デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第十一章、開始。


鳶一デビル
過去の世界


ー士道sideー

 

「・・・・5年前? 冗談だろ?」

 

≪冗談でも夢でも幻でもない。我らは5年前の天宮市に来てしまったーーーーいや、送り込まれた、と言った方が的確だな≫

 

5年前のタマちゃん先生にお礼を言って、別れると、士道は塀に背中を預け、額を押さえて呻きをあげるが、ドラゴンがこれは現実だと伝えた。

 

「これって、まさか・・・・」

 

≪貴様の拙い脳ミソでも分かるだろう≫

 

時間を遡行したと言う、荒唐無稽な現実が起こらせた唯一の可能性。それはーーーー。

 

「狂、三ーーーー」

 

時間を操る天使〈刻々帝<ザフキエル>〉を所持する精霊の姿を思い浮かんだ。

 

《ーーーーきひひ、ひひ》

 

≪「・・・・ッ!?」≫

 

と、何処からか小さな、しかし聞き覚えのある笑い声が聞こえた。

 

「く、狂三か!?」

 

《ええ。ええ。うふふ、気づいていただけて何よりですわ》

 

声の主ーーーー狂三の声が聞こえる。まるでドラゴンのように自分のアンダーワールドにでも入っているような奇妙な感覚だ。

 

「ドラゴン。狂三は何処にいるんだ?」

 

≪・・・・どうやら、我とは違う念話能力のようだな。何処にいるかまるで掴めん≫

 

≪ええ。ーーーーだってわたくしは今、士道さん達とは別の『時間』にいるんですもの≫

 

「な・・・・!?」

 

≪・・・・・・・・成る程な≫

 

狂三の発言に、士道は息を詰まらせ、ドラゴンは泰然としていた。

ドラゴンの言った結論が現実のモノと知り、得体の知れない不安感が広がる。しかし、荒れそうになった呼吸をどうにか整え、狂三に言葉を投げた。

 

「やっぱりーーーーここは、『5年前の天宮市』・・・・なのか?」

 

≪あらあら。もうそこが『いつ』なのか、気づいておられましたの? うふふ、ドラゴンさん辺りでしょうか?≫

 

「・・・・まあな。それよりーーーー説明してくれるんだろうな?」

 

≪ええ。お察しの通り、わたくしは士道さんとドラゴンさんを『5年前の天宮市』に送らせていただきましたわ。ーーーー〈刻々帝<ザフキエル>〉最後の弾、【12の弾<ユッド・ベート>】の力によって≫

 

「【12の弾<ユッド・ベート>】・・・・」

 

≪さしずめ、『撃った対象を過去の時間軸に送る能力』、と言った処か? 時を操る天使〈刻々帝<ザフキエル>〉。改めて厄介な能力だな≫

 

眉根を寄せて言う士道にドラゴンが【12の弾<ユッド・ベート>】の能力を推察した。

 

≪ええ。そして今、士道さん達とお話しできているのも、〈刻々帝<ザフキエル>〉の能力ですの。【9の弾<テツト>】。『異なる時間軸にいる人間と、意識を繋ぐ事のできる弾』ですわ。ーーーーまあ、用途の限られる弾ですのであまり使い慣れておらず、意識を繋ぐのに少し手間取ってしまいましたけど≫

 

「意識を・・・・繋ぐ?」

 

≪我と同じように、小僧が見たもの聞いたものを共有する事ができると言う事か≫

 

「・・・・とにかくだ。今すぐ俺達を元の時代に戻せ! 俺は今、こんな事をしている場合じゃないんだ! こうしている間にも十香達が・・・・!」

 

