デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「ふあああ~・・・・」
翌日。士道は十香と共に登校し、自分の席に座ると、大きな欠伸を溢した。
「む、眠いのか、シドー」
右隣に座る十香が、不思議そうに目を丸くした。
「ああ・・・・ちょっと昨日寝付けなくてな」
「むう、それはいけないぞ。大丈夫か?」
「はは、まあ・・・・学校が終わったら夕飯前に仮眠させて貰うさ」
士道は苦笑し、目に滲んだ涙を適当に拭い取り、小さくため息を吐いてから左隣の席、元の世界で、折紙が座っていた席をボンヤリと眺めた。
「・・・・・・・・」
ーーーー寝不足の原因は分かりきっている。士道は昨日の夜、夕食を終えた後1人家を抜け出し、『コピー』でマシンウィンガーを2つ作り、『アバター』で分身体を作ると、2手に別れて、とある場所へと向かった。
まず本体は元の世界で、折紙が住んでいたマンションを。分身体は5年前の火災のあった天宮市南甲町の住宅街だ。もしかしたら、ソコに折紙がいるかも知れないと思ったからだ。
しかし、現実はそう甘く無かった。
マンションの部屋には誰も住んでいなく、かつて鳶一家の住んでいた家には、別の名前の表札がかかっていた。一応、今の住人に鳶一家の事を聞いてみたが、詳しい行方は分からなかった。
「折紙・・・・」
士道は誰もいない席を見ながら、誰にともなく呟く。
昨日琴里に見せてもらった映像に映っていた正体不明の精霊〈デビル〉は、間違いなく鳶一折紙だった。しかも、ただの精霊ではなくーーーー反転した姿で。
「(ーーーー意味が、分からねぇよ・・・・!)」
ギリっと奥歯を噛み締める。
≪(5年前、確かに我らはあの折紙<無表情娘>の両親を救い、歴史を変えた。無表情娘は普通の少女になった。しかし、無表情娘は精霊でしかも反転体となっていた・・・・。〈イフリート〉からの情報では、〈デビル〉は精霊が消失<ロスト>すると、いつの間にか姿を消す。そのお陰か、街には深刻な被害は出ていない、と言う話だが・・・・まさか、これが『歴史の修正力』とでも言うのか?)≫
「(なあドラゴン・・・・! これってどうなってるんだよ・・・・!?)」
混乱しそうになる頭をガリガリ掻きながら、士道は頭の中にある底知れぬ不安と疑念が渦を巻き、苛立たしげに言う。
≪今イラついていても何もならんだろう。可能な限り、あの無表情娘の情報を集める事だ。(もしかしたら、小僧の『日常』の中にだけ無表情娘の存在だけがいないだけで、他の場所ーーーー例えばこの世界のASTに、あの娘が在籍していれば、情報があるのかも知れんだろうな)≫
そう。もしかしたら2人が知らないだけで、他にも2人の記憶と異なる事が、この世界で起こっているのではないか。或いはーーーー起こった筈の出来事が、無かった事になっているのではないか、と思ったのだ。
家に帰るなり琴里達や輪島のおっちゃん(電話)に話を聞き(琴里には不審そうな顔をされたが)、簡単ではあるが、〈フラクシナス〉のデータベースも覗かせて貰った。
その結果、この世界自体は、ほぼ2人の記憶通りに流れているとが分かった。
・5年前、琴里が精霊になり、〈ラタトスク〉に見出だされた事も。
・高校1年の頃に『サバトの日』に、ウィザードラゴンを宿し、〈仮面ライダーウィザード〉となって、魔獣ファントムと戦ってきた事も。
・4月10日、士道が十香と出会い、それを封印した事も。
その後、四糸乃を封印した事も、狂三や〈仮面ライダービースト〉・真那と出会った事も、八舞姉妹を封印した事も、DEMのエレン・メイザースを倒した事も、美九や七罪を封印した事も、『フェニックスファントム』を太陽に追放した事も(令音と〈フラクシナス〉のAIの計算では、100万年後に戻ってくるとの事)。全て、士道とドラゴンが知っている通りであった。
ただ1つーーーー鳶一折紙に関連する事だけが、綺麗に除いて。
と、考えていると、始業のチャイムが鳴り、タマちゃん先生が教室に入り、号令に従い起立し、礼をして、再び席に着く。
タマちゃんがニコッと微笑みながら、「今日も張り切っていきましょう」と言っているが、士道には暖簾に腕押しだった。
「・・・・・・・・」
頬杖を突きながら、ぼうっと窓の外を眺める。
