デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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コーデ&メイク・七罪

ー七罪sideー

 

さて七罪の軟禁生活だが、思いの外、七罪にとってはこの環境は最高だった。

朝起きれば美味しいご飯が自動で朝昼晩と配給され味わえるし、フカフカのベッド。綺麗なテーブルと椅子。テレビもついていて、生活するに必要な物が粗方揃い。さらにはオヤツも配給され、しかも七罪にとっては最重要な問題、人と関わらないで済む。ある意味では天国のような環境だ。

しかしーーーーいつまでもこの天国にいる訳にはいかない。

士道と琴里にどんな思惑があるか分からないが、自分にとっては不利益になる事は容易に想像できる。あんな嫌がらせをしてきた自分に復讐するのであろうと考え、もしや肥え太らせてから自分を食べるとつもりだから、美味しいご飯を食べさせたいるのであろうかと考える。

 

「そうはいかないんだから・・・・!」

 

朝食を食べるのを中断して、順調に治りつつある傷をさする。〈贋造魔女<ハニエル>〉を顕現させるくらいまで回復するには、あと数日といった所か。そうすればこんな部屋なんて簡単に脱出できる。

その後は隣界に逃げようと思ったが、世界間の移動には身体に負担がかかるしーーーー戻った瞬間、こちらの世界に引っ張られてしまう可能性もある為、できるだけ使いたくない手段だ。

確率は低いが、最悪、もしこちらに引っ張られた時に、あのエレンとか言う魔術師<ウィザード>に出くわしたら、今度こそ命はない。

今は兎に角、体力を付けて傷を癒す事を優先しようと、七罪は残る朝食を口に一気にかき込んだ。

すると、その瞬間。

 

ーーーーバタンっ!!

 

「え・・・・っ!?」

 

七罪がすっとんきょうな声を漏らした。いきなり部屋の扉が開いたかと思うと、何人もの人影がササッと部屋に入ってきて、七罪を包囲したのだ。

 

「え? ええ?」

 

慌てて周囲を見回すと、見知った顔ばかりであった。

偽善者の士道に愛くるしい容姿を持つ琴里。そして、七罪が容疑士候補に選んだ、恵まれた容姿を持ちながら鼻にかけない十香と、気弱そうな態度で男の気を引く四糸乃、七罪の嫌いなタイプの女ばかりだった。

だが、問題はソコではない。七罪を囲んだ全員が、何故か大きな麻袋やロープ等を手に携えていたのだ。

 

「な、何・・・・一体何事?」

 

四方を囲まれた七罪が狼狽に満ちた声を上げると、琴里がビッ! と七罪を指差してきた。

 

「確保ーっ!」

 

『おおーっ!!』

 

「なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

琴里の号令に合わせて、3人が一斉に動いた。

背後から麻袋をバサッと被され、視界が黒くなりさらに袋の上からロープでグルグルとす巻きにされた。

 

「んー! んんんんんーッ!?」

 

慌てもがくも、無駄無駄だった。完全に動きを封じられ、まるで波打ち際に打ち上げられたアザラシ宜しく、ビッタンビッタンと身体を捩る事しかできなかった。

そしてすぐにヒョイと、身体が持ち上げられ、何者かに担ぎ上げられる。

 

《それで、この後はどうするのだ?》

 

《ええ。そのままこっちに連れてきてちょうだい》

 

《うむ、分かったぞ!》

 

丈夫な布越しにそんな会話が聞こえた後、七罪を担いだ十香が移動を始める。

 

「(ーーーー何処かに連れていかれる!? まさか、袋から出されたらまな板の上・・・・!? もしくは、袋ごと煮えたぎった鍋に放り込むかもしれない!?)」

 

七罪は必死に抵抗するが、パワーならば精霊達の中でもトップクラスの十香はビクともせず、ユッサ、ユッサと振動が響いて、目的地に着々と近づいているのが七罪に伝わる。

それからどれくらいか経ち、暴れ続けて疲れた七罪は身体をグッタリと十香に預け始めた頃、不意に十香が足を止め、七罪をその場にゆっくりと下ろし、ロープを解き、麻袋が外される。暗闇に慣れていた七罪の目に、柔らかい光が飛び込んできた。

 

「う・・・・」

 

手で顔に影を作り、目が慣れるのを待ちーーーー七罪は、目の前に立つ存在を見て、顔をひくつかせた。

 

「いいっ!?」

 

『よぉ〈ウィッチ〉』

 

士道と同じくらいの大きさをした、『魔獣ファントム』のウィザードラゴン(思念体)がいた。

 

「(まさかアイツら、私をこの魔獣に食べさせるつもり・・・・!?)」

 

そう考えた七罪の顔が一気に青くなる。

 

「ぎゃーっ! ぎゃーっ! わッ、私なんて食べたら、絶対にお腹壊すどころか胃が爛れてお腹が溶けるわよっ!!」

 

『ええい落ち着け!』

 

ポンッ!

