デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「「・・・・・・・・」」
時刻は午前11時31分。
天宮東公園のベンチに並んで座る五河兄妹。平日ゆえに、子供連れの主婦達や、散歩に訪れた老人達ばかり。
そんな中、公園のベンチに黙って腰掛け、膝に肘を突き背を丸める士道と、足を組み身体を背もたれに預ける琴里を、時折お母様方がチラチラと視線が送られるが、2人はそんな視線に構う余裕は無かった。
何故ならばーーーー今朝、夕弦が忽然と姿を消してしまったのだ。
と、不意に琴里が声を発する。
「・・・・ねえ。何か喋りなさいよ。・・・・一応デートでしょ、これ」
「あ、ああ・・・・そうだな」
士道は気を取り直すように頬を張った。
そう。2人は今、少し時間は遅れたものの、当初の予定通りデートに来ているのだ。ーーーーそれくらいしか、今自分達にできる事がなかったのだ。
「あー・・・・っと・・・・」
だが、気の利いた事を言おうとしても、すぐに言葉に出なかった。琴里が焦れたようにため息を吐く。
「上の空って感じね。・・・・ま、無理もないけど」
「・・・・悪い」
士道は頭をクシャクシャとかき、焦燥感と無力感を吐息として吐き出した。・・・・勿論、そんな事で晴れるとは思っていない。先ほど〈フラクシナス〉で見た映像を思い返すとーーーー。
~時間は午前10時頃~
令音が五河家にやって来て〈フラクシナス〉へと向かった。失踪した夕弦に関する情報を持ってきてくれのだ。
耶倶矢は十香と四糸乃と共に、精霊マンションの一室で待機して貰っていた。
耶倶矢曰く、夕弦は昨晩外から帰って来た夕弦を見た。因みに八舞姉妹は同じ部屋に住んでいる。疲れていたようなので会話はあまりしなかったが、入浴もして、ベッドに入っていたのも確認した。
つまりーーーー夕弦が消えたのは、夜から朝にかけての数時間の間と言う事だ。
【・・・・これを見てくれ】
言って、令音はテーブルの上に端末を展開させ、小さなモニタにマンションの一室、八舞姉妹が住んでいる部屋の寝室の映像が表示された。
部屋の奥にベッドが2つ並び、それぞれに八舞姉妹が眠っていた。
【こんなもの撮っていたんですか?】
【・・・・ああ。八舞姉妹の部屋だけではない。七罪が化けている可能性のある容疑者全員の部屋に、自立カメラを飛ばしてある。もしかしたら、だれも見ていない処でなら、何か尻尾を出すのではないかと思ってね】
こんな状況でなければ余裕で警察に訴えられても文句が言えない。
が、令音は平静に端末を操作すると、画面に映し出されている八舞姉妹の映像が、数倍速で再生され始めた。部屋に設置された時計の針がクルクルと動き、それに伴って2人の寝相も目まぐるしく変わっていく。
髪を下ろし、瓜二つの容姿だが、寝相が悪くイビキをかいているのが耶倶矢。寝相が良く小さな寝息を立てているのが夕弦であると、容易に確認できる。
【・・・・そろそろだ】
令音が手元のキーを押し、再生速度を通常にした。時計の針が0時を刺したその時ーーーー。
【な・・・・】
【何よ、これ・・・・】
2つの声が重なる時ーーーー。
映し出された八舞姉妹の寝室。その中央がグワン、と歪み、虚空から1本の箒のようなものが姿を現した。
【あれはーーーー〈贋造魔女<ハニエル>〉・・・・?】
そう、七罪の天使〈贋造魔女<ハニエル>〉であった。
〈贋造魔女<ハニエル>〉がゆっくりとその先端を展開すると、鏡面のような内部を晒し、その鏡がキラッと輝いたかと思うと。
ベッドの上で眠っている夕弦の身体が淡く輝き、その鏡の中に吸い込まれていった。
【・・・・! 夕弦!?】
夕弦を吸い込んだ天使は、ゆっくりと先端を閉じ、虚空へと溶け消えた。
【・・・・見ての通りだ。夕弦は、七罪の天使〈贋造魔女<ハニエル>〉によって拐われてしまった。恐らく、七罪が化けた本物の『誰か』も、同じ方法で消されたのだろう】
【ゆ、夕弦は無事何ですか・・・・!? それに、七罪に化けられた『誰か』も・・・・】
