デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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所々はしょりますが、折紙とのデートです。


デート・折紙

ー士道sideー

 

さて、折紙とのデートの日が訪れるまで、折紙と学校生活をしていたが、いつの間にか夕弦が折紙を再び『マスター折紙』と呼んで弟子入りしたり、十香が士道を元気付けようと奇行に走ったり、神無月が何をトチ狂ったのか来禅の制服を着て不法侵入したりと奇妙な日々が起こりながら過ごしていき。

そしてーーーー11月11日の土曜日。

士道は天宮駅前に向かって歩いていた。

 

≪青天白日。空気はヒンヤリしているが日差しは暖かい、冬が近いとは思えない天候。絶好のデート日和だな≫

 

《ーーーーにしても、少し早くない? 約束の時間は11時なんでしょう?》

 

ドラゴンの声を聞いていると、右耳に装着した小型通信インカムから、〈フラクシナス〉にいる琴里の声が聞こえる。

時刻は10時12分。待ち合わせの時間までまだ48分もあるからだ。

 

「いや・・・・折紙なら、もう来ててもおかしくない。勿論、こっちの折紙は俺の知ってる折紙とは微妙に違うから確実とは言えないけど・・・・長く待たせちまうよりマシだろう?」

 

《ふーん・・・・随分詳しいのねぇーーーー“ただのクラスメート”のわりには》

 

琴里が棘のある口調で言ってきて、士道は乾いた笑みを浮かべながら額に汗を滲ませる。

元の世界での折紙との関係性を求めた際、そう答えたのだが・・・・どうも琴里は信じ切ってはいないようだ。

 

≪・・・・まぁ、高校入学の時から、ストーカーされていただのと、簡単には言えんか≫

 

「(・・・・・・・・)」

 

ドラゴンの言葉にまたも乾いた笑みで汗を滲ませる士道。

と、そんな事を話している間に、駅前広場の噴水前に辿り着いた。

奇しくもそこは以前、十香と狂三と『アバター士道達』とトリプルデートした時の待ち合わせ場所だった。

 

「あーーーー」

 

士道は噴水の前に既にいた折紙を見て、短く声を発し、足を止めた。

理由は単純。彼女の装いだ。

可愛らしい意匠の施されたブラウスにカーディガン。秋らしいカラーのスカート。士道の記憶にある折紙ではあまりしないようなガーリーなスタイルに、思わず目を奪われた。

 

≪・・・・・・・・はぁ≫

 

ーーーーバシッ!

 

「ゲルググっ!?」

 

いつもの尻尾ド突き(威力中)で、珍妙な悲鳴をあげながらも正気に戻る士道。

 

≪な~にを見惚れているのだ。この世界の〈デビル〉は貴様の知る元の世界の無表情娘ではないのだ。そこら辺をちゃんと割りきっておけ≫

 

「わ、分かってる・・・・」

 

《はあ・・・・先が思いやられるわね。元の世界ではどうだったか知らないけれど、少なくとも今あなたの目の前をいるのは、精霊狩りの〈デビル〉よ。気をぬいていたら何が起こるか分からないわ。それこそ、時崎狂三に応対するつもりで挑みなさい》

 

「わ、悪い・・・・」

 

琴里が注意するように言ってきて、士道は深呼吸をしてから首を前に倒す。

 

「よし、行こう」

 

それを聞いて、琴里はすうっと息を吸って、

 

《さあーーーー私達の戦争<デート>を始めましょう》

 

作戦開始を宣言した。

同時に、士道は足を再度動かすと、噴水の前に立っていた折紙がふっと顔を上げ、驚いたような顔をしてきた。

 

「五河くん? 早いですね」

 

「はは・・・・それはお互い様じゃないか?」

 

士道が言うと、折紙は一瞬広場に立てられた時計を見て、恥ずかしそうに肩をすぼらせた。

 

「あの、待たせてはいけないと思って」

 

「ああ、実は俺もそう思って」

 

士道がそう言うと、折紙は目を丸くした。そして、どちらからともなく笑いが漏れる。

 

