デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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遂に精霊〈ファントム〉と対話がはじまる。


対話・精霊〈ファントム〉

ー士道sideー

 

それから5分後。地上に降りて変身を解除した士道は、ある公園の植え込みに身を隠しながら、ブランコに座る少女を見ていて。

年の頃は7、8歳、赤い髪をツインテールにし、愛くるしい顔を憂鬱そうに歪め、つまらなそうにキィキィとブランコを鳴らす少女。

見間違える筈がない。ーーーー5年前の琴里だ。

 

「琴里・・・・」

 

その物憂げな表情を見て、士道は胸が締め付けられるような感覚を覚える。この日は琴里の誕生日で、士道は琴里を驚かせようと、プレゼントを買いに隣町まで出かけていたのだが・・・・まさか、琴里がこんなにも寂しそうにしていたとは。

と、士道が哀しげな琴里の姿に胸を痛めていると、呆れた声と、クスクスと言う笑い声が響いてきた。

 

≪あのな。しんみりとした雰囲気をしているが、端から見ると今の貴様の姿なーーーー≫

 

≪変質者にしか見えませんわよ、士道さん≫

 

「・・・・うるせえ」

 

気にしている事をダブルで言われ、唸るように返す士道。

まあ確かに、こんな姿を他の人に見られたら事案発生であるが、別に士道は、もう戻ってこない純粋無垢な頃の幼い義妹を凝視している訳ではない。

ーーーー待っているのだ。

琴里の元に、精霊〈ファントム〉が現れるのを。

 

《それにしてもーーーー随分と思い切りましたわね、士道さん》

 

《容量不足の頭でも、少しは知恵を回らしたな》

 

狂三が面白がるように、ドラゴンが珍しく感心した口調で言い、士道は一瞬口ごもってから返す。

 

「・・・・仕方ねえだろ。それに、2人だって賛成したじゃねえかよ」

 

≪・・・・・・・・ま、我も精霊〈ファントム〉に興味があったのでな。奴が何者なのか確かめたいと思っていた≫

 

≪確かに、折紙さんが現れる前に〈ファントム〉を追い払う事が出来たのなら、折紙さんはそもそも攻撃する目標を失う訳ですし≫

 

「ーーーーできる事なら・・・・話をしてみたいんだがな」

 

≪話? 〈ファントム〉と、ですの?≫

 

狂三が、少し驚いた様子で問うてくる。

 

≪意外ですわね。士道さんは琴里さんを精霊にした〈ファントム〉に、敵意を持っていると思っておりましたわ≫

 

≪・・・・コイツの砂糖と蜂蜜を混ぜ合わせ、ガムシロップまで加えた甘ちゃんっぷりを〈ナイトメア〉は理解しておらんなぁ≫

 

「・・・・うるせえよドラゴン。そりゃあ、琴里達を精霊にした奴だ。思う処がある事は否定しねえよ。・・・・でも、それ以前に俺は、〈ファントム〉について何も知らない。そんな段階で決めつけてたら、十香や四糸乃達をただの災害としか見ない奴と同じじゃねえか」

 

士道が言うと、狂三は暫しの間呆けたように無言になり、

 

≪ふーーーーふふっ、あはははははっ≫

 

と、堪えきれないといった様子で笑い出した。

 

「な、なんだよ」

 

≪いえ・・・・流石士道さんだと思いましてーーーーあははははは≫

 

もう1度笑い、狂三が続けてくる。

 

≪でも、あまりお勧めはしませんわね。あの方はどうも掴み所がありませんわ。お人好しの士道さんでは、煙に巻かれておしまいですわよ≫

 

「え・・・・? 狂三、お前〈ファントム〉の事・・・・」

 

≪っっっ!!≫

 

と。士道が言いかけた所で、言葉を切り、ドラゴンが身構えた。

現れたのだ。ーーーー公園で1人遊ぶ琴里の元に、奇妙な来訪者が。年齢も、性別も、背格好も分からない、外見的情報をノイズのような物に覆い隠されている『何か』。

 

ーーーー精霊〈ファントム〉。琴里を、美九を、そして折紙を精霊にした存在。

 

