デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ーエレンsideー
「ちーーーーッ」
ヘルキューレ<エレン>は忌々しげに舌打ちをすると、持てる最高速度を駆使して、空を駆けた。
進路は東にあるーーーーウェスコットが宿泊しているホテルなのだが、ウィザード<士道>との戦いで身体は疲労困憊、顕現装置<リアライザ> も不具合を起こしており、速度が思うように出ない。
この速度では到着にはーーーーおよそ20分はかかるだろう。『着弾』までの正確な時間は分からないが、その後に天宮市を離れる事を考えると、安心できるものではない。出来ればワイズマンが共にいれば、転移魔法で逃げられるが、そんな思考は頭から振り払う。
と、ソコでユニットに内蔵されていたインカムに、外部で待機させていた部下から通信が入った。ウィザード<士道>と戦う際には、手を出さないように予め指示を出していたのだ。
「緊急事態です。現在、廃棄予定の人工衛星〈DSA-Ⅳ〉が、天宮市に向かって降下してきています。しかもそれはーーーー」
続く説明をして、部下が驚愕の声を上げる。
《な・・・・ッ、精霊を倒す為とは言え、なぜそんな事を・・・・! それにそんな作戦が、執行部長に知らされていないだなんてーーーー》
「いいえ、狙いは精霊ではありません。アイクです」
《は・・・・!? ウェスコットMDを・・・・!? ど、どういう事ですか!?》
部下が驚くのも無理はない。DEMの刃が、そのトップに向けられているのだから。
「先程本社から連絡がありました。先日、アイクに解任要求を出してきた取締役達が暴走した模様です」
言ってから、ヘルキューレ<エレン>は仮面の中で小さく舌打ちした。
「(ーーーーやはり、あの時に腕ではなく首を落としておくべきでした・・・・!)」
取締役達の作戦決行直前になった処で、取締役会の1人がウェスコットを恐れ、情報を第二執行部に流したのだがーーーーどうせ寝返るならもっと早くその賢い判断を決断して欲しかったものである。
悪態を吐きたい気分のヘルキューレ<エレン>だが、今は一刻も早くウェスコットを保護して、離脱しなければならない。
「ーーーー私はアイクの元に向かいます。あなた達は各自、爆風に巻き込まれないよう退避して下さい。その後、周囲の霊波反応を観測、もし爆発に巻き込まれた精霊がいたら、その霊結晶<セフィラ>を回収します」
《り、了解・・・・!》
通信を切ったヘルキューレ<エレン>は、空を駆ける。精霊は足止めのファントム達と交戦しているが、〈ラタトスク〉が噛んでいる以上、すぐに〈DSA-Ⅳ〉を観測し、保護して離脱するだろうと考えた。
ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーー。
「・・・・っ」
と、空を駆けていたヘルキューレ<エレン>が、街一帯に鳴り始めた、『空間震警報』の耳障りなサイレンに、ピクリと身体を動かした。
「空間震警報・・・・まさか、精霊が?」
呟いてすぐ、別の可能性が浮かんだ。
「(ーーーーアイクが邪魔だからと言って、日本の都市に人工衛星が落ち、それがDEM社の物と知られれば、ただでは済まない。取締役の愚か者共、この惨事を全て、空間震のせいにするつもりですか。なるほど、保身と権力欲しか頭にない者達ですが、合理的な考えをしたものです・・・・)ですが、させません」
ヘルキューレ<エレン>は、再びウェスコットの元へと飛んでいった。
ー士道sideー
「琴里! 十香達は!?」
《全員無事よ。メデューサが消えたのとほぼ同時に、十香達が戦っていたグレムリン達も転移魔法で逃げ出したわ》
ハリケーンドラゴンスタイルにチェンジしたウィザード<士道>が空を飛びながら琴里と話していると、空間震警報が街に鳴り響き、住人達の避難する様子を眼下に捉えた。
「空間震警報!?」
≪たわけ。違うわ≫
《辺りに空間の揺らぎは観測されていない・・・・これは奇跡的タイミングで起こった誤報かーーーー人工衛星の落下による被害を空間震のせいにしたい何者かの仕業よ》
「空間震のせいに・・・・って、一体誰が!?」
