デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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祝・100回到達!


遭遇・〈ウィッチ〉

ー士道sideー

 

「・・・・え、えぇぇ・・・・」

 

琴里の指示に士道は嫌そうに眉をひそめた。高校生にもなってそんな子供のような真似を・・・・。

 

【≪精霊の攻略の為だ。貴様の自尊心などそこらに設られた汚い公衆便所にでも捨てろ≫】

 

と、起きていたら言っていたであろうドラゴンの毒舌が脳裏に浮かび、士道はコメカミをヒクヒクさせた。

 

「? どうしたのかしら?」

 

急に嫌そうな顔になったり、コメカミをヒクヒクさせたりする士道を不思議に思ったか、精霊が首を傾げる。あまり間を開けすぎるのも避けたいため仕方なく、軽く上目遣いになりーーーー。

 

「あ、あの・・・・“僕”、何もわからないですぅ。逃げ遅れて、気づいたら、ここにいて・・・・」

 

【≪・・・・・・・・・・・・オップッ!≫】

 

ドラゴンが起きていればこうなっていただろうが、士道自身も、自分に吐き気を催しそうな台詞を言った。

目を潤ませる士道に、精霊が目をカッと見開き、ホンノリと頬を染めながら、ニッと唇の端を上げる。

 

「ふぅん・・・・そうなの。お名前は?」

 

「え、ええと・・・・五河士道です」

 

「士道くん。うふふ、可愛い名前」

 

「あ、あの、あなたは・・・・」

 

士道が言うと、精霊はフフっと可愛らしく微笑んでみせた。

 

「私は『七罪』。まあーーーー貴方達には〈ウィッチ〉って呼ばれているみたいだけど」

 

「七罪・・・・さん」

 

「ふふっ、七罪で良いわよ。敬語もいらないわ。堅苦しいのは好きじゃないの」

 

「え、ええと・・・・じゃあ、七罪」

 

士道が頬を掻きながら名を呼ぶと、精霊ーーーー七罪は満足気に頷くと、「ああ」と、何かを思い出したようにポンと手を打つ。

 

「そうだ。ふふふ、今度人に会ったら聞いておこうと思ってたんだ」

 

七罪はその場でクルリと回ってみせ、踵でカッ、と軽快な音を立て、ポーズを取りながら士道に視線を向ける。

 

「ねえ、士道くん。お姉さん、聞きたい事があるんだけど、1つ質問しても良いかなぁ?」

 

「え? は、はあ・・・・どうぞ」

 

困惑しながら士道が頷くと、七罪は片手で色っぽく自分の唇を撫でながら微笑んできた。

 

「士道くん、私の事・・・・綺麗だと思う?」

 

「へ?」

 

士道は、予想外の質問に目を丸くした。

七罪の美貌は一瞬の迷いもなく綺麗と断言できる。しかし、なぜいきなりそんな質問をしてくるのか? もしかしたら何か裏や意図があるのか? こういう時は士道よりも頭の回転が早く、相手の感情の機微にとてつもなく敏感なドラゴンの存在が必要なのだが、今はあてにできない。

 

《士道、何してるのよ。あんまり時間をかけると、七罪の機嫌を損ねるかもしれないわ》

 

琴里の言葉に、士道は意を決すると、七罪に向かって唇を開く。

 

「あ、ああ・・・・スゴく、綺麗だと思う」

 

「! やっぱりぃ!?」

 

すると七罪はパァッと表情を明るくさせ、頬に手を当てて嬉しそうに身体をくねらせた。

 

「ねぇ、ねぇ、士道くん。具体的には? お姉さんのどんなところが綺麗?」

 

「え? ええと・・・・その、目が切れ長で、鼻筋がスッと通っているところとか・・・・」

 

「うんうん!」

 

「あと、スラッと背が高くて、スタイルが良いところとか」

 

「あとはあとは!?」

 

「それに、髪も艶々してて綺麗だし・・・・」

 

