デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
『ほうほう、それで、人員も艦の性能も勝っていたと言うのに、〈仮面ライダー〉にも変身していないエレン<ヘルキューレ>にアッサリとボロ負けして〈フラクシナス〉を墜され、無様に隠れていると言う事か? え? 〈イフリート〉よ? 〈ラタトスク機関〉の実行部隊〈フラクシナス〉の司令官(笑)殿よ?』
《~~~~っ、そうよ。モノの見事に完敗したわよ!》
『威勢良く挑んで惨敗するとは、1番恥ずかしい負け方ではないか? 我ならば恥ずかしくて死にたくなるなぁ? あぁ恥ずかしい恥ずかしい』
《~~~~~~~!!! そっちこそ、折紙にアッサリ拉致られて今まで連絡が取れなかっただなんて、情けないんじゃないかしら? それとも、自分の失敗を認知できない程度の知能指数なのかしら?》
『フッ、小僧をサポートし、精霊達を保護する為に存在する組織だと言うのに、〈ハーミット〉の相棒(よしのん)探しの時といい、〈ナイトメア〉の時といい、〈ディーヴァ〉の時といい、〈ウィッチ〉の時といい、ここぞと言う時にクソの役にも立たん貴様らよりかはマシだと思うがなぁ?』
『・・・・・・・・』
ドラゴンと琴里を念話でのノーガードの嫌みの殴り合いに、士道と精霊達は戦々恐々な気持ちで聞いていた。
現在の時間は既に22時を回り、空間震警報が解除され、街や学校に人が戻ってきた。
ドラゴンのお仕置きで、モザイク抜きでは見られない悲惨すぎる姿となった士道は、あの後、保健室に戻ってきた養護教諭が救急車を呼び出し、八舞姉妹と美九と共に病院に搬送された。十香はドラゴンの指示で格好を来禅の制服に変えていた。
危うく手術室に搬送されたそうになった士道だが、ギリギリの所で元に戻り、医者達に何とか説得(ほぼドラゴンの言葉を代弁)して事なきを得て。十香達と同じ病室のベッドで横になった。
味気ない上に少ない病院食に十香が不満がったりしていると、そこで漸く士道に張り付いていた魔法陣の紙が剥がれ、琴里と念話が通じるようになり、ドラゴンが十香達にも聞こえるように調整して、これまでの状況をお互いに報告してこうなった。
琴里が言うには、現在、琴里を含めた〈フラクシナス〉のクルー達は、〈ラタトスク〉が所有する地下施設にて、〈フラクシナス〉の修理をしていた。
何故そうなったかと言うと、エレン・メイザースが操縦するDEMの新型〈アシュクロフト-β〉と言う艦に完膚無きまでに撃墜されたのだ。
顕現装置<リアライザ>や艦の性能、人員、どれも琴里達の方が優位であったにも関わらず、エレン・メイザースは、たった1人で、それも純粋な実力で、それらを圧倒して見せたのだ。
「う~む。敵とのそれほどまでの差を、己が実力のみで覆してしまうとは・・・・!」
「羨望。悔しいですがカッコいいです。まるで主人公補正です」
「いえ! この場合は強敵補正か、ライバル補正じゃないですかぁ?」
八舞姉妹がそう言うと、美九が挙手して言った。
ドラゴンとの嫌味の殴り合いを終えた琴里は、「私達はエレンの噛ませ犬か?」と、ツッコミを入れたい衝動を押さえ、一端深呼吸して気持ちを落ち着かせてから声を発する。
《・・・・・・・・取り敢えず、教えてちょうだい。鳶一折紙はどうしたの? 皆が無事って事は倒したの?》
一瞬口ごもる士道だが、すぐに小さく息を吐いて、数時間の間に起こった劇的に動いた状況を簡潔に説明した。
《鳶一折紙が精霊に・・・・!? どういう事? 精霊〈ファントム〉が現れたって言うの・・・・?》
「分からない。でもーーーーそうとしか考えられない」
《・・・・ッ、何て事。何でこんな時に・・・・!》
予想通りと言うか、琴里が驚愕に満ちた声で苦々しげに言う。琴里にとって、因縁浅からぬ精霊〈ファントム〉を捉える千載一遇の好機を逃したような物だ。無理もないかも知れない。
《それで、鳶一折紙は?》
「何処かに飛んでいっちまった・・・・何処に行ったかは、分からない」
《・・・・そう。分かったわ。それはこっちで追って見ましょう。士道も、心の準備だけはしておいて》
「心の準備?」
『分からんのかド阿呆』
《相手が誰であろうと、精霊は精霊。次はあの鳶一折紙を攻略しなきゃならないのよ?》
「あ・・・・」
言われてハッとなる。精霊の好感度を上げ、キスをして霊力を封印するのが士道の役目だ。無論、それは折紙であろうと例外ではない。
外にいるドラゴン(思念体)ではなく、士道の中にいるドラゴン(本体)が、士道と琴里にだけ聞こえるように声を発する。
