デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー真那sideー
「まさか、こんな所であなたと出くわすとは・・・・!」
横浜に潜伏していたファントムを始末した真那は、急いで仁藤が運転する車で天宮市に向かっていた。
が、後少しで天宮市に到着するその手前でーーーーグールとインプを率いて、メデューサが立ち塞がっていた。
真那と仁藤は車を停車させると、間髪いれずに車から降りた。
『〈アーキタイプの魔法使い〉。貴様は、少々目障りになってきた。この場で始末させてもらう。・・・・やれ』
『ギュアアアアアアアアアアッ!!』
メデューサが人差し指を真那達に向けると、グールとインプが一斉に真那と仁藤に襲い掛かる。
「(ガチャ)真那さん!」
「ええ!」
[ドライバーオン!]
「変~身!」
[セット、オープン! L・I・O・N! ライオーン!!]
ガァオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッ!!!
真那は〈仮面ライダービースト〉に変身し、仁藤は銀の弾丸入りの散弾銃を構える。
「では行きますよ、真那さん」
「ええ。丁度良い練習相手でやがります!」
ビースト<真那>は『石のリング』と『石の塊』を取り出し、『石のリング』を指に嵌めて、魔力を流し込む。
すると、『石のリング』が音をたてて砕け、『獅子の顔が総称された青いリング』へと変わり、ビースト<真那>はバックルに押し込んだ。
[ハイパー ゴー!]
迫り来るグールとインプを見据えながら、ビースト<真那>の目の前に金色の魔法陣が展開されたーーーー。
ー士道sideー
「お、折紙・・・・!?」
「・・・・・・・・」
折紙は扉を開けると、無言のまま士道の元に歩いてきた。
一瞬驚いたが、士道はすぐ思い直すように首を振った。
「折紙ーーーー戻ってきてくれたのか?」
「・・・・・・・・」
問いかけても、何も答えない折紙は、士道の目前に立つ。
「折紙・・・・? っ、お前ーーーー」
士道は眉をひそめるが、不意にある彼女を考え、息を詰まらせた。
折紙が考えを改めて、戻ってきてくれたのかと思ったが、それは勝手な思い込みだ。
折紙の性格は僅か半年間の付き合いだが、少しは知っている。誰よりも己を律する強固な意志を持つ鳶一折紙が、何の理由もなく意趣返しをする筈がない。
その彼女が戻ってくるのは、何らかの問題が起きて戻ってきたから。もしくはーーーー既に目的を達し終えたから。
「・・・・っ、折紙、お前、どうして・・・・戻って来たんだ?」
「・・・・・・・・」
ゴクリと唾液を飲み下して問う士道だが、折紙は答えない。ただ無言のまま、士道を見返す。
その感情が読み取れない無機的な表情に、士道の呼吸はドンドン荒くなる。動悸が激しくなる。喉が渇く。
「ま、まさか、お前・・・・」
戦慄に声を震わせる士道に、折紙はただ静かに唇の端を上げーーーーニッ、と笑みの形を作った。
「・・・・なーーーー」
常日頃から表情の変化に乏しい折紙が、ここまで明確な『笑み』を作った。士道は心臓が引き絞られるのを感じた。
「な、んで・・・・笑う、んだよ・・・・なあ、折紙・・・・」
戸惑いながら問う士道に、折紙は更に笑みを濃くし、堪えきれないと言った様子で身体を震わせ始める。
「ふーーーーふふ、ふふふっ」
そしてそれは、徐々に大きくなっていく。
「ふふっ、あははっ、はは・・・・あはははははははははははははははははははははっ!」
「お・・・・り、が・・・・み(バチコォンッ!!) ごぼばぁっ!?」
身を捩って笑い出す折紙に、呆然と名を呼ぼうとする士道の脳天に、尻尾ド突き(威力強め)が炸裂され、頭を押さえられず、まるで首振り人形のようにグワングワンと頭の中が揺れ、目にお星様が飛んでいる。
「な、何すんだよっ!?」
体内にいるドラゴンに怒鳴るが、ドラゴンは平静な態度で答える。
≪舌の根も乾かぬ内に揺れるな。扉の方を見ろ≫
「え?」
折紙?がゲラゲラと笑い転げているのを尻目に、今し方折紙?か入ってきた扉が再度開き、青いフワフワとした長髪をして小柄な1人の少女が、左手にウサギのパペットを着けて入ってきた。
「四糸乃!?」
「は、はい・・・・大丈夫ですか、士道さん」
