由緒正しき鬼ですが、何か?   作:358さん

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 僕が坂上と会ったのは最近だった。江戸時代に入った直後だったと思う。
 黒い髪に黒い瞳。三本の刀を背負った青年だ。顔は僕ほどではないが、整っているほうだと思う。髪は短く、髷が当たり前だったあの時代では珍しい。

「俺の名前は―――。」

 あいつは長たらしい名前を名乗った。幸の薄そうな暗い瞳は、じっと僕と酒吞を見ていた。
 僕らは最初、彼の言い分を聞くことはなかった。それでも、彼は僕らを見捨てなかった。
 酒吞はいい。あいつは首を切られても死ぬことはない。
 でも、僕は死んでしまう。

 突如現れた鬼殺隊というやつらに殺されたかけた僕を庇ってくれたのは、確かに彼だった。


第三話 半端者

 私、飯田鈴香は鬼に家族を殺された。はれて私は何処にでもいる孤児となった。

 私が鬼殺隊に入ることを希望すると、坂上さんは「やめておけ」とそれだけ答えてくれた。しかし、何故やめておいたほうがいいのか、その事については一切教えてくれなかった。

 私はここから一番近い育手に預けられるらしい。家の近くの町にも藤の家はあったけれど、あそこは嫌だと私がごねたのだ。何か事情を知っているのか、坂上さんは何も言わずに町から離れてくれた。

 家は燃やした。また、誰かに取られそうになるのは嫌だったから。坂上さんはあまりオススメはしない、と言っていたが、やはり手伝ってくれた。

 

「もう二度と家に帰るつもりはないんです。」

 

 その言葉に坂上さんは眉を顰めた。それから面白くない顔をして家に火を付けた。茨木さんは燃える家に対してとても楽しそうに見ていた。

 

「燃えろよ、燃えろ!! 天高く、その灰で世界を汚せ!」

 

 と、とても楽しそうにしていた。面白くはなかったが、特に何か言うつもりはなかった。「ギャハハ」とおそらく彼の本性であろう笑い声を上げていた。坂上さんは呆れたように息を吐き出して、「本性出てるぞ」というと、彼は悪びれなく「演じてるんだよ」と答えていた。

 

 全く、よく回る口である。

 

「行くぞ。」

 

 丘の麓が騒がしいかなってきたからだろう。坂本さんは製図用の筒を背負い直し、町とは反対方向に丘を下って行った。私と茨木さんも彼の後に続いた。

 茨木さんは気さくな方で道すがらよく話しかけてくれた。博識で人から物をくすねる時の方法など悪事について教えてくれた。坂本さんからじっと睨まれていたけれど、茨木さんがその口を閉じることは無かった。

 

「悪事のやり方を知ってたら、やられた時に役立つでしょう?」

 

 なんて、茨木さんは言っていた。それが本心でないことはわかっていた。きっと茨木さんは私で遊びたかっただけなのだろう。

 

 

 夜になって私は初めて野宿をした。木の上で眠っている坂上さんを思い出して、慣れていると言うのはこう言うことだったのか、と一人納得していた。手早く火を起こす。何やら細く短い棒を箱にこすりつけた。すると火が起こるのだから驚きだ。

 

「うわぁ。」

「いつ見ても凄いよねぇ。酒吞が良く使ってるの見るよ。」

 

 私の口から漏れた声に茨木さんが返事をする。坂上さんはその光景に慣れているのか特に反応を示すことはなかった。途中の町で買ったお米を炊いている途中、突然坂上さんが話し始めた。

 

「鬼には二種類いる。太陽の下で活動できる者と、できない者だ。鬼殺隊が殺すのは、太陽の下で活動できない方だ。」

 

 ここから一番近い教え手に着くまで坂本さんは鬼について教えてくれるようだ。

 そして茨木さんは太陽の下で活動できる鬼だから、殺してはいけないそうだ。私は驚いた。こんな身近に鬼がいたなんて、と。茨木さんが気さくに手を振るものだから、物語で読み聞かされる乱暴者の鬼とは全然印象が違った。

