調子にのって、ボコられる。
メイはジョンの勇姿を見送った。
■ジョン日誌15
UC0078/08
ジョンはメイと共に、カーウィン卿が投獄されている監獄に急行した。
夜明けの朝日が見える前の眠気時。
夜勤で、おおよそ疲れのピークが強い頃合いである。
「メイ、今から獲物を釣ってくる。君は隠れて機会を待つんだ。絶対、前に来てはいけない」
「ジョンは心配性だよ。この子の性能は把握してるから、無茶出来ないよ。ジョンが怪我したら私は怒るからね?」
「戦車の射程距離と同等くらいだけど、やれるだけやるさ。機体性能は此方が上だろ?」
「ザクII並に引き上げたけど、過信しないでね。専用装備でもない試作武器庫なんだから」
「わかってる。比較的まともそうなのを積んでる。ジャムったら、迷わず投擲するから」
「無茶しないでね。と、言いたいけど。無茶しに来てるから、無理しないでね」
「了解───」
ジョンは緊張していた───。
これから生死を賭ける戦いをする。
二度めの世界ゆえに慢心が滲み出ている。
自分はこんなところで死ぬわけが無いのだと。
既に勝利を核心している。
なのに、この動悸はなんだ?
対象が望遠鏡の先に見える緊張感が拭えない。
久方振りの戦場だ。
苦渋に満ちた前世ジョンの記憶の影響か?
君(前世ジョンの意識)は表に出て来るなよ。
この身体は、僕(今生ジョン)のものだ。
禍根は、僕が払ってやるさ。
胸を押さえ、心に根付く前世意識を抑え込む。
動力ピッチを上げるボタンを押す。
操縦レバーを踏み込む。
火器管制トリガーに手を掛け。
ジョンは、厳かに戦火を放った────。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
機銃の音が鳴り響いている。
薬莢が四方八方に散乱していく。
一方的な虐殺の始まり。
反撃する暇さえ与えない。
進めや進め、ジョンが通る。
そこのけそこのけ、ジョンが通る。
得も知れない快感で、我を忘れる獣(馬鹿)がいた。
監獄に駐在する警備部隊は、MS混成部隊である。
MSが5機に、戦闘車両が40機。
各方位に、1部隊編成(MS1/MT9)。
残りは、予備機である。
監獄の四方に、MSを門番として配置。
後方に配置した戦闘車両を物量で威嚇する構え。
此処に暴徒が押し迫る珍事はゼロ。
それが、一方的に攻撃された。
MSで襲われることが無いという絶対の油断。
ジオン国民からは畏怖されど。
敵意には鈍感で不慣れにあったのが禍した。
ズシン……っと、施設が揺れ動いた。
(地震?)
コロニーにそんなものがあるものか。
なにやら外が騒がしいようだが、なんだというのだ。
監視員が煙の方角を見る。
『!?』
駐屯部隊が喰われている。
なんだあれは、連邦が攻めて来たのか?
ヤバいことになってる。
外を確認しなければ─────。
『メーデー、メーデー。現在、敵と交戦中……至急…至急増援を送られたし。メー…デー…………』
『何が起きている? 敵襲とは誰が相手か!?』
『師団長、北門部隊が壊滅しました。東西南門の各部隊を………』
『壊滅? 冗談ではない。旧式とは言え、連邦にやられるほど、ここは腑抜けてはいないぞ? 冗談が過ぎるぞ!』
『北門の映像を直視してください師団長。……北門は、北門部隊全軍は蜂の巣にされています。動ける機影はありません』
『嘘だろ!? あいつら明け方までピンピンしてたじゃないか。昨日の晩飯を共に食いあってた連中だぞ!』
師団長と呼ばれている指揮官は愕然とした。
呼び出されて来てみれば、北門は壊滅。
敵の正体は不明で、目下…攻撃されてる最中。
何が、目的だ?
誰が、目標だ!?
