デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー琴理sideー
士道が十香とデートを初めている頃、士道の妹の琴理は〈フラクシナス〉の解析官である村雨令音と共に、天宮大通りのカフェでオヤツタイムを楽しんでいた。
現在琴理は白いリボンの妹モードで中学校の制服、令音は淡色のカットニー地のボトムスという格好。琴理も学校に登校したが、中学校も先日の空間震の影響で休校状態になり、そのまま帰るのは癪だったので、電話で令音を呼び出して現在に至る。
「・・・・そうだ、ちょうどいい機会だから聞いておこう」
と、令音が思い出したように口を開いた。
「なーに?」
「初歩的なことで悪いのだがね琴理。なぜ彼が精霊との交渉役に選ばれたんだい?」
「んー」
令音の問いに、琴理は眉根を寄せた。
「誰にも言わない?」
「・・・・約束しよう」
低い声のまま令音が頷き、琴理はそれを確認してから首肯した。村雨令音は口にしたことは守る女だ。
「実は私とおにーちゃんって、血が繋がってないっていう超ギャルゲ設定なの」
「・・・・ほう」
面白がるでも驚くでもなく、令音は小さく首を傾げる。ただ琴理の言葉をすぐに理解し「それと今の話に何の関係が?」と言わんばかりの調子だ。
「だから私は令音の事が好きなんだよねー」
「・・・・?」
令音は不思議そうな顔を作るが、琴理は話を続ける。
「気にしなーい。・・・・で続きだけど、何歳の頃って言ったかな、それこそ私が覚えてないくらいの時に、おにーちゃん、“本当のおかーさん”に捨てられてウチに引き取られたらしいんだ。私が物心つく前だったからあまり覚えてんだけどさ、引き取られた当初は相当参ってたみたい。それこそ、自殺でもするんじゃないかってくらいに」
「・・・・・・・」
何故か令音がピクリと眉を動かした。
「どしたの?」
「・・・・いや、続けてくれ」
「ん。ま、仕方ないと言えば仕方ないかもしれないけどねー。年齢一桁の子供からして見れば、母親って言うのは絶対的な存在だし、おにーちゃんにとっては自分の存在全てが否定されたような一大事だったと思う。ーーーまあ、一年くらいでその状態は治まったらしいんだけどねー」
ふうと息を吐いてから続ける。
「それからなのかなー。おにーちゃん、人の絶望に対して妙に敏感なんだ」
「・・・・絶望に?」
「んー。みーんなから自分が全否定されてるようなーーー自分はぜーったい誰からも愛されないと思っているような。まあ要は当時の自分みたいなさ。そんな鬱々とした顔をした人間がいると、まったく知らない人でも無遠慮に絡んでいくんだよね」
ちなみにドラゴンはそんな士道を、『デリカシー0の偽善者』と呼称している。
そして琴理は、だから、と目を伏せる。
「もしかしたら、と思ったんだ。ーーーあの精霊に勇んで向かって行くようなの、おにーちゃんくらいしか思いつかなかったからさー」
「・・・・なるほど。ひょっとすると、彼が自分の中の『絶望の魔獣 ファントム』を押さえつけられたのは、それが起因となっているのかもしれないね」
令音は目を伏せながら、士道がドラゴンを押さえつけられた理由を理解した。
「かもねー。おにーちゃんもいまいましい厄介者を飼うようになったぞー」
士道の体内のドラゴンが話題で出た瞬間、琴理の目付きが一瞬不快そうに歪んだが、すぐに元にもどる。
それを見て令音がさらに言葉を紡ぐ。
「・・・・だが、私が聞きたいのはそう言う心情的な理由ではないね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
令音の事に、琴理はピクリと眉を動かした。
「っていうと?」
「とぼけてもらっては困る。君が知らないとは思えない。ーーー彼は一体“何者”だね」
村雨令音は〈ラタトスク〉最高の解析官である。特注の顕現装置<リアライザ>を用い、物質の組成は当然として、体温の分布や脳波を計測して、人の感情の機敏さえもおおよそ見取ってしまう。ーーーその人間に隠された能力や特注すら。
