デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第十章、完結です。


遡行する魔法使い

ー士道sideー

 

突然現れた精霊、識別名称〈ナイトメア〉、時崎狂三はクスクスと笑いながら、スカートの裾をつまみ上げ、大仰に膝を屈めて見せた。

 

「うふふ・・・・お久しぶりですわね、士道さん。ドラゴンさん」

 

そう。士道の足元に広がっているの影は、〈時喰みの城〉。狂三が人間から『時間』を吸収するのに用いる結界だ。

 

≪ちっ、以前とは効力が桁違いだ。流石に複数の精霊の霊力を内包した我らを拘束するには、生半可では足りないと思ったようだな・・・・!≫

 

その結界は士道の『時間』だけではなく、『命』を根こそぎ奪っていくかのような、強烈な圧力。士道もドラゴンもマトモに身動きが取れなくなり、その場に貼り付けにされていた。

 

「お前・・・・何の、つもりだ・・・・! こんな時、にーーーー」

 

士道が表情を歪めながら言うが、狂三は優雅な仕草で微笑んだ。

 

「あら、異な事を仰いますのね。士道さんともあろうお方が、わたくしの目的をお忘れになりましたの?」

 

「・・・・ッ」

 

士道は息を詰まらせた。

狂三の目的それはーーーー士道とドラゴンを“喰らい”、二人が内包する複数の精霊の霊力と、魔獣ファントムの魔力と霊力が融合した力を手にする事である。無論、忘れている筈ない。

 

「【こんな時に・・・・】と仰いましたわね。うふふ、寧ろ逆ではございませんこと? 精霊さん達も真那さんも皆お忙しいご様子。こんな好機を逃す手はありませんわ」

 

笑みを濃くした狂三がそう言って、士道に歩み寄ると、妖しい手つきで士道の頬に手を添える。

 

「ぐ・・・・」

 

≪ちぃっ!≫

 

確かに、狂三の言うとおりかも知れない。士道がどう思っていても、狂三は士道達の仲間でもなければ、DEMに所属している訳でも、ファントム陣営と手を組んでいる訳でもない。こちらの事情など関係ない。寧ろ混乱に乗じて目的を達しようとしてくるのは至極当然の発想だろう。

だが・・・・止められている訳にも行かない。

 

「ド、ドラゴン・・・・!」

 

≪な、めるなぁ・・・・! 〈ナイトメア〉ァァァァァァァァァァァァッッ!!!≫

 

「っっ!!」

 

士道が呼び掛けると、ドラゴンが一気に力を放出すると士道の身体から、霊力と魔力の融合エネルギーが放出され、狂三が後方に飛び退くと同時に、〈時喰みの城〉の拘束を打ち破り、エネルギーの余波で士道を照らしていた街灯も薙ぎ払い、灯りを消した。

これで影を使った能力は使えない。

 

≪ふぅぅぅぅぅぅぅ・・・・!≫

 

「ーーーー流石はドラゴンさん、ですわね。わたくしの〈時喰みの城〉を打ち消すとは・・・・(これ以上ドラゴンさんに力を持たせると、士道さんの力を奪うのが難しくなりますわね・・・・いえそれどころか、“士道さんの手に負える存在”ですら、なくなるかも知れませんわ・・・・)」

 

内心の戦慄を隠すように、狂三はポーカーフェイスの笑みを浮かべる。

 

「頼む狂三! 邪魔をしないでくれ!」

 

拘束から解放された士道が叫ぶと、狂三は気を取り直して面白がるように肩をすくめる。

 

「あらあら、士道さんにそんな事を言われるだなんて、悲しいですわね。・・・・一体、わたくしが何の邪魔をしていると仰いますの?」

 

「俺は・・・・十香達を助けなくちゃならない! 令音さん達を助けなくちゃならない! それにーーーー何をしてでも折紙の所に行かなきゃならないんだよ! でないと、折紙はーーーー」

 

「ああ・・・・」

 

士道の言葉に、嘆息するように吐息を漏らした狂三は、目を細目ながら後方ーーーーエンジェルファントムに守られた折紙を一瞥した。

そして、先ほどまでの楽しげな様子を霧散させて、静かに続けてくる。

 

「ーーーー無駄、ですわよ」

 

「はーーーー?」

 

≪(ーーーーこの娘も、そう感じたか)≫

 

狂三の言葉に、士道は思わず眉根を寄せ、ドラゴンは今さっき見た折紙の様子から、狂三と同じ事を感じていた。

折紙はもうーーーー手遅れであると。

 