 

「ふごっ!」

 

暴れる七罪の頭の上に尻尾で押さえて止めた。思念体でも、魔力を一箇所に集中すれば、物に触れるのだ。

 

『良く周りを見ろ』

 

ドラゴンはそう言って、七罪の顔を周りの光景を見せるように尻尾で器用に動かす。

 

「?・・・・な、何よ、ここ・・・・」

 

ソコに広がる光景を見て、七罪はポカンと口を開いた。

暖色系の光に照らされた部屋に、人1人が横になれるくらいのベッドが置いてあり、辺りには微かな花のような香りが漂っている。拍子抜けするくらい穏やかな空間だ。

 

「・・・・・・・・」

 

『ボウーッとしていられんぞ。ほれ、エステティシャンのお出ましだ』

 

「はぁーい、1日限定エステサロン、『サロン・ド・ミク』へようこそ!」

 

ベッドの傍らに看護師のような服を着た少女が小さく手を振って笑顔を向ける。

見知った顔。確か名はーーーー誘宵美九。豊満な我が儘おっぱいをこれ見よがしにぶら下げた、七罪の嫌いなタイプだ。・・・・それと何故か、この少女にはあんまり、と言うよりも、絶対に近づいてはいけないと、七罪の中で本能が警報を鳴り響かせていた。

 

「ちょ、ちょっと、何よこれ・・・・」

 

「何って、今美九が言っただろ。エステサロンだよ。お肌をケアするんだ」

 

「・・・・・・・・ッ!?」

 

士道の明確な返答に、七罪はさらには混乱した。

 

「ちょっと待って、意味わかんない。何でーーーー」

 

と、そこで七罪はハッと肩を揺らした。士道達の真の狙いに見当がついたのだ。

 

「は・・・・ははっ、成る程ね・・・・私にこんな事させて、勘違いブスの滑稽な姿を笑おうって訳? あっはは・・・・良い趣味してるわあんたら。私と同じくらい性根が腐って・・・・」

 

『黙れ』

 

「モゴっ?!」

 

「とうっ」

 

「あぶっ!」

 

七罪の言葉の途中で、ドラゴンが尻尾の先端で口を塞ぎ、琴里が脳天チョップをした。思わず頭を押さえて踞る。

 

「な、何すんのよぉ!」

 

「外見以上に、このネガティブさと被害妄想癖を何とかしないといけないわね。良いから、早く横になりなさい。予定が詰まってるんだから」

 

「嫌よ・・・・! 何で笑われるのが分かっているのにわざわざそんな事・・・・っ!」

 

「あなたねぇ・・・・」

 

『では1つ賭けをしないか〈ウィッチ〉』

 

琴里がため息を吐きながら頭をかくと、ドラゴンが七罪に話しかける。

 

「賭け?」

 

『我らは本日、思い付く限りの方法でソナタを『変身』させよう。其が成功すれば我らの勝ち。話し合いをちゃんとしてほしい。ーーーーが、何1つ変わっていないと思ったならば、我らの負けだ。ソナタの勝利の報酬はさしあって・・・・』

 

「お前の好きな場所に逃がしてやるってのはどうだ?」

 

「・・・・!」

 

「ちょっと、そこの魔法主従」

 

士道の言葉に、七罪は目を見開いた。ドラゴンもウンウンと頷くが、琴里は士道を肘で小突く。主従と呼んで、どっちが主でどっちが従者なのかは、士道の尊厳を尊重して言わないでおこう。

 

「良いじゃないか。他に手はないんだ。ーーーーどうだ、七罪。悪い話じゃないと思うんだが」

 

「・・・・・・・・」

 

七罪はドラゴンと士道の原を探るように視線を細めるが、こんな勝負は自分の勝ちだ。どんなに頑張っても、このみすぼらしい容姿を変えられる訳ない。口車に乗って笑い者になるのは癪だが、それで安全に逃げられるのであれば悪くない。

 

「・・・・分かった。それなら良いわ」

 

「そうか。ーーーーじゃあ、とりあえずここでは美九の指示にしたがってくれ」

 

「・・・・・・・・」

 

七罪は美九を一瞬見ると、何やら目の輝きが怪しく、手をワキワキさせており、本能的にとてつもなく身の危険を感じるが、仕方ない。

そして士道は、七罪に向かって口を開く。

 

「教えてやるよ、七罪」

 

「・・・・は? 何をよ」

 

「ーーーー女の子は天使なんて使わなくたって、『変身』ができるんだって事をさ」

 

「・・・・・・・・っ」

 

その物言いに無性に腹が立ち、プイッと顔を背ける七罪。

 

「ーーーーじゃあ、頼むぞ美九。・・・・ドラゴン。琴里。美九がオイタをしないように見張っていてくれよ」

 

『任せろ』

 

「しっかり見張っておくわ」

 

「あぁん! ダーリンとハニーと琴里さんのいけずぅ!」

 

「(オイタって何っ!?)」

 

外に出る士道がドラゴンにそう言うと、ドラゴンは爪で器用に親指を立て、琴里も親指を立てた。美九が文句を言うがお構い無し。

ドラゴンは美九の頭に乗るくらいの大きさになり、美九の頭に乗る。「ハニーが私の頭の上にっ!」と、何やら新しい世界の扉が開きかけているかのような恍惚とした貌となる美九 ホントにアイドルか? と疑ってしまう。

七罪は身の危険を感じて逃げ出したい気持ちになり、後ずさるが、背後に控えていた琴里がガッと肩を掴んで動けなくした。

 

「気持ちは分かるけど、観念しなさい」

 

「ちょ・・・・っ!」

 

「だいじょーぶですよー。痛くしませんからねぇー」

 

「きゃーっ! きゃーっ!」

 

七罪はジタバタと抵抗するが、鼻息荒くした美九に病衣を剥ぎ取られ、一糸纏わぬ姿にされると、ベッドにうつ伏せに寝転がされ、ドラゴンが棚にあった瓶の蓋を開けて中身の液体を美九の手にかけると、美九はその怪しい液体を七罪の背中に塗りたくり始めた。

 

「きゃぁぁぁぁっ! 何!? 何してるの!?」

 

「ほらほらぁ、暴れちゃ駄目ですってばぁ。最高級のアロマオイルですよぉ」

 

美九が指先をチロチロと動かしながら、七罪の肌を優しく撫でていく。

 

「あ・・・・っ、あふぅ・・・・っ」

 

今まで体験した事のない感覚に、七罪は自分の喉から変な声が漏れるのを聞いた。

 