「そう! 分かってる! 士道くん分かってる!!」

 

七罪はそう叫ぶと、士道をガッシリとハグし、美九か令音とタメ張れるくらいのボリューム満点の豊満な胸が身体に押し付けられ、思わず顔を赤くした。

七罪はそれに気づかない様子で、士道を抱きしめたまま、楽しげに鼻歌を歌っていた。がーーーー不意に上機嫌そうな鼻歌が止まり、何故か七罪は、フッと寂しそうな顔をして、小さく口を開いた。

 

「・・・・やっぱり、“この私”が・・・・綺麗よね・・・・」

 

「え?」

 

士道は眉根を寄せる。どう言うことなのか。

この場にドラゴンが起きていれば、七罪のこの言葉から、ある程度の推測を立てていただろう。が、七罪が後方を振り向く。

 

「あらぁ・・・・?」

 

「・・・・?」

 

士道は七罪の視線を追って顔を上にやるとーーーー。

 

「AST・・・・!」

 

そう。夕焼けに染まる赤い空に、機械を纏った無骨な影がVの字の編隊を確認した。

この中に、いつも先陣を切る折紙の姿が見えないが

事に、静かにホッと胸を撫で下ろした。

 

「士道くん、ASTを知っているの?」

 

「! あーーーー」

 

士道はしまったと思いながら肩を揺らすが、七罪はさして気にした風もなく、手さばきインクレティブルのお姉様みたいに、幼子を褒めるように士道の頭を撫でた。

 

「物知りさんね。偉い偉い」

 

「は、はあ・・・・どうも」

 

何となく調子の狂う精霊に、士道は苦笑いを浮かべるが、のんびりとしていられない。

『ドライバーオンリング』を嵌めてドライバーを召喚した。

 

[ドライバーオン プリーズ]

 

「あら?」

 

士道がベルトをウィザードライバーへと召還し、左中指に『フレイムウィザードリング』を嵌めて、ウィザードライバーを左手向きに変える。

 

[シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャバドゥビタッチヘンシン~♪]

 

士道は『フレイムウィザードリング』を嵌め、メガネを下ろしベルトに翳す。

 

「変身!」

 

[フレイム プリーズ ヒーヒー ヒーヒーヒー!!]

 

横に伸ばした左手の先から炎の魔法陣が現れ、士道の身体を通りすぎ、〈仮面ライダーウィザード・フレイムスタイル〉へと変身した。

 

「あらあら士道くん。もしかして、貴方が噂の〈仮面ライダー〉?」

 

「えっ? 噂って?」

 

「ちょっと噂で聞いたのよ。私のような精霊を守り、異形の怪物〈アンノウン〉から討伐している『指輪の魔法使い』がいるって。ウフフ・・・・。〈ウィッチ〉と魔法使いがこうして会うなんて、何だか面白いわね♪」

 

七罪は落ち着いた様子でふふっ微笑みを浮かべると、右手を高く掲げて喉を震わせた。

 

「ーーーーさてと、仕事よ、〈贋造魔女<ハニエル>〉」

 

七罪がそう言った瞬間、虚空から1本の箒のような形状だが、先端部が金属か宝石でもちりばめられているような幻想的にキラキラと輝くーーーー恐らく天使が、七罪の手に収まり、七罪がクルリと箒を1回転させて柄尻を地面に突き立てると、箒の先端部がブワッと展開し、まるで夕日を反射するかのように目映い光を放つ。

次の瞬間ーーーー。

 

ポンッ!

