デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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選択・折紙

ー士道sideー

 

≪いつまで馬鹿でマヌケでアホな面を恥知らずに晒してして寝ている。いっそ永眠して欲しい所だが、とっとと起きろ≫

 

ーーーーベシンッ!

 

「あだっ!?・・・・ん? ここは? っ!!?」

 

ドラゴンのド突き(威力中)で目を覚ました士道は、身体を動かそうとするが、動けなくなっていた。

段々意識が覚醒し、自分が椅子に座らされ、後ろに手錠を嵌められている事に気づいた。しかもご丁寧に胴はロープで椅子に括り付けられ、さらに椅子の脚は鋲で固定してある。士道を絶対に逃がさないと言う意図が窺える、執拗な拵えだ。

しかも、自分の胸元には魔法陣のような物が描かれた紙が張られていた。まるで邪教か黒魔術の生け贄にされる憐れな子羊のようだ。

 

「一体何だよ、こりゃあ・・・・」

 

≪忘れたか? 無表情娘を追って、あの娘に眠らされたのだ。それと、この魔法陣はどうやらジャミングの力があるようだ。〈プリンセス〉達と交信ができん≫

 

「えっ?」

 

と、ソコで前方にあった扉が音を立てて開く。そこには、大きなボストンバックを携えた折紙が立っていた。

 

「折紙! お前、一体何のつもりーーーーまさかお前、本当にDEMに・・・・!?」

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は無言のまま士道の近くに歩いていくと、ボストンバックを床に置き、その中を探り始めた。

士道は、まさか拳銃かナイフか自白剤の類いかと想像したが、

 

「ーーーーはい」

 

「へ・・・・?」

 

士道の予想に反して、折紙が差し出したのは、ミネラルウォーターのペットボトルだった。折紙を蓋を開けると、士道に口を差し出す。

 

「な、何だこれ?」

 

「水。喉は乾いていない?」

 

「い、いや・・・・」

 

「そう」

 

本当は少し乾いているが、そんな状況では無いので丁重に断ると、折紙は蓋を少し閉め、ペットボトルをそのまま持つ。

 

「・・・・で、取り敢えずこれ、解いて欲しいんだが」

 

「それはできない。後、あなたの指輪とバックルをソコに置かせて貰っている」

 

「なっ!」

 

折紙が指差した方に視線をやると、折り畳み式の簡素なテーブルの上に、ウィザードライバーにリングが全て丁重に置かれていた。

士道は一旦気持ちを落ち着かせてから、静かに言葉を発した。

 

「・・・・折紙」

 

「何?」

 

「・・・・お前、DEMに入ったのか?」

 

「そう」

 

折紙が平然と返してくる。そのあまりにも何でもなさそうな様子に、士道は拍子抜けしてしまう。

 

「そう・・・・って、お前、あそこがどんな処か知ってるのか?」

 

「概ね」

 

「なら、何でーーーー」

 

「ーーーー力を手に入れる為」

 

「力・・・・?」

 

士道が眉根を寄せると、折紙はこれまでの経緯を淡々と語り出した。

度重なる命令違反によって、遂に折紙の懲戒処分が下された事。そしてーーーー魔術師<ウィザード>で在り続ける為には、DEMに所属するしか手がなかった事。

 

「だからって・・・・危険すぎる! アイツらはファントム達とも手を結んでいるんだぞ!」

 

「仕方のない事。ーーーー精霊を倒す力を得る為には、他に方法が無かった。因みにその魔法陣は通信妨害能力があるモノ、ファントムの首魁、ワイズマンが作った物。あなたが精霊達と交信できなくさせるだけの物だから、精霊達に連絡は取れない」

 

静かに・・・・驚くほどに静かな調子で折紙がそう言う。士道はそれ以上言葉を継ぐ事ができなかった。

恐らく折紙は、士道ごときよりも、DEMインダストリーと言う会社をずっと深く理解している。士道の思い付く懊脳や苦悩など、とうの昔に終えている。その上でーーーー今の現状を選び取ったのだ。拒絶でも反論でもない。ただただ淡々とした折紙の声に、士道は一種の寒気にも似た感覚を覚える。