敵の意図が皆目見当つかない有様。
どうして、此処を強襲している。
『団長! こ、ここ、…これを見てください。襲撃しているのは、ブ…ブグです。味方が、味方が此処を襲撃してるんですか!?』
『ブグだと? いったい誰が操縦してやがる。喧嘩しに来てるのは親衛隊か?? 俺達は総帥に泥を塗ったことは無いぞ。なんて厄日だよ!』
『総帥府に連絡は出来んな。本物だとしたら、俺達は処刑される。偽物だとしても、総帥に泥を塗ったようなものだ。俺達が出来るのは、あいつを仕留めて生き延びることだろう…な』
『師団長、奴を殺るんですか? 此が発覚したら……軍法会議ものですよ!』
『殺るか、殺られるかだろう。生きてれば何とかなるもんさ。予備機も用意させろ、俺が奴を落とす!』
『───各員に告げる。これは演習では無い。師団長命令だ。喧嘩しに来た馬鹿を血祭に挙げろ。絶対に逃がすな!』
『各部隊は、北門を目指して三方向から挟撃せよ。各員は単独で戦うな。連携して囲い込め。敵が単体だとしても見くびるな。奴は北門を壊滅させている。三方包囲陣を敷くぞ!』
(ジョンは、壊滅させちゃったか──)
遠巻きにジョンの行動を見ていたメイは呟いた。
敵を釣ると言っていたのは何だったのか。
これだと、全軍出してくる気がするよ。
ヘイトを稼ぎ過ぎじゃないかな。
全軍釣るのが目的なの───!?
「ジョンっ、ジョンってば。や、やりすぎだよ。ちょっと聞いてるの? 」
「ははははははははっ。蜂の巣だ。弱いっ、弱いぞ。豆腐のように砕けていくな」
「ジョンってば、正気に戻って! 向こうが本気になってるから、適度に逃げてっ!」
「─────(ヤバいっ、やりすぎたか)?」
「聞いてるの? ジョンってば……」
「聴こえたよメイ。ちょっとばかし度が過ぎたけど、予定どおりさ。メイはこの隙に、施設に侵入してくれ。あいつらを連れて引き回すさ」
「────帰ったら、お説教だからね!」
「──────了解」
(敵のマーカーが多い。囲まれたら面倒だな……)
あいつらの方が数が多い。
今度は、こっちが蜂の巣コースになるなぁ。
(意識を飛ばしてくれたのは、君か?)
知識だけを渡せばいいものを───。
禍根か欲望かはわからないけど、怨念だな前世は。
巧く付き合う他ないけどさ、「君」も死にたくないなら手を尽くせ。
メイは絶対に「君」に渡さないけどね。
大概のことは付き合ってあげるよ。
(─────…………)
誰に対してジョンは会話してるのか。
端から見れば狂っている。
そういった不自然さは、戦闘での緊張で誰にでも起こり得る。
妄想や空想なる現影。
もしくは、二重人格者であるのかも知れない。
戦場を生き延びれば、それは些細なことである。
敵が物量で押し寄せてくる前に弾薬を補給する。
武器庫には、まだ…弾薬はある。
足らないのは、機動力と手数だ。
なせる手段は、ただ一つ。
囲まれた刹那に、臨界起動の極限状態で旋回射撃。
直撃さえ避ければセーフだろう。
これも一つのデータ検証だ。
双方向で全面射撃をしたらどうなるか。
『北門にて機影発見。ブグを確認しました。奴は佇んでいます。まるで、此方の攻撃を待っているかのように静止しています。危険です。何をするのか解りません』
『おいおい、奴は正気か? いくら親衛隊とて、包囲されたら終わりだぞ。この状態でも喰らうつもりか?』
『敵が緩やかに後退し始めました。此方を挑発してるのは明らかです。誘いに…乗るん…ですか、師団長?』
『厭な感じはするが…各個撃破されたら、此方が全滅だ。勝機が高い方を選ぶのが指揮官としての矜持だろうなあ(きなくせぇ……分が悪いのは奴のはずなのに、引けと、直感が囀ずってやがる)』
『ブグが静止しました。MSの手振りで挑発してます』
『あからさま過ぎて萎えるな。奴が引けば、丸く収まる気がする。部隊を下がらせたい……』
『あちらがその意志があっても、隊員は引かないでしょうね。同胞を殺されておりますから。私も逃げたくて仕方ありませんが、軍人の矜持は持ち合わせております』