琴理は予想通りた言わんばかりに、ふうと息を吐いた。
「ま、令音におにーちゃんを預けた時点でこうなるのは大体わかってたけどねー」
「・・・・ああ、悪いが、少し解析させてもらったよ。・・・・いくら『魔法使い<ウィザード>』とは言え、明確な理由もなく一般人をこの作戦に従順させるなんておかしいと思ったのでね」
「ん、別に構わないぞー。どうせそのうち、みんなも知ることになるだろーし」
琴理は肩をすくめながら、手元のコップにささっていたストローをくわえ、残っていたブルーベリージュースを一気に吸い込みながら、チラリと店内の窓から外の景色を眺めるとーーー。
「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
今窓から見える大通りを仲良さげに手を繋いで歩くカップルを見て、口の中に収めていたジュースを勢いよく吹き出し、琴理の目の前にいた令音がその被害をモロに被っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
いや被って、被っていた。要はびしょ濡れである。
「ごめっ、令音・・・・」
「・・・・ん」
まだ少しむせている琴理が謝ると、令音は何事もなかったかのように、ポケットから出したハンカチで顔を拭った。
「・・・・何かあったのかね、琴理」
「ん・・・・ちょっと非科学的かつ非現実的なものを見た気がして」
「・・・・なんだね?」
令音の問いに答えるように、琴理は無言で窓の向こうを指差す。
「・・・・?」
令音は琴理が指差した方向を見てーーーピタリと止めた。そこには、カフェの向かい側にいるピンクの移動販売車でドーナッツを購入して、『食べさせ合いっこ』をしているカップルを見た。
そして数秒のあと、ゆっくりと首をもとの位置に戻し、アップルティーを口に含んで、それからぶー、と琴理に紅茶を吹き出す。
「・・・・なまらびっくり」
「何故に北海道方言?」
令音なりに動揺しているのかもしれない。それはそうだろう。何しろ窓の向こう側にいるのは、琴理の兄・五河士道が女の子とドーナッツの食べさせ合いっこをしていたのだから。
しかもそれだけではない。その女の子はーーー琴理達が厄災と、精霊と呼ぶ、あの少女であったのだ。
「えええ・・・・なにこれぇ」
琴理は令音から手渡されたハンカチで顔を拭きながら、戸惑った声を発した。ちなみに令音のハンカチには、真ん中にクマさんがプリントされ、ブルーベリージュースとアップルティーの染みで、『ベストマッチなヒーロー』みたいになっていた。
ポケットを探り携帯電話を見る。〈ラタトスク〉からの連絡は入っていない。要は精霊が出現する際の空間の揺らぎは関知されていないということだ。
だが、あの少女は確かに、識別名〈プリンセス〉である精霊・十香だった。あんな暴力的に美しい少女が何人もいてたまるか。
「精霊には、私達に感知されずに現界する方法があるってこと?」
「・・・・ただのそっくりさんという可能性は?」
令音の言葉に琴理はしばし考えを巡らせるが、すぐに首を横に振る。
「もしそうだとしたら、おにーちゃんが普通の女の子連れてるってことになるぞー。精霊の静粛現界とどっちが非現実的かって言ったら・・・・僅差で前者かなー」
「・・・・なるほど」
この場にドラゴンがいれば激しく同意しそうな結構酷めの台詞を令音はあっさりすんなりと首肯した。
「・・・・だがそうなると大変だな。シン1人で精霊の対応が出来るだろうか」
「んー・・・・」
一応ドラゴンがいるが、ドラゴンが精霊への対応に協力的であることを知らない二人は、口元に手をあて、難しげに唸っていると、二人は直ぐにレジに向かった。
ー士道sideー
「な、なんなのだシドー! この輪っかのパンは!? 先ほどの『きなこパン』に勝るとも劣らないではないか!?」
「それはドーナッツって言うんだよ」
「『ドオナッツ』っ!? 人間はこのような恐ろしい食べ物を作ってしまうとは・・・・!」
