デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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もう1人の士道?

ー士道sideー

 

「・・・・・・・・」

 

『もう1人の士道』は、士道を一瞥すると、ニッと唇の端を歪めて小さく手を振ると、廊下を歩いていった。

まるで、士道を挑発するように。

 

「ま、待て・・・・っ! 何なんだお前は・・・・!」

 

士道は『もう1人の士道』を追おうとするが、素の身体能力で八舞姉妹の瞬発力に敵う筈もなく、右手を耶倶矢が、左手を夕弦に取られてしまった。

 

「くく、逃がすと思うてか? 観念するがいい士道よ! 己の罪を数えるのだな!」

 

「拘束。逃がしません。さあ、振り切るようにシットリさせてあげます」

 

「ちょ・・・・っ! 待ってくれ! 今廊下の向こうに俺が・・・・!」

 

『もう1人の士道』を見失うと思った士道は意を決すると、グッと両腕に力を込めた。

 

「あー! 分かったよ! 大人しくするって!」

 

半ばヤケクソになって叫ぶと、両腕を押さえていた八舞姉妹は満足気に頷く。

 

「くく、そう、それでよいのだ。我ら八舞に斯様な屈辱を与えたのだ。然るべき制裁を受けてもらうぞ」

 

「首肯。最初からそうしてればいいのです」

 

耶倶矢と夕弦が士道の腕を離す。士道の言葉を信じてくれた、と言うのもあるが、仮に逃げても瞬発力は精霊達の中でもズバ抜けている八舞姉妹から逃れる事は非常に困難だと思っているからだ。

しかし、ドラゴン曰くーーーー。

 

【≪〈ベルセルク〉達は自分達の能力を過信している。それが彼女達の弱点だ≫】

 

故に見落としていたのだ、士道の腕を離した瞬間、士道がポケットからリングを取り出し、嵌めていた事をーーーー。

 

[ライト プリーズ]

 

目を閉じた士道はバックルに読み込ませ、『ライトリング』から光が溢れ出てきた。

 

「にょわぁっ!!」

 

「閃光。あぁっ!」

 

「きゃぁあっ! バルスですかぁっ!?」

 

「ああ! 目が! 目がぁっ!」

 

と、突然の閃光に耶倶矢と夕弦、タマちゃん先生と殿町が目を覆うと、その隙に士道は『もう1人の士道』を追って駆け出す。

廊下の奥を走り、『もう1人の士道』が消えた方向に曲がると、その先に『もう1人の士道』の後ろ姿を捉えた。

 

「! あいつ・・・・!」

 

士道はグッと奥歯を噛むと、その背中を追ってさらに速度を上げる。

そして『もう1人の士道』に導かれるようにーーーー屋上の扉の前までやってきた。

 

「はぁっ、はぁ・・・・っ、もう・・・・っ、逃げ・・・・場は・・・・ない、はず・・・・」

 

ここに来るまで校内を駆け回っていた士道は、荒くなった呼吸を整えるように、大きく深呼吸する。

そして、士道はノブに手を掛けて一気に扉を開け、屋上に足を踏み出すと、フェンスに囲われたエリアを探るように視線を巡らせながら、『コネクトリング』を嵌めた。

 

「よう、意外と早かったな」

 

「・・・・っ!」

 

[コネクト プリーズ]

 

と、背後から声が聞こえ、身を強ばらせた士道は、『コネクトリング』でウィザーソードガン・ガンモードを取り出しながら声の方に銃口と目を向ける。

すると、今しがた士道の出てきた塔屋の上に、“士道と全く同じ顔をした少年”が、悠然と腰かけていた。

 

「お前・・・・やっぱり、俺・・・・!?」

 

士道は眉をひそめ、渋面を作って『もう1人の士道』を睨み付ける。

至近距離で見ると、似ているなんてレベルではない。まるで鏡の世界から抜け出てきたような、士道と瓜二つの存在がいた。

 

「ふふ・・・・」

 