「うふふ、気持ちいいでしょう? 流石にプロ級とはいきませんけど、結構得意なんですよねー。駄目ですよぉ? お肌はキチンとお手入れしなきゃ」

 

「そ、そんな事・・・・言われても・・・・」

 

「第一、あなたは自分に自信がないって言ってるらしいですけどぉ、何も努力しないでそんな事言われるのは納得いかないんですよねー。そりゃあ世の中には十香さんみたいなナチュラルボーンビューティーもいるわけですけどぉ、あなたが嫉妬してる世の女性達はみぃんな頑張って綺麗になろうとしてるんですからー」

 

『流石に芸能人が言うと含蓄があるな』

 

「だって・・・・私なんかが、何しても・・・・」

 

言いながら、七罪は意識に靄がかかっていくのをカンジダ。身体に疲労が溜まっていた為か、美九のマッサージが心地良すぎた為か、急に眠気が襲ってきたのである。

 

「わ、たし、は・・・・」

 

七罪はその言葉を最後に、スーっと眠りについた。

余談だが、眠った七罪の寝顔に美九が鼻息を荒くして、口の端から涎を垂らしながらイタズラしようとするが、ドラゴン(尻尾ド突き(威力激弱)と琴里(ハリセン)が止めたのは割愛する。

 

 

 

 

「ーーーーはいっ! 出来上がりですよー!」

 

「・・・・っ!」

 

美九の声によって、七罪はハッと目を覚ました。

いつの間にか仰向け(胸元にはバスタオル)に寝かされていた。何だか気恥ずかしい。

 

「どうですか? 感想は」

 

「え・・・・っと」

 

『ほれ』

 

ドラゴンが鏡を持って七罪の眼前に飛び、七罪の顔を見せた。

そして七罪はーーーー驚愕に目を見開く。

 

「! な、何、これ・・・・」

 

にわかに信じられなかった。自分のカッサカサの乾燥肌が、まるで赤ちゃんのような瑞々しい肌に変貌し、ツヤツヤと輝いていた。

美九が満面の笑みを浮かべる。

 

「うっふっふー。エステ初体験の人は皆驚くんですよねー。ま、勿論その状態がずっと続くわけじゃないですけど、やっぱり感動物ですよねー」

 

「すご・・・・えっ、これ・・・・ホントに私の手・・・・?」

 

「ええ、紛れもなく本物ですよー。うふふ、そこまでいいリアクションしてもらえると、次のお部屋が楽しみですねー」

 

「え・・・・?」

 

「さ、服着たら今度はこっちよ」

 

と、部屋の隅の椅子に座っていた琴里が立ち上がる。因みに十香と四糸乃は昨日の夕方まで八舞姉妹と『打倒ヘルキューレへのトレーニング』をしていた疲れからか、お互いにもたれ合うように寝ていた。

病衣を再び着ると、部屋の奥の扉が開き、次の部屋の

に進んだ。

 

「くくく、良く来たな。我ら八舞の領域<テリトリー>に」

 

「賞賛。その、伊達にあの世は見てねぇぜ! な度胸は褒めて上げます」

 

その部屋には、何やら格好いいポーズをした八舞姉妹が出迎えた。

スレンダーな耶俱矢とグラマラスな夕弦と言う隙のない布陣。やはり七罪の嫌いなタイプだ。

 

「こ、ここは・・・・」

 

七罪は目を見開きながら、部屋を見回す。そこはーーーー美容室だった。

 

「誘導。まずはこちらに来てください」

 

「わ・・・・っ」

 

夕弦が七罪の手を引き、七罪はそのまま部屋の奥秋吉台ある椅子に首から下を覆う大きなクロスをかけられるの椅子は倒され、仰向けにされた。

 

「な、何を・・・・」

 

「続行。すぐにわかります」

 

そう言うと夕弦は、手元のコックを捻り、七罪の頭にほどよい温度のお湯をかけてから、シャンプーを泡立て、七罪の長い髪を丁寧に洗い始めた。

 

「ぅ、ぁ・・・・」

 

人に頭を洗われると言う慣れない感覚に、七罪は小さく身じろぎする。

 

「くかかか! 夕弦のシャンプーは至極の快楽であろう!」

 

『確か第91試合でシャンプー合戦をして、〈テンペスト〉に1分も経たずに勝利したのだな?』

 

「微笑。はい。耶俱矢がくすぐったがりだったのもえりますが」

 

耶俱矢は高らかに笑い、その肩に乗ったドラゴンにそう言うと、夕弦は泡を流し、匂いの良いトリートメントで七罪の髪をコーティングしていく。あまりの心地良さに、七罪はまた眠りそうになる。

 

「交替。ーーーーさあ、ここからは耶俱矢のターンです」

 

と、トリートメントを終え、七罪の髪を拭き終わった夕弦が椅子を起こしながら言うと、耶俱矢が腰に差していた散髪用の鋏を抜き、器用にクルクルと回して両手に構えた。

 

「か、髪・・・・切るの?」

 

『安心しろ。〈テンペスト〉の腕は第92試合のヘアーカット対決で勝利したくらいだ』

 

「くくく! 任せるがよい!」

 

「・・・・ホントに何でも対決してるわよね、あなた達」

 

夕弦の肩に移動したドラゴンがそう言うと、脇で見ていた琴里が苦笑する。耶俱矢は「応!」と得意気に胸を反らし、七罪の背後に立つ。

 

「何、そう派手に斬り散らかすつもりはない。しかしーーーー毛先の痛みと重い髪の束! 貴様らだけは見逃せぬな! 我が鋏技・超帝双刃烈風陣<カイザー・シエーレ・ヴイント>によって花と散るが善い!」

 