だが、気圧されてはいけない。士道は小さく深呼吸すると、再度口を動かした。

 

「・・・・じゃあ、俺を拉致したのもDEMのーーーーウェスコットの指示なのか? 俺をファントム達にでも引き渡すのか?」

 

「・・・・・・・・」

 

士道がそう聞くと、折紙はゆっくりと首を横に振る。

 

「士道をここに連れてきたのは、私の独断。DEM社も〈アンノウン〉、『魔獣ファントム』も、この件については一切関知していない」

 

「え・・・・? どういう事だ? じゃあ何だってこんな事を」

 

「私としても、あなたの自由を奪う事は本意ではない。申し訳なく思っている」

 

顔を困惑に染める士道に、折紙はふっと視線を逸らしてから、言葉を続ける。

 

「でも、仕方のない措置だった。あなたを巻き込まない為には、これがもっとも確実性の高い方法」

 

「ち、ちょっと待った。何を言ってるんだ? 俺を、巻き込まない為・・・・? 一体何にだよ!」

 

≪分からんのか貴様は?≫

 

「ーーーー私と、精霊の戦いに」

 

「な・・・・!」

 

士道の問いにドラゴンが呟き、それに続くように、折紙が決意を新たにする為に拳を握り、持っていたペットボトルが握りしめ、蓋が飛び、中身の水が落ち、士道の足元に広がった。

それに構わず、士道は驚愕に目を見開いた。

 

「せ、精霊・・・・って、一体誰の事だよ」

 

「精霊は、精霊。勿論ーーーー夜刀神十香達も、例外ではない」

 

「・・・・ッ!」

 

折紙は一旦小さく息を吸ってから続けた言葉に、士道は息を詰まらせた。

喉がさらに渇く。ドクン、ドクンと心臓の鼓動が大きくなる。まるで全身を揺さぶられているかのような錯覚さえ覚えた。

精霊と戦う。そしてーーーー精霊を、殺す。

思えばそれは、折紙が初めて会った時から言い続けてきた言葉だ。無論士道も、幾度も聞いてきた。

が、聞き慣れた言葉は今はーーーーこんなにも心臓を引き絞られるのは。

 

≪それは、この娘は冗談抜きで本気で行う事を決意し、覚悟したからだろう≫

 

「っ、待てよ折紙! お前が狙ってるのは、5年前親御さんを殺したって言う精霊なんだろ!? 十香達は関係ないじゃないか!」

 

「ーーーー精霊に変わりない。彼女達は危険。2度と私のような人間を作らない為にも、彼女達の存在を許しておく訳にはいかない」

 

「な・・・・! 十香達に今精霊の反応は無い筈だ! その状態なら十香達を狙う事は無いってーーーー」

 

「それは、陸自上層部の方針。ASTを抜けた私にはもう関係無い事」

 

「ぐ・・・・!」

 

士道は顔をしかめながら呻いた。折紙はただ上層部の指示に不本意に従っていただけだ。

 

「それに、ファントム達からの情報では、彼女達精霊は精神状態が不安定になると、空間震のような災害を引き起こす事を聞いた。彼女達は危険過ぎる」

 

「で、でもそれは、俺達が止めてーーーー」

 

「いつまでもそんな状況が続けられるとは思えない。いずれ限界が来る。いつ空間震を起こすか分からない『爆弾』が、自分達の『日常』に置かれているだなんて、一般人にとっては危険極まりない」

 

「くぅ・・・・!」

 

折紙の言葉を否定しようにも、折紙はそれをさらに否定した。

折紙の行動は最初から変わらない。精霊を嫌い、精霊を憎み、精霊を殺そうとする。

しかしーーーー士道にはそれが、途方もなく歪に思えて仕方ない。

勿論、折紙と精霊が戦って欲しくないと思っているのも大きな要因だ。しかしそれを差し引いてもなお、折紙の言動に違和感を覚えてしまうのだった。

士道は叫び出したくなる気持ちをどうにか抑え込んで、至極落ち着いた声を発する。

 

