デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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幕間7
折紙の決意と七罪の襲撃


鳶一折紙と言う少女が『特別』になったのは、今から凡そ5年前。

幼少期より聡明で、学業成績、運動能力、どれも優秀な成績を出せる子供だったが、あくまでも常識の範囲内である。精々親が保護者会や三者面談で鼻を高くできる程度であった。

得意科目は算数。苦手科目は国語。

好きな食べ物はグラタン。嫌いな食べ物はセロリ。

将来の夢はーーーー可愛いお嫁さん。

世界は常識と優しさに満ち、誰もそれを疑おうとはしなかった。己にできる範囲の事をキチンとやっていれば、友人達も、大人達も褒めてくれた。そんな優しい世界が、いつまでも続く物だと、特に意識をするでもなく思っていた。

だが、あの忌まわしい5年前の夏の日、折紙を取り巻く全ては変わってしまった。

ーーーーある日。街に戻った折紙を出迎えたのは、見慣れた街の風景ではなく、紅蓮の炎が燃え盛る地獄のような光景だった。

 

【お父さん、お母さん・・・・!】

 

12歳前後の折紙は、家にいる筈の両親の事を考え、焔に包まれた街の中を走っていた。

今思えば、無謀極まる行動だ。例え折紙が家に辿り着いた処で、できる事などたかが知れている。だが、その時の折紙は、父と母の無事を確かめる以外の事は考えられなかった。

程なくして折紙が自宅に辿り着くと、父が母の肩を抱きながら、燃え盛る家の扉を蹴破り、外に出てきた。

その時の折紙の安堵と言ったら言葉に表せない。両親が、生きていた。それが嬉しくて嬉しくて、目に涙を浮かべながら、両親に向かって手を伸ばした。

ーーーーしかし、その瞬間。

 

【ーーーーえ?】

 

突然、空から光のようなモノが降り注ぎ、折紙の身体は軽々と吹き飛ばされた。

そしてーーーーまさにその光の直下にいた両親は。

一瞬前まで人の形をしていたとは思えない位に、小さな破片となっていた。

 

【あ、あ・・・・あ・・・・あああああああーーーー】

 

折紙は歯の根を鳴らしながら、上空を見上げた。

ソコには、光を放つ少女のシルエットが、あった。

 

【お、まえ、が・・・・】

 

ーーーーお父さんと、お父さんを。

 

【許、さない・・・・! 殺す・・・・殺してやる・・・・ッ! 私がーーーー必ず・・・・っ!】

 

怨嗟に彩られた声を上げ、折紙は、復讐を誓った。

 

 

 

そして、折紙から少し離れた通りの家でーーーー双子の少女達が、炎に包まれた家に潰された両親を見て、泣いている姿があったのを、折紙は知らない。

 

 

 

* * *

 

 

 

それが、鳶一折紙と精霊の出会い。

長きに渡る因縁の始点。

その日を境に、折紙は変わった。

身寄りの無かった折紙は近くに住む叔母に一時的に引き取られたのだがーーーーその叔母がASTの元関係者であり、それが折紙の人生を決定付けた。

叔母は、【誰にも内緒】、と前置きをしながら、折紙に“とある存在”の事を教えた。

ーーーー精霊。世界を殺す災厄の事を。

それから折紙は、異常なほど勉強と鍛練に励み始めた。その理由はただ1つ。あの時見た精霊の正体を突き止め、この手で殺すだめである。

幼い折紙にはその具体的な方法が分からなかった。だからーーーーガムシャラに己を鍛え続けた。いつの日か両親の仇を突き止め、すぐに行動が取れるように、修羅か羅刹とも見まごうような厳しさで、自分の身体を、精神を苛め抜いた。

得意科目は、全て。苦手科目は特に無し。手にできる知識や技術は全て己のモノにし、『不可能』と言う言葉を徹底的に叩き潰す。

食べ物の好き嫌いは、あの時からほとんど気にした事がない。強い身体を作る適切な栄養素のみを求め、後の事は気にも留めなかった。

将来の夢はーーーーあの精霊を殺す事のみに向いていた。

そしてそれから数年後。折紙は叔母の紹介でASTの門を叩き、顕現装置<リアライザ>の適正に認められて魔術師<ウィザード>となった。

AST隊員となった折紙の鍛練は、さらに激しさを増していった。

世界は非常識と理不尽に満ち、誰もそれに抗いようがなかった。己にできる範囲の事では、到底目的を達する事は出来なかった。そんな残酷な世界を生き抜く為には、己の存在意義を、為すべき事を、強く意識し続けるしかなかった。