 どうやら坂上さんが鬼が人間に対して悪事を働かない様に管理すると言う条件付きで鬼殺隊の人が昔約束したらしい。昔と言っても鬼殺隊という名前ができた直後の事らしい。

 

「話を戻す。人食い鬼は、その名の通り人を喰う。いつ頃から現れたかはわかっていないそうだ。どうやって生まれてくるかは、お前はわかっているか。」

「はい、宿泊には男の方がいらっしゃったので。」

「でも、本当になんで食べられなかったんだろうね? 君、もしかして人食い鬼なんじゃない?」

 

 そんなはずはない。私は太陽の下で生きていける。これまでだって私が買い物に出ていた。私は大きく首を振ると「なんでだろうねぇ」と不思議そうに茨木さんが首を傾げた。

 

「嗚呼、それともあれかな。鬼舞辻君に対して抗体でも持ってるのかな?」

「きぶつじ、くん?」

「人食い鬼の親玉の名前だ。鬼舞辻無惨と言うらしい。と言うか、お前。鬼舞辻より若いだろう、きっと。」

「人間にはらう敬意は持ち合わせてないんだ。」

 

 茨木さんは、きぶつじくんを小馬鹿にしたように手をヒラヒラと泳がせた。鬼の茨木さんにとって人食い鬼を作る事が出来るきぶつじくんは人間に入るらしい。彼の中で一体人間とは、どう言った条件なのだろうか。

 私は『きぶつじむざん』について想像してみた。人食い鬼ならば、やはりお父さんのように牙があるのだろうか。おおよそ、人につけるような名前ではないと思った。親がつけたのなら不謹慎だし、自分で名乗っているならまともではない。

 私の考えていることが分かったのか、茨木さんは笑い転げた。

 

「君、心の中で考えていることあんまり言葉に出さないけど、その方がいいよ。きっとあれだ。喋らなければ可愛いのに、って言われる子だね。」

「女性にそんなことを言うものじゃない。」

「よく言うよ。君、 女嫌いだろう。」

 

 その言葉に坂上さんは顔をしかめた。「こいつ、言いやがったよ」などと顔が訴えていた。私は俯いた。私はどうやら嫌われていたようだ。坂上さんは一つ舌打ちをしてこちらを向いた。

 

「その言葉には語弊がある。」

「そう? 僕はそんな風には思わないんだけどなあ。」

「少し黙ってろ。」

 

 弁明を悉く邪魔されるからか、坂上さんは苛立ち気にそう言った。言われた方の茨木さんは夜空を仰ぎ見た。それから会話は無くなった。坂上さんはパチパチと跳ねる木を見つめ、何かを考えているようだった。私は居心地が悪くなって地面をじっと見ていた。

 茨木さんは鬼だから、長生きをしているのだろう。坂上さんとの仲の良さを見る限り長い付き合いなのだろうか。でも、坂上さんは鬼として自分を紹介しなかった。つまり、違うという事なのだろうか。

 

「これでも感謝してるんだよ。本来、僕や紅葉姉さんは本当なら鬼に分類されるようなもんじゃない。特に僕なんて好き勝手やってるしさ。」

「自覚があるならもう少し大人しくしてくれるとありがたいんだがな。いい加減無くした腕を早く見つけろ。」

 

 改めてみると、確かに茨木さんの左腕はなかった。綺麗な顔立ちをしている彼に一体何があったのだろうか。

 

「あの……。」

 

 私の言葉にピタリと彼らは言葉を止めた。それからこちらを見た。「驚いた?」と聞いてくる茨木さんは、やはり人の考えている事が分かるのかもしれない。切り取られた方の服の裾をプラプラと揺らした。

 

