デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー琴里sideー
十香が暴走し、死んでいた士道が再生して甦った光景に〈フラクシナス〉のクルー達は騒然となっていたが、司令官の琴里と解析官の令音と副司令の神無月は冷静に状況を見ていた。
「フン。あの様子だとやっぱり士道は知っていたようね」
琴里は士道の“再生能力”を知っていたかのような態度であり、令音はいつも通りに冷静に状況と十香に起きた異変を解析していた。神無月だけは「ああ・・・・身体にあんな大きなアナが開けられるなんて・・・・ビクンビクン。凄いんだろうなあ。さぞ、さぞ凄いんだろうなあ。で、でも死んだら元もこもないしなあ」みたいな事を考えているような気持ち悪い顔を浮かべていた。
「とう」
「はうッ!?」
琴里は神無月の脛を蹴り飛ばすと、その場を立ち上がり、そしてフンと鼻を鳴らしながらクルー達に告げる。
「全員、マヌケ面をさらすのは後にしなさい! 士道が牛退治を終えれば直ぐに精霊の元に行く筈よ! 私達は何か起こったときの為に準備を怠ってはならないわ!」
『り、了解!』
琴里の指示に、クルー達は急いで状況の分析を始めた。令音が琴里に話しかける。
「琴里。精霊の様子だが・・・・」
「ん。分かっているわ」
琴里はスクリーンに映る2つの戦場で、士道が交戦している場面と十香が暴走している場面を見据えると、十香の身体に小さいが徐々に広がっている紫色の亀裂を睨んだ。
「士道の話には聞いていたけどあれが・・・・」
「『魔獣 ファントム』が生まれようとする現象。つまりあの精霊は・・・・」
「「『ゲート』」」
琴里と令音の声が重なると同時に、士道がミノタウロスに投げ飛ばされていた。
ー士道sideー
ウィザード<士道>は『コネクト』でウィザードソードガン・ソードモードを構えて、長斧で攻撃してくるミノタウロスと切り結んでいた。
「ツァアッ!!」
『グゥオッ!?』
ウィザード<士道>の剣がミノタウロスの長斧を破壊すると、ソードガンでミノタウロスを突き飛ばした。
『己ぇっ!』
ミノタウロスは闘牛のように角を前方に突き出すように身体の上体を横にして、片足で地面を擦ると、そのままウィザード<士道>に突進した。
「ぐぅう! うおおおおおおおおお!」
『フゥンッ!!』
「うわあああっ!!」
ウィザード<士道>は突進してくるミノタウロスを受け止めようとしたが、ミノタウロスのパワーに押し負けて、そのままミノタウロスが突き上げるように上体を上げると、ウィザード<士道>はミノタウロスの後方へ投げ飛ばされた。が、ウィザード<士道>はヒラリと着地した。
「クソッ! こんなヤツに手間取っている場合じゃねえんだイデッ!!」
早く十香の元に行かなければと、内心焦っていた士道の頭を、体内のドラゴンが小突いたような衝撃が走った。
「何すんだよ! ドラゴン!」
≪頭を冷やせこの覆しようない馬鹿者。あんな牛など、少し頭を使えば簡単に倒せるわ≫
「えっ?」
≪〈プリンセス〉の元に早く行きたければ、焦らず、冷静に戦い方を考えろ、そうすれば速効で倒せる。何のために『エレメントチェンジ』が出来ると思っているのだ?≫
「あっ!?」
ウィザード<士道>は、ベルトの左側に着けたチェーンから、『黄色いトパーズのウィザードリング』を取り出す。
「そうだ、コレがあった。サンキュードラゴン!」
≪無駄口は良いからさっさとやれ≫
「ああ!」
ウィザード<士道>は、また自分に突進してくるミノタウロスをヒラリと回避すると、『トパーズのウィザードリング』を左薬指に嵌めて、メガネを下ろして、ベルトを左手向きに変えて、リングを翳す。
[ランド プリーズ ドッドッ ド・ド・ド・ドンッドンッ ドッドッドン!]
