デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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どんなに研鑽しても、越えられない限界が立ち塞がった時、人はどうするのか?


変貌・折紙

ー折紙sideー

 

折紙と、完全霊装となった十香の戦いは、まさに死闘と呼ぶにふさわしいほど鮮烈だった。

折紙が纏うDEM製CR-ユニット〈メドラウト〉の主兵装、レイザーブレイドや魔力砲にもなる〈クラレント〉を駆使し、十香に攻め立てるが、十香はその必殺の攻撃を全て捉え、的確に受け止めた。

折紙もその攻撃を捉え、打ち払い、斬り上げ、突き、薙ぎ、受け止め、振り下ろす、嵐の如き剣撃が、双方向から吹き荒れた。実力はほぼ互角。折紙はもはや、十香に為す術もなく斬り伏せられていた頃の折紙ではなかった。

今の折紙は、完全状態の精霊と対等に渡り合える。

人間の英知は、世界を殺す厄災にも通用する。

それは、折紙が幾年も望み、焦がれた悲願だ。

 

「(私は、間違っていなかった。今まで積んだ鍛練は、無駄ではなかった。この〈メドラウト〉があれば、夜刀神十香を。八舞姉妹を。誘宵美九を。そして5年前、お父さんとお母さんを殺した精霊を!)」

 

そう。ーーーー5年前の精霊。DEMに所属する事を条件に、折紙はエレンからその存在の情報を得ていた。さもなくば、士道に危害をくわえる組織なんかに所属などしない。

具体的な姿と能力が分かった訳でない。情報その物としては、そこまで価値は無かった。

だが、足しかに5年前、あの街には、〈イフリート〉五河琴里以外の精霊がいたのだ。それが立証されただけでも、DEMの情報には大きな価値があった。

 

「(今の私ならば、成せる。あの精霊を見つけさえすれば、その首を飛ばすこ、と、がーーーー)え・・・・?」

 

だがそこで、折紙に強烈な頭痛が襲う。それは、内側からの痛みだった。

次の瞬間、意識が点滅するように途切れ、視界が真っ赤に染まっていく。

 

「あーーーー」

 

「はぁッ!」

 

その隙を逃さなかった十香は、がら空きになった胴に、〈鏖殺公<サンダルフォン>〉を横薙ぎに叩きつけた。

あらゆる物を調伏させる、絶対の暴君の一撃。折紙の身体は風に弄ばれる木の葉のように軽々と、一直線に後方へと吹き飛ばされた。

その勢いのままに瓦礫を幾つも砕き、建造物の壁を貫き、最早十香の影さえ見えないくらいの巨利に達しーーーー地面を2転3転して漸く、仰向けに倒れた。

 

「く、は・・・・ッ」

 

随意領域<テリトリー>で防御して、致命傷は避けられたが、全身のダメージは深刻だった。打撲、裂傷、出血、戦える状態ではなかった。

否。本当に深刻なのは、身体の傷ではない。折紙は手で顔を拭い、そこに付着した赤黒い地を血を見て奥歯を噛み締めた。

鼻や目から、出血している。この症状は間違いなく、活動限界の症状だ。

 

「ぐ・・・・っ」

 

完全な状態の十香を相手に、知らず知らずの内に脳を酷使しすぎていたようだ。折紙は悔しげに歯噛みし、仰向けのまま地面を殴り付けた。

 

「(ーーーー何が、互角だ。何が、精霊と戦う事が、できるだ。結局私は、命を削りながら、どうにかあの力に追い縋っていたに過ぎなかった・・・・!)私、は・・・・」

 

折紙は震える手を天に伸ばした。まるでーーーー神に縋るように。

無論、折紙は神を信じていない。5年前、目の前で両親が殺されたあの日から、折紙の頭の中から神と言う言葉は消えた。

だが、もしも。

この世に神や悪魔が本当に存在するのであれば、折紙はどんな犠牲を払おうとも、その手に縋るに違いなかった。それこそ、目的を達成した後に心臓を捧げねばならないと言う契約であろうと。