【・・・・無事だと思いたいが、現状では何とも言えないな】
士道が言うが、令音は難しげに目を伏せ、静かな声でそう言う。士道は頭の中で渦巻く焦燥や怒りを何処にぶつければ良いのか分からず、頭をガリガリとかきむしる。
【俺は、一体、どうしたら・・・・!】
【・・・・君にできる事は1つ。一刻も早く、容疑者の中から七罪を見つけ出す事だ】
【そう言う事よ】
令音の言葉に会わせ、舐めていたチュッパチャプスを口から取り出した琴里は、その棒を士道にビッと向け、キッと視線を鋭させーーーー。
【猶予は無いわ。ーーーー私達の戦争<デート>を、始めましょう】
お決まりの台詞を言った。
~現在~
なんて事が起こった事を思い返した士道に、隣に座っていた琴里がその場で立ち上がり、数歩歩いて、士道の視界に仁王立ちする。
「琴里・・・・?」
「とうっ!」
士道が顔を上げると、その脳天目掛けて、琴里の鋭いチョップが飛んできた。
「いてっ! な、何すんだよ!」
「シケた顔晒してんじゃないわよ。ドラゴンが起きてたらこれ以上の渇が入っているところよ。ウジウジと悩んで立ち止まっていれば、夕弦が帰ってくると思っている訳?」
「そ、そんな事・・・・いや、お前の言う通りだ、琴里。こんな事してたら、本当にドラゴンにシバき倒されているな」
士道が思い直してそう言うと、琴里はフンと鼻を鳴らしながら、咥えていたチュッパチャプスの棒をピンと立てた。
「分かれば良いのよ。悩んでいるだけじゃ何も解決しないわ。ーーーーこっちに断りもなく、かってにルールが追加されてしまった今となっては、尚更にね。いえ・・・・“追加された”、というより、“詳細が明かされた”、と言った方が適当ね」
夕弦に起きた現象こそ、このゲームのルールが詳細に明かされた。その事に琴里が忌々しげに眉を歪める。
「『誰も、いなくなる前に』・・・・カードに記されてた最後の文って、やっぱりこの事なんだろうな」
「でしょうね。ーーーーここからは私の予想だけど・・・・恐らく1日が経過する毎に1人、容疑者が〈贋造魔女<ハニエル>〉によって消されていくんじゃなかしら。そして、七罪が化けた『誰か』を除く容疑者11名全員が消えてしまったら、七罪の勝ち。それまでに七罪を探し出す事ができたら、士道の勝ち」
指を1本立てながら、琴里が七罪の寄越したカードを文面通りに捉えた考えを並べた。
「・・・・俺は本当に、七罪を見つけられるのかな」
「泣き言なんか聞きたかないね。何とかしな。ドラゴンと言う頭脳役がいないからって弱音を吐いても仕方ないわ。夕弦が消えた事によって、私を含めて容疑者は後11人。後10日の猶予しかないのよ」
「ああ・・・・そう、だな」
海賊のおばさん船長のような琴里の言葉に、士道は大きく頷いた。
そして、あと30分しか琴里とのデートの時間がないので、琴里を調査する為に、手っ取り早くーーーー琴里の真っ赤な美しい髪を括っている黒いリボンを奪い去った。
「ふ・・・・ふぇーーーーっ!? う、うわぁぁぁぁぁっ!? お、おにーちゃん! 何するのー! 返して! 返してったらー!」
これによって『強い自分』の司令官モードから、無邪気で可愛い妹モードへとマインドセットをしているのだ。
突然の士道の行動に、涙目になり、やがて琴里は顔をクシャクシャにし、ずずっと鼻を啜る。
士道がリボンを返すと、アクセルフォームかクロックアップのような超加速でリボンをひったくり、元の髪型に戻した。
ーーーーユラリ・・・・っ、と顔をあげると、背中に琴里の精霊としての識別名称と同じ名前の冥府の神と、冷笑を浮かべる蛇の冥府の神の他に、荒ぶる竜の冥府の神が、まるで精神エネルギーの偶像のように現れた。
「士道・・・・あなたねぇ・・・・」
「い、いやー! 良かった良かった。こ、琴里は本物みたいだなー」
今のはあくまで真贋を確かめる手段だった、と言う事を強調するように声を張るが、琴里は右拳を眼前に出すと、その手の甲に、トランプのハートの紋章が浮かび上がったように見えた。
琴里のその手が真っ赤に燃える! 士道を殺せと轟き叫ぶ!!
