デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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遊戯・七罪

ー士道sideー

 

「あー・・・・」

 

士道はボヤクように喉を震わせ、ソファに寝転がりながら、手すりに足を投げ出す。

10月21日の土曜日。七罪が士道に化けて学校で暴れてから、すでに5日が経っていた。

一応ここ5日間、『プラモンスター実動部隊』に捜索はさせているが(四糸乃とよしのんの遊び相手だが、2人はドラゴンの出した課題をやっている)、七罪はあれ以来1度も士道の前に現れなかった。

 

「・・・・こうも何もないと、かえって気味が悪いな」

 

まったく緊張感のない士道は天井を眺めながらそんな事を考えていると、不意にお腹の辺りが、ギュムッ! と重いものがのし掛かってくるのを感じた。

 

「うぐぉ・・・・っ、な、なんだぁ・・・・?」

 

突然の負荷に顔をしかめながら視線を落とすと、封筒を持っていた琴里がチュッパチャプスを咥えながら、澄まし顔で腰掛かっているのが見えた。

 

「・・・・おい、琴里」

 

言うと琴里は不敵な笑みを浮かべ、士道に視線を向ける。

 

「あら、あんまり精気が無いものだから、めずらしい人革製のソファかと思ったわ」

 

「家にそんなエド・ゲインみたいな趣味の家具はねえ」

 

半眼で士道が言うと、琴里はグッと反動をつけて、士道の腹に体重をかけてからその場に立ち上がる。

 

「ドム!」

 

「あら、ジェットでストリームなアタックでも会得したのかしら? それとも連なった三つの黒い星でも味方につけた?」

 

「お前なあ・・・・」

 

笑いながら肩をすくめる琴里に、腹をさすりながら士道はゆっくりと起き上がると、琴里は呆れたような貌をしながら息を吐く。

 

「ふん、精霊に狙われている状況だって言うのに、気を抜きまくっているからでしょ。ドラゴンが起きていたら、いつもの尻尾でのお仕置きと、嫌みと毒舌と暴言のファイナルベントをおみまいされるわよ。何を仕掛けてくるのか分からないのに、少しは気を張ってなさい。緊張感も危機感もナマコ以下の低能とドラゴンに呼ばれるわよ」

 

「ぐ・・・・」

 

そう言われると、何も言い返せず、唇を噛んで黙り込む。

まあドラゴンならば、低能だけでなく、恥という概念も持たない下等な底辺生命体とも罵倒していただろうが。

 

「あの精霊ーーーー七罪が何を考えているのかは分からないけど、このまま何もせずフェードアウトって事は考えづらいわ。きっと何らかの方法で士道に接触してくる筈よ。ーーーーそして、こちらからコンタクトを取る手段が無い以上、私達はそのタイミングで確実に七罪の好感度を上げなければならない。まさか、ソコんとこも理解していないの?」

 

「わ、分かってるよ」

 

「どうだか。・・・・・・・・まったく、飼い主<ドラゴン>が見ていないとすぐこの体たらくなんだから」

 

琴里がやれやれといった調子で肩をすくめる。後半は良く聞こえなかったが、言う事は尤もだ。

七罪は何故か士道を目の敵にしている。七罪からの接触を逆手に取って、その原因を探らなければならない。漸く問題が山積みだと自覚した士道を見て、琴里がフンと鼻を鳴らし、手にしていた封筒を掲げて見せた。

 

「漸く少しは顔に緊張感が出てきたわね。ーーーーほら、これ。朝ポストに入ってたわ」

 

「え?」

 

不思議そうに首を捻りながら受け取り、手に取って見ると、存外と厚みと重量があり、中に何かが入っているのがわかった。

表に『五河士道様』とだけ書かれ、住所も郵便番号も切手もない、おそらく直接ポストに投函されたのだろう。

 

「これは・・・・手紙?」

 

「ええ。ラブレターよ。ーーーー“七罪からのね”」

 

「な・・・・っ!?」

 

