デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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一歩踏み出す勇気

ー士道sideー

 

ウィザード<士道>が皆と気合いを入れると、ハーミット<よしのん>とベルセルク<八舞姉妹>が不意に声をあげた。

 

「にょわっ!」

 

≪よしのん・・・・っ!≫

 

「く、何だコヤツ、急に勢いを増しおったな」

 

「憤慨。空気を読んで欲しいです」

 

「よしのん! 耶倶矢! 夕弦!」

 

≪どうやら、人工衛星と合体しているカスタムタイプの〈バンダースナッチ〉と言う屑鉄人形が、スラスターの出力を上げたようだな・・・・!≫

 

ドラゴンがそう言い、上空を見上げると、再び人工衛星がゆっくりと地上に近づいてくる。

 

「そうは・・・・させませんよっ!」

 

[ガブリエルキーボード]

 

ディーヴァ<美九>が、専用武器のショルダーキーボード、『ガブリエルキーボード』を召喚して奏でると、光の五線譜が無数に空中に現れ、人工衛星の真下に網状の形になり、落下を防ぐ。

 

「まだまだ行きますよー! 【行進曲<マーチ>】!」

 

叫ぶと同時に、ディーヴァ<美九>の指が、ガブリエルキーボードの鍵盤を滑らかに踊る。すると勇ましい曲調が響き渡りーーーー人工衛星を押しとどめている風と氷の壁が、さらに強度を増した。

 

「うわお! やるね美九ちゃん♪」

 

≪すごい・・・・です≫

 

「くく、やはりこの曲はよい。血湧き肉踊るわ・・・・ッ!」

 

「渾身。ナイスアシストです」

 

ハーミット<よしのん>と四糸乃、ベルセルク<八舞姉妹>が声を弾ませる。音を司る天使〈破軍歌姫<ガブリエル>〉は演奏する曲調を変える事で、相手を操ったり、回復させたり、力を上げたりする優れたサポート能力を持つ。それと同じ事をガブリエルキーボードもできるのだ。

そして今奏でた【行進曲<マーチ>】は、聞いた者の心と身体を奮い立たせ、通常以上の力を振るえるのである。

ウィザード<士道>は身体に力がみなぎるのを感じた。

 

「よし・・・・これなら!」

 

≪待て。〈イフリート〉≫

 

ウィザード<士道>がここにいる〈仮面ライダー〉全員で同時攻撃すれば、敵の随意領域<テリトリー>を破れると思ったが、ドラゴンが待ったをかけ、イフリート<琴里>が声を発する。

 

「士道。確かにここには全員が揃っているけど、あの人工衛星には爆破術式が付いているの。破壊するとそれが発動してしまうわ。だからもっと上空で破壊しないといけないのよ」

 

「ーーーーっ、そ、そうか・・・・!」

 

確かにその通りである。ハーミット<よしのん>とベルセルク<八舞姉妹>のお陰で落下の勢いは殺す事ができるが、この人工衛星は純粋な爆弾としての性能はまだ残っている。こんな地表近くで爆発させたなら、直下のシェルターはひとたまりもない。

 

「・・・・ドラゴン。『オールドラゴン』であの人工衛星を押し上げるられるか?」

 

≪・・・・ギリギリ不可能だな。デカブツの質量は軽く見積もっても数トン、しかも鉄屑人形共のスラスターによって落下速度が上がっており、さらに随意領域<テリトリー>が邪魔だ≫

 

ドラゴンの言葉にウィザード<士道>が仮面越しに渋面を作ると、ベルセルク<八舞姉妹>が声を響かせる。

 

「くく、ならば我らの全員の力で空に押し戻すしかあるまい」

 

「首肯。その後全員でライダーキックをおみまいするしかありません」

 

「・・・・できるのか?」

 

「く、くく・・・・我らを誰と思うておる。万象薙ぎ伏す颶風の御子・八舞であるぞ」

 

「請負。夕弦達に任せてください。この程度のお荷物、ポイポイのポイーです」

 

