デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー十香sideー
「ぬ? ここは・・・・一体・・・・」
十香が目を開き、瞬かせる。確か、自分は夜遅く帰って来た士道を出迎えた後、ベットの中できな粉パンの抱き枕を抱き締めて眠った筈。それがなぜこんな場所にいるのか? 十香が首を傾げていると、
「夕弦! 夕弦!」
近くにいた耶俱矢が、ぐったりとしている夕弦の元に駆け寄り、夕弦の身体を揺すった。すると、数瞬の間の後、夕弦が小さく咳き込んだ
「朦朧。耶俱・・・・矢。相変わらず・・・・騒々しいです」
「! 夕弦・・・・っ!」
涙で顔をグチャグチャにした耶俱矢か、夕弦に抱きついた。暫しキョトンとした夕弦だが、すぐに耶俱矢を抱き返した。
周りを見ると、輪島のおっちゃんやタマちゃん先生や・・・・確か士道の友達の殿町、亜衣麻衣美衣などが気絶していた。
ガルーダ達『プラモンスター』達に起こされた四糸乃と、何故かいる鳶一折紙も起き上がっていた。
「十香。無事で何よりだわ」
「おお琴里!」
『長く休んでしまったな、おはようだ〈プリンセス〉』
「っ! おおドラゴン! 起きたのだな! おはようなのだ!」
十香の肩に乗るくらいの大きさになったドラゴンの思念体に、十香は元気良く返事した。
そして、ドラゴンがいるならば、士道を探しているとーーーー。
何故か、士道の輪郭があるーーーー“モザイクの固まりが床に横たわっていた”。
「・・・・ドラゴン、あれはシドーなのか?」
『”だった物体“だ。安心しろ、ゴキブリ並にしぶといヤツだからな。すぐに元に戻る』
「そうなのか?」
「・・・・・・・・」
ドラゴンの言葉に、十香が首を傾げ、琴里がソッと目をそらした。
遡ること、十香が目を覚ます1分程前ーーーー。
* * *
【この能無し! 抜け作! 役立たず! 今の今までその曇ったビー玉のような目玉で何を見ていたっ!?】
【ぐぁああああああああああああっ!!】
【貴様がさっさと〈ハーミット〉の相棒の違和感や! プラモンスター達のメッセージを察していれば! こんなくだらん遊戯など1日目! もしくは2日目! 最低でも3日目くらいには攻略できたのだ! それをクズグズグズグズグズグズと、5日間も使って愚答ばかりしおって! 精霊達まで巻き込むような失態の連続をやらかしおって! と言うよりも貴様! 〈ハーミット〉の相棒の事を忘れておったなっ!! この愚図! 愚鈍! 愚慮! 愚劣! 愚挙! 愚人! 愚物! 愚民! この世の全ての愚を煮詰めて固めた恥知らずの生物ヒエラルキー最底辺生命体めがっっ!!!!!】
【ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!】
十香達の無事な姿を確認し、琴里が持ってきていたぬいぐるみにされたガルーダ達が元に戻るのを見るや否や、ドラゴンはいつもの尻尾ド突き(威力激強)を士道の脳天から両頬にマシンガンのように炸裂させ、士道もこんな状態になっていた。
* * *
「うっ、うぅっ、俺だって、俺だって一生懸命やってたのに・・・・!!」
『一生懸命『努力』しててもな、それが『結果』に結び付かなければ『無駄』になるのだ。今回は運良く『結果 』を出せたが、最悪の結果になっていた可能性も十二分にあったのだ。少しは思考とかを柔軟に働かせれんのか? 大体貴様よりも、今日初めて事態を知ったあの輪島<中年>が先に気づいたとか、どれだけ貴様は無知蒙昧なのだ!』
「ぐぅううううううううう・・・・!!!」
久しぶりに聞く暴言と毒舌と罵倒の連続に、士道はもう半泣きになっていた。
「いや~、もう、何て言うか・・・・」
「ド、ドラゴンさん、起きたんですね・・・・」
『そして早速士道くんにお仕置きだね~☆』
「ハニーはだーりんにはとことん厳しいですからねぇ」
「でもさ、何かドラゴンが帰って来たって気持ちになるし」
「安堵。やはり士道にはドラゴンと言う保護者ーーーーと言うよりも飼い主が必要ですね」
「うむ! やはりシドーとドラゴンはああでなければな!」
「・・・・・・・・・・・・」
精霊達は士道とドラゴンのやり取りに、奇妙な安心感を感じ、折紙は今日初めて見る、士道の体内にいるドラゴンを若干目を鋭くして睨んでいた。
「・・・・・・・・はぁぁぁぁ」
ドラゴンの言葉の暴力で、心身共に疲弊したが、士道は大きな大きなため息を吐いて、とりあえず皆が無事助けられた事に安堵する。
「シドー!」
と、そこで十香が自分の元に駆け寄ってきた。
「大丈夫か? それにここはどこなのだ?」
「・・・・・・・・おう」
精神がボロボロになった今の士道に、十香の疑問に事細かく答えてやれる余力は残っていない。ただ力なく微笑み、その頭を撫でてやった。
「ぬ・・・・っ、どうしたのだシドー。・・・・むー・・・・」
十香は最初怪訝そうな顔をしていたが、やがて気持ち良さそうに喉を鳴らし始めた。
何だか楽しくなってしまい、士道は口元を弛緩させた。
『何をしておるのだこのムッツリスケベめが』
バシン!