「(ーーーーやっぱり、1度折紙に会ってみないとな)」
≪・・・・あの娘の人生に、ちょっかいかけないようにしようと思っていたのではないのか?≫
「(そうだけどよ。あの映像を見た後だとな・・・・)」
折紙に纏わり付く戦禍は、まだ終わっていなかった。士道の使命は、まだ終わっていない。性悪な世界は、未だあの少女に過酷な運命を背負わせたままなのだ。
≪まあそれは良いとしてもだ。我らはこの世界の事を知らなさすぎる≫
「(・・・・やっぱり、〈ラタトスク〉の力が必要だな)」
≪この状況だからな。〈イフリート〉に事情を説明し、無表情娘の捜索をさせるか・・・・。〈ナイトメア〉がどう動くのかも気になる≫
「(狂三が・・・・? どうしてだよ?)」
≪救い用のないスペシャルド低能。タイムスリップして世界の改変を知っているのは我ら2人とヤツだけだ。ヤツの事だから、『分身体』を使ってこの世界の情報を集めている可能性も十分ある。その内こちらに接触して来るだろう≫
「(なるほど・・・・よし)」
取り敢えず方針が決まり、決意を固めるように拳を握ったその時ーーーー。
「あ、そうだ。今日は皆さんに新しいお友達を紹介しますよぉ。ーーーーさ、入ってきてくださぁい」
タマちゃん先生が思い出したようにそう言うと同時、教室の扉が開かれ、1人の少女が入ってきた。どうやら、転校生らしい。
こんな時期に転校生とは珍しいが、士道はそんな事を気にしている場合ではない。
がーーーー。
「・・・・へ?」
≪・・・・何?≫
視線だけをチラッと向けた士道は驚愕に目を見開いた。
人形のように端正な顔をした、線の細い少女。背を覆う髪は少し色素が薄く、彼女を異国のお姫様のように見せた。
その少女が登場した瞬間、クラスメート達が色めき立つ。男子達が「おおっ!?」と身を乗り出し、殿町が「転校生は美少女! このジンクスが真実であると、また証明されたぁ!」と騒ぎ、女子達もまた目を輝かせた。
しかし、そんな中、士道は1人愕然とした調子で、その少女の顔を凝視した。
その理由は、その少女の顔に、見覚えがあったからだ。
「はい、じゃあ自己紹介をお願いします」
タマちゃん先生が、転入生に促すと、彼女はコクリと頷いてから顔を正面に向け、静かな声でこう言った。
「ーーーー鳶一折紙です。皆さん、宜しくお願いします」
そして、深々と礼をしてみせた。クラスの面々がワァッと色めき立った。
1部の生徒などは、『折紙』と言う珍しい名を士道が発していた事を思い出したのか、不思議そうに首を捻ったり、下卑た深読みをしたのか、士道の方にゲスい笑みを向けていたりしていた。
だが、今の士道にそれらに反応を返す余裕は無かった。
「な・・・・」
目を見開き、唇から震えた声を溢す。
目の前にいるのは、髪の長さこそ違うが、間違いなく、士道の記憶の中の鳶一折紙嬢その人だった。
士道が驚愕で言葉を発せずにいると、タマちゃん先生が教室です見回すように視線を巡らせた。
「えぇっと、じゃあ鳶一さんの席は・・・・五河くんの隣が空いてますね。あそこに座ってくれますか?」
「分かりました」
折紙が首肯し、ゆっくりとした足取りで士道の訪日向かってくる。
が、数歩歩いたところで、折紙が不意に足を止めた。
理由は直ぐに分かった。士道が折紙を凝視していたものだから、そこでふっと目が合ってしまったのだ。
「あーーーー」
「え・・・・?」
士道の喉から短い声が漏れると同時に、折紙が意外そうに目を丸くした。
自分を凝視している少年と目が合ってしまったのだ。そんな驚きはしない。
しかし、なぜだろうか。折紙の反応はそう言った物の類いとは少し違うように見える。
「ーーーーうそ。あなたは・・・・」
そう。まるで、士道の顔に見覚えがあるかのように、言ったのだ。
だが、折紙はすぐに思い直すように首を横に振ると、今度は一転として他人行儀な調子で会釈をし、タマちゃん先生に指定された席に腰を落ち着かせた。
「ーーーー」
士道は、そんな折紙の一連の動作を見ながら、心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。
「(ーーーー今のは、一体なんだ? 折紙は、俺の事を知っているのか?)」
≪・・・・・・・・≫
