デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「何・・・・?」
十香が士道の言葉に、怪訝そうな声を発すると、それにしても次ぐように、他の皆が怯えるように息を詰まらせた。
「な・・・・、なんだ、『アレ』は・・・・ッ!?」
「疑念。マスター折紙・・・・なのですか?」
「ほ、本当に・・・・折紙、さん、何ですか?」
『うっわ~、イメチェンにしても攻めすぎでしょ』
「いや、『アレ』って、イメチェン何てモンじゃ無いわよ・・・・!」
「『アレ』って、あのときの十香さん見たいですね・・・・」
《鳶一折紙が・・・・反転した・・・・!? それに、ファントムまで・・・・!》
全員が戦慄した様子で眉をひそめ、ドラゴンからの念話で状況を聞いた琴里も、似たような反応だったが、それも無理からぬ事だ。
ただ空にたゆたっているだけだと言うのに、折紙と折紙を護るようにいるファントムーーーー『エンジェルファントム』から発せられる異様な圧迫感が、はっきりと感じられた。
まさに絶望の具現。破壊の権化。滅亡の化身。世界にあまねく破滅を撒く、『魔王』の姿であった。
「な、何で・・・・こんなーーーー」
士道は意味が分からず渋面を作った。
折紙が精霊化してから、まだ一晩も経っていない。
ーーーーそんな僅か数時間の間に、あの強い精神力を持った折紙が、存在を反転させ、魔獣をも生み出してしまう程の深い絶望を味わったなど、にわかに信じがたく、ゴクリと唾液を飲み下した。
「一体・・・・何があったって言うんだよ、折紙・・・・ッ!」
士道は大声を張り上げるが、その声は折紙に届く筈もなく。空から放たれる光と闇の矢はその勢いを衰えさせず、街並みを蹂躙していく。
漠然と、魔界や地獄がもし存在するならば、今のこの光景と同じと想像してしまう異様さ。
エンジェルファントムに抱かれている折紙は、空に根を張り、地上に漆黒の木々を芽吹かせているかのような、狂った世界。
ほんの数分前まで見知った街が、絶望と恐怖が跋扈する魔窟へと変貌した。
「・・・・・・・・(バシッ)つぅ!」
『しっかりしろ。あの気丈で強い精神力を持った小娘があんな風になってしまったからと、ヘタッている場合ではない。あの反転体が無表情娘ならば、やる事はただ1つ、だろうが』
「ドラゴン・・・・・・・・あぁ・・・・ああ!」
心が折れ、膝から崩れ落ちそうになる士道の尻に尻尾ド突きをお見舞いしてドラゴンがそう言うと、士道は両頬を叩き、ドラゴンはやれやれと息を吐くと、士道の体内に戻り、士道は『ドライバーオンリング』をバックルに翳した。
[ドライバーオン プリーズ シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]
ウィザードライバーを展開させた士道は、『フレイムウィザードリング』を翳す。
[フレイム プリーズ ヒー! ヒー! ヒーヒー、ヒィー!!]
〈仮面ライダーウィザード・フレイムスタイル〉へと変身した。
それを見て、十香達も察したのだろう。小さく頷きながら、士道の方に視線を寄越し、結局再封印できなかった十香が、完全霊装を装着し、剣の天使〈鏖殺公<サンダルフォン>〉を顕現し、両手で構えた。
「ーーーー鳶一折紙に何があったかは分からん。だが、アヤツを正気に戻せる人間がいるとしたら、それはお前だけだ、シドー」
「ああ!」
[[ドライバーセット シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]]
2人の言葉に当てられたかのように、八舞姉妹が顔を見合せ、足の震えを抑えるように全身に力を入れてから、スピリッドライバーを展開させ、『ラファエルリング』を指に嵌めながら、ウィザード<士道>の両脇に立つ。
「か・・・・かか、分かっておるのならば善い。もしいじけた言葉の1つでも吐こうモノなら、無理矢理にでも空に飛ばしてやったところだ」
「請負。・・・・マスター折紙の処までは夕弦と耶倶矢もお供します。ーーーー士道、マスター折紙の目を、覚まさせてあげてください」
