デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「っ!?ーーーーぐあっ!」
ウィザード<士道>の視界が真っ白に染まり、それに次いで、辺りを凄まじい衝撃波が襲い、ウィザード<士道>の身体はブロック塀に打ち付けられ、苦悶の声をあげると、変身が強制解除され、幼い頃の姿に戻った。
≪士道さん、大丈夫でして?≫
「あ、ああ・・・・何とかな。ドラゴン、折紙はーーーー」
≪・・・・こういう、事だったのか≫
身を起こした士道が、静かに驚愕するドラゴンを怪訝そうに眉根を寄せ、5年前の折紙と、その両親がいた方向に目をやった。
ーーーーそして。
「なーーーー」
それを目撃して、士道は言葉を失った。
一瞬前まで夫婦がいた場所に巨大なクレーターができており、そこに、今の今まで、“人であったであろう幾つかの『部分』”が、無残に転がっていた。
常人であれば、思わず胃液が逆流する凄惨な光景。しかし、士道は目を見開いたまま動けずーーーー見てしまった。
その現実を、士道よりも近い位置で目にしている、5年前の折紙の姿を。
「あ、あ・・・・あ・・・・ああああああーーーー」
幼い折紙が掠れた声を響かせながら、“両親であったモノ”に縋り付くように地面を這い、そして、カタカタと歯の根を鳴らし、上空ーーーー降り注いだ光の根源を睨み付けるように顔をあげた。
そして、
「てんーーーーし・・・・」
空を見上げた折紙が小さく呟き、士道もその声に弾かれるように顔を上げーーーー士道も呟く。
「・・・・! ま、さかーーーー」
≪・・・・そう言う、事だ≫
士道は、体表を虫が這っていくかのような悪寒を感じながら、震える声を発し、ドラゴンは肯定の声を発した。
そう。そこには。
純白の霊装を纏った、天使のような姿の折紙がいた。
地上からでは、光を放つその顔は見取る事はできない。5年前の折紙には、辛うじて人型のシルエットが見えたのみだろう。精霊を知らない者がその影を、『天使』と表するのは、無理の無いことだ。
「お、まえ、が・・・・お父さんと、お母さんを」
地面にへたり込んでいた5年前の折紙は、その無垢な瞳に途方もない怨嗟を渦巻かせ、吼えるように声を響かせた。
「許、さない・・・・! 殺す・・・・殺してやる・・・・ッ! 私がーーーー必ず・・・・っ!」
その声は届いてはいないが、上空の折紙は、その言葉が吐かれると同時に、身体を捩るように震わせた。
何も知らない者がその様を見たならば、哄笑を上げているようにも見えるかも知れないが、その精霊が笑ってなどいる筈がない事はーーーー士道達には、はっきりと分かってしまった。
「何なんだよ・・・・! 何なんだよこれは・・・・!?」
≪僅か数秒、この数秒間に起こった出来事が、『真実』だと言う事だ。5年前、両親が殺された場所に舞い戻り、その事実を『無かった事』にしようとした『鳶一折紙』は、“知って”しまったのだ。ーーーー両親を殺した
真犯人の正体を、な≫
≪・・・・成る程。折紙さんほどのお方が“ああ”なってしまうだなんて、余程の事が合ったとは思っておりましたけれど・・・・≫
ドラゴンと狂三の言葉が頭に響いてくる。が、狂三の言葉の途中で、空に浮かんでいた折紙の身体から、純白のエネルギー、魔力が放出され折紙の背後に集まり、それが徐々に形を成していく。
「あれは、まさか・・・・!」
≪折紙さんのファントム、『エンジェル・ファントム』でしょうね≫
≪成る程。精霊から生まれるファントムは、霊力を取り込んで生まれようとするが、あのファントムは魔力だけ外に出て生まれたのだろう≫
が、折紙の姿もエンジェル・ファントムの姿も、空気に溶けるように消えていった。
「・・・・!? 消えた・・・・?」
「恐らく、【12の弾<ユッド・ベート>】の効果限界ですわ。元の時代に戻られたのでしょう」
「・・・・っ、そんな! それじゃあ・・・・!」
士道は思わず叫びをあげるが、仕方ない。士道とドラゴンがこの5年前の時代に送った狂三の目的は、同じく5年前に舞い戻った折紙が、如何にして反転するに至ったかを探り、その原因を解消する為であった。