叫ぶと、耶俱矢は鋏をチョキチョキと軽快に鳴らし、七罪のモップヘアを毛先を周囲に飛ばしていく。

数十分後には、枝毛だらけの髪が、驚くほどに綺麗に整えられていた。

 

「うそ・・・・すご」

 

「ふ・・・・まあ、このようなところか」

 

まるで決闘を終えたガンマんの如く、鋏の先にフッと息を吹き掛けると、クルクルと回してから腰元にしまい、ドライヤーと櫛でブローしていく。

 

「くく・・・・随分と癖の強い様子だが、手がない事はない。濡れ髪の内に仕留めてしまえば彼奴らが暴れる事もあるまいて」

 

「は、はあ・・・・」

 

七罪は頬に汗を垂らしながら頷くが、自負の通りの腕だった。いつもは寝癖だらけの髪が、信じられないくらいフワリと軽くなっている。心なしか、少し輝いているようにすら見える。

 

「くく、上出来だ。次なるエリアへと進むが善い」

 

「首肯。こちらです」

 

「ええと・・・・」

 

次なるエリアと言う言葉に、七罪は不安そうに眉をひそめるが、アトには引けない。後方から精霊達全員がついてきて、扉を開け、その向こうには、今までで1番広い空間だった。

発熱灯で照らされたフロア。至る所に綺麗に畳まれたりハンガーにかけられた衣服。ーーーー所謂セレクトショップやブティックと呼ばれる店に酷似していた。

 

「こ、ここは・・・・」

 

「ふふん。エステ、美容室ときたら、次は服選びに決まっているじゃない」

 

背後にいた琴里の言葉に、十香達がウンウンと頷いた。

 

「・・・・は、はぁ? ちょっと待って、私、そう言うのはあんまりーーーー」

 

が、七罪の言葉を聞かず、精霊達は思い思いの服を手に持って、ズズイッと迫っていた。

戸惑う七罪の耳に、飛んでいたドラゴンが耳打ちする。

 

『取り敢えず着てみろ。さもないとーーーーアレを着る羽目になるぞ』

 

ドラゴンが尻尾で差した方を見ると、チェーンとベルトが沢山付いた黒い服を持った耶俱矢。やたらとフリルが付いたお人形さんのようなドレスを持った美九がいた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

七罪は無言で十香と四糸乃、夕弦が持っている服を受け取り、そのままノシノシと更衣室に行き、勢いよくカーテンを閉めた。外では耶俱矢と美九が文句の声が聞こえるが無視する。

 

「くそっ、何よ、何なのよこれ・・・・」

 

ブツブツと文句を言い、陰鬱な気持ちで病衣を脱いで、ワンピースと上着を着て、帽子を被ると、ソロソロとカーテンを開けると、精霊達と、何故か一眼レフカメラを持つドラゴン、そして使い魔のプラモンスター達までいつの間にかおり、何やら撮影機材を持っていた。

そして全員の視線が七罪に注がれる。

 

「う・・・・」

 

喉の奥からせり上がってくる嘔吐感を抑えるように目をキュッと瞑り、奥歯を噛み締める。やがて精霊達の嘲笑めいた笑い声が・・・・。

 

「うむ! よいではないか」

 

「うーん、個人的にはもう少しシックな方が似合う気がするけど、どうかしら」

 

「あ・・・・こんなの、ですか?」

 

『ええー、もうちょっとダイタンにいこうよー。こんなのどーお?』

 

『良しお前達。すぐに撮影の準備だ。抜かるでないぞ』

 

『ピイッ!』

 

『ブルルッ!』

 

『キュッ!』

 

『ゴッ!』

 

ーーーー聞こえて、こなかった。

 

「・・・・・・・・へ?」

 

鼓膜を揺らした意外な声に、目を開く。するとそこには、楽しげな、或いは真剣な面持ちを向けてくる6人と一匹と、何やら撮影会を始めようとしている5体の姿があった。

 

「あの・・・・」

 

予想外過ぎる反応に戸惑う。すると琴里が、質の良さそうなブラウスとモノトーンのスカートを手渡してきた。

 

「さ、七罪。今度はこれを着てみて、これ。私はこっちの方が良いと思うのよね」

 

「え、えっと・・・・」

 

「ほら、早く」

 

ーーーーそれから3時間くらいの間、七罪は様々な服をかわルンルン! と着せられた。

さらに言うなら服だけではない。靴に帽子、様々なアクセサリーに、時計やオシャレな伊達眼鏡等の小物を付けさせられ、ついでに終盤ではポーズをさせられ、その度にドラゴンが一眼レフカメラでプロのカメラマン顔負けの動きと撮影で、七罪の姿を写真に収めていた。

気分は着せ替え人形か、さもなくばオンラインゲームのアバターだ。もう何が何だか分からない。皆が納得する服が選定された頃には、すっかり疲れはてる七罪。

 

「ーーーー良し!これなら問題無いでしょ」

 

「はい・・・・素敵です」

 

『ウンウン、いいんじゃないかなー』

 

「うむ! よいと思うぞ!」

 

『たっぷり写真も撮ったな』

 

「さ、じゃあ、いよいよ次が最後の部屋よ」

 

琴里が言うと、皆がピクリと眉を揺らし、ドラゴンはゲンナリとした顔になったように七罪には見えた。そのただならぬ様子に、思わず頬に汗が滲む。

 

「な、何・・・・?」

 

不安そうな顔になるが、八舞姉妹がクックッと愉快そうに笑う。

 

「くく、行けば分かる。さあ、こちらだ」

 

「首肯。そこで最強の刺客があなたを待っています」

 

『最強と言うよりも、最悪の存在だ』

 

「さ、最強・・・・!? 最悪・・・・!?」

 