とは言えーーーーそんな折紙にも、心休まる瞬間はあった。

そう。“あの時出会った少年”である。

おもえばそれは、思慕と言うよりも依存に近い感情だったのかもしれない。

両親を失った折紙は、彼と言う存在に寄り掛かって、辛うじて己を保っていたのだ。それが遠因となり、ASTを追われる事になってしまった今も、彼に恨みを抱いた事は1度も無かった。

今になって思って見れば・・・・折紙は限界を感じていたのかも知れない。

精霊を倒す事を目的としたAST。超常的な力を人間に与えてくれる顕現装置<リアライザ>。

それらを用いても、精霊には到底敵わない。それどころか、〈アンノウン〉こと、『魔獣ファントム』にすら及ばない。そしてファントムと戦う彼は、日に日に強くなっていく。このままでは、彼にすら寄り掛かる事が出来なくなる。

だから。折紙は更なる力を求めた。

顕現装置<リアライザ>を作り出した会社、DEMインダストリー。その、最新鋭の装備と、それを扱える体を。

そして、折紙はーーーー。

 

 

 

 

 

ー真那sideー

 

「ぶぼっ!・・・・ケホッ、ケホッ、と、鳶一一曹がASTを懲戒免職されて、DEMに入ったでやがりますかぁぁぁぁぁ!?」

 

そしてその頃、夜の東京都のマンション。

仁藤攻平の住む部屋に居候している崇宮真那は、エアロバイクでトレーニングをした後、プロテイン(イチゴ味)を飲んでいると、仕事仲間から連絡を受けた仁藤から聞かされた事に、飲んでいたプロテインを少し吹き、咳き込むと、仁藤に向いて大声を張り上げた。

仁藤はそんな真那に平静な態度で答える。

 

「ええ。表向きは、以前から命令無視や独断行動が多い素行不良の鳶一折紙への処分となっていますが、裏では、DEMが権力を使って、半ば無理矢理、除隊処分にしたそうです。その後どうやら、エレン・メイザースが、彼女をスカウトしたそうです」

 

「エレンが、でやがりますか?」

 

「前回の〈ディーヴァ〉との戦いで、目星を付けていたのかもしれませんね」

 

「にしても、あのプライドが服を着て歩いた上から目線のモヤシ女が、わざわざスカウトするとは・・・・!」

 

「・・・・真那さん。どうやら、先日課長が白い魔法使いから頂いた、“アレ”を使わなければならないかも知れません」

 

「と、仰りやがりますと?」

 

「実はーーーー」

 

と、そこから仁藤の口から言われた言葉に、真那は目を見開いた。

 

「それは、鳶一一曹は本気って事でやがりますか?」

 

「そうでしょうね。現在調査中のファントム案件が片付き次第、我々も天宮市に赴きましょう」

 

「了解でやがります!」

 

仁藤の言葉に、真那はビシッ、と敬礼した。

 

 

 

ー士道sideー

 

そして朝。そんな事を露知らず、士道は能天気に寝ていると、まるで石鹸のような、花のような、芳しい香りに、明らかに自分のモノではないソレに、鼻腔を擽られた。

 

「ん・・・・」

 

小さなうめき声を上げながら身じろぎし、横になったまま背筋を伸ばす士道。

 

「きゃっ」

 

すると今度は、手の甲に何やら柔らかく温かい感触が生まれ、それと同時に小さな声が聞こえた。

 

「へ・・・・?」

 

混濁する意識を無理矢理覚醒させた士道は、目をゴシゴシと擦りながらムクリと身を起こした。

 

「ふふ・・・・おはよう、士道くん」

 

ベッドの上で士道の隣に寄り添うように横になっていたのは、年の頃は20代中頃、スラリとした長い手足、美九に勝るとも劣らない豊満な胸元。モデル顔負けのプロポーションをした美女、つい先日封印した精霊、識別名称〈ウィッチ〉の七罪。その変身した大人ver.だった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!? (バシィインッ!!) ふごがほっ!?」

≪五月蝿い≫

 

異常事態を理解した士道が悲鳴をあげるが、寝起きの悪いドラゴンが、まるで喧しい目覚まし時計を叩いて黙らせるが如く、尻尾ド突き(威力激強)を脳天に叩き込み、再び寝直し、士道はベッドの上に、器用に頭を落とす。

 

「あらあら。ドラゴンくんもキツいわねぇ~。大丈夫、士道くん?」

 