[ベルセルク・テンペスト プリーズ]
[ベルセルク・ストーム プリーズ]
〈仮面ライダーベルセルク・テンペスト〉と〈仮面ライダーベルセルク・ストーム〉へと変身した2人が手を翳すと、辺りに風が渦巻いた。
「耶倶矢、夕弦・・・・すまん、付き合わせちまって」
「ふ、ふん、気にするでない」
「首肯。その代わり、マスター折紙を頼みます」
「・・・・ああ!」
[ドライバーセット ディーヴァ プリーズ]
と、ソコで、美九も〈仮面ライダーディーヴァ〉へと変身し、『カブリエルキーボード』を召喚すると、勇猛な曲調が響き始めると同時に、ウィザード<士道>のアーマーと、十香の霊装とベルセルク<八舞姉妹>のアーマーが放つ輝きが、一層強くなった気がした。
「美九!」
「うふふー。忘れてもらっちゃ困りますねー」
ディーヴァ<美九>が微笑んだように言う。
[[ドライバーセット]]
すると、次いで四糸乃と七罪もスピリッドライバーを展開させ、
[ハーミット プリーズ]
[ウィッチ プリーズ]
〈仮面ライダーハーミット〉と〈仮面ライダーウィッチ〉へと変身し、ハーミット<よしのん>が軽快に声を発する。
「地上は任しんしゃい! 氷のバリアで光線を防いじゃうよん!」
≪士道さん・・・・! 私達も、頑張ります・・・・!≫
「・・・・ふん。仕方ないから私も手伝ってあげるわ。瓦礫なんて、私がフワッフワの綿にでも変えてあげるんだから」
「四糸乃・・・・よしのん・・・・七罪・・・・」
《今私も向かっているわ。士道、鳶一折紙を何とか封印するのよ》
「琴里・・・・」
琴里からの念話を聞いて、士道はスウっとくうきを吸って、ゆっくりと吐き出した。
「ありがとう・・・・皆」
ウィザード<士道>がそう言うと、皆がコクリと頷いた。
「(俺は1人じゃない。皆がいるんだよな、 相棒?)」
≪分かりきった事を今更ほざくな。それと相棒呼ばわりするな気色悪い。・・・・さて、小僧は少し魔力を温存しておけ、切り込み役は〈プリンセス〉。運び役は〈ベルセルク〉達。〈ディーヴァ〉は皆のサポート。〈ハーミット〉と〈ウィッチ〉は街への被害と人間の救助を頼む≫
ドラゴンの指示に全員が力強く頷く。
≪小僧! いつものをやれ!≫
「ああーーーーさぁ、ショータイムだ!」
「では行くぞ!」
「応とも!」
「了解。とうっ」
十香が地を蹴って空へと飛び上がると、〈ベルセルク〉達もウィザード<士道>に風を纏わせ、後に続いた。
『・・・・・・・・FAAAAAAAAAAAAAAAAAA』
それと同時に、ウィザード<士道>達を敵性と判断されたのか、エンジェルファントムがこちらに顔を向けると、歌のように声を発した瞬間、白と黒の『羽』が急に軌道を変えて先端を此方に向け、一斉に純白と漆黒の光線を放ってきた。
「く・・・・!」
辺りに降り注いでいる『破壊の雨』よりも、遥かに高密度の霊力と魔力が込められた光と闇の塊が、ウィザード<士道>達を襲う。マトモに浴びればタダでは済まないだろう。
だがーーーー。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!」
ウィザード<士道>達の前方を飛んでいた十香が、烈帛の気合いと共に剣を一閃させると、その太刀筋をなぞるように霊力の斬撃が迸り、迫っていた砲撃を相殺した。
「十香!」
「私が攻撃を引き付けている間に、早く行け!・・・・長くは保たない」
苦しげな表情を作りながらも、十香は再度剣を構える。ーーーー良く見れば、霊装の各所が砕け、十香の肌に痛ましい傷が刻まれていた。
完全霊装を顕現させた十香でも、この圧倒的な手数の差を埋める事は出来ないようだ。しかも、まだ先程の折紙との戦闘の傷は癒えてないのだ。予断は許されない。
「・・・・っ」
ウィザード<士道>は顔をしかめるが、すぐに首を降り、『ハリケーンドラゴンウィザードリング』を嵌めてドライバーに読み込ませた。
[ハリケーン! ドラゴン! ビュー! ビュー! ビュービュー、ビュービュー!]