「こ、琴里? 落ち着いてーーーー」
「問答無用ォォォォォッッ!!」
琴里の、爆熱する神の右ストレートが、士道の顔面に突き刺さった。
◇
「・・・・士道。何だ御主、その顔は・・・・」
琴里とのデートを終え、次に向かうと、待っていた耶倶矢が士道の顔を見るなり怪訝そうに眉をひそめる。
今士道の顔は琴里の無慈悲な必殺技を受けて、頬を真っ赤に腫らし、吹き出した鼻血を止めるために丸めたティッシュを詰めていた。・・・・デートに臨む顔ではないが、大半は士道の自業自得である。
「いや・・・・ちょっと来がけにコロニー格闘技の覇者に襲われてな」
「そ、そうか・・・・」
明らかに信じていない顔の耶倶矢だが、何となく事情を察してくれたのか、それ以上は追及してこなかった。
因みに今の耶倶矢の格好は、英字に十字架、髑髏等の意匠が散りばめられたシャツに、チェーンやベルトが付いたボトムス、左手の薬指には『テンペストリング』を嵌めた、所謂ゴシックパンクスタイルと言う、ビジュアル系バンドのような格好だった。
何でも、封印され、マンションに住むようになってから、令音に連れられて日用品と服を買いに行った際、一目惚れして即購入を決めたらしい。その時ドラゴンが苦笑いを浮かべたような口調で、似合っていると褒めたそうだ。
「ふん・・・・しかしそれにしても、朝の一件は驚いたぞ。検査ならば検査と前もって申しておくのが筋だろうに」
と、無駄に格好いいぜポーズを取って、フッ、と前髪をかき上げる耶倶矢。今朝目に涙を浮かべて焦っていた面影はなかった。
あの後、令音が「夕弦は検査の為、一時的に〈ラタトスク〉の本部に行って貰っている」、と説明したからだ。
中々に苦しい言い訳ではあるが・・・・どうやら信じてくれていたらしい。
【≪とことん見る目が無い愚か者だな貴様は・・・・≫】
「っ!」
一瞬、ドラゴンの罵倒が脳裏に浮かんだ士道。が、耶倶矢の不満そうな声に意識が向いた。
「おい聞いておるのか士道。我が言葉を聞き漏らすは犢神ぞ。そのような不心得者は全身を業火に灼かれ、深淵に堕ちると知れ」
「ああ・・・・悪い悪い。今後気をつけて貰うように言っておくよ」
「応。そうするがよいぞ。ーーーーして、夕弦の検査とやらは一体いつまでかかるのだ?」
「え? あ、あー・・・・本部って話だからな、多分10日くらいは・・・・」
七罪が指定したタイムリミットの事を告げた。
「・・・・ふーん」
士道の返答に、耶倶矢はつまらなさそうに顔を歪めると、小さな声でそう言い、すぐに咳払いをすると、またもキメ角度で士道に視線を向け、デート場所として〈ラタトスク〉が指定した、天宮駅から徒歩15分のボウリング場へと向かった。
元々勝負事が大好きな八舞姉妹にとっても、耶倶矢の寂しさを紛らわせる為にも、ここはうってつけだ。
カウンターでシューズとボールを借り、指定されたレーンに行く途中、耶倶矢は販売コーナーに置かれた、『ボウリング プロテクター』に目をキラキラと輝かせた。
仕方なく士道が購入してプレゼントすると、耶倶矢は興奮気味に頬を紅潮させ、素早く利き手にプロテクターを装着して、『煉獄手甲<フエーゲフオイア・ガントレット>』と名付け、士道と『負けた方は勝った方の言う事を1つ聞く』、と言うルールでボウリング勝負を始めた。
◇
ーーーーそして1時間後。ボウリング勝負の結果だが、当然と言えるのか、既に夕弦との勝負で切磋琢磨してきた耶倶矢の絶技に士道が惨敗した。