「・・・・なあ、折紙。十香がうちの学校に転入してから、もう半年以上経つんだよな」

 

「・・・・・・・・」

 

無言で、折紙が士道を見返してくる。何を言い始めたのか分からないと言う視線ではないようだ。

 

「早いもんだよな。お前らと殺し合いをしていた精霊が、今じゃあんなに世界に溶け込んでいるんだぜ? 勿論十香だけじゃない。四糸乃も、耶倶矢も、夕弦も、七罪も、勿論琴里や美九だって・・・・皆『人間として生きていこうとしている』」

 

≪はっ、情に訴えるって訳か?≫

 

ドラゴンが鼻で嗤うが、士道は続ける。

 

「折紙・・・・お前は、こんなに長い間アイツらを見ていても、何も変わらないだなんて言うのか? 精霊は精霊でしかないなんて・・・・危険な存在だから殺すしかないだなんて言うのかよ・・・・っ!?」

 

「・・・・・・・・ッ」

 

士道がそう言うと、折紙が初めて、ピクリと眉を動かした。

そうしてそのまま、ゆっくりとした足取りで部屋の端に歩いていき、ガッと右手で壁を殴り付けた。

 

「・・・・そんな事、分かってる」

 

「お、折・・・・?」

 

「夜刀神十香も、他の精霊も、皆精霊には変わりない。復讐の対象に違いない。ーーーーその筈なのに」

 

折紙は微かに震えた声でそう言うと、独白するように続けた。

 

「彼女達と日常を共にする内に、自分の認識が少しずつ変わっていくのが許せなかった。5年前のあの日、精霊に復讐を誓った筈なのに、次第にこの現状に慣れていく自分が・・・・怖かった」

 

言って折紙が、もう一度壁を殴る。

 

「私がDEMに入ったのは、ASTを懲戒処分になったからだけではない。自分のそんな現状に気づいたから。ーーーー夜刀神十香のいる日常を、許容し始めている自分に」

 

「な・・・・」

 

士道は目を見開き、声を詰まらせるが、すぐに声を荒げる。

 

「なんでーーーーそれが駄目なんだよ! お前も分かってるんじゃないか! 十香達は、普通に生きたいだけなんだ!」

 

「・・・・いいえ。それは許されない。彼女達が、精霊である限り」

 

折紙は拳を壁から離すと、ゆらりとした足取りで、士道に背を向けた。

 

「私が殺すのは精霊だけではない。気づかない内に情に絆されようとしていた、私自身。夜刀神十香の命を以てーーーー私は、私を取り戻す」

 

言って、折紙が部屋を出て行こうとしたその時、背中越しに士道に話しかける。

 

「この場所は私しか知らない場所。ファントム達の追ってはいない。もしその魔法陣に居場所を知らせる機能があっても、この部屋には罠を仕掛けてあるから、安心して」

 

そして今度こそ、バタンと言う音と共に扉が閉められた。

 

「待て! 折紙! 待ってくれ!」

 

士道が必死に叫びながら身を捩るが、入念に施された拘束は、そう簡単には外れそうもなかった。

しかし、だからと言って諦める訳にはいかない。このままでは折紙と十香達の戦いは避けられなくなってしまう。

 

「くそ・・・・ッ! 折紙! 折紙!」

 

聞き入れてくれる筈ないのに、士道は力の限りに身体を揺すり、ねだるように、すがるように、喉が潰れんばかりに絶叫をあげる事しかできなかった。

 

 

 

ーウェスコットsideー

 

「ーーーーよろしいのですか、アイク。彼女の独断専行を許して」

 

「構わないさ」

 

東天宮にある最上階のスイートルームで、エレンがウェスコットに静かに声を発すると、向かい側のソファに腰かけながら、ウェスコットは気安い長子で答える。

 