『いんやー、見事にラチカンキンされてるねー。ほら四糸乃ー、チャンス到来だよー? 今だったら士道にやりたい放題だよー』
「・・・・っ!」
思わず声をあげる士道に、四糸乃が心配そうな顔をするが、よしのんが口を出してきて、カァっと頬を赤くしてよしのんの口を押さえ込む。
「四糸乃、逃げろ! 今の折紙は(ズビシッ!) おごっ!?」
今度は脳天ではなく、後頭部にド突きをかまされた士道。痛みに悶絶する士道に、ドラゴンが冷静に言う。
≪気づかんのかこの人を見る目がない節穴。ーーーー〈ウィッチ〉だ≫
「えっ?」
「えっと・・・・七罪さん、もういいと思いますよ・・・・?」
「ふ、ふふ・・・・ひ、ひー・・・・ひー・・・・」
四糸乃がそう言うと、折紙?は呼吸を整え、フッと不敵な笑みを浮かべた瞬間、その身体が淡く発光し始め、折紙のシルエットが段々と小さくなっていきーーーー七罪の姿に変貌した。
「なーーーー七罪!?」
そう、先ほどの様子がおかしい折紙は、七罪が変身した姿だったようだ。
折紙が偽物で、2人が無事だった事に安堵を息を吐く。そのため息をどう取ったのか、眉根を寄せながら士道の方を見る七罪。
「・・・・何よ。文句あるっての? 私が来たんじゃ不満?」
「いや、ないって・・・・それより2人共、何でこんなところに?」
士道が問うと、2人は目を見合わせた後、口を開いてきた。
「あの・・・・七罪さんに、街を案内してたんですけど・・・・」
「その最中、何故かアンタが折紙と歩いている所を見ちゃったのよ。ドラゴンに交信して聞いてみようとしても通じないし、それで、四糸乃がどうしても気になるって言うから跡をつけたらーーーー」
「な、七罪さん・・・・」
四糸乃が恥ずかしそうに七罪の服の裾を引っ張ると、七罪も、はっ!と、顔を赤くして、四糸乃の服の裾を掴んだ。照れた美少女2人がお互いの服を摘まみ合う。・・・・何やら男子禁制な光景を見ている気分だ。
≪それで、どうして無表情娘の姿になったのだ?≫
「それで、何で折紙の姿に? って言うかどうやって変身したんだ?」
ドラゴンの言葉を伝えると、七罪が口を開く。
「あぁ、ちょっとからかってやろうかと思ってさ。それに、何か凄い悲鳴が連続で聞こえたし」
「あぁぁ・・・・」
ドラゴンに黒歴史の数々を暴露され、悲鳴を上げていたのを思い出した。
士道が苦笑いを浮かべると、七罪はさらに言葉を続ける。
「んで、変身のカラクリは、頭の中でイヤーな気分になる事を思い浮かべると、ちょっとだけ力が戻るのよ。まあ、できる事なんてたかが知れてるけど」
「イヤーな気分になる事?」
「・・・・ええ。因みに何を考えたかと言うとーーーー学校の昼休み、友達もいないからトイレの個室で1人お弁当を食べてたら、うっかり鍵をかけるのを忘れてて、扉を開けた同じクラスの子と鉢合わせちゃうシーンをイメージしたわ」
「うわ・・・・それは恥ずかしい」
≪黒歴史確定だな≫
あまりに悲しいシーンに、士道も四糸乃もドラゴンもよしのんも、同情したくなる。
「・・・・それで教室に戻ったら、何か皆が私の方見てクスクス笑っている気がするの。【えー、マジで~?】、【そう言うの本当にあるんだー】、【えー、何かバッチくなーい?】って、会話している気がしてーーーー」
「な、七罪さん・・・・!」
「やめて! 悲しくなるからやめて!」
『落ち着きなよ七罪ちゃん』
≪ストップ〈ウィッチ〉。ブレーキを踏め≫
ネガティブな脳細胞がトップギアになる七罪を、その場にいる全員が止めた。だかすぐに、こんな事している場合ではないと思い直す。
「と、とにかく、助かった! 頼む、この手錠とロープを解いてくれないか?」
士道が言うと、2人は再び目を見合わせた後、コクリと頷いて士道の後ろに回ってきた。そして2人がガシャガシャと、手錠を弄ったりロープの結び目を解こうとしたりし始める。がーーーー。
「し、士道さん・・・・手錠の鍵は無いんですか・・・・?」
「うっわ何このロープ。結び方超複雑な上に結び目が接着剤で固められてるんだけど・・・・」
やはりと言うか、折紙は甘い相手ではなかった。
≪おい。〈ウィッチ〉に『スピリッドライバー』を持っていないか聞いてみろ≫
「っ、七罪! スピリッドライバーは持っているかっ!?」
「え、さっき面影堂に行った時に輪島のおじさんから貰ってーーーーあぁそうか!」
[ドライバーセット!]
