デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第二章スタートです。オリジナルウィザードリングも出します。


四糸乃パペット
雨の中の出逢い


十香が普通の生活を送るようになって一週間が経ったある日。

五河士道は、妹であり〈ラタトスク機関〉所属の空中戦艦〈フラクシナス〉の司令官である五河琴理に呼び出される。

 

十香の保護の事後処理に追われ家に帰ってきていない妹に(学校には行っている)、お兄ちゃんとして一言言ってやろうと思ったが、有無を言わせない迫力で連れてこられると、〈フラクシナス〉の解析室につき入ると、解析官の村雨令音が“ある物”を分析していた。

 

「令音さん、これって・・・・」

 

「ああ、君が十香から生まれそうになった魔獣ファントムを倒す為に、十香に嵌めた『エンゲージリング』だ」

 

「でも、このリングは・・・・」

 

≪・・・・・・・・・・・・・・・・≫

 

士道と士道の内部から状況を見ていたウィザードラゴン(通称ドラゴン)も『エンゲージリング』を見る。

そのリングは士道がドラゴンの力を使って変身する。その、『魔法使い<ウィザード>』の魔法陣の中心である、『ウィザードの顔が掘られたオレンジ色のリング』ではなく、『剣と玉座の装飾が施された夜色のアメジストのリング』へと変化していた。

 

「琴理、『エンゲージリング』はいつからこうなった?」

 

士道は戸惑いながら、隣にいる琴理に聞くが、琴理も肩を竦める。

 

「士道と十香を回収して直ぐよ。士道が戦いの疲労で気を失い、十香がアワアワと慌てている間に、突然十香の指に嵌めていたリングが光り出してね、今の形に変化したのよ」

 

「俺が気絶している間にそんな事が・・・・」

 

「士道、今までこんな事はあったの?」

 

「いや、今まで『エンゲージ』を使った人達にはこんな事無かった筈だけど・・・・」

 

「フム。これを嵌めたのが人間ではなく、精霊である十香だからね。精霊の霊力が何かしらの影響を与えたのかものかも知れないね」

 

「・・・・一度、試して見るか」

 

士道は『エンゲージだったリング』を持って、右中指に嵌めようとするが、琴理がその手を掴んだ。

 

「待ちなさい士道。元々は貴方のリングでも、精霊の力の影響を受けたリングなら、何が起こるか分からないわ」

 

「同感だね。このリングについてはもうしばらく調査してから使うべきだ」

 

「・・・・分かりました」

 

士道は『リング』を令音に渡し、その場は解散となった。

 

そして、またその日から三週間、十香が学校に来て1ヶ月の時が流れたある日。

 

「シドー! クッキィと言うのを作ったぞ!」

 

腰まであろうかと言う夜色の髪を靡かせ、水晶のように煌めく瞳をキラキラと輝かせた、冗談のように美しい少女が、興奮気味にそう言って、手にしていた容器を士道の目の前にずいっと突き出した。

士道は気圧されるように身を反らしながら、少女の名を呼ぶ。

 

「と、十香・・・・」

 

「うむ、なんだ!?」

 

「・・・・や、その」

 

背景に花が咲き乱れるかのような屈託の無い笑みで、少女ーーー夜刀神十香がそう言い、ツッコミ所は結構あるが、十香の眩しすぎる笑顔に、何も言えなくなり、十香はそんな士道の様子を不思議そうに眺めてから、容器の蓋を開いた。

 

「そんなことよりも、シドー。これを見てくれ!」

 

そこには、形が歪だったり、ところどころ焦げてはいたが、辛うじてクッキーと称することができなくもない物体が入っていた。

士道と十香は同じクラスだが、なんでも個々人の作業量が充実するように・・・・とかなんとかいう理由で、実験的に調理実習を少人数に分けて行っていたのだった。

つまり、今日は女子だけ調理実習の日だったのだ。

 

「これを・・・・」

 

「うむ、皆に教えてもらいながら、私がこねたのだ! 食べてみてくれ!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