「今日は誘ってくれてありがとうございます、五河くん。・・・・でもあの、私、恥ずかしながら、男の人と2人で出掛けた経験がないもので、もしかしたら至らぬ結果になるかもしれないんですけど」

 

「い、いやいや、俺だってそんなに経験ある訳じゃないけど」

 

《あれだけの数の精霊落としておいてよく言うわ》

 

「う、うるせ」

 

「? 何か言いましたか、五河くん?」

 

「いや、何でもない」

 

琴里の突っ込みに答えると、折紙が小さく小首を傾げ、士道は慌てて誤魔化した。

 

「て言うか・・・・俺達クラスメートなんだし、敬語、やめないか?」

 

「でも」

 

「ほら、俺も何か落ち着かないしさ。頼むよ」

 

手を合わせて士道が言うと、折紙は暫し困った顔をしたが、承諾するようにコクりと頷いた。

 

「分かりまし・・・・あの、・・・・分かった」

 

折紙が、慣れない調子で言ってくる。が、士道には久方ぶりの調子に、思わず頬を緩めた。

 

「はは・・・・やっぱり、折紙はそうじゃ(バシッ!)グフッ!?」

 

「い、五河くん?」

 

また無意識に『折紙』と呼ぶ士道が迂闊な事を言う前に、尻尾ド突き(威力やや強)で黙らせるドラゴン。素っ頓狂な声をあげる折紙。

 

「ぐぅ・・・・! あ、すまん。つい呼んでしまうんだ。その・・・・なんだ、綺麗な名前だから」

 

士道は誤魔化すように言った。綺麗な名前なのは本当だが、元の世界慣れてしまったからの理由の方が大きい。

折紙は何処か落ち着かない様子だったが、悪い気はしていないようだ。口元を綻ばせ、笑みを浮かべてくる。

 

「ありがとう。ーーーーお父さんとお母さんが、2人で付けてくれた名前なの」

 

「そっか・・・・っ!」

 

お父さんと、お母さん。その言葉に、士道は複雑な思いが広がるのを感じた。

 

ーーーーピシッ!

 

≪シャンとしろド阿呆≫

 

「(・・・・あぁ)」

 

尻尾ド突き(威力極弱)で頭を叩くドラゴンの言葉に、士道は小さく頷く。

士道の様子に気づいていない折紙は、少し視線を逸らしながら唇を動かした。

 

「だから、もし五河くんがそう呼びたいなら、呼んでくれてもーーーー良いよ」

 

「え?」

 

「その、折紙って」

 

≪ほら≫

 

微かに頬を染めながら言う折紙に、不覚にもドキリとなってしまった士道は、ドラゴンが背中を尻尾で叩くような感覚を感じて正気に戻り、言葉を続ける。

 

「あ、ありがとう・・・・折紙」

 

いざ正式に呼んで良いと言われると、少し恥ずかしかったのか、折紙と同じように微妙に目を相手から外しながら言った。

 

「うん」

 

「あー・・・・っと、じゃあ、あれだ。俺の事も士道で良いよ。じゃないと、不公平だしな」

 

「え?」

 

士道が言うと、折紙が意外そうに目を丸くし、そして、少し口をモゴモゴさせてから声を発してくる。

 

「士どーーーー、・・・・」

 

が、途中で言葉を止めると、落ち着かない様子で頬をかいた。

 

「・・・・慣れてからでも、良いから」

 

「え? ああ、も、勿論」

 

≪ソコで間を置かず、場を繋げろ≫

 

「あ、あのさ、折紙。今日はーーーー」

 

と、そこで右耳に、久しぶりの音が鳴り響いた。

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

この音を聞いて、いつもは渋面を作るドラゴンだが、今回はいつもと違っていた。

 

 

 

 

 

ー琴里sideー

 

そして琴里達は〈フラクシナス〉はAIが、対象の感情値の動きを観測し、その時の士道の取るべき行動を3択の選択肢を選んでいた。

 

