デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「五河くん・・・・?」
折紙から聞かされた事に戦慄する士道に、折紙は怪訝そうに眉をひそめるが、それも当然だ。今日会ったばかりの相手がそんな反応をすれば、不思議がるものだ。
しかし、すぐ思い直すように首を振ってから、頭を下げた。
「すみません。・・・・折角、五河くんのお兄さんに救って貰ったのに」
「いや、そんな」
「でも、五河くんのお兄さんがお父さんとお母さんを助けてくれてから約1年、私は2人に、沢山の物を貰いました。それは、五河くんのお兄さんがいなかったら叶わなかった。かけがえのない物です。本当にーーーー感謝、しています」
顔を上げて、凛とした調子で言う折紙の顔には、嘘偽りは見受けられない。
「そ、そう、か・・・・」
士道は少し視線を逸らしながら言った。折紙の両親が亡くなってしまっていたのは残念であるし、気の毒にも思うが・・・・今の折紙の言葉を聞いて、自分のした事は無駄ではなかったのだと、随分と救われた気分になった。
≪感慨に耽るなド阿呆。まだ聞く事があるだろうが≫
ドラゴンに言われ、士道は顔をあげると、折紙の目をジッと見つめながら、ゴクリと喉を鳴らし、意を決して口を開いた。
「じゃあーーーーどうして、鳶一さんはASTに入ったんだ?」
「えーーーー」
士道の言葉に、折紙は息を詰まらせた。
士道とドラゴンの共通の疑問がこれだ。あの大火災の日、折紙の両親は精霊の1撃から守れた筈だ。ならば、折紙は精霊に対して憎悪を抱いていない筈だ。
「なぜASTの事を・・・・っ!」
言いかけて、折紙は確信を持ったように眉をひそめた。
「もしかして五河くん。お兄さんと同じように、あなたはーーーー〈仮面ライダー〉、ですか?」
「っ!」
折紙の言葉に、そしてその不審そうな表情に、今度は士道が息を詰まらせた。
そうだ。この世界でも折紙はASTに所属していると言う事は、精霊を守る為、そして対話する為に現場に赴いていた士道の姿、〈仮面ライダーウィザード〉の姿を目撃している可能性があると言う事だ。
士道は意を決して肯定する。
「あ、ああ・・・・実はな」
「・・・・やっぱり、それなら説明がつきます」
「へ?」
「何度か、隊内でも話題に上がっていた、〈アンノウ(魔法獣『ファントム』)〉と戦っている識別名称〈仮面ライダー〉。ーーーー『あの時』の人に似ているとは思っていましたけど、まさか五河くんだったなんて」
『似ている』と、言ったのはおそらく、折紙が知っているのはオールドラゴンスタイルのウィザードで、通常形態のウィザードを知らないからだろう。
言って、折紙が視線を厳しくしてくる。
「何度か〈アンノウン〉を倒してくれているのは感謝しますけど、あまり無茶はしないでください」
「え、ええと・・・・」
士道は曖昧な返事をした。〈ラタトスク〉の任務や『ファントム』の討伐がある以上、今後も精霊達の前に立ち続けなければならないからだ。
その反応をどう受け取ったのか、折紙が小さくため息を吐く。
もっと追及されるのかと覚悟していたが、それ以上深く事情を探ろうとはしてこなかった。
その代わり、キッと強い意思の感じられる表情を作り、士道に視線を返してくる。
「私がASTに入った理由・・・・でしたよね」
「ああ、もし良かったら、教えてくれないか?」
士道が言うと、折紙はコクリと頷いた。
「五河くん、ASTを知っていると言う事は、空間震の原因もご存知なんですよね?」
「・・・・精霊」
「そうです。特殊災害指定生命体、精霊。ーーーーそして、もう既に調べているかも知れませんが、5年前の火災の時、あなたのお兄さんを殺してのも、精霊なんです」
「それはーーーー」
