デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー???sideー
『メデューサ』は、アジトの一つである洞窟の奥に置かれた、天蓋付きのベッドのカーテン越しに映る『ワイズマン』の影に、恭しく頭を垂れた。
『申し訳ありません『ワイズマン』。精霊のファントム化は失敗しました』
『ーーーーーーーーーーーーーーーーーー』
『ハッ、今度こそ精霊をファントムにしてみせます』
『メデューサ』がそう言うと、『ワイズマン』の影はその場から消えた。
同じように頭を垂れていた『フェニックス』が起き上がる。
『へっ! それにしても見物だったなぁ! 暴走していたときの精霊のあの姿! 俺が戦いたかったぜ!』
『・・・・・・・・』
精霊との戦いを望むように地団駄を踏むフェニックスをメデューサはバイザー越しに冷酷に睨む。
『あぁ~! やっぱり精霊のファントム化だなんてまどろっこしいぜ! 俺がちゃちゃっと戦って追い詰めれば、精霊も簡単に絶望してファントムになるんじゃねぇかよ!』
『口を慎めフェニックス、それらの指示は全てワイズマンが為される。勝手な行動は許さんぞ』
『チッ、分かってるよ。だが、何でワイズマンは精霊を絶望させたがってんだ? 『精霊から生まれたファントム』ってのはそんなにスゲエのかよ?』
『ワイズマンの仰ること。信憑性は確かだ。次こそは生み出して見せる。『ファントムの魔力と精霊の霊力が融合したファントム』をな』
メデューサはフェニックスを連れて、洞窟から去っていった。
ー琴里sideー
「ーーー以上です」
琴里は司令官しか立ち入るとこが許されない〈フラクシナス〉の特別通信室にて、〈ラタトスク〉上層部に報告をしていた。
『精霊の攻略・回収』に関する報告を。
薄暗い部屋の中心に設えられた円卓には、琴里を含め5人分の息づかいが感じられたが、実際〈フラクシナス〉にいるのは琴里のみ、後のメンバーは円卓に設えられたスピーカーを通してこの会議に参加していた。
《彼の力は本物だったというわけか》
琴里の右隣に座ったブサイクな猫のぬいぐるみから少しくぐもった声が発せられた。音声通信である為に琴里が勝手に置いたものである。
「だから言ったじゃないですか。士道ならやれるって」
得意げに腕組みする琴里の左隣に座った泣き顔のネズミが静かに声を発する。
《君の説明だけでは、信憑性が足りなかったのだよ。何しろ自己蘇生能力に・・・・『精霊の力を吸収する能力』というんだ。にわかに信じられん》
琴里は肩をすくめたが、まあ仕方ない事だと思った。
様々な観測装置を使って士道の特異性を確かめる為に要した時間はーーーおよそ五年。そして一年前には〈フラクシナス〉の建造、クルーの選抜が行われた。
それらの事が重なったゆえに、あの『サバトの日』に士道が行方不明となり、さらに『魔法使い<ウィザード>』としての活動を、〈ラタトスク〉に知られる事が無かったのだが。
《精霊の状態は?》
ブサ猫の隣に座った涎をダラッダラに垂らした間抜け極まるデザインのブルドッグのぬいぐるみが声を発した。
「〈フラクシナス〉に収容後、経過を見ていますがーーー非常に安定しています。空間震や軋みも観測されません。どの程度が残っているかは調べてみないとわかりませんが、少なくとも、『いるだけで世界を殺す』とは言い難いレベルかと」
琴里がそう言うと、円卓についた4匹のぬいぐるみの内、ブサ猫と泣きネズミとバカ犬が一斉に息を詰まらせた。
《では、少なくとも現段階では、精霊がこの世界に存在していても問題ないと?》
明らかに色めきたった様子のブサ猫が声を上げ、琴里は視線に嫌悪感を滲ませながらも穏やかな口調で「ええ」と答えた。
「それどころか、自力では隣界に消失することすら困難でしょう」
《ーーーでは、彼の様態はどうなんだね。それほどまでに精霊の力を吸収したのだ。何か異常は起こっていないのかな?》
今度は泣きネズミが問うてくる。
「現段階では異常は見られません。士道にも、世界にも」
《なんと。“世界を殺す災厄”だぞ? その力を人間の身に封じて、何も異常が起こらないと言うのか》
バカ犬が言ってくる。
《・・・・彼は一体何者かね。『魔法』と呼ばれる異形の怪物ファントムの力を有していたり、まるで精霊ではないか》
ぬいぐるみの顔だけでなく、本当に馬鹿だ。琴里は内心嘆息しながらも律儀に口を開いた。