士道は拳を握り締めながら訴えかけるように叫びをあげた。

元の時代の天宮市は今、反転した折紙と、その折紙から生まれたエンジェルファントムが空から無数の光線を放ち、街を滅茶苦茶に蹂躙される、未曾有の大災害に襲われていた。

十香や八舞姉妹、琴里と真那と美九は、折紙を止めようとし、四糸乃と七罪、『白い魔法使い』(そして士道は知らないが真那のパートナーの仁藤)も街の人達を助ける為に奔走していた。加え、士道達を助ける為に駆けつけた〈フラクシナス〉は折紙に堕とされ、令音達クルーの安否も分かっていない。そんな状況から、精霊の力を封印する事のできる士道がいなくなってしまったのだ。元の時代がどうなっているのか、想像に難くない。

 

≪まあーーーーそうですわね。“こちら”は酷い有り様ですわ。琴里さん達もメデューサさん達もDEMも撤退し、見渡す限りの大地は焦土。如何に地獄でも、ここまで凄惨な光景はそうないでしょう≫

 

「・・・・! だから、早く(バシっ)いでぇ!?」

 

焦る士道に、ドラゴンが尻尾ド突きで黙らせる。

 

≪少し黙れ。〈ナイトメア〉。我の推察を、貴様が我らをこの5年前の過去に連れてきた理由を、証明するぞ?≫

 

≪ええ。どうぞドラゴンさん≫

 

痛がる士道を無視して、ドラゴンは狂三に声を発する。

 

≪ここは5年前、小僧の義妹が〈イフリート〉となり、そしてーーーー鳶一折紙<無表情娘>の両親が、謎の精霊に殺された時代、だな?≫

 

「っ!!」

 

痛がっていた士道は、ソコでハッとなった。

 

「(そうだ・・・・この時代は琴里が精霊になって、折紙の両親が殺された時代だっ!)」

 

≪あの無表情娘の状態。そして貴様の行動。これらから推察できる結論は、貴様ーーーー無表情娘に、【12の弾<ユッド・ベート>】を使ったな?≫

 

≪・・・・・・・・流石はドラゴンさん、ですわね≫

 

「っ!!?」

 

狂三が肯定すると、士道は驚愕に目を見開く。【12の弾<ユッド・ベート>】を折紙に使った事に驚いたのだ。さらにドラゴンは続ける。

 

≪恐らく、あの娘が我々から離れて、再び姿を現す数時間の間に貴様と接触し、【12の弾<ユッド・ベート>】を使って過去に渡る。そして精霊化した自分の力で、両親を殺した仇の精霊を、正確に言えば、『仇』になる前に、その精霊を、〈ファントム〉を討ちに向かったーーーーと、推理してみたが?≫

 

≪・・・・・・・・全く。どこかでこちらの様子を監視でもしていたのですか? と、問い詰めたい所ですわね≫

 

「ッ!!」

 

ドラゴンの推理を狂三が肯定すると、士道は心臓が引き絞られるのを感じると同時に、頭の中で点在していた情報が、1つに収束されていく。

『5年前』。『精霊に殺されたと言う折紙の両親』。『折紙が手にした人知を越えた力』。そしてーーーー狂三の【12の弾<ユッド・ベート>】。

 

≪そして士道さん達がいるのは、折紙さんが来る前の時間に遡行させましたわ。けれど、そう時間を置かずにソチラの時代に送られる筈ですわ≫

 

「じゃあ折紙は・・・・〈ファントム〉を倒しにここに戻ってくるって言うのか?」

 

5年前のこの日。大火災の現場にいたもう1人の精霊を思い浮かべながら、士道は呟くように言った。

 

「でも、それなら何で元の時代に戻ってきた折紙は反転してたんだ(バシィィンッ!)よぉぉぉぉぉぉ!!」

 

尻尾ド突き(強)をされ、頭を押さえる士道。

 

≪トコトン察しが悪いのか貴様は? それを探る為に我らが送れたのだ。そうだろう〈ナイトメア〉?≫

 

≪ええ。ドラゴンさんは話が早くて助かりますわ≫

 

「わ、悪かったな・・・・!」

 