言葉を濁しそうになる。士道はこうして生きているのだが、あの時の折紙にしてみれば、目の前で人間が消し飛ばされたようにしか見えなかったのだろう。
折紙は、拳を強く握りながら続ける。
「あの人は、私のお父さんとお母さんを助かる為に犠牲になってしまいました。今の私があるのは、あの人のお陰です。ーーーーだから、私は思ったんです。もう、あの人のような人を作ってはならない、って。精霊から守る事のできる人になろう・・・・って」
「あ・・・・・・・・」
散らばっていたパズルのピースが、1つの額の中に収まっていくかのような感覚に、士道は意図せず、喉から声が漏れた。
≪・・・・成る程、強烈な皮肉だな。元の世界では、彼女は両親を精霊に殺された怒り故に、精霊を倒す事を心に決めた。だが、『両親の死』を回避した事で副次的に起こった『小僧の死』によって、彼女の新たな決意の火種になった、かーーーーどうやらこの世界は、運命は、彼女を精霊と関わらせたいようだな。我々がどんな魔法を使っても、な≫
ドラゴンの言うとおり、あまりに皮肉で、あまりにも性悪な運命の悪戯に、心がざわつくのを、士道は感じた。
「・・・・五河くん?」
折紙が首を傾げるのを見て、士道は小さく指先を震わせた。
「ああ、いや、何でもない・・・・」
無論、何でもない筈などないが、今はそうとした答えられない。
自分達は世界を変える事に成功した筈だった。だが結局の所、折紙は目撃してしまった。精霊がーーーー人を殺す瞬間を。
しかし、それが絶望的な事のみを意味してはいない。
元の世界とこの世界では、起こっている事が微妙に違う。元の世界殺されたのは最愛の両親ではなく、名も知らぬ少年の死だ。
「(なぁドラゴン。あの時の少年が俺だって上手く折紙に説明できないか?)」
≪・・・・そのまえに、『大きな問題点』があるだろう≫
「(っっ!)」
ドラゴンの言葉に、士道は唇をかんだ。
『大きな問題点』。それはこの世界の折紙が精霊化のみならず、精霊が心の底から絶望に沈まない限りならない『反転体』となっていた。
「・・・・・・・・」
改めて折紙を見る。士道の知っている折紙とは口調も雰囲気も真逆と言える。しかし少なくとも、今目の前にいる少女は、この世界に絶望しているようには見えなかった。
「(・・・・ドラゴン。少しだけ)」
≪・・・・はぁ、いざとなれば強制的に止めるからな≫
尻尾を構えるドラゴンに頷きながら、士道は口を開く。
「もう1つ・・・・聞いて良いか?」
「何ですか?」
折紙が小首を傾げてくる。士道は意を決してその問いを発する。
「ーーーー何で、鳶一さんは・・・・“精霊になったんだ”?」
が。
「はい?」
折紙は士道の言葉に、不思議そうに目を丸くしただけだった。
「えっと、精霊になった・・・・? どういう事ですか?」
「へ?」
≪・・・・・・・・≫
意外な反応に、今度は士道が目を丸くした。
「(ど、ドラゴン・・・・これって?)」
≪とぼけている訳ではない。本当に知らないようだな。我から見ても、虚言を言っているようには見えん≫
「(でも、どういう事だ・・・・? あれは確かに・・・・)」
と、脳内会議をしていると、予鈴のチャイムが学校中に鳴り響いた。どうやら昼休みは終わったようだ。
「昼休み、終わりみたいですね。先に戻ってます。ーーーーありがとうございます。五河くん。お話ができて、良かったです」
「あーーーー」
折紙はそう言って、階段を下りようとするが、士道はその背に縋るように声を発した。まだ分からない事が山ほどある。今折紙を帰してしまってはいけない気がした。
「も、もう少しーーーー話せないか?」
「でも、もう授業ですよ?」
「今日じゃなてもいいんだ! 空いてる日があったら、またーーーー会えないか?」
「え? それってーーーー」
「あ」
折紙が驚いたような顔になり、頬を赤らめた。その反応を見て、士道も1拍遅れて気づき、頬を赤くした。