 

と、コミカルな音を立てて、こちらに迫っていた何発ものミサイルが、全てデフォルメされたニンジンの形に変貌した。

 

「は・・・・?」

 

何が起こったのか理解できず、ウィザード<士道>は間の抜けた声を漏らしていると、ニンジンとなったミサイルが地面に着弾し、BOMB! と、まるでギャグ漫画のようなコミカルな爆音が上がる。

 

「い、今のは一体・・・・」

 

「ちょっと待っててね、士道くん」

 

七罪はそう言うと、呆気に取られるウィザード<士道>の前で箒に腰掛け、そのままアクロバティックな軌跡を描きながら飛んでいく。

ASTの隊長<日下部燎子>が迎撃するように指示を出し、七罪を攻撃するが、七罪は慌てる様子もなく、再び箒の先端部を展開させて、まばゆい輝きを放出し、放射線状に広がる火がミサイルとAST隊員達を包み込む。

そして、次の瞬間。

 

「な・・・・何よこれ・・・・っ!?」

 

何と、今度はミサイルだけでなく、光に包まれたAST隊員達の姿までも、ウサギや犬やパンダなどの、可愛らしいキャラクターに変身させられていた。

 

「うふふっ、皆、そっちの方が可愛いわよ?」

 

水分とコミカルな姿になってしまったAST隊員達は、突然変異の事態に混乱し、一時的に統率が取れなくなっていた。

七罪は悠々と空中で旋回し、ウィザード<士道>の元に舞い戻る。

 

「さ、一丁上がり。今のうちにあの人達のいないところまで逃げちゃおうと思うけど・・・・士道くんも一緒に来る?」

 

「え・・・・良いのか?」

 

「勿論。ーーーーもっとお姉さんの事を褒めてくれるならね」

 

七罪が可愛らしいウインクをしてそう言った。

がーーーーその時。上空から、AST隊員の誰かが放ったニンジン型のミサイルが2人の元に迫ってきて、先ほどと同じようにコミカルな音を立てて着弾した。

 

「うわ・・・・っ!」

 

本来の威力よりも全然小さいが、至近距離での爆発で凄まじい砂埃が辺りに巻き起こる。仮面に砂埃を纏わり付き、暫しの間視界が封じられ、何も見えなくなる。

とーーーー。

 

「ふ・・・・ふ、ふえっくしょん!」

 

砂埃に鼻をくすぐられたのか、七罪が大きなくしゃみをした。

すると、ウィザード<士道>の砂埃で塞がれた視界の前方に、パァッと光り輝く。まるで、“七罪が光を放っているかのように”。

そして光が収まると同時に、すぐにまた砂埃にまみれた視界が明るくなる。

 

「ん・・・・?」

 

ウィザード<士道>は、仮面に付いた砂埃を漸く拭き終ると同時に、右耳につけていたインカムから、緊急事態通告を示すアラームが鳴り響いた。

 

《士道! 気をつけなさい! 七罪の機嫌数値が急降下しているわ!》

 

「ーーーーえ?」

 

ウィザード<士道>は琴里の言葉に眉をひそめ、辺りを覆う砂煙が晴れると、再び七罪の姿が確認できた。

ーーーー何故か顔を真っ赤に染めて、憎々しげにウィザード<士道>を睨み付けてくる七罪の姿が。

 

「・・・・見たわね?」

 

七罪が今までのものと違う、鋭い眼光で睨み、低い声で呻くように言ってくる。

先ほどまでの朗らかな七罪からの突然の変貌に、ウィザード<士道>は困惑気味に眉根をよせる。

 

「み、見たって、何を・・・・」

 

「惚けないで! 今、私のーーーー私、の・・・・!」

 

七罪が言葉の途中でギリッと奥歯を噛み締めると、手にした箒〈贋造魔女<ハニエル>〉に跨がり、そのまま宙に浮いた。

 

「見られた以上、ただで済ます訳にはいかない・・・・! 覚えてなさい。アンタの人生、おしまいしてやるんだから・・・・!」

 

そうしてビッとウィザード<士道>に指を突き付けーーーー七罪は凄まじいスピードで空の彼方に消えていった。

 

「! 逃げたわよ! 追いなさい!」

 

