ポケットモンスター 異界の少年   作:PP0

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REPORT:4 突撃! 路地裏のギンガ団

「――やっとこの時が来た。どれ程待ち望んだ事か……!」

 

 有明春斗、14歳はコトブキポケモンセンターのエントランスホールで、歓喜に打ち震えていた。

 運び込まれた際の学生服ではなく、ナナカマドが用意した赤いシャツの上から青いジャケットを着て、黒いズボンを履いた格好だ。

 長い戦いだった、と滲む涙を拭う。

 

「退院だあーーーっ!!」

「――くぉっふ!」

 

 両手を突き上げる。春斗の隣で、リオル――シアンも歓喜に万歳をする。

 そんな二人の様子に、態々退院を祝いにやってきたダイヤとナナカマドは微笑ましく思った。

 

「してハルトよ、先程の話に出てきた人物は確かにゲンと名乗ったのか?」

 

 はい、と頷く春斗。ナナカマドはそれを受けて、ふむ、と顎髭に手を当てた。

 シアンの件を、ナナカマドに説明した所、意外にも博士はゲンを知っている素振りを見せた。

 気になるにはなるのだが、追求させない雰囲気のナナカマドに春斗もダイヤも問いを投げる事は出来なかった。

 

「……それでハルト君はポケモンマスターを目標に掲げるのだから、まずはリーグチャンピオンを目指すのよね?」

「うん、まずはクロガネジムに挑んでみるよ」

 

 ダイヤによれば、ポケモンマスターの称号を得るにはポケモンリーグが主催する4年に1度の大会を地方別に4回連続制覇をしなければならないのだという。

 ポケモンリーグとは、カントー地方のセキエイ高原に本部を置く、全世界のポケモントレーナーを統括する組織だ。

 リーグの大会に出場するには、その主催地で運営される8つのジムに挑戦し、そこのリーダー――通称「ジムリーダー」にポケモンバトルで勝ち、バッジをそれぞれ8つ揃える必要がある。

 

 そこで手始めに、ここコトブキシティからテンガン山を隔てた先にある炭鉱の町「クロガネシティ」にあるジムに挑戦しよう、と春斗は考えていたのだ。

 

「そう……はい、退院祝いよ」

 

 春斗の言葉にダイヤの表情を翳った。

 なぜ、テンガン山を超えると軽々しく宣言出来るのだろうか、と思ったからだ。

 春斗はテンガン山で、ポケモン――彼曰くゴローンにやられ、このセンターに運び込まれた。精神的なダメージを負っていない筈ないのだから。

 ダイヤは春斗の無鉄砲な所に危うさを感じているのだ。

 ダイヤが暗い表情を悟られない様に突き出した退院祝いは彼女らしい物だった。

 シルフカンパニー製の「傷・火傷・麻痺・毒・眠り・凍り」薬それぞれ3つずつ詰まったセットだ。

 

「私からはこれだ」

 

 ナナカマド博士が春斗に手渡したのは、リュックサックだった。

 重量を感じた春斗がナナカマドに断ってリュックの中身を見ると、トレーナー修行に欠かせない物が入っていた。

 モンスターボール10個とプレミアボール(白を基調としたモンスターボール・性能は変わらない)1個。それと青色のポケモンウォッチ(略してポケッチ・様々なアプリを内蔵しているハイテク腕時計)、保存食や寝袋、3000円程入った財布などだ。

 

「二人共、ありがとうございます」

 

 傷薬セットをリュックサックに詰め込み、背負う。

 頭を下げた春斗に、ナナカマドは笑顔で返した。

 

「くれぐれも気を付けるのだぞ。何かあったら――いや、気軽に研究所に連絡しなさい。預かりシステムの転送先は私の研究所に設定されているが、良いかね?」

 

 ――ポケモンは強力な力を持っている。

 その為、所持出来るのは12歳以上、連れて歩けるのは6匹までと法律で決まっている。

 そして6匹捕まえてしまった際に世話になるのが預かりシステム。ポケモンセンターなどに置かれたパソコンから、ポケモンを転送・引き出しする事が出来る便利なシステムだ。

 

「何から何まで、お世話になりました」

「そう何度も畏らんでも良い。さて、ハルト。旅の出発祝いとして――君にこれを渡そう」

 

 春斗に手渡されたのは、赤を基調とした近未来的な機械だった。春斗の掌より少し大きい位のタブレット端末。

 

「これって」

「――ポケモン図鑑だ」

 

 シンオウ地方限定だがな、とナナカマドは付け加える。

 ポケモン図鑑とは、端末をポケモンに翳すだけで、種族名から始まり、種としての平均身長や体重、生息地や概要が分かるハイテクな機械だ。

 