士道の足元に黄色い魔法陣が展開され、魔法陣から小さい岩がいくつも出現し、ウィザード<士道>のに集まり覆い尽し大きな岩塊となる。
ミノタウロスが岩塊となったウィザード<士道>に向かって突然するが、岩塊に内部から亀裂が走り。
ドンッ!
岩塊が砕けるとそこには、黄色い四角のオパールの頭部に、黄色い複眼をし、ウィザードの身体の赤い宝石の部分が黄色に染まった大地の魔法使い『ウィザード ランドスタイル』である。
「はっ!」
ウィザードL<士道>は突進してきたミノタウロスの首に腕を回して、受け止めた!
『まさか! エレメントチェンジができるのか!?』
「その通、り!」
『グオオッ!』
ウィザードL<士道>はそのままミノタウロスにブレーンバスターをかけて、地面に叩きつけた。
[ディフェンド プリーズ]
すかさず、『ディフェンド』で少し離れた場所に厚い土の壁を作り出し、ミノタウロスの両足を両脇に持って、ミノタウロスの巨体を大きく振り回した!
「うおりゃああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
「はあっ!」
ズガァァァァンッ!!
『ガァハッ!』
土の壁に投げ飛ばされたミノタウロスは、土の壁にめり込んで動けなくなった。
[フレイム プリーズ ヒーヒー ヒーヒーヒー!!]
[ルパッチ マジック タッチゴー! ルパッチ マジック タッチゴー! ルパッチ マジック タッチゴー!]
再びウィザードFにチェンジしたウィザード<士道>は、ベルトを右手向けにして、チェーンから『ドラゴンとキックが重なったリング』を右手薬指に嵌めて翳した。
「フィナーレだ!」
[チョーイイネ! キックストライク! サイコー!]
ウィザード<士道>の右足を前に出しながら腰を落とすと、右足元に魔法陣が現れ、ウィザード<士道>の足から炎をが燃え上がる!
「ハァァァァァァァ・・・・ハッ!」
ウィザード<士道>は炎を纏いながらロンダートにより炎バク転をしながら飛び上がり、上空から壁から脱出しようとするミノタウロスに向かって跳び蹴りを放った!
【ストライクウィザード】
「たぁあああああああああああああああッ!」
『ぐぉおあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!』
ウィザード<士道>の放った跳び蹴りが、ちょうど土の壁から出たミノタウロスの胸部に突き刺さり、壁を貫いてミノタウロスは地面を抉りながら転がり倒れた。
ウィザード<士道>はヒラリと着地し、倒れたミノタウロスは火花を散らせながら、ヨロヨロと立ち上がる。
『き、貴様が何をしても、無駄だ・・・・指輪の魔法使い・・・・間もなく精霊から生まれる『ファントム』が、この世界に、絶望を撒き散らせるッッ!!』
ミノタウロスはそのまま仰向けに倒れると、その身体が爆散した!
「・・・・十香!」
[コネクト プリーズ]
ウィザード<士道>は頭部の仮面を部分解除すると、『コネクト』で、〈フラクシナス〉との通信インカムを取り出して、右耳に付けた。
「琴里! 聴こえるかッ!?」
《聞こえているわよ士道。分かっていると思うけど、今キレたお姫様がASTを殺しにかかってるわ。紫色の皹が入った身体でね》
「ちぃっ、やっぱり十香は『ゲート』だったか!」
《このままじゃお姫様から魔獣が生まれるわ。怒りと絶望に呑み込まれたお姫様の肉体が、絶望の魔獣に変貌して世界を呪い破壊するだなんて、陳腐なダークファンタジーのバットエンドのようね》
「そうはさせねえよ・・・・!」
[ハリケーン プリーズ フー! フー! フーフー、フーフー!]
ウィザード<士道>は、ウィザードH<ハリケーン>へとチェンジすると、空を飛ぶ。
《どうすつもりなの?》
「先ずは十香を止める! そのあと十香の中の『ファントム』をぶっ飛ばす!」
ウィザード<士道>は十香に向かって飛び上がった!