フレイムスタイルから、一気に〈ハリケーンドラゴンスタイル〉へと変化すると、ベルセルク<八舞姉妹>に声をあげる。
「耶倶矢! 夕弦! 急ごう!」
十香の痛ましい姿に不安とこの場を任せる事を心苦しいと思うが、この状況を打破する為には、一刻も早く折紙を元に戻す事が、力を貸してくれた皆に報いる唯一の方法だ。
「任せろ!」
「了承。急ぎましょう」
ベルセルク<八舞姉妹>も決意を察したのか、微塵も迷わず首肯し、十香の影から飛び出し、3人は持てる最高速度で折紙に向かって猛進する。
≪っ! この気配・・・・! かわせっ!!≫
「ーーーー困りますね、折角の反転体と、精霊から生まれた魔獣に粗相をされては」
ドラゴンの叫びと共に響いた声に下方を見ると、白金の斬撃と無数の蛇が襲ってきた。
「ぐ・・・・ッ!?」
「にゅわっ!? 何事かッ!?」
「回避。この攻撃は・・・・!」
3人はその斬撃を回避し、蛇達からも回避するが、ウィザード<士道>は仮面越しに表情を歪めながら、突然現れた声の主とその近くにいる異形達を睨んだ。
「エレン・メイザース・・・・! メデューサ・・・・!」
そう。ソコに現れたのは、白金の戦乙女と言っても良い仮面ライダー、〈仮面ライダーヘルキューレ〉ーーーーエレン・メイザースと魔獣ファントムの幹部メデューサ。そしてグレムリンと以前〈フラクシナス〉の映像で見せて貰った、ガルーダファントム、ユニコーンファントム、クラーケンファントム、ゴーレムファントムだった。
「お久しぶりですね、五河士道」
『はぁい士道くん♪ 久<ひっさ>しぶり☆』
「・・・・もう2度と会いたくなかったんだがな」
ウィザード<士道>が忌々しげに言うが、ヘルキューレ<エレン>とグレムリンは微塵も気に留めず、メデューサと共に後方ーーーー空に漂う折紙とエンジェルファントムを一瞥した。
『うわぁ、あれが『精霊から生まれたファントム』か! どうメデューサ?』
『素晴らしい。精霊からファントムが生まれると、ファントムと精霊は分離すると言うのか、是非とも捕獲し、ワイズマンに献上して詳しく調べる必要があるな』
「ーーーーあの時の〈プリンセス〉に勝るとも劣らない、見事な反転体です。アイクもさぞ喜ぶでしょう」
「・・・・ッ、揃いも揃ってふざけるな! お前ら何かに折紙を渡さねぇッ!」
「そう言うと思いました。では決着でもーーーー」
[3<スリー>、ファルコ! セイバーストライク!!]
「士道! 離れなさい!」
「っ!」
瞬間、ヘルキューレ<エレン>の言葉を遮るように、4匹の橙色の隼と焔の奔流が、ヘルキューレ<エレン>とメデューサ達に襲い掛かった。
が、ヘルキューレ<エレン>はダーインスレイブで、メデューサは杖アロガントで、グレムリンは自分の二刀流の刃で隼を斬り、他のファントム達も回避した。
と、ソコでウィザード<士道>の前に、2人の仮面ライダーが上方から降りてきた。
「琴里! それに、真那!!」
琴里が変身する〈仮面ライダーイフリート〉と真那が変身する〈仮面ライダービースト〉であった。
「琴里! なんで真那と一緒に?」
「こっちが聞きたいわよ。変身して飛んで行こうとしたら、突然真那が白い魔法使いと一緒に転移で現れたと思ったら、真那に引っ張られて無理やり転移で連れてこられたんだから」
「白い魔法使いがっ!? 真那! 彼はどこにっ!?」
「あぁ、今は下の四糸乃さん達と協力しながら、『テレポート』を使って救助をしているでやがります。後、私の相方(仁藤さん)も、消防と連携を取って、救助に協力してやがります。・・・・と、そんな事より!!」
イフリート<琴里>が睨むようにヘルキューレ<エレン>達に顔を向ける。
「ここは私と真那、耶倶矢と夕弦でどうにかするから! 士道は鳶一折紙の処へ!」
「だ、だが!」
ヘルキューレ<エレン>の強さは半端ではない、さらにメデューサにグレムリンと幹部級が揃った状況で皆を置いていく事に、ウィザード<士道>は渋面を作る。
「兄様! 早く行きやがってください!」
「かかか。丁度良いではないか、颶風の巫女たる我らに辛酸を舐めさせられた者共が揃っておるのだ」
「逆襲。リベンジです」