最初のパン屋で『きなこパン』を食べまくった十香は、次に士道が見つけた『ど~なつ屋はんぐり~』で食べた、『ドーナッツ プレーンシュガー』や『イチゴドーナッツ』に戦慄しながらも感動していた。まるで神の奇跡を目の当たりにした敬虔な信者のように。
「んも~そんな風に感激してくれなんて嬉しいわよ十香ちゃ~ん♪」
そんな二人ににこやかに話しかけて来たのは、奇抜なヘアスタイルにオネエ口調で話すその人の名は『店長』。はんぐり~の男・・・・女性店主(←ここ大事!)。
「おお、店主と言ったか?・・・・お前がこのドオナッツを作ったのか・・・・!」
「そうよ。それにしてもシドくん(←店主が付けた士道の愛称)もコトちゃん(←琴理の愛称)に内緒でこーんな超絶美少女を連れてデートだなんて! このこの~! 隅に置けないわね!」
「ハハハハハハ・・・・」
店長に向かって今にも両膝をついて崇め奉りそうな十香。茶化してくる店長に士道は苦笑いを浮かべるしかなかった。
最初こそ店長の奇抜な性格に警戒していた十香だが、今ではすっかり店長のドーナッツの虜になり、まるで餌付けされた犬のようである。
五河家はこのはんぐり~の常連で、時には現在海岸出張中の両親と、時には琴理を連れて食べに来ていた。お陰で店長と唯一の従業員である『店員(名前はリョウ)』とすっかり顔見知りになり、時々店長が作る毎日の日替わりで出てくる『本日のおすすめスペシャルドーナッツ(通称 本日のおスペ)』の試食を頼まれる程だ。
そして士道と十香は店長からサービスとしてドーナッツのお土産(琴理の分も含め)を貰い、再び手を繋いで、はんぐり~を後にした。
「なんという事だ・・・・きなこパンのあの粉とドオナッツのふんわりさっくり感・・・・あの強烈な習慣性・・・・あれが無闇に世に放たれれば大変なことになるぞ・・・・人々は禁断症状に震え、きな粉とドオナッツを求めて戦が起こるに違いない」
「ねえよ」
≪阿呆が≫
完全にきなこパンとドーナッツの虜になった十香の妄言に、士道とドラゴンは呆れる。
「むう、まあいい。それでシドー、次は何処で何を食べるのだ?」
「他にも色々あるけど・・・・でも金がねえから三000円までな」
「ぬ? なんだそれは」
「お前がやたらめったら買い食いしまくるから金がなくなったって言ってんだよ!」
「むう、世知辛いな。ならば仕方ない、少し待っていろ。私が金子を調達してこよう」
「待て! 何をする気だ! あ、十香! 見ろ! アイスクリーム屋が有るぞ!」
「む? アイスクリームとは何だ??」
十香の興味がアイスクリームに方へ向かい、ホッとする士道。とりあえず三000円で済ませようと考える。
ー琴理sideー
「・・・・・ハァ」
令音と物陰に隠れながら二人の様子を見ていた琴理はため息を吐くと、ポケットから“黒いリボン”を取り出し、髪を結い直す。琴理なりのマインドセットだった。これで琴理は、『士道の可愛い妹モード』から、『恐い司令官モード』へとトランスフォームする。
そして携帯を使用して、〈ラタトスク〉の回線に繋いだ。
「・・・・ああ、私よ。緊急事態が発生したわ。ーーー作戦コードF-08・オペレーション『天宮の休日』を発令。至急持ち場につきなさい」
言うと、令音がピクリと頬を動かした。琴理が電話を終えるのを待って、声を発してくる。
「ーーーやる気かね、琴理」
「ええ。指示が出せない状況だもの。仕方ないわ」
「そうか。この状況からだとーーールートCというところか。・・・・ふむ、では私も動くとしよう。早めにシンと接触するよ」
「お願い。精霊には気づかれないようにね・・・・って士道のヤツ、精霊とアイスの食べさせ合いっこをしたわ!?」
「以外だね。シンがこれほどまで積極的な行動ができるだなんて・・・・」
「(あり得ないわ・・・・。チキンでヘタレで年齢=恋愛経験ゼロの士道が、女の子と手を繋いでデートして食べさせ合いっこだなんて。一体何故・・・・?)」