士道は頭の鈍痛と、先ほどから激しく鳴りっぱなしの動悸を抑える。

5年前に戻った折紙の動向を探り、反転の原因を突き止め、それを解消する。狂三の言う事が正しいのならば、確かにソレしか方法がなさそうだ。

しかしーーーー士道もドラゴンも、1つだけ疑問に思っている事を口にした。

 

「・・・・狂三。お前の言う事が正しいとするなら、何でお前はこんな事をしてくれるんだ? 俺達だけじゃない。そもそも、折紙を5年前に送ったのだって折紙から頼まれたからだったんだろう?」

 

≪貴様が何のメリットも無しに、自分の能力を他者に使うなど有り得んからなぁ?≫

 

そう。ソコが腑に落ちない部分だった。

狂三は精霊達の中でも異質な存在。その狂三が士道達に協力するのは、お互いの利害が一致している時だ。そんな彼女が、何の見返りもなく誰かの為に天使を使うだなんてにわかに信じられなかった。

士道達の言葉に、狂三は暫しの間沈黙してから、返してきた。

 

≪別にわたくしにメリットがない・・・・と言う事はありませんのよ? 他者の霊力で【12の弾<ユッド・ベート>】を試し撃ちできる機会なんてそうはありませんでしたし。でも・・・・そうですわねぇ≫

 

スウッと息を吐いてから、狂三が続ける。

 

≪強いて言うのであれば、“証明して欲しいのですわ”≫

 

「“証明”? 一体何を」

 

≪ーーーー“歴史は、人の力で変えられると”≫

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

いつものおどけた口調と違った少し違い、士道は思わず息を呑み、ドラゴンはスッと視線を鋭くした。

 

「『歴史』、を・・・・」

 

≪ええ。わたくしに見せてくださいまし。この救いのない破滅を、希望の潰えた惨劇を、“無かった事”にして見せてくださいまし≫

 

「そんな事・・・・俺に、できるのか? 歴史の修正力・・・・とか言うのがあるって聞いた事があるんだが・・・・」

 

士道は難しげな顔をしながら、以前タイムリープ物の映画を見て、その映画で聞いた理論を出した。

要するに、タイムマシンを用いて過去に戻り、何か歴史が変わるような重大な出来事が起こったとしても、その変更点を修正するように似たような出来事が起こり、元の歴史と近い世界が形成される、と言う話である。

が。狂三はカラカラと笑った。

 

≪異な事を仰いますのね、士道さん≫

 

妖しい吐息が士道の脳内に響く。この場に狂三がいたのなら、きっと挑発的に士道の顎をクイと持ち上げていただろう。

 

≪それを提唱したのは一体何処のどなたですの? その方は、実際に時を越えてその考えを実証されましたの?≫

 

「そ、それは・・・・」

 

≪世界が如何に広かろうと、不可逆の時に干渉できるのは、この時崎狂三だけですわ。この〈刻々帝<ザフキエル>〉だけですわ。頭でっかちな学者や作家の戯言になど耳を貸さないでくださいまし。あなたが、士道さんが、その目で見た事のみが、ただ1つの真実ですわ≫

 

狂三が淡々とした調子で言う。

 

≪(・・・・それを言ってしまったら、過去を改変すれば未来が変わる、と言う提唱も、誰も実証された事がない、机上の空論になるのだがなぁ。ーーーーしかし、まるで小僧ではなく、自分に言い聞かせているように聞こえるが・・・・)≫

 

「狂三・・・・?」

 

≪・・・・お喋りが過ぎましたわね。余裕を持たせて【12の弾<ユッド・ベート>】を撃ったとはいえ、いつまでもソチラにいられる訳ではありませんわ。行動を開始しましょう≫

 

狂三が気を取り直すように言い、士道は歯を噛み締め、首を縦に振った。

未だに分からない事は無数にあるが、折紙の反転を止め、煉獄と化した街を救う為には、これしか方法がない事だけは確かなようだった。

 