士道は目を見開き、慌てて封筒の裏を見ると、ご丁寧な事に蝋で封をされており、その下には確かに『七罪』の名が記されていた。

士道がゴクンッと唾液を飲むと、封筒をテーブルの上に置いてソファに座り直す。

 

「あ、開けて大丈夫なのか・・・・?」

 

「ええ。開けた瞬間ドカン! なんて可能性も無くはないから、一応〈フラクシナス〉で外部から調べさせてもらったわ。危険なモノは入っていない筈よ。ーーーー勿論、相手が精霊である以上、絶対に保証になるわけではないけれど」

 

「・・・・・・・・」

 

肩をすくめて言う琴里に、士道は頬に汗を滲ませながら顔を引きつらせるが、意を決して頬を張り、気合いを入れてから、封筒を開けて中身を取り出した。

 

「これは・・・・」

 

「・・・・『写真』、みたいね」

 

そう。封筒の中には、何枚もの写真が入っていた。

恐らく静粛現界を繰り返して写真を撮ったのだろうが、問題はその被写体だ。

 

「・・・・これ、もしかして私?」

 

その写真に写っていたのは、白いリボンを髪に括り、中学校の制服を着た琴里だが、写真の琴里はカメラを見ておらず、誰が見ても『盗撮写真』だ。

しかも、琴里だけでなく。封筒に収められていた写真は全部で13枚。それら全てに、士道に近しい人物の全身像が写っていた。

 

十香。折紙。四糸乃。耶倶矢。夕弦。美九。亜衣。麻衣。美衣。タマちゃん先生。殿町。そしてーーーー輪島のおっちゃん。

全て、盗撮写真だった(ただ1人、折紙はカメラに気づいたようにこちらを向いていたが)。

 

「な、なんだ、この『写真』は・・・・」

 

こんな写真を送りつけた七罪は、士道に何を伝えたいのだろうか。

 

「入っていたのは写真だね? 他には?」

 

「あ、ああ・・・・」

 

封筒の中を探ると、中にはもう1枚のカードのような入っており、取り出してテーブルの上に置く。ソコには、短い文章が記されており。

 

『この中に、私がいる。

誰が私か、当てられる?

誰も、いなくなる前に。

七罪』

 

 

 

 

翌日の10月22日午前10時59分。

士道はスマホで時間を見ながら、五河家の門の前に立っていた。

 

「シドー!」

 

と、時間が11時になると同時に、隣の精霊マンションの入り口から弾んだ声をして、秋物の服に身を包んだ十香が無邪気に手を振って駆けてくる。士道もその呼び声に応えるように小さく手を振る。

 

「すまぬ、待たせたか?」

 

「いや、時間ピッタリだ。こっちこそ悪かったな、急に」

 

「気にするな! それより、今日は何処へ買い物に行くのだ!?」

 

首を傾げ、目をキラメかせる十香。昨日の夜、士道が十香に、買い物に行こうと誘ったのである。

 

「ああーーーーそうだな、取り敢えず駅の方に行ってみるか」

 

「うむ!」

 

元気よく頷く十香。士道とお出かけするのが楽しくて仕方ないと言った感じだ。犬であれば尻尾が千切れんばかり振り、興奮してはしゃぎ回っているようだ。嬉しいやら恥ずかしいやら微笑ましいやら、様々な感情が交ざり、頭を掻きながら苦笑する。

 

《・・・・シン、“今日の目的を忘れずにね”》

 

不意に右耳に付けたインカムから、令音の声が響き、士道はビクッと肩を揺らした。

 

「・・・・は、はい」

 

小さな声でそう答えると、隣に並び立つ十香の横顔をチラリと見る。

いつもの十香の、いつもの顔だ。何も可笑しい所などありはしない。

ーーーーだが、もしかしたら。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道は数日前学校に現れた、『もう1人の士道』の姿が脳裏に過る。

そう。この十香はもしかしたら、“七罪が化けている偽者かも知れないのである”。

士道は無言で十香の横顔を見つめながら、昨日琴里との会話を思い返した。

 

 

* * *

 

 

 

「ーーーー『この中に、私がいる。誰が私か、当てられる?』・・・・」

 