ー折紙sideー
巨大な剣を振るって山を切り刻む精霊にASTが応戦する。
否ーーー応戦などと呼べるものですらなかった。
ASTは猛烈な勢いで攻撃を仕掛けるが、精霊には微塵も届いていない。逆に精霊の斬撃は、直撃せずともその余波だけで、随意空間<テリトリー>など存在していないかのようにASTのウィザード達は飛行を乱し、容易く吹き飛んでいった。
ただただ理不尽に一方的で圧倒的なーーー王者の行進。
状況はまさに最悪だった。待機していた他の要員はすでに10名全員が参戦したが、精霊に傷を負わせることはおろか、接近することすら叶わない。
否ーーーそれ以前に精霊は、折紙以外の人間など意識の端にも入れていなかった。
あたかもーーー蟻を気にかけて歩く獅子がいないように。
「おあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーッ!!」
まるで涙に濡れた泣き声のような咆哮を上げ、身体に亀裂のような皹を走らせ、精霊が巨大に過ぎる剣を振り下ろそうとしていた。
「お前が!! お前がシドーをををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををーーーッ!!」
「・・・・・・・っ」
折紙はスラスターを駆動させて空に逃れようとしたが、精霊から言われた言葉に、一瞬だけ身体を膠着させ、精霊が振り下ろす剣から逃れるタイミングを逃し。
「ーーーああああああああああああああああああああああああああッ!」
精霊が振り下ろす剣を随意空間<テリトリー>で塞ごうとするが、一瞬でそれは無駄になると直感した。
「ーーーーーーッ!!」
気づくと折紙は、せめてものと回避したが、剣の剣圧の余波で吹き飛び、地面に横たわっていた。
霞む視界の中、自分を見下ろす精霊の姿だけがはっきりと見えた。ひどく悲しそうな顔をして剣を握る、ひどく小さな少女の姿が。
「ーーーーーーーーーーーーーーー終われ」
精霊が剣を振り上げ、そこで止まると。
精霊の周囲に黒い輝きを放つ光の粒のようなものがいくつも生まれ、剣の刃に吸い寄せられるように収束していく。
何の説明がなくとも分かる。あれは、精霊の渾身の力を込めた一撃だった。
判断が、認識が誤っていた。明らかに、世界が違う。
己と比べる事すら、攻略法を考えることすら冒涜と思える、暴虐なる王の鉄槌。
逃げなくてはと考えてはいるが、身体が重くて痛くて、まるで動こうとしてくれなかった。
燎子をはじめ、他のAST要員も既に戦闘不能状態、精霊を止めることができるものは、もう存在しない。
そして剣が闇色の輝きを放つのを待って、精霊が、剣を握る手に力を込める。
とーーーその時。
[チョーイイネ! キックストライク! サイコー!]
「十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーッ!!」
その場に似つかわしくない軽快な音と共に、緑色の旋風が、闇色の剣にぶつかった!
その瞬間ーーーーー闇色の光が混じった緑色の旋風が周囲に吹きすさび、折紙の身体を少し吹き飛ばす。
「ーーーーーーッ!?」
そして、薄れ行く意識の中で、折紙は見た。精霊と対面する『仮面の魔法使い』が、黒いロングコートの仮面の魔法使いが、姿を解除したその素顔をーーーーーー。
「(五河、士道・・・・・・・・?)」
そこで、折紙の意識が深い闇に落ちた。
ー士道sideー
十香が渾身の一撃を鳶一に放とうとした瞬間、ドラゴンが指示をだした。
≪あれは強力な一撃だな。『キックストライク』で相殺しろ。魔力と霊力が反発するならば、相殺もできるはずだ≫
と、士道も十香を落ち着かせるために、【ストライクウィザード ハリケーンモード】を十香の〈鏖殺公<サンダルフォン>〉に叩き込んで、闇色の光を相殺させた。お陰で周囲に暴風が吹き荒れ、鳶一を含んだAST要員が吹き飛び気を失った。
そして士道は変身を解除して、十香の両肩に手をかけた。
「十香! 俺だ! 分かるか!?」
「ーーーーーーーーー」
十香は、自分の肩を強く掴む士道に目を向ける。
「シーーードー・・・・?」
まだ頭が理解していない様子で、十香が呟く。
「ああ、俺だ・・・・十香」
「シドー・・・・ほ、本物、か・・・・?」
「本物だよ。こんな魔法を使う高校生が他にいるのか?」
士道が言うと、十香は唇をふるふると震わせた。
「シドー、シドー、シドー・・・・くぅっ!」
士道の名前を呼ぶ十香の身体を紫色の亀裂が走り、遂に十香の首元にまで届き、怒りで感じなかった苦痛を感じて、地面に両膝を付いた。
「十香っ!」
士道は十香を優しく横たわらせる。十香は苦痛に歪みがらも、士道を安心させようと笑みを浮かべる。
「シドー・・・生きていてくれて、良かった・・・」
「十香! しっかりしろ!」
士道が呼び掛けるが、十香はフルフルと首を横に振る。
「ダメなのだ・・・・私の心が、深い闇に落ちていく・・・・私は、別のナニかになってしまうようだ・・・・」
十香は本能的に、自分が魔物になってしまう事を直感していた。
[フレイム プリーズ ヒーヒー ヒーヒーヒー!]