「ああ・・・・行こう、ドラゴン。狂三」

 

≪ふん≫

 

≪ええ≫

 

士道は顔を上げ、意を決するように拳を握り、目的の場所へと向かう。

折紙の狙いは両親を殺した精霊を倒す事。そしてその相手は恐らくーーーー〈精霊 ファントム〉。ならば、現れるのは大火災の現場である、天宮市南甲町へと。

 

 

 

 

どれくらい走っただろうか、士道は見覚えのある場所に辿り着いた。

 

「南甲、町・・・・」

 

徐々に速度を緩め、荒い呼吸の合間にその町の名を呟く。

そう。そこに広がっていたのは、大火災に見舞われる前の、天宮市南甲町の風景だった。

かつて住んでいた街の姿に、郷愁のような、懐古のような感情が微かに揺らめく不思議な感覚だ。

とーーーーその時。

 

「あ・・・・」

 

≪いかがされましたの、士道さん≫

 

とある一件の家を発見した士道は、思わず足を止め、狂三が怪訝そうに問うてくる。

 

≪ふむ。察するに5年前に貴様が住んでいた家か?≫

 

ドラゴンの言葉に、士道は小さく頷き、門を開けて裏手へと回った。

が、足を止めたのはそれだけではない。此処が5年前の過去の世界。折紙の両親が殺された時代であると同時に理解した。

ーーーー琴里が精霊となってしまった時代なのだ。

 

「(ここに琴里がいるなら、今日は公園に行くなって、〈ファントム〉と出会わず(バシィイイイインッ!!))ぐぉああああああああああっ!!!」

 

と、脳裏に過った思考を粉砕するかのように、ドラゴンが尻尾ド突き(激強)をおみまいした。

 

≪貴様の考えなど手に取るように分かるわ。目的を忘れて何をしようとしている!≫

 

≪士道さん。お気持ちは分かりますが、琴里さんの事は諦めてください≫

 

「で、でもーーーー」

 

≪少し考えろ。ここで“義妹が精霊にならなかった”ら、未来にどう影響するのか、そんな事も考えられんのか?≫

 

「・・・・!」

 

言われて、ハッと目を見開いた。

目先の事に目が眩んで、その考えが及んでいなかった。もし琴里が精霊にならなかったらーーーー〈ラタトスク〉に見出だされず、士道が持つ封印能力は知られる事もなく、十香や四糸乃、耶倶矢に夕弦、美九に七罪の力を封印した『事実』さえ、『無かった事』になってしまう可能性がある。それだけは、絶対に避けなければならない。

 

「・・・・すまん。のぼせてたみたいだ」

 

≪目先の事に捕らわれ、周りが見えなくなるその悪癖。少しは改善する努力をしろ≫

 

≪ドラゴンさんそう言わずに、過去をやり直す事のできる可能性と言うものは、人を狂わせる美酒にして毒杯。士道さんを責められませんわ≫

 

悟ったような狂三の口調に、士道とドラゴンは眉根を寄せた。その言葉に、何やら自戒めいた物が含まれている気がした。

しかし、考えてみればそれも当然だ。過去を変える可能性。それは人間なら誰もが望むものだろう。そんな権能を自らの手に握っている狂三に、今まで一体どんな思案が、懊脳があったのかは、士道には想像できなかった。

 

「なあ、狂三、お前はーーーー」

 

と、士道が狂三に話しかけようとしたら、門の法から、5年前に隣に住んでいた鈴木さんの声が聞こえてきた。よく田舎から送られてきた野菜等をお裾分けしてくれる人で、士道達が不在の時は、よく裏庭に面した軒下に、野菜が置かれていたのを思い出した。

それ自体はありがたいが、今の士道は高校生だ。この時代の小学生の士道ではない。見つかればややこしい事になる。

 

「ど、どうするドラゴン・・・・!?」

 

≪はぁ、仕方ない。・・・・・・・・ふん!≫

 