≪デートに誘うくらいは成長したな≫
そうーーーーデートに誘っているように聞こえる言葉を言ったのだ。
「ええと・・・・」
どう訂正すれば良いのかとしどろもどろになっていると、折紙が視線を逸らしながら唇を開いた。
「・・・・あの、ちょっと考える時間を貰っても良いですか?」
「へ? も、勿論・・・・!」
反射的に答えると、折紙はその場でバッとお辞儀をした。
「じゃあ、失礼します」
そしてそのまま、足早に階段を下りていった。
「・・・・・・・・正直、意外な光景だったな?」
≪・・・・・・・・元の世界のあの娘ならば、突然服を脱ぎ出して貴様に襲いかかって既成事実を作り出す。もしくは婚姻届を取り出して署名させるくらいはしそうな状況だったからな≫
あまりにも折紙らしからぬ可愛らしい反応に戸惑う。
「いや・・・・」
が、士道はゆっくりと首を横に振った。きっと折紙は、元々こういう少女だったのだ。両親の死によって合理的且つ冷静な性格に変わってしまっただけだ。
「・・・・でも、妙に寂しさって言うか、物足りなさを感じるのは、前の折紙に慣れすぎたのかね?」
≪寧ろ慣れるなボンクラお人好しのド阿呆≫
なんて言い合いをしながら、士道は教室に戻り、授業を受けていると、不意に、左方の席に座っている折紙が、妙な動きをし始め、不思議に思って視線をやると、折紙が、ノートの端を切り取った紙に細かな文字を書いていた。
そしてその紙を二つ折りにして、教師の目を盗んで士道の机の端に置いてくる。
先ほどの士道と同じように。
「これは・・・・!」
「・・・・・・・・!」
士道がそれを受け取ると、折紙はカァっと頬を染め、落ち着かない様子で目を泳がせた後、教科書を立てて顔を隠してしまった。
◇
「・・・・・・・・」
その日の放課後。士道は1人(正確にはドラゴンもいるが)学校の屋上に上がり、背を床に預けながら、ボウッと空を行く雲を眺めていた。
≪いつまで黄昏ているのだ? 厨二病とやらが再発したならば〈イフリート〉に弱味として握られる前にやめておけ≫
「・・・・そうじゃねぇよ」
士道はポケットから二つ折りになった紙を取り出し、空に翳して見る。
ーーーー『今週の土曜日なら空いてます』
その紙は、先ほど折紙から受け取った物だ。お誘いへの返答のようだ。しかもその下に、メールアドレスが小さな文字で書かれている。
「土曜・・・・か」
言って、紙をポケットにしまい直しながら軽く伸びをした。
一応、約束を取り付ける事はできた。〈ラタトスク〉のサポート無しで、一応初対面の女子相手にだ。普通ならば大金星である。
しけし、まだまだ問題は山積みだった。
「(なぁドラゴン。精霊になって、反転しちまっている折紙に、その自覚が全く無いだなんて、本当にあり得るのか? 折紙が嘘を吐いているとか、折紙に似た霊装をした精霊とか、まさか、折紙が2人いる・・・・なんて事はないよな・・・・?)」
士道はハハッと力なく笑った。
が、ドラゴンは神妙な声を発する。
≪・・・・まだ反転体に対して分かっている事は少ないが、〈プリンセス〉が反転した時、いつもの天真爛漫な愛くるしい大型犬のような〈プリンセス〉ではなく、怜悧冷徹で偉そうな孤狼になったようだったろう。しかも、〈プリンセス〉にはその自覚が無かった≫
「(あ、ああ・・・・)」
反転体となった十香は確かに、自分達の知る十香と全くの別人になっており、十香自身、自分が反転した記憶が無かった。
≪まだ情報不足だがーーーー〈デビル〉も反転した自覚と記憶が無いだけで、実は反転している。と言うのも十分あり得るのではないか?≫
「・・・・・・・・」
ドラゴンの推測、それが1番高そうな気がして、士道は言い様のない不安感が広がる。
その件も含めて、〈ラタトスク〉に相談せねばならない。