満面の笑みを浮かべる十香。士道は魔獣ファントムと戦っている時のような、殺気にも似た寒気を感じた。

別に十香のクッキーがどうこうと言う話でも、ファントムが現れた訳でもない。

単純にーーー教室中から男子達の嫉妬と怨嗟に満ちた視線が注がれたからだ。

 

≪ああ、何と心地良い負の感情に満ち溢れた空間なのだろうか≫

 

「(呑気で良いな、お前はよ!!)」

 

ドラゴンはこの男子達から漏れ出す負の感情に心地良さを感じ、士道は辟易しているが、無理からぬ事なのかもしれない。

ただでさえ女子の手作りクッキーをいただくなんてのは、他の男子達の嫉妬の的だ。

しかもそれが、転入直後から、『彼女にしたい女子ランキング』を一気に上位に駆け上がった(と噂の)美少女転入生である、夜刀神十香のものだと言うのである。

すぐ近くにいた友人の殿町宏人までも虚ろな眼差しで、「ファック、ファック、ファァァァァック・・・・! 死んでいない五河は悪い五河だ・・・・! 死んだ五河だけが良い五河だ・・・・!!」などと、『ゲート』であれば今にも魔獣ファントムを生み出してしまいそうな呪詛の言葉を呟いていた。

 

「? どうしたのだシドー。食べないのか?」

 

「え・・・・い、いや・・・・その」

 

「むう・・・・そうか、シドーの方が料理は得意だからな」

 

≪おい、周りのモテない負け犬共なんか無視しろ。さっさと食え≫

 

「そ、そう言う訳じゃないって。い、いただくよ」

 

少ししょぼんと肩を落とした十香と、ドラゴンの全国の非モテ男子を敵に回しそうな台詞を吐き、士道は意を決して、容器からクッキーを一枚取り、ゆっくりと口に運ぼうとしたが。

 

「っ!?」

 

士道は戦闘経験で培った感覚が殺気を感じて身体を止めると、目の前を銀の弾丸のようなものが一直線に通り過ぎ、士道の手に有ったクッキーを粉々に砕くと、そのまま壁に突き刺さる。

 

「な・・・・なんだ・・・・ッ!?」

 

士道は壁に刺さった物を見ると、フォークが壁に突き刺さり、ビィィィィン・・・・と柄を揺らしているのが分かった。シンプルなデザインから多分、調理用の備品だろう。

 

「ぬ、誰だ! 危ないではないか!」

 

十香がフォークが飛んできたであろう廊下の方に顔を向け、士道もそれに倣うように目をやると。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そこには右手をまっすぐ伸ばしてつい今し方何かを投擲したポーズをした少女が無言で立っていた。

肩にくすぶるくらいの白銀の髪と色素の薄い白い肌、顔立ちは非常に端正だが、表情が一切見受けられない人形めいた無機的な印象の少女、鳶一折紙だった。

 

「と・・・・鳶一?」

 

≪やはりアイツか・・・・≫

 

「ぬ」

 

士道は頬に汗を一筋垂らし、ドラゴンはやれやれとため息をつき、十香は不機嫌そうに眉根を寄せるが、折紙はゆっくりと士道に歩み寄り、士道の前に着くと、左手に持っていた容器の蓋をあけて、十香と同じように士道に差し出す。

そこにはまるで、工場のラインで製造されたように完璧に統一されたクッキーが綺麗に並んでいた。

 

「夜刀神十香のそれを口にする必要はない。食べるならこれを」

 

「え、ええと・・・・」

 

「邪魔をするな! シドーは私のクッキィを食べるのだ!」

 

士道が反応に困っていると、十香がプンスカ! といった調子で声を上げるが、折紙は微塵も怯まず、それどころか表情をピクリとも動かさなかった。

 

「邪魔なのはあなた。すぐに立ち去るべき」

 

「何を言うか! あとから来ておいて偉そうに!」

 

「順番は関係ない。あなたのクッキーを彼に摂取させるわけにはいかない」

 

「な、なんだと!?」

 