と、ドラゴンが力を放出した瞬間。

 

 

 

ー鈴木sideー

 

「ーーーーあら?」

 

隣に住む主婦、鈴木尚子が五河家の庭に踏み入れた所で、小学校高学年位の、中性的で可愛らしい1人の少年の姿を見た。

 

「“士道くん”、いたの。ゴメンね、チャイム鳴らしても誰も出なかったもんだから」

 

「・・・・い、いえ! こちらこそすみません、聞き逃してたみたいで・・・・」

 

「これ、田舎から送ってきたんだけど、良かったら皆で食べて」

 

「あ、ありがとうございます。助かります」

 

“士道くん”はビニール袋を受け取り、ペコリと頭を下げる。

 

「・・・・あら?」

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「いえね、何か“士道くん”、いつもと雰囲気違う?」

 

「え!? い、いや、別にそんな事は無いと思いますけど・・・・」

 

「そう? うーん・・・・気のせいかしら。・・・・まあ良いわ。お母さんにヨロシクね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

尚子は、“士道くん”の声を聞きながら、五河家の庭を出ていった。

 

 

 

ー士道sideー

 

「・・・・・・・・はぁっ、助かったよドラゴン」

 

≪ふん≫

 

≪うふふ、考えましたわね≫

 

鈴木さんが庭からいなくなるのを見届けて、“士道くん”は大きな息を吐いた。

今の“士道くん”は、未来の士道の姿をドラゴンが七罪の天使〈贋造魔女<ハニエル>〉の力でこの時代のーーーー“小学生の士道くん”に変身させたのだ。

この姿の士道ならば、この場所にいてもおかしくはない。

 

「すまん、時間を取った。行こう」

 

先ほど受け取ったビニール袋を軒下に置く。

 

「ドラゴン。元の姿に戻してくれよ」

 

≪うむ≫

 

≪あらあら、少し待ってくださいまし≫

 

元に戻ろうとする士道に、狂三がクスクスと笑いながら、待ったをかけた。

 

「ん? どうした?」

 

≪士道さん、元に戻られる前に、1度鏡の前に立って頂けませんこと?≫

 

「え? 何でだ?」

 

≪わたくしからは、折角可愛らしくなられている士道さんのお顔が見えないんですもの≫

 

「・・・・お前な」

 

≪くだらん≫

 

士道もドラゴンも半眼を作りながら呆れた。

がーーーーその瞬間。

 

≪「・・・・!?」≫

 

不意に空が赤く輝き、士道とドラゴンはそっちに目を向けた。

整然と並んだ家々の屋根の向こうに巨大な火柱が屹立したかと思った次の瞬間、それが空中で弾け、辺り一面を炎熱の波が襲ったのである。

広い街の全域が瞬く間に炎に包まれ、家や木々が燃えていく。辺りから幾つもの悲鳴や絶叫が上がり、街の住民達が一斉に避難を開始した。

 

「これは・・・・琴里の!?」

 

≪ちっ、始まったか≫

 

≪どうやら、そのようですわね≫

 

士道は忌々しげに歯噛みする。どうやら、琴里は既に例の公園に行ってしまっていたようだ。

そして、今。琴里は精霊〈ファントム〉の手によって、精霊〈イフリート〉にされたのだ。

 

「く・・・・!」

 

[ドライバーオン プリーズ]

 

身体は小さいままだが、士道は居ても立ってもいられず、ウィザードライバーを起動させ、

 

「変身!」

 

[ハリケーン プリーズ フー! フー! フーフー、フーフー!!]