「くく、我の勝ちのようだな! まあ、よく戦ったと誉めてつかわそう!」
「・・・・光栄だよ」
降参を示すように両手をあげた士道に、耶倶矢は満足気に頷き、不敵に笑みを浮かべて腕組みをする。
「さぁて、忘れてはおらぬだろうな。我らが聖戦の前に交わした契約を!」
「ちゃんと覚えているよ。・・・・んで? 一体何をさせようって言うんだ?」
士道が言うと、耶倶矢はふっと真顔になり、辺りの様子をキョロキョロと窺い始める。
「ん? どうした?」
「・・・・ここは地脈の関係で『氣』の流れが悪い。場所を移すぞ」
言って、耶倶矢が士道の手を取り、そのまま建物の奥の方へとノシノシと歩いていく。
「お、おい、どこ行くんだよ」
「良いから黙って着いて来ぬか。ーーーーと、丁度良い。あそこにするか」
と、自動販売機が並ぶ休憩スペースの最奥に行き、自動販売機の陰になっているベンチを指差し、そこに士道も一緒に腰かけた。
耶倶矢は、先ほどと打って変わって真面目な顔になり、静かに唇を動かした。
「・・・・では、御主に命ずるぞ。心して聞くがよい」
「な、なんだ・・・・?」
「ーーーー今から10分間、我がナニをしても決して驚かない、狼狽えない、そして一切拒まないと誓え。そして、その間起きた事を、決して誰にも口外せぬと誓え」
「え・・・・?」
「誓えっ!」
「わ、分かったよ・・・・」
「よし」
耶倶矢の鬼気迫る迫力に、士道は思わず頷いた。それに小さく首肯し、耶倶矢は暫くの間何も喋らずーーーー不意に上体を横に倒したかと思うと、士道の腿に頭を乗せた。
「・・・・っ!?」
突然の行動に声を発しそうになるが、約束があるので、すんでのところで堪えた。
「くく、中々に寝心地が良いではないか。叔」御主が泣いて頼むのであれば、我選任枕として雇ってやらぬ事もないぞ?」
「お、お前なあ・・・・」
「ほう? 敗者が我に逆らうつもりか?」
「ぐ・・・・」
悔しそうに眉をひそめる士道を見て、耶倶矢はカラカラと笑う。
「かか、愉快愉快。どれ、ついでに頭でも撫でて貰おうか」
「・・・・仰せのままに」
士道は諦めたように息を吐くと、耶倶矢の頭を撫で、そのまま手櫛で耶倶矢のオレンジ色の髪をすいてやった。耶倶矢はくすぐったそうに頬を緩め、身を捩る。
「がーっ!」
そして何を思ったのか、耶倶矢がゴロンと身体の向きをうつ伏せに変え、両手を士道に回してギュウと力を込めた。
「ちょ・・・・」
「・・・・狼狽えるなと言っておろうに」
「う・・・・」
士道は頭の中だけで静かに混乱していると、耶倶矢は暫しの間その姿勢のままで動かなくなった。
「か、耶倶矢・・・・?」
と、どれくらいの時間が経った頃にーーーー。
「・・・・っぅ、ぅぁ・・・・っ」
耶倶矢の、啜り泣く声が漏れた。
「耶、倶矢・・・・?」
「・・・・っく、ぅ、ぅ、・・・・っ、・・・・・・・・夕弦・・・・、ゆづる・・・・っ」
そして。耶倶矢の嗚咽に混じって聞こえた小さな名に、士道はハッと息を呑んだ。
「耶倶矢、お前、夕弦の事をーーーー」
士道が言おうとするが、耶倶矢はズズッと鼻を啜ってから震える声を発する。
「・・・・夕弦、見つかってないんでしょ。・・・・そんくらい分かるし。馬鹿にすんなし」
「そ、それはーーーー」