「ドラゴンさんはとっくに気づいていらっしゃるでしょう? “ああ”なってしまったら、もう何をしても意味がありませんわ。今の折紙さんには、何者の声も届きませんわよ。ーーーーそれが如何に、士道さんであっても」

 

「ッ、そんな事ーーーーやってみなけりゃ分からねえーーーーだ、ろ・・・・」

 

こんな絶望<現実>に足掻こうとする士道の意気を挫かれるように、途中で言葉を止めた。

別に諦めてしまった訳ではない。ただ、あの狂三が、士道もドラゴンも、今まで見せた事のないような憮然とした表情を、こんな事態が起こるのは完全に想定外であると言うような表情を作り、親指の爪を噛んでいたのだ。

 

「・・・・本当に、“一体あの先で何を知ってしまったのやら”」

 

「え・・・・?」

 

≪(っ! この娘、何か知っているのかっ!?)≫

 

怪訝そうな顔を作る士道と、狂三の様子から、折紙がああなってしまった事に関係があるのではないかと推察するドラゴン。

しかし、狂三は答えず、フウと息を吐いてきた。

 

「まあーーーー兎に角。わたくしはわたくしのすべき事をするだけですわ」

 

言うと、狂三はトン、と後方一歩飛び退き、両手を広げた。

するとその同左に合わせるように、足元の影が広がり、2挺の銃が飛び出て、狂三の手に収まった。

片方は銃身の長い歩兵銃。もう片方は短銃。双方アンティークのように精緻な細工が施された、古式の銃だ。そして、それに次ぐように、影の中から巨大な時計の文字盤が姿を現した。

 

≪ちぃっ、〈刻々帝<ザフキエル>〉か・・・・!≫

 

狂三が持つ、時間を操る天使〈刻々帝<ザフキエル>〉を見て、ドラゴンは戦慄したような声をもらした。

 

「さあ、さあ、〈刻々帝<ザフキエル>〉。始めようではありませんの」

 

すると、狂三の言葉に応えるように、〈刻々帝<ザフキエル>〉は蠢動し、文字盤の数字から影が滲み出て、銃口に収まった。

 

≪(ん? あの数字、今まで見せた事のない数字の弾丸・・・・?)≫

 

ドラゴンはこれまで狂三の天使の数字から見せられてきた『時間を操る能力』から、何かを推察するように思案するが、狂三はそれに構わず、ニッと唇を歪め、2挺の銃を士道に向けてくる。

 

「・・・・なっ!」

 

その予想外の行動に、士道は思わず目を見開いた。

狂三の目的は、『士道とドラゴンから力を奪う事』であった筈。一瞬、狂三の行動が理解できず唖然となるが、そんな悠長にしていられない。狂三が込めた弾の効果は分からなかったが、士道にとって不利益になるものである事は想像に難くない。

士道は距離を取って変身する間合いを作ろうと足を動かそうとした瞬間。

 

「(ガシッ!) なっ!? く、狂三!?」

 

士道の身体を拘束するように狂三が、いや、分身体の狂三達が現れ、士道を動けなくした。

 

「離せ! くそっ! 折紙ッ!」

 

こんな所で討たれる訳にはいかない。折紙を救う為に、再び空に向かわなければならないのだ。

だが、そんな士道の決意を嘲笑うように、狂三の声が響く。

 

「だから、言ったではありませんの。ーーーー“もう”、何をしても意味がないと」

 

その言葉と同時に、何の躊躇いもなく狂三が引き金を引くと、撃鉄が落ち、1発の銃弾が放たれる。

影が結集したかのような銃弾は、空間に黒い軌跡を残して、逃れようとする士道の胸元に突き刺さった。

 

「ぐ・・・・!?」

 

≪ーーーーこの弾丸、まさか・・・・!≫

 

士道は苦悶の表情を浮かべーーーーすぐに違和感に眉根を寄せた。銃弾が直撃したと言うのに、全く痛みがなかった。

琴里の治癒能力も、士道の『時間』が戻ったり、進んだり止まったりしている感覚もない。

 

「ドラゴン・・・・これって・・・・?」

 

≪まさか、この弾丸は・・・・≫

 

ドラゴンが何かを察したかのように声を発し、士道は怪訝に思い狂三を振り返ると、その瞬間、狂三が妖しい笑みを浮かべ、もう1挺の銃の引き金に指をかけた。

 

「うふふ、そうですわねぇ、あなた達の言葉で言うのならーーーー」

 

そして、ニッと笑みを浮かべ、

 

 

「さあーーーーわたくし達の戦争<デート>を、始めましょう?」

 

 

狂三は、引き金を引いた。

 