かなり酷い事を心の中で呟く琴理は、ポケットからチュッパチャップスを取り出して口に食わえながら思考を巡らせる。
琴理は知らない。現在士道のデートを『士道の内部からサポートしている魔獣』がいることを。
ー士道sideー
十香はアイスクリームを幸せそうに舐めていた。周囲の通行人にもそこまで刺々しい敵意を放っていない。だいぶ人のいる街に慣れたようだ。
「(それでドラゴン。これで上手くいくのかよ? 結構恥ずかしいぞ・・・・)」
≪やかましい、恥も外聞もそこら辺の屑籠にでも放り込んでおけ。これまで行動から察するに、〈プリンセス〉は食事に興味を持っている。食い物関係のデートが一番効果的だ≫
「(でも食べさせ合いっこをする意味があるのか?)」
≪この無知蒙昧のグズが。ただ一緒に飲み食いするだけのデートなど、それこそ“お友達”でもできる事。あくまで目的は『〈プリンセス〉とデートしてデレさせる』のであるならば、今の状況では“お友達関係”が精々になってしまう。そこで食べさせ合いっこだ。お前と〈プリンセス〉がそれぞれ別の物を注文する。〈プリンセス〉にお前の食い物にも興味を抱かせ、お前が〈プリンセス〉の食い物に興味が有りますと言えば、〈プリンセス〉とお互いの食い物を食べさせ合う事ができる≫
「(確かにな・・・・)」
ドーナッツもアイスクリームも、士道の方から食べさせ合いっこを提案し、十香も口では仕方ないと言いながらも、士道の持っている食べ物を喜んで食べ、自分の食べ物を士道に食べさせるのに少し頬を緩ませていた。
結果的には、ドラゴンの『食べさせ合いっこ作戦』は順調かつ効果的に進んでいた。
「(でもそろそろ本格的に持ち合わせが無くなってきたんだけど・・・・)」
≪ウム、そこら辺の銀行から金を下ろすしかあるまい・・・・んん?≫
「(どうしたドラゴン?)」
≪おい、あのポケットティッシュを配っている女。見覚えがあるぞ・・・・≫
「(えっ?・・・・・・・・・・・・ええっ!?)」
「こちらをどうぞ・・・・」
士道にポケットティッシュを渡そうとしている女性を見ると、見覚えのある目の下に分厚い隈を拵え、可愛らしい制服を着て、肩にクマさんを乗せた、やたらと眠そうな双眸をした女性、村雨令音が眠そうな目をギラリと輝かせ、士道を睨み付けた。
「(ドラゴン・・・・何故に令音さんがこんなところに? もしやバイトか?)」
≪ボケが。ポケットティッシュを見ろ≫
ドラゴンに言われてポケットティッシュを受け取ってチラリと表紙を見ると、【サポートする。自然にデートを続けたまえ】という文字がしたためられていた。
「(令音さんがここにいるってことは・・・・)」
≪お前の妹もこの状況を見ていると言う事だな。まあ、あんな役に立つのか微妙な集団でも、居ないよりは少しマシだからな≫
ティッシュを直ぐにポケットにねじ込んだ士道。十香はアイスに夢中で気づいていないようだった。
令音は研ぎ澄ましていた視線をいつものぼうっとしたものに戻し、ポケットからカラフルな紙を1枚取り出すと、士道に手渡した。
「・・・・こちら、商店街の福引き券となっています。この店から出て、右手道路沿いに行った場所に福引き所がありますので、“よろしければご利用ください”」
「(イヤに場所を詳しく教えるな。しかもなんか後半をはっきり言ってくるし)」
≪絶対に使えと言う事だろうな≫
「シドー、なんだそれは」
アイスクリームを食べ終えた十香が、福引き券をものすごく興味深そうに見つめていた。
「行ってみるか?」
「シドーは行きたいのか?」
「・・・・おう、行きたくてたまんねえ」
「では行くか」
十香が大股で元気良く歩いていく、手は繋いだままなので、士道は十香に引っ張られながらも、令音の方を振り向いて、軽く頭を下げた。
ー琴理sideー
「ーーーご苦労様、令音」
士道と十香が去って行ったのを確認した琴理が、物陰から出てくる。
「・・・・慣れないね、どうも」
令音が制服を眺めながら抑揚のない調子で言う。