クスクスと七罪が声を上げ、士道はグワングワンと揺れる頭を抑えて、困惑と驚愕の入り交じった視線を七罪に向け、狼狽に満ちた声を上げる。

 

「な・・・・七罪・・・・ッ!? お前、何でーーーー」

 

「何でって、ご挨拶ね。寝坊助さんを起こしに来てあげたんじゃない」

 

七罪はゆっくりと身を起こすと、「んんっ」と背伸びをした。その仕草だけでも、まるで何かのワンシーンのように様になっていた。

その優美な所作に一瞬目を奪われそうになったが、士道は直ぐにブンブン首を振って痛みと煩悩を振り払った。

 

「そうじゃなくて・・・・! いや、何でそんな所に寝てたのかも気にはなったけど、それよりーーーー七罪、お前なんで、大人になれてるんだよっ!?」

 

今の七罪は霊力を封印されている筈なのに、大人ver.に変身できている。もしや七罪に強烈なストレスが、と思ったが、七罪の様子からそれは見受けられない。

 

ーーーーガチャ。

 

「一体何よ、さっきからうるさーーーーって、朝っぱらから何やってんなよあんたらはぁぁぁぁッ!」

 

「サザビー・・・・ッ」

 

と、そこで司令官モードの琴里が、制服姿で入ってくると、半裸状態の七罪と、それに向き合う士道を見ると、〈仮面ライダー〉時の必殺技、『インフェルノエンド』をするような踵落としを、士道の脳天に叩き込んだ。

士道の頭からクルリと反転して床に着地し、士道に背を向けると、『天の道をゆき、総てを司る者』の如く天に向かって腕を伸ばして指を立てた。格闘ゲームであれば、2人の間に『KO!』の文字が踊っていただろう。

 

「ふん、サザビーだって。アンタに赤い彗星のようなカリスマ性をあるとでも?」

 

「お、お前なぁ・・・・」

 

「それで、一体何を考えて、妹と飼い主<ドラゴン>のいる家の中で淫らな行為に及ぼうとしたのかしら? もう少し分別と思慮のある人間だと思っていたけれど」

 

「濡れ衣だっ!」

 

「うわ、濡れ衣だなんて・・・・厭らしい」

 

「字面で判断するなっ! 兎に角、起きたら何故か七罪が隣で寝てたんだよっ!」

 

「・・・・そうなの?」

 

≪ふぁ~ぁ。コイツにそんな事をする度胸と根性と甲斐性があるとでも?≫

 

「・・・・・・・・はっ」

 

琴里が怪訝そうな顔になるが、欠伸混じりにドラゴンが士道や七罪にも聞こえるように念話でそう言うと、琴里は士道に見下すような視線を向け鼻で嗤った。

何か釈然としない上に、凄く悔しく、そして悲しくなってくる士道だが、七罪が何で大人ver.になっているのかと琴里に聞くと、七罪のメンタルが超弱い事を言うと、納得したように頬をかいた。

コンプレックスの塊の七罪の事だから、些細な事で機嫌を崩したのだろう。

 

「つまりはそう言う事よ。七罪は十香達よりずっと能力を発現しやすいの」

 

「そ、それって、結構危ないんじゃないか?」

 

「うーん・・・・とは言え、今のところ発現してるのは自分自身の姿を変える能力だけだから何とかって所ね。多分、恥ずかしかったり、人目から逃れたかったりした時、ナチュラルに自分の姿を覆い隠しちゃうイメージ何でしょうね。時間をかけて慣らしていくしかないわ。ドラゴンもメンタルケアしてくれてるみたいだし」

 

「そ、そう言えば前に十香が、ドラゴンが七罪を可愛がっているって言ってたっけ・・・・」

 

「ちょっとー、2人共何ヒソヒソ話してるの? お姉さん仲間外れにしないでよー」

 

大人七罪が無駄に色気全開な仕草で、乱れた髪を纏めながら言ってくる。

 

≪この姿の時は、〈ウィッチ〉は自分に自信が持てるようだ。〈イフリート〉のリボンのようなマインドチェンジの一種だろう≫

 

ドラゴンが七罪の状態を士道と琴里に詳しく言うと、2人は納得したように頷いた。

それから、琴里が説教を言うが、大人七罪に口八丁におちょくられ、大人七罪と追いかけっこを始めた。

 

「・・・・顔、洗うか」

 

≪ふぁ~ぁ≫

 

士道はやれやれだぜ、と息を吐き、洗面所にむかい、ドラゴンはもう一眠りしようと、寝息を立てた。




次回で『第10章』開幕です。
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