不穏な言葉に、ゴクリと喉を鳴らす。正直、あまり先に進みたくない。

 

「ほーら、行きましょうねー」

 

「あ、ちょっと・・・・」

 

が、背を美九に押され、強引に次の扉を開けさせられた。

 

『最初に言っておく。かなりおぞましい物がソコにいる。好きなだけ貶し、罵り、侮蔑して構わんぞ』

 

ドラゴンの言葉が、七罪をさらに強ばらせる。そして、最後の部屋へと入っていった。

最後の部屋と呼称されたその部屋は、手狭な空間だった。部屋の真ん中に椅子がポツンと置いてありーーーーその横には1人の少女がこちらに背を向けて立っていた。見覚えのない後ろ姿。あれが八舞姉妹の言っていた『最強の刺客』なのだろうか。

七罪が緊張で喉を濡らすと、少女がゆっくりと振り向いてきた。

背に届く髪を四ツ葉のクローバー型の髪飾りで留め、どこか中性的な顔立ちの背の高い少女。

だが、何故だろうか、何となく自暴自棄と言うか、ヤケクソと言うか、物凄く無理をしている感じがした。良く見れば目の端に涙を滲ませてる。

 

『良くやるわ。あの下等生物め』

 

耳元で聞こえたドラゴンの言葉に首を傾げると、少女が口を開く。

 

「ーーーー良く来ましたね! ここが七罪変身計画、最後の部屋です!」

 

「な、何をするつもりよ・・・・!」

 

「・・・・ええい、こうなりゃヤケだ」

 

七罪の問いに小さな声でそう呟くと、フッと唇の端を上げ、バッと両手を前でクロスさせると、その指にリップグロスやアイライナー、コンシーラー等のメイク用品が挟み込まれていた。

 

「そ、それはーーーー」

 

「そう。私はメイクで、あなたを変身させて見せます!」

 

少女がリップグロスをビシッ! と、七罪に突きつける。その迫力に七罪は思わず1歩後ずさるが、すぐにブンブンバンバンと首を振る。

 

「な、何を言ってるのよ。そんなんで私が変われる訳・・・・」

 

『コレの正体を見てもそれが言えるか?』

 

「え?」

 

ドラゴンがパタパタと飛んで少女の首に貼られていた絆創膏のような物を肌を傷つけないように爪で器用に剥がした。

 

「俺が、男だとしても言えるかぁっ!?」

 

「は・・・・!? え・・・・? 何、どういう・・・・」

 

少女の喉から響いた男の声に、七罪は肩をビクッと震わせ、しばしの間困惑したが、すぐにあることに気づいた。

その声に、聞き覚えがあったのだ。

 

「ま、まさか・・・・あんた、士道・・・・!」

 

「ああ、そうだ!」

 

「へ、変態・・・・ッ!?」

 

『気色悪い』

 

「そんな趣味があったのッ!?」

 

『身の毛がよだつな』

 

「私はこんな変質者に成り変わろうとしていたのかぁッ!?」

 

『ある意味失敗して良かったな』

 

少女に士道の面影があり、士道が女装していたと認識すると、七罪はドラゴンと阿吽の呼吸で声を張り上げた。

 

「・・・・・・・・」

 

「おぉ~、傷ついてる傷ついてる」

 

「と、とにかくだ!」

 

琴里と美九がそう言ってくるが、崩れ折れかけた士道が気を取り直し、再び七罪に目を向ける。

 

「図らずも俺のメイク技術は、男を女と誤認させられるまで、レベルアップ! してしまった! 今の俺になら、お前に、自信を持たせる事ができる!」

 

「いや、そりゃ技術も上がったでしょうけど、ある程度は本人の素質ね」

 

「ですよねー。私最初はホントに女の子かと思ってましたしー」

 

またも琴里と美九が、ヒソヒソと会話を始め、士道がキッと視線を鋭くした。

 

「が、外野はちょっと黙ってろ! とにかく、勝負だ、七罪! 俺の全身全霊! 全力全開! 全技術ゼンカーイを以て、お前を『変身』させて見せる!」

 

「・・・・・・・・っ!」

 

七罪は顔を強ばらせーーーーしかしそれに対するように奥歯を噛んだ。

 

「・・・・いいわ。やって貰おうじゃない。でも、忘れないでよ。私が納得しなかったら、勝負はアンタの負けだからね!」

 

「ああ、分かってる。ーーーーさあ」

 

士道が礼をし、七罪を椅子に促す。その様はまるで、お姫様にかしずく従者のように。

七罪はそれに従って椅子に腰掛け、メイクアップした士道の顔を見た。

士道の特徴を残しながらも、愛らしい女の子に仕上がっている。見事としか言えない。

 

「(ーーーーもしかしたら、私も・・・・ )・・・・い、いや、いや・・・・」

 

『仕方あるまい・・・・コレを見ろ』

 

ふっと頭に過った想像を振り払うように首を振る。それを見てドラゴンが、近くに置かれていた士道のスマホを持って器用に操作すると、写真フォルダに保存されている“ある人物”が写し出された映像を見せた。

 

「えっーーーーうわぁああ!」

 

その映像を訝しそうに見た七罪は、声を張り上げてスマホを放り投げ、椅子からステーンっ! とひっくり返った。

 

「ど、どうした七罪!?」

 

「どうしましうきゃああああああああっ!!」

 

「美九っ!?」

 

美九は七罪が放り投げたスマホを受け止め、画面を見ると、今度は美九が悲鳴を上げて、スマホを放り投げると、白目を剥いてバターンッ! と倒れた。

 

「何々!? 一体何が映ってたの!?ーーーーうわぁ~・・・・」

 