普通に考えればそんな筈はない。しかし、ならば今のは一体ーーーー。
「はい! じゃあ改めて出席を取りますよぉ!」
タマちゃん先生が元気の良い声を発して生徒の名を呼び始めたが、士道の耳には、何も入ってこなかった。
◇
ホームルームが終わってすぐ、士道は教室を抜け出し、人気のない場所に来て琴里に連絡すると。
《・・・・はぁ?》
通常モードで相づちしていたが、途中で司令官モードに切り替わると、電話越しから、琴里の怪訝そうな声が出た。
そして困惑したような調子で言葉を継いでくる。
《ちょっと待って。一体どういう事? 詳しく説明してちょうだい》
「・・・・今言った通りさ。〈デビル〉が、俺のクラスに転入してきた」
士道は、噛み締めるようにして、再度琴里に言った。
《だから、それが意味分かんないって言ってるのよ。一体何で〈デビル〉が学校に転入してくるのよ。・・・・て言うかそもそも、〈デビル〉は正体不明の精霊じゃない。その名前も、顔すらも確認できていない。なんでその転入生が〈デビル〉だって分かったの?》
「それは・・・・」
もっともな疑問に、士道は口ごもり、見かねたドラゴンが口をはさむ。
≪忘れたか〈イフリート〉。我は1度遭遇した精霊の気配は忘れん。その転入生から、〈デビル〉に似た霊波を感知したのだ≫
《・・・・あぁ》
ドラゴンの言葉に、琴里は納得したような声を漏らした。確かに、ドラゴンは1度会った精霊の気配と言うか霊波を感知できる。それを思い出したのだろう。
《・・・・もしそれが本当なら厄介ね。一応観測機を回してみるわ。その結果が出るまで、迂闊な行動は控えなさい。下手な事をすれば、その場で戦闘開始になるかも知れないわ》
「ありがとう琴里」
《士道は迂闊な行動はしないようにね。美九の時みたいに状況をややこしくさせないように》
「お、おお・・・・」
《ドラゴンも、成長しているなんて変な期待持たないで、士道が変な事しないように見張っていなさい》
≪安心しろ。〈ディーヴァ〉の時でこのド低能には、何の期待も持たないようにしようと心に決めたからな≫
「お前なぁ・・・・!」
泣きそうになる士道だが、琴里はドラゴンの返答に《ん》と頷くように言った。
《じゃあ、すぐに調べさせるわ。ええと、何て名前だったかしら、その女子生徒》
「折紙だ。鳶一折紙」
《鳶一折紙ね。鳶一・・・・》
と、ソコで琴里が言葉を止め、何かを思い出したかのように小さく喉を鳴らす。
《それって・・・・もしかしてASTの鳶一折紙?》
「は・・・・!?」
琴里の言葉に士道は目を丸くし、肩を揺らす。
「琴里、まさかお前(ピシッ)むぐっ!?」
迂闊な事を言いそうになる士道の口をドラゴンが尻尾で塞いだ感覚になる。
≪〈イフリート〉よ。やはりあの娘はASTに所属している魔導師<ウィザード>なのか? 何処かで見た事ある顔だと思っていたのだが?≫
ドラゴンの問いに、琴里は平然と答える。
《ええ。確かASTにそんな珍しい名前の隊員がいたのよ。何度か十香達とも戦った事があるんじゃないかしら。ただ、ちょっと前に退職してるはずよ》
「ーーーー!?」
ドラゴンに口を塞がれたまま、息を詰まらせた。“琴里は元の世界の記憶を思い出した訳ではない”。だと言うのに、“折紙はASTに所属していた”。
この2つが指し示す事実ーーーー折紙は、この世界においても、ASTに入っていたのである。
「(一体、何で・・・・)」
≪むぅ・・・・〈イフリート〉よ、鳶一折紙がAST<なんちゃって魔導師>を辞めた理由は分かるか? 妙に引っ掛かるのだ≫
口を塞がれた士道の独白をドラゴンが代弁すると、琴里がウウムと唸りながらブツブツと言い始める。
《引っ掛かる、ね・・・・。確かに、言われてみれば、鳶一折紙がASTを辞めた時期と、〈デビル〉が出現し始めた時期は大体一致しているわ。ふむ、もしも退職の理由が自身の精霊化であるとしたら・・・・》
が、士道はドラゴンと琴里の会話を半ば素通りしていた。ーーーー士道の頭の中には、折紙がASTに入っていたと言う事実が、グルグルと渦巻いていたのだ。
「(折紙がASTに入ったのは、両親を殺した精霊を倒そうとしての事の筈だ・・・・! 両親は俺達が助けた筈なのに、一体どうしてなんだよ・・・・!)」