ウィザード<士道>が問うと、テンペスト<耶倶矢>とストーム<夕弦>は一瞬顔を見合わせた後、自信ありげに言って頷く。

だが、いかに十全に近い力を振るえても、そう簡単に事が運ばなさそうだったが、ベルセルク<八舞姉妹>は一言も泣き言を吐かず、小さく頷き合うと、同時に両手を広げた。

 

「ふん・・・・さあ、いくぞ夕弦」

 

「応答。徹底的にクライマックスです」

 

2人が言うと同時に、辺りに渦巻いていた風が、一層に勢いを増し、ハリケーンドラゴンのスペシャルのように、巨大な竜巻を作り出した。

 

「ウ、ェ、エェェェェェェェェェェイッ!」

 

「渾身。せいやー」

 

そして2人が両手を上方に掲げると、人工衛星は少しずつだが、確実に上昇していた。

 

「お、おお・・・・! (バシッ!) おがっ!? 何すんだよドラゴン! こんな時に!」

 

ウィザード<士道>が拳を握り、これならば! と思っていると、ドラゴンがいつもの尻尾ド突き(威力弱め)を叩き込まんだ。

 

≪この能天気たわけ者! あれを見ろ!≫

 

ドラゴンが指した方を見ると、ベルセルク<八舞姉妹>に向かって小型ミサイルが飛んできて、2人の背中に着弾しようとした。

 

「っ! 耶倶矢! 夕弦!」

 

[コネクト プリーズ] [コピー プリーズ]

 

直ぐ様ウィザーソードガン・ガンモードを取り出し、すぐに2丁拳銃にすると、風の弾丸で放ってミサイルを撃ち抜き、空中で爆破した。

 

「大丈夫か2人共!?」

 

「大事ないぞ」

 

「感謝。助かりました。しかし、鬱陶しいのが現れました」

 

ベルセルク<八舞姉妹>が、仮面越しに上空を見据えると、ウィザード<士道>も目をやりーーーー息を詰まらせた。

 

「な・・・・っ、あれは・・・・!」

 

空の彼方から無数の、正確な数は分からないが、少なく見積もっても50体の、それぞれの手足に様々なCR-ユニットを纏ったーーーー〈バンダースナッチ〉の軍団が、ウィザード<士道>達に向かって臨戦態勢を整えていた。

 

「空中艦に配備されていた〈バンダースナッチ〉の部隊を、こっちに送ったみたいね」

 

≪令音<無表情女>達からの連絡は無かったのか?≫

 

「随意領域<テリトリー>の影響か、通信が不具合を起こしているわ。まぁ、神無月は普段はあんなでも実力があるから大丈夫だと思うけど」

 

ドラゴンとイフリート<琴里>が会話していると、〈バンダースナッチ〉部隊は空中で上下左右に展開すると、人工衛星を上昇させようとしているベルセルク<八舞姉妹>、落花を防いでいるハーミット<よしのん>、演奏で皆の力を増幅させているディーヴァ<美九>、そして人工衛星を破壊する決定打となるウィザード<士道>とプリンセス<十香>とイフリート<琴里>に、それぞれ襲いかかってきた。

 

「くーーーー気を付けろ、皆!」

 

ウィザード<士道>が叫ぶと同時に、空に散開した〈バンダースナッチ〉部隊が、一斉にマイクロミサイルを放ってくる。

 

「くっそっ!!!」

 

「くぅっ!」

 

ウィザード<士道>が2丁拳銃のソードガンを、イフリート<琴里>がカマエルブレイカー・バズーカモードを撃って少しでも数を減らそうとするが、流石に50体もの機械人形から放たれるマイクロミサイルを全て撃ち落とせず、十数発くらいが精霊達に迫る。皆人工衛星の落下をギリギリの所で食い止めていた為、それに対応しきる事ができない。プリンセス<十香>はサンダルフォンブレードで、イフリート<琴里>は炎で、ハーミット<よしのん>は冷気で、ベルセルク<八舞姉妹>は風で、美九は音でそれぞれ障壁を作り、防御しようとするが、完全にその衝撃を殺す事はできず、

 

ドガンッ!ーーーードガドガドガドガドガドガドガドガドガドガァァァァァァァァンンン!!!