「ぅぉおおおお! 本物だぁーーー!!」

 

 キラキラとした瞳で図鑑を掲げ、その場でクルクルと回りだす。

 数十回転した後、足が縺れて尻餅をつく。それでも、彼の興奮は冷めていなかった。

 

「さっそく使ってみても良いですか!?」

「勿論だ」

 

 図鑑を起動し、カメラをシアンへと向ける。

 

『――リオル。はもんポケモン。

 しなやかで 強靭な体 を 持つ ポケモン。

 体から 発する 未発達な 波導 は 怖いとき 悲しいときに 強まり ピンチを 仲間に 伝える』

 

 機械的な音声が、つらつらとリオルについての詳細を読み上げる。

 

「すげぇええええッ!!」

 

 周りからの咎める様な視線にも気付かず、雄叫びを上げる。

 

「(……本当に大丈夫かな)」

 

 この少年に対して、こう思ったのは2度目の事だ。

 

「――じゃあ、ナナカマド博士! ダイヤ! いってきます!!」

 

 返事を待たずに駆け出す。

 シアンがリュックサックに跳び乗り、春斗の頭を掴んだ。どうやらこの格好が旅のデフォルトになりそうだ。

 

「ぉお、お、重い……ッ!」

 

 ――震えた声を発しながら一歩外に踏み出す。

 春斗とシアンの旅立ちは、なんとも情けないものとなった。

 

 

 

   ▱▱▱

 

 

 

 コトブキシティ。山を切り出して発展した大都市だ。街のキャチコピーは「人が集う 幸せの街」だ。

 建ち並ぶビル、石畳に覆われた路、露が朝日を反射してイルミネーションの様に輝く街路樹や、広場の中央に設けられた噴水。

 小綺麗に整備された街を野良ニャルマーが足取り軽く歩いていく。

 朝方だからか、此処が北の大地だからか、肌寒い朝の空気を肺一杯に吸い込む。

 

「はあっ、凄えなぁ〜」

 

 ゲームでは然程大きさを感じない街だったが、現実では大都市の名に恥じない規模だった。

 高さ0.5m程の子猫に似た「せんこうポケモン」――コリンクと共に仲睦まじく、日課であろうランニングを熟す老人とすれ違い、幸せの街というのも納得だ、と春斗は一人頷いた。

 春斗が散策を続けていると、周りをビルに囲まれた広場に出た。朝日が照らし込み、早くから子供達が遊んでいる。

 そろそろ肩が痛くなってきたので一旦シアンを下ろし、ベンチに腰掛ける。

 

「昼ご飯を食べたらクロガネシティに出発しような? ……シアン?」

 

 シアンの様子がおかしい、と春斗は訝しげに首を傾げた。

 房を水平に立てて、虚空をみつめるシアン。いつぞやに見た光景だった。

 

「くう!」

 

 しなやかな体躯で駆け出すシアンを、急いで追い掛けた。

 

「ちょっ、待てって!」

 

 入り組んだ路地を縫うように進んで行く。

 開けた場所に出た時、ようやくシアンの足が止まった。はもんポケモンが差す指の先には、涙ぐみ、俯く幼い少女がいた。桃色のツインテールがアスファルトを撫で、汚れている。

 なぜシアンがこんな所に来たのかが分かった。少女の「悲哀」の感情を読み取ったのだろう。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

 とりあえず訳を聞いてみよう、と優しく掛けた声に、少女は面をあげる。将来美人になりそうな容姿は、涙と鼻水で歪んでいた。

 

「……あ、たしの……ケー、シィが……」

 

 鼻声で、少女は続ける。

 

「――盗られちゃった……っ!」

 

 

 

   ▱▱▱

 

 

 

 路地裏で銀髪オカッパ姿の男二人組が嗤い声を挙げていた。

 

「――流石大都会。今日だけで大量だぜ」

「この調子なら幹部昇進も夢じゃねぇぞ」

 

 モンスターボールがぎっしりと詰まったダンボール箱を覗き込み、再び含み笑いを漏らす。

 

「さて、さっそくハクタイシティの――」

「――先手必勝『でんこうせっか』!!」

「――がはァッ!?」

 

 言葉が途切れた。男の一人は襲われた衝撃に抗える事なく、アスファルトを転がる。

 

「――おい、大丈夫か!?」

 

 相棒に駆け寄り、声を掛けるが、もう意識を手放したのか反応はない。

 

「――テメェ、何すんだ!」

 

 振り向けば、一人の少年と獣人を連想させるポケモンがいた。

 