それが今、琴里の前に現れた。

 

「・・・・っ」

 

その姿を目にして。士道は肌がチリつくのを感じる。精霊〈イフリート〉ととなった琴里。その苦しげな表情が、脳裏に思い起こされた。

 

≪目的を忘れるな≫

 

≪早まってはいけませんわよ、士道さん≫

 

「・・・・、ああ、分かってる」

 

動き出しそうになった身体をドラゴンの尻尾を頭に乗せられたような感覚で抑えられ、狂三の言葉に制止され、士道は冷静さを保とうと細く息を吐き、身体の震えを抑えるように両腕を抱く。二の腕に爪が食い込み、うっすらと血が滲んだ。

琴里の精霊化を止めてはならない。それは、元の時代にいる十香達の笑顔を消してしまう事であるからだ。

そしてーーーー琴里と〈ファントム〉か幾つかの言葉を交わした後、〈ファントム〉が琴里に向かって、赤い宝石、霊力結晶<セフィラ>を差し出す。

琴里がそれに触れた瞬間、琴里の身体が淡く発光した。

 

「あ、あ、あああああああああああ・・・・っ!」

 

苦悶の声を上げる琴里。

それと同時に、琴里を中心として凄まじい熱波が巻き起こり、渦を巻くように炎が屹立した。

 

≪(これが、人間が精霊となる瞬間か・・・・)≫

 

「ぐ・・・・!」

 

士道は姿勢を低くし、息を止め、襲い来る熱波をどうにか凌いだ。

数秒後、恐る恐る目を開けると、そこには和装のような霊装を身に纏った琴里の姿があった。

そうーーーー琴里が、炎の精霊〈イフリート〉になったのだ。

 

「琴里・・・・すまん」

 

士道は苦々しげに呟くと、キッと視線を鋭くした。

 

「・・・・・・・・ッ!」

 

そして意を決して、琴里の目前に立ったノイズの塊ーーーー精霊〈ファントム〉の後ろに飛び出す。

 

「ーーーーおい!」

 

士道は喉を震わせ、声を張り上げた。

 

【・・・・んーーーー?】

 

すると〈ファントム〉が、男とも女とも取れない声を響かせてくる。その際、視界にボンヤリと立ったモザイク状のシルエットが、微かに動いたように見えた。どうやら、〈ファントム〉が首を回して士道に視線を寄越したようだ。

それに合わせて士道は細く息を吐くと、〈ファントム〉の顔に当たるであろう部分をキッと睨み付ける。

 

「よう、会いたかったぜ。ーーーー精霊〈ファントム〉」

 

そして、静かな声で、目の前のノイズの名を呼ぶ。

琴里を再封印した際、過去の記憶を思い出してから、士道はずっと頭の何処かで、この正体不明の存在との再会を望んでいた。

『人間を精霊にする』。そんな超常的かつ理不尽極まる権能を傍若無人に振るう怪物。

琴里を、美九を、そして折紙を精霊と化し、世界に混乱と破壊を撒いた元凶。

士道の人生を変えたこの『何か』に、士道は浅からぬ因縁と、宿命めいたものさえ感じていた。

だが、そんな士道に対して〈ファントム〉が発した言葉は、予想外のものだった。

 

【ーーーーーーーーえ?】

 

〈ファントム〉が小さな声を発し、微かに身体を揺らす。

無論、〈ファントム〉の身体はノイズに覆われたまま。モザイク状の空間の歪みが動いたように見える。

だがーーーー何故だろうか、士道には、そして恐らくドラゴンと狂三も、その動作が、動揺や狼狽に属するものに思えて仕方なかったのだ。ただ突如背後から呼びつけられたのだから、その反応は決しておかしな事ではない。

しかし・・・・違う。〈ファントム〉の反応は、明らかにそう言った物とは別種の驚きに満ちていた。

 

【・・・・うそーーーー、君は・・・・どうして、君が・・・・】

 

「・・・・は?」

 

≪(・・・・ぐぅ、な、何だ?)≫

 