自分らしくない考え方なのは分かっている。存在しないモノに望みを託すなど、愚の骨頂だ。己の助くのは己のみ。祈る時間は鍛練に。願う時間は戦略に。そうして作り上げられたのが、鳶一折紙と言う魔術師<ウィザード>だ。

だがーーーーもう、折紙には何も残されていなかった。

血反吐を吐くような訓練、寝る間も惜しんだ研究、身体に負担を強いる最新鋭の装備、死と隣り合わせの実戦。考え得る全てを、折紙は積み上げてきた。

その結果は、これなのだ。

全てを犠牲にして練り上げた筈の力は、結局精霊には通じなかった。

所詮、人間は精霊には敵わない。その残酷過ぎる現実だけが、折紙の長い戦いの果てに待っていたのだった。

 

「わ、たし、はーーーー」

 

折紙の顔に、ふっと諦観が過り、弱々しく息を吐くと、天に翳した手を、力なく下ろすーーーーだが、その瞬間。

 

 

【ーーーーねえ、君。力が欲しくない?】

 

 

折紙の耳に、男とも女とも取れない声が、聞こえた。

 

「えーーーー?」

 

突然響いた声に、目を見開き、よろめきながらも身体を起こす。

するとそこに、得体の知れない『何か』が立っているのが分かった。

『何か』と言う他に形容しようのないモノである。そこに存在しているのは認識できるのに、その実像が捉えられない、まるでノイズの塊としか言えないモノがいた。

 

「あなたは・・・・何?」

 

『誰』ではなく『何』と表現するしかない折紙の言葉に、『何か』は可笑しそうにクックッと笑い声を響かせた。

 

【私が何かなんて事は、今はどうでも良いよ。それよりも、答えて? 君は、力が欲しくない? 何者にも負けない、絶対的な力が、欲しくはなぁい?】

 

「・・・・・・・・ッ!」

 

折紙は眉根を寄せ、息を詰まらせた。

明らかな異常事態。こんなモノに取り合うなど、およそ正気の沙汰ではない。

が、その問いに対する『答え』は決まり切っていた。たとえこの『答え』が破滅の序曲であったとしても、折紙は半ば無意識の内に、唇を動かす。

 

「そんなのーーーー欲しいに決まってる」

 

吐き捨てるように、その言葉を口にした。

 

「私は・・・・力が欲しい。何をおいても。何を犠牲にしても・・・・! 私の悲願を達する事のできる、絶対的な力が欲しい! 何者をも寄せ付けない、最強の力が・・・・欲しいッ!」

 

【そう】

 

『何か』が、短く答える。

何故だろうか。表情など見れないのにーーーー『何か』が一瞬、ニッと笑った気がした。

 

【ーーーーなら、私があげる。君が望むだけの力を】

 

そう言って、『何か』は折紙に向かって何かを差し出した。

白い輝きを放つ、ダイヤモンドのような物体だ。その幻想的な輝きに、折紙は一瞬目を奪われる。

 

「これは・・・・?」

 

【力が欲しいのなら、手を伸ばして】

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は訝しげに眉をひそめながらも、ゆっくりと手を伸ばし・・・・その宝石に触れた。

その瞬間。

 

「な・・・・ッ」

 

宝石が凄まじい輝きを放ったかと思うと、そのまま空中に浮かび上がり、折紙の胸に吸い込まれていった。

 

「な、にが・・・・」

 

折紙が自分の胸元を見下ろしながら呆然と呟くも、宝石の姿は無かった。

 

「今のは、一体ーーーーっ!」

 

顔を上げて問おうとしたが、今の今までいた『何か』の姿が、忽然と消え去っていた。

 

「・・・・・・・・」

 

極限状態に追い詰められた自分が見た幻覚だったのか。と、折紙は結論づけて額に手を置いた。

しかし、その時。

 

ーーーードクンッ!