士道の意図が分かり、七罪はチェーンで首から下げていた『ハニエルリング』を取り出し指に嵌め、スピリッドライバーを腰に当てると、ベルトへと変わった。
[シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]
女性の声で軽快な音声が流れると、七罪はドライバーにリングを嵌めた手を翳そうとする・・・・が。
「・・・・・・・・」
「どうした七罪?」
「七罪さん?」
「あ、あのさ、これって、結構気恥ずかしいって言うか、見られていると、凄いやりづらいって言うか・・・・」
『んもう七罪ちゃん、こう言うのは勢いと思い切りよぉ』
「わ、分かってるわよ・・・・・・・・それじゃあ・・・・変身!」
[ウィッチ プリーズ!]
七罪は自分の背後に魔法陣を展開させると、魔法陣が通過し、七罪の身体がハリケーンスタイルのような翡翠のエメラルドに包まれ、それが砕けると、魔女のトンガリ帽子に、マントを羽織った エメラルドの宝石を身体の箇所に装備した仮面ライダー、〈仮面ライダーウィッチ〉へと変身した。
[ハニエルブルーム!]
再びドライバーに手を翳すと、緑色の箒、『ハニエルブルーム』を装備した。
「よっと。・・・・んで、どうかな?」
少し恥ずかしそうにウィッチ<七罪>が、〈仮面ライダー〉になった自分の姿を、士道達に見せる。
「ああ、良く似合ってるぞ、七罪」
「カッコいい、です・・・・!」
『まぁ四糸乃の〈仮面ライダーハーミット〉には劣るけどねえ』
≪とても素晴らしいぞ〈ウィッチ〉≫
概ね好評のようだ。ウィッチ<七罪>は気恥ずかしそうに仮面の頬をかくと、『ハニエルブルーム』の先端を、士道の身体を縛っていたロープと手錠に突きつけると、淡く輝き、フワフワの綿に変化した。
「ま、まぁ、ざっとこんなもんよ」
「ありがとう七罪!」
少しだけ胸を張るウィッチ<七罪>に、士道は礼を言ってから綿を取り去り、椅子から立ち上がり、バックルとリングを回収した。長い時間同じ姿勢で固定されていた為、身体の節々が痛い。だが、そんな事を気にしている場合ではない。急いで十香達の元に行かなければ、折紙と接触し、戦闘になってしまう。
と、そこで士道は四糸乃に声を発する。
「そうだ・・・・! 四糸乃、携帯電話を持ってたら貸してくれないか?」
「え? あ、はい、どうぞ」
四糸乃がポケットの中から、青い携帯電話を取り出し、士道は礼を言って受けとると、〈フラクシナス〉へと連絡をいれる。
しかし、電話口から聞こえてきたのはコール音やクルーの声もせず、ツー、ツー、と言う無機質な音だけ。
「・・・・どういう事だ?」
≪ここまで周到なあの娘の事だ。〈フラクシナス〉にも何かしら手を打っていたのではないか?≫
「っ! ドラゴン! 琴里と交信してくれ!」
≪その前に、その魔法陣の紙を剥がせ≫
四糸乃に携帯電話を返してながら言われて、士道も思い出した。ドラゴンは士道の身体に貼られた、折紙がファントム側から貰った魔法陣が描かれた紙を使って、ドラゴンと精霊達との交信を阻害していたのだ。
士道は魔法陣の紙を剥がそうと触れると、
ーーーーバチバチっ!
