デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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ちょっと休憩

ー士道sideー

 

士道達は現在、折紙との戦いで破壊された自宅と精霊マンションから離れて、来禅高校1階の保健室にて、折紙と戦った精霊の皆の治療をしていた。

 

「だ、大丈夫か、十香・・・・」

 

「うむ、大した事はないぞ・・・・うう・・・・む」

 

『無理をするでない〈プリンセス〉。大人しく休みなさい』

 

「・・・・うむ、そうする」

 

力強く頷く十香だが、その動作で腹部の傷が痛んだのか、眉根を寄せて小さく唸る。士道の頭位のサイズのドラゴン(思念体)が、十香の全身に湿布を貼り、包帯を巻きながら言うと、十香は素直にベッドに横になる。

包帯を巻き終えたドラゴンは、羽をパタパタと動かし、移動する。

保健室に並べられたベッドには十香の他に、折紙が去った後に合流した耶倶矢と夕弦、そして美九が並んで横になっている。

出血の酷い傷は七罪の能力を応用して塞いでいるが、回復自体は本人達の体力次第である。ドラゴンが士道と四糸乃と七罪、そして精霊マンションの四糸乃の部屋でお留守番していたプラモンスターズに、的確に指示を出して手当てをした。まるで野戦病院のようである。

保健室にある治療道具はあくまで応急処置くらいしかできないので、〈フラクシナス〉に連絡を試みたが、やはり電話を通じず、ドラゴンも魔法陣がまだ剥がれていなかった。

 

「あの・・・・皆さん、大丈夫ですか?」

 

『うはー、こっぴどくやられたねぇー』

 

「ふ、ふん・・・・」

 

四糸乃は顔を心配そうにして、濡れ布巾で耶倶矢の汚れた顔を優しく拭いた。耶倶矢は一瞬痛そうな表情をしたが、すぐに何でも無いような顔を作り、涼しげに振る舞う。目の端にうっすらと涙を滲ませて。

 

「吐息。耶倶矢は強がりです」

 

「ッ、るっせーし! 全然へーきだし! あおぅっ!?」

 

同じようにゴーレムとクラーケンに濡れ布巾で顔を優しく拭かれていた夕弦が横からそう言うと、耶倶矢は素の調子で返すが、やはり痛いようで、悲鳴を上げると盛大に顔を歪めて再びベッドに背を付けた。

 

「はは・・・・」

 

意地を張る元気があれば大丈夫だなと思い、士道は小さく苦笑した。

 

「私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて私なん・・・・」

 

『こら、いつまで自分のネガティブな想像力に落ち込んでおるのだ。君のおかげで〈プリンセス〉達の治療ができたのだ。寧ろ誇っていい所だろう』

 

『ピピッ』

 

『ブルルッ』

 

ちなみに七罪は保健室の隅で膝を抱えながら、心なしかソコだけ証明が暗くなったようになり、ブツブツと呟いていた。先ほど皆の傷を塞ぐ為に霊力を強制的に絞り出そうと、かなりイヤーな想像の翼を広げたようである。ドラゴンやガルーダやユニコーンが慰めていた。

 

「あいたた・・・・」

 

と、ソコで窓際のベッドで寝ていた美九が、小さな声を発しながら上体を起こした。

 

「どうしたんだ美九。無理するなって」

 

士道が歩み寄ろうとすると、美九はそれを止めるように手の平を広げた。

 

「大丈夫ですー。ーーーーそれより、霊力が残っている内に、お仕事をしておかないといけないので・・・・」

 

「仕事?」

 

『ぬ』

 

士道が首を傾げ、ドラゴンが一旦七罪から離れて美九の近くに行くと、美九は大仰に頷き、カスタネットを叩くかのような仕草で手を2回叩いた。

 

「〈破軍歌姫<ガブリエル>〉ーーーー【鎮魂歌<レクイエム>】」

 