「ーーー魔法と蘇生能力については、以前説明した通りです。吸収能力の方は、現在調査中としか」
琴里が言う、ぬいぐるみ達はしばし黙ったが、数秒後に今まで一言も喋らなかった、胡桃を抱えたリスのぬいぐるみが、静かに声を発した。
《ーーーとにかく、ご苦労だったね、五河司令。素晴らしい成果だ。アンノウン、イヤ、魔獣ファントムに関しても精霊を狙っているならば、我々も協力しよう。これからも期待しているよ》
「はっ」
琴里は初めて姿勢を正し、手を胸元に置いた、
◇
ー士道sideー
「・・・・・・・・ふはあ」
≪いつもより気の抜けた間抜け面だな≫
あの一件から土日を挟んでの月曜日。
復興部隊の手によって完璧に復元された校舎に相当数の生徒が集まっている。
そんな中士道は、気の抜けた息を吐きながら、ぼうっと教室の天井を眺め、ドラゴンの毒舌にも応える気力も無い。
ーーーあの日。
あれから〈フラクシナス〉に回収された士道は、魔力の大量消費と、ミノタウロスファントムとプリンセスファントムとの戦闘の疲労が一気に押し寄せ、すぐに気を失ってしまい、目を覚ますとまたも〈フラクシナス〉の医務室に寝転がされていた。
そしてその後、施設で入念にメディカルチェックを受けさせられたが、気を失って以降、十香の姿を見ていない。十香と話をさせろと言っても、検査があるの一点張りで、結局最後まで姿を見ることは叶わなかった。
「・・・・あー」
≪まったく、普段から平和にボケたような性格に拍車をかけたような大ボケなザマだな≫
呆れ返ったドラゴンに、士道は周りの生徒に気づかれないように、コッソリと話しかける。
「(なあドラゴン、ちょっと引っ掛かっているんだけどよ)」
≪なんだ?≫
「(俺さ・・・・十香とキスしたよな?)」
≪ああそうだな≫
「(その時にさ、十香が霊装が溶け消えると同時に、俺の身体の中に、何か温かいものが流れ込んでくるような感覚があったんだけどさ。お前は何か感じたか?)」
≪・・・・・・・・・・・・さあな。気のせいではないか≫
ドラゴンが何か引っ掛かる態度を取ったのでさらに話しかけようとしたが、殿町が話しかけてきて、中断することになった。
話の中で殿町がタマちゃんを可愛いし、全然ストライクゾーンだと言ったので「プロポーズしてやれよ。多分受けてくれるぞ」と言った士道に首を傾げていると。そこで教室のドアが開くと、士道はピクリと肩を揺らし、一瞬教室がざわつく。
何しろあの鳶一折紙が額や手足を包帯まみれにして登校してきたからだ。
「(ドラゴン、鳶一のあの状態・・・・)」
≪権限装置<リアライザ>を用いれば大概の怪我はすぐに治ると聞いたが、3日経ってもあの様子では相当に酷い怪我だったのだろう≫
「・・・・・・・・・・・・」
折紙は士道の姿を見据えると、頼りなげな足取りで士道の目の前まで歩いてきた。
「お、おう、鳶一。無事で何よりーーー」
気まずげに言いかけた所で、折紙は士道に深々と頭を下げていた。
「と、鳶一・・・・ッ!?」
教室は騒然となり、士道と折紙に視線が集まるが、折紙はまるで意に介していない様子で言葉を続けた。
「ーーーごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど」
≪どうやらお前を撃った事を謝罪しているようだな≫
あの後令音から聞いたので、士道もようやく合点がいった。
「い、いいから、とりあえず頭を上げてくれ・・・・」
士道が言うと、折紙は存外素直に姿勢を戻すと、次の瞬間、士道のネクタイを根元から引っ張り、そのひんやりとした表情をまったく変えないまま、顔を近づける。
「浮気は、駄目」
「・・・・・・・・は?」
折紙の言葉に士道をはじめ、クラスの面々の目が点になる。が、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り、クラスメート達は士道と折紙を眺めながらも、自分の席に着いていくが、折紙だけは士道の顔をジッと見つめていたが、担任のタマちゃん教諭が入ってきたので、折紙は士道のネクタイを離して士道の隣の自分の席に戻る。
「(どういう事だ?)」
≪知るか・・・・≫
タマちゃんこと珠恵が教室の不穏な空気を感じて、やたら元気な声を上げて、今しがた自分が入ってきた扉に目を向けながら生徒に告げる。
「そうそう、今日は出席を取る前にサプラーイズがあるの! 入ってきて!」