これがーーー作戦コードF-80、通称・オペレーション『天宮の休日』である。〈ラタトスク〉には、ありとあらゆる可能性を考慮し、細かく分ければ1〇〇〇以上の作戦コードが存在している。これはそのうちの1つだった。
精霊がこちらの観測をすり抜け、士道と接触した場合ーーー〈フラクシナス〉クルーが街の住人に溶け込み、陰ながら士道をサポートする。このためにクルーは、皆最低1ヶ月、劇団の演技講習を受けている。
「似合っているわよ。可愛い可愛い」
琴理は飴を舐めながらそう言ったあと、すぐに携帯で電話をかけた。
「ああ、私よ。今向かったわ。・・・・ええ、なるべく自然にね。失敗したら皮を剥ぐわよ」
簡潔に用件とペナルティ(おそらく神無月用)を伝え、電話を切る。
「第二班のスタンバイは完了してるみたいね。ーーーさて、私たちは〈フラクシナス〉に戻りましょう。こちらの声は届かないにしても、映像だけは見ておかないと」
「・・・・ああ、そうしよう」
令音が言ってくるのを聞きながら、琴理は唇の端を上げた。
「さあーーー私達の戦争<デート>を始めましょう」
ー???sideー
そこは、暗い洞窟の中。ゴツゴツとした岩壁に覆われたその不気味な場所に余りにも不釣り合いな天蓋付きのベッドに横たわる『影』がいた。
『ーーーーーーーーーーーーーーー』
『影』は身体の上体を起こす。
カーテンに映し出された姿から、人間ではない異形の姿をしていた。『影』は何事かを呟くと、洞窟の暗がりから、『メデューサ』と『フェニックス』が現れた。
『メデューサ』は『影』に向かって恭しく片膝を付いて頭を下げる。『フェニックス』は渋々と言った雰囲気で『メデューサ』に習う。
『報告します『ワイズマン』。たった今『ミノタウロス』から報告が入り、〈プリンセス〉が現界したとの事です』
『ーーーーーーーーーーーーーーー』
『ワイズマン』と呼ばれた影は、『メデューサ』の方へと顔を向けて呟いた。
『ハッ。すでに『ミノタウロス』も準備を整えております』
『ーーーーーーーーーーーーーーー』
『『ミノタウロス』は、必ず成果を挙げるとのことです。失敗すれば死も覚悟していると』
『ーーーーーーーーー』
『魔獣 ファントム』の“上位存在”、『ワイズマン』は頷くように首を動かすと、再び横たわった。
ー士道sideー
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫
士道とドラゴンは無表情で半眼になっていた。
「どうしたのだシドー?」
十香が首を傾げるが、士道は目の前の建物を見据える。
令音に指示された福引き所に行くと、〈フラクシナス〉内部で見たことある男性達が係員をしていた。内1人は確か〈早過ぎた倦怠期<バッドマリッジ>〉川越だった。
そして抽選器から、ハズレなのに1位の『ドリームランド完全無料ペアチケット』を貰い、チケットの裏に書かれた地図に従って移動すると雑居ビルが両側に並んだ路地へと出て、そこにはーーーーーー。
西洋風のお城に、看板には『ドリームランド』と書かれ、さらにその下には『ご休憩四〇〇〇円~ ご宿泊八〇〇〇円~』と書かれた、大人しか入ってはいけない愛のホテルだった。
≪小僧。いいか、ーーーーーーーーー≫
「・・・・・・・・了解。十香、ここじゃ無かったらしい、ちょっと向こうに行こう」
「ぬ? そうなのか? あそこにも入ってみたいぞ」
「今日のところはやめとこう。な」
「むう・・・・そうか」
士道は十香の手を引っ張って、路地裏に入っていった。
ー琴理sideー
「まったく、あそこまで行っておいて引き返す? つくづくチキンねえ我が兄ながら」
〈フラクシナス〉の艦長席に身を預けた琴理は、理不尽な事を言いながらため息混じりに肩をすくめた。
「・・・・まあ、仕方ないだろう。いきなりあれは酷だ」
艦橋下段に座った令音が、コンソールを操作しながら言ってくる。
彼女の解析によって画面に表示された数値は、昨日よりもずっと安定値を示していた。恋人とは行かないまでも、十香が士道を信頼のおける友人と思っている数値だ。