 

「あ・・・・?」

 

大きく心臓が脈動し、折紙は眉根を寄せた。

身体の中に新たな心臓ができて、ソレまでとは異なる熱い血流が全身に放出していくような感覚。これまで感じた事のない異常な感触に、折紙は思わずその場に膝を突いた。

 

「あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あ、あーーーー」

 

朦朧とする意識の中で。

折紙は、自分が“別の存在に生まれ変わるかのような感覚を覚えた”。

その際、真っ白な衣装が形成されている事に気づいたーーーー。

 

 

 

ードラゴンsideー

 

『(っ! 何だ、この気配は・・・・!?)』

 

漸く外に出た士道達が変身しようとした時、ドラゴンは異様な気配と新たに現れた霊波を感じて、顔をしかめていた。

 

 

 

 

ー燎子sideー

 

「・・・・ッ! 何事!?」

 

陸上自衛隊天宮駐屯地に突如響いた警報に、AST隊長の燎子は喉を震わせた。

通常ならば訓練をしている時間だがーーーー今日はとある事情から、管制室に出向いていた。

燎子の声に、管制官がコンソールを操作し、ヒッと息を詰まらせる。

 

「こ、これはーーーー凄まじい霊波反応です!」

 

「霊波反応・・・・って、これもDEMが!?」

 

燎子は忌々しげに眉をひそめる。

そう。実は霊波反応自体は、先程から幾つも観測されている。〈ベルセルク〉、〈ディーヴァ〉、そして〈プリンセス〉。さらに、天宮市郊外の道路では、ファントム<〈アンノウン〉>の存在も確認されていた。

特に〈プリンセス〉の反応は、途中から霊波を増し、かつて交戦した時の力を出していた。

街中にそんな化け物達が現れたと言うのに、ASTの燎子達が駐屯地から動けない理由は、至極単純なものだった。ーーーーDEMインダストリーだ。

あの悪徳会社が特殊演習を行うだとかで、防衛省に圧力をかけて、ASTを動けなくしたからだ。故に燎子達は、管制室で精霊の様子を、レーダーで観測する事しかできないのだ。

と、管制官が今度は、戦慄した調子でゴクリと息を呑む。

 

「ち、違います・・・・! これはーーーーDEMの事前通達の中にはいなかった反応です!」

 

「何ですって!?」

 

燎子もそのレーダーを見ると、〈プリンセス〉に勝るとも劣らない、強大な数値が表示された。

新たな精霊が、静粛現界したのかと、燎子が表情を険しくたのと同時に、

 

「隊長っ!」

 

管制室の扉が開いて、ワイヤリングスーツを着た美紀恵と、白衣を着たミリィが入ってきた。

 

「AST全隊、準備はできています!」

 

「CR-ユニットの方も万全ですよー。いつでも即座にフルパフォーマンスです」

 

「美紀恵・・・・ミリィ・・・・」

 

彼女達も、燎子と同じ気持ちだったのだろう。もうずっと前から出撃準備を整えていたのだ。

折紙の懲戒処分が下された時は、さんざ動揺して自分もASTを辞めるとまで言い出した美紀恵も、今はもう立派に己の責務を果たしていた。いつの日か折紙が戻ってきた時に、情けない姿を見せられないと、己を奮い立たせているのである。燎子は部下の成長に、フッと口元を緩める。

が、それと同時に、管制官が声をあげる。

 

「ーーーー! 隊長! 本部より入電!」

 

「はっ、タイミングの良いことね」

 

多分、出撃命令と目算する燎子は、緊急着装デバイスをポケットから取り出した。

だが。

 

「ッ、え、ASTは、全隊待機を続けよ・・・・との事です」

 

管制官の言葉に、燎子と美紀恵、ミリィまでも目を見開いた。

 