「ん」
珠恵が扉に向かって声をかけると、それに応えるようにそんな声がして。
「な・・・・」
≪ほぉ≫
「ーーーーー」
士道と折紙は驚愕し、ドラゴンは面白そうに声を上げる。
何故なら、来禅高校の制服を着た十香が、物凄く良い笑顔をしながら入ってきたからだ。
「ーーー今日から厄介になる、『夜刀神十香<ヤトガミ トウカ>』だ。皆宜しく頼む」
見ているだけで目が痛くなるほどの美しさに、クラス中が騒然となるが、十香はそんな視線など意に介さず、チョークを手に取り、下手くそな字で黒板に『十香』とだけ書き、満足げに「うむ」と頷く。
「な、おまえ、なんで・・・・」
「ぬ? おお、シドー! 会いたかったぞ!」
十香は士道に気づくと、大声で名前を呼び、ぴょんと跳び跳ねて士道の真横の位置までやって来て、再び士道はクラス中から注目を浴びた。
ざわざわ、ざわざわとあたりから二人の関係を邪推する声と先ほどの折紙との関連性を勘ぐるような声が聞こえる。
士道の額に汗が浮かび、生徒達に聞こえないよう小さく声を発する。
「と、十香・・・・? どうしてこんなところにいるんだ?」
「ん、検査とやらが終わってな。ーーーどうやら私の身体から力が九割以上消失してしまったらしい。後お前がくれた『エンゲェジリング』は今妹に預けているのだ。何やらシドーがくれた時と形が変わってしまったようでな」
≪っ・・・・・・・・・・・≫
十香も士道を真似てか、小さな声で言ってきて、ドラゴンが一瞬ピクッと反応した感じがしたが、士道はそれどころではなかった。
「まあーーーとは言え怪我の功名だ。私が存在しているだけでは、世界が啼かなくなったのだ。それでまあ、お前の妹が色々してくれた」
「み、苗字は・・・・?」
「何と言ったかな、あの眠そうな女がつけてくれた」
≪どうやらお前だけ蚊帳の外だったようだな≫
「あいつら・・・・っ」
十香を自由にしてくれたのはありがたいが、他にやりようは無かったのか、と、士道は頭をくしゃくしゃとやって机に突っ伏したが、しかしーーー。
「なんだ、シドー。元気がないな。ーーーああ、もしや私がいなかっので寂しかったのか?」
十香が何食わぬ顔で、冗談めかす調子もなくそんな事を言ってきた。
しかも周りの皆に聞こえるくらいの大きさで。クラスのざわめきが最高潮に達した。
士道はこの上ない居心地の悪さを感じながらも、なんとか声を上げる。
「おま・・・・ッ、変なこと言うんじゃねえよ」
「なんだ、つれないな。あのときはあんなに荒々しく私を求めてくれたと言うのに」
言って両手で頬を覆い、「やーん」と恥ずかしそうな顔を作る。
『ーーーーーーーーーっ!?』
周囲の空気が変わるのがわかった。既に机の陰でメールを打っている者さえいる。このままでは学校中に士道の名が知れ渡る。勿論悪い意味で。
士道はあえて大きな声を張り上げた。
「ち、違うだろ十香! そ、そんな言い方したら、みんなに誤解されちまうじゃねえかあ!」
「ぬ? 誤解などと言い張るのか? 私は初めてだったのに・・・・」
『ーーーーーーー、・・・・・・・・・ッ!?』
ーーー致命打。確かにやむ得ずとは言え、眠っている十香にキスをしたので誤解とは言えず、多分琴里と令音辺りに、余計な入れ知恵もされているのだろう。
クラスの面々が、教諭の静止も聞かずに騒ぎだす。
≪おい、後ろに注意しろ≫
と、ドラゴンの言葉と同時に、十香が士道に近づけていた顔を右に動かすと、士道の目の前を、ペンと思いしきものが凄まじい速さで横切っていく。
「うわッ!?」
驚き、その出所は察しがついた。何故なら、さっきから背中越しに十香に冷徹な殺気を放っていた折紙が、ペンを放った格好で、冷たい視線を十香に向けていたからだ。
「・・・・・・ぬ?」
「・・・・・・・・」
十香と折紙。二人の視線が混じり合い、青い火花をバチバチと散らせていた。
「ぬ、なぜ貴様がこんなところにいる?」
「それは、私の台詞」
一触即発。が、二人とも、ここで戦闘をやらかそうという気はないようだった。片や力のほとんどを失った精霊。片や装備もなく、怪我をした魔導師<ウィザード>なのだ。
「は、はい! おしまい! おしまいにしましょう! ねー! 仲良く!」
岡峰教諭が慌てて二人の間に割って入り、どうにかその場は水入りとなった。のだが。
「じゃあ、夜刀神さんの席はーーー」
「無用だ。ーーー退け」
