妹のように甘えてくるみんなが可愛すぎて死にそう   作:青虹

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どうも、青虹です。

この話は外伝であり、本編ではありません。それに、タイトルからも大きくかけ離れていることでしょう。
この話は、ヤンデレがメインで、作者が書いてみたいと思ったから書いているだけです。ヤンデレが苦手という方、ここで戻ることを推奨します。

それでもよければ、2000文字少々ですが、お付き合いください。


外伝:愛は美しく、醜いものである
無駄な逃避行


 ──Your love makes me at once the happiest and the unhappiest of men.

 

── Ludwig van Beethoven

 

(──君の愛は、私を最も幸せな男にするのと同時に最も不幸な男にもする。

 

──ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン)

 

 

 

 ******

 

 

 

 東京の街は深夜だというのに、活気に溢れかえっている。ビルのネオンは煌々と行く道を照らし、仕事終わりのサラリーマンが酒を飲んで騒いでいる。

 そこには『楽』があった。

 行き交う人は皆酒に酔い、心底楽しそうに笑っている。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 その中で、息を切らして走る少年は浮いていた。

 必死の形相で、迫り来る()()から逃げるように、己の体力など見て見ぬ振りでひた走る。

 しかし、追う者はない。少年が追われている者など、第三者からは知り得ない。

 次第に、その顔を泣きそうな物へと変える。

 

(クソッ、何でこんなことに……っ!)

 

 一人だけ『哀』を背負い、繁華街を駆けていく。愛に潰れ、愛に潰され。

 少年はただひたすらに後悔していた。自分は何故こんなにも未熟なのだろう、と。何故、()()()()のことを全くもって理解できていなかったのだろう、と。

 後悔先に立たず。少年は、今まで送ってきた日常が正解だと思い、その道を踏み外さないように、ひた走ってきた。だが、その結果どうなった。

 少年は、いつもよりも矮小に見える容貌で力なく走り続ける。覇気はなく、今にも崩れ落ちそうだった。

 少年がどれだけ悲しみに暮れようとも、どれだけ絶望しても、彼らはネオンの引き立て役としか捉えない。

 

「すみません」

 

 肩同士がぶつかり、バランスを崩す。それだけなのに、倒れそうなよろけ方。それだけ少年の心身が追い込まれているということだ。

 深夜帯は公共交通機関がほぼ停止している。それでもこの時間に走り続けるのは、このタイミングしか無かったから。今行動を起こさなければ、より恐ろしい恐怖に晒されながら怯えた1日を浪費することを強要される。少年に人権は無かった。

 少年の行く末など、誰も興味を示さない。結局は赤の他人であり、すれ違う人に何ら影響を及ぼしたこともない。だから、少年の退路が消滅しても、誰も気に留めることはない。

 

「ふふっ、ミツケタ……!」

 

 狂気で、それでいて快楽に満ちた目で獲物(少年)を見据える。まるで、1週間ぶりに獲物を見つけた、飢えに飢えた肉食動物のようだった。

 光が消えた目で、獲物を舐め回すように見つめる。フラフラになりながら必死に逃げる少年の姿が、少女にはあまりにも滑稽に見えた。

 少年はうっすらと理解していた。逃げられるはずはない、と。

 それでも、0に等しい可能性に賭けなければならないほどに少年の心は追い込まれ、蝕まれていた。

 

(──っ!)

 

 寒気。それだけで、見つかったと察した。それと同時に、死に直面したような恐怖、無駄な足掻きのための思考が襲いかかる。

 捕まったら最後、五体満足で居られるかすら不明瞭。だが、少年の身に傷一つ入らない未来は確実に見えなかった。

 彼女らの愛は。彼女らが秘め続けた想いは。ある日突然キャパを超えてしまった。

 少年一人で3()0()()()()()を抱え込むことなど、やはり無理なことだった。

 

 ──おにーちゃん!

 

 ──お兄ちゃん!

 

 ──兄さん。

 

 いろんな子が、少年を兄と呼び慕った。寄り添おうとした。

 30人一人一人が()に恋をしたから。

 この世界に、彼らに、大罪人はどこにも存在しない。あるのは、僅かな歪みのみ。一つ一つが小さな歪みだとしても、積み重なれば今までの人生からは想像もつかないほど人格を変え、捻じ曲げ、狂わせてしまう。

 

「兄さん」

 

 喧騒の中で、凛とした響きを持って少年の心に落とし込まれた。

 その声はよく聞き慣れたもので、少年にとって嬉しいもの()()()

 

「──くそっ……!」

 

 少年を呼ぶ声は悪魔の囁き。それを耳にしたら最後、無限の牢獄に突き落とされる。

 遂に並走した少女は、少年の首を乱暴に掴む。痛みが疲労を抱えた身体に襲いかかる。

 

「もう、あなたは離しませんよ?ニイサン?」

 

 少年が目論んだ無駄な足掻きはやはり無駄で。少女たちにとっては想定内、対処は造作もない。

 少年は思う。死んだ方がマシだと。愛故に死を迎えられず、愛故に少年を身近に置くために手段を選ばない。愛故に、殴り合いの喧嘩が絶えない。

 少年はそんな彼女たちを見たかったのではない。彼女たちに笑顔が似合うのは言うまでもない。

 現に隣で微笑む少女も、美しいと表現されるものだった。

 しかし、その微笑も大きな闇を孕み、純粋なものではない。

 

「何でこんなことをする」

「兄さんのことを愛しているからに決まっているじゃない」

 

 質問に意味は無かった。少年にも、愛故の行動であることは分かっていた。彼女らの行動が、歪み捻じ曲がったものだということも。

 しかし、少年の想いは届かない。少女たちは、己の正義のために行動を続ける。

 それが間違っていると、どこかで分かっていながら。

 

 ──愛は美しく、醜いものである。

 

 愛故に欲という名の毒に侵され、精神を歪められ、そうして生まれた人間の成れの果て。

 愛は、癌よりも、肺炎よりも、黒死病よりも恐ろしい病気である。どんな人間もいとも簡単に堕ちてしまう。

 餌食となった少年の未来は、頭上の闇が最も適切だった。

 

 

 

 ──彼らの救世主など、どこにもいない。その人は既に毒に侵されているのかもしれないし、少女たちによって迎合すらも許されないのだから。

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