「うわぁあっ!?」
「「士道(さん)!?」」
紙から電流が迸り、士道の身体も痺れ、思わず手を引っ込めた。
「こ、これは・・・・!」
≪ふむ・・・・・・・・どうやら時限式で解除される代物のようだ。ヘタに触れれば電流が流れる仕掛けだ。あの数時間は剥がれん≫
「くそ・・・・! 2人共、頼む! 俺はここがどこか分からないんだ。知ってる場所まで案内してくれないか?ーーーー十香達が、危ないんだ」
四糸乃と変身解除した七罪は一瞬キョトンとした顔を作るが、すぐに真剣な眼差しでコクリと首肯した。
ー十香sideー
「う・・・・ぐ・・・・」
顔を歪めながら身を起こす十香。どうやら少しの間気を失っていたようだ。胸元に触れると、ベッタリと血が付着していた。折紙のレイザーブレイドが、自分の絶対の鎧である霊装を切り裂いたからだ。
「私は・・・・」
「・・・・ああ、十香さん・・・・目が覚めましたかぁ」
弱々しい声が聞こえ顔をあげると、限定霊装をボロボロに裂かれた美九が、肩で息をしながら十香を守るように立っていた。白い肌には幾つもの裂傷に打撲の痕があり、まさに満身創痍な状態だった。
「美九! 大丈夫か・・・・!?」
「はいー・・・・何とか。十香さんこそ大丈夫・・・・でーーーー」
言葉の途中で美九は膝をつき、その場にガクリとくずおれた。十香は慌てて駆け寄り、その身体を支える。
「しっかりしろ、美九! 美九!」
十香の声に応えるように弱々しく微笑んだ美九は、ふっと目を閉じると同時に、身体からグッタリと力が抜け落ち、気を失った。
と、その瞬間、前方から、瓦礫を踏み締める音が聞こえ、視線を向けるとそこに、鈍色の鎧を纏った死神の姿があった。
「鳶一・・・・折紙・・・・ッ!!」
憎悪を込めて少女の名を呼ぶと、それに応えるように折紙は冷淡な視線を寄越した。
彼女の足元には夕弦が、少し離れた位置に耶倶矢が倒れていた。2人共、意識はあるようだが、その身体は美九と同じように傷だらけたった。
十香が気絶している間に、激しい戦いがあった事を物語っていた。ーーーー無防備になった十香を、折紙から守る為だろう。
十香はギリと奥歯を噛み締めると、美九の身体を優しく横たえ、天使を手に立ち上がった。
「貴様・・・・一体何故こんな事をする・・・・!」
「問いの意味が分からない」
表情を変えず、折紙は返す。
「あなた達は精霊。世界を殺す厄災。人類に仇なす存在。それだけで理由は事足りる。何度も言わせないで」
至極落ち着いた様子でそう言うと、折紙は左手の指をクイ、と曲げる。するとそれに合わさるように、見えない手に持ち上げられたように、足元の夕弦の身体が浮かび上がる。
「苦・・・・悶。マスタ・・・・折紙、なぜ・・・・」
「・・・・・・・・」
こんな状況でも、自分をマスターと慕う夕弦に、少し眉根を寄せると、折紙は夕弦の首に手を伸ばし、その言葉を中断させた。
折紙は手に力を込め、夕弦の喉から苦し気な声が漏れるが、それに構わず、みぎてに握ったレイザーブレイドを、夕弦の腹部に突き立てようと構える。
「貴様・・・・!」
〈鏖殺公<サンダルフォン>〉を構える十香よりも早くーーーー瓦礫に埋もれていた耶倶矢が、全身から夥しい血を流しながら、〈颶風騎士<ラファエル>〉の槍を構えて、折紙に突撃した。
「ーーーー夕弦に何してくれてんだ、折紙ィィィィィィッ!!」
折紙に血走らせた目で悪鬼のような形相で襲い掛かる耶倶矢。不意の攻撃に対応が遅れ、耶倶矢の一撃は随意領域<テリトリー>を越えて、折紙のCR-ユニットの1部を傷つけた。
「くーーーー」
だが、そこまでだった。折紙が眉根を寄せると同時、見えない手に押し潰されたように、耶倶矢の身体が地面に落ちた。
「ぐ・・・・ッ!」
耶倶矢は諦めず顔を上げようとするが、圧倒的な力で倒れ伏した。
「耶倶矢!」
2人が危ないと言うが早いか十香は地面を蹴り、折紙に向かって走り出す。
が、不可視の壁に遮られる。随意領域<テリトリー>により、身体の自由が奪われたのだ。
「く、鳶一折紙、貴様・・・・!」
苦しげに呻くが、折紙は全く意に介さず、レイザーブレイドを再び構え、夕弦に視線を向け、独白するように呟いた。
「ーーーー長かった。私は漸く手にいれた。精霊を倒す力を。ーーーー悲願を達成する力を」
細く、長く息を吐く。それはまるで、己の中に燻る最後の迷いを、逡巡を、吐息にして吐き出すように。
「この一撃を以て、私は、私を取り戻す。世界の精霊は、全て私が倒す。もう2度とーーーーこの世に私のような人間が生まれないように」