「あなたは手洗いが不十分だった。加えて調理中、舞い上がった小麦粉にむせ、くしゃみを三度している。これは非常に不衛生」

 

≪良く観察していたな・・・・≫

 

「な・・・・っ」

 

十香が目を丸くした。ちなみに周囲の男子生徒が折紙の言葉を聞いた瞬間、ざわ・・・・ッ、と色めき立って視線が十香のクッキーに注がれる。

殿町が「つまりあのクッキーには、夜刀神ちゃんの唾とかがミックスされている・・・・!」と言っていたような気がしたが、士道とドラゴンは聞かなかった事にし、十香本人は気づく様子もなく、ぐぬぬ・・・・と拳を握る。

 

「し、シドーは(マホー使いで)強いからそれくらい大丈夫なのだ!」

 

「因果関係が不明瞭。それにあなたは材料の分量を間違えていた。レシピ通りの仕上がりになっているとは思えない」

 

「・・・・っ!?」

 

折紙に言われ、十香は眉をひそめながら、自分と折紙のクッキーを交互に見た。

 

「な・・・・っ、なぜその場で言わんのだ!」

 

「指摘する義務はない。ともあれ私の方が、彼を満足させる可能性が高い事は明白」

 

「う、うるさいっ! 貴様のクッキィなぞ、美味いはずがあるかっ!」

 

十香はそう叫ぶと、目にもとまらぬスピードで折紙の容器からクッキーを一枚かすめ取り、自分の口に放り込んみ、サクサクと咀嚼しーーーーーー

 

「ふぁ・・・・っ」

 

頬を桜色に染めて恍惚とした表情を作った。どうやら美味しかったらしい。

 

≪一瞬で敗北したな。このポンコツ精霊≫

 

ドラゴンは呆れた声を上げ、それに反応したようにハッとなった十香は首を横にブンブンと振った。

 

「ふ、ふん、大したことないな! これなら私の方が美味いぞ!」

 

「そんな事はあり得ない。潔く負けを認めるべき」

 

「なんだと!?」

 

「なに」

 

「お、落ち着けって二人とも」

 

視線でバチバチと火花を散らせ、放っておいたら殴り合いにまで発展しかねない二人の間に、士道が割って入ると、「まあまあ」と宥めるように距離を取らせる。

 

「ぬ・・・・ではシドーは、どちらのクッキィが食べたいのだ?」

 

「え?」

 

不意にそんな事を言われ、士道が間の抜けた声を発すると、十香と折紙が左右同時にクッキーのはいった容器を差し出す。

 

「さあシドー」

 

「・・・・・」

 

十香と折紙の刺すような眼光に射竦められた士道は、顔中に脂汗をぶわっと浮かべる。

 

≪どちらかを選べば殺されそうだな。まあそう簡単には死なないから安心して殺されろ≫

 

「(テメェドラゴン・・・・!!)」

 

士道はドラゴンを恨みがましく睨むと、自らの生存本能に従って、両手で二つの容器からクッキーを取ると、同時に口に放り込んだ。

 

「う、うん、美味いぞ、二人とも!」

 

十香と折紙はそんな士道の様子をジーッ・・・・と見つめた後。

 

「うむ、私のクッキィを食べる方が、ほんのちょっびっとだけ速かったな!」

 

「私の方が、0.02秒速かった」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

まったく同時にそう言って、静かに顔を見合せる。

 

「・・・・ええと」

 

≪またか・・・・≫

 

“この空気”は、今日初めてではない。士道とドラゴンは諦めにも似た気分になる。

その瞬間、“いつも通り”双方から凄まじい速度でお互いの急所を狙った拳が放たれーーー二人の間に身を踊らせた哀れな魔法使いの頭部と腹部に吸い込まれた。

 

 

 

 

「・・・・はあー・・・・」

 