≪・・・・・・・・おっと、いつまでも口を塞いでいては唯でさえ拙い脳ミソに酸素が入らんな≫
《士道、聞いてるの?》
「・・・・プハっ、あ、ああ・・・・悪い」
口を解放され、ハッとなり、大きく酸素を吸い込んだ。
《兎に角、鳶一折紙が精霊かどうかはこっちで調べておくわ。他に何か気づいたら報告してちょうだい。ーーーーでも、さっきも言ったけど、もし本当に鳶一折紙が〈デビル〉なのだとしたら、非常に危険な反転体よ。あまり無茶はしないでちょうだい》
「あ、ああ・・・・分かったよ」
≪うむ≫
士道はそう言うと、通話を切った。
「・・・・・・・・」
≪・・・・・・・・≫
スマホをポケットに放り込み、壁に背を預ける。
ドラゴンは黙って、今しがた手に入れた情報を直ぐに整理し、あらゆる仮定を考察し始めているが、士道の頭の中で様々な情報が錯綜し過ぎて、整理がつかない。
しかし、こうしていても何も始まらない。士道は大きく深呼吸をすると、自分の教室に戻っていった。
入ると、窓際の席に人だかりができていた。どうやら皆、可愛い転入生に興味津々らしい。クラスメートの中心で、折紙が困惑したような顔を作っていた。
と、丁度その時、授業開始のチャイムが鳴り響き、皆が手を振りながら自分の席に戻っていく。折紙が手を振り返した後、ハアと息を吐いたのが見えた。
「・・・・ははは」
そんな士道の知っている折紙であれば、ピクリとも表情を変えはしなかったろう光景に、思わず頬を緩ませたしまう。
だが・・・・それだけに理解できない。
何故折紙はこの世界でもASTに入っていたのか。何故精霊になっているのか。何故ーーーー反転してしまっているのか。そして何故、反転しているにも拘わらず、こうして自我を保ち、人間の姿に戻れているのか。いくら考えても謎が尽きなかった。
と、その思案した現在進行形で、ドラゴンが考察しているので、士道は取り敢えず自分の席に戻った。
教室に教科担当の教師が来て、授業を始めているが、当然の如く、授業に身が入らない。視線をチラッと折紙の方にやる。
「(ーーーーやっぱり、1度話を聞いた方が良いと思う)」
≪確かに、我らはこの世界の無表情ーーーーいや、〈デビル〉の事を何も知らない。が、休み時間になれば、また有象無象共が邪魔をする。他の奴らが介入できないように状況を作る必要があるな・・・・小僧≫
「(ああ。俺もそう考えていた)」
士道はノートの端に文字をしたため、それを破り取ると2つ折りにし、教師の目を盗んで折紙の机の上に置く。
「・・・・?」
それに気づいた折紙が、小さく首です傾げてくる。
そしてその紙片を開いて中の文面を見たかと思うと、折紙は驚いたように目を丸くした。
◇
その日の昼休み。
士道は教室を抜け出すと、教室のある区画から離れ、訪れる生徒がそういない、最上前の階段にやって来た。
そこには、先ほど紙片のメッセージで呼び出した鳶一折紙が立っていた。
「あの、これ」
折紙がポケットから、士道が渡したメッセージを見せてくる。
「ああ、ごめんな。急に呼び出したりして」
「ううん。それは良いんですけど・・・・何か用ですか?」
折紙が強張った表情を作りながら問うてくるが、それも当然だ。初対面の男子生徒に、こんな人気のない場所に呼び出されたのだ。身の危険を感じても何ら不思議はない。寧ろ士道の要求通りに1人でここまで来てくれた事に感謝したいくらいだ。
≪・・・・この娘に警戒されるとは妙な気分だな。我らの知るあの娘ならば、これを機に小僧を押し倒して貪り喰おうとする腹を空かせた肉食動物のような気配を出している筈だ≫
「あー・・・・」
ドラゴンのコメントに苦笑いしながら、一体何から話せば良いかと、頬を掻いた。山ほど聞きたい事があるが、下手な話をすれば、警戒を強まれる可能性がある。
と、ソコで士道は、折紙が朝こぼした言葉を思い出した。
「なあ、折紙」
「えっ?」
≪阿呆≫
意外そうな顔になる折紙。ドラゴンに『阿呆』と言われ、士道も気づいた。
「わ、悪い。鳶一・・・・さん。いきなり名前を呼ぶなんて失礼だよな」
「ううん、ちょっと驚いただけです。えっと・・・・五河くん」
折紙が士道を苗字で呼ぶ。聞き慣れない響きに苦情してしまう。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない。それより、鳶一さん。朝、俺の顔を見て何か言ってたよな? 一体あれ、何だったんだ?」