 

〈仮面ライダーウィザード〉・ハリケーンスタイルに変身すると、炎の海となった住宅街の上を飛翔する。

琴里が精霊化したと言う事は、そこに精霊〈ファントム〉がいると言う事でありーーーー折紙が、時を越えてこの場所にやって来ると言う事なのだ。

 

「・・・・! あれはーーーー」

 

ウィザード<士道>が記憶を頼りに例の公園の近くに着地すると、ソコには“3人の先客”がいた。

1人は泣きじゃくる琴里。もう1人は、地面に倒れ伏した5年前の自分。そしてーーーーその2人を見下ろすように立った、ノイズのような『何か』だった。

 

「〈ファントム〉・・・・!」

 

≪あれが、精霊〈ファントム〉・・・・!≫

 

と、ウィザード<士道>とドラゴンがその名を呼んだ、その時。

天上から一条の光線が降り注いだかと思うと、〈ファントム〉の姿が掻き消えた。

 

「・・・・!」

 

≪来たかっ!≫

 

ウィザード<士道>はその光線を見てその先を探ろうと、バッと顔を上空にあげるとーーーーそこに、幻想的な純白のドレスの霊装を纏い、幾つもの『羽』のようなモノを従える、美しい少女が、その貌を憎悪と憤怒に染めきっていた。

 

「折紙・・・・!」

 

思わず叫びをあげる。そう。そこにいたのは、元の時代から時を越えてやってきた、精霊・鳶一折紙だった。

 

≪まだ反転体になっていないーーーーこれから、あの気丈な小娘が心の底から絶望する事がな≫

 

空には、先ほど姿を消した〈ファントム〉が現れた。折紙の攻撃を避け、空に逃げたのだろう。

折紙は〈絶滅天使<メタトロン>〉を使って、〈ファントム〉目掛けて光線を放つ。

それが合図となったように2人が空を駆け回る。

 

≪士道さん、追ってくださいまし。見失ってしまいますわ≫

 

「あ、ああ!」

 

ウィザード<士道>は狂三の言葉に弾かれるように、2人を追って燃え盛る街の上空を駆ける。

折紙は連続して光線を繰り出し、〈ファントム〉を攻撃するが、〈ファントム〉はそれを避けるだけで、反撃はしてこない。まるで追いかけっこでもしているかのように、空を縦横に飛び回る。

 

「折紙! 折紙! 俺だ! 聞いてくれ! 駄目なんだ、このままじゃ!」

 

最速のハリケーンスタイルでも追い付けず、せめて声を必死にあげて呼び掛けるが、距離が離れ、凄まじい光線の攻撃音だけでなく、5年間も怨みを募らせた仇敵を前に、如何に折紙でも、周りに注意を払えなくなっているのだろう。

だが、だからと言って諦める訳にはいかない。いっそ折紙に『キックストライク』で無理矢理でも止めるか、思考したその時。

 

≪避けろ!≫

 

「えっ?」

 

ドラゴンの叫びで現実に引き戻されると、〈ファントム〉に避けられた〈絶滅天使<メタトロン>〉の光線が自分の眼前に迫っていた。

 

「うわぁっ!?」

 

ウィザード<士道>はそれをギリギリ回避が間に合わず受けてしまい、燃える家々の道路に落下した。

 

「くっ、くそ・・・・!」

 

「折紙!」

 

と、不意に近くで聞こえた自分以外の呼び声に、ウィザード<士道>は固まり、視線を向けた。

 

「え・・・・?」

 

ソコには、恐らく燃え盛る家から逃げてきたのか、服が汚れ、身体にも細かい傷がある、夫婦と思しき男女の姿があった。

 

≪まさかーーーーあれがあの小娘の?≫

 

ドラゴンがそう言うのと同時に、夫婦の前方に、小学生くらいの、自分の知る少女の面影がある女の子が・・・・5年前の折紙の姿があった。

 

「お父さん、お母さん・・・・!」

 

5年前の折紙が両親の無事を喜ぶように目尻に涙を浮かべ、声をあげる。

が、次の瞬間。

 

「・・・・・・・・!?」

 

ウィザード<士道>の視界が一瞬、真っ白に染まった。




士道達は、折紙の『絶望』を見る。
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