士道は長く重いため息を吐きながら、日が傾き始めた住宅街の道をマシンウィンガーで走っていた。

顔は疲労の色が濃く、髪にも心なしかツヤがない。まだ16歳である筈なのに、老けて見える。

結局あの後十香と折紙がバトルを始め、その度に士道が二人を止めていた。

十香が来禅高校に通うようになってから、毎日のように二人が小競り合いを続けていた。それがただの女子高生の口喧嘩ではなく、本気での殴り合いである。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

士道は十香と折紙の姿を思い返していた。

 

片や、世界を殺す災厄と呼ばれた『精霊』。

 

片や、陸上自衛隊・対精霊部隊<アンチ・スピリット・チーム>、通称ASTの魔術師<ウィザード>。

 

双方、人間の領域を遥かに越えた、規格外の異能を有する少女達。

そんな二人の間に、魔法使い<ウィザード>に変身しなければ普通の一般人の士道が割って入らねばならない。

他の生徒がいる学校で魔法を使うわけには行かないし、折紙に士道が、ASTの殲滅or捕獲対象となった識別名〈仮面ライダー〉(この前琴理に教えられた)である事を知られる訳にはいかないので、生身で二人を止めねばならない。それ故、士道の肉体的・精神的疲労の蓄積度は尋常ではない。

 

「ったく、あの二人、少しは仲良くできねえのかよ・・・・」

 

≪とことん阿呆だなお前は。本気でそんなくだらない事を言っているのか?≫

 

寝ようとしていたドラゴンに言われ、士道自身も自分の発言の阿呆さに重いため息を吐いた。

ほんの1ヶ月前まで、本気で命のやり取りをしていた二人だ。今は十香から精霊の反応が認められないから、折紙達ASTが表立って十香の命を狙ってくることはないと琴理が言っていた。

そう簡単に二人が仲良くできないのは当然だが、しかしこのままでは士道の身が保たない。

 

「ん・・・・?」

 

突然首筋に、ポツン、と首筋に冷たいものが垂れてきたような気がして、バイクをT字路の路肩に止めて頭を上にやった。

 

「・・・・うわ」

 

≪雨か・・・・≫

 

いつの間にか、空がどんよりと曇っていた。

 

「天気予報では晴れって言ってたのに・・・・」

 

と、見計らったかのようなタイミングで大粒の雨が降り注ぎ、ヘルメットの正面を雨粒が覆った。

 

「おっと・・・・」

 

士道は後ろの席にゴム紐で固定した鞄から、ウィザードリングを付けたチェーンを取り出すと、腰のベルトに付けて、『ドレスアップリング』を右手薬指に嵌めて、人目が無いのを確認してバックルに翳す。

 

[ドレスアップ プリーズ]

 

音声が響くと、士道の身体を魔法陣が通り過ぎ、士道の服装が来禅高校の制服から、赤と黒のツートンカラーのレインウェアになった。

 

「この『ドレスアップ』、『コネクト』と同じで重宝するなぁ」

 

忘れ物をした時や武器を取り出すには『コネクト』。こう言う事態に使える『ドレスアップ 』。二つとも非常に重宝していた。

士道はバイクを走らせようと、T字路を右に曲がったところにある神社の境内を見ると、バイクを動かすのを止める。

天から落ちる水玉よりも、遥かに気になるものが現れたからだ。

 

「女ーーーの子・・・・?」

 

≪むぅ・・・・・・・・?≫

 

士道がそう呟き、体内でドラゴンも首を上げた。

そう、それは、少女だった。

可愛らしい意匠が施された緑色の外套に身を包んだ小柄な影。

顔は窺えない。と言うのも、ウサギの耳のような飾りの付いた大きなフードが、少女の顔をすっぽりと覆い隠していたからだ。

そしてもっとも特徴的なのは、その左手だ。

いやにコミカルなウサギ形の人形<パペット>が、そこに装着されていた。

そんな少女がひとけのなくなった神社の境内を、楽しげにぴょんぴょんと跳ね回っていた。

 

「なんだ・・・・?」

 

≪・・・・・・・・≫

 

士道とドラゴンはその少女を凝視していた。あの女の子が傘も差さずに雨の中跳び跳ねているのかと言う疑問ではない。

“何故自分はあの女の子に目を奪われたのか?”