 

1つの爆発が周囲のミサイルも連鎖するように誘爆し、爆炎と共に辺りの空気を震わせる。

 

「ぬ・・・・っ!」

 

「にゅぅ・・・・!」

 

≪きゃ・・・・!≫

 

「くぅ!」

 

「ぐえっ!」

 

「鈍痛。うきゅう・・・・」

 

「ちょ、ちょっと! 何なんですかぁ!」

 

辺りから皆の悲鳴が響き、人工衛星の落花を止めている風と五線譜の壁がにわかに軋み出す。

 

「皆!」

 

「おのれっ!」

 

唯一、迫り来たミサイルを全て凪ぎ伏せていたプリンセス<十香>は空を駆けると、攻撃を放った〈バンダースナッチ〉部隊を、次々と切り裂いていく。

 

「今だ、耶倶矢! 夕弦! 人工衛星をーーーーうぐっ!」

 

「十香っ!」

 

しかし、1人で相手をするには数が多すぎた。四方八方から迫る敵が、その合間を縫うようにして放たれるマイクロミサイルやレイザーカノンに、次第に押されていく。

 

「士道! 十香は任せなさい!」

 

「頼む琴里! このっ!」

 

イフリート<琴里>がプリンセス<十香>の助けに行くと、ウィザード<士道>は自分にレイザーブレイドを振るってきた〈バンダースナッチ〉の一撃を回避すると、ソードガンをソードモードに変えて四等分に切り裂いた。綺麗に裂かれた〈バンダースナッチ〉が爆発する。

しかし、この機械人形の真の恐ろしさは、その数と連携だった。味方がやられても、身体が裂かれても構う事なく、死を恐れぬ人形達が次々と襲い掛かってくる。

 

「くーーーー」

 

ウィザード<士道>が攻撃を避け、捌き、隙を衝いて反撃を続けたが、ヘルキューレ<エレン>との戦いでの疲労と身体の節々の痛みが走り、動きが鈍くなってきた。

無論、情けや慈悲が欠片もない〈バンダースナッチ〉が、まるで表情のない死神のように、この好機を逃す事なく、ウィザード<士道>に向かってきた。

 

「! シドー!」

 

「避けなさい士道!」

 

「士道くん!」

 

≪士道さん・・・・!≫

 

「士道!」

 

「焦燥。士道!」

 

「だーりん・・・・!?」

 

プリンセス<十香>達がそれに気づき、声をあげるが、彼女達も無数の〈バンダースナッチ〉に囲まれ、駆けつけたくても、身動きがとれない状態だった。

〈バンダースナッチ〉がウィザード<士道>の眼前に立ち、レイザーブレイドを振り上げる。

 

「くそ・・・・っ!」

 

「シドー!」

 

プリンセス<十香>の声が響く中ーーーー〈バンダースナッチ〉が、ウィザード<士道>目掛けて正確に剣を振り下ろしてきた。

 

 

 

≪「いつまでそうしているつもりだ? 〈ウィッチ〉!」≫

 

その時、ウィザード<士道>が、いや、士道の口を使って、ドラゴンが声を発した。

 

 

 

 

 

 

ーウェスコットsideー

 

「アイク!」

 

東天宮にある高級ホテルのスイートルームにワイズマンを含めて、メデューサ<ミサ>とグレムリン<ソラ>、そして人間態となったガルーダファントム達といたウェスコットと“1人の少女”がいた。

ウェスコットの後方の天宮市の街並みを一望できる巨大窓から、宙を浮いたヘルキューレ<エレン>が、四角くにくり抜かれたガラスの向こうから、ウェスコットを呼ぶ。

 

「やあ、エレン。素敵な登場だが、少しノックが荒っぽいのではないかな」

 

綺麗なガラスの切断面を見ながらウェスコットが言うと、ヘルキューレ<エレン>はガラスが開いた穴から入ってきた。

 

「冗談を言っている場合ではありません。今すぐ逃げてください。先の取締役会での造反組が、あなたを狙ってここに人工衛星を墜落させるつもりです」

 

「ああ、聞いているよ。先程私の方にも連絡がきた」

 

ウェスコットが唇の端を上げると、クックッと笑った。

 