自分に言い聞かせるようにそう言ってから視線を鋭くし、レイザーブレイドを握る手に力を込めた。
「鳶一折紙・・・・ッ!」
喉を震わせ、折紙の名を呼ぶが、十香の身体を縛る随意領域<テリトリー>は微塵も緩まない。
しかし、諦める訳にはいかない。今この場で折紙と戦えるのは十香しかいないのだ。十香が剣の切っ先を下げた瞬間、耶倶矢は、夕弦は、そして美九は、間違いなく殺され、琴里や四糸乃や七罪も、その凶刃に討たれてしまう。
今の折紙であれば、やる。そしてーーーーそれを成した彼女は、きっとそれまでとは違う生き物になってしまうに違いなかった。
何故かは分からないが、十香は、それがどうしても許せなかった。
「うーーーーあ、あああああああああああああッ!」
十香は大声を発し、随意領域<テリトリー>の戒めから逃れようと全力に力を入れるーーーーだが足りない。今までの折紙とは桁違いの随意領域<テリトリー>の強度は、微塵も緩まない。
「(これでは、駄目だ。皆を助けられない・・・・! もっと、もっとーーーー強い力を!・・・・っ)」
そう思った瞬間、十香を途方もない悪寒が襲った。
その感覚はそうーーーーDEM日本支社で、士道がエレンに殺されてしまいそうになった時に感じたソレと良く似た気持ち悪さだ。
自分の中に別の何かが現れ、手を取られるかのような感覚。己の意識が希薄なり、その代わりの、得体の知れない真っ黒いモノが頭の中を満たしていくような恐怖感。
十香は奥歯を噛み締めた。その感覚の正体は分からないが、本能的に察する。
「(ーーーーその力では、皆を救う事はできない!)」
十香は、十香のままでいなければならない。
耶倶矢を救う為に。
夕弦を助ける為に。
美九を生かす為に。
そしてーーーーあの女を。
不遜で、横暴で、愛想がなくて、口が悪くて、何を考えているのか分からなくて、いつも十香の邪魔ばかりする、十香が大嫌いなーーーーあの気高い少女の手を取る為に。
十香は十香のまま、剣を振るわなければならなかった。
「シドー、ドラゴンーーーー私に、力を貸してくれ・・・・ッ!」
十香は士道とドラゴンの名を呼び、天使〈鏖殺公<サンダルフォン>〉の柄を握る手に、力を込めた。
「ーーーーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
頭の中で何かが弾けるようなイメージ。十香は身体の中に、何か温かい物が流れ込んでくるような感覚を覚えた。
ー折紙sideー
夕弦の首に手をかけ、今まさにその身体を貫かんとしていた折紙は、十香が叫びを上げたかと思った瞬間、突然その身体が、目映く光輝いたのを見て眉をひそめた。
異変はそれで終わらず、十香を足止めしていた随意領域<テリトリー>から、十香の感覚が消えた。
否ーーーー違う。折紙は視線を鋭くする。十香が消えたのではない。十香を包んでいた随意領域<テリトリー>の1部が、“穴が開いたかのように消え去ったのだ”。
「ーーーー!!」
次の瞬間、折紙は凄まじい殺気を感じ、夕弦の首を握る手を離し後方に飛び退く、その一瞬後、折紙がいた空間に、淡く輝く剣が光の軌跡を残しながら通り抜けた。
「な・・・・」
折紙が狼狽に目を見開くと同時に、随意領域<テリトリー>から解放された夕弦の身体を手で支えるーーーー完全霊装を纏った十香がいた。
「その、姿は・・・・」
剣の精霊〈プリンセス〉となった十香を、折紙は表情を険しくしながら呟くように言うと、十香は夕弦を耶倶矢の隣に寝かせてから、悠然と顔をあげた。
「鳶一折紙。私はお前が嫌いだ。今も、昔も、変わらずな。ーーーーだが、今の『嫌い』は、昔の『嫌い』と、多分、少し、違う。だからーーーー」
そして、折紙の目を見据え、手にした〈鏖殺公<サンダルフォン>〉の切っ先を向けてくる。
「滅<ころ>すつもりでいく。ーーーー死ぬなよ、“折紙”」
十香が、静かなーーーーしかし底冷えするような声音で言う。
「・・・・ッ!」
その圧倒的な威圧感と絶望的なプレッシャー。少しでも気を抜けば一瞬で首を斬られそうな剣気が、折紙の全身を襲い、心臓を射られるかのような錯覚を覚えた。
「・・・・」
しかし、折紙は退かない。ーーーー否、むしろ、この十香こそ、折紙が倒すべき、越えるべき壁なのであった。
かつて手も足も出なかった最強の精霊。完全なる〈プリンセス〉を討ち破ってこそ、折紙は前に進む事ができる気がしたのだ。
「はぁ・・・・ッ!」
烈帛の気合いと共に、〈プリンセス〉へと向かったーーーー。