「ど、どういう事よ。街中に精霊が出現して、郊外では〈アンノウン〉達まで現れたのよ!?」

 

「そ、そう言われましても・・・・」

 

上からの指令をそのまま伝えただけの管制官が困り顔になる。

 

「ぐ・・・・っ」

 

燎子は悔しげに奥歯を噛み締めると、拳を固めてガン! て壁を殴り付けた。

 

「この非常時に出動しなくて、何が、ASTよ・・・・ッ! 本部の頭でっかち共は、そんなにDEMが怖いって言うの・・・・!?」

 

そう毒づいた瞬間、折紙の顔が脳裏に過った。

色々と問題の多い隊員ではあったがーーーー己の信念に悖る行為だけは決してしなかった。折紙ならば、待機命令を無視して、迷う事なく出動しただろう。

だが、燎子がそれをしてしまえば、上層部は大喜びで隊長の首をすげ替えるだろう。ーーーーもっと扱いやすい、DEMの息のかかった魔導師<ウィザード>に。

それだけはどうしても避けねばならない。

 

「・・・・全隊、待機を続けなさい・・・・ッ」

 

燎子は、吐き捨てるように、そう言った。

 

 

 

ー十香sideー

 

折紙を吹き飛ばした後、十香は追撃せず、地面に横たわった八舞姉妹に駆け寄ると、2人共、ボロボロだが意識はあるようだ。

耶倶矢が完全霊装の十香を見て、羨ましそうにジッと見つめ、ブー、と唇を突き出した。

夕弦は折紙の身を案じていた。こんな目に合わされても、折紙を師と仰いでいるようだ。

八舞姉妹が無事だと確認した十香は、今度は破壊された道路の上でグッタリ横たわる美九に駆け寄る。

 

「美九!」

 

呼び掛けるが返事がない。駆け寄った十香は膝を折って、その顔を覗き込むと、随分と安らかな寝顔をした美九が、スウスウと寝息を立てていた。

十香は安堵の息を吐くと、互いに支え合いながら、耶倶矢と夕弦が近づいてきた。

 

「くく・・・・目覚めたならば礼を言っておくと良いぞ、十香。気絶した御主を、身を挺して護っていたのは其奴ぞ」

 

「首肯。終始足は震えていましたが、立派でした」

 

「うむ・・・・そうだな。助かったぞ、美九」

 

十香がそう言うと、再度声が響いてきた。

 

「ーーーーそうそう。だから早く目覚めさせてやると良いぞ」

 

「む? どうすれば良いのだ?」

 

「くく、知れた事。姫の眠りを覚ますのは熱い口づけと相場が決まっておる」

 

「く、口づけだと!?」

 

「首肯。その通りです。さあ、思い切っていっちゃうのです。キース、キース」

 

「む、むう・・・・(それしか方法が無いならば、仕方ない・・・・のだろうか? ドラゴンがいれば助言してくれるのだが・・・・)」

 

十香がゴクリと息を呑むと。

 

「ちょっと待て! 我は何も言っておらぬぞ!」

 

「同調。夕弦もです」

 

「な、何?」

 

耶倶矢と夕弦に言われ、途中から響いた声が2人の声と少し違った気がして眉根を寄せ、視線を下方に落とすと、薄目で目を開けながらニヤニヤと口元を綻ばせている美九がいた。

 

「あっ、美九! お前さては起きているな!?」

 

「ぷふふっ! あーん、バレちゃいましたぁー?」

 

十香が指を突きつけて叫びをあげると、美九がもう堪えきれないといったようすで吹き出した。どうやら、既に目は覚めていたようだ。

 

「もうっ、余計な事を言わないで下さいよ耶倶矢さん、夕弦さぁーん。もう少しで十香さんなプリティリップが堪能できたかも知れないのにー」

 

「言うに事欠いて何を申すか! 我らが声色を騙った罪は重いぞ、美九! 御主の罪業は煉獄に堕ちようとも購われぬモノと知れ! 御主の主である魔竜にこの罪業を報告してくれる!」