「確かに暫く様子を見るつもりだったが、せっかくやる気を出しているんだ。わざわざ若い魔術師<ウィザード>の意気を挫く必要はないだろう。ーーーーまあ、“あんな事”があったばかりだ。自衛隊に手を回すのに、いつもより鼻薬が必要になってしまったがね」

 

「“あんな事”・・・・ですか」

 

数日前にマードック達、取締役会のメンバーが起こした人工衛星落下を、軽い口調で話すウェスコットに、エレンは憮然となる。マードック達はあの後、本国で全員拘束されたが、未だにウェスコットは彼らに何の処分を下していないのも不満なのだろう。

ウェスコットはエレンの気持ちを察し、わざとらしく肩をすくめて話を続ける。

 

「無論、今までの方針を丸ごと覆すつもりはないよ。ーーーーしかし、様々なケースにおけるデータが欲しいのも事実だ。せっかくあれだけの精霊が揃っているんだ。1人や2人、霊結晶<セフィラ>してしまうのもありだろう。それに、〈メドラウト〉の実戦データも欲しかった処だ。我々の目的はあくまでも精霊。落ちてくる爆弾を撃ち落としただけでは、実力など測りようもないからね。ーーーー君も、彼女がどれ程やるのか見てみたくはないかね? まあ、もし彼女がこちらの期待以上の力を振るってくれたとしたならーーーー精霊全員を仕留める前にこちらから止めねばならないかもしれないがね」

 

口元に微笑を浮かべるウェスコットがエレンに視線を返して続けると、エレンは小さく息を吐きながら頷いた。

エレンとしても、彼女ーーーー鳶一折紙の能力は把握しておきたくはあった。

AST時代のデータはあるが、エレンの〈ペンドラゴン〉の姉妹機〈メドラウト〉を纏った折紙が精霊相手にどこまで戦えるか、興味がある。折紙は今後のミッションでエレンのサポートとしてスカウトしたのだから。

 

「分かりました。今回は裏方に回りましょう」

 

「不満そうだね」

 

「いえ、そんなに事は」

 

「君は嘘を吐く時、微かに眉根が寄るからすぐ分かるよ」

 

「・・・・っ」

 

クックッと笑うウェスコットの言葉に、ハッとして右手で眉間に触れる。

 

「冗談だ」

 

「・・・・・・・・」

 

愉快そうなウェスコットを見て、手を元の位置に戻すと、今度は分かりやすく不満顔を作るエレン。

 

「はは、そう怒らないでくれ、可愛いエレン。ーーーー今回君には、別のターゲットの相手をして欲しいんだ」

 

「・・・・別のターゲット?」

 

「ああ。トビイチオリガミが〈プリンセス〉達を狙うとすれば、まず間違いなく邪魔が入る」

 

「ーーーー〈ラタトスク〉」

 

「その通り」

 

ピクリと頬を動かしてエレンが答えると、ウェスコットが頷く。

鳶一折紙が精霊を狙えば、まず間違いなく〈ラタトスク〉は横槍を入れる。

 

「それは、グレムリン達ファントムに任せれば?」

 

「いや、Mr.ソラ達は現在、真那の方に向かって貰っている」

 

「真那が?」

 

元DEM社のナンバー2であり、〈仮面ライダービースト〉の力を有する真那。一応〈ラタトスク〉の庇護にあるが、その行方は彼らも知らない。

 

「どうやらこの国の諜報機関に身を置いているようだ。天宮市の外でファントム達を狩りながら〈ナイトメア〉を追っているらしい」

 

「そうですか。では、私は?」

 

「昨日本社から連絡をしてね。ーーーー〈ゲーティア〉を、こちらに向かわせている」

 

「・・・・・・・・!!」

 

ウェスコットの言葉に、エレンは目を見開き、即座にウェスコットの意図を察する。

 

「ーーーー私に〈ラタトスク〉の艦そのものの足止めをしろ、と?」

 