①【実は、君と見たい映画があるんだ】映画館で恋愛映画を。

 

②【買い物をしようと思っていたんだ】楽しいショッピング。

 

③【まだるっこしいのはやめにしないか】大人のホテルに直行。

 

と、選択肢が出て、最も多かったのは②であった。

買い物が嫌いな女の子はいない上に、相手の様子と趣味嗜好を探る為にも、汎用性の高い選択である。

皆が首肯する中、椎崎が頬に汗を滴ながら口を開く。

 

「・・・・何でいきなり③なんて選択肢が出るんでしょう・・・・」

 

「そこは〈フラクシナス〉のAIに聞いてみないと分からないわね」

 

≪〈プリンセス〉とのデートの時にいきなりホテルに誘導しようとした貴様が言うな≫

 

肩をすくめる琴里にドラゴンがツッコミをいれた。

 

「(いやぁね。あれはあくまでこちらの世界を知らない精霊だからできたのよ。士道がキスの前に事を起こしそうになったら、清掃員に扮した機関員が踏み込むつもりだったし)」

 

≪(アレにそんな根性など無いがな)≫

 

「(ま、士道にそんな度胸無いでしょうけど)」

 

等とお互いに考えていたが、今回のターゲットは元人間の精霊。即ち『ソレ』が、何の為の施設なのかを知っている可能性が高い。デートの始めにそんな所に連れて行こうものなら、平手打ちを貰っても文句は言えまい。

琴里は士道に指示を出そうとした。

がーーーー。

 

《ーーーーちょっと待ってくれ》

 

≪ーーーー少し待て≫

 

士道が声をひそめて、ドラゴンが念話で同時に声を発した。

 

「どうしたのよ」

 

《・・・・その選択肢だったら、試してみたい事があるんだ》

 

「え?」

 

いつになく真剣な士道の声に、思わず目を丸くした。

そしてドラゴンも続く。

 

≪・・・・ここ数日、〈デビル〉を観察して気になる処を見つけたのだ。それを試してみたい≫

 

ドラゴンまでそう言って来て琴里はすぐに気づいた。今回の精霊ーーーー鳶一折紙の特殊性を。

士道とドラゴンによれば、今この世界は、5年前の出来事によって分岐した世界でありーーーー別の可能性の世界では、士道と親しい間柄だったと言う。

ならば、琴里達が把握していない折紙の趣味嗜好を士道が知っていてもおかしくなかった。

琴里は一瞬の内に考えを巡らせると、チュッパチャプスの棒をピンと弾いた。

 

「ーーーーいいわ。今回は特別よ。あなたの思う選択肢を選んでちょうだい士道」

 

《・・・・・・・・》

 

琴里が言うと、士道は了解を示すように無言でインカムを小突き、折紙に向けて口を開くーーーー。

 

 

 

 

 

ーワイズマンsideー

 

そしてその頃、天宮市内にある高級ホテルの最上階。ソコを新たな拠点としている魔獣『ファントム』の頭目、ワイズマンが豪奢な椅子に腰掛け、隣にメデューサ<ミサ>を控えさせてグレムリンの報告を聞き訝しそうな声をあげた。

 

『・・・・〈デビル〉が、ウィザードと接触した?』

 

「本当なのか? グレムリン」

 

「もう! ソラって言ってよぉ! 久しぶりに士道くんにちょっかいでもかけようかなぁ、って士道くんの学校に行ってみたら、〈デビル〉とそっくりの綺麗な銀髪の女の子がいてねぇ。他人の空似と思ったけど、士道くんと〈イフリート〉ちゃんがその女の子を観察しているように見えたから、もしかしたらって思ってね」

 

『・・・・・・・・』

 

グレムリンの言葉に、ワイズマンは興味深そうに顎に手を当てた。

 

『反転精霊〈デビル〉、か。・・・・面白い、メデューサ。手勢を率いてウィザードの元へと向かえ。〈デビル〉の確保と、〈デビル〉の『中に潜んでいる者達』も捕らえてくるのだ』

 

「はっ」

 