「大丈夫だ十香。俺が、いや“俺達”がお前を助ける」
「シドー・・・・」
ウィザードに変身した士道は、まっすぐ十香を見つめながら、チェーンから『ウィザードの顔をしたリング』を十香の右手の中指に嵌めた。
「言っただろ? 俺がお前の、“最後の希望”になってやるってさ」
士道はリングを嵌めた十香の手をバックルに重ねた。
[エンゲージ プリーズ]
魔法の音声が鳴り響くと、十香の身体にウィザードの魔法陣が浮かんだ。
「んじゃ、ちょっと行ってくるぜ!」
ウィザード<士道>は躊躇わず、魔法陣の中に入っていった。ついでに〈フラクシナス〉の自立型浮遊カメラも付いていった。
◇
士道が真っ白い空間を落ちて行き、底が見え、地面に降り立った。自立カメラも一緒に来ていた。右耳のインカムに琴里の声が響く。
《聴こえる士道? こっちには映像が届いているわよ》
「おお、通信も感度良好。どうやら『アンダーワールド』でも、通信とカメラの映像は届くようだな」
《ここが話に聞いた『ゲート』の精神世界、『アンダーワールド』なのかい?》
「ええ、十香が最も心に強く根づいた記憶、それが『アンダーワールド』です」
周りを見渡すと、そこはさっきまでいた高台の公園で、十香と士道が笑いあっている光景だった。
《どうやら彼女にとって、士道と過ごした今日1日が、もっとも心に刻まれた記憶のようね》
「ああ」
琴里の声に少し照れ臭そうに返答するが、直ぐにウィザード<士道>は気を引き締めた。
「(・・・・・・・・・・・・ドラゴン)」
≪ウム・・・・・・・・・・・・来るぞ!≫
ウィザード<士道>の視線の先、十香と士道が笑いあっている場面がひび割れて、そこからーーーーーー。
巨大な『魔獣 ファントム』が現れた!
『Gyuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』
「うわぁっ!!」
ファントムの雄叫びで発生した振動波に、ウィザード<士道>と自立カメラは吹き飛ぶ。
「くっ!」
ウィザード<士道>は吹き飛びながらも、なんとか踏ん張った。カメラはウィザード<士道>の後ろに隠れてやり過ごす。
ウィザード<士道>(と内部のドラゴン)は、改めて、十香から生まれた魔獣ファントムを見据える。
「なんだこりゃ!? こんなにデカいファントムは初めて見るぞ!」
《あらそうなの?》
「ああ、大きいヤツでも7メートルくらい、でもこいつは、20メートルくらいはあるぞ!」
《正確には18.7メートルはあるね》
通常のファントムと違う巨大な体躯。
十香の霊装と同じ闇色のドレスが禍々しく刺々しい姿となり。
右腕には十香の天使〈鏖殺公<サンダルフォン>〉と同じ形の剣が、凶悪な蛮刀となり、刀身には刺々しい刃が幾つも付いており、ファントムの右手と一体化していた。
左手にはカギ爪のような武器が装備され、ガチガチと金属音を鳴らし。
顔には西洋甲冑の仮面に覆われ、目にあたる部分からは妖しい光を放ち、黒く長い髪はドレッドヘアのように束ねていた。
≪〈プリンセス〉の姿がそのままファントムとなったような姿、『プリンセスファントム』と言ったところか?≫
「あれが、十香から生まれたファントム・・・・!」
『Guuuuuuaaaaaaaaaaaaaaa!!』
『プリンセスファントム』が右手の蛮刀を振り回すと、公園の眼下にある天宮市の街や空を攻撃し、街や空に紫色の亀裂のような傷が付けられた。
《士道。このままファントムが暴れ続ければどうなるの?》
「十香の『アンダーワールド』を破壊し尽くせば、あのファントムは十香の身体と命を消滅させ、世界に顕現する。その前に倒す!」
《できるの? あなた1人で》
[ルパッチ マジック タッチゴー! ルパッチ マジック タッチゴー!ルパッチ マジック タッチゴー!]