琴里が封筒に入れられたカードを見ながら、むずかしげな表情を作る。

 

「ど、どういう・・・・事だ?」

 

「・・・・額面通りに受け取るなら」

 

琴里によって〈フラクシナス〉から呼び出された令音が、狼狽える士道に答えると、13枚の写真をテーブルの上に並べる。

 

「・・・・七罪が、この13人の内の誰かに化けている・・・・と言う事になるだろうね」

 

「・・・・っ」

 

何となく察しはついていたが、声を詰まらせる。

七罪の天使〈贋造魔女<ハニエル>〉の能力は恐らく、自分や他人や物体を、自分の望む姿に変身させる能力。一見地味に見えるが、非常に応用力の高い能力だ。

この能力を使えば、誰かに化ける事など造作もない。

 

「そして、俺に、自分が化けているのが誰かを当てて見せろ・・・・って事か?」

 

「そう言う事になるでしょうね。ーーーー最後の『誰も、いなくなる前に』って言うのが少し引っかかるけれど」

 

腕組みして言う琴里。ゴクリと喉を鳴らす士道。

 

「要は・・・・“タイムリミット”って事か?」

 

「そう言う事・・・・なのかしらね。正直、判断するには情報が少なすぎるわ」

 

「・・・・とにかく、一刻も早く動き出さねばならないだろう」

 

令音が、難しげに唸って写真を見ながら口元に手を置く。

 

「動き出すって言ったって、一体どうするんですか?」

 

士道が言うと、咥えていたチュッパチャプスの棒をピンと立てた琴里が言う。

 

「そうね・・・・まずは〈ラタトスク〉で、この写真に写ってる全員に霊波観測をかけてみるわ。相手は十全の力保有した精霊なら、僅かな霊力の漏れでも見つけられたら話は早い」

 

「なるほどな・・・・」

 

「・・・・しかし霊波を観測できる可能性は極めて低いと考えた方が良い。だから、それと並行してシン、君にも動いてもらう事になるだろう」

 

それから方向性としては、士道が容疑者達とデートをして、相手に違和感が無いかチェックしてもらう事。精霊達ならともかく、クラスメート達やタマちゃん先生、輪島のおっちゃんともデートする事に渋面を作るが、それこそ七罪の思うつぼだと琴里に指摘される。

〈フラクシナス〉もサポートするが、容疑者の1人となっている琴里は参加できない。

 

「でも・・・・何で令音さんは入ってないんですかね」

 

「・・・・ん、これは完全な推測になるか、七罪が容疑者を選定した時に、君の周りにいなかったからだろう。私は此処のところ、七罪の解析と調査で〈フラクシナス〉に籠っていたからね」

 

「ああ・・・・なるほど」

 

「・・・・まあ無論、私が七罪のお眼鏡に適わなかっただけ、と言う可能性もあるが」

 

自嘲気味に肩を竦める令音に、何とも言えない士道は、力無く苦笑した。

 

「はぁ、こんなに時にドラゴンが寝ているのは痛いわね」

 

「えっ? 何でだ?」

 

愚痴る琴里に首を傾げる士道。察しの悪い兄に呆れながらも、琴里は口を開く。

 

「考えてみなさいよ。ドラゴンは私達精霊の霊力を食べて、独自の経路<パス>を作って私達と交信ができる」

 

「つまり、ドラゴンが交信できれば、少なくても精霊達は容疑者から外れる」

 

「っそうか! ドラゴン!! 起きてぐばらぁあああああああ!!!」

 

ドラゴンに呼び掛けようとする士道だが、独りでにフローリングに顔面を叩きつけて倒れた。

 

「・・・・どうやらまだ起きないようだね。琴里はどうだい?」

 

「・・・・・・・・ダメね。頭の中に『休眠中』って看板か出ているわ。まぁ、ここ数日の間にドラゴンと交信する仕草をした精霊がいないと考えられないから、交信の事を言ってもはぐらかされるわね」

 

ドラゴンのド突きをお見舞いされて倒れる士道を見ながら、琴里と令音はため息をもらす。

琴里が話を戻すように咳払いをする。

 