空中から、燎子の声が響くと、AST隊員達は、先ほどのコミカルな格好から元の姿に戻り、機械の翼を広げ編隊を組んで、空に消えた七罪を追っていった。

 

「な・・・・なんなんだ、一体・・・・」

 

後に1人残されたウィザード<士道>は、呆然と空を見上げるしかなかった。

この場にドラゴンが起きていれば、七罪の言った“この私”と、今見た七罪の天使〈贋造魔女<ハニエル>〉の“能力”から、七罪が怒った“理由”を推察できていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあ・・・・。もう昼休みか・・・・随分遅れちまったな」

 

大きな欠伸を溢しながら、士道は“四時限目が終了し、昼休みを迎えた来禅高校”の廊下を歩いていた。

昨日は〈フラクシナス〉で緊急対策会議が開かれ、士道も出席させられ、明け方まで会議から解放されなかった。

一応仮眠は取ったが、眠気はまだ取れず、ショボショボする目を手の甲で擦りながら、また欠伸をする、

 

【≪全く緊張感も危機感もないナマコ以下の平和ボケ思考めが、生きていても恥しかないのだからさっさと三途の川でも渡って、人生やり直してこい≫】

 

など、ドラゴンのイヤミが幻聴として聞こえた気がする辺り、自分もかなり可笑しくなったなと、苦笑いを浮かべた士道が教室の扉を開けた瞬間、士道の眠気はパーフェクトノックアウトした。

 

『・・・・・・・・ッ!!!』

 

何故なら、士道が教室に入るなり、生徒達が一斉に視線を向けてきた。

士道はビクッと肩を震わせ、困惑気味に周囲を見回す。

 

「え・・・・? な、何だ? どうしたんだよ、皆・・・・」

 

訳が分からない士道は額に汗を滲ませるていると、教室の端に集まっていた亜衣麻衣美衣トリオが、ギランッと目を光らせ、素早い身のこなしで士道に迫ってきた。

 

「よくもおめおめと戻ってこれたな五河士道ォォォ!」

 

「自分が何をしたか分かってんでしょうね!」

 

「マジ引くわー! 痛覚を持って生まれて来た事を後悔させてくれるッ!」

 

口々に言って士道を取り囲み、「ガルルルル・・・・」と狼のように喉を震わせる。

このトリオに怒鳴られ、絡まれるのはいつもの事なのだが、今日は思い当たる節が無い上に、3人の口振りでは、まるで士道が少し前まで、“この教室に士道がいて、何か悪さをした”と言っているようである。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 一体何をそんなに怒っているんだよ!?」

 

士道は3人の剣幕に身をすくませながら、宥めるように手をあげ言うと、3人はさらに怒気と語気を強めて士道に迫る。

 

「シラを切ろうったってそうはいかないんだからね! 私の怒りはトップギアよ!!」

 

「そうよ! 証人は沢山いるんだから! 逃げようとしても、追跡、撲滅よ!」

 

「マッテローヨ! この桜吹雪、忘れたとは言わせねぇぜ! マジ引くわー!」

 

3人は何処から取り出したのか、亜衣は車のハンドルを付けた剣と、車のドアの形をした銃を取り出して、銃を持った右手で女の子らしからぬモザイク入りのハンドサインをし、麻衣はバイクの前輪の形をした銃を持って、持っていない方の手で教室の皆を示すように広げ、美衣は信号機を付けた斧を模した大型武器を側に置いて、肩を露出させようとするがーーーーブレザーが邪魔で結局止めた。

しかし、そんな事を言われても、心当たりが無いものは無い。眉を八の字にしながら、助けを求めるように辺りを見回すと、それに応えるように、トリオの後方から、聞き慣れた声が聞こえた。

 

「3人共、少し良いだろうか」

 

「! 十香!」

 

士道は表情を明るくするが、十香は口をへの字にしながら亜衣と麻衣の間をすり抜け、士道の前までやって来る。

士道はホウと、安堵の息を吐くが、十香は顔を赤くして、ポス、と士道のお腹にグーを当ててきた。

 