今度は琴里がスマホをキャッチして、十香達も何だろうと、画面を見るとソコにはーーーー前に士道がせがまれて撮った、“『はんぐり~』の店長が画面いっぱいにダブルピースをした笑顔の写真が写っていた”。

 

「ぬ? 店長殿ではないか?」

 

「店長さんを見て、驚いたんですか?」

 

『・・・・まぁいきなり店長ちゃんの顔は刺激が強いものねぇ~』

 

十香と四糸乃は首を傾げ、よしのんの言葉に士道と琴里、八舞姉妹は苦笑いを浮かべる。映像とは言え、店長の容姿は七罪には刺激が強いし、男性が苦手な美九に取っては、店長は恐怖の対象とも言える。

〈システムケルブ・万由里〉との騒動の時、士道(士織)とデートした際に店長を会った時なんて、一目見ただけで1時間は気を失ってしまった程だ。

 

「そ、それで、こんな強烈なーーーー魔除けの効果がありそうな物を見せて何だって言うのよ・・・・?」

 

這い上がるように起き上がり、椅子に掛け直した七罪がそう言うと、ドラゴンはなんなく言った。

 

『まぁどんな化粧をしても、コレよりとてつもない事にはならん。と言う事だ』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

ドラゴンの言葉に士道と精霊達(気を失った美九は除く)の大半が苦笑いを浮かべる。

 

「(確かに、コレより強烈な事にはならないと思うけど・・・・。どうせ、どうせ無駄よ。中途半端な希望なんて、絶望よりも質が悪いんだから・・・・)」

 

七罪がそう思案していると、士道はそんな七罪の思考を察したかのように笑みを浮かべる。

 

「大丈夫だ」

 

「・・・・っ」

 

思考を読まれたと思った七罪は、頬をカァッと赤くすると、顔を俯かせる。

 

「・・・・あの、1ついい?」

 

「ああ、なんだ? 言ってみてくれ」

 

「・・・・その顔で男の声出されると気持ち悪いんだけど」

 

『先ず自分の姿を改めろこのハウスダスト』

 

「・・・・・・・・」

 

士道はどこか悲しそうに、先程剥がした絆創膏のような物を喉に貼り直した。

 

「じ、じゃあ始めるぞ! 先ずは全ての基本、洗顔からだ。これを怠ると化粧品乗りが悪くなるからな!」

 

少し声を高くした士道が、気を取り直すように言うと、七罪は指示に従い入念に顔を洗い、化粧水を手に適量に取り、顔全体に馴染ませる。

 

「ーーーーよし、後は任せろ」

 

そう言って、士道は七罪の顔に手早く化粧下地を施し、パフを使ってうっすらとファンデーションを乗せる。

その作業中、士道が話しかける。

 

「言っておくが、七罪。俺は別に、メイクでお前の顔を別人に作り替えようなんてしちゃいない。俺は背中を押すだけだ。お前が凝り固まった『自分は駄目だ』って考えから向け出せるように、手伝いをするだけだ」

 

「・・・・ふ、ふん、口だけは達者ね」

 

不機嫌そうに七罪が言うが、士道は静かに笑うだけだった。

そして、チーク! アイズ! リップ! と、化粧を施す。

 

「ーーーーさ、完成だ」

 

士道は小さく息を吐き、化粧用品をポーチにしまって、立ち上がる。

 

「こ、これで完成? 随分とアッサリしたもんね」

 

「言ったろ。元の顔を殺しちゃ意味がないんだよ。でもーーーーこれで、十分だ。ほら」

 

「な、何よ・・・・」

 

七罪が振り向くと、そこには十香達(いつの間にか復活した美九も含め)が勢揃いしており、その中央には、恐らく姿見鏡だろう板が、大きな布に掛けられていた。

ーーーーと、ソコで七罪は、鏡の脇に並んだ少女達の表情が、一様に驚いたように目を見開き、さらにプラモンスター達が忙しなく撮影準備をしていた。

 

「な、何よ、何なのよ・・・・」

 

動揺した様子の七罪がそう言うと、ドラゴンがフムと頷くと、鏡に掛けられた布を取り払う。

 

『ほれ、見てみろ』

 

そしてーーーー鏡に映し出された少女の姿を見て。

 

「えーーーー」

 

七罪は一瞬、言葉を失った。

野暮ったく盛り上がっていた髪は、天然の癖を残しながらも綺麗に纏まり、照明の光を浴びてキラキラと輝く。血色の悪かった肌が見違えるように艶を持ち、可愛らしい服と相まって、まるで淑やかな令嬢を思わせる佇まいを誇っていた。

だが、七罪が何よりも驚いたのは、その貌だった。

前髪がすかれた分、露出の増えた貌は間違いなく七罪のである。違いがあるのならば、ほんのり頬に差した朱や、少しだけ輪郭のはっきりとした瞳、薄い桜色に彩られた唇など、いずれも僅かな物くらいしか思い当たらなかった。

しかし、その小さな違いが、貌の印象をグッと可愛らしくしているのである。

一瞬、鏡の中の世界の怪物が変身したのか? と思ってしまう程だ。

 

「こ、これ・・・・私・・・・?」

 

「ああ、間違いなく、七罪、お前だよ」

 

七罪が信じられない物を見るような調子で、ペタペタと自分の頬を触れながら呆然と呟くと、士道が小さな肩に手を置いた。

それに続くように居並んだ少女達が、一斉に声をあげる。

 

「うむ! 綺麗だぞ!」

 

「あら、いいじゃない。どう? 感想は」

 

「これはこれは・・・・ねえ七罪さん。今度私の家に遊びに来ませんかー?」

 

『〈ディーヴァ〉、ステイ』

 

若干1名の目の輝きが他の皆と違うが、七罪はそこまで気が回らないほど呆然と立ち尽くす。

 