「でも・・・・私は、それを知らない方が良いんでしょ、・・・・なら、信じる。あの時、私と夕弦に、3つ目の選択肢をくれたのは、希望になってくれたのは、士道だから・・・・」
耶倶矢が、『テンペストリング』を撫でながら言った。
「耶倶矢・・・・」
「だから・・・・お願い。夕弦を・・・・夕弦、をーーーー」
「・・・・・・・・ああ。俺が、お前達2人の、最後の希望だ・・・・!」
士道は奥歯をグッと噛みしめてそう言い、耶倶矢の頭に優しく手を置いた。
ーーーーそれから10分後。
最初の宣言通り、耶倶矢は丁度時間通りにピタリと泣き止み、自動販売機の陰から出てくる時には、先ほどの、と言うよりも、いつものテンションに戻っていた。
「偉いな」
「・・・・うるさいし」
驚くべき自制心である。
士道が頭を撫でながら言うと、耶倶矢は頬を赤く染めながら答えた。
◇
ボウリングを終えて耶倶矢をマンションに送り届けると、見計らったように令音からの通信が入った。
《・・・・ん、ご苦労だったね、シン》
「いえ・・・・それより、令音さん」
《・・・・ああ、さっそくで悪いが、時間がない。次のデートに取りかかってもらうよ》
「分かってます。絶対に・・・・七罪を見つけ出して見せます。そして夕弦を、耶倶矢の元に帰してみせます」
耶倶矢とのデートで、八舞姉妹の絆の大切さを理解し、漸く決意が固まった士道。
だが、次の相手の名前を聞いて、気が削がれそうになった。
《・・・・次のデートの相手は、君のクラスの“山吹亜衣”だ》
「・・・・うおお・・・・!」
士道は額を押さえてうめき声を上げた。
◇
「・・・・つ、疲れた・・・・」
その日の夜。全てのデートを終えた士道は、リビングのソファにうつ伏せになった。
デートは予想通りと言うのか、山吹亜衣の他に、葉桜麻衣と藤袴美衣の亜衣麻衣美衣トリオが揃っており、デートと言うよりも、三人娘の終わらない士道へのディスりマシンガントークに付き合わされ、辺りが真っ暗になった頃に漸く解放されたのだ。
一応話の合間に探りを入れたが、その頃には士道の肉体と精神は疲弊していた。
琴里が用意してくれていた夕食を食べて風呂にも浸かったが、まだ疲労は消えなかった。
流石に琴里も、亜衣麻衣美衣トリオの会話記録を聞いていたので、士道への小言は抜きにした。
明日には容疑者全員の調査が終了する。が、それは今日の夜にまた1人消えると言う事だ。2人はそれが気になり寝付けず、リビングに集まっていた。
とーーーーその時。
時計が12時を指した瞬間、五河家のリビングの中心にあたる空間が、グワンッと歪んだ。
そしてそこから、〈贋造魔女<ハニエル>〉が姿を現す。
「な・・・・ッ!?」
士道は天使の出現に驚き、容疑者の1人である琴里が狙われていると考え、琴里を守るように天使の前に立ちはだかる。それに合わせ、〈贋造魔女<ハニエル>〉の先端部がゆっくりと開き、鏡のような内側を晒した。
「! 士道!? 危険よ! 退いて!」
が、〈贋造魔女<ハニエル>〉は琴里を吸い込もうとせず、その代わり。
《ーーーーふふっ》
天使の鏡の部分に、七罪の顔が映っていた。
「七罪・・・・ッ!?」
《はぁい。久しぶりね、士道くん。プレゼントがあるの》
七罪は気安い調子で唇の端をあげ、ヒラヒラと手を振ってそう言った。
「プレゼント?」
首を傾げる士道の目の前に、3つのぬいぐるみが落ちてきて、足元に転がる。それを見た瞬間ーーーー士道と琴里の顔が驚愕に染まった。