するとそれに応えるように、音の天使・〈破軍歌姫<ガブリエル>〉の一部が出現した。

キョトンと目を丸くする一同に、美九はフッと微笑み、お辞儀をした。

 

「レディース、えーんど、ジェントルマン。今宵だけの限定ライブにようこそ。誘宵美九、花道・オン・ステージ!」

 

美九はそう言うと、スウッと息を吸い、美しい歌声を部屋中に響かせ、それに共振するように天使が蟲動し、その音がさらに大きくなっていく。

するとーーーー。

 

「む・・・・これは」

 

「ほう・・・・」

 

「驚嘆。痛みが和らいでいます」

 

十香と八舞姉妹が目を見開き、自分の身体を見下ろした。それを見て美九が小さく笑う。

 

「あはは・・・・鎮痛作用のある『歌』です。傷を治す効果はありませんから、あくまで気休め程度ですけどねー」

 

「いや、助かるぞ。大分・・・・楽になった」

 

十香がふうと息を吐き、身体を弛緩させる。それを見て、ドラゴンが美九を支えながらベッドに戻らせ、優しく寝かせると、頭を優しく撫でた。

 

『良くやったな〈ディーヴァ〉』

 

「あはは。ハニーに頭を撫でてもらえるなら、頑張った甲斐がありましたよー」

 

『(こう言う所を日頃から出しておけば、『お姉様』とか呼ばれると思うのだがなぁ・・・・)』

 

普段の『妖怪行動』が、彼女の美点を下げる処かマイナスにしているのをドラゴンは内心呆れながら思っていた。

が、楽観できる状況ではなかった。未だに連絡が取れない〈フラクシナス〉。DEMの暗躍。そして何よりもーーーー。

 

「・・・・なあ、教えてくれ、皆。アイツにーーーー折紙に、一体何があったんだ」

 

士道が十香達から、何が起こったのかを詳しく聞いた。ドラゴンから、折紙が精霊になったと聞いた瞬間、急いで『オールドラゴンスタイル』になって駆けつけると、精霊となった折紙が、十全に力を振るう十香と戦っていたからだ。

否・・・・それだけではない。士道とドラゴンは、『人間を精霊にする精霊』に、心当たりがあった。

ーーーー精霊・〈ファントム〉。

魔獣・『ファントム』と同じ名前を持つ謎の精霊。

5年前、士道と琴里の前に現れ、琴里を精霊・〈イフリート〉に変貌させ、何の目論見か、2人から自分の記憶を隠していた存在。

そしてーーーーもしかしたら、折紙の両親をコロシタかもしれない、存在。

士道の憶測が正しければ、折紙はその〈ファントム〉と遭遇し、精霊にされたのだ。十香達もその姿を見ているのではないかと、士道はゴクリと息を呑みながら遠回しに聞いてみた。

しかしーーーー。

 

「いや・・・・詳しくは分からぬのだ。1度あやつを吹き飛ばしたのだが・・・・戻って来た時にはもうああなってしまっていた」

 

十香が難しげな顔を作りながら言うと、耶倶矢と夕弦もウンウンと同じく難しげな顔で頷いた。

 

「ふん、流石にアレには驚いたな。く・・・・あのド派手な登場。何とか参考に出来ぬ物か・・・・いや、しかし白と言うのはあまりに我の性には合わぬ・・・・」

 

「首肯。凄まじい威圧感でした。十香の霊力が完全で無かったなら、皆やられていたかも知れません」

 

言って、ムムウと唸る。しかしそんな中、美九だけが折紙の精霊化に思い当たる節があるように顎に指を当てた。

 

「・・・・うーん、私も見てないんですけど・・・・もしかしたら、折紙さんも『神様』に出会ったんですかねー?」

 

美九も琴里と同じように、精霊・〈ファントム〉と思しき精霊によって人間から精霊にされていた過去を持っており、折紙の突然の変貌に思い当たった。

 