「優先順位を間違えないで! それに、鳶一折紙の方が気になって戦闘に集中できないでしょう!? ハッキリ言って邪魔なのよ!」
「っ!・・・・分かった!」
「皆!」
「「「おー!」」」
イフリート<琴里>が叫ぶと、ビースト<真那>とベルセルク<八舞>が自分の武器に力を込めてヘルキューレ<エレン>達に向けて振ると、
「「「「はぁあああああああっ!!」」」」
金色の魔力を帯びた炎と風の竜巻がヘルキューレ<エレン>達の視界を遮る。
≪小僧! 急げ!!≫
「ああ!」
ウィザード<士道>は全速力で空を駆けるとーーーー折紙に肉薄した。
瞬間、ウィザード<士道>は不思議な浮遊感を感じた。重力を無視したかのような奇妙な感覚に眉をひそめるが、すぐに今やるべき事を思い出す。
「折紙!」
ウィザード<士道>は仮面を解除し、目の前で膝を抱いて蹲った折紙の肩を掴むと、大声で名を呼んだ。
しかし、反応はない。
「折紙、俺だ! 士道だ! 聞こえているか!?」
肩を揺するが結果は同じ。何も聞こえていないかのように、グッテリとしたまま身動きを取ろうともしない。
明らかに異常な状態である。あの短時間で、一体どんな事があれば、あの気丈な折紙がここまで変わってしまうのだろうか。
「ーーーーどうすれば・・・・!」
≪・・・・試しに、〈プリンセス〉にやった時のようにしてみればどうだ?≫
「ッ、そうか!」
数ヶ月前に、十香も折紙と同じように反転体となってしまった。その時の十香は、皆の事はおろか、自分の名前さえも忘れ、文字通り別人のようになってしまった。
あの時、士道が十香を元に戻す為に取った方法はーーーー奇しくも、精霊を封印するのと同じ手段。
即ちーーーー接吻<キス>。
あの時の十香のように、折紙の意識を引き出せるかも知れない。
「・・・・、よし・・・・!」
士道は意を決すると、折紙の頭に手を触れ、俯いていた顔を上げさせた。
がーーーーその瞬間。
「・・・・・・・・ッ」
≪・・・・・・・・何?≫
士道は、心臓を鷲掴みにされるような衝撃を覚え、身体を硬直させてしまった。ドラゴンですら、困惑と驚愕が入り交じったように、愕然となった。
理由は単純。折紙のーーーー顔であった。
顔の造形が変わった訳ではない。相変わらず人形のように美しい彼女の貌だ。
が、その表情を見て、士道は呆然と、声を発する。
「折・・・・紙・・・・?」
光のない瞳。涙で荒れた頬。乾いた唇。
この世のあらゆる絶望を見たかのような、生気の消え失せた顔。何も知らない者が見れば、間違いなく死体と見間違えるだろう。
瞬間、士道とドラゴンは直感的に察してしまった。
ーーーーもう、折紙は、取り返しのつかない状態なのだと。
「お、い・・・・折、紙・・・・」
力無く、声が漏れた。
≪っっ!? 小僧避けろ! ファントムが狙っているっ!!≫
『FAAAAAAAAAAAAAAAAAA・・・・!』
ドラゴンが叫んだその瞬間、十香を狙っていたエンジェルファントムが、バイザー越しに士道を睨んだ瞬間、少数の『白い羽』の先端を士道に向けた瞬間、白い光の光線が、士道に向けて発射された。
≪ちぃっ・・・・!!≫
「うわっ!?」
内部でドラゴンが力を放出すると、士道の身体は、士道の意志と関係なく動き、折紙の元から離れた。
その数瞬後、士道がいた地点の上下左右から、白い光線が網のように放たれ、あと少し回避が遅れていれば、穴だらけになっていただろう。
『FAAAAAAAAAAAAAAAAAA・・・・』
エンジェルファントムは、まるで雛鳥を守る親鳥のように、折紙を乗せた手の平を閉じ、折紙を包み込んだ。
士道はその光景を見て、ゴクリと息を飲むと、そのまま士道の身体は地上に着地し、その瞬間、変身が解除された。
「・・・・・・・・ッ、折紙・・・・!」
ドラゴンが士道の身体に何かをしたのか、と言う疑問よりも、今し方目にした折紙の顔が、脳裏に焼き付いて離れない。深い深い闇を湛えた、無機質な瞳。
失望も悪意もない、ソコにはもう、何も無かった。己の持つあらゆる物を捨て去ってしまったかのような、空虚な顔。
そんな折紙にどんな言葉をかければ良いのか分からなくなってしまった。
≪・・・・どうする? このまま諦観にでも徹するか?≫
「・・・・なぁ、ドラゴン。前に言ったよな?」