「銀色のオカッパ頭で宇宙人みたいな変な服装……やっぱりお前等だったか、ギンガ団……ッ!」

「へ、変な服装とは何だ! この時代を一歩先に行く最先端のファッションを理解出来ないとは……ッ!」

 

 倒れた仲間の事などもう眼中にないようで、春斗に食ってかかる。

 

「……まあ、時代どころか空間を超えてそうだよな。異世界人みたいだ」

「え、そう? いや――」

「――言っとくけど褒めてないよ」

「――照れるぜ〜って、な、何をぉっ! クソガキがぁッ!!」

 

 でんこうせっか、と春斗の指示が路地に響く。と同時に、シアンは弾かれた様にギンガ団員に特攻を仕掛けた。

 白白とした閃光を身に纏った――まさしく電光石火の一撃はギンガ団員に命中――

 

「うわァッ!? 危ねえッ!!」

 

 ――しなかった。

 ギンガ団員はシアンの攻撃を前転で素早く回避したのだ。流れる様な動作で懐からモンスターボールを取り出し、開閉スイッチを押す。

 ボールから放たれた閃光と共に、一匹のコウモリが現れる。

 

「――ズバッ!」

 

「……ズバット、か」

 

 両目が退化して存在しない「こうもりポケモン」。

 口から出す超音波をソナーの様に飛ばして視覚の代わりとしていて、大抵どこの洞窟でも見掛けるポケモンだ。

 

「ズバット! ――『ちょうおんぱ』!」

「よ、避けろ!!」

 

 「ちょうおんぱ」。体から怪音波を発して、対象を混乱状態にさせる技だ。

 ズバットの口から視認出来る程の音波が放たれる――

 

 

 

 ――前にギリギリ飛ばした春斗の指示と、「ちょうおんぱ」の命中率55%という低さも功をそうしてシアンは軽々と躱す事に成功する。

 

「(あ、危ねえ……そうだよな、ゲームじゃないんだもんな)」

 

 戦闘の臨場感に心臓がバクバクと脈を打つ。

 

「ちっ! 『きゅうけつ』ズバァァァット!!」

「(よし、失策だ……っ!)」

 

 白兵戦を得意とする「かくとうタイプ」のポケモン相手に接近戦は禁物だ。

 鋭い歯を煌めかせ、シアンの体に歯を立てようと滑空する。

 指示などなくとも、シアンは紙一重でズバットの攻撃を避けた。

 

「シアン、羽を掴んで――」

「――くおッ!」

 

 シアンがズバットの翼を掴む。

 

「そのまま地面に叩きつけろ!」

 

 アスファルトに叩きつける。ズバットは打ち付けられた痛みに悲鳴を挙げる。

 

「――とどめだ! オカッパ頭に『でんこうせっか』!」

「――クォオオオオンッ!!」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 閃光を纏ったシアンの体当たりがギンガ団員の腹に突き刺さり、銀髪オカッパ頭は壁に打ち付けられた。

 

「ひ、卑怯……な……」

「勝ちゃあ良いんだよ、勝ちゃあ! やられる前にやる! それが僕の信条だ!!」

「く、くそぉ、いけ! ――スカンプー共!」

 

 モンスターボールの開閉音と共に溢れ出た光。「スカンクポケモン」――スカンプーが2匹呼び出される。

 

「え、えぇっ!? 1VS1だろ、2匹目なんて卑怯だぞ!」

「さっきと言ってる事が違うじゃねぇかぁっ! まだまだ行けぇッ――ニャルマー!」

 

 ニャルマーが二匹、鳴き声を挙げた。

 

「――これで計四匹だ! お前のポケモンも奪ってやるよ!!」

 

 春斗とシアンを取り囲む様に、四匹のポケモンが円を描く。

 脳裏に過るは、ケーシィを奪われた少女との約束だった。

 

 ――んじゃあ、お兄ちゃんが取り返して来てやるよ!

 

 ――え、良いの……?

 

 ――楽勝楽勝、任せときな。

 

 格好良く啖呵を切ったのは良かったが、1VS4は流石に厳しい。

 春斗とシアンにとって、これが初バトルなのだ。経験値が圧倒的に、物量が絶望的に足りない。

 ゴクリと生唾を飲み込み、声を絞り出す。

 

「……こ、降参しまーす」




冬休みの宿題に埋もれ、更新が遅れてしまいました。



NAME:アリアケ・ハルト
BIRTHPLACE:コトブキシティ
GENDER:男
AGE:14
MONEY:3000円
BADGE:0個
Pokémon TEAM:
 シアン(リオル) Level.5
 性別:♂
 性格:いじっぱり
 特性:せいしんりょく
 技:でんこうせっか、みやぶる、こらえる
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