「・・・・・・・・っ!?」

 

士道の額に、漆黒の弾丸が突き刺さる。が、この弾丸にも、着弾による痛みはなかった。

だがーーーー。

 

「ぅ・・・・あ・・・・っ・・・・?」

 

≪な・・・・なる、ほど・・・・こう・・・・言う、事か・・・・!≫

 

弾が撃ち込まれた瞬間、士道は全身がゲル状の物質に変化し、そのままミキサーに突き落とされ、滅茶苦茶に撹拌されるかのような違和感を覚えた。

平衡感覚はなくなり、天地が分からなくなる。次第に意識さえも細切れにされていくかのようにあらゆる感覚が希薄になっていきーーーー士道とドラゴンはそのまま、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

ーーーー闇に落ちていた意識がゆっくりと戻ってくる。

その際、熱を感じた。とは言え、炎のような苛烈な物ではない。もっと温度の低い炎に、遠火でジリジリと焼かれるような感覚だ。

 

「・・・・・・・・?」

 

数秒後。うっすらと瞼を開けた。

 

「・・・・!」

 

が、瞼を開けた瞬間、視界いっぱいに目映い光が飛び込んできて、暗がりに慣れていた目が灼かれたからだ。

 

「な、なんだ・・・・?」

 

≪・・・・ふむ≫

 

士道は困惑しながら思案を巡らせ、一瞬、病院か〈ラタトスク〉の地下施設にでも収容され、手術台の上にでも寝かされているのかと思ったが、鼓膜にミンミンと言う虫の、蝉の鳴き声を捉えた。

 

「・・・・蝉?」

 

首を捻って、手のひらで影を作りながら瞼を開けると、自分が屋外ーーーーしかも、道路の真ん中で寝ていたのだ。

加えて、空には燦々とした太陽が輝いていた。

 

「は・・・・? え・・・・?」

 

士道は上体を起こし、キョロキョロと辺りを見回す。気絶している間に夜が明けたのかと思ったがーーーー違う。今士道がいる世界は、明らかに異常だった。

 

「何で・・・・街が、壊れていないんだ・・・・?」

 

そう。折紙によって滅茶苦茶に破壊された筈の街並みが、元に戻っていた。

 

「ド、ドラゴン・・・・これって、一体・・・・」

 

≪・・・・蝉が生きている。今は11月だった筈、しかもこの太陽の照らし具合、時期的に7月~8月の夏、と言った所か・・・・≫

 

「ど、どういう事だよ・・・・? っ! そんな事より!」

 

士道はブンブンと首を振り、もっと確認しなければならない事があった。

無論ーーーー十香達や折紙の事である。

 

「十香! 折紙!」

 

よろめきながら立ち上がり、声を張り上げるが、返事はない。

 

「琴里! 四糸乃! 七罪! 美九! 耶倶矢! 夕弦! 真那!・・・・狂三ッ! 誰でも良い! 誰かいないのか!?」

 

叫ぶが、それに応えてくれる者はおらず、士道の存在に気づいたように、通りを歩く人々は怪訝そうに、或いは不審そうに視線を寄越してきた。

 

「くそっ、一体どういう事だよ、これは・・・・!」

 

焦燥のまま、ブロック塀を殴るが、鈍い痛みが伝わるだけだった。

 

「・・・・なぁドラゴン。今まで俺が見てきたのは、全部、夢だったって事なのか・・・・?」

 

≪現実逃避するな。夢の中で貴様は我や精霊達に半殺しにされたと言うのか?≫

 

「じゃぁ、一体どうなってんだよ・・・・?」

 

訳が分からない士道だが、ドラゴンは冷静に応じる。

不思議な事に、ドラゴンがここまで冷静でいてくれるお陰で、士道は辛うじて混乱せずにいられた。

 

≪ーーーー取り合えず、人通りの多い所に行くぞ。先ずはここが何処なのか、情報を集める事だ。行くぞ≫

 

「・・・・ああ」

 

≪(・・・・が、我の予想が正しければ、ここはもしかしたら・・・・)≫

 

士道はヨタヨタとした足取りで路地の先へと向かうと、程なくして、開けた空間に出た。道の両脇に様々な店が並ぶ、広々とした大通りに、幾人もの人が行き交っている。

 

「ここ・・・・は・・・・」

 

そこで士道は、眉根を寄せた。

その景色に見覚えがあった。

 

「天宮市・・・・だよな・・・・?」

 

≪見た所、な・・・・≫

 