《・・・・恐らく、DEM社でしょうね》
耳に着けたインカムから琴里が歯噛みするような声が響き、ウィザード<士道>は眉をひそみ、先程のヘルキューレ<エレン>の様子を伝えた。
《・・・・確かに妙ね。もしこの行動が、精霊を一網打尽にする計画なのだとしたら、それを彼女が知らない筈はない・・・・でも、これだけの事ができる組織、実行力的にも、頭の悪いネジの外れ具体的にも、他にはないと思うけど・・・・》
≪もしくは、ヘルキューレにすら内密にした作戦だったのかも知れんが、今その思案は後回しだ。〈プリンセス〉達も交戦していたグレムリン達が撤退した。すぐに〈フラクシナス〉が回収した方が良い・・・・今はこの状況をどうにかせねばならんだろう≫
ドラゴンの言葉に、琴里は気を取り直すように言葉を発する。
《ええそうね。“気になる事があるし”》
「“気になる事”・・・・?」
《ーーーー当該の人工衛星から、微かだけど魔力反応が感知されたのよ》
「そ、それって、どういう事だ?」
《まだ詳しい事は分からない。でもーーーーDEM社が、ただ人工衛星の残骸を降らせてくるだけと考えづらいわ。何らかの方法で、大気圏を突破してくる事だって考えられる。“最悪の事態”を想定しておくべきよ》
「最悪の・・・・事態」
≪分からんかこの低能。最悪の事態とは、街に落下した人工衛星の被害にーーーーあくまで空間震に備えての街のシェルターでは、耐えられないかも知れんと言う事だ≫
「・・・・・・・・ッ! な、何だよそれ! 精霊達が狙いだからって、いくらなんでもそこまで・・・・!」
ウィザード<士道>が拳を握りしめながら叫びを上げると、琴里も難しげに唸ってきた。
《そこがまたーーーー分からないのよ》
「・・・・え?」
《DEMも、私達が空中艦を持っている事は知ってる筈。精霊が狙いって言うのなら、エレン・メイザースやファントム達を使って私達を分断しての各個撃破の方が確実性が高いわ。こんな杜撰な手段を取るとは思えない》
「じ、じゃあ、どういう事なんだよ、これは・・・・」
≪奴らの上がそんな判断ができない愚物がいたのか、遂に狂ったか、それともーーーー他の目的があるのかもな≫
「目的・・・・」
ドラゴンの言葉に、ウィザード<士道>はゴクリと息を呑んだ。数万人規模の犠牲者を出してでも達成しようとする『目撃』とは、一体。
ーーーーバシンッ。
「あでっ!!?」
ここでいつもの尻尾ド突き(威力強め)で思考の海から出る。
≪足らん脳ミソを無理に使った所で、答えなど100年経とうが出るわけ無いだろう。『オールドラゴン』にはまだ数分の回復が必要だが、『ドラゴンスタイル』ならば、人工衛星くらいは破壊できるぞ≫
「はっ、そうか! 琴里!」
《聞いてるわよ。でも、あなた達が動かなくても、〈フラクシナス〉の主砲で、墜落する前に人工衛星を撃ち落としてやるわ。そうすれば、仮に爆破術式が作動して、爆風や破片が地上に降り注いだとしても、地下にあるシェルターは無事の筈よ。・・・・まあ、地上は酷い事になるかもしれないけれど、それは空間震の時も同じだし、命が助かるだけありがたいと思ってもらわないと。後は陸自の復興部隊に頑張って貰いましょ》
「ああ!ーーーーん・・・・?」
力強く頷いたウィザード<士道>が太ももに手を当てたその時、小さいが妙な塊がある事に気づいたーーーーそれは、地下施設で、“琴里に化けた七罪が落としていったチュッパチャプス”だ。
「あーーーー」
それを思い出した瞬間。ウィザード<士道>はある事に思い至った。数瞬だけ固まり呆然としてしまう。
失念していた。1人だけ、逃走したまま、地上に残っている者がいるかもしれない。
《士道? どうしたの?》
≪・・・・・・・・≫
インカムから琴里の声が響き、ドラゴンはウィザード<士道>の動きを待っていた。
「琴里ーーーー七罪は?」
《・・・・っ》
「七罪は、まだ見つかってないんだろ・・・・?」
ウィザード<士道>の言葉に、琴里が声を詰まらせる。
普通の人間であれば、シェルターに逃げればいいが、精霊の七罪が従うかは分からない。そもそも地下施設に閉じ込められていた七罪が、自分から再び地上のシェルターに入りたがるとも思えなかった。