「まさかマードックに、これ程の度胸と実行力があるとは思っていなかったよ。暗殺者を寄越すのではなく、廃棄予定の人工衛星を使うと言うのも面白い。いやはや、彼を過小評価していたかもしれないな。素晴らしい人材だ。イギリスに帰ったなら、褒めてやらねばならないな」

 

「楽しそうだね、ミスター・ウェスコット♪」

 

「あぁ楽しいさミスター・ソラ。まさか地位や権力や保身の事しか頭にないマードックに、こんな大胆な作戦を立案し、実行するとは、サプライズに飛んでいるよ」

 

「・・・・アイク」

 

ソラとウェスコットの楽しげな様子を不満がり、ヘルキューレ<エレン>が言ってくる。

 

「とにかく、このままでは危険です。避難するので必要な物を纏めてください」

 

「別に、ここでも大丈夫だろう。何、大した事にはならないさ」

 

「・・・・、まさか、この魔獣共の首魁の転移魔法で脱出するのですか?」

 

ワイズマンに顔を向けて言うヘルキューレ<エレン>。

一瞬ミサと視線が交わると、凄まじい火花が散るが、ウェスコットが口を開く。

 

「いや、それ以前に、私はマードックの作戦は失敗すると踏んでいるよ」

 

「どういう事ですか?」

 

ウェスコットの言葉に、ヘルキューレ<エレン>はミサから視線を外して、怪訝そうに眉を潜めると、ワイズマンが声を発した。

 

『ーーーーこの街には、『指輪の魔法使い』、世界最強の魔術師<ウィザード>であるエレン<彼女>を破った〈仮面ライダー〉・五河士道と、精霊達の生活の基盤となっている。さらに精霊保護の〈ラタトスク〉の空中艦も存在している。からだな?』

 

「その通りさミスター・ワイズマン。彼らならば、きっと何とかするだろうさ。そうだろうエレン? 何しろーーーー“エリオットが作り上げた組織なのだからね”」

 

「・・・・・・・・」

 

士道と“エリオット”と言う名前が出た瞬間、ヘルキューレ<エレン>が不快そうな雰囲気を纏う。士道に対しては、自分の最強のプライドを傷つけた怨敵としてだから分かるが。

 

「信じられません。そんな理由でここに留まると言うのですか?」

 

「ああ。いけないかな?」

 

「当然です。あなたは自分の重要性を分かっていないのですか」

 

「ふむ・・・・」

 

「アイク」

 

咎めるような口調でヘルキューレ<エレン>が言ってくると、ウェスコットは小さく息を吐いて両手を小さくあげた。

 

「分かったよ。ではこうしよう。確かに万一と言う事はある。マードックは周到だ。2の手、3の手がある事は十分考えられる。だからーーーー」

 

ウェスコットがヘルキューレ<エレン>に向けていた顔を前方ーーーー部屋の中心に戻すと、先程から一言も言葉を発さず立っている、“1人の少女”を見る。

 

「彼女を、現場に派遣しておこう」

 

「・・・・、彼女を、ですか」

 

「ああ。〈メドラウト〉の丁度良い試運転にもなるだろう」

 

ウェスコットはそう言うと、目を細目ながら“少女”に問うた。

 

「ーーーー君の力を見せて欲しい。どうかな?」

 

「・・・・・・・・(コクリ)」

 

“少女”は、やはり何も言わぬまま、ただ静かに頷いた。

 

 

 

 

 

ー七罪sideー

 

「・・・・、・・・・、・・・・」

 

七罪は、荒くなっていく息をどうにか押し殺した。

ドクン、ドクン、と。先程から心臓がイヤに早く鳴っている。まるで巨人の足音のように、七罪の内側から鼓膜を震わせてくる。

理由は考えるまでも無かった。ウィザード<士道>と、仲間達だ。

途中までは良かった。十香達は避難したようだし、琴里からの連絡を受けたウィザード<士道>は、ドラゴンが無理矢理だが避難させようとしていた。七罪の思い通りに全ては事は上手く運んでいた。だが、ウィザード<士道>が人工衛星を止めようとし始めたのである。