≪まあ、元々あの娘は貴様への好感度は異常と言えるレベルで高かったのだ。今回の攻略は下手な小細工を使わずに済むのではないか? 貴様が口づけしたいと言えばあの娘の事だから、深海の奥底だろうがマグマの中だろうが、地球の裏側にいようが、宇宙の果てにいようが、精霊の力をフルに使って、光を越える速さで飛んで来るだろうよ≫
以前、折紙の士道への好感度を下げようと、琴里達とあの手この手で嫌われようとしたと言うのに、下がる処か、史上初〈フラクシナス〉の好感度メーターを振り切る程の好感度を示したあの折紙なら、十分あり得る。
「(た、確かに、折紙なら本当にできそうだ・・・・でも、何だろう・・・・この悪寒は・・・・?)」
ドラゴンの言葉に士道も、恐らく琴里も頬に汗を垂らしながら半眼で苦笑いを浮かべる。
が、相手が折紙だと思うと、いつものような『攻略』ではなく、士道が折紙に、まるでカニ型モンスターに喰われる悪徳刑事のように『捕食』されるようなイメージが、鮮明に浮かび上がった。封印をする為とは言え、キスをしてしまったら、何だか色々大変な事になりそうな気がする。
そんな士道の胸中を察してか、琴里がハアとため息を吐いた。
《ーーーーまあ、まだ色々聞きたい事はあるけれど、取り敢えず、後の話は合流してからにしましょう。あまり病院で長話をする訳にはいかないしね。さっき機関員を迎えに出したから、すぐに到着する筈よ。後は指示に従ってちょうだい。病院には話を通しておくから、出発準備を整えておいて》
「ああ、分かった・・・・と、でも、皆ケガをしてるんだが・・・・」
《心配しないで。〈フラクシナス〉のソレには及ばないけれど、一応ここにも医療用顕現装置<メディカルリアライザ>が備えてあるわ。病院で寝てるよりも治りが早いでしょうよ》
「成る程。了解した」
『幸い、皆動けない程ではないが。・・・・機関員を寄越せるか?』
《ええ。詳しい話はその後よ》
と、琴里の言葉とほぼ同時に、外から車のエンジン音が聞こえてきて、ベッドから下りてドラゴンと窓の外を見ると、救急車ではない車が数台、恐らく機関員が迎えに来たのだろう、病院の傍で停まっていた。
と、ソコで士道が空を見上げると、真ん丸の月が良く映えていた。
「ああ、分かった。じゃあ、また後でーーーー」
『っっっ!!!?? な、何だこの気配はっ!?』
と。ドラゴンが驚愕に満ちた声を上げた。
ーーーーその、瞬間。
ーエレンsideー
「ーーーーご苦労、エレン」
任務を見事成功させ、諸々の作業を終えたエレンがホテルの部屋に入ると、ウェスコットとワイズマンが、部屋のソファに腰掛け、ワイングラスを片手に飲んでいた。そのワイズマンの後ろでは、メデューサ(人間態)とグレムリン(人間態)が控えていた。
「アイク」
「実に見事だったよ。流石と言う他ない」
「いえ、一撃も貰ってしまうとは誤算でした。相手方にも優秀なクルーがいたようです」
「うわ~、負けた〈イフリート〉ちゃん達が聞けば、強烈な皮肉か嫌味にしか聞こえないねぇ~」
エレンの言葉にグレムリンは含み笑いを浮かべてそう言うと、エレンとメデューサ<ミサ>に睨まれる。
ウェスコットとワイズマンは小さく笑いながら肩を竦める。
乗組員が生き残っている事を願っているウェスコットだが、彼はただ、〈仮面ライダーウィザード〉とウッドマンの勢力に戦力が残っていないとーーーー“ゲームが面白くないからだ”。
『さて、ウェスコットよ。これをどう見る?』
ワイズマンが指をパチンっと鳴らすと、部屋の中心に魔法陣が展開され、その中央にはーーーー純白の霊装を纏った、精霊となった鳶一折紙の姿が映っていた。
エレンの艦に搭載されていた観測装置で感知し、グレムリンがインプの軍団を率いて調べたのだ。
流石のウェスコットも耳を疑った。
「はは、これは流石に予想外だったな。まさか彼女が精霊になってしまうとは。・・・・いや、ここは優秀な魔導師<ウィザード>を失ってしまった事を嘆くべきかな。ーーーーああ、何と言う事だろう。彼女はきっと我らの力になってくれたろうに」
「口が笑っていますよ、アイク」
「おっと、これは失敬」
「Mr.ウェスコットも分かっていたでしょう? 彼女、絶対裏切る気配があったよ。僕らは士道くんの敵であるからね♪」
「ふふふ、それもそうだね、Mr.ソラ。それで、彼女は『ゲート』でもあるのかね?」
ウェスコットは口元の笑みを隠さず問うと、ワイズマンがミサに目配せすると、ミサは淡々と答える。