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!」
先生が席を探そうとすると、十香は、士道の隣ーーー折紙の反対側に座っていた生徒に鋭い眼光を放つと、そのプレッシャーに圧され、座っていた女子生徒が椅子から転げ落ちた。
「ん、すまんな」
言うと十香は悠然とその席に腰掛け、士道の方に視線を向けるが、そうなると視線が混じるのは士道ではなく折紙になるわけで。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
十香と折紙が無言で睨み合っていた。
十香がこちらの世界に居続ける事ができるようになったのは、士道としても嬉しいし、色々と手を回してくれた琴里達にも感謝している。
それに折紙が生きていてくれた件に関しても、正直安堵している。
これがきっと、最高の決着と言える状況なのだが・・・・
「おおう・・・・」
士道は、左右両側から発せられる、十香と折紙の怪光線のような眼光に晒され、頭を抱えたのであった。
ードラゴンsideー
『やれやれ。また面倒な事になったものだ・・・・さてと』
士道の体内。『アンダーワールド』から外の様子を眺めていたウィザードラゴンは、士道達の状況を呆れていたが、直ぐに気持ちを切り替えて“ある物”に目を向ける。
先日。この『アンダーワールド』に突如現れた『夜色のエネルギーの球体』。
『この球体は、〈プリンセス〉の力を封印したと同時に出現した。・・・・と言う事は、一年前から気がかりだった“アレ”もか・・・・』
“ウィザードラゴンが士道の中に顕現する前から存在していた『赤いエネルギーの球体』”。
士道の体内に顕現してからウィザードラゴンなりに調べてみたが、ほとんど分かっていない。
しかしこの球体が、士道が“蘇生能力”発動のキーとなっている事は分かっており。そしてーーーーーー
『先日の〈プリンセス〉の封印で球体が現れたと言う事は・・・・まさかこの球体は』
ウィザードラゴンは、2つの球体を見据えていた。
◇
そして後に、ASTが今回の〈プリンセス〉との戦闘記録を詳細に記録していた。
その中に、『網野中佐 行方不明につき生存不明』と記されていた。〈プリンセス〉が暴走した高台の公園近くに網野中佐の車が乗り捨てられており、暴走した精霊との戦闘に巻き込まれて行方不明となったと思われると記された。
そして、一年前から存在が確認された〈アンノウン〉と呼ばれる異形の怪物(魔獣ファントム)と、その〈アンノウン〉と交戦し、精霊を守るように戦う『仮面の魔法使い』の存在も、ASTにとっても見過ごせない存在となり、殲滅もしくは捕獲対象へと認定され、精霊と同じように『識別名』が付けられた。
しかし、『魔法使い<ウィザード>』では『魔導師<ウィザード>』と被るので、〈プリンセス〉と交戦し、気を失っていた隊員達が、仮面をかぶり、〈プリンセス〉らしき少女をバイクに乗せて走り去るその姿から、『魔法使い』の識別名が決定されたーーーーーーーーーーーーー識別名〈仮面ライダー〉と。
◇
そして、ここは天宮市の一角、その区域だけ通り雨がザーザーと降り注いでいた。
そして街の路地裏を1人の人物が歩いていた。
可愛らしい意匠の施され、ウサギの耳のような飾りの付いた大きなフードが付いた緑色の外套に身を包んだ小柄な人物。大きなフードを深くスッポリ被り、素顔は見えないが、その左手には、コミカルなウサギの人形が装着されていた。
「ーーー、ーーーー」
『ーーーーーーーーーーーー!』
その小柄な人物が、左手に装着されたウサギの人形と会話しているような挙動を取ると、路地裏の奥へと走っていった。
ー『十香デットエンド』・FINー
次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚。
十香と過ごす日常を過ごす士道の前に、降りしきる雨の中を行く少女と出会う。
「君は?」
「いたく、しないで・・・・ください・・・・」
その少女は、否定されても、拒絶されても、殺意を突きつけられてもなお耐える心優しすぎる精霊。そして士道は、その精霊と共にいる人形<パペット>と精霊の少女のやり取りに、自分とドラゴンを重ねて・・・・。
「力を貸してくれ、ドラゴン。俺はあの子をーーー“あの子達”を助けたい・・・・!」
第二章 『四糸乃パペット』
≪我の炎を、この程度の吹雪で消せると思うな!!≫