『もう1人の士道』がクスクスと笑いながらヒョイッと塔屋から跳び降りると、士道の目の前に着地する。

その姿を見て、混乱と同時に確信を得た。

今日学校に来てから多くの人間達が証言してきた、全く見に覚えの無い悪行。

それらは全て、目の前にいるコイツが行ったのだと。

 

「お察しの通り。お前がいない間に色々楽しませてもらったよ」

 

コチラの思考を読んだのか、『もう1人の士道』は唇を歪める。姿だけでなく、声に仕草に至るまで、完璧に士道その者だ。得体の知れない気持ち悪さが腹の中に蟠る。

 

「お前・・・・一体何者だ? まさか、『ファントム』か・・・・!」

 

擬態能力を持ったパピヨンのようなファントムではないかと、士道は警戒して言うと、『もう1人の士道』は、可笑しくてたまらないと言った調子でクックッと喉を鳴らす。

 

「ふふ・・・・まだ気づかないの? “士道くんったら”」

 

「な・・・・」

 

士道は息を詰まらせ、目を見開いた。『もう1人の士道』は、士道の声とは違った、女性の声となったのだ。

 

「・・・・まさかーーーー七罪・・・・?」

 

祖の声は間違いなく、昨日士道が遭遇した精霊、〈ウィッチ〉・七罪のモノだった。

すると『もう1人の士道』は妖しい笑みを浮かべ、片手で丸を作る。

 

「ピンポーン! 正解。良くできました。偉い偉い」

 

「その姿はまさか、お前の天使の能力か・・・・?」

 

士道の脳裏に、昨日の光景が鮮明に浮かんだ。

七罪の天使〈贋造魔女<ハニエル>〉の先端から発せられた光を浴びて、AST隊員やミサイルが別の姿に変身させられた。

おそらく〈贋造魔女<ハニエル>〉の能力は、物体を別の何かにつけて変化させる能力。それがもし、自分の身体も対象となるのならば、今の彼女の姿も納得がいく。

しかしそれは理解できたが、士道は険しい顔をしながら、七罪に言葉を続ける。

 

「一体、何が目的だ? 俺ソックリに化けて、皆に悪さをして・・・・!」

 

ソードガンを下ろした士道が言うと、楽しげに笑っていた『もう1人の士道』ーーーー七罪が、フッと表情を無くし、ギロリと士道を睨み返した。

 

「・・・・わからないの? 本当に?」

 

「な、何、が・・・・」

 

その鋭い眼光に射貫かれ、士道は心臓を締め付けられたような錯覚を覚えた。

そして同時に、昨日七罪が去り際に残していった言葉が蘇った。

 

【見られた以上、ただで済ます訳にはいかない・・・・! 覚えてなさい。アンタの人生、おしまいしてやるんだから・・・・!】

 

「あーーーー」

 

士道は、ハッと肩を揺らしてゴクリと唾液を飲み下した。

 

「ま、まさか、俺の人生をおしまいにって・・・・」

 

「ーーーー20点」

 

「へ・・・・?」

 

戦慄しながら言った士道に、七罪は半眼を作りながら返す。

 

「言ったでしょう? 私の秘密を知ったからには、ただでは済まさないって。こんな嫌がらせ程度で許して貰えるとでも思ってるのかしら? ふざけるんじゃないわ。もっと滅茶苦茶のギッタンギッタンのへちょへちょにしてやるんだから・・・・!」

 

「ちょ、ちょっと待った。そもそも『七罪の秘密』って、俺は何もーーーー」

 

士道が半眼となって言おうとするが、七罪はその言葉を止めるようにダン! と屋上に踵を叩きつけた。

 

「ーーーーほぅら、ね。だから危険なのよ。私の秘密を知る者は、この世に存在してはいないんだから」

 

「・・・・っ!?」

 

士道の言葉をまるで聞き入れようとしない七罪の鬼気迫る表情と異様な迫力に気圧され、士道は思わず後ずさるが、七罪は構わず、凄絶な笑みを浮かべながら士道を指差す。

 

