トリオン怪獣は2人居る 作:ぼっくん
この世界には、化け物がいる
雨取千尋、小学生。そんな私の意識が不意に鮮明になった。今の私は何かから逃げていて、廃墟の裏に隠れていた。壁から顔を出して確認すると、白くて大きな4足の化け物は獲物を探しているのかキョロキョロしている。こちらには気づいていないみたいだからとそのまま反対方向に逃げた。
「あ、千尋・・・おかえりなさい」
「ただいまー、今日の夕飯何か分かる?」
「カレーだって。さっきお母さんが買い物に行ったよ」
「お、楽しみ。宿題がんばろー」
自宅に帰って双子の姉妹に声を掛けた。雨取千佳、私の双子の姉だ。同じ顔に同じ体型。親でさえも私と彼女を間違える。化け物に狙われることだって同じだ。・・・彼女は、私にすら化け物に狙われることを伝えたりはしていないけれど。
この世界には近界民という化け物がいる。でも界境防衛機関以外の世間の人間はそれを知らない。きっと、私以外の誰も。だけど私は知っている。近界民のことも、アレがトリオン兵であることも、まだ水面下にしか存在しない界境防衛機関のことも。だって、私は前世で見たから。読んだから。分かる範囲のことなら知っている。
「千佳ー、今日の宿題何出た?」
「えっと、算数のドリルと理科のプリント」
「私のクラスは国語の書き取りと社会のプリントだから交換しよー」
「うん、いいよ」
双子は同じクラスにはならない。だから出される宿題も違うが、いつもこうやって交換をしているのだ。私は理数系、千佳は文系。筆跡だってまるきり一緒だから交換したところでバレやしない。小学校の問題なんて朝飯前だが、だからこそ馬鹿らしくて真面目にやっていられるものか。少しでも頭を使う問題の方が楽しい。
千佳は今日も化け物に狙われた事を言わない。私だって言わない。風の噂では千佳のクラスの人間は助けを求められたそうだが、誰も本気にはしなかったそうだ。
助けを求める千佳のことを馬鹿にしているクラスメイトがいようと私は何も言わない。千尋はそういうこと言わないんだねー、と言われたらただただ肯定するだけ。何も否定せず、肯定してニコニコしているのがこの世の中の処世術だ。千佳に、私も化け物に狙われているだなんて言ってみろ。私の名前を出してまた他の人間に助けを求めることだろう。そんなの、嫌だ。私は好奇の目で見られたくない。
・・・私はいい子ではない。助けを求められてもいないのに、出張って守ろうなんてしない。助けを求められたところで出来ることなんか無いだろうが、寄り添うくらいは出来ただろう。でもしない。私は私が可愛いから。