そう思って起きようとするが、突然、昨夜夜通しでデータベースを漁っていたせいか、強烈な睡魔が襲い、瞼が重くなる。
「折・・・・紙・・・・」
呟くようにその名を残し、士道はそのままスウッと目を閉じた。
◇
≪いつまで寝ている。さっさと起きろ≫
「ん・・・・?」
ドラゴンの声に、小さく呻く声を漏らしながら、士道は目を開けると同時に、違和感を感じた。
いつの間にか寝ていた事ではない。いつものドラゴンならば声掛けと同時に尻尾ド突き(威力はドラゴンの気分次第)を炸裂させているのに、 それがない事に強烈な物足りなさと違和感を感じたのだ。
「・・・・どうしたんだよドラゴン、いつものお前らしくないぞ? ド突きはどうした?」
≪お望みならばしてやっても良いが。貴様が枕にしているヤツが止めたのでな≫
「へ?」
と、ソコで半覚醒の士道は後頭部から妙に柔らかい感触がする枕がある事に気づいた。
正体を確かめようと頭の下に手を伸ばすと、視界にヌッと少女の顔が現れた。
「ーーーーあらあら、おいたはいけませんわよ」
「うわっ!?」
突然の事に驚き、目を丸くするが、頭の下の感触と、その少女の正体に気づき、裏返った声でその少女の名を呼ぶ。
「く、狂三!?」
そう。現れたのは、精霊〈ナイトメア〉こと、時崎狂三であった。
どうやら狂三に膝枕されていたらしい。
「うふふ、ごきげんよう、士道さん。可愛らしい寝顔でしたわよ」
「・・・・っ!」
何だか無性に恥ずかしくなって、狂三の膝から飛び起きた
「あら、あら」
狂三は士道の反応を面白がるように笑い、優雅な動作で立ち上がる。狂三の姿は、来禅高校の制服を着用し、左目を長い前髪で覆い隠した。士道と始めて会った時の格好だった。
「狂三、お前・・・・」
≪安心しろ。この女には、元の世界の記憶がある≫
「えっ!?」
≪さもなければ、我がこの女の接近を許すと思うか?≫
緊張して士道は、ドラゴンの言葉に肩を揺らすが、得心も得た。狂三に対して警戒心が緩い士道と違って、全面的に狂三を警戒しているドラゴンが簡単に接近を許したのも頷けた。
「あらあら。士道さん、その態度は傷つきますわね。ーーーー共に世界を変えた仲ではありませんの」
おどけるように肩をすくめる狂三の言葉を聞いて、士道は目を見開いた。
「・・・・! 狂三、お前記憶がーーーー」
「ええ、覚えていますわよ。元の世界の事も。ーーーー折紙さんの事も」
「・・・・・・・・っ! だったら教えてくれ狂三! この世界は、何かがおかしいんだ。折紙がーーーー」
「ーーーー精霊になっていた、のですわよね」
「・・・・っ、やっぱり、知っていたのか?」
「ええ。つい先ほど、ですけれど」
「そうか・・・・」
士道は小さく俯いてから後を続ける。
「一体・・・・どうしてこんな事になってるんだ? 折紙に何があったって言うんだ?」
「それはわたくしにも分かりかねますわね。でェ、もォーーーー」
言って、狂三はその場でクルリとターンしてみせた。
「今の折紙さんならば・・・・知る方法がないでもありませんわよ」
「ほ、本当か?」
「ええ」
狂三は笑うと、ステップを踏むように踵を屋上の床に打ち付けた。すると、狂三の足元に蟠っていた影が、彼女の身体に纏割り付いていき、赤と黒のドレスの形をした霊装へと形作った。
そして右手を掲げると、影の中から1挺の短銃が飛び出し、手の中に収まった。
ペロリ、と唇を舐めながら続ける。
「この【10の弾丸<ユッド>】で折紙さんを撃てば、彼女がこの世界でどのような人生を送った来たかを知る事ができますわ。まあ無論、全て余す処無くとはいきませんけれど、何故精霊化に至ったかに焦点を絞れば、望む情報は手に入ると思いますわよ」
ーーーー【10の弾<ユッド>】。撃った対象(生物・無機物)が有する過去の記憶を、狂三に伝える弾である。