「でも安心。だってほら、ここには士道くんが、2人もいるんだもの。ねぇ、同じ人間が2人もいるなんて、おかしいわよねぇ? 1人にしないと、駄目よねぇ?」

 

「1人に・・・・って、まさか・・・・?」

 

士道が顔を戦慄に染めると、七罪は凄絶な笑みを張り付けたまま悠然と頷く。

 

「“今日から私が、士道くんになってあげる”。“今日から私が、士道くんを演じてあげる”。“今日から私が、〈仮面ライダー〉になってあげる”。“今日から私が、〈仮面ライダー〉を演じてあげる”。何も心配いらないわ。私の観察眼は完璧よ。あなたと、あなたと人間との関係。色々と調べさせてもらったわ。さっきみたいなお遊びはもうしない。あなたがいなくなっても、きっと誰も気づかない。あなたがいなくなっても、世界は変わらず動き続ける。世界にとってあなたは、その程度のちっぽけな存在なのよ」

 

まるで演劇でも演じているような身振りをしながら、七罪は続ける。

 

「ーーーーふふ、安心して? 別に士道くんを殺したりはしないわ。ただ、私の邪魔ができないように、こことは違う場所に行って貰うだけよ」

 

「ふ、ふざけるな! そんな事ーーーー」

 

と。士道がたまらず声を荒らげようとした瞬間、バタン! と勢いよく屋上の扉が開かれ、十香と折紙が顔を出した。

 

「この、貴様は別のところに行くがいい! シドーは私が見つけ出すのだ!」

 

「それはこちらの台詞。あなたになど任せておけない。早く教室に戻るべき」

 

どうやら士道を探していたらしい。互いに睨み合い、押し合いをしながら屋上へと出てくる。が、2人はそこで士道達を見て、同時にピタッと動きを止め、信じられないものを見たように目を丸くした。

 

「し、シドーが・・・・2人?」

 

「・・・・どういう事?」

 

怪訝そうに眉をひそめる2人は、士道と七罪を交互に見た。

 

「十香! 折紙! 聞いてくれ、コイツはーーーー」

 

「コイツが偽物なんた! 俺に化けて、皆に悪戯をしたのはコイツだったんだよ! 今俺を消そうとしていたんだ!」

 

士道は自分が本物である事を告げようとするが、それを遮るように、七罪が完璧な士道の声で発して、ソードガンを指差して発した。

 

「な・・・・! だ、騙されないでくれ、2人とも! 本物は俺だ!」

 

「何言ってやがる! 俺が本物だ!」

 

同じ声と同じ口振りで言うと、十香と折紙は微かに眉をひそめた。どちらが本物か分からず困惑していると思った士道は、必死に訴える事だけだった。

 

「十香、折紙、信じてくれ・・・・! 俺が本物の五河士道なんだ!」

 

「騙されちゃ駄目だ! 頼むーーーー信じてくれ!」

 

七罪も必死に声を発した。士道自信、まるで鏡でも見ているような感覚だ。

 

「むう・・・・これは、どちらかが偽者と言う事か。ならばーーーー」

 

「不可解な状況。しかしーーーー」

 

十香と折紙は暫しの間、士道と七罪を見比べ、それぞれ指を指した。

 

「「あなた(お前)が、偽者(だ)」」

 

全くの同時にーーーー七罪が化けた士道に、ビッと指を突きつけた。

 

「な・・・・!? な、何いってるだ、2人とも。俺はーーーー。」

 

まさかこんなに迷いなく真贋を見定められるとは思ってもいなかったのか、七罪は驚愕の顔となるが、往生際悪く言葉を続けようとするが、2人はフルフルと首を振り、士道の方に詰め寄るのを見て、七罪も漸く観念したのか、憎々しげな視線で3人を睨み付ける。

 

 