「ガルーダ!? ユニコーン!? クラーケン!?」
何と、そのぬいぐるみは、プラモンスター達だった。
《私の周りを嗅ぎ回っていたから、少し退場してもらったのよ》
七罪の天使の能力で、ぬいぐるみに変えられてしまっていたのだ。琴里がぬいぐるみされたガルーダ達を抱き抱える。
「やってくれるわね・・・・!」
《そんな恐い顔しないで。はいじゃ改めて、ゲーム2日目終了よ。楽しんでもらえたかしら?》
首を傾げる七罪に、士道はギリッと奥歯を噛んだ。
「・・・・一体どういうつもりだ。夕弦をーーーーどこにやったんだ?」
《ふふっ、それは、ヒ・ミ・ツ。キチンと私を当てる事ができたら返してあげるわ。でも、もし最後まで私を当てる事が出来なかったらーーーーその時は、彼女の『存在』は私の物よ》
「『存在』・・・・?」
《ええ。このゲームに私が勝利した場合、きえた容疑者はもう戻らないわ。その代わり、私がその顔で、声で、姿で、そちらの世界を楽しんであげる》
「・・・・!」
悠然と答える七罪の言葉を、士道は息を呑んだ。つまり七罪は、本物の夕弦に、そしてこれから消えるだろう誰かに、完全に成り代わるのである。
「・・・・ふざけるな。そうは、させない・・・・っ!」
《なら方法は簡単よ。私を、当ててご覧なさい。ーーーーさあ、一体誰が私だと思う? 回答時間は・・・・そうね、1分もあれば十分かしら》
士道目を鋭くして言うと、七罪はさも可笑しそうに笑いながら言い、士道と琴里はハッと目を見合わせた。
「回答・・・・!? 今か!?」
「どうやらそのようね・・・・」
琴里が忌々しげに睨むが、七罪は肩を竦めながら笑った。
《ふふっ、だって、士道くんったら焦れったいんだもの。1日目は結局誰も指定してくれなかったし。だから少し私がナビゲートしてあげなきゃ・・・・って思ったの》
「・・・・ふん、よく言うわ」
琴里がフンと鼻を鳴らすが、士道に視線を向けた。
「どうなの、士道」
士道は数瞬の間考え、琴里が抱えたプラモンスター達を見て、もしかしたらと思い、七罪に向き直り、口を開く。
「ーーーー七罪。お前が化けているのは・・・・四糸乃だ」
「四糸乃?」
疑問に思う琴里に、士道は七罪に視線を向けたまま補足する。
「・・・・ああ、昨日、今日と調べた中に限って言うなら、殿町の所に行く時ーーーーガルーダ達が俺に何かを伝えようとしていた。あれはもしかしたら、ガルーダ達が四糸乃に違和感を感じたから、それを伝えようとしたのかもしれないし、四糸乃が1番、らしくない行動があったと思うからだ」
士道の回答に、琴里はガルーダ達を見て思考する。
『ファントム』が現れない時は、四糸乃の遊び相手をしているガルーダ達なら、四糸乃の違和感をいち早く感じ、七罪もそれに気付かれたと思ったから、ガルーダ達をぬいぐるみにしたのでは、と考えたのだ。
《ふうん・・・・》
七罪は士道の回答を聞くと、それだけ言って、パチンと指を鳴らす。
すると、〈贋造魔女<ハニエル>〉の先端が閉じ、箒に戻ると虚空に消えていった。
「・・・・消えた!? どういう事? 士道の回答は当たっていたの? それともーーーー」
琴里が怪訝そうに眉を寄せた。しかし、それに答えられる者は、誰もいなかった。
ーーーーそして、その日の夜。
“2人”の少女が、自宅のベッドから忽然と姿を消したーーーー。