上手く言語化できないのだが・・・・士道の脳内はそんな違和感で溢れていた。

雨の冷たさも気にならなくなる不思議な感覚。しかもつい最近にも感じたことがある感覚だった。

 

「ドラゴン・・・・あの女の子は一体?」

 

≪・・・・まさか、あの小娘はーーー≫

 

ーーーずるべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!

 

「≪は・・・・?≫」

 

士道とドラゴンが呆然と目を見開く。

今しがたまで、冷たい雨だれのカーテンの中を軽やかに踊っていた少女が、顔面と腹を地面に打ち当てながら、盛大にコケたからだ。

あたりに水しぶきが散り、ついでに少女の左手からパペットがすっぽ抜け、前方に飛んでいき、少女はうつぶせのまま、動かなくなる。

 

「・・・・お、おいッ!」

 

ヘルメットを脱いだ士道はバイクを駐車して、ヘルメットをバイクに置いて、慌てて駆け寄ると、その小さな身体を抱きかかえるように仰向けにした。

 

「だ、大丈夫か、おい」

 

そこで初めて、少女の貌を見た。

年の頃は、琴理と同じくらい。ふわふわの髪は海のような青。柔らかそうな桜色の唇。まるでフランス人形のように綺麗な少女だった。

 

「君は・・・・?」

 

「・・・・!」

 

長い睫毛に飾られた瞳は、琴理が紅玉<ルビー>のような瞳と対となる蒼玉<サファイア>のような瞳を見開いた。

 

「ーーー怪我はないか?」

 

士道が聞くと、少女は顔を真っ青に染めて、目の焦点をぐらぐら揺らして、士道の手から逃れるようにピョンと跳び上がり、少し距離を取ってから、全身を小刻みにカタカタと震わせ、士道を怖がるような視線を送ってくる。

 

「・・・・ええと、そ、そのだな。俺はーーー」

 

「・・・・! こ、ない、で・・・・ください・・・・っ」

 

「え?」

 

「いたく、しないで・・・・ください・・・・」

 

士道が少女に近づこうと足を前に踏み出すと、少女が怯えた様子でそう言った。

士道が自分に危害を加えるように見えたのだろうか、その様は、まるで、

震える小動物のようだった。

 

「ええと・・・・(どうしようかドラゴン?)」

 

≪だから、こう言う時に我を頼るな・・・・。まあとりあえず、あの人形でも拾ってやれ≫

 

「あっ・・・・」

 

対応に困った士道は、地面に落ちていたパペットに気づいた。先ほど少女の手から抜け落ちたおり、ゆっくりと腰を折ってそれを拾い上げて、少女に示す。

 

「これ・・・・君のか?」

 

「・・・・!」

 

すると少女は目を大きく見開いて、士道の方に駆け寄ってこようーーーとしたところで、足を止めた。パペットを取り返したいのだけど、士道に近づくのが怖いみたいな顔をしながら、じりじりと間合いを計っている。

士道はそんな少女の様子に苦笑すると、泥に汚れたパペットを見る。

 

「(うわっ、結構汚れているな・・・・)」

 

≪『クリーン』を使え≫

 

士道は、『ドラゴンが綺麗に洗われている緑色のリング』を右手薬指に嵌めて、ベルトに翳す。

 

[クリーン プリーズ]

 

音声が響き、パペットを魔法陣が覆うと、まるで洗濯されたように泥や汚れが消えて、新品のように綺麗な姿となった。

汚れた服や物、バイク等の泥や汚れ、ホコリやサビ等を除去し、新品同然に綺麗にする魔法が『クリーン』である。

 

「・・・・っ!」

 

「俺は、敵じゃないよ」

 

少女がパペットが突然綺麗になった事に驚き、士道はパペットを持った手を少女に突き出す格好で、ゆっくりと距離を詰め、少女も士道の意図を察して、ゆっくりと摺り足で近づき、士道の手からパペットを奪い取り、パペットの状態を確認した少女は、綺麗になっていることに唖然となったが、すぐに左手に装着した。