「・・・・なんで、分かったんだ? 変身は完璧だったはず。当てずっぽうだとしても五分五分。なんでそんなに自信を持って俺を指せたんだ?」

 

七罪がそう問うと、十香と折紙は一瞬視線を合わせてから順に口を開く。

 

「何でと言われてもな・・・・何となくだ。確かにシドーにそっくりだが、本物と並び立つと、何か匂いが違うような気がしたしな。それに、お前からは“ドラゴンの気配”がしなかったのだ」

 

「あなた1人しかこの場にいなかったなら、騙されていたかもしれない。実際、先ほどまで私はあなたを士道だと思っていた。しかし、2人の士道がいて、どちらかが本物と言う条件下での問いならば話は別。あなたは本物の士道よりも瞬きが0.05秒ほど早く、また、身体の重心が士道よりも0.2度ほど左に傾いている。間違えようがない」

 

十香のボヤッとしている言葉に士道はハッとなる。確かに、七罪が変身できるとしてもそれはあくまで“士道”だけ、“士道のアンダーワールドにいるドラゴン”まで変身できる事は無いのだ。

そして折紙の捲し立てた言葉に、士道に化けた七罪は信じられないモノを見るような顔を作って2人を見る。

 

「な、何なの・・・・何なのよ、この子達! どうかしてるわ・・・・!」

 

「・・・・いや、それは、まあ・・・・」

 

七罪が戦きながら言い、士道も正直この2人には感謝するべきなのだが、七罪の気持ちも分からなくも無いので、曖昧に返した。

七罪は忌々しげに歯噛みすると、バッと右手を高く掲げ、虚空から〈贋造魔女<ハニエル>〉を出し、その手に握ると、箒の先端から放射状に開き、太陽の光を反射するように輝く。

次の瞬間、七罪が淡く発光しーーーー長身の美女へとその姿を変えた。

 

「な・・・・っ!」

 

「・・・・・・!」

 

2人は驚愕するが、すぐに士道を守るように腰を低くして片足を引く。

だが七罪は、そんな2人を気に留めず、ギリギリと歯を悔しそうに擦り合わせ、ガリガリと頭を掻いた。

 

「あり得ない・・・・あり得ない・・・・あり得ないィィィッ!」

 

「な・・・・」

 

「秘密を知られた挙げ句、私の完璧な変身が見抜かれたって言うの・・・・? 嘘よ・・・・こんなの嘘! 絶対・・・・絶対認めないんだから・・・・ッ! このままじゃ済まさない・・・・! 絶対に一泡吹かせてやるんだから・・・・!」

 

七罪は憎々しげに叫ぶと、ビッ! と士道達に指を向け、敵意剥き出しの視線でそう言い、軽やかに箒の柄に腰掛け、そのままトン、と屋上を蹴り、空に飛んでいく。

 

「あーーーーお、おい!」

 

慌てて声を上げるがもう遅い。七罪はそのまま空の彼方に飛んで行った。

 

「く・・・・」

 

結局何も進展せず終わってしまった。士道の姿をして現れ、士道に成り代わろうとした。この事は琴里に報告しなければならないが、今はそれよりもーーーー。

 

「シドー」

 

「士道」

 

「な、なんだ2人とも」

 

七罪の姿が完全に消えて、同時に名を呼んだ2人に、士道は振り向いて、何となく次の言葉を察しながら、上擦った声で返す。

 

「あやつは一体何者なのだ!?」

 

「あの女は誰。どういう関係なの」

 

ほぼ予想通りの言葉を発した。

ドラゴンが起きていれば、十香の方を説得できただろうなと思い、士道は顔を引きつらせ、なんとか七罪の事をボカして説明する方法は無いか、思考を巡らせる。

そしてこの後すぐに、『コネクト』で四糸乃とよしのんの遊び相手をしている、ガルーダとユニコーンとクラーケンの『プラモンスター実動部隊』を呼び出し、七罪と、最近動きを見せないファントムの捜索をさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーウェスコットsideー

 

DEMインダストリー・英国本社ビル。

その20階にある会議室では、DEMの代表取り締まり達が巨大な楕円形のテーブルに着き、手元に置かれた書類を繰り返しながら、難しそうな顔を作っていた。

そんな中、眼鏡をかけた初老の男性『マードック』と呼ばれる取締役会の1人で取締役会でも若手だが、ウェスコットよりも年上に見える取締役が、DEM社のMD<マネージング・ディレクター>(最高経営責任者)であるサー・アイザック・レイ・ぺラム・ウェスコットを乱暴に糾弾していた。

理由は勿論、先日の日本での不当な権力を振りかざし、DEM日本支社とそれに併設された各施設を半壊状態にまで追い詰め、ビル街を戦場にし、しかも貴重な魔術師<ウィザード>を幾人も死傷させ、秘匿技術の顕現装置<リアライザ>を衆目に惜しげなく晒した事に対してだ。

被害総額は10億ポンド(1580億円以上)、日本政府に大きな弱みを握られ、以前からDEMに不審感を抱いている各国の諜報部につけ入る隙を与え、下手をすればDEM社の存続に関わる事態になるのだ、それも当然だろう。

しかし、ウェスコットはそんな剣幕など意に返さず、精霊〈プリンセス〉、十香を反転させる事に成功させた事を満足げに発した。

無論、そんな事で納得せず、マードックはーーーー。

 

「貴方の“お遊び”と“自己満足”に付き合っている暇はもうないんだ!」

 

「・・・・ほう?」

 

怒り顔でそう叫ぶと、今まで無機的な笑みを浮かべていたウェスコットの眉が、ほんの少しだけピクリと動いたが、それに気づかず、マードックは他の取締役達に目を向け、然るべき処置としてーーーー。

 

“ウェスコットMDの解任を要求した。”

 

あまりに突然の解任要求に、驚く者もいたがーーーー半数以上は、すでにマードックが手回しをしていたのだろうか、知っている様子である。

それに満足げに頷いたマードックは、ウェスコットの隣に座る『チェアマン・ラッセル』議長に促す。

英国の会社では、業務執行取締役が取締役会長を兼任できないが、少なくとも名門上では、取締役会にはウェスコット以外の代表が必要とされる。

ラッセル老は難しそうな顔でウェスコットに視線を送ると、ウェスコットは何も気にする様子もなく、悠然と頷いた。

そして、解任に賛成の多数決を取ると、マードックを始め、若い役員を中心に半数以上が挙手した。

日頃から、ウェスコットの傍若無人な振る舞いに不満を溜め込んでいた人間達が、マードックに賛成したのだ。マードックは勝利を確信し、嘲笑めいた笑みを浮かべるがーーーー。

 

「ーーーー“挙手数0”により、ウェスコットMDの解任要求は棄却とします」

 

「何だって?」

 

マードックがラッセルの言葉に眉をひそめるが、自分の足元に“何か”が、ゴトッと落ちたのに気づき、目を向けるとそこにはーーーー自分の腕が落ちていたのだ。

しかも、挙手していた他の役員達もマードックと同じように、高々とあげていた腕の肘から先が、無くなっていたのだ。

 

「う、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!??」

 

それを見て初めて痛覚を感じ、苦悶の顔を浮かべて絶叫をあげるマードックや役員達がへたり込み、それに合わさるように滑らかな切断面から夥しい鮮血が噴き出した。

ーーーー会議室が一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄絵図へと化した。

 

「ーーーーお遊び? 自己満足? アイクの作り上げたDEMの名に後から乗っただけの方が、知った風な口を利いてくれますね」

 

ウェスコットの後方から、落ち着き払った声音を響かせ、一歩前に進み出たのは、片手にペティナイフ程度の大きさのレイザーエッジを握り、ワイヤリングスーツなしでレイザーエッジを刃を糸のように細く長く変化させるなどと言う異常な事をやり、マードックと役員達の腕を一瞬で切り落とした桁違いの力量を見せる彼女の名はーーーー『エレン・M<ミラ>・メイザース』。