「・・・・かもな」

 

士道は小さな声で答えると、無言で思考を巡らせた。

 

「(折紙に何があったかは分からないけど・・・・折紙が、あれだけ憎悪していた精霊になっていたのは間違いない)」

 

士道の顔を見たあの時の、折紙の表情を思い出す。誰よりも精霊を憎んでいた少女の顔が。

途方もない自己矛盾を抱えてしまった折紙の心中に、どのような感情が渦巻いているのか。

 

『(ま、このゾウリムシが想像できない苦悩に苛まれているだろうな)』

 

ドラゴンは士道の心中を見通してそう思った。士道の『アンダーワールド』にいる本体が感じている。士道の心は、無性にざわついているのを。

 

「折紙は・・・・これからどうするつもりなんだ」

 

『考えられる事は、グレムリンがこの事を知ったのだ。魔獣・『ファントム』もあの娘を狙ってくるだろう。DEMが動く可能性もある。いや、あの娘が精霊を殺すと言う目的を辞めないのであれば、此方に攻めてくる可能性の方が大きい』

 

ドラゴンがそう言うと、今度は十香が。

 

「そう言えば・・・・アヤツは言っていた。精霊を殺す為に精霊の力を使うと。そして最後は・・・・“自分さえも、殺す”と」

 

「・・・・・・・・ッ」

 

『やはりそう来るか・・・・』

 

ドラゴンは予想の範疇であったようだが、士道は戦慄しするーーーーいや、士道自身も、最悪の結末として、予想はしていた。

 

「折紙・・・・」

 

一刻も早く折紙の行方を掴まねばならない。

 

「ドラゴン、魔力と魔法陣は?」

 

『魔力はまだあと少しは掛かるが、魔法陣はそろそろ効果が消えそうだ。あの娘の気配も覚えた。魔力が回復次第、捜索するのか?』

 

「・・・・ああ」

 

士道は焦りで鼓動が激しくなる心臓を、深呼吸で必死に抑えようとした。これからせねばならない事を頭の中で纏める。

 

「・・・・兎に角、皆は先ず怪我を何とかしないとな。その内警報も解除される筈だから、そうしたら病院に行こう」

 

折紙の事も何とかしなければならないが、先ずはそれが先決だ。が、ソコでドラゴンが耳打ちした。

 

『(それよりも、〈プリンセス〉をどうにかしろ)』

 

「あ・・・・」

 

そこで士道も気づいた。

十香は完全に霊装を顕現させていた。

琴里曰く、限定状態ならば『サンダルフォンリング』を外せば逆流した霊力は士道の元に戻るが、完全状態になると再封印が必要となる。

と。

 

「う・・・・」

 

『はぁ・・・・・・・・ああ、〈プリンセス〉』

 

「む? どうしたのだ、ドラゴン」

 

頬に汗を垂らした士道に呆れながら、ドラゴンが十香に話しかけた。

 

『少し外に出て、ファントムかDEMが来ていないか偵察に行って来てくれんか? 〈ベルセルク〉と〈ディーヴァ〉の三人が負傷したこの状況に攻めてくる可能性があるのでな』

 

「うむ! 任せろ!」

 

ドラゴン以外でファントムの気配が感知できる十香に偵察役を任せる。

 

『ほれこのポンコツ』

 

「(バシッ!)いってぇっ!」

 

『〈プリンセス〉だけ行かせるつもりか。貴様も一緒に行け・・・・(さっさとやってこい。この程度で許してやる内にな)』

 

「(つぅ~! もう少し穏便になれよ!)」

 

尻尾ド突き(威力ソコソコ)をおみまいし、士道にコッソリと耳打ちするドラゴンに悪態を突く士道。が、2人っきりになれる状況を作ってくれたのはありがたい。

士道と十香は保健室を出て少し窓から外の様子を眺め。

 

「十香。ファントム達の気配は?」

 