確かに目的の半分は達成された。折紙が反転した理由は、この上ない形で3人の前で示された。だがそれは同時に、もう半分の目的を、歴史を変える事が出来なくなってしまった。
「い、一体どうした≪おい、5年前の小娘が危ないぞ≫っ!」
ドラゴンの言葉に、途方に暮れそうになった士道がハッと息を詰まらせる。地面にへたり込んでいる5年前の折紙に、焼け落ちた建物の一部が倒れ込んできたからだ。
「ーーーー折紙っ!」
士道は咄嗟に叫び、言うが早いが折紙に飛び付き、そのまま2人で地面を転がる。次の瞬間、折紙が先ほどまでにいた場所に燃えた建材が倒れてきて、土煙と火花を盛大に巻き上げる。
「ぐ・・・・!」
このままここに居続けては危険である。士道は軽く咳き込みながらも折紙の手を取り、赤く染まった道を駆けていった。
途中、燃え盛る家の前にへたり込んでいた“双子の女の子達”が立ち上がり、自分達と違う方向に逃げていく後ろ姿が見えたが、士道は折紙の手を引いて遮二無二に足を進めた。
そして、どうにか火の手が回っていない所まで逃げ延びてから、足を止める。それに合わせて、折紙がその場にガクンと膝をついた。
「はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ、だ、大丈夫か、折紙?」
言ってーーーー士道は自分の失策に気づいた。咄嗟の行動とは言え、5年前の、士道を知らない折紙の名前を呼んでしまった。
ドラゴンにシバかれる! と、懸念は杞憂に終わる。
折紙は、見知らぬ人間に名を呼ばれた事など全く気づいていない様子で、ただ身体を震わせ、虚ろな瞳で空を見上げていた。
否ーーーー虚ろ、ではなかった。
憤怒、怨嗟、喪失、悲哀ーーーー人間・・・・ありとあらゆる負の感情がない交ぜになり、その色を濁らせていたのだ。
「お父・・・・さん、お母、さん・・・・」
折紙が、乾いた唇を動かし、消え入るような声を発する。
≪おい不味いぞ。このままじゃ『皹』が入る≫
「なっ!?」
ドラゴンの言う『皹』。それは『ゲート』が心から絶望した時に『魔獣 ファントム』を生み出す『皹』の事である。士道は顔を歪める。
「わ、たし、はーーーー」
「・・・・・・・・折紙ッ!」
何をしたら良いのか分からない。何を言えば良いのか分からない。だが、彼女をこのままにしておく事だけはできなかった。半ば無意識の内に、士道は折紙を両手で抱き締めていた。荒れ狂う感情の波を抑え込むように、震える手で、強く、強く。
「・・・・、っ、あ、なた・・・・は・・・・」
ソコで初めて、折紙が士道の存在に気づいたようだ。
「大丈夫だ! 大丈夫、だから・・・・!」
士道は折紙を抱き締めたまま、嗚咽するように、呻くように言った。それが、ドラゴンにも言われてきた『無責任な言葉』である事は自覚している。だが、言わずにはいられなかった。
小さくなった士道の両手で抱き締められる位の小さな小さな女の子が立ち向かうには、この世界はあまりに酷薄で、無慈悲に過ぎると言う事を、士道は感じた。
この少女がこれから歩むであろう艱難辛苦の道と、その果てに辿り着くであろう『真実』。そのあまりにも残酷な結末に、士道は叫ばずにはいかなかった。
「折紙・・・・きっと・・・・お前はいつか気づく。全てに、『真実』に・・・・! でもーーーー忘れないでくれ! お前は、1人じゃない・・・・!」
「何を、言ってーーーー」
当然、困惑したように折紙が返してくる。が、士道は言葉を止める事ができなかった。
「お前の哀しみは、俺が引き受ける・・・・! お前の怒りは、俺が受け止める・・・・! 迷ったなら、俺を頼れ! どうしようもない事態に直面したら、俺を使え! 全部、全部俺にぶつけくれて構わない! 俺が、俺がお前の! 『最後の希望』になる!! だから、だからーーーー!」
折紙を抱いたまま、続ける。
「絶望だけはーーーーしないでくれ・・・・ッ!」
「・・・・・・・・っ」
折紙は呆然と士道の声を聞いていたがーーーーやがて、微かに身体を震わせ始めた。
「ーーーーぁ、ぅ、ぁ・・・・、うぅ、うぁぁぁ・・・・っ、あぁぁぁぁ・・・・っ」
折紙は士道の服を掴むと、その胸に顔を埋め、押し殺したような声で泣き始めた。