『それとーーーーウィザード。そろそろ彼も鬱陶しくになってきたな』

 

ワイズマンが椅子から立ち上がると、部屋のテーブルに置かれたワインを手に持った。

 

「始末して良い・・・・と言う事でしょうか?」

 

『いや、“五河士道は生かしておけ”』

 

「と言うと?」

 

グレムリンが問い返すと、ワイズマンはワインをグラスに注いでいく。

 

『彼にはまだ利用価値がある。〈プリンセス〉の時のように、全ての精霊が揃い、全ての精霊が彼に好意を抱いた時、その彼が目の前で無惨に失う事になれば、精霊達は絶望し、素晴らしい『ファントム』が生まれるだろう。しかし、彼も徐々に力を増している。後に必ず厄介な存在になるだろう。故に彼からーーーー〈仮面ライダーウィザード〉の力を消す』

 

「ワイズマン。それはまさか・・・・」

 

ワイズマンはワインの中身を全てグラスに注ぎ終えると、空となったワイン瓶を手に持ち、ミサとグレムリンに見せる。

 

『この瓶のように、中身が無くなればどんなに貴重なワインが入っていたとしても、それが無くなれば、いつでも壊せるただのゴミと成り果てる・・・・』

 

ワイズマンは手に持っていた瓶から、スッと手を離すと、瓶は重力に従って床に落ちていきーーーー。

 

ーーーーガシャァァァァァァァンンッ!!

 

『ーーーー五河士道の、〈仮面ライダーウィザード〉の『力の源』を消し去れ』

 

瓶が音を立てて、粉々に砕け散るのと同時に、ワイズマンは冷酷にそう言った。

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

士道と折紙は雑居ビルの上層部にあるファミレスで食事をとろうとしていた。

 

「・・・・ごめんね。せっかく誘ってくれたのに。私ちょっと今日おかしいみたい・・・・」

 

が、折紙は額に手を突きながらそう言った。

あの後、士道は折紙を大人のホテルに連れて行こうとし、折紙が動揺して、慌てた琴里の指示によってその場を離れた。

そして改めてショッピングに行ったその足で、また選択肢が現れ、琴里は【セレクトショップで彼女をコーディネート】と【ペット・ショップで動物と戯れ、距離を縮めよう】と【強力な精力剤や媚薬の並んだ裏通りの薬屋に行こう】と言う選択肢で、琴里はコーディネートを選んだが、士道は折紙を薬屋に連れていき、折紙の感情値が物凄い波を生んでいった。

これに対して、琴里がドラゴンになぜ止めないのかと問い詰めると。

 

≪今日までのこの娘を〈プリンセス〉達を通して調べてみた結果。不倶戴天の宿敵であった〈プリンセス〉に対する発言。小僧に対する異常なまでの行動力。この娘には〈デビル〉のーーーー元の世界の鳶一折紙の人格が所々に出ていた。我らが知る鳶一折紙の行動を少し見せれば、何かしら感情値に動きがあると睨んだが。どうやらほほ当たりのようだ≫

 

確かに、結果として見れば、嫌悪感は抱いていないようだが、いや寧ろーーーー好感度が少し上がっている節さえあった。

いきなりホテルやら精力剤や媚薬を選んだりするなど、改変前の折紙は一体どんな人物だったのか。琴里や〈フラクシナス〉クルーは頭を悩ませた。

その意図を知ったドラゴンが琴里にこう言った。

 

≪〈フラクシナス〉の産業廃棄物。もしくは汚ならしい排泄物とほぼ同格の変態であった≫

 

そう琴里と琴里を通じてクルー達に伝えると、

 

《〈フラクシナス〉の産業廃棄物に排泄物? 司令が指揮するこの〈フラクシナス〉にそんな汚ならしい人間がいるのですか!? 許せません! 一体何処の誰なのですかっ!?》

 

と、怒りを露にして叫ぶ産業廃棄物&排泄物

<神無月>に、琴里達は半眼で見据えた。

 

『(コレとほぼ同格の変態って・・・・)』

 