「できるさ。十香にも言っただろ? 俺が、いや“俺達が”ってよ!」
ウィザード<士道>はチェーンから、『ドラゴンが刻まれたリング』を右手に嵌めて、ベルトに翳した。
「ここは『アンダーワールド』。だからコイツを呼ぶことができるっ!」
[ドラゴライズ プリーズ]
音声が響くと、ウィザード<士道>の隣に巨大な魔法陣が現れ、ウィザード<士道>がその魔法陣に向かって手を伸ばすと、ウィザード<士道>の身体が光り、その光りが魔法陣に向かうと、その姿を形作った!
巨体な身体に生えた小さな羽、赤と金と銀のメカニカルな風貌をした西洋竜、ウィザード<士道>の絶望から生まれた魔獣、『ウィザードラゴン』!
「来い! ドラゴンっ!!」
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
『Aaaaaaaaaa!!』
ドラゴンはプリンセスファントムに突撃すると、自分の何倍も大きなプリンセスファントムを押し飛ばした。
ー琴里sideー
〈フラクシナス〉のブリッジでは、ウィザード<士道>から現れたドラゴンに、琴里達は驚きの様相を浮かべていた。令音はすぐに冷静になり、プリンセスファントムを分析・解析していた。
「士道・・・・まさかあの竜が?」
《ああ、俺の絶望から生まれたファントム。ドラゴンだ》
士道はそう言うと、再びリングを使うためにベルトとリングを使おうとしていたが、琴里は口にくわえていたチュッパチャップスをガリッと噛み砕くと、スクリーンに映るドラゴンを忌々しく、そして憎々しく鋭い眼光で睨んだ。
「(アイツが、士道<お兄ちゃん>の中に巣食っている魔物・・・・!)」
ー士道sideー
「ドラゴン! 一緒に行こうぜ!」
[コネクト プリーズ]
ウィザード<士道>はマシンウィンガーを取り出すと、バイクに乗り込み、ドラゴンの元へと走らせた。
『フン』
ドラゴンはウィザード<士道>と並行するように並ぶと、ウィザード<士道>はマシンウィンガーで跳び、マシンが縦に展開されて、まるで翼のような形となり、ドラゴンの背中と合体した!
『振り落とされるなよ小僧!』
「分かってるよ!」
《『喋ったぁっ!!?』》
〈フラクシナス〉のクルー達が、ドラゴンが喋った事に驚くがそれを無視する。
1人と1体はプリンセスファントムに向かうと、起き上がったプリンセスは蛮刀を振り回して、幾つもの斬撃を飛ばす!
「『おおっとぉ!』」
2体は息を合わせて次々と襲い来る斬撃を回避し、プリンセスファントムの周りを旋回しながら、ウィザード<士道>は『フレイムシューティング』を、ドラゴンが火炎を放って攻撃する!