士道の登場によって緊張の糸が切れたのか、今になって両親を失った哀しみが押し寄せてきたのか。その判別はつかなかったがーーーー今この時、ようやく折紙は、年相応の女の子らしい感情を覗かせた。
「お父、さん・・・・、お母さん・・・・っーーーー」
「折紙・・・・」
士道は、泣きじゃくる折紙の背を撫でるように、震える手に力を込めた。
≪(・・・・・・・・まさか、あの娘の小僧への不審な行動は・・・・)≫
そしてドラゴンは、今までの折紙の士道への積極的過ぎる好意に、1つの仮説を立てていた。
◇
そしてーーーーどれくらいそうしていただろうか。
「・・・・・・・・、ありがとう、ございます・・・・」
ひとしきり泣き終えた折紙が、小さな声でそう言って、士道の服から手を離し、その場に立ち上がり、袖で涙を拭うようにしてから、真っ赤に充血した目を士道に向ける。
「あなたは・・・・一体、誰ですか?」
「っ、あ、え、ええとーーーー(ど、どうしようドラゴン?)」
急に問われるが、至極当然の質問に士道は当惑し、ドラゴンに頼った。
≪・・・・はぁ、変に誤魔化しても意味ないだろう。正直に言え。ただし、余計な事は口走るな≫
「(ああ・・・・)俺は、五河士道。近所に住んでいる者だ」
「五河・・・・士道」
折紙は、士道の名を反芻するように呟いてから、クルリと踵を返した。
まるでーーーー自分の表情を、士道から隠すかのように。
「・・・・、今、言った事は、本当ですか?」
「え・・・・?」
「全部、引き受けてくれるんですか?」
「あ、ああ・・・・!」
「本当に、私のーーーー『最後の希望』に、なってくれるんですか?」
「本当だとも」
折紙の言葉に、士道は大きく頷いた。半ば無意識の内だったが嘘偽りの無い。
「そうですか。ならーーーー」
すると、折紙は士道に顔を見せないまま、続ける。
「私の涙は、あなたに預けます。私の笑顔は、あなたにあげます。喜びも楽しい事も、希望も全部、あなたが持っていて下さい」
「えーーーー?」
予想外の言葉に、士道は目を見開いた。
「ーーーー私が泣くのは、今が最後です。私が笑うのも、これが最後です」
言って、折紙が一瞬、士道の方を振り向いてくる。
その涙に濡れた笑顔に、士道は何も言えなくなってしまった。折紙が、再び顔を背ける。
「でも、この怒りだけは、私のモノ。この醜い感情は、私だけのモノ。ーーーー私は、殺す。あのーーーー天使を。どんなに時間が掛かっても。どんな手段を使ってでも」
「ーーーーーーーー」
『天使』。その単語に、士道は小さく指先を震わせた。
だが、言えなかった。あの精霊が、未来の折紙であるなどとは。このあまりにも小さな少女には、告げる事ができなかった。
「だから、それまで、あなたが預かっていてください。私がーーーー天使を、殺すまで」
「折ーーーー紙・・・・」
呆然と呟く士道を1人残して、あまりに幼い復讐鬼は去っていった。
士道はその背中に向けて、虚しく手を伸ばす事しか、できなかった。
ー狂三sideー
「・・・・・・・・そう言う事、ですよ」
闇降る夜の中で。士道と感覚を共有している狂三は、物憂げに息を吐いた。
今狂三の瞳には、2つの光景が映る。
瞼を開けば、反転した折紙と、その折紙を守るエンジェル・ファントムが、空から漆黒と純白の光線を放ち、街並みが破壊され尽くされてそうになっている光景が。瞼を閉じれば、精霊に復讐を誓って去っていく、5年前の折紙の背中が、それぞれの視界に広がる。
ーーーー。狂三は士道達と共に全てを知ってしまった。5年前から戻ってきた折紙が反転体となっていた理由を。
「皮肉なモノですわね」
顔をあげ、漆黒の空に浮かんだ輝く、純白のエンジェル・ファントムが、まるで愚かな人類を断罪する神の如く、眼下の地上に、絶え間無く破壊の意思を伝えていた。
「これはーーーーどうしたモノですかしらねえ」
顎を撫でながら、狂三は呟いた。
士道とドラゴンを5年前に送ったは良いが、結局出来たのは折紙の反転の原因を突き止める事のみ。これではーーーー。
と。
「・・・・あら?」
狂三は不意に、背後から聞こえる小さな足音に、眉の端を揺らすと、後方に振り向いた。
「どちら様ですの? 何かわたくしにご用でして?」