「あで!」
『ほれ、お目当ての精霊はソコだ』
ニヤケそうになる士道に威力弱めの突っ込みを炸裂させたドラゴンが、琴里の肩に乗り、とあるシルエットを尻尾で指した。
「! あれは・・・・」
皆と同じように、1人の少女が、床に蹲っていた。ーーーー大きな魔女の帽子を被った少女が。
「七罪・・・・!」
『っ!!』
士道は身体を再度緊張させると、十香の手を借りながらその場を立ち、件の少女の元にゆっくりと歩いていく。
周りの皆も、士道の行く先に気づき、折紙、琴里、美九、八舞姉妹が七罪を取り囲むように移動する。
その際、琴里が、自分の肩に乗ったドラゴンの思念体に向かって、小さな声で話しかける。
「ドラゴン・・・・あなたの事だから、七罪が何であそこまで士道に敵意を向けていたのか、ある程度の推測が出来ているんじゃないの?」
『ふん。小僧の記憶をくまなく調べ、もう既に『答え』は出ておるわ』
琴里の質問に、ドラゴンは検討は付いていると言わんばかりに鼻で笑う。
「それで、何を七罪は見られたとおもったの? 説明して・・・・」
『ーーーー〈ウィッチ〉の天使の能力は、自分や他人、果ては物体や物質ですら別のモノに変身させてしまう能力。一見単純で地味に見えるが、単純だからこそ、非常に応用力に優れた天使だ。シンプル・イズ・ベストの能力とも言えるな』
「ええ・・・・それでつまり?」
『つまりな、何で貴様らは、あの大人の容姿がーーーー〈ウィッチ〉の本当の姿だと思ったのだ?』
「えっ?」
琴里がドラゴンの言葉に唖然となると、その一瞬の間に、士道が七罪に声を発した。
「ーーーー俺の勝ちだ。観念してもらうぞ、七罪」
「・・・・・・・・っ」
七罪はビクッと肩を揺らし、ゆっくりと顔をあげると、大きな帽子のツバに覆い隠されていた七罪の姿を見た瞬間ーーーー。
「・・・・え?」
士道は、場の緊張感を忘れて、間の抜けた声を発した。
理由は単純。今目の前にへたり込んでいる少女の姿が、自分の知る七罪とまるで違っていた。
「・・・・・・・・」
琴里や四糸乃のそんなに変わらない小柄な細身の体型。いかにも不健康そうな生白い肌。小さな身長がさらに小さく見える猫背。卑屈そうな眉と憂鬱そうに歪んだ双眸。自信に満ち溢れていた表情は見る影もなく。辛うじて双眸と髪の毛の色は、記憶にある七罪と同じだが、サラサラのロングヘアーではなく、手入れの行き届いてないワサッとした、こう言っては何だが、まるでモップのようなヘアスタイルだった。
あのセクシーな七罪とは似ても似つかない、小さな少女がソコにいた。
「お前・・・・七罪・・・・なのか?」
眉をひそめて言う士道に、七罪はハッとした様子でペタペタと自分の顔を触り、愕然とした表情を作る。
「あ、あ、ああああ・・・・ッ!?」
そして絶望に満ちたような声を上げ、帽子のツバを握って自分の姿を隠すように、さらに背中を丸める。
「これは・・・・一体・・・・」
『まだ察せんのかこのコウガイビル』
「つまりね、今まで私達が会っていたのは、〈贋造魔女<ハニエル>〉の力で変身した姿だったって訳よ」
「あ・・・・」
首を傾げる士道に、ドラゴンは呆れた声を発し、琴里が小さく鼻を鳴らすと、士道は、初めて七罪に会った時に言っていた「“この姿の私”」の意味が漸く分かり、ポンッと手を打った。
「ーーーーーーーーーーーーッ!」
すると七罪が、声にならない悲鳴を上げたかと思うと、帽子で自分の姿を隠したまま、右手を高く上げた。
「〈贋造魔女<ハニエル>〉・・・・っ!」
七罪の声に呼応し、割れていた鏡部分が自動修復された〈贋造魔女<ハニエル>〉が七罪の手に収まった。
そして次の瞬間、七罪の姿が発光したかと思うと、その姿が、大人のお姉さんの姿に変貌していた。
七罪は、この恨み、晴らさでおくべきか! と言わんばかりの憎々しげな目で士道を、そして周囲の皆を睨み付けると、重苦しい声を喉から発した。
「知った・・・・な、知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーッ!」
そして、怒り狂ったように身体を捩りながら、続ける。
「1度ならず2度までも・・・・私の秘密を見たな・・・・ッ! ゆ、ゆゆ許さない。絶対に許さない。全員、全員タダじゃ済まさないィィィィッ!!」
七罪は絶叫を上げると、手に握った〈贋造魔女<ハニエル>〉を掲げる。