「むむむ・・・・。ゾワゾワする感覚が全くないぞ。今の所ファントム達をいないようだ」

 

「そうかーーーーああ・・・・十香」

 

「ん? シドー? 一体どうしたのだ?」

 

士道は保健室の皆に聞こえないように、小さな声で十香に再封印の事を説明した。

フムフム・・・・と聞いていた十香の顔が、カァっと赤くなる。

そして小さな声で士道に話しかける。

 

「む・・・・と言う事は、その、なんだ、あれか、ここで・・・・するのか」

 

「えっと・・・・まあ、そう言う事になるな」

 

「そ、そうか・・・・」

 

暫しの間逡巡するように目を泳がせた十香だが、やがて意を決するかのように頷いてから、胸元で手を組み、すっと目を閉じる。キスを受け入れる、と言うこの上ない意思表示だ。

 

「う・・・・」

 

自分から持ちかけといてだが、その窓から差し込む月光と星光に照らされたその姿は、さながらおとぎ話のお姫様のような凄まじい美しさだった。

士道は深呼吸しながら心を落ち着かせ、十香の両肩に手を置いて、その唇に自分の唇を近づける。

 

「・・・・・・・・?」

 

十香の息づかいが感じられる距離まで顔を近づけた所で、士道は不意に、誰かに見られ、さらに凄まじい程の殺気を感じた気がした。

 

「おあ・・・・っ!?」

 

そして、保健室の扉の方に視線を向けると、扉が微妙に開かれ、ソコから精霊達が縦並びでジーッとこちらを見ていた。

 

「し、士道さん、何を・・・・」

 

『うはー、こんな所でなんて、ダイターン3だねー』

 

「ほう・・・・士道はこんな状況で女とイチャコラする性癖があったか」

 

「辟易。とんだ変態です。危機的状況で興奮するようです」

 

「あー、十香さんばっかりずるいですー! だーりん! 私も! 私もーっ!」

 

「・・・・み、見せつけてんじゃないわよこのリア充がッ!」

 

口々に言って、5人と一匹が扉からなだれ込んでくる。

 

「う、うわ・・・・っ!」

 

「ぬ・・・・? な、何なのだ一体!」

 

士道と十香は皆にもみくちゃにされそうになるが、プラモンスターズが負傷組を押さえる。

そしてゴーレムが、扉の方に手を向けるので士道はそっちに視線を向けそして、血の気が一気に引いて真っ青になる。

 

『傷・破・絞・壊・燃・溺・焼・挟・斬・殺・凍・撃・切・非・断・滅・削・埋・没・絶・崩・潰・刺・怒・突・刻・恨・溶・怨・呪・死・亡・祟・喪・無ーーーー』

 

「ドドドド、ドラゴン!? 何だその物騒な殺意に満ちたお経のような呪文のオンパレードみたいなのはっ!?」

 

全身から怒気と殺気と殺意と怨念をドス黒いオーラとして纏ったドラゴンが恐ろしい1文字を経のように読み上げながら士道にゆっくりと近づく。

そのあまりの威圧感に精霊達もプラモンスターズも、モーゼの海のように左右に別れて、士道から距離を置き、保健室に退避した。

 

「ド、ドラゴン、さん! これは仕方ない事で・・・・」

 

『言った筈だぞ。この程度で許してやる内にさっさとやってこい、となぁ?』

 

尻尾の大きさを士道の頭位に大きくして、凄まじい風切り音を出して振り下ろした。

 

「ぎぃぃやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!」

 

士道の悲鳴は学校処か、周辺にも響き渡ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー狂三sideー

 

そして士道がドラゴンと遊んでいる頃。

 

「ーーーーーーーー」

 