「ASTには目ぼしい『ゲート』は確かにいた。あの娘は特に強い魔力を秘めていたが、奴は指輪の魔法使いを慕っていたからな。奴が死ねば絶望するだろうと思い、暫く泳がせていたのだ」
「成る程。精霊達のように機を見て、絶望させようとしていた訳だね」
と、そこでエレンが話を戻す。
「それで、彼女は今何処に?」
「ああ、少し前まで天宮市内を飛び回っていたようなのだが、急に反応が消えたらしい」
「反応が? 霊波の隠蔽能力を持っていると言うのでしょうか」
「やはり、そう思うかい?」
「精霊化すれば、我々DEMと魔獣に狙われるのは自明です。姿を隠すのは当然でしょう」
「どうだろうね。そう考えるのが妥当だがーーーー君はどう思う、ワイズマン?」
『・・・・あの娘が精霊となっても、己の本懐を果たそうとするならば、以外と近くにいるのかも知れんな』
ワイズマンがソファを立ち、ゆっくりとした足取りで窓の方に歩いていくと、雲1つない夜空にポツンと鎮座する満月をワインが入ったグラス越しに見上げていた。
『むぅ?』
ワイズマンが、奇妙な気配を感じた。
ーーーーその、瞬間。
ー真那sideー
「お、折紙さんが、精霊になったぁっ!? ど、どうしてそんな事になったんでやがりますか!?」
「・・・・・・・・」
『むぅ・・・・・・・・』
そしてここにいるのは天宮市内の人気のない公園。
メデューサが撤退し、残されたグールを片付け、空間震警報によっての封鎖が修まり、漸く天宮市にたどり着いた真那と仁藤は、『白い魔法使い』のプラモンスター『ホワイトガルーダ』に呼び出され、公園に到着すると白い魔法使いから、鳶一折紙が精霊となってしまった事を聞かされた。
顔見知りが精霊化してしまった事に驚愕する真那と目を見開いて驚く仁藤であるが、白い魔法使いは顔を少し俯かせながら、思案するように顎に手を当てていた。
「どうかしましたか?」
『・・・・あの少女が、鳶一折紙。士道のクラスメートの少女か?』
「そう、ですが・・・・それがどうしましたか?」
仁藤の言葉に、白い魔法使いはまたムゥ、と唸った。
“鳶一折紙の名前は知っていたが、どんな容姿をしていたのかは知らなかったのだ”。
いや、“正確には1度は会ってはいた”。しかし、霊装を纏っておらず、『あの時』は遠目で、ほぼ数秒程度しか見ていなかったから、顔は良く見えなかったのだ。
『(迂闊だった。彼女の事を調べていれば、対策を練られたかも知れんと言うのに・・・・!)真那くん。仁藤くん。今直ぐに士道の、ウィザードの元に向かうのだ』
「ど、どういう事でやがりますか?」
『もし、彼女が“あの時の精霊”であれば・・・・っ!』
白い魔法使いが突然、バっと美しい満月を見上げ、真那と仁藤もその視線を追った。
ーーーーその、瞬間。
ー狂三sideー
「・・・・さて、折紙さんは目的を達する事が出来たでしょうか」
月夜の下。ビルの屋上の縁に腰かけた狂三は、独り言のように呟いた。
「うふふ、どうでしょう」
すると、それに返すように、影の中から『分身体の狂三達』が話し掛けてくる。
「恐らく、無理でしょう。世界は強固で残酷ですわ。1人の少女の願いなど、容易く磨り潰されてしまうでしょう」
「あら、分かりませんわ。精霊となった折紙さんを見まして? あれほどの力があれば、可能性はありますわよ」
「『わたくし』は、どう思っておられますの?」
お喋りな分身体達に、狂三はフウと息を吐くと、小さく肩を竦めた。
「何とも言えませんわね。ーーーーまあ、個人的な希望を言うのであれば、折紙さんには是非その願いを叶えていただきたい所ですけれど」
「うふふ、『わたくし』らしくないお言葉ですわね。月の光に当てられまして?」
狂三の言葉に、影の中の分身体達がクスクスと笑いながら、失礼な事を言うが、狂三は怒るでもなく、フッと唇の端を上げ、空に浮かんだ見事な満月を見上げた。
月の光は人を狂わせると言う。ならば今宵の、ある意味狂気的<ルナティック>な狂三の気まぐれも、この月の毒に当てられたのかも知れない。
「まあーーーー良いではありませんの。たまには、そんな気分になる事もありますわ」
と。そう言って狂三が、手に体重をかけ、身体を軽く反らそうとした。
ーーーーその、瞬間。
空に浮かんでいた月がーーーー割れた。
ー士道sideー
「は・・・・?」
病院の窓から空を見ていた士道は、突然の事態に目を丸くした。
空に浮かんでいた満月に、一直線に皹が入ったのだ。
無論、本当に月が割れたのではない。月の前に『何かの影』が現れたのだ。
まるでそうーーーー空間そのものに亀裂が走ったかのように、月が綺麗に両断されたのだ