「兎に角。私達の勝利条件は、あくまで七罪をデレさせて、その霊力を封印する事よ。くれぐれも細心の注意を払ってちょうだい・・・・」

 

言葉の途中で、琴里は忌々しげに顔を歪め、ギリと歯噛みした。

 

「ーーーーもしこれ以上七罪の機嫌を損ねてしまったら、七罪の封印処か、“人質の処遇さえ危うくなるかもしれないしね”」

 

「・・・・!?」

 

琴里の放った言葉に、士道は心臓が引き絞られるのを感じて、ガバッと起き上がった。

 

「ちょ、ちょっと待て。“人質”ってなんだよ」

 

本当に飼い主<ドラゴン>がいないと無知な兄に、琴里は説明した。

 

「・・・・考えてもみなさい。七罪は、この中から自分を捜してみろって言ったのよ。ーーーー“同じ顔の人間が2人もいたら、それだけで選択肢が2分の1になるでしょう”」

 

「・・・・! それ、は・・・・」

 

漸く理解した士道は、顔を戦慄に染める。士道に化けていた時は、ドラゴンの存在と本物の士道がいたから、十香と折紙が真贋を見抜いた。

その失敗を七罪は2度も犯さないだろう。

ならば答えは非常にシンプル。

 

「・・・・自分が化けた相手を、何処かに監禁しておく」

 

「そうなるでしょうね」

 

苦々しげに言った士道に、琴里が渋面を作った。

 

「猶予はないわ。13人を3日に分けて調査し、何としても七罪を見つけ出すのよ。あなたには頭脳役のドラゴンがいないんだから、下手な真似はしないように」

 

「ああ・・・・」

 

状況の悪さを理解した士道は拳を握り直し、力強く首を前に倒した。

 

「状況は絶望的だけど。絶対に、七罪を見つけて助け出す!」

 

* * *

 

 

ーーーーそして、現在に至る。

士道は十香と並んで歩きながら、チラチラと様子を窺うと十香と目が合い、士道が不自然に視線を剃らしたのを、十香が首を傾げる。

顔、身体、動作や仕草は完璧なまでに士道の知る十香である。混乱しそうになる士道を令音が、揺さぶっていると良いと、アドバイスを受け、十香に話しかけようとしたその時ーーーー。

 

「あぁ~ら、シド君に十香ちゃん! やっふ~!」

 

「デートですかな? お熱いですね~!」

 

と、駅の近くに到着すると、そこに現れたのは『はんぐり~』のワゴン車と、店長と店員だった。

どうやら今日は駅近くで店を構えているようだ。

 

「2人共! 今日のオスペドーナッツ。食べていって!」

 

「う~ん。十香、少し早いけどお昼にするか?・・・・十香?」

 

「まあ・・・・構わぬが」

 

十香の様子がおかしい。

食べ物が大好きな十香にとって、きな粉パンと双璧を成す『十香の大好物な食べ物ランキング』でトップに輝く『はんぐり~』のドーナッツを前にして、難しげな顔を浮かべたのだ。

2人は椅子に座ると、店長が注文を聞く。

 

「それじゃ、シド君は・・・・」

 

「俺はブレーンシュガーを3個」

 

いつも通りの注文に、店長は頬を膨らませる。

 

「もう! それで十香ちゃんは、いつものようにオスペドーナッツと各種ドーナッツを3個ずつで・・・・」

 

「いや、店長殿・・・・。私もシドーと同じのモノを・・・・3個だけで良い」

 

「「「えっ・・・・??」」」

 

《『えっ・・・・??』》

 

十香の放った言葉に、一瞬意味が分からず、

 

「十香・・・・? お前、それで足りるのか?」

 

「ぬ・・・・うむ、足りるぞ。それだけあればお腹パンパンだ」

 

「・・・・・・・・・・・・ッ!!?」

 

士道が、いや士道だけでなく、店長と店員も、〈フラクシナス〉のクルー一同も、まるでこの世の終焉を見たような、戦慄した顔を浮かべた。

 

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