ーーーーそして、今ウィザード<士道>は、絶体絶命の窮地に追い込まれていた。

駆けつけた仲間達と共に人工衛星を空に押し戻そうとしていた所で、無数の〈バンダースナッチ〉とか言う機械人形が現れ、彼らを襲い始めた。

突如動きが鈍くなったウィザード<士道>に、〈バンダースナッチ〉が剣を振り上げる。一瞬後には、あの魔力で編まれた刃が振り下ろされ、ウィザード<士道>の鎧と身体は切り裂かれるだろう。七罪は、ヘルキューレ<エレン>に腹を切り裂かれた痛みを思いだし、思わず身を震わせた。

 

「ぁ、ぁ・・・・」

 

このままでは、きっとウィザード<士道>は死んでしまう。それを考えると、七罪はエレンに傷を負わされた時の事を思い出すよりも、激しい胸の痛みを感じた。

 

「大丈夫・・・・大丈夫・・・・」

 

が、それでも七罪は自分に言い聞かせるように何度も呟いた。どうせ何とかなるのだ。自分なんかが出なくても、士道が死ぬ筈がない。

現に、ヘルキューレ<エレン>と互角に戦い、人工衛星を止めようとした時も、十香達が来てくれた。士道には頼もしい仲間が沢山いるのだ。今更、七罪何かが出ていっても良いような場面ではないのだ。

 

「・・・・大丈夫よ・・・・どうせ、誰かが助けてくれるんでしょ・・・・? 早くしなさいよ・・・・」

 

ちいさな声で言いながら、士道を助けてくれる誰かを待つが、精霊達は皆〈バンダースナッチ〉に足止めされ、駆けつける事ができない。

 

「早くしなさいよ・・・・誰か・・・・誰か・・・・」

 

七罪は、痛いくらいに脈打つ心臓に顔を歪めながら言うもーーーー誰も、現れなかった。

〈バンダースナッチ〉が、ウィザード<士道>目掛けて剣は振り下ろす。

 

「誰か・・・・誰≪「いつまでそうしているつもりだ? 〈ウィッチ〉!」≫ っっ!!」

 

ウィザード<士道>から放たれたその言葉にーーーーまるで七罪は背中を叩かれたようにビクンッ! と跳ねた。

 

≪「このまま一歩も踏み出さず、蹲っていていても、何も変わらんぞ。今の自分が嫌いならば、一歩踏み込んでみろ!」≫

 

ウィザード<士道>ではない、この口調は恐らく別の誰か。しかし七罪は漸く、この場に『誰か』が1人しか存在しない事に気づいた。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「な・・・・ッ!?」

 

ウィザード<士道>は驚愕の声をあげた。ドラゴンが突然自分の口を使って喋ったかと思うとーーーー。

ポケットに入れていた、地下で拾ったチュッパチャプスがまるで転送したかのように現れ、その小さな形で〈バンダースナッチ〉の斬撃からウィザード<士道>を守ったのである。

チュッパチャプスはレイザーブレイドを弾き飛ばすと、そのまま〈バンダースナッチ〉の頭部を破壊した後、淡く輝き、その小さなシルエットが徐々に大きくなっていく。

数秒後には、魔女のような霊装を纏った小柄な少女もなっていた。

 

「なーーーー七罪!?」

 

「ずっと飴に変身して士道の傍にいたの!?」

 

ウィザード<士道>とイフリート<琴里>が思わず叫んでいた。

 

「七罪、お前ーーーー」

 

ウィザード<士道>が言うと、七罪は視線を合わせようとしないまま、小さく唇を開いた。

 

「・・・・く、しなさいよ」

 

「え?」

 

「・・・・早くしなさいよ。あのデカいの、壊すんでしょ」

 

言って、帽子のつばで顔を隠すようにしながら背を向ける。

だがそれで分かる。自分達に全く心を開いてくれなかった七罪が、こんな状況だが、自分から手伝ってくれた事が、たまらなく嬉しい。

 

「・・・・おうッ!」

 

ウィザード<士道>が力強く頷き、空中で立ち上がる。

がーーーー。

 

「きゃあ!」

 