《それは・・・・でも、七罪だって馬鹿じゃあない筈よ! シェルターには入っていないにしろ、もう遠くに逃げてる可能性だってあるしーーーー仮に爆風と人工衛星の破片が降り注いだとしても、彼女は精霊よ!? それくらい簡単に防げる筈だわ!》
「そうかもしれない。でも・・・・七罪はまだ、エレンに受けた傷が完全に癒えてない筈だ。万が一って事も考えられる」
《・・・・・・・・》
≪〈イフリート〉よ。どうせ何を言ってもこの小僧は聞こうとしない。ギリギリまで〈ウィッチ〉を探させろ。時間になれば我が無理矢理にでも連れていく≫
「頼む琴里。七罪が危険に晒されるかも知れない以上、ただ黙っている事なんて・・・・俺にはできない」
拳を握りながら言うと、琴里はしばしの沈黙を続けた後ーーーー。
《・・・・はぁ》
と、呆れたようなため息を返した。
《・・・・分かったわ。って言うか、これ以上言っても寝耳に水でしょうし》
「琴里・・・・!」
《ただし、タイムリミットはこっちの迎撃準備が整うまでよ。それ以上の捜索は認めないわ。それと、すぐに連絡がつくように、インカムは着けておく事》
「ああ、分かってる」
《なら、早く行きなさい。こちらも、余った自立カメラで七罪の行方を探ってみるわ。まあ、あまり期待されても困るけれど》
「了解・・・・! 琴里!」
《何よ》
「ありがとうな」
士道が言うと、琴里はインカム越しにフンと鼻を鳴らした。
《・・・・それはこっちの台詞。焦って大事な事を見落としてたわ。頼んだわよ、士道。手綱は握っていなさいよ、ドラゴン》
「ああ!」
≪やれやれ・・・・≫
ウィザード<士道>は眼下の住宅街の街路に降り立つ。
住民の避難は粗方済んだのか、道にはほとんど人影が見受けられない。少し前まで人々がそこにいた事を匂わせる気配だけしかない奇妙な沈黙。精霊と対話する為に何度も無人の街を歩いているウィザード<士道>だが、何度経験しても、この妙な感覚は好きになれそうにない。
ウィザード<士道>は飛びながら大きく息を吸って、辺りに響くように声を張り上げた。
「ーーーー七罪!!」
不自然な程に静かな住宅街に、ウィザード<士道>の声が響き渡るが、やはり返事は返ってこない。
しかし予想済みなので、更に喉を震わせる。
「もし近くにいるなら、聞いてくれ! 今からここら辺一帯に、人工衛星の欠片が無数に降ってくる! 地上にいたら危険なんだ! 急いで避難しないといけない! だから少しの間だけでいい! 俺と一緒に来てくれ! もうお前を部屋に閉じ込めたりはしない! 全てが終わったなら、好きな所に行って良い! だから!」
ウィザード<士道>の叫びが住宅街の街路に反響し、辺りに霧散していった。返事はやはり、ない。
だが、これを無駄な行為とは思っていない。
七罪がどこに行ったのかは分からない。もしかしたら琴里の言うように既に別の場所へ逃げ延びているのかも知れないし、住民に紛れてシェルターに行ったのかも知れない。
しかしもしまだ地上にーーーーこの天宮市にいるとしたら、地下に換金された仕返しをする為に、何処かに隠れて士道の様子を窺っている可能性があると踏んでいたのである。
その僅かな可能性に賭けて、叫び続ける。
「俺の事が気に入らないなら、それでもいい! 街の人達と一緒にシェルターに隠れるか、全速力で別の街に逃げてくれ! 最悪ーーーー隣界に逃げたって良い! 兎に角、この街にいたら危険なんだ! 頼む! ここから逃げてくれ!」
飛びながら大声を上げるのは、もしかしたらこの近辺に七罪が隠れているかも知れないからだ。
ウィザード<士道>は七罪に声を届ける為、またも大きく息を吸って、声を張り上げる。
≪(・・・・まぁったく、学習せんな)≫
ただドラゴンは魔力回復に集中しながらも、ウィザード<士道>に呆れたため息を吐いていた。
ー七罪sideー
「ーーーー七罪! 頼む! 聞こえていたら返事をしてくれ!」
士道が、幾度目とも知れない叫び声を上げながら、無人の街を飛んでいく。
「・・・・・・・・」
そんな声を、“七罪”は、無言で聞いていた。