「でも・・・・それなら、元の世界で折紙が反転した時も、【10の弾<ユッド>】で原因が知れたんじゃないか?」
何とはなしに士道が言うと、ドラゴンは呆れ果てたため息を吐き、狂三が大仰に肩をすくめた。
≪トコトン頭のネジがほぼ全て弛んでボケているなぁ? 本気で外科に行って脳ミソを取り出してクリーニングでもすれば、そのカビだらけの脳ミソもマトモになるのではないか?≫
「“あの”折紙さんに近づいて【10の弾<ユッド>】を撃てると思っていますの?」
「う・・・・」
士道は頬をピクつかせる。確かに、反転した折紙を相手にそんな悠長な真似ができるとは思えない。
「と、とにかく、それがあればこの世界で折紙が反転してる原因が分かるんだろう? 頼む、狂三。力を貸してくれ!」
「うふふ、どうしましょうかしら」
面白がるように銃口を唇に触れさせる狂三。
≪はぁ・・・・・・・・んっ!?≫
と、2人のやり取りに呆れていたドラゴンが、“不穏な気配”を感知して、屋上の出入口を睨んだ。
ー折紙sideー
その頃。放課後になり、1度帰路に就いた折紙は1人、いつも着けている髪飾りである小さなピンを1つ無くしている事に気づき、来禅高校に戻ってきていた。
昔母に買って貰った大切なヘアピンを探して、今日歩いた学校の至る所を探していると、昼休みに士道と話をした屋上前の階段にて、
「あーーーーあった」
どうやら士道と話をしている時に落としたのか、床に落ちていたヘアピンを拾った。
「(五河くんが5年前のあの人の弟と分かって、興奮して手を取った時に落ちちゃったのかな)気をつけなきゃ・・・・」
折紙はそう呟き、指先で簡単にヘアピンを拭って、髪に着けた。
と、帰ろうと思ったそこで。
「え・・・・?」
折紙は、ガラス越しに見える屋上に、2つの影があるのを目撃した。
1つは、クラスメートの五河士道。
そしてもう1つはーーーー赤と黒の霊装を纏った、精霊〈ナイトメア〉であった。
「あーーーーーーーー」
それを確認した瞬間。
折紙の意識は、急に電源か落ちたかのようにプッツリと途絶えた。
ー士道sideー
≪小僧! 屋上の扉に強烈な霊力だっ!!≫
「何っ!?」
士道がガバッと屋上の出入口を見やると、キィと、扉が開き、1人の少女が顔を俯かせながら立っていた。
「あれ・・・・折紙?」
そう。その少女は紛れもなく折紙だった。何故ここに? と問おうとして、ハッと言葉を止めた。
今士道の隣にいるのは、最悪の精霊である狂三。
少し前までASTに所属していた折紙が、狂三を知っている可能性がある。
「お、折紙、これはだな」
≪暢気を言うなっ! その女ーーーー精霊の気配を出しているっ!≫
「えっ!?」
「あら?」
ドラゴンの言葉に士道が愕然となると、狂三はその士道の様子から、ただ事ではないと直感したのか、短銃を折紙に向けた。そして折紙は。
「精、霊・・・・」
ーーーーと。小さく呟くと、その身体の周囲を、クモの巣ように漆黒の闇が広がった。
「なーーーー!?」
[ドライバーオン プリーズ]
まるで折紙の周りだけが、一瞬にして夜になったかのような光景に、士道は思わず目を見開きながら、ドライバーを起動させた。
次いで、その闇が渦を巻くように折紙の身体に絡め捕られていき、まるで喪服のようなドレスを形作る。
それは紛れもなくーーーー。
「霊装・・・・!?」
驚愕に染まった声を発した。
しかもその霊装は、反転した時の漆黒の衣だ。
そう認識した瞬間、周囲に息苦しくなる緊張感と重圧が充ち満ちていく。足が震え、気を抜けばその場に崩れ落ちそうになるが、何とか踏みとどまり、すぐにドライバーを起動させると、待機音が鳴るよりも早く、リングを読み込ませた。
「変身!」
[フレイム プリーズ ヒー! ヒー! ヒーヒーヒィー!!]