「〈贋造魔女<ハニエル>〉ーーーー!!」
「な・・・・っ!?」
七罪が叫んだ瞬間、〈贋造魔女<ハニエル>〉の先端部が再び輝きーーーー部屋の中を目映い光で埋め尽くしていった。
「くーーーー」
士道は思わず目を閉じ、顔をしかめる。
が、その光はほんの数秒程度で収まり、すぐに目も慣れ、薄暗い室内に戻った。
だがーーーー。
「シドー! シドー!」
十香の声が、いつもより甲高く響いてくる。
「十ーーーー香・・・・?」
士道はそちらに目をやるとーーーー身体を硬直させた。
「シドー、なんだこれは? 身体が思うように動かんぞ・・・・!?」
言いながら、ダボダボのパジャマを引きずって、小学3年生くらいの外見になった十香が、手足をバタつかせる。
「な、な・・・・!(グギッ!) ながっ!?」
『呆けている場合ではない、こっちも見ろ!』
戸惑いがちの士道に、ドラゴンが首を無理矢理動かして辺りを見回せると、さらに異常な事態が起こっていた。
琴里が、四糸乃が、耶倶矢が、夕弦が、美九が、さらには折紙が、意識のない者を除いた精霊達+α全員が、十香と同じように幼くなっていたのである。
「これは・・・・一体・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・(パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ)』
「ふふ、ふふふふふふふふふふ・・・・っ」
士道が眉をひそめ、ドラゴンが士道の懐からスマホを取り出し、スマホのカメラで幼くなった精霊達をあらゆる角度で撮っていると、部屋の中央で〈贋造魔女<ハニエル>〉を掲げた七罪が、暗い笑い声が発した。
「良いザマだわ・・・・っ! あんた達みぃーんな、ずっとチンチクリンのチビスケのままでいれば良いのよ・・・・っ!」
七罪が高らかに笑うと、〈贋造魔女<ハニエル>〉に跨がり、部屋の天井に穴をあけ、空に飛んでいってしまった。
「まッ、待て! 七罪! 七罪ぃぃぃぃっ!」
士道が叫び声を上げるが、その甲高い声は、部屋の中に空しく反響するだけだった。
『・・・・まぁ、取り敢えず、良い機会だ』
そんな士道を無視してドラゴンはそう言うと、資料の紙を裏側の白紙の部分が上になるように、床に敷くと、部屋に置かれていた水性のマジックを持ち出し、床に座らせた十香の足の裏に塗りたくる。
「む、むふふ、な、何だドラゴン? くすぐったいぞ・・・・!」
肩を揺らしてくすぐったがる十香を無視して、ドラゴンは白紙の部分に、マジックを塗った足を押し付けた。
数瞬程時間を空けて足を離させると、見事に十香の足跡が残された。
『うむ。〈プリンセス〉の成長の足跡ができたな。次は〈ハーミット〉をーーーー』
「いや、お前は何やってんだよっ!?」
思わずツッコミを入れる士道だが、ドラゴンは気にする素振りなく、四糸乃の足にマジックを塗りたくろうとする。
『分からんのか? 精霊達の成長の足跡を後世に残して置かねばな』
「なんじゃそりゃっ!!?」
ドラゴンの言葉に、士道は身体の上体を反らして、ツッコむのだった。
ー『七罪サーチ』・FINー
ドラゴン、この状況をちょっと楽しんでます。
次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚。
七罪によって子供の姿に変えられてしまった精霊達と折紙。
『精霊達、目線をこちらに』
「お前は何写真を撮ってンだ!」
この状況を少し楽しんでいるドラゴン。
「本当の私の、姿なんて・・・・」
世界から存在を無視され、コンプレックスを肥大化させ、本当の姿を隠す七罪。
「教えてやるよーーーー女の子は天使なんて使わなくたって、『変身』できるんだって事をさ」
自分を否定し続ける精霊の魅力を引き出そうとする士道達。
「お久しぶりですねーーーー〈仮面ライダー〉!」
しかし、ソコで屈辱を晴らすため、『(元)最強の魔術師<ウィザード>』が士道の前に現れる。
「ーーーー変身」
[セット! オープン!]
そして天宮市の上空で、新たな姿となった魔術師と魔法使いの激戦が繰り広げられ、悪意が空から落ちてくる!
「私は、私は・・・・!」
「こんなに物、落とさせて堪るかぁぁぁぁっ!!」
第九章 『七罪チェンジ』
『全員の力を結集させろっ!!』