《何よ、どうしーーーー》
『全員! 何かにしがみつくか隠れろっ! 急げっ!!』
『っ!?』
突然ドラゴンが慌てたように声を張り上げ、精霊達が驚いた貌になるのと同時に、亀裂が月を侵食していき、まるで月食でも起こったかのように光を覆い隠していく。
否ーーーー月だけではない。既に夜空も、その闇の亀裂によって覆い尽くされていった。
暗い空の下に、さらに昏い闇が、蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
一体どれ程の範囲を覆っているのか分からないが、見渡すかぎりの夜空全てが、闇に侵されていった。まるで天宮市全体か、関東全体か、或いはーーーーと、想像させるくらい広く、昏く、空は闇へと染まっていった。
『急げ皆! 何かにしがみつくのだっ!!』
ーーーードラゴンが叫んだ瞬間。
空に張り巡らされた闇が、生物のように蠢動したかと思うと同時、士道達がいた病院が、激しい揺れに襲われた。
「な・・・・っ!?」
「ぐーーーーっ!」
「じ、地震・・・・!?」
「避難。ベッドの下に」
「きゃっ!」
「よ、四糸乃!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
ドラゴンの言葉で、カーテンにしがみついていたり、ベッドの下に隠れていたが、士道と、恐らくドラゴンも本能的に感じ取っていた。この揺れが、地震の類ではないと。
するとすぐに、2人の直感を証明するかのように、およそ自然現象とは思えない事象が、士道達の病院を襲った。
ーーーー空から、目映い光と漆黒の闇が凝縮された白と黒の光線としか形容できない『何か』が降り注ぎ、天井と床を貫いて下の階に抜けていった。
その数瞬後、それらが地面に着弾したのだろう。先程よりも凄まじい震動が士道達の病室を揺らす。
「わ・・・・っ! な、なんだ!? DEMか!? ファントムかっ!?」
『・・・・いや、そっちの方がまだマシなのが現れたぞ・・・・!』
ドラゴンの言葉に、空を見ると、空から街の全域に、今し方士道達を襲った光と闇の奔流が、雨のように降り注いでいるのが見えた。
「なーーーー」
その光景に、思わず絶句する。
空から地上に、絶え間なく幾分もの白と黒の線が引かれていく。それは地上に建ち並んだ建造物を容易く貫き、一瞬の内に倒壊させていく。木々が薙がれ、車両は爆発し、道が破壊される。静寂が訪れようとしていた街は一瞬で崩壊し、阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまった。
「な、何が起こっているのだ、シドー! ドラゴン!」
十香が慌てたようすでベッドから飛び上がる。
そこで街の全域に、スマホからも、けたたましい警報がーーーー空間震警報が鳴り響いた。
「・・・・ッ! 琴里、これはーーーー」
《精霊よ! でも何なの、この出現状況は・・・・! 何の前兆もなくこんなに強力な精霊が現れるだ・・・・な、ん、て・・・・》
『・・・・?』
途中から勢いを無くした琴里の言葉に、一同は眉をひそめた。
「琴里? おい、どうしたんだよ」
《この反応はーーーーただの精霊じゃないわ。これは・・・・『反転体』・・・・ッ!?》
「な・・・・!?」
その言葉に、士道は目を見開く。
『反転体』。詳しくは分からないが、精霊が深い絶望に、それこそ魔獣ファントムを産み出す程の生きる希望を喪う程の絶望で心が満たされた時のみ出現すると言う、普通の精霊とは異なる力を持った存在となった状態。
そしてーーーー士道達の仇敵たるDEMインダストリーの長、アイザック・ウェスコットが作り出そうとしている、負の精霊である。
『それだけではない。ファントムもいる』
「ファントムもっ!?」
『しかも唯のファントムではない、何だこの異質な気配は・・・・!?』
ドラゴン(思念体)が、苦々しく呟くと、琴里が声をあげてきた。
《兎に角ソコは危険よ! 早くーーーー》
『小僧! 『ウォール』だ! 連続で使え! 精霊達は小僧の近くに集まれ!!』
『っっ!!』
琴里の言葉を遮るドラゴンの叫びで、士道が『ウォールリング』を嵌めてバックルに翳し、十香達が士道の元に集まった。
[ウォール プリーズ] [ウォール プリーズ] [ウォール プリーズ] [ウォール プリーズ][ウォール プリーズ] [ウォールプリーズ]
連続で『ウォール』を使うと、士道達の四方と上方と下方に魔法陣が展開されて集まり、正方形の結界を作り出したその瞬間。
ドゴォオオオオオオオオオオオオンン!!!