こんな地獄絵図の世界で自分に近づくのは、〈ラタトスク〉か、DEMか、はたまた魔獣ファントムか、それを警戒して謎の来訪者を牽制するように言うと、一拍おいて、その声に応ずるように、何者かが足を踏み出した。
「・・・・! あなたはーーーー」
狂三は、予想外の人物の登場に、目を丸く見開いた。
ー士道sideー
「・・・・、俺、はーーーー」
ただ幼い折紙の背を見送る事しかできなかった士道は、地面に両膝を突く。
途方もない無力感が心を満たす、結局、士道は何をする事もできなかった。
≪・・・・・・・・身体を元に戻すぞ≫
ドラゴンがそう言うと、身体が本来の大きさに戻った。
と、ソコで、苛立たしげな狂三の声が響いた。
≪・・・・気に入りませんわね≫
「・・・・、すまない。折角お前が【12の弾<ユッド・ベート>】を使ってくれたって言うのに・・・・」
≪そう言う事ではありませんわ≫
だが、士道の謝罪に対して、狂三はため息交じりに言葉を続ける。
≪ーーーー折紙さんの両親の仇が、折紙さん自身・・・・? 成る程、確かにそれは彼女が絶望するに足る理由かも知れませんわ。ですけれどーーーーそれは、明らかにわたくしの〈刻々帝<ザフキエル>〉無しには起こり得ない事象・・・・≫
ギリッ、と奥歯を噛みしめるような音が聞こえる。いつも飄々とした様子の狂三が珍しい行動だ。
≪士道さん。お尋ねしますけれど、折紙さんと初めてお会いしたのはいつの事ですの?≫
「え・・・・? そう言えば・・・・高1の頃から、折紙が俺の事を影から監視していたな。それで高2の頭のクラス替えで対面したんだ」
≪もしや、その時の士道さんは知らなくても、折紙さんは士道さんの事を存じ上げていたのでは?≫
「あーーーー」
≪そう言う事だ≫
ソコで、士道は気づいた。
折紙が士道の事を知り、ずっと見ていたのはーーーー『5年前』の、まさに『この時』、折紙は士道に会っていたのだ。
士道の反応に、狂三がさらに不機嫌そうに喉を鳴らした。
≪面白くありませんわね。不快ですわ。とてもーーーー不愉快ですわ≫
「狂三・・・・?」
≪・・・・・・・・≫
≪『折紙さんが精霊を憎むに至った原因』。『士道さんと折紙さんの出会い』ーーーー元の世界を構築していた要因に、悉くわたくしの力が関わっている。もしわたくしが折紙さんを、そして士道さんを5年前に送らなければ、元の世界は作られなかった・・・・≫
独白する狂三の言葉に、士道は確かにと思った。狂三と言う精霊がいなかったのなら、〈刻々帝<ザフキエル>〉と言う天使がいなかったのなら、そもそも士道達が生きていた『世界』は、また違ったモノになっていたかも知れない。
「で、でも、狂三だって、こんな結末を作る為に〈刻々帝<ザフキエル>〉を使ったんじゃーーーー」
≪それでも、だ。『歴史を変えようとした行動』そのものが、これまでの無表情娘のーーーー鳶一折紙の5年間を作り上げた。必死にもがき、自分の意思で道を進んでいるようで、結局は今ある歴史を、世界を構築する為の要素であった。所詮我々は、『世界』と言う強大で絶対的な存在の手のひらで踊られされていただけ、と言う事だな?≫
≪ええ、そうですわ。結局わたくし達は、『世界』の手のひらの上で踊っているだけーーーーその事実が、どうしようもなく腹立たしいのですわ≫
「・・・・っ」
≪・・・・≫
吐き捨てるような狂三の調子に、士道は息を呑み、それと同時に、1つの考えが浮かび、口を開いた。
「狂三・・・・お前にも何か、“やり直したい事”があるのか?」
≪・・・・、あら、あら≫
士道が言うと、狂三は一瞬無言になってから、いつものおどけた調子に戻った。
≪そう言う事ならば、士道さんとの出会いからやり直して見るのは面白いかも知れませんわ。ーーーーうふふ、当時のドラゴンスタイルに到達していない士道さんであれば、確実に『頂く』事ができますわよ?≫
「・・・・・・・・」
あからさまに先ほどの士道の問いを煙に巻こうとしているようだ。言いたくないなら仕方ないし、今はそんな事よりも優先しなければならない事が溢れていた。
「・・・・でも、全部終わっちまった」