 

「憤慨。プンスカです。ドラゴンに言いつけて、お仕置きとしてお尻ペンペンをしてもらいます」

 

「ええっ!? ハニーにお尻ペンペンですかっ!? そ、それって・・・・お仕置きと言うよりも寧ろご褒美じゃないですかぁー!」

 

八舞姉妹が険しい顔でそう言うと、美九はガバッと身体を起こした。怪我はどうした? と、疑問を感じてしまう程の動きだ。

 

「ハニーからのご褒美も良いですが、お二人への償いは、きっちり身体で払わせていただきますねぇ」

 

ペロリと唇を舐める美九に、八舞姉妹は同時に顔をゾゾゾッと青ざめさせ、美九から逃れようと後ずさった。

 

「あーん、なんで逃げるんですかぁ。お待ちになってぇー」

 

「う、五月蝿い! 寄るな近づくな変態め!」

 

「逃亡。えんがちょです」

 

美九が追いすがり、2人がよろめきながらも逃げようとする。今し方までの死闘が嘘のような、何とも和やかな光景だ。

十香は3人の元気そうな様子に放念の息を吐くと、ヨタヨタと鬼ごっこを制止するようにパンパンと手を叩いた。

 

「兎に角、皆傷は浅くない。〈フラクシナス〉で治療をしてもらおう。誰か、琴里と連絡を取ってくれるか?」

 

言うと、3人は漸く鬼ごっこを止めて、十香の方に視線を寄越す。

 

「くく・・・・そうするか。まあ、我はこの程度の怪我どうと言う事は無いのだが、他の者達がおるからな」

 

「悪戯。ツンツン」

 

「あきゃあっ!?」

 

夕弦が耶倶矢のお腹の傷を突っつくと、やはり痛いようで、耶倶矢は目に涙を浮かべながら叫び声をあげる。

 

「い、いきなり何すんだし!」

 

「嘲笑。どうと言う事はない(キリッ)」

 

「ああっ、それ私もやってみたいですー! ツンツンっ!」

 

「ちょ・・・・っ、止めんかこらーッ!」

 

いじられ属性の耶倶矢が、いじり属性の2人に攻められ、またも悶着を始める。

十香はハアと息を吐いた。

 

「兎に角、頼んだぞ。私は鳶一折紙を連れてくるから、3人は先に〈フラクシナス〉に行ってくれ」

 

十香がそう言うと、3人はフゥと息を吐いてから、コクリと頷いた。

 

「ふん・・・・まあ十香がそう言うのであれば任せよう。無論どんな理由があろうと、この代償は後でたっぷりと奴に払って貰うがな」

 

「首肯。くすぐり地獄の刑です。今度こそマスター折紙の鉄仮面を粉砕デストロイして見せます」

 

「あ、その代償って、個別でも良いですかぁ? 私色々自体は事があるんですけどぉ・・・・」

 

目を輝かせながら言う美九に、八舞姉妹が頬に汗を滲ませた。

十香は皆の納得を確認し、折紙を吹き飛ばした方向に目をやったーーーー。

 

「・・・・む?」

 

と。ソコで、灰色の雲に覆われた空に、何か人影のようなモノが見え、眉をピクリと動かした。

一瞬見間違いかと思ったがーーーー違う。

仄暗い空間に一条の光が差し、その中に、1人の少女が浮遊していた。

最初に目に入ったのは、その装いだ。

身体の線に沿うように纏わり付いたドレス。満開の花のように大きく広がったスカート。そして、頭部を囲うように浮遊したリングから伸びた、光のベール。ーーーーそれら全てが、目の覚めるような清廉な純白で構築されていた。

まるで清らかなる乙女のみが纏う事が許された花嫁衣装のように。あるいは、闇の中に降り立った天使の姿を思わせた。

 