「ーーーーどうだ? 七罪。勝負の結果は」

 

「・・・・っ!」

 

鏡越しに七罪の目を見る士道に七罪は息を詰まらせる。今、七罪は、この鏡の中の少女の事を一瞬ーーーー。

ーーーー可愛いと、思ってしまったのだ。

 

「あ・・・・あ・・・・」

 

七罪は目をグルングルンと泳がせ、足をガクガクと震わせた。

嬉しい筈なのだ。喜ばしい筈なのだ。今まで散々嫌悪してきた自分の容姿が、こんなにも変貌するだなんて、数時間前には欠片も思っても見なかった。

だが、あまりにも短時間の間に、予想外過ぎる事が起こり過ぎて、脳が情報を処理しきれていなかった。

 

「(ーーーー何? 今、何が起こってるの? これ誰? わ、私? て言うか、何なのコイツら。何で私にここまでしてくれんの? 私あんだけ酷い事したのに。頭可笑しいんじゃないの? 勝負? 勝負って何? 可愛いかったら私の負けって、そんなん負けじゃん。大敗北じゃん。だってこれ、超可愛いじゃん。え、でも、これ、え・・・・?)」

 

「お、おい、七罪・・・・?」

 

「う、あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!!!」

 

『やれやれ・・・・』

 

七罪は脳がオーバーヒートをしたのか、頭をガリガリと掻き毟ると、絶叫を上げて元来た道を駆けていってしまった。その後をポカンとする士道や精霊達よりも早く、ドラゴンが後を追った。

が、『サロン・ド・ミク』の辺りで、床に足を滑らせて派手に転び、そのまま頭を壁に強かに打ち付けて気絶してしまった。

 

「うきゅ~~~ん・・・・」

 

余程気が動転していたのであろう。せっかく整えた髪はグシャグシャ、服は縫い目が解れてしまっていた。

 

『これは重症だな・・・・』

 

気絶した七罪を見下ろしながら、ドラゴンはため息を吐いたのであった。

 

 

 

 

 

 

そして十香達を帰らせた後、気絶した七罪を病衣に着替えさせ、再び元の隔離スペースに寝かしているのだが。

 

《や、やめなさい! この『アイドルの皮を被った妖怪変化』・・・・! 私にはそっちの趣味なんて欠片も無いってば・・・・!!》

 

何やら良くない夢でも見ているのだろうか、時折ベッドの上でのたうっては、苦しげにうなされていた。

部屋の外部モニタをその様子を見ながら、琴里は顎に手を乗せ、難しげな顔を作る。

 

「ふむ・・・・」

 

そしてそれを見て、士道は頬を掻いた。

 

「やっぱり、無理矢理過ぎたかな。まさかあんなに嫌がるとは・・・・」

 

『うつけ。あれは嫌がっているのではないわ』

 

「え?」

 

『無表情女』

 

ドラゴンが琴里の隣に座っている令音に向けて言うと、令音は手元の画面を示すと、七罪の顔と、様々な数値が表示された。

 

「・・・・精神状態、機嫌、好感度・・・・いずれもが、最悪の状態から脱している。無論、まだ封印可能レベルには程遠いがね」

 

「そ、そうなんですか?」

 

『つまり、あの子は変身を嫌がっているのではなく、戸惑い、動揺してしまったのだろうな』

 

「あー・・・・」

 

士道は、七罪の尋常じゃない慌てたようを思いだし、成る程と頷いた。そして令音が仮説をたてる。

 

「・・・・恐らく、変身をしていない状態で褒められるのに慣れていないんだろう。『自分は駄目なもの』、『変身をしないと誰にも構ってもらえないもの』と思い込んでいる。心の底では、『自分』をちゃんと認めてもらいたがっているにも拘わらず、自分に自信が持てないようだ」

 

令音は指を1本立てながら続ける。

 

「・・・・問診と解析の結果、どうやら七罪は他の精霊に比べて、こちらの世界へ静粛現界している回数が極めて多い事が分かった。きっと好奇心の強い精霊なのだろう。こちらの世界の知識にも精通している。あまり褒められた手段ではないが、〈贋造魔女<ハニエル>〉で紙幣を偽造する事もできた為、買い物をするにも困らなかったようだ」

 

『狐狸の類いじゃあるまいし』

 

「・・・・でも、それじゃあなんで、あんなに自分に自信がないんでしょう」

 

「・・・・いや、だからこそ、なのではないかな」

 

令音がむずかしく唸る。それを聞いて士道も、七罪が言っていた事を思い出す。

 

「そう言えば、こっちの世界では『七罪』が『七罪』のままじゃ、誰も相手にしてくれなかったて・・・・」

 

「・・・・恐らく、そう言った経験の積み重ねが、七罪の価値観を歪めてしまったのだろう。なまじ自在に自分の姿形を帰りる為、段々と元の自分を否定していくようになってしまったんだ。・・・・重要なのは美醜の問題ではなく、彼女自身が、誰かに認めて貰えたかと思うか否かさ」

 

「難儀な事ね。でもまあ、ちゃんと承認欲求があるなら攻略しようはあるわ。要は、自分に自信が付けば良い訳でしょう? そうすれば、こっちの言ってる事を素直に受け取れるようになる筈よ。少しは態度も軟化するでしょ」

 

『(いや、あの小僧や〈プリンセス〉達の好意に対する戸惑いと動揺。あれはまるで、“人の『善意』にどう向き合えば良いのか分からない”、と言った風に見えたが・・・・)』

 

「そう上手く行けば良いけどな・・・・」

 

「悲観的になってても何も始まらないわよ。とにかく、試して見ましょ。早速明日から七罪のリハビリ開始よ」

 

「リハビリ・・・・か」

 

『具体的には?』

 