拳を固めながら言う。結局何もできなかった。いずれ元の世界に戻される。反転した折紙が大地を蹂躙する、あの悪夢のような世界に。
≪そう・・・・ですわねぇ。確かに、士道さんは、折紙さんを止める事ができなかった。世界を変える事ができなかった。ーーーーそれが、『この世界』において決定してしまった『未来』だそうですわ≫
「・・・・狂三?」
≪・・・・・・・・≫
士道にドラゴンは、狂三の言い回しを不審に感じ、それを察した狂三がクスクスと笑う。
≪どうやら、もうそれは決定してしまった事のようですわね。ーーーー今し方、そう聞きましたわ≫
「聞いた・・・・って、一体、誰に?」
≪ーーーー“今から数十分後の士道さん”に、ですわ≫
「は・・・・?」
≪・・・・・・・・まさか≫
意味が分からず、目を丸くする士道だが、ドラゴンは瞬時に理解したようで口を開く。
≪『現代』から数十分後の、『このまま何もできず現代に戻ってきた小僧』を、その世界の〈ナイトメア〉が【12の弾<ユッド・ベート>】を使って、貴様の元にやって来てのか?≫
≪流石ですわね。まあ、霊力を節約したのか、1分程度だ元の時代に戻ってしまった為、あまりお話できませんでしたけれど≫
「・・・・ッ!? そっちの世界の、さらに未来の狂三が・・・・!?」
驚愕したがーーーーよくよく考えれば不可能ではない。
現代の士道と折紙が過去に渡ったのだ。未来から送られてくるのも十分考えられる。が、1つの疑問が生じた。
奥の手である筈の【12の弾<ユッド・ベート>】を、ただ絶対的な未来を伝える為だけに使うとは思えない。
士道の思考を察しているのか、狂三が答える。
≪折紙さんを止める事に失敗した士道さんは、失意のままに元の世界に戻ってきたようですわ。ーーーーでも、その後、1つの考えに辿り着いたそうですの≫
「1つの・・・・考え?」
≪ええ。でも、元の時代に戻ってしまった士道さんには、もうそれを成す事はできなかったそうですわ≫
「・・・・! そう、かーーーー」
だから未来の士道は狂三に頼んで、数十分前の狂三にーーーー『まだ士道が5年前の世界にいる状態の狂三』に、その思いつきを伝えたのだ。
歴史を替える為。
決まってしまった未来を打破する為。
ーーーー過去の自分に、望みを託したのだ。
士道は、冷えきった身体に、再び火を灯るのを感じた。
「狂三・・・・!」
≪ええ、まだ終わってはいないようですわね。ーーーーやりますわよ、士道さん。この“くそったれな世界”を、ぶち壊して差し上げましょう≫
狂三らしからぬ物騒な表現に、士道は思わず吐息を漏らし、唇の端をあげる。
がーーーー。
≪本当に、それが最良なのか?≫
と、ここでそれまで黙っていたドラゴンが口を開いた。
≪おい〈ナイトメア〉。その『数十分後の未来の我』は、小僧の考えをどう思っていたのだ?≫
≪・・・・・・・・相当揉めていたようですわ。いえ、寧ろ、止めるドラゴンさんを無視して、士道さんが限られた時間で伝えた、と言った風でしたわ≫
ため息交じりに狂三がそう言うと、ドラゴンは難しい声をあげる。
≪既に起こった事象を覆せば、現代で何が変化するか分からんぞ?ーーーーと言う訳だな。我ならそう言う≫
≪あら、ドラゴンさんらしくない弱気な事を言いますわね。折紙さんの霊力が手に入るかも知れませんのに≫
≪我が危惧しているのは、元の世界にどんな悪影響があるのか分からんと言う事だ。下手な事をすれば、〈プリンセス〉達にも、良くない事が起こるかも知れんからな≫
「それでも! 折紙を救う為なら、”何だってやってやるっ!!“」
懐疑的なドラゴンだが、折紙を救える事に頭がいっぱいの士道は耳を貸さなかった。
こうなると、もう言葉で止まる士道ではないと知っているドラゴンは、ため息を吐き、
≪”何だってやってやるっ!!“・・・・か、ならば、これから過去を替える事で、“何が起こっても”、『覚悟』し、『受け入れ』、『責任』を背負うのだな≫
「ああ・・・・何だってなってやるさ。皆をーーーー折紙を救えるなら!」
ドラゴンの言葉をまるで理解していない、いや、理解しようとしない士道は、後に知る。
ドラゴンが言った『覚悟』と『受け入れる』。そしてーーーー『責任』。
そのどれもが、自分は持っていなかった事を・・・・。