【≪貴様は何もして来なかった。あの娘に対して何一つ、な。あの娘は貴様なんかの為に危険を顧みずに行動し、そのせいで除隊され、DEMに身を寄せ、今のこの状況に陥ったのだ。そうなった原因の大部分の責任者は、そんな事を欠片も考えず、ただただこのまま当たり前にある『日常』が続くとでも思っていたのだろう。こんな日常がいつまでも続いていく、と盲信して、中途半端に付き合って、中途半端に優しくして、中途半端なお友達関係してきただけだろう≫】
「俺が諦めれば、折紙の全てが終わっちまう! 折紙はもう帰ってこれなくなっちまう! それだけはーーーー絶対にイヤだぁ! もう折紙に対して、『中途半端』はしたくないんだぁっ!!」
冷静と思えば直情的で、十香とすこぶる仲が悪くて、行動が一々過激で、いつも士道を困惑させるーーーーあの不器用な少女を失う事だけは。
士道は心を落ち着かせようと細く息を吐くと、顔をあげた。
天の中心には、折紙を守るように漂うエンジェルファントム。
その周囲では十香にベルセルク<八舞姉妹>、イフリート<琴里>とビースト<真那>、そしてヘルキューレ<エレン>とメデューサ達ファントムに無数の『羽』が、凄まじい乱戦を繰り広げている。
どうすれば良いのか、明確な答えは出ていない。だが、もう一度折紙の元に至らなければならない事は明白だ。
「ドラゴン!」
≪『オールドラゴン』で行くぞ!≫
『フレイムドラゴンウィザードリング』と『コネクト』を使おうとするが、複数の『羽』の先端からそれぞれ、“光と闇が灯り” 、正確に士道を狙った。
が、『羽』から光線が放たれる一瞬前に、右方から一直線に魔力が迸り、士道に先端を向けていた『羽』を吹き飛ばした。
「っ、あれは・・・・! 〈フラクシナス〉!?」
目をやると、そこには、ボロボロに損傷した〈フラクシナス〉が、どうにか随意領域<テリトリー>で船体を保ちながら現れた。
《司令!! あなたの忠実なる下僕がたった今駆けつけーーーー》
が。
神無月が外部スピーカーを使って言い終わる前に、吹き飛ばされた『羽』が複雑な軌道で空を駆け、〈フラクシナス〉の囲うように展開しーーーー。
ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ! ビシュッ! ・・・・。
空を舞った幾本もの『羽』が一斉に光線を放ち、〈フラクシナス〉の随意領域<テリトリー>を容易く砕くと、既にボロボロになっていた船体を四方から貫いたのである。
《ああああああああ! 折角駆けつけたのにご無体なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!》
凄まじい威力の光線に一斉に貫かれた〈フラクシナス〉は、その船体の随所から炎と煙を噴き出し、地上に落下した。
「令音さんっ!!」
≪オタク眼鏡! 離婚の達人! 鴨葱中年! ストーカー女! 呪い女!≫
〈フラクシナス〉にいる令音やクルー達の名を呼ぶ士道とドラゴン。
神無月の名を呼ばなかったが、あの人ならしぶとく図太く厚かましく生き残っていそうだと、無意識に思ったからだ。
早く折紙を止めようと、『オールドラゴン』に変身しようし、『コネクト』を使おうとした瞬間、
「え・・・・?」
≪なにっ!? この気配は・・・・!≫
突然士道の全身から力が抜けていく。ドラゴンは気配を察し、渋面を作る。
そうーーーーまるで何者かに力を吸い取られているかのような感覚。
「まさか、これは・・・・ッ」
その考えに至った士道は、苦しげに声を発し、地面に視線を落とした。
そして、その異常に気づく。
今自分は、壊れかけの街灯の灯りがチカチカと照らされた場所におりーーーーその地面には、影が蟠っていたのだ。
すると、士道の足元の影が生き物のようにうねり、その中から、1人の少女が這い出てきた。
黒と赤のドレスを纏う、左右不均等に結われた髪と、時計の文字盤が刻まれた左目が特徴的な、ゾッとする程に美しい少女が。
≪こんな時に、いや、だからこそ仕掛けてきたかっ!? 〈ナイトメア〉っ!!≫
「狂三・・・・!」
「うふふ・・・・お久しぶりですわね、士道さん。ドラゴンさん」
できれば、次回で終わりにします。