師団長に従う士官は、真面目だ。
もしかしたら、副官なのかも知れない。
ジョンは、相手を知らない。
師団長も、ジョンを知らない。
見知らぬモノ同士が戦うのが戦場である。
互いに退けぬ何かのために狂い合うのだ。
『…………お前ら、血気に逸るのは結構だ。奴を囲め、そして引き金を引け。対角の味方に当てるつもりで撃て、俺と対角になる奴も遠慮なく撃て。奴を人間と見くびるな。血に飢えた獣だ。俺達も奴と同じ心構えで獲りに行け。生き延びたら、上等な酒をくれてやる!』
『…………よい演説でした。部隊の士気向上が高まっています。貴方は善き政治家になれますよ』
『俺が政治家になったらジオンは御仕舞いさ。この続きが聴きたいなら、てめえも生き残れよ』
『……………心得ました』
ブグを中心に円形陣を敷いた。
奴は、動かんな。
腹を括れ。
生きるか死ぬかは、この瞬間を制したモノだ。
「囲んだね。射程距離には入ってる。足りないのは、向こうの距離かな。威力を上げるには、より距離が近い方が最上だよ。その分、危険度は倍増」
(メイ………哭いて怒るだろうなぁ)
『師団長、ブグが、…ブグの武装が増えてます。何ですか、あれ……MSの腕は2本なのに。なのに、敵の重火器群が勝手に動いてますよ。なんなんですか、あいつは!?』
『あいつ、あれで此方を喰らうつもりか?』
あの形、奴の背負ってる箱?
あれは……、武器庫か!?
馬鹿げていやがる。
なんて面倒なもんを造りやがったんだ。
『総員、敵を撃ち落とせ。自動照準を頼れ、奴に銃弾をくれてやれ。撃ち尽くせ、嬲り尽くせ、殺し尽くせ、生きてる限り撃ち放てぇ───…………』
ドガガガガガガガガガガガガガガガドガドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ………
我武者羅に撃ち合う。
生きてる限り、トリガーを引いた。
対角に居るモノは屠りあった。
敵味方共に損害に躊躇はしない。
何が壊れようと、誰が倒れても…引き金さえ引ければいい。
ジョンは、指揮官機の攻撃に対して円を描く。
螺旋を描くように旋回しながらの全面射撃。
武装は、前方に4基と後方に3基。
撃てばいいだけの簡単なお仕事だ。
解禁・臨界起動である。
旋回スピードが増した───。
それはさながら独楽回しのような軌道であった。
(超・旋回射撃────っ!!!)
※ 急旋回で、全面射撃してるだけ。
互いに屠り合う泥試合ではあるが。
勝負は一瞬のことである。
鉄火雨霰の惨状は、一重に地獄である。
着火するのはの魂への火種。
痛みを感じるまもなく、身体が砕け散り逝く。
ジョンが、1回転半する束の間の刹那であった。
ブグは、大いに損壊していた。
背面パックは潰れ、左腕は吹き飛びて喪失。
頭部はモニターが死んでいる有様。
よくよく耐えたとも言える。
メイが見たら、絶叫か卒倒すること請合いだ。
ジョンは、軽度の脳震盪を引き起こしていた程の衝撃。
この程度の損壊で済んでいたのは、戦艦の骨格仕様の雛型パックで救われたのだろうと、ジョンは推察した。
小さくても戦艦の素材である。
対弾性能はピカイチらしかった。
致命的なラインを避けて、些細な砲撃を喰らう。
集中放火を浴びせ、浴びさせられ。
互いに蜂の巣状態である。
旧式ザクの四肢は損壊。
車両の動力は撃ち抜いた。
砲塔は折れ曲がり、潰れ、ひしゃげていた。
敵側のパイロットは生死不明。
あまいのだろう────。
生死を確認しないのは。
止めを刺さずに、焼却しないのは。
敵側なら、容赦なく殺すべきだと思える。
メイになんて誤魔化せばいいか思案してたせいで、その機会を喪失した。
故に、フラグは回収される。
師団長と呼ばれた兵士は生きていた。
息も絶え絶え、意識は朦朧。
銃口を向けてトリガーを引けば、フラグは消滅するのに。
『なんてぇ…今日に限っ、て勤務なんだよ…ふざ…け……』
師団長の意識は落ちた。
失神したのであろうか────。
戦闘シーン難しい。
台詞あると楽しいけどね───。
あまぁ~い情けなさは、一周めならでは。