもなく、ゴローンに背を向けた。
「ゴロォ……ォオオオンッ!!」
ゴローンはさながらスーパーボールの様に跳躍する。重さ105kgの大岩はそのまま地面へと落下した。
衝突による弾性波動の威力は、彼等が味わった事のない衝撃波として、2年4組の生徒達に襲い掛かった。
こんな洞窟でそんな振動が発せられたらどうなるか位想像は難しくない。天井からの落石や大地の陥没が引き起こされるだろう。
そんな荒波の如く春斗を巻き込んだ衝撃は、意図も簡単に足の骨を砕いてみせた。
音を立てて崩れ行く大地。あらがう事も出来ずに、浮遊感が身体を包む。
激痛で朦朧とする意識の中、何処か遠くに感じる悲鳴や怒号を撒き散らすクラスメート達を見やる。
誰一人として見送る者の居ない中、彼は闇へと溶けていった。
筆者の心は厚さ0.3mmのプラスチック製です。
厳しい意見はお控えください。