「・・・・ッ、あれ、はーーーー」

 

しかし、十香が息を詰まらせたのは、それらの要素に目を奪われたからではない。

その白いシルエットがゆっくりと近づいてくると同時に、少女の顔を見た。

ーーーーその、鳶一折紙の、顔が。

 

「折紙・・・・?」

 

「確認。やはり耶倶矢にもそう見えますか」

 

「ですねー・・・・あれ、でもあの姿って・・・・」

 

仲間達もソレに気づき、眉をひそめる。

だが、その思考は中断される。

折紙がこちらに視線を向けた瞬間ーーーー全身を無数の針が突き刺さったような悪寒が襲ってきた。

 

「「「「・・・・っ」」」」

 

耶倶矢達が目を見開き、十香が3人を守るように前に立ち、折紙から視線を外さず天使を構える。

 

「ーーーー逃げろ。守りながら、戦えない」

 

完全霊装になれない自分達では足手まといになると、3人は思った。

それほどまでに、圧倒的だったのだ。

ーーーー“コレ”は。立ち向かってはならないと。

八舞姉妹が美九を両脇から抱えると、そのまま身体に風を纏わせ、凄まじいスピードで空に離脱した。

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は3人に興味を示さず、十香を見据えると、空をゆっくりと滑るように近づく。

そして十香を見下ろしながら、小さく唇を開いた。

 

「夜刀神・・・・十香。ーーーー倒す。私が」

 

「・・・・折紙、貴様」

 

視線を鋭くする十香に、折紙は悠然と右手を天に掲げ、そして呼ぶ。

折紙が知る筈のない、そのーーーー天使の名を。

 

「ーーーー〈絶滅天使<メタトロン>〉」

 

折紙の言葉に応ずるように、既に日が沈んだ空から、折紙を囲うように幾条もの光が降り注ぎ、それらの光が次第に実像を帯びていき、それぞれが無機質な細長い羽のような形と成っていく。

そして折紙が天に掲げた手を握ると同時に、それらの羽が円状に連なる。そう。まるでーーーー折紙の頭上に王冠が戴かれるかのように。

 

「く・・・・」

 

顔をしかめる十香。霊装に、天使。もう、間違いようがない。顔を上に向けたまま、叫ぶ。

 

「・・・・折紙。貴様、なぜーーーー“精霊になっている”!」

 

そう。鳶一折紙はーーーー精霊となっていたのだ。

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

折紙が精霊となった直後、ハリケーンスタイルとなったウィザード<士道>と、『ハニエルブルーム』に股がったウィッチ<七罪>とその後ろに捕まるハーミット<よしのん&四糸乃>が、空中を飛びながら、十香達の元に向かっている。

そんな中、ウィザード<士道>はさっきのドラゴンとの会話を思い出す。

 

【どうする? あの娘を叩きのめしてでも止めるか? あの娘の覚悟と決意を踏みにじってでも止める覚悟が、貴様ごときにあるのか?】

 

【ああやってやる! 折紙に恨まれたって構わない! 俺は折紙を止めるっ! 止めてやるっ!!】

 

「(このまま行って十香達と合流して、折紙を止める。何も折紙を倒す必要は無いんだ。少し戦って折紙を大人しくさせて、そして話し合えば、きっと折紙も分かってくれる筈だ・・・・!)」

 

≪・・・・む!?≫

 

「っ、どうしたドラゴン?」

 

と、如何に折紙を大人しくさせるか思考していると、ドラゴンが何かを探知したような声を発する。

 

≪これはーーーー完全に想定外の事態だな・・・・!≫

 

「何がだよ?」

 

≪ーーーー折紙<無表情娘>が、精霊になった・・・・!≫

 

「えっ?」

 

ウィザード<士道>は一瞬、ドラゴンの言葉の意味が分からなくなり、間の抜けた声を漏らした。




折紙が選択した道は、破滅の道であった。
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