ある都会の高層ビルの屋上で、〈ナイトメア〉。時崎狂三は小さく息を吐いた。

別に眼下に広がる夜景に感動した訳でも、甘ったるいセンチメンタリズムに浸っている訳ではない。そんな青臭い感情など、とうの昔に捨て置いた。高層ビルの屋上にいるのは、辺り一帯を見渡し、街中に放った分身体の『狂三達』の位置を把握しやすいからである。

そう。ただ単純に、自分の分身体を伝わって、“とある事”が分かってしまっただけなのだり

 

「・・・・あら、あら」

 

小さく肩を竦めた狂三が、再び吐息を溢した。

そして数分と待たず、誰もいなかった筈のビルの屋上に、何者かの気配を感じてクルリと後方を向いた。

 

「ーーーーこれはまた、変わったお客さんです事」

 

言って、来訪者の姿を見やる。

夜中でもその純白に輝く衣、霊装を纏った少女が現れた。しかも、狂三の知っている人間だった。

 

「お久しぶりですわね、折紙さん」

 

そう。元ASTの隊員にして、狂三のクラスメートでもあった鳶一折紙だ。

 

「うふふ、やはりあの時“いただかなくて”正解でしたわね。ーーーーまさか、こんなに美味しそうになられるだなんて。期待以上ですわ」

 

「・・・・・・・・」

 

狂三がペロリと唇を舐めるも、折紙は表情を変えなかった。警戒も、狼狽も、嫌悪感すらも、その顔からは感じられない。

 

「(わたくしを警戒していないーーーーいえ、それらの感情を無視してでも優先する思惑があるようですわね)」

 

狂三は数多の経験から、折紙の瞳の奥底の感情をある程度読み取るが、それ以上は無理だった。

両者は暫し視線を交わし、狂三がフウと息を吐く。

 

「それにしても、良くここが分かりましたわね」

 

「・・・・・・・・」

 

狂三がそう言うと、折紙はおもむろに右手を前に出すとーーーーぐったりとした『狂三の分身体』の1体を掴んでいた。

 

「ぅ・・・・ぁ・・・・」

 

分身体はその身に纏う霊装のあちこちに痛ましい傷があり、折紙に手酷くやられたのが見て取れた。

 

「ーーーーあなた本人を見つけるのが困難でも、街中に何人も紛れているあなたの分身体を捕まえるのは、今の私にはそう難しくない」

 

言って、折紙は分身体の首を放した。

 

「ぐ・・・・っ、けほっ・・・・けほ・・・・っ」

 

分身体は屋上に突っ伏して数度咳き込み、恨めしそうに折紙を見上げてから、逃げるように影の中に消えた。

 

「あらあら、随分と手荒いですわね」

 

「殺さなかっただけ加減はしている」

 

「ふうん・・・・そうですの。それで、わたくしに一体何の用でして? まさか、精霊になればわたくしに勝てるとでもお思いですの? もし分身体の力を物差しにしておられるのだとしたら、痛い目を見ますわよ」

 

「・・・・、私は、あなたと戦いに来たのではない」

 

狂三は挑発するように指をクイと曲げるが、折紙は仕掛ず、狂三を静かに見据えてそう言った。

 

「(確かに、折紙さんの性格ならば分身体を殺していますし、不意討ちくらいはしますわね)・・・・精霊嫌いの折紙さんとは思えないお言葉ですわね。何人もの人間を殺している精霊と対峙しておられると言うのに、討たなくて宜しいんですの?」

 

挑発を込めて言うと、折紙はそこで初めて、眉がピクリと動く。だがそれでも攻撃しない。

いよいよ狙いが分からず、狂三は大仰に肩を竦める。

 

「なら、一体何ですの? お茶のお誘いと言う訳でもありませんでしょう?」

 

「1つ、質問に答えて欲しい」

 

「質問・・・・ですの。うふふ、答えられるかどうかは内容によりますわねぇ」

 

おどけるように答えるが、それを了承を受け取った折紙は、真っ直ぐ狂三を見据えたまま、言葉を続ける。

 