まあだからこそ、少し思いきったパターンを試してみたが。
「最後までいかなくても、キスくらいかましてくれれば“詰み”だったんだけどね」
言って、キャンディの棒をピコピコさせながら鼻から息を吐くが。
「んっ!!??」
すぐに目をギョッとさせた。路地裏から士道がマシンウィンガーに乗って飛び出したのだ。ちなみに十香は士道の後ろに座っている(士道の予備のヘルメット着用)。
「士道!? 何処からバイクを!?」
「・・・・おそらく『コネクト』でバイクを取り出したんだろうね、しかしどこに向かうのか」
ー士道sideー
「おお、シドー! これがバイクと言うのか!? 周りの景色が流れていくぞ!」
「気に入ってくれてなによりだ! でも手を離すなよ!」
「うむ!」
十香は初めて乗るバイクにはしゃいでいた。士道はマシンウィンガーを走らせながら内部のドラゴンに話しかける。
「(それでどうするドラゴン! このまま行く宛もなく走るのか!?)」
≪とりあえずあのバカ共から離れるのだ! アイツらの指示に従っていたら、デレさせられるものもデレさせられん!!≫
もはや士道とドラゴンは〈フラクシナス〉の恋愛サポートをまったく宛にしていなかった。
いやむしろ、何度も離婚しているダメ男。フィリピン女のカモにされているバカ男。二次元の嫁しかいないオタク。ストーカー女。呪い女。ろくなアドバイスしない解析官。不審人物感が半端ないドMの変態。士道と同じく年齢=恋人ゼロの妹。こんな面子にマトモな恋愛サポートができる筈がない。
せっかくドラゴンと協力して積み重ねた好感度を一気に下落させかねん。
≪仕方ない。・・・・小僧、最後に行こうと思っていたが、高台の公園に向かえ≫
「(高台の公園?)」
≪デートの最後の締めくくりに行こうと思っていた場所だ。そこで勝負をかける≫
「(分かった)」
士道も〈フラクシナス〉よりも、ドラゴンのサポートの方に信頼を寄せており、マシンウィンガーを走らせた。
ー琴理sideー
「まったくあのバカ兄! 勝手な事を・・・・ん?」
憤慨する琴理は携帯に、士道からのメールが送られていることに気づいて開く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いかがなされました司令?」
琴理はメールの文面を見ると、艦長席から立ち上がり、神無月が琴理に近づこうとするとーーーーーー。
「・・・・フンッ!!」
「水月っ!!」
突然琴理が、腰の入った回し蹴りを神無月の鳩尾に炸裂させ、神無月は派手に艦長席の艦橋を転げる。
「・・・・どうしたんだい琴理?」
「イヤね、今士道から送られたメールにね・・・・」
【こんなアホな指示飛ばすなよな! 逆に十香に嫌われるわ!! PS.もしもお前が男の人(身近な例で副司令さん)に、「これから一緒にホテルに行きませんか?」と言われたらどうするよ?】
と、士道の(ドラゴンが指示した)メールにはそう書かれていた。
「それでちょっと考えてみたら、とてつもなく気持ち悪くてね。思わず神無月を蹴り飛ばしてしまったわ」
「・・・・なるほど」
令音や他のクルー達は、琴理に蹴り飛ばされて痛みに身悶えながら恍惚の表情を浮かべている神無月を見て、大いに納得した。
確かに神無月のような度しがたく救いようの無いド変態にホテルに誘われたら、持っている道具で攻撃するか、警察に通報するかのどちらかだろう。
「さて、士道は今どこに向かっているの?」
「・・・・この進路なら、高台の公園だね。手を繋いでのデート。食べ物の食べさせ合いっこ。バイクに乗ってのツーリング。これまで王道のようなデートプランだ」
「(やはりおかしいわ。士道にこんな王道のようなデートを行動できるだなんて・・・・。誰かが士道に指示を飛ばしているの?)」
琴理は十香を乗せてマシンウィンガーを走らせる士道を、モニター越しで睨んでいた。
よくよく考えてみたら、〈フラクシナス〉のクルーメンバーって録なヤツがいませんね。