しかし回避された斬撃が『アンダーワールド』を破壊してしまっていた。
「どうするドラゴン! このままじゃラチがあかねえぞ!」
『イヤ、そうとも言えん。この戦いこちらが有利だ』
「えっ?」
『見ろヤツを』
プリンセスファントムを見ると、突然苦しそうに蹲っていた。何やら身体が内部から鼓動するようにビクンビクンと、脈動していた。
「あれって・・・・?」
『解析官の女が言っていただろう。我らファントムの魔力と精霊の霊力は反発すると、おそらく自身の中の魔力と霊力が反発しあって、自分自身でも制御ができず、苦しんでいるのだ』
《その見解はあっているね。こっちでも解析して見たところ、あのファントムの内部で魔力の反応と霊力の反応がせめぎあってファントムの身体を蝕んでいるようだ》
「秋刀魚と漬物、ほうれん草とゆで卵、天ぷらとスイカのように食べ合わせが悪くて具合が悪くなったみたいなものか」
『・・・・・・・・・・・・まあそんな所だ』
士道の解釈に若干呆れるが肯定するドラゴン。
「それじゃ、ヤツが苦しんでいる今が!」
『そう、ヤツを倒す好機!』
「ドラゴンっ! ぶっ飛ばして行くぜ!」
『ぶっ飛ばされるなよ! 小僧!』
ドラゴンは再びプリンセスファントムに突進する、プリンセスファントムはドラゴンを引き寄せて、蛮刀を振り下ろすが、ドラゴンはギリギリかわし、尻尾で蛮刀を叩くと、蛮刀が凍りついた!
『っ!?』
「ハァアアアアアアアアアッ!!」
[シューティングストライク ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!]
プリンセスファントムが驚愕すると、いつの間にかドラゴンから飛び出した士道が、『フレイムシューティング』を至近距離で放つ!
『Guuuuuuuuuuuuuuuuu!』
「おっと!」
[エクステンド プリーズ]
プリンセスファントムが凍っていない左手のカギ爪で反撃しそうになるのを見て、士道は『ドラゴンの胴体伸びた姿が刻まれたリング』を使うと、腕が伸びて、ドラゴンの尻尾を掴んだ。使い手の身体を柔らかくし、伸縮させる事ができる『エクステンドリング』の能力。
『フンッ!』
ドラゴンが尻尾をおもいっきり振り回すと、ウィザード<士道>の身体は大きく弧を描いて空を舞い、カギ爪を回避し、ドラゴンの上辺りまで行くと手を離し、再びドラゴンの背中に乗った。
『ウオラッ!』
すかさずドラゴンがその鋭い爪で、プリンセスファントムの左腕を切り裂く!
『Giiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!』
『まだまだぁっ!!』
プリンセスの眼前に飛んだドラゴンは、翼から竜巻を起こして、プリンセスファントムを拘束する!
[キャモナスラッシュシェイクハンズ! キャモナスラッシュシェイクハンズ! キャモナスラッシュシェイクハンズ!]
「これで、フィナーレだっ!!」
[フレイム・スラッシュストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!]
ウィザード<士道>はウィザードソードガン・ソードモードの刀身に炎を纏わせ、飛び上がると、ドラゴンを足場にして、プリンセスファントムの頭上まで跳ぶ!
『コイツはオマケだーーーーーーッ!』
ドラゴンの口から放たれた火炎も刀身に加わり、ソードモードの刀身が数メートルも大きくなる!
「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
『Gugyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』
紅蓮に燃える業火の刃が、絶望に呪われた姫騎士の身体を切り裂いた!
ビキビキビキビキビキビキビキビキビキ・・・・ドカァーーーーーーーーーーーーンッッ!!!!
切られた箇所から皹が入り、プリンセスファントムの身体が大爆散した!