そう。間違いなく天宮市だった。幾度となく通っている道だ。

だか・・・・おかしい。何かがおかしい。見慣れた街並みの筈が・・・・何処かが記憶と食い違っている。何処かに違和感を感じるーーーーまるで、以前出会った〈仮面ライダーゴースト〉達の言う、パラレルワールドにでも迷い込んだような違和感だ。

士道はその違和感の正体を探ろうと、注意深く周囲の様子を窺いながら通りを進んでいった。

と、そこで。

 

「うわ・・・・っ!」

 

「きゃっ!」

 

辺りをキョロキョロ見回しながら歩いていたものだから、前方を歩いてきた女性とぶつかってしまった。女性が派手に尻餅を突き、手にしていたと思しき手帳が地面に落ちる。

 

≪ん・・・・!?≫

 

が、その手帳のページが一瞬目に入り、ドラゴンが視線を鋭くした。

 

「す、すいません、ボーっとしてて・・・・!」

 

「あ、いえぇ、こちらこそすいません」

 

士道が慌てて謝ると、女性はすぐに立ち上がってペコリと頭を下げてきた。士道はその場に膝を折ると、地面に落ちてしまった手帳を拾い上げ、女性に手渡そうとした。が・・・・そこで身体が硬直した。

理由は単純。その、眼鏡ですかけた小柄な女性に、見覚えがあったからだ。

 

「た・・・・タマちゃん?」

 

≪・・・・んん≫

 

そう。そこにいたのは、士道の担任、岡峰珠恵教諭(通称タマちゃん先生)だったからだ。

 

「へ?」

 

「あなた・・・・”何で私のアダ名を知ってるんですかぁ?“」

 

≪っ≫

 

などと言って、首を傾げてくる。そしてドラゴンは、この状況に確信を持った。

 

「は・・・・? いや、何言って(バシィンッ!) んごっ!?」

 

困惑しそうになる士道の脳天に、尻尾ド突き(威力中)が炸裂された。

 

「(な、何すんだよドラゴン!?)」

 

≪おい、その女に伝えろ≫

 

「(な、何をだよ?)」

 

≪ーーーーーーーー、とな≫

 

「(は? お前何を言って(バキッ!))んぐぅおっ!」

 

≪さっさとしろ≫

 

「(わ、分かったよ・・・・!)」

 

「あの、大丈夫ですかぁ?」

 

タマちゃん先生?が、不思議そうに聞いてくる。

 

「だ、大丈夫です、持病の頭痛が起きただけで・・・・」

 

「はぁ、持病の癪なら昔の時代劇で聞いた事ありますけど、持病の頭痛なんてあるんですねぇ」

 

士道も初めて言った。そして、タマちゃん先生?に向かってこう問いだした。

 

「あの、今日ってーーーー”何年何月の何日でしたっけ“・・・・?」

 

ドラゴンが聞けと言ったのは、今日の日付だった。

 

「え? 今日はーーーー」

 

「っ!」

 

だが、タマちゃん先生?が発した言葉に、愕然となった。

 

「・・・・、5年前・・・・?」

 

≪やはりな、我らは今、『5年前の過去の世界』にいるのだ・・・・!≫

 

士道は呆然と呟き、ドラゴンは結論を言った。

そう。この世界は、『5年前の天宮市』だったのだ。

 




次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚。

5年前の過去の世界に飛ばされた士道とドラゴン、そしてその光景を眺める狂三。三人はソコで、折紙の過去に起こった悲劇を目の当たりにする。

「何なんだよ・・・・! 何なんだよこれは・・・・!?」

「気に入りませんわ・・・・!」

士道と狂三は、この最悪の過去を変えようと動く。がーーーー。

≪既に起こった事象を覆せば、現代で何が変化するか分からんぞ?≫

「それでも! 折紙を救う為なら、”何だってやってやるっ!!“」

過去の改竄に懐疑的なドラゴンだが、士道は止まらなかった。

≪”何だってやってやるっ!!“・・・・か、ならば、これから何が起こっても、覚悟し、受け入れ、背負う責任を持つのだな≫

そして、現代に戻った士道達を待っていたのは、想像を越える事態だった。

「何で・・・・何でこんな・・・・俺はただ・・・・!」

≪貴様がやったのだーーーー〈プリンセス〉達から、学校の奴等から・・・・“鳶一折紙の存在を消したのだ”≫

「こんな・・・・こんな事になるなんて・・・・俺は、こんなつもりじゃ・・・・!!」

悲嘆する士道の目の前に、驚くべき事が起こった。

「ーーーー鳶一折紙です。皆さん、よろしくお願いします」

第十一章 『折紙デビル』

≪小僧・・・・さらばだ!≫
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