ドラゴンが問うと、フウムと琴里が唸る。

 

「そうねえ・・・・七罪な『自分は可愛い』ってのを信じられれば良い訳だから、第3者からの評価をダイレクトに伝えるのが良いんじゃないかしら?」

 

「いや、でも俺達がいくら可愛いって言っても・・・・」

 

「だから、第3者なのよ。士道や精霊達は、七罪を『変身』させるのに関わってるから難しいわね。こちらが正当な評価をしてるつもりでも、色眼鏡で見ていると思われたら意味がないし。ーーーー〈ラタトスク〉で人材を用意する事も出来るけど、できればこちらの思惑とは全く関わりのない人間が望ましいわ。士道、誰か心当たりはない?」

 

「え? そうだな・・・・・・・・あ」

 

士道は頬をポリポリとかくと、1人の友人の顔を思い浮かべ、その名を口にした。

 

『・・・・・・・・本気か貴様?』

 

ドラゴンが半眼になってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして暫くして結果はーーーー。

 

「・・・・駄目だったな」

 

「・・・・駄目だったわね」

 

『まあ、こうなると思っていたがな』

 

士道が紹介したのは、殿町だった。

女の子を紹介すると言って、七罪と会わせたが、会話の途中で殿町が七罪を見て「クラクラしちゃうね!」と言って七罪の頭に、電球がピカッと光った。

 

クラクラしちゃう。

くらくらする・・・・意味:目眩がして倒れそうになる事。

君を見てると目眩がして倒れそうになる。

見てるだけで気持ち悪いんだよブス。

 

【やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!】

 

と、七罪が暴走して撤収。殿町は何か勘違いをしてくれていたのか、誤魔化せた。

そして次に立候補したのは・・・・神無月。それを聞いてドラゴンは、

 

【『気は確かなのか貴様ら?』】

 

と、本気で正気を疑っていた。

そして、とあるプロダクションのチーフマネージャーの役で七罪に近づき、そのロリ体型を「ナイスバディ」と豪語し、鼻息荒くして詰め寄って絶賛した。その勢いと気持ち悪さに引いた七罪は、ハッ! と目をカッと見開き、某小学生名探偵のような閃きが走った。

 

七罪はナイスバディ。

七罪は良い身体。

見た目は残念だけど、機能には問題なさそう。

君の臓器は高く売れそうだ。

 

【きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!】

 

【ハフンッ!!】

 

と、甲高い声を上げ、神無月の頬に、渾身のリミットブレイクした平手打ちを叩き込み、逃げ出した。

ちなみに神無月本人(頬に紅葉付き)は「いや~、ははは、面目ない」と、申し訳なさの欠片も見えない様子で笑う。

その呑気な笑みにイラついたのか、ドラゴンが琴里に目配せし、琴里もコクンと頷き、指をパチンと鳴らすと、黒服のお兄さん達が神無月を連行した。

 

「イヤだーーーーーーー!! もうマッチョの相手はイヤだーーーーーーー!! 司令! お慈悲をををををををををををををっ!!!!」

 

と、神無月が悲鳴を上げるが、琴里もドラゴンも士道も聞かなかった事にした。

神無月が部屋から完全にいなくなると、改めて七罪の事を話し合う。

 

「七罪のマイナス思考は想像以上ね」

 

『ここまで来ると一周して感心してしまう程にな。・・・・少しレベルを下げるしかあるまい』

 

「・・・・って言うと?」

 

『褒めるのは後回しにして、人と普通に会話しても笑われない、と言う事を理解させるところからだな』

 

「ふむ・・・・具体的には?」

 

「そうね・・・・ファーストフード店で注文してみるとか」

 

「・・・・また、随分とレベルを下げたな」

 

士道は苦笑いを浮かべ、それで少しずつならしていく方が良いと思った。

 

 

 

 

 

 

 

そして、七罪をファーストフード店に連れていった五河兄妹。

琴里は七罪に紙幣を持たせて注文カウンターへと向かわせた。

 

「・・・・・・・・ぐ」

 

色々と気に入らないが、仕方ないので七罪はノタノタした足取りでカウンターに向かうと、顔を俯けたままレジの前に立った。

 

「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか?」

 

と、レジに立った前髪の長い女性がにこやかに話しかけてくる。七罪は口から心臓が出そうなくらい緊張しながら、震える声を発した。

 

「・・・・は、ハン、バーガー・・・・3つ・・・・」

 

「はい! ハンバーガー3つですね! ご一緒にポテトはいかがですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・ッ!」

 

店員がにこやかに聞いてくるのに、七罪はカッと目を見開き、まるで、機動戦士に乗る白い悪魔のような感覚が走る。

 

ご一緒にポテトはいかがですか?

この場合、ポテト=フライドポテトの事。

炭水化物と油の組み合わせはとても太りやすい。

贅肉でも付ければ、そな貧相な身体もちったあマシになるんじゃねぇの?

 

「ど・ち・く・しょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

「ええっ!?」

 

七罪がレジにライダーパンチを打ち込むと、店員がビクッと身体を震わせた。

 

「言われなくても分かってるわよンなこたぁぁぁぁ! 私だって好きでこんな身体してる訳じゃないわよぉぉぉぉ!」

 

「ちょ・・・・お、お客様!?」

 

「な、七罪!」 

 

「士道! 取り押さえて即連行よ!」

 

士道と琴里が七罪をすぐに拘束すると、元の部屋に連行されて行った。

 

≪はぁ・・・・これでも駄目だったか≫

 

ドラゴンはその様子を眺めて、『GAME OVER』と言う言葉が浮かんだのであった。




四糸乃の事、最初は嫌っていたのに、今では四糸乃崇拝者ですね。美九とは、この頃から天敵として認識していたのですね。
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