爆発する炎の中から、ウィザード<士道>を乗せたドラゴンが脱出してきた。
その姿は、『お姫様を守る騎士<ナイト>』ではなく、『邪悪を凪ぎ払う竜騎士』だった。
ー琴里sideー
琴里と令音、神無月やクルー達も、ウィザード<士道>とドラゴンの戦いぶりに圧巻させられていた。
「どうやら、シンとあのドラゴンの二人は、中々協力的な関係のようだね」
「フン。いずれ士道を絶望させて、消滅させて世界に顕現するのがあの竜の最終目的よ。油断はできないわ」
琴里は僅かに私情を乗せた見解を言って、スクリーンに映るウィザード<士道>とドラゴンを見据えた。
ー士道sideー
ウィザード<士道>とドラゴンは、再生していく『アンダーワールド』を見つめながら、プリンセスファントムがいた地点を見るとーーーーーーー“紫色に輝く水晶体”が佇んでいた。
「なんだあれ?」
『・・・・・・・・・・・・』
今まで『アンダーワールド』でファントムを倒した後、“水晶体”だなんて見たことも無かったので、ウィザード<士道>は訝しそうに見る。
「ドラゴン。あれってなんだ?」
『おそらくあれが精霊の心臓部のようなものだろう』
「あれが・・・・」
『手を出そうとするなよ。もしあれが本当に精霊の心臓部なら、ヘタに手を出してしまっては、精霊に何か異変が起こってしまうかもしれん』
「・・・・・・・・わかった」
ウィザード<士道>は渋々と言った感じで、“水晶体”に背を向けてドラゴンと共に魔法陣を展開して、『アンダーワールド』を出ようとした。浮遊自立カメラももちろん付いていった。
しかし、その“水晶体”の内部に、“1人の少女”が、生まれたままの姿で両膝を抱えて眠っていた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
その“少女”はうっすらと目を開けると、魔法陣をくぐっていくウィザード<士道>とドラゴンを見据えると、またその瞳を閉じた。
◇
十香の隣に魔法陣が現れ、そこからウィザード<士道>がマシンウィンガーに乗って出てきた。
ウィザード<士道>は早速十香の近くに向かい、十香の身体に走っていた亀裂が、綺麗さっぱりと消滅していき、安心したようにホッとした。
「・・・・・・・・・・・・」
しかし十香は目覚めず、まるで永眠しているように瞼を閉じていた。
《完全に気を失っているね》
《でもこれはチャンスだわ》
「琴里。チャンスってなんだ?」
《士道》
「ん?」
《そのままお姫様の唇にキスしなさい》
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は??」
突然何の妄言を放つんだこの妹様は?と、士道はおもいっきり思った。
「何で俺が十香とキスするんだよ! こんな時にふざけるな!!」
《ふざけてないわ。『ゲート』で無くなったからファントム達は狙ってこないでしょうけど。このままお姫様が目を覚ましても、精霊である以上、ASTが彼女を執拗に狙うわ。だからあなたがキスするのよ》
「だからそこでどうして、俺が十香とキスするって事になるんだよ?!」
《そうすればお姫様を〈ラタトスク〉で保護することができるからよ。グダグダ言ってないで早くやりなさいよこの愚図!》
《キース! キース! キース! キース! キース!》
琴里に賛同するように、クルー達が五月蝿く囃し立てるが、士道は仮面だけを部分解除してインカムを外すと、体内のドラゴンに相談した。
「(ドラゴン・・・・)」
≪何を躊躇っている≫
「(え・・・・?)」
≪お前がキスする事で〈ラタトスク〉が〈プリンセス〉を保護するのであれば、お前が〈プリンセス〉に言った“無責任”をどうにか出来るかもしれんぞ≫
「(無責任って・・・・)」
≪お前、〈プリンセス〉に俺がどうにかするとか、何とかほざいていたが、実際どうするつもりだったのだ?≫
「(うぐっ・・・・!)」
実際のところ、何にも考えていなかった。
≪〈プリンセス〉の衣食住。ASTからの保護。生活面の保証。その他諸々。お前みたいな計画性ゼロで何の権限もなく、その場の感情で行き当たりばったりな事しかできないバカガキに、どれか一つでもどうにか出来る自信があるのか? お?≫
「(そ、それは・・・・)」
≪何にも無いなら、それっぽい事言って逃げようとするな。お前ごときの恥や外聞など、その辺の公衆便所にでも捨てて流してしまえ≫
「(・・・・・・・・・・・・・・・・)」
≪お前は精霊を助けたくないのか?≫