「昔ね、悪い鬼狩りに腕を斬りた取られたんだ。腕を取り返したのはいいんだけど、途中で川に落としちゃって。」

 

 「見つからないだ」と困った顔で茨木さんは言った。私は切り離された腕は腐ったりしないのだろうか、と彼の腕をじっと見つめた。すると茨木さんが「そんなに見詰めないでよ」と恥ずかしがるので、居た堪れなくなり視線を外した。

 

「ただの阿保だ。同じ様にとられた橋姫は取り返せたのに。」

「橋姫さん、という方も腕を斬られたんですか? 一体誰に?」

 

 「鬼の間ではその話題はタブーだから気を付けておいた方が良いよ。」と、くぎを刺されたようだ。「タブーって言うのは、触れてはいけない暗黙の了解っていう意味だよ」と丁寧に教えてくれた。

 

「あのね、その当時鬼を殺していたのは源氏なんだ。だから、妖と称して平家の一般人も殺していたとか、いないとか。」

「珍しくもない。源氏も平家もお互いが鬼に見えた事だろうさ。」

 

 茨木さんは言葉を濁したが、やはり本当だったのだろう。そして鬼となってしまだ人がいるのだろう。妖退治で有名な人とは誰だろうか? 鬼を退治する事で有名なのは、桃太郎だ。その桃太郎もどちらかを鬼と例えた物なのだろうか?

 

「まあ、いまとなっては、昔の話なんだけどなぁ。あ、桃太郎の鬼は平家だって噂だよね。」

 

 茨木さんはしみじみと苦笑いを浮かべてそう言う。パチパチと木が音を立てているのをジッと聞いているようだった。ようやく話を戻せると思ったのか、坂上さんが大きなため息を吐き出した。

 

「鬼は自分の国を作ることが目的、と言ったな。」

「はい。」

「鬼は長年その場を守護し続けると、守神としての性質や元々その土地を守護していた守神に仕えるようになる奴がいる。そういうのは大抵神通力と言う物を持つ。すると人の心が読めたり、物を増やせたり色々できる。」

「だから、私の考えている事が分かるんですね。」

「心を読むことが出来ない奴もいるがな。出来る事、出来ない事があるのはやはり鬼でも同じ事だ。コイツも今でこそちゃらんぽらんな事をしているが、900年ほど前に守る物を持っていたから、今でも人の心を読めるのはその時の名残だ。」

 

 「もう大分聞こえないけどね」と苦笑いを浮かべながら茨木さんは頬を掻いた。彼はきちんと鬼らしい。茨木さんは坂上さんの方に向き直って「ちゃらんぽらんって酷いなぁ」とぷっくりと頬を膨らませた。

 

「坂上さんは?」

 

 私の言葉に坂上さんは微かに表情を硬くした。いけない事を聞いただろうか。途端に襲われる不安感を私は拭うことは出来なかった。それからピッタリと口を閉じ目をさらした。

 

「彼はね、鬼のなり損ないなんだ。」

「なり損ない、ですか?」

「……。」

 

 坂上さんは何も言わなかった。その眼光は鋭く今にも射殺されそうで、背筋にザッと冷たい物が駆け抜けていった。茨木さんの方を見ると彼はそんな事はどこ吹く風らしい。やはり鬼なんだろう。茨木さんはなんのその。1つも坂上さんの心情を鑑みない。

 

「いいじゃないか、別に。君はそのことに劣等感を持っているわけじゃないだろう。」

「あの、言いたくなければそれで構いません。無理を言ってすみません。」

 

 私の言葉に坂上さんはこれ以上ないほどに不機嫌そうな顔をした。私はただ俯くことしかできなかった。何を言ってもこの場の雰囲気が良くなることはないと思ったからだ。

 