「ああ・・・・」
士道が言うと、折紙は何かを思い出すような表情を浮かべた。
「気に触ったならごめんなさい。五河くんが、昔会った事がある人にそっくりだったから、少し驚いちゃって」
「え・・・・?」
士道は思わず眉をひそめた。
「それってーーーー俺・・・・?」
「ううん、それはないです。だって私がその人に会ったのは5年も前ですから、五河くんはまだ小学生ですよ。それにーーーー」
折紙が、ふっと目を伏せた。
「ーーーーその人は、もう亡くなってますから。5年前に、私の目の前で」
「・・・・っ!」
≪・・・・≫
その言葉を聞いて、士道は気づいた。折紙の言う人物の正体に。
その人物は、間違いなく士道だ。正確には、5年前に折紙の両親を守った〈仮面ライダーウィザード〉だ。
「(ドラゴン、これって・・・・?)」
≪そう言えば、あの時に最大の一撃を防ぎって、貴様が意識を失うほんの数秒の間、魔力が切れて変身が解除されてしまっていたな≫
言われて士道も思い出した。あの時、5年前の折紙と目が合った時、自分は仮面を着けていなかった事に。変身が解除されていた事に。
「話はそれだけですか? 私、教室に戻りますけど・・・・」
「・・・・! あ、ちょっと待ってくれ」
まだ知りたかった情報を聞いていないので、階段を下りようとした折紙を慌てて止めた。
とは言え、下手な演技では限界があるので、ドラゴンと事前に打合せしていた事を言う。
「5年前、その人に会ったのって、もしかしてーーーー南甲町の大火災の時じゃないか?」
「えーーーー?」
士道の言葉に、折紙が目を丸くした。
「何で、それを知って・・・・」
言いかけたところで、折紙がハッとした顔を作る。
「もしかしてーーーーあの人って、五河くんのお兄さんですか・・・・?」
「へ?」
5年前の人物が士道の兄弟と思ったようで、間の抜けた声をあげる士道だが、折紙の考えも当然とも言える。
≪勘違いしてもらうのは好都合だ。このまま円滑に話を進めろ≫
ドラゴンの言葉に、仕方ないと思い、士道は折紙の言葉を肯定した。
「まあ・・・・そんなところだ」
士道が言うと、折紙は表情を変えた。眉を歪め、今にも泣き出してしまいそうな顔になる。
「と、鳶一・・・・さん?」
「・・・・!」
折紙は士道の目前まで至り、その手を取って深々と頭を下げた。
「あなたのお兄さんは、私のお父さんとお母さんを助けてくれました。あの人がいなかったら、2人はあの時に死んでしまっていました。どれだけ感謝の言葉を並べても足りないかも知れないけれど、言わせてください。本当にーーーーありがとう・・・・!」
「あ、ああ・・・・」
≪ふむ・・・・どうやら両親は助かったようだな?≫
折紙の反応に面食らい、曖昧な返事をするが、自分は折紙の両親を助けられた事に、小さく安堵の息を吐いた。
「あっ、ご、ごめんなさい、いきなり」
「いや・・・・大丈夫だよ」
ハッとした折紙は士道の手を離すと、頬を赤く染めてもう1度頭を下げた。
折紙らしからぬ反応に、奇妙な感慨を覚えながら苦笑する。しかし、さらに深まった謎があった。
「えっと・・・・鳶一さん。ご両親はその時助かったんだよな?」
「はい」
折紙が頷き、士道は小さく首を吐いてから続けた。
「じゃあ、今も一緒に住んでるのか?」
が、次の瞬間、目を伏せながら言う折紙の言葉に、士道は上擦った声をあげる。
「・・・・いえ。両親は、“4年前に交通事故で亡くなりました”」
「ーーーーっ!? え・・・・!?」
≪・・・・成る程。〈ナイトメア〉が否定も肯定もしなかったーーーー『歴史の修正力』、と言う訳か。精霊の力だろうが、天使の権能だろうが、この娘の両親が死ぬ結末は変えられないと言う事、か≫
「そ、そんな・・・・!」
ドラゴンの言葉に、士道は無力感に襲われた。
そんな士道に怪訝そうに眉を寄せながら、折紙もある事を推察する。
「(5年前に見た五河くんのお兄さんの姿・・・・もしかして五河くんもーーーー〈仮面ライダー〉なの?)」
重なりあってしまった運命の歯車は、士道と折紙を、再び弄び始めた。
歴史がその人の死を確定させた以上、それは決して覆せないのだ。