「(・・・・・・・・助けたいに決まっているだろう)」
≪だったら一縷の望みでも藁にもすがって行動して見せろ。“希望になる”等とほざいていたならばな≫
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
士道は眠る十香の桜色の唇を見る。
「ああ、たくっ! こうなりゃ自棄だ! それで十香が守れるなら、キスでも何でもやってやらぁ!」
ほとんどヤケクソになった士道が、十香を抱き抱えて、ゆっくりと顔を近づける。
改めて見ると十香は本当に、冗談と思ってしまうほどの美少女だ。変に意識してしまえばキスできないから目を閉じる士道。
だがーーーーーー
「ん・・・・シ、シドー・・・・んぅ?!」
うっすらと目を開いた十香の眼前に、士道の顔があり、さらに何か言おうとしたら、自分の唇が、士道の唇と重なった。
士道は十香の唇の柔らかさとしっとりして甘い匂いまで感じて、その感覚と感触で脳内がマキシマムドライブしていた。キスはレモンの味とかあれ嘘。十香が昼間に食べたアイスクリームの味がした。
一拍おいて。
ーーー十香の側に落ちていた鏖殺公<サンダルフォン>と、その身に纏っていたドレスのインナーやスカートを構成する光の膜が、弾けるように消失した。
「なーーー何をするのだシドー!?」
「・・・・・・・・ッ!?」
士道自身も困惑していたが、十香の霊装が光の粒子となってその軌跡を残し、幻想的な光景を作っていた。
「す・・・・ッ、すすすすすすすすすまん十香ッ! お前保護する為にはこうするしかないって言われて・・・・ッ!」
士道は十香から離れると即座に後方に飛び退くと同時に身体を丸めて、見事なジャンピング土下座を決める。もはや殴られるか罵倒される事を覚悟した。
だけれど何秒経っても、士道の頭を踏みつけられもしなければ、罵倒されもしなかった。
「・・・・?」
不思議に思って顔を上げると、十香はその場に座ったまま、不思議そうな顔をして、唇に指を触れさせていた。
士道は鼻血が出そうになる。
≪このムッツリスケベ、さっさと『ドレスアップ』でも使え≫
「はっ! 十香!」
「み、見るな、馬鹿者・・・・ッ!!」
十香にはどうやら人並みに羞恥心はあったようだ。十香が頬を染めながら睨んでくるが、士道は『ドレスアップリング』を十香に差し出した。
「すまん十香! で、でもこのリングを嵌めて、俺のベルトに手を翳してくれ! そうすれば服はどうにかなるから!!」
「むう・・・・」
十香は訝しそ気だが、言われた通りにリングを右手薬指に嵌めて、士道のベルトに翳した。
[ドレスアップ プリーズ]
音声が流れると、十香の身体を魔法陣が通過すると、十香に身体に衣装が纏われた。
それは十香の霊装の趣向が入ったが、鎧の部分をフワリとしたレースに変わった闇夜のドレス。
それは優雅さに優美さを合わせた美しいドレスと十香に頭に被っている神秘な紫のアメジストを嵌められたティアラ。十香の美貌も相まって本物のお姫様を思わせた。
「おおおぉ~~~!」
十香は自分の纏ったドレスに驚嘆したように驚くが、その目はキラキラと輝いていた。
≪ずいぶん魔力を使ったな≫
「(ああ、正直ぶっ倒れそうだぜ)」
士道は右耳にインカムを付けると、再び仮面を纏い、ドレスに見惚れる十香を尻目に琴里に連絡する。
「琴里、魔力が切れそうだ。回収してくれ」
《分かったわ。でも少しバイクで移動して、バイクごとお姫様と一緒に回収するわ》
了解と士道は答えると、十香を抱き抱えた。お姫様抱っこである。
「シ、シドー・・・・?」
「それじゃいくぜ十香」
ウィザード<士道>はそのまま、十香を抱えたままマシンウィンガーに乗り、その場を去っていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そしてちょうど、折紙とウィザード<士道>の【ストライクウィザード】と十香の鏖殺公<サンダルフォン>のぶつかり合いの衝撃破で吹き飛び、気を失っていた他のAST隊員達も意識が回復すると。
仮面の魔法使いが、〈プリンセス〉らしき少女を抱き抱えて、バイクに乗って去り行く姿を目撃した。
そんな事つゆ知らずに、抱き抱えられた十香はウィザード<士道>に消え入りそうな声を発しながら話しかける。
「・・・・シドー」
「なんだ?」
「また・・・・、デェトに連れて行ってくれるか・・・・?」
「ああ。そんなもん、いつだって行ってやる」
ウィザード<士道>は、力強く首肯した。
次回で、ようやく第1巻が終わるかもしれません。