「・・・・何故いきなり“あんな事”をしたのだ。その、なんだ・・・・驚くではないか」

 

「へ・・・・? な、何言ってるんだ、十香・・・・? 俺は何もーーーー」

 

「・・・・何?」

 

士道が素直に答えると、十香は眉根を寄せて表情を険しくしていきーーーー目に涙を溜めながらポスポスと、士道の胸を連続で叩く。

 

「わっ、な、何だよ十香、痛いだろう・・・・」

 

「うるさいっ! 見損なったぞシドー! 百歩譲ってアレは許すとしても、自分のやった事を認めないとはなにごとだ!」

 

「いや、だからアレって何だよ!?」

 

「・・・・っ! そ、それは・・・・その、あれだ、わ、私の・・・・」

 

十香は口ごもり、赤い顔をさらに真っ赤にして俯いてしまった。そんな十香を、亜衣麻衣美衣トリオが、はしっ! と抱きしめた。

 

「良いのよ! 良いのよ十香ちゃん!」

 

「自分の罪を数えず否定した挙げ句、被害者にフラッシュバックさせようだなんて!」

 

「イッテイイヨー! 貴様には地獄を楽しむ事すらありえない! マジ引くわー!」

 

「いや、だから、何の事だよ!?」

 

たまらず士道が叫びをあげると、自分の右手首をガッ、と掴まれた。

 

「え?」

 

ソコには、いつの間にか現れた折紙(琴里から聞いたが、前回の天宮スクエアの戦いから、謹慎とされていた)が、落ち着き、その眼差しの奥には確かな決意の光を感じさせながら士道をジッと見つめて立っていた。

 

「お、折紙? まさかお前も俺に何かされたって言うのか・・・・?」

 

「何も」

 

「そ、そうか・・・・」

 

折紙の回答に気が緩んだその隙に、折紙は無言で士道の手を引き、あらかじめボタンを外していた自分のブラウスの中に、士道の手を突っ込み、胸に押し当てた。

 

「ウゾダドンドコドーンッ!?」

 

十香ほどの大きさはないが、手に収まるサイズの美乳の感触に、士道は珍妙な悲鳴を上げ、慌てて手を引こうとするが、折紙のその細腕からは想像できない握力でホールドされ、掌と指先に感じる温かく柔らかい感触に頭が激しく混乱した。

 

「な、何をしているかーっ!」

 

と、そこで俯いていた十香が復活し、折紙の魔の手から士道の手を剥がした。

士道は漸く解放された手を慌てて引っ込め、激しい音撃を刻む心臓を静めようと深呼吸するが、折紙の体温と微かな良い匂いに、顔をさらに赤くする。

 

「お、折紙・・・・? お前は俺に何もされなかったんじゃなかったのか・・・・?」

 

士道が困惑気味に問うと、折紙はコクリと頷く。

 

「そう。だから、今からしてもらう」

 

「は・・・・はぁっ!?」

 

「さあ、私にもして。山吹亜衣のように壁際に押し付けて顎を持ち上げて耳に甘い吐息を吹きかけて。葉桜麻衣と藤袴美衣のようにおもむろにスカートを捲って」

 

「な・・・・っ!?」

 

イヤに具体的な指示に士道が目を見開くと、亜衣麻衣美衣トリオが恥ずかしそうに頬を染めるが、折紙は構わず捲し立てる。

 

「そして濃厚なディープキスを交わし、服を引き裂き、乙女の純潔を奪い、一生消えない士道の痕跡を刻み込んで」

 

「えっ、ええっ?」

 

「鳶一折紙! シドーはそんな事をしていないだろう!」

 

十香が叫ぶが折紙は構わず、ズズイと士道に詰め寄る。

 

「さあ、士道。さあ」

 

「ちょ・・・・いや、あの・・・・」

 

「さあ」

 

「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」

 