「理解が早くて助かるよ。これまでの件それら全ての裏に、〈ラタトスク〉の空中艦が関わっていた。今回も間違いなく、あの艦が出しゃばってくるだろう。まあ・・・・先の人工衛星の一件のみに関しては、私は礼を述べねばならない立場なのかもしれないがね」

 

唇の端をニッと上げたウェスコットが、冗談めかすように肩を竦めながら言う。だがエレンは、ピクリとも表情を変えないまま言葉を返す。

 

「ーーーー本当に宜しいのですね? 〈ゲーティア〉を使うとなれば、手加減できません。足止めで済むかどうかは分かりかねますが」

 

「ああ。この件は君に一任する。好きなようにやりたまえ。もしそれで墜ちてしまうようならば、彼の艦もそれまでだったと言う事さ」

 

ウェスコットの言葉に、エレンは深く首肯した。

 

 

 

ー十香sideー

 

士道がいないまま放課後を迎え、朝方には晴れていた空が雨が降りそうな曇天となり、日暮れが始まり薄暗くなる空の下、帰路についている十香と八舞姉妹。

 

「ふん、しかし、士道も早退とは軟弱よの。少し我が鍛え直してやらねばならぬか」

 

「首肯。よわよわよわっぴです。明日から走り込みをしてビルドアップです」

 

後方から耶倶矢と夕弦が順に言ってきて、十香は歩きながら軽く後方に振り返る。

 

「そう言わないでやってくれ。きっとシドーにも事情があるのだ。先ほどからドラゴンからも交信ができないのも、何か関係があるのかも知れん!」

 

「呵々、分かっておるわ。冗談だ」

 

「質問。そう言えば、マスター折紙が転校してしまったと聞きました。士道の早退もそれに関係があるのですか?」

 

「むぅ・・・・確かに、あやつの転校を聞いてすぐシドーはいなくなってしまった。関係があるのかもしれん」

 

首を傾げて尋ねる夕弦に、十香は困ったように眉根を寄せた。すると、耶倶矢と夕弦がフフンと鼻を鳴らした。

 

「くく・・・・やはりそうか。これはキナ臭くなってきたな」

 

「肯定。陰謀の臭いがします」

 

「きなくさい? きな粉の匂いなどしないぞ?」

 

「いや、そうじゃなくてさ・・・・」

 

首を傾げる十香に、耶倶矢は苦笑いを浮かべて素の口調になる。

そんな会話をしている内に、マンションが見えてきた。

 

「ぬ?」

 

と、そこで十香達は脚を止めた。士道の家の前に、竜胆寺女学院の制服を着た誘宵美九が、つまらなそうに顔を曇らせていた。

が、

 

「ーーーーあっ。十香さぁぁん、耶倶矢さぁぁぁん、夕弦さぁぁぁぁんっ!」

 

「「「ッ!!」」」

 

十香達に気づいた美九がパァッと表情を明るくすると、両手を広げてタタタッと走り寄ってきた。

3人は瞬時に身の危険を感じてその場を飛び退くと、美九は勢いを緩めず突進し、そのまま電柱にハシッ、と抱き付く格好になった。

 

「んぐっ! もぉー、なんで逃げちゃうんですかぁ」

 

言って、木にしがみつくコアラのような姿勢で、ブーと唇を突き出す美九。

 

「いや、それ以前になぜ突っ込んでくるのだ!?」

 

「ええ? ハグに決まってるじゃなですかぁ。愛情表現ですよー」

 

叫ぶように問う十香に、美九はさも当然の如く返す。

 

「そ、そうなのか・・・・?」

 

「そうですよー。皆やってる事ですよー。ほら、十香さんも」

 

言って電柱から離れた美九が、十香に向かって両手を広げて、カモンカモンと、両手をばたつかせる。その堂々とした様子に、十香は美九の言葉を鵜呑みにしそうになる。

 

「む、むぅ・・・・」

 