天から炸裂した幾条もの光線により、士道達のいた病院をいとも容易く爆裂した。
床が崩壊し、結界が軽々と空中に投げ出される。
『うわぁああああああああああああああああああああああああ!!』
『きゃあああああああああああああああああああああああああ!!』
『くっ!』
士道達の悲鳴が上がるが、ドラゴンが力を込めた瞬間、結界がフワリと浮き、ゆっくりとだが、地上に向かった。
「えっ?」
『『グラビティ』だ。何とか間に合った』
「ド、ドラゴン、お前いつの間に魔法を!?」
『そんな話は後だ。地上に下りるぞ』
結界が地上に着いた瞬間、結界が解除された。
《士道! 士道! 無事なの!?》
「あ、ああ。何とかーーーーっ!」
と、慌てた琴里に安堵したように士道が返事をしようとしたが、他の入院患者や医師に看護師等が多数、病院におり、下敷きになってしまった事に気づいた。
「皆! 手を貸してくれ! 瓦礫をーーーー」
『愚か者! 離れろっ!』
ドラゴンが叫ぶと同時に、またも天から光と闇の雨と言える光線が降り注ぎ、瓦礫をさらに砕き、アスファルトが掘り起こされ、辺りの光景を崩していく。
「ぐ・・・・!」
『こんな状況で救助など出来るか馬鹿め! この場の元凶である精霊をどうにかするのが優先だ阿呆めが!』
「くっ!」
士道は渋面を作りながら、空を見上げようとする。
反転しているとは言え、相手は精霊。ならば十香の時のように、正常な状態に戻す事ができる筈だ。視線を巡らせ、精霊の姿を捜した
とーーーー。
「え・・・・?」
『ちっ、やはりか・・・・!』
虚空に現れたそれは、まるで背中の翼に覆われた、夜の闇を照らすような白い光ーーーー巨大な純白の塊だった。
ソレが羽ばたくように翼を広げると、中から、頭部に1対、背中に2対、腰に1対の翼を付け、陶磁器のように真っ白なその身体は、ある精霊の霊装のような物で包まれていた。そして顔にはバイザーを着け、両手は『何か』を大切に包み込んでいる。まるで天使のような姿をした異形とも言える存在だった。そして『白い羽』が周囲に散らばりながら浮遊する。
『あれは、ファントムだ』
ドラゴンがそう呟くが、士道の視線はそのファントムが大事そうに両手で包み込んでいたそれを開いた時、士道は目を見開く。
巨大なファントムが光を具現化したかのような存在ならば、こっちは闇を具現化したかのような霊装に身を包んだ少女が、浮遊していた。
膝を抱え、外界を拒絶するように顔を伏せながら、巨大ファントムの両手の平の上に座っている。その少女を護るように周囲に無数の『黒い羽』が、巨大ファントムの『白い羽』と共に、幾重にも円を描くように浮遊している。
周りの地獄絵図から隔絶されているかのような落ち着きと静けさに満ちていた。
その姿はまるでーーーー天使に慈しめられる胎児のように。
だが、士道の目を奪ったのは、その精霊の異様な姿だけではない。蹲って顔も、表情も見えないが、一目で分かる。
その幾度となく言葉を交わしてきた少女の、名が。
「折、紙・・・・?」
そう。光のファントムと共にいる闇の精霊は、鳶一折紙だったのだ。
『これはーーーー完全に、想定外過ぎる事態だな』
ドラゴンも苦々しく呟いた。
遂に現れた『精霊から生まれた魔獣ファントム』。イメージとしては、ジョジョのスタンドを参考に。