恐らく士道は、逃げた七罪がまだこの近辺にいて、しかも士道を監視できる位置にいると考えているのだろう。ーーーー実際、その考えは当たっていたのである。
「七罪! 七罪! いないのか!? 七罪!」
ウィザード<士道>が、すがるような声を街に響かせる。ウィザード<士道>は叫びを止めようとしなかった。車を避け、建物の間をすり抜け、何度も七罪の名を呼び続ける。
「(ーーーーなんで、そこまで)」
七罪はそんな言葉を雫れそうになるのを、寸前で止めた。
別に声を発してしまったら居場所が知れてしまうだなんて思った訳ではない。
ただ単純に、そんな言葉を発するまでもなく、『答え』は分かっているのである。
「(ーーーーなんで?)」
そんなもの、七罪を助ける為に決まっている。
この辺り一帯に、人工衛星の破片が降ってくる。恐らくウィザード<士道>の言っている事は本当だろう。周囲の住人達が皆避難している処を見ても、先ほどの琴里との会話を聞いても、何らかの災害が予見されているのは間違いあるまい。
ウィザード<士道>は、自らの危険を顧みず、もしかしたら七罪がまだ残っているかも知れない、と言う理由だけで、1人この無人の街に残ったのである。
「ぅ・・・・」
それを考えると、七罪の胸に、またあの妙な感覚が広がっていった。
フワフワで、グルグルで、グラグラして、気持ち悪くなる。
ーーーー七罪が初めて静粛現界をした時、こちらの世界の人は誰も、七罪の事を見てくれなかった。
七罪は、それが嫌で仕方なかった。話しかけて欲しくて、構って欲しくて、誰かに認めて欲しくてたまらなかった。だからーーーー天使の力で、自分の姿を作り替えた。
綺麗なお姉さんに変身した七罪には、誰もが親切にしてくれた。皆が七罪の機嫌を取ってくれたし、言う事を聞いてくれた。
でもーーーーそれをいくら繰り返しても、七罪の心は満たされなかった。
結局誰も、七罪を見てはくれない。結局誰も、七罪を認めてくれない。チヤホヤされればされるほど、そんな気持ちは強くなっていくばかりだった。
だが、士道。今捜しているのは、誰かにも認められていなかった『本当の七罪』だった。
ーーーー誰からも無視された七罪を、彼は、見つけようとしてくれた。
「・・・・っ」
頭の中に、次々とこれまで起こった出来事が浮かんでくる。
エレンに襲われた時、士道や精霊達が危険を侵してまで、傷付きながらも助けてくれた事。
七罪の『希望』になってくれると言った事。
皆で七罪を可愛く変身させてくれた事。
自分を可愛いと思わせてくれた事。
ーーーーこんな自分を、認めてくれた事。
「・・・・まさか、私」
もはや考えるまでもなかった。
七罪は、士道にーーーー死んで欲しくなかったのだ。
秘密を見られたとかそんな事よりも、ちゃんと本当の自分を見てくれた人ができた事が、嬉しくてたまらなかったのだ。
「・・・・七罪!」
「・・・・っ、・・・・」
名前を呼ばれ、一瞬声をあげそうになった。
声を出しても大丈夫な筈だ。そうすれば士道はきっと七罪を見つけてくれるだろう。後は安全な場所に逃げれば良い。
しかし、それを自覚してしまった七罪は、自分が抱く初めての感情に、どうしたら良いのか分からなくなってしまっていたのだ。
「だ、大丈夫・・・・大丈夫」
士道に勘づかれないように小さな声で呟く。
あのエレン<化け物>と互角に戦えるウィザード<士道>だ。いざ破片が降ってきてもどうにかできる筈だ。最悪、ウィザード<士道>の相棒のドラゴンか、背後にいる組織が何とかしてくれるに違いない。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・」
七罪は心の中で、自分に言い聞かせるように唱えながら、ウィザード<士道>が一刻も早く七罪の捜索を諦めるか、ドラゴンが逃げろと指示して、安全な場所に避難してくれる事を願った。
ー琴里sideー
〈フラクシナス〉に戻った琴里は変身を解除してから士道の提案を呑み、無人の街に送り出してから、およそ20分。クルーの報告が艦橋に響くのを確認して、唇を開く。
「ーーーー士道の現在位置は?」
「はっ、ハリケーンドラゴンのまま住宅街から繁華街を飛び、進路方向から恐らく、来禅高校に向かっていると予想されます」