〈ファントム〉の意外な反応に、士道は訝しげな顔を作り、ドラゴンは何故か、身体の中で『何か』が跳ねたような感覚を覚えたが、すぐに治まった。

 

「お前・・・・俺を、知ってるのか・・・・?」

 

【ーーーーーーーー】

 

士道の問いに、〈ファントム〉は沈黙を作った。しかしそれは、こちらの質問を無視している訳でも、余計な情報を与えないようにしている訳でもなくーーーーただ、呆然と言葉を発する事ができないように思えた。

余計に意味が分からなくなり、眉根を寄せる。

記憶の中にある超然とした〈ファントム〉と、今目の前にいる『何か』の言動に、ギャップがありすぎた。それこそ、このノイズの向こうに、全くの別の存在が立っているかとさえ思えるほどに。

 

【・・・・、・・・・】

 

〈ファントム〉は、ノイズに覆われた身体を微かに動かすと、そのまま地面を滑るように逃げていった。

 

≪逃がすな≫

 

≪士道さん≫

 

「分かってる!」

 

2人の声に弾かれるように、士道は〈ファントム〉を追って駆け出した。

その際一瞬、公園にへたり込んだ琴里の姿に視線を溢す。

 

「おにーちゃん、おにーちゃん」

 

得体の知れない力を手にしてしまった小さな少女は、兄をすがるような声で繰り返し発していた。

 

≪この場で〈イフリート〉を助けるのは貴様ではない。この時代の貴様に任せろ≫

 

「・・・・ッ、くーーーー」

 

今〈ファントム〉を逃がしてしまう訳にはいかない。士道は琴里の姿に心臓を引き絞られそうになりながらも、意を決して前を向いて走る。油断すると見失ってしまいそうになるノイズの塊を目で追いながら、さらに足に力を入れる。

一瞬魔法を使おうかと思ったが、〈ファントム〉に未来の情報を与えるのは、危険だとドラゴンと狂三に言われ、使わないようにしている。

〈ファントム〉を公園から遠ざける事には成功したが、これだけでは駄目だ。目的は、この時代にやって来る折紙に〈ファントム〉を発見させない事なのだ。それを確実にする為には、〈ファントム〉を絶対折紙に見つからない場所ーーーー隣界に消失させねばならない。

〈ファントム〉を追う最中、狂三の声が響く。

 

≪ーーーーでも、予想外の反応でしたわね。士道さん、あの方とお知り合いですの?≫

 

「・・・・ッ、少なくとも、全身モザイクの、知り合いは、いねえ・・・・!」

 

≪ふうん・・・・そうですの≫

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

燃え盛る街を走りながら、〈ファントム〉と遭遇したのは今正に、この5年前の時代だけの士道が叫び、狂三は何処か気のない返事を返す。ただ1人、ドラゴンだけは“心当たり”があったが、この場では口を出さなかった。

しかし、明らかに〈ファントム〉は、士道の事を知っている様子だった。そして、以前士道の顔を見て、似たような反応を示した人間に出会った事がある。

そう。DEMインダストリーのアイザック・ウェスコットだ。

十香を救出に行った士道と、初めて顔を合わせた筈のあの男は、士道を見るなり、大層可笑しそうに笑いだした。

そして奴は去り際に、士道の事をこう呼んだ。

 

【ーーーー名残惜しいが、我々はここで失礼させて貰うとするよ。生き延びたならばまた会おう。『古の魔法使い』、タカミヤーーーーいや、イツカシドウ】

 

と。

 

「・・・・っ」

 

激しい運動によるものではない収縮が、士道の心臓をドクンと鳴らす。

タカミヤ。それは、士道の実妹を自称する崇宮真那と同じ名前だった。

そしてーーーー五河家の養子である士道は、それ以前の記憶を持っていなかったのである。

 

「俺の・・・・何を知ってるって言うんだよ、〈ファントム〉・・・・ッ!」

 

≪・・・・・・・・≫

 