その時、背後からディーヴァ<美九>の悲鳴が聞こえたかと思うと、辺りに流れていた勇猛な行進曲が途切れた。

〈バンダースナッチ〉の攻撃で演奏が続けられるなくなったようだ。ディーヴァ<美九>が後方に飛び退き、群がる〈バンダースナッチ〉を『声』で攻撃する。

すると、演奏が途切れると同時に、人工衛星を押し止めていた五線譜の網が消え、氷の壁が崩れ始め、辺りに渦巻いていた風も勢いをなくしていく。

 

「な・・・・っ!?」

 

ディーヴァ<美九>の演奏で底上げされていたハーミット<よしのん>とベルセルク<八舞姉妹>の霊力が、壁の維持にまで回せなくなったのだろう。枷を失った人工衛星が再び加速し、地上目掛けて落下を始める。

 

「シドー!」

 

ソコで、〈バンダースナッチ〉を振り払い、プリンセス<十香>がウィザード<士道>と七罪の元に来た。七罪に驚くが、すぐにウィザード<士道>に向き直る。

 

「大事ないか、シドー!」

 

「ああ大丈夫だ。それよりーーーー」

 

ウィザード<士道>が落ちてくる人工衛星を見上げると、プリンセス<十香>が戦慄した様子で頷く。

 

「うむ・・・・だが、一体どうすれば良いのだ!? ここであれを破壊すれば、大爆発が起きてしまうのだろう!?」

 

「・・・・ふん。良いから、ブッ壊しちゃいなさいよ、あんなの。アンタ達の力なら、できるじゃない」

 

「いや、あれには爆破術式って言うのがーーーー」

 

「ふんーーーー〈贋造魔女<ハニエル>〉!」

 

プリンセス<十香>が慌てた様子で言い、七罪が鼻を鳴らし、ウィザード<士道>が言いかけた所で、七罪が再び不機嫌そうに鼻を鳴らし、右手を前方に突き出し、箒型の鏡の天使〈贋造魔女<ハニエル>〉を召喚した。

そして、天使の先端が展開し、目映い光が辺りを包み込んだ。

 

「うわ・・・・っ!?」

 

「ぬ!?」

 

2人が一瞬目を覆い、次に目を開けた瞬間。

 

「なっ・・・・」

 

地上数百メートル地点まで迫っていた人工衛星が、青いコブラを被ったゆるキャラのようなマスコットに変貌していた。ご丁寧に『ラブ~』と台詞の吹き出しまで出して。

 

≪鏡の天使の力で、マスコットにしたのか。これならば爆弾としての能力は極めて低くなったな≫

 

「七罪、ありがとう!」

 

「ほら、早くしなさいよ・・・・!」

 

ウィザード<士道>が七罪に向けて親指を立て、短く礼を述べると、七罪は照れ隠しするように顔を背けて、苛立たしげに言った。

 

≪・・・・良し、行けるぞ!≫

 

「おう!」

 

ドラゴンの言葉に頷いたウィザード<士道>は、フレイムドラゴンリングをドライバーに翳した。

 

[フレイム! ドラゴン! ボゥー!ボゥー!ボゥーボゥーボォー!!]

 

ハリケーンドラゴンからフレイムドラゴンへとチェンジし、すぐに『ドラゴタイマー』を起動させる。

 

[ドラゴタイム セットアップ! スタート!]

 

チッチッチッ・・・・と、秒針が青に緑に黄に到達すると、ウィザード<士道>はレバーを押した。

 

[ウォータードラゴン!]

 

[ハリケーンドラゴン!]

 

[ランドドラゴン!]

 

「ハッ!」

 

「フッ!」

 

「フンッ!」

 

各エレメントのドラゴンスタイルが召喚される。

 

「頼むぜ、俺達!」

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」

 

3人のウィザード<士道>は縦横無尽に飛び回り、精霊達が相手取っていた〈バンダースナッチ〉達を破壊した。

 

『全員の力を結集させろっ!!』

 

ドラゴンの声が精霊達に響くと、精霊達は一斉に、ドライバーに武器を翳し、ウィザード<士道>も、『キックストライクリング』を翳した。




諸事情により、『コーディネート・七罪』と『メイクアップ・七罪』を結合させました。

次回で『第九章』を終わらせます。
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