が、そこで八舞姉妹が両肩をガッシと掴んだ。

 

「だ、騙されるな我が眷族よ!」

 

「警告。千の偽り、万の嘘の臭いがします」

 

「・・・・っ! やはりそうか!」

 

十香が足を止めると、美九が残念そうにまゆを八の字にする。

 

「あぁん、そんなぁー。心配しなくても、耶倶矢さんや夕弦さんともちゃんと熱い抱擁を交わしてあげますよってばぁ」

 

「そんな事頼んでおらぬわ!」

 

「戦慄。身の危険がクライマックスです」

 

2人が自分の肩を抱きながら後ずさる。

 

「えぇー。ハニーはしてくれますよぉ」

 

「「「えっ?」」」

 

美九の言うハニー、それはウィザードラゴンの事を指しているのだが。

 

「ド、ドラゴンは抱擁をさせてくれているのか?」

 

「はいー! いつも素っ気ないハニーですけどぉ、私が仕事やテストで疲れた時とかぁ、癒しが欲しいなぁって思ってたら、あつぅ~い抱擁をさせてくれてぇ、さらに頭ナデナデしてくれるんですよぉ! あぁんハニー! いつものクールな態度もとってもとっても素敵ですけど! サラリと甘やかせてくれる優しさが、もうもう堪らなさ過ぎですぅ~~!!」

 

身体全体からハートマークを飛ばしながら身体を抱いて身じろぎし、唇を突き出して、チュッ、チュッとエアキッスをする美九。それを尻目に十香と耶倶矢と夕弦がコッソリと会話をする。

 

「ドラゴンは美九に優しいのだな?」

 

「時々は甘やかして躾をしているのだろうよ」

 

「推察。飴と鞭の教育方法です」

 

何てコソコソと話す十香達に、美九は身体を止めて、質問する。

 

「皆さん。だーりんと一緒じゃないんですかぁ? 学校が終わって今日はオフですから、遊びに来たんですけどぉ、だーりんも琴里ちゃんもいないみたいでぇ、ハニーとも連絡が取れないんですよぉ」

 

美九の言葉を聞いて、十香と八舞姉妹はまた会話する。

 

「シドーは帰っていないのか?」

 

「・・・・ふん、もしや本当に折紙の件と関係があるやもしれんな」

 

「首肯。これは何かあるかもしれません」

 

八舞姉妹が顎に手を当てながら言葉を交わす。その様子に、美九が不満そうに唇を尖らせる。

 

「もうっ、私にも説明してくださいよぉ! 一体何があったんですかぁ?」

 

「む、うむ・・・・実はな」

 

十香が状況をかいつまんで説明すると、美九は緊迫感と好奇心が混ざった顔になる。

 

「ふぅむ、確かにそれは怪しいですねぇ・・・・これは、だーりんに危険が迫っているかもしれません」

 

「き、危険だと? どういう事だ?」

 

「簡単に説明すると、だーりんは折紙さんの行方を探して早退しましたが、家に帰ってない所を見ると・・・・だーりんは逆に折紙さんに捕まって、この世のだーりんに感謝を込めて、いただきます! と、ペロペロのガブガブにされているかもしれないです!」

 

「「「な・・・・!?」」」

 

指を1本立てた美九の言葉に、3人は目を見開いた。折紙の日頃の肉食獣な素行を見ているから、冗談に思えなかったのだ。3人に戦慄が走る。

まぁ夕弦は「畏敬。流石はマスター折紙。夕弦にできない事を平然とやってのける。そこに痺れます。憧れます」と、言っていたが。

 

「こうしてはいられません! 早速今からだーりんとハニーを捜しに行きましょうっ!(そしてあわよくば私もまざります!)」

 

「「「おー!」」」

 

拳を元気よく振り上げ、小声で不穏な事を喋る美九に、3人は続くように拳を上げた。

しかしーーーーその瞬間。

 

ーーーーウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーー

 

と、辺りからけたたましいサイレンが鳴り響いた。

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