すると突然少女が、パペットの口をパクパクと動かした。

 

『やっはー、悪いねおにーさん。身体も綺麗にしてくれて、たーすかったよー』

 

ウサギが妙に甲高い声を発するパペットの様子は、腹話術とは思えないほどのクオリティーがあった。

首を傾げ、訝しげに少女の顔を見やるが・・・・士道と少女の間を遮るように、ウサギのパペットが言葉を続ける。

 

『ーーーぅんでさー、起こしたときに、『よしのん』のいろんなトコ触ってくれちゃったみたいだけど、どーだったん? 正直どーだったん?』

 

「は、はぁ・・・・っ?」

 

≪・・・・・・・・≫

 

パペットは笑いを表現するようにカラカラと身体を揺らした。

 

『またまたぁー、とぼけちゃってこのラッキースケベぇ。・・・・まぁ、一応助け起こしてくれたし、泥まみれの身体を綺麗にしてくれたし、特別にサービスしといてア・ゲ・ルんっ♪』

 

「・・・・あ、ああ、そう」

 

苦笑しながら、パペットが言ってくるのに返す。

 

『ぅんじゃね。ありがとさん』

 

パペットがそう言うと同時に、少女が踵を返して走っていってしまった。

 

「あーーーおいっ」

 

士道が声をかけるも、少女は反応を示さないまま、曲がり角を曲がり、すぐに姿が見えなくなった。

 

「何だったんだ・・・・ありゃあ・・・・なあドラゴン?」

 

≪・・・・一つ言える事は≫

 

「ああ」

 

≪“あの小娘の名前”、聞きそびれたな≫

 

「えっ? 何言ってんだよ? さっき『よしのん』って言ってだろう?」

 

≪お前の耳は耳糞が溜まりまくっているのか? あの人形が言っていただろう。「身体を綺麗にしてくれた」とな≫

 

「ああ」

 

≪“『クリーン』の魔法を使ったのは人形だけ”、そして身体を触った事をサービスとして扱った。それに・・・・≫

 

「それに・・・・?」

 

≪“よしのん”って名前など、あの小娘よりも人形の方が似合うだろう≫

 

「・・・・・・・・確かに」

 

“よしのん”って名前をあんな大人しそうな少女が名乗るよりもパペットの方が名乗った方がしっくりくる。奇妙な少女に出逢ったものだと思いながら、士道はマシンウィンガーに乗って、帰路に付いた。

 

 

 

 

そして士道が家に帰り、レインウェアを消すと、服装は濡れる前の来禅高校の制服に戻るが、髪の毛と顔と足元は濡れており、身体も少し冷えたので風呂に入ろうと風呂所に行き、脱衣場の扉を開くと。

 

「ーーーーーーーーッ!?」

 

瞬間、士道は身を凍らせた。脱衣所に、ここにいるはずのない少女の姿があった。

 

背を覆い隠す長い夜色の髪、水晶のごとき瞳、雪のように白い肌。形容すれば『絶世の』を10付けてもその美しさを1割も表現できない程の、圧倒的な存在感を放つ美少女。そんな人物、士道の記憶に1人しかいない。

 

世界を殺す災厄・識別名〈プリンセス〉と呼ばれる精霊にして、都立来禅高校二年四組出席番号三十五番。

夜刀神十香が、一糸すら纏わぬ姿でそこにいた。

 

「と、十香・・・・?」

 

「な・・・・ッ、し、シドー!?」

 

硬直した二人がお互いの名前を呟いた。

 

≪はあ、また面倒な事になった・・・・≫

ドラゴンは辟易したようなため息を洩らした。

 




『クリーンウィザードリング』(オリジナル)

着ている服装と持っている物(人形や手袋)などを洗濯したように綺麗にする。
黄ばみ、シミ、泥や汚れ等を除去する。バイクや車の錆や汚れを除去出来るが、破損や故障を直す事は出来ない。
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