士道は、炎に沈む街を逃げ続ける〈ファントム〉を追いながら、叫びを上げた。

思えば、士道は自分自身の事を良く理解していなかった。

五河家に引き取られる前は、何をしていたのか。

何故ウェスコットが、士道の事を知っていたのか。

そもそも、士道に備わった力ーーーー精霊の霊力を封印する力とは一体何なのか。

7人もの精霊達の力を封印し、共に生活を送っている今となっても、士道は自分自身のルーツを、何一つ分かっていなかったのだ。

 

「く・・・・」

 

悔しげに歯噛みすると、地面を強く踏みしめた。

とーーーーその瞬間、前方を移動していた〈ファントム〉が、不意にその動きを止め、士道もそれに合わせて、身体を急停止させた。

 

「・・・・っ、〈ファントム〉!」

 

【・・・・・・・・】

 

名を呼ぶと、〈ファントム〉はユラリ、とノイズに覆われた身体を、恐らくだが、こちらに振り返る。

 

【・・・・〈ファントム〉・・・・か。私には、そういう名前が付いたんだね】

 

そして、その名を反芻するように呟いてから、小さな息を吐く。

 

【・・・・ごめんね。突然逃げたりして。ーーーー『彼女』の前ではない方が良いと思って】

 

『彼女』、琴里の事だろう。〈ファントム〉の意図は分からないが、確かにその方が都合が良い。あの場に留まっても5年前の士道とーーーー精霊化した折紙がやって来るからだ。

 

【・・・・・・・・】

 

〈ファントム〉が無言のまま、その場に立ち尽くす。どうやら、士道の姿を矯めつ眇めつしているようだ。

 

【・・・・ああ、そうか、やっぱり、君は】

 

そして、得心が言ったように小さく頷いたような仕草を見せた。

すると、それに合わせるように、〈ファントム〉を覆っていたノイズの膜が、霧のようにサァっと消えていく。

 

[な・・・・]

 

士道は目を見開いた。

そのノイズの中から現れたのは、1人の少女だった。

編み込まれた桃色の髪に桜色の唇、まるで慈母のように優しげな表情。

士道は、頭の中がグルグルと回るのを感じた。その顔は、何処かで見た事があるような、見た事ないようなーーーー不思議な感覚。

 

「その姿は・・・・」

 

「・・・・まだ君に『私』を見せる訳にはいかないから、仮の姿で失礼するけどーーーー折角君と話ができたのに、障壁越しと言うのも味気ないからね」

 

≪(・・・・・・・・『園神凜祢』、か)≫

 

透き通る少女の声で〈ファントム〉が答えるが、ドラゴンだけは、その少女の姿に心当たりがあった。

が、今はそれよりも、『仮の姿』と言った。どうやら、この少女が〈ファントム〉と言う訳ではないようだが、何故こんな回りくどい事を。

と、士道が思考を巡らそうとするが、そんな考えは見透かしているように優しく微笑み、唇を動かす。

 

「・・・・君は一体、『いつ』から来たの? その姿を見るに、5、6年後って言う処かな?」

 

「っ! な・・・・」

 

驚愕するかしょうがない。まさか〈ファントム〉が士道の事のみならず、時間遡行の事までも知っていたからだ。

 

≪≪・・・・・・・・≫≫

 

驚く士道に反して、ドラゴンと狂三は平静だった。まるで、言い当てられるのは予想通りと言わんばかりに。

〈ファントム〉が続ける。

 

「・・・・それで・・・・私に何か用かな? 時間遡行の弾を使ってまでこの時代にやって来たんだ。ただの観光って言う事はないよね?」

 

「(ドラゴン、折紙は?)」

 

≪まだ来てはいない。さっさとすませろ≫

 

ドラゴンが公園を警戒させて、士道は小さく口を開いた。

 

「お前は・・・・俺の事を、知ってるのか?」

 

「・・・・うん、知っているよ。良く、ね」

 

「教えてくれ。俺は一体・・・・何者何だ? この力は、一体何なんだ?」

 

「・・・・・・・・」

 

その問いに、数秒程沈黙する〈ファントム〉。そして、首を振るような仕草をしてから返してくる。

 