「鬼は守神としての性質を持つ者がいる、と言っただろう。」

「……、はい。」

「俺の体は多くの鬼の血を浴びだ。それはつまり神の血を浴びたの同義。血は俺の体に馴染むが、神殺しの業も同時に受けている。その結果、大量の呪詛を体の中に取り込むことになる。すると、人から変質する。」

「彼はね、鬼になれず、人に戻れない。この世で一番忌み嫌われる()()()なんだ。」

 

 「僕らは大好きだよ」と茨木さんは言っていたが、坂上さんは鬱陶しそうな視線を送るだけだった。急に私の頭に重みが加わった。それから勝手に左右に揺れるものだから何故だろう、と視線だけ上げると腕が見えた。

 

「お前が心悩む必要はない。分かっていたことだ。」

「一体、どれほどの鬼を斬るとそうなってしまうのですか?」

「さあな、ただ、まあ。1000程は殺した。」

「きっと金平鹿の所で殺し過ぎたんだよ。獄卒も斬り殺したんでしょう?」

 

 「こんぺいか」と私は呟いた。そして桃太郎のような話だ、と思った。彼は上司の命令だと言っていた。志は違えどやったことは同じだ。彼はきっと多くの民の為に戦った英雄なのだろう。きっと鬼たちは悪いことを沢山したのだろう。

 

「でも……。」

 

 そのせいで坂上さんは呪を背負わされた。何が違ったのだろうか、と私は考え込んだ。

 

「俺はいい。人でなくなったことを後悔はしていない。」

「何故ですか? みんなから嫌われるんでしょう?」

「……。」

 

 「意固地だねぇ」と茨木さんが笑った。しかし、絶対に言うな、という様に睨みつけるので茨木さんは両手を上げて「降参」のポーズをとった。茨木さんはこれ以上は自分にとってよくないと思ったのか、木の上へと昇って行った。

 

 ご飯が炊けたので飯盒からご飯を取り出し、彼はどこから持ってきたのか、私の家のお椀にそれを盛り付け塩を振った。そしてそれをこちらに差し出した。

 

「味気ないよねぇ。」

「い、いえ。大丈夫です。」

「僕らはさ、食べ物で栄養補給しないからこういうのには疎くなるんだよね。」

 

 茨木さんは本当に坂上さんが好きというのは本当のようだ。茨木さんの言葉はいつも坂上さんの言葉を足す様に解説を付け加える。それを楽しんでいるのか、いつもニコニコと笑顔を浮かべている。苦とは、思っていないようだった。

 私が塩味のご飯を食べ終わると坂上さんは立ちあがった。おそらく眠るのだろう。家の庭で寝ていた時と同じように、木によじ登ろうとしていた。それからふと、動きを止めてからこちらを向いた。私はどうしたのか、と首を傾げて彼を見上げた。「木には登れるか?」と坂上さんは尋ねてきた。私は小さく首を横に振ると、「来い」と手を引かれた。私は立ちあがり、彼は私のひざ裏に腕を回した。唐突に訪れた浮遊感から思わず彼のインバネスを掴む。

 ふわりと内臓が浮かび上がる感覚を覚えた後、内臓が元の位置に戻りそれから恐る恐る目を開けるとそこは気の上だった。私を抱えたまま、木の上まで跳んだ。坂上さんは本当に、人間でないのかもしれない。

 

「え、ちょっと待って下さい!」

 

 私を木の上に下ろし、別な木へと坂上さんは跳んでいこうとしていた。とてもではないが、ここに置いて行かれるのは困る。私はここから降りられないし、寝られない。私は必死に彼の外套を引っ張った。

 

「普通の女の子は木の上なんかで寝たら落ちて死んじゃうよぉ。」

 

 茨木さんが起用に木の上で寝転がりながらそう言った。私は必至に頷いた。彼は面倒くさそうに頭を掻いた。坂上さんは木の幹に茣蓙をかき、私をその上に座らせた。彼は私を寝かせようとしているのか、頭を数回撫でている。慣れているのだろうか。その手はとても心地よかった。




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