DEMの陰の実行者たる第二執行部の部長にして、“元”世界最強の魔術師<ウィザード>であった。

“元”、と言うのは、先の議題にあがったビル街での戦闘で、識別名称〈仮面ライダー〉に敗北し、『最強』の名を覆されたからだ。

まあ、彼女に面と向かってそんな自殺願望のような台詞を言う人間など、今この場にはいないが。

 

「まあそう言うなエレン。彼は至極真っ当に、自分の置かれた環境を利用し、自分に与えられた権力を行使しただけさ」

 

「ですが」

 

エレンが食い下がろうとすると、それを制し、ウェスコットはゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

「医務室に医療用顕現装置<メディカル・リアライザ>を用意させてある。今すぐ接げば数日後には元通りになっているだろう。ーーーー行きたまえ。君達はDEMの未来を担う優秀な人材だ。こんな事で片手を失うのは馬鹿馬鹿しいとは思わないかね?」

 

「・・・・ッ、貴様・・・・!」

 

マードックはもはや敬語さえ使わず、ウェスコットに怨嗟を込めて睨み付ける。

だがウェスコットはそんな視線などなるで眼中になく、小さく肩をすくめた。

 

「心配せずとも、私の“お遊び”と“自己満足”が済めば、この会社は君達にくれてやるさ。ーーーーなに、すぐだ。“我々”は今まで待ち続けて時間に比べればね」

 

DEMの存続などまるで興味が無いと云わんばかりに言い、ウェスコットは静かに笑いながら、エレンを伴って会議室を出ていった。

 

 

 

 

会議室を出て廊下を少し歩くと、グレムリンの人間態、ソラが廊下の壁に寄りかかっていた。

 

「やあMr.ウェスコット。会議は終わったかい?」

 

「ああ。何の事はない普通の会議だったよ」

 

「ふぅ~ん。何かエレンちゃんが派手に立ち回ったような声が聞こえていたけど?」

 

「盗み聞きですか? 流石は魔獣。礼儀知らずですね」

 

「あらら恐~い! “士道くんに敗けた腹いせくらいにはなれた”?」

 

「ッッ!!!」

 

ソラが発した言葉に、冷淡な態度だったエレンの目に、激しい怒気と殺気が込められ、レイザーエッジの糸の刃でソラの身体がバラバラにしようと振るうがーーーー。

 

「・・・・!」

 

ソラはニヤリッと、笑みを浮かべ、グレムリンに変貌するとーーーー両手に持った大きなペーパーナイフのような刃で、エレンの光の糸の刃を、一瞬の内に全て切り捨て、またソラに戻った。

 

「もう、恐いんだからぁ。そんな簡単に挑発に乗るようじゃ、また士道くんに挑んでも、また敗けちゃうよ~」

 

「ッ!」

 

エレンがさらに殺気を強めるが、ウェスコットが制した。

 

「エレン。ここでMr.ソラと戦っても、君に付けられた黒星が変わる訳ではないよ。いずれちゃんと雪辱を晴らす機会が来る。それまで牙を研いでおいてくれ」

 

「ーーーーわかりました」

 

ウェスコットの言葉に、深呼吸して落ち着くエレン。それを確認したウェスコットは、ソラに話しかける。

 

「それで、Mr.ワイズマンの方はどうだい?」

 

「うん。メデューサちゃんと新しいファントムを生み出しているよ。流石はDEMだね。魔術師<ウィザード>の中にもあんなにゲートとなれる人材を保有しているなんて」

 

「フフフ。さて、それでは私も作業に戻ろう。エレンにプレゼントを贈りたいのでね」

 

含み笑みを浮かべるウェスコットは、そのままエレンを連れて歩を進めた。

 

「・・・・・・・・」

 

その後ろ姿を、ソラは目を細目ながら見送った。

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