〈仮面ライダーウィザード〉へと変身した。何故なら目の前には、絶大な力を持つ破壊の権化たる『魔王』が、顕現したのだから。
「やっぱりーーーー〈デビル〉はお前だったのか・・・・!?」
ウィザード<士道>が問うも、折紙は答えない。
「(ドラゴン。これって、折紙が嘘を吐いていたって事となるのか?)」
≪・・・・いや、〈プリンセス〉が反転した際に似ている≫
「(じゃあ、折紙も別の人格が・・・・!?)」
「士道さん、ドラゴンさんとの会議中に申し訳ありませんが、そこにいると危ないかも知れませんわよ」
ウィザード<士道>がドラゴンと話していると、不意に狂三がそう言った次の瞬間、沈黙した折紙の周囲にポツポツと幾つもの闇の固まりが出現、膨張し、巨大な『羽』を形成した。
「(あれは・・・・! 元の世界で折紙が反転して、街を破壊した・・・・!)」
「・・・・〈救世魔王<サタン>〉・・・・」
折紙が呟くとように言葉を発すると、無数の『羽』達が、その先端をウィザード<士道>と狂三に向けた。
「・・・・っ!」
[ディフェンド プリーズ]
ウィザード<士道>は狂三を守るように前に立ち、魔法陣の障壁を自分の前に展開させると、『羽』から発せられた幾条もの光線が放たれ、障壁の魔法陣をゆっくりとだが削られ、撃ち破ろうとする。
[ディフェンド] [ディフェンド] [ディフェンド] [ディフェンド] [ディフェンド プリーズ]
魔法陣をさらに展開していくが、徐々に追い込まれていく。
「随分とーーーー手荒いご挨拶ではありませんの!」
「狂三!!」
叫び、狂三がウィザード<士道>の背中から上方に飛び出し、短銃から影を固めた銃弾を、折紙に放った。
が、折紙の周囲に浮遊した『羽』が盾のように連なり、その1撃を容易く防いだ。
そして残りの『羽』達が、その先端を空中の狂三に向けるとーーーー。
「くーーーー」
無防備な狂三目掛けて、漆黒の光線を放った。
「狂三!!」
ウィザード<士道>が助けに向かおうとするが、その眼前に『羽』の先端が現れ、光線が放たれようとして、思わず回避した。
その僅か数瞬の間に、狂三の胸を、腹部を光線が貫き、首が、手足が分断され、華奢な少女のシルエットは、一瞬にして哀れな骸へと成り果てた。
「っ!?」
≪・・・・・・・・≫
ウィザード<士道>が驚愕し、ドラゴンは平然とし、空中からバラバラと、“狂三だったモノ”が落下してくる。それらは床に触れると同時、炭のようにボロボロと崩れ落ちていった。
〈デビル〉となった折紙! 狂三の運命は!?