「あなたの天使〈刻々帝<ザフキエル>〉は時間を操る天使。そして12ある文字盤1つ1つに、時間に関する異なった能力を有している」

 

「・・・・・・・・」

 

狂三は無言のまま顎を撫でた。

以前、狂三が天使を使う場面を折紙は目撃していた。聡明な折紙はソコから〈刻々帝<ザフキエル>〉の能力を考察したのだろう。

しかし、折紙の次の言葉に、思わず眉根を寄せた。

 

「ーーーーその12の内のいずれかに、“撃った対象を過去に送る弾は存在する?”」

 

「ーーーーっ」

 

狂三が今まで見せた事のない最後の弾ーーーー【12の弾<ユッド・ベート>】の能力を、折紙は正確に言い当てた。

とは言え、折紙くらい頭の良い人間ならば、時間を操る力ーーーー時間遡行を思い付くのは当然の事かも知れないが。

 

「・・・・もしあるとしたなら、どうだと言いますの?」

 

怪訝そうな顔を作りながら狂三は問い返す。それを肯定と受け取り、折紙は続ける。

 

「ーーーー時崎狂三。あなたの力を借りたい」

 

「・・・・は?」

 

その意外な言葉に、目を丸くした。

 

「今、何と仰いまして?」

 

「あなたの力を借りたい、と言った。ーーーーあなたの、天使の力を」

 

「・・・・・・・・・・・・あら、あら」

 

顎を撫でながら、折紙の思惑を探るように視線を這わせる。

 

「わたくしに、あなたの為に【12の弾<ユッド・ベートー>】を使えと、そう仰りたいのですの?」

 

「そう」

 

「・・・・・・・・」

 

狂三は穏やか笑みを浮かべたまま、無言で右手をスッと開く。

すると影から古式の歩兵銃が飛び出し、その手に収まると同時に、その銃口を折紙に向け、何の躊躇いもなく引き金を引き、影の弾丸が折紙の柔肌を食い込もうとした寸前、折紙の身体は光と消え、影の弾丸を回避すると、狂三の背後に回っていた。

 

「あなたの能力は非常に強力。しかし、当たらなければ意味がない」

 

「・・・・あらあら、お見事な手品を身に付けられましたわね。ですけれど、今のが答えですわ。残念ながらご期待に添えませんわね。【12の弾<ユッド・ベートー>】はわたくしの持つ弾の中でも特別な1発。あなたに撃って差し上げなければならない道理はありませんわ」

 

【12の弾<ユッド・ベートー>】は狂三の『悲願』を達成する為の唯一の手段。それを折紙に使ってやる義理はない。

 

「・・・・・・・・」

 

折紙はジッと狂三の目を見つめたまま動かない。少しの間両者の睨み合いが続き、狂三が根負けしたように息を吐く。

 

「一応・・・・聞くだけ聞いておきますけれど。【の12弾<ユッド・ベートー>】を使って何をするおつもりですの? まさか、幼少期の無邪気な士道さんを見てみたい・・・・だなんて理由は無いでしょう?」

 

「・・・・・・・・」

 

折紙の狙いに興味を抱き聞いてみると、数瞬の思案の後、コクリと頷き、唇を動かした。

 

「あなたの弾で、私を撃って欲しい。ーーーー私を、“5年前の8月3日”に、飛ばして欲しい」

 

「・・・・5年前? その時代で一体、何をしようと言うんですの?」

 

狂三が怪訝そうに眉根を寄せて問うと、一瞬視線を鋭くした折紙は話す。

 

「“私は、5年前に戻って、私の両親を殺した精霊を、殺す。お父さんとお母さんが死んだと言う出来事を、無かった事にする”。ーーーー“私はこの力で、歴史を変える”!」

 

決意を示すように拳を握って、折紙は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、“残酷過ぎる真実への入口だと知らずに”・・・・。




次回、折紙が知るのは・・・・。
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