「逃がさない」

 

「させるかぁぁぁぁっ!」

 

士道は何故か謝りながらその場から逃げる。折紙が逃がすまいとするが、十香が道を阻み揉め出した。

 

「・・・・うん?」

 

「発見。士道です」

 

廊下を駆ける士道の前方から、隣のクラスに在籍している八舞耶倶矢と夕弦姉妹が歩いてきたーーーーなぜかスクール水着姿で。

士道に気づいた2人は同時に眉をピクンと動かし、視線を鋭くすると、同時にバッ! と、士道を威嚇するように手を広げてきた。

 

「漸く見つけたぞ士道・・・・! 未だに逃げず校舎内に留まっておったか! ふん! その度胸だけは褒めてやろう!」

 

「警戒。もう油断はしません。この落とし前はキッチリとつけてもらいます」

 

「な・・・・! も、もしかして、お前らも俺に何かされた・・・・とか言うんじゃないだろうな?」

 

士道が後ずさりながら震える声で言うと、2人は怪訝そうに眉をよせる。

 

「おのれ士道、惚けるつもりか! いいから先刻奪い取った我のパンツを返すが良い!」

 

「憤慨。『俺、実は透けブラフェチなんだ』と、夕弦に水をかけたのはどこの誰ですか」

 

「ナニヲジョウコニズンドコドーンッ!?」

 

またも身に覚えの無い罪状を告げられ、士道は目を剥いた。

 

「何を考えているか知らぬが、油断も隙もない奴め」

 

「首肯。着替えの体操服が無くて焦りましたが、プールバッグを置きっぱなしにしていたのは幸いでした」

 

「いや何でプールバッグを置きっぱなしに? いやそれよりも俺はそんな事ーーーー」

 

「しらばっくれるつもりか!? しかし無駄な事よ! あれは確かに士道であった! 我らが士道の顔を見間違えるものか!」

 

「首肯。その通りです。士道好き好き大好き恋愛コンボの耶倶矢が見間違える筈がありません」

 

「何言ってんの夕弦!? そんな事言ったらアンタだってーーーー」

 

「無視。何の事か分かりません」

 

八舞姉妹がギャイギャイ騒ぐが、思い直すように首を振ると、再び士道に向いた。

 

「兎に角! やれたままでは済まさぬ! この八舞を舐めた罪、その身であがなってもらうぞ! 具体的には士道! お主のパンツを脱がす!」

 

「呼応。その上で夕弦が、士道の全身を霧吹きでシットリさせてあげます」

 

「じょ、冗談じゃねえ・・・・っ!」

 

言って、ジリジリと距離を詰めてくる八舞姉妹から逃げようとする士道の背後に、ブレイク限界で嫁き遅れの空をテイクオフする岡峰珠恵・通称タマちゃんと、マッハ全開で非モテのロードを突き進む殿町宏人がいた。

 

「五河くん・・・・!」

 

「五河・・・・“くん”・・・・!」

 

「えっ?」

 

「あんな事をしておいて、も、もう私、お嫁に行けません・・・・、ちゃんと責任取って貰いますからね!」

 

「・・・・俺、良く冗談飛ばしていたし、誤解させてたかもしれないけど・・・・そういう趣味、ないから・・・・」

 

「ベトナムヲイウナ! アテズッポウデコタエルナ!」

 

泣き出しそうな顔で訴えるタマちゃん先生と、チワワのように全身を震わせた殿町に、士道はたまらず叫んだ。

このままではマズイと考え、逃げ道を探るように左右に視線をやるとーーーー。

 

「え・・・・?」

 

廊下の先、窓から光が差し込むT字路に目を向け、ソコに立つ1人の少年を見た瞬間、士道は全身にゾワンギゾワンゴッと鳥肌が立った。

 

ーーーーソコに立っていたのは、“毎朝鏡の中で目にしている人物”・・・・“五河士道”がいたのであった。

 


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