「・・・・答えてあげたい所だけれど、未来の君がどんな状態にあるのか分からない以上、教える事はできないな。ーーーーそれに、今は私達の会話を“盗み聞きしている子”もいるみたいだしね」

 

「え・・・・?」

 

士道は目を丸くすると、〈ファントム〉は全てを見透かしているように続ける。

 

「ねえ・・・・時崎狂三。聞こえているんだろう?」

 

≪・・・・あら、あら≫

 

〈ファントム〉に応ずるように、狂三が静かな声を士道の頭の中で発した。

が、どうやらドラゴンの存在は見透かしていないようだ。ここで〈仮面ライダー〉の力を使わない選択肢は間違っていないようだ。

 

「・・・・用と言うのはそれだけ? だとしたら、随分と贅沢な『時間』の使い方をしたね」

 

「・・・・・・・・、いや。今のは、ただの俺の質問だ。お前への用は別にある」

 

「・・・・何かな?」

 

「今すぐここから、隣界に身を隠して欲しいんだ」

 

「・・・・ふうん。時を越えて私を殺しに来た訳ではないようだね?」

 

興味深そうに言葉を続ける〈ファントム〉に、士道は無言で拳を握る。幼い琴里に苦痛を与えた〈ファントム〉に、全く敵意が無いと言えば嘘になるが、どうこうしようとする意思はない。

 

「聞いて良いかな? その理由」

 

「それは・・・・」

 

士道が口ごもる。

理由は単純。〈ファントム〉の思惑と目的を、自分達は知らなさすぎるからだ。

折紙がーーーー5年後の未来で〈ファントム〉が精霊化させた少女がここにやって来て、〈ファントム〉を討とうとし、そしてその結果、折紙が反転してしまうのを防ぎたい、と伝えるのは容易い。

が、この〈ファントム〉の目的が、『魔獣ファントム』やDEMのウェスコットと同じく、精霊を絶望させ、反転させる事であるなら、その情報を渡すのは逆効果になってしまう。

 

「・・・・・・・・」

 

どう答えるか決めかねていると、〈ファントム〉が焦れたように息を吐いた。

 

「・・・・まあ、答えられないなら別に構わないけれどね。ーーーー悪いけれど、答えはノーだよ。まだ少し、やる事が残っているんだ」

 

≪(“やる事”?)≫

 

ファントムの返答に、ドラゴンが訝しげな目になり、士道は泡を食った。

 

「な・・・・! 待ってくれ! これからこの時代にーーーー」

 

士道が折紙の事を伝えようと口を開く。がーーーーその瞬間、士道の身体はまるで見えない手で押さえつけられたかのようにピクリとも動かなかった。

 

≪士道さん、ドラゴンさん、どうしましたの?≫

 

「(こ、これは・・・・!)」

 

≪随意領域<テリトリー>のようなモノに押さえつけられている≫

 

≪っ≫

 

指先をも動かせず、声も発せない士道に、〈ファントム〉がゆっくりと近づいてきた。

そして片手を持ち上げ、士道の頬に触れた。

ーーーーその瞬間。

 

「≪・・・・・・・・ッ!?≫」

 

士道とドラゴンの全身を、名状しがたい感覚が通り抜けた。

 

「あーーーー」

 

何故かは分からない。しかし、一瞬で確信した。

 

「(俺は、この感覚を知っている・・・・?ーーーー俺は、この少女の姿をした『何か』の事を、知っている・・・・?)」

 

「・・・・今日の処は、時の精霊の行動に感謝をしておかないといけないかな」

 

〈ファントム〉が、士道の頬に手を触れたまま、ちいさな声を発してきた。

 

「時が来たなら、また会おうね。その時はーーーー」

 

士道の耳に向かって、言葉を続ける。

 

 

 

「ーーーー“もう、絶対離さないから。もう、絶対間違わないから”」

 

 

 

その、言葉を。

 

「ーーーーーーーー!?」

 

士道は思わず息を詰まらせた。

何処かは分からない。いつかは分からない。だが、士道は確かにその言葉を耳にした事があった。

 

「・・・・、・・・・(お前は、一体)」

 