「自立カメラに七罪の姿は?」
「残念ながら、確認されていません」
「そ」
元より変身能力を持った七罪がそう簡単に見つけられるとは思っていない琴は短く答えた。
と、琴里が次の指示を発そうとしていた処で、艦橋下段の箕輪が声を上げた。
「! 司令!」
モニタに映し出されていた赤いアイコンが点滅を始めていた。
通常、人工衛星が落下する際は、徐々に衛星起動を外れ、地球の周囲を回りながら、大気や重力の影響を受けてゆっくりと高度を下げていき、大気圏に突入して燃え尽きるのだ。
が、モニタに表示されたアイコンは、衛星起動上から、まるで垂直線を引くかのように、真っ直ぐ地球に向けて落下していたのである。ーーーーこれは明らかに、異常な事態だった。
「ーーーー来たわね」
琴里はペロリと唇を舐めると、バッと手を掲げてクルー達に指令を発した。
「すぐに落下予測地点を割り出して! AR-008、3号機から5号機までを並列駆動、いつでも〈ミストルティン〉を撃てるようにしておいてちょうだい! 士道を回収後、迎撃ポイントに移動、ターゲットを破壊するわ!」
〈フラクシナス〉に搭載されたAIならば、人工衛星の落下地点を正確に予測する事が可能である。
「了解! AR-008、3号、4号、5号、魔力生成開始!」
「落下予測地点、出ました! 天宮市東天宮付近を正確に目指しています!」
「ち、士道との位置が存外近いわね」
幹本の報告に小さく舌打ちするが、精霊最速の八舞姉妹と同格のスピードを持つハリケーンドラゴンならば、今から離脱すれば十分回避できるくらいである。
琴里は「ここまでね・・・・」と呟くと、モニタの端に、空を駆けているウィザード<士道>の姿が映し出された。
「士道、聞こえる?」
《ああ、聞ごえる》
七罪を呼ぶために相当喉に負担をかけたのか、ガラガラだった。
「残念だけどタイムリミットよ。〈フラクシナス〉に戻って」
《な・・・・っ、もうなのか!? 頼む、後少うわっ!》
すると、モニタに映るウィザード<士道>が、飛んで行って、落下予測地点から離れようとしていた。
《な、なんだ!?》
「どうしたの?」
《か、身体が勝手に動いてーーーードラゴン! お前か!?》
≪伊達に精霊達の霊力を食って力を上げておらんわ。少しだけ貴様の身体を我から動かす事もできるようになったのだ。もはや時間だ。〈イフリート〉とも約束しただろう≫
「でも、でもさ!」
「士道」
すがるようにドラゴンに言うウィザード<士道>に、琴里はガリッ、とチュッパチャプスを噛んで声を発する。
「・・・・守ろうとする命の中に、ちゃんと自分を入れてちょうだい」
≪皆が幸福ならば自分は犠牲になって良いなど、そんなのは結局は自己満足だ。自分の幸福と命を大切にできないエゴイストのな≫
2人に言われ、ウィザード<士道>はしばしの間黙り、抵抗を止めてから、小さく息を吐いた。
《・・・・・・・・わかった。ごめん、我が儘言って》
「別に。慣れっこよ」
琴里は手をヒラヒラさせながら言ったその瞬間、緊急事態を告げるブザーが鳴り響く。
クルー達から人工衛星の落下速度が急激に上がったと告げられる。
琴里は苦い顔をして、予測到達時間の修正をさせると、今から迎撃に向かわないと間に合わないと報告を受けた。
ウィザード<士道>は、飼い主<ドラゴン>がいれば不愉快だが安心できる。
「ドラゴン。士道の手綱を任せるわ・・・・」
≪ああ≫
「士道。無茶しないで」
《ああ。ーーーー頼んだぞ》
「ええ」
震えそうになる声を抑えて通信を切る琴里は、クルー達に指示を飛ばしていく。
「ーーーー司令! 迎撃ポイントに到達しました!」
「ターゲット、30秒後に所定のポイントを通過します!」
「AR-008、魔力充填完了! いつでも行けます!」
クルー達の声が艦橋に反響し、琴里は余計な雑念を振り払うかのように首を振り、モニタをジッと見つめた。
画面の隅に表示されたカウントダウンに合わせるようにしながら心の中で数を数え、ターゲットが画面にちょうど入り込んだ瞬間ーーーー声を上げる。
「ーーーー〈ミストルティン〉! 撃てッ!!」
琴里が叫ぶと同時、〈フラクシナス〉な砲門から、凄まじい魔力の本流が放たれた。