問いたいが、声が出ない。

〈ファントム〉はそんな士道から手を離すと、そのまま再びノイズを纏い、トンと地面を蹴って上空に飛んでいった。

それから数秒後、〈ファントム〉の姿が、見えなくなると、士道は漸く縛めていた不可視の力が緩んだ。

 

「く、は・・・・っ、けほっ、けほっ・・・・」

 

前方に倒れ込むように膝を突き、数度咳き込むが、そんな事をしている場合ではない。士道は直ぐ様上空に顔を向ける。

 

「アイツ・・・・一、体・・・・」

 

≪・・・・気になるが、そんな暇もない。来たぞ!≫

 

「っ!」

 

ドラゴンの言葉と共に、〈ファントム〉目掛けて、東の空から一条の光線が放たれた。

 

「・・・・! あれはーーーー!」

 

光線が放たれた方向を見ると、身体が凍り付いた。

ソコにいたのは言うまでもない。ーーーー鳶一折紙だ。

 

「折紙・・・・ッ!」

 

士道は悲鳴じみた声で名を呼ぶが、そんな声が届くはずもなく、先ほど士道が見た、最初に見た5年前と同じ展開が繰り広げられた。

 

「くそ・・・・っ!」

 

士道は頭を切り替えようと首を振ると、士道は『ドライバーオンリング』を構え、バックルに読み込ませた。

 

[ドライバーオン プリーズ]

 

「繰り返させてーーーー堪るかよ・・・・ッ!」

 

最初の5年前の光景が脳裏を過る。

降り注ぐ破壊の光。

バラバラになった人の残骸。

そして、怨念と復讐に彩られた、小さな少女の瞳が。

折紙は、両親を守ろうとしただけだった。決まってしまった運命を覆そうとしていただけだった。

それが、そんな純粋な感情が、こんな悲劇を生んで良い筈がない。

こんな結末はーーーー。

 

「俺が・・・・変えてやるッ!」

 

そして士道は、『フレイムドラゴンリング』を指に嵌めて、バックルに翳した。

 

[フレイム! ドラゴン! ボゥー!ボゥー!ボゥーボゥーボォー!!]

 

[コネクト プリーズ]

 

フレイムドラゴンへとチェンジし、すぐに『コネクト』で『ドラゴタイマー』を装備したウィザード<士道>。

 

「ドラゴン! 『プランB』だっ!」

 

≪・・・・好きにしろ≫

 

[ドラゴタイム セットアップ! スタート!]

 

未だに過去の改変に不服なのか、〈ファントム〉の事が気になるのか、ドラゴンは気の無い返事をするが、士道は構わず、ドラゴタイマーを起動させた。

チッチッチッ・・・・と、秒針が青に緑に黄に到達すると、ウィザード<士道>はレバーを押した。

 

[ウォータードラゴン! ハリケーンドラゴン! ランドドラゴン!]

 

ウォータードラゴンスタイルとハリケーンドラゴンスタイルとランドドラゴンスタイルが、フレイムドラゴンスタイルと並ぶと、すかさずドラゴタイマーを読み込ませた。

 

[ドラゴタイム! セットアップ! ファイルタイム! オールドラゴン! プリーズ!]

 

3人のドラゴンスタイルがドラゴンへと変化し、次々とウィザード<士道>の身体に入っていき、フレイムドラゴンに尻尾と翼と爪が召喚され、さらにドラゴンヘッドを召喚される。

 

『グォワァァァァァァァァ!!』

 

『オールドラゴンスタイル』へと変身したウィザード<士道>は、低空飛行で目的の場所に向かう。

『前の世界』で、折紙の両親が死んでしまった場所へ。

 

『プランB』。ドラゴンを提案したそれはーーーー『オールドラゴンスタイル』になったウィザード<士道>が、折紙が両親を殺してしまった攻撃を防ぐ事だった。

 

 

 

ードラゴンsideー

 

『・・・・・・・・』

 

折紙の両親の元へ向かう中、ドラゴンは〈ファントム〉の事を考えていた。

 

【ーーーー“もう、絶対離さないから。もう、絶対間違わないから”】

 

『(あの言葉・・・・。そして、『園神凜祢』の姿からノイズの姿に代わる一瞬に垣間見えた、あれはまさか・・・・っ!?)』

 

ドラゴンは、1人の人物が思い浮かんでいた。

 

「・・・・! 見つけた・・・・!」

 

『・・・・!』

 

赤く燃える道を飛翔するウィザード<士道>が、5年前の折紙とーーーーソコから少し離れた位置にいる、折紙の両親の姿を見つけ、声を発すると、ドラゴンも思考を切り替えた。

その時ーーーー。

 

『っ!?』

 

ドラゴンは視界の端に横切った2人の少女、顔立ちが似ていたので、恐らく双子であろう少女達を見て、目を見開いた。

その少女達の顔立ちが、自分の知っている、“ある少女”と似ていたからだ。

 

 

 

ー士道sideー

 

「・・・・・・・・ッ! 来た!」

 

ウィザード<士道>は仮面越しに目を見開き、身体を強ばらせた。

5年前の折紙と折紙の両親の後ろ姿を見つけるのとほぼ同時にーーーー折紙の両親の真上に、精霊・折紙と精霊・〈ファントム〉の姿があった。

どうやら、乱戦を続けている内、もうこんな処まで移動してきたようだ。

 

「行くぞドラゴン!」

 

『・・・・あ、ああ』

 

歯切れ悪いドラゴンの返答を意に返す余裕もなく、ウィザード<士道>は、何発もの光線を放って〈ファントム〉の逃げ道を塞いだ折紙を見据える。

そしてそれと同時に、〈絶滅天使<メタトロン>〉を1つに結集させ、砲門を下方ーーーー地上に向けた。

『先ほど』と、全く同じ光景。だが今はーーーー。

 

「絶対に、変えるんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ドラゴンウイングを羽ばたかせ、折紙の両親と絶滅の光の間に入った。

如何に現在の最強形態である『オールドラゴンスタイル』でも、あの破滅の一撃を浴びて、無事でいられるとは思えない。

だが・・・・。

 

「(やるっきゃないっ!!)」

 

『ふん!』

 

≪士道さん。ドラゴンさん。ご無事で・・・・!≫

 

狂三の声が響くのと同時に、折紙の両親の真上に迫った極大の光がーーーー自分に到達すると、全魔力を放出し全身に魔力が『オールドラゴンスタイル』と同じ形となり構え、ドラゴンクローで〈絶滅天使<メタトロン>〉の光線を防ぐ。

 

『「ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」』

 

視界が真っ白に照らされる。両腕処か身体がバラバラになりそうな激しい衝撃、恐らくナイアガラの滝の大瀑布を受けたらこんな威力だろうと思えるような、何万トンとも言えるエネルギーの奔流。

だが、ウィザード<士道>もドラゴンも、持てる全魔力を注いで、この一撃を防ぐ。

 

「ーーーーーーーー!!」

 

と、そんな中、誰かの声が鼓膜を揺らした。

狂三の声ではない。これは明らかに外界からの声である。

視界が光で満たされつつも、ウィザード<士道>は下方に顔を向け、気づいた。それは、目前にいた5年前の折紙の声だった。

一瞬、5年前の折紙と目が合う。

その双貌にはまだ、復讐の炎は燃えていない。怨嗟の澱は溜まっていない。

 

「ああーーーー良かった」

 

ウィザード<士道>は小さく呟く。

自分はやったんだ。

折紙の両親を助けられた。

折紙を救えたんだ。

折紙の願いを叶えられたんだ。

これで、戻ってくる。

壊れつつあった自分の『大切な日常』が、戻ってくるんだ。

〈絶滅天使<メタトロン>〉の極大の光線が終わると同時に、ドラゴンが声を発する。

 

『どんな結果になっていてもーーーー覚悟し、受け入れ、背負え・・・・!』

 

ドラゴンがまた訳の分からない事を言うが、真っ白い光に包まれるようにして、ウィザード<士道>はーーーー意識を失った。




次回、改変された世界に待つものとは?
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