そして折紙とのデートでの極めつけは、新しい服をプレゼントすると言って折紙をセレクトショップに連れていくと、試着の為、折紙は士道から離れた。少し待つと、試着室から折紙の悲鳴が聞こえ駆けつけ、試着室のカーテンを開けて見ると。

何とソコにはーーーー首に革製の首輪を着け、犬耳カチューシャを、お尻に犬尻尾のアクセサリーを着け、さらに言えばその服装は、スクール水着だった。

折紙曰くーーーーいつの間にか手に取って、こんな格好になっていた。そして折紙は、急な頭痛に顔をしかめたのだった。

 

≪やはり、元の世界の記憶の人格が出ているようだな≫

 

ドラゴンの言葉を聞き流しながら、感情値が激しくなった折紙に、一旦着替えて別の所に行こうと言って試着室のカーテンを閉めた。

そして今に至る。

 

「気にするなって。誘ったのはこっちなんだし、あんまり体調が良くないようだったら、今日は早めに解散するか?」

 

士道が心配そうに言うが、折紙は首を横に振った。

 

「ううん。そう言うんじゃないの。ただーーーー」

 

「ただ?」

 

「・・・・、何でもない。兎に角、大丈夫だから。ごめんね。心配かけて」

 

折紙が誤魔化すように言って、苦笑いを浮かべた。士道は未だ心配そうな視線を寄越してきたが、折紙の言葉を尊重しようとし、それ以上追及しなかった。

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は、士道に勘づかれないように小さく息を吐いた。

別に、士道と街を歩くのがつまらないのではない。それ処か、こんなに気分が高揚したのは久々と思えるくらいに、楽しくて仕方ない。

それなのに、時折・・・・不思議な感覚に教われてしまう。

コスプレショップであの頭のおかしな格好も、薬屋での精力剤に媚薬も、一目見た瞬間、身につけたり購入しようとした。それはまるでーーーー。

 

「私・・・・あの店に行った事が・・・・?」

 

「え?」

 

折紙の呟きに、士道が反応するが、それに合わせるように、注文していた料理が運ばれてきた。

 

「あ、ほら、五河くん。冷めない内に食べよ?」

 

「ん?、あ、ああ」

 

誤魔化すように折紙が言うが、士道は促されるように、スプーンを手にとってオムライスを食べ始める。折紙もまた、シーフードドリアに手を付け始めた。

 

 

 

 

ー折紙sideー

 

それから士道がオムライスを半分くらい食べた時、琴里から連絡が来て、士道は席を外した。

 

「ちょっとすまん。すぐ戻る」

 

「あ、うん」

 

折紙は小さく頷いて士道の背中を見送り、その姿が完全に見えなくなってから、大きな大きなため息を吐いた。

 

「はあ・・・・どうしちゃったんだろ、私」

 

せっかく士道が誘ってくれたのに、これでは申し訳ない。もっと気を強く持たなくては。折紙はスプーンを置くと、自分に活を入れるように軽く頬を張った。

が、その瞬間。

 

「あーーーー」

 

折紙の目は、ある物を捉えた。

決意を新たにしたばかりだと言うのに、またも心が歪むような感覚が襲ってくる。

折紙が目にしてしまったもの。それはーーーー。

 

「い、五河くんの・・・・スプーン・・・・」

 

そう。食事中に席を立ったと言う事は即ち、そこに使用中のスプーンが置いてあった。

折紙は、凄まじい勢いで心臓が高鳴っていくのを感じた。

 

「い、いやいやいや、何考えてるの私・・・・」

 

スプーンに向かって伸びかけた手を慌ててもう片方の手で制す。いくら何でも流石にそれはない。そんな事をしたら立派な変態さんだ。即座に事案発生だ。

だか、それを自覚してなお、右手が凄まじい力で伸びていく。まるで、“折紙の中にもう1人の折紙がいて、無理矢理身体を動かされている”かのような感覚だ。

 

「く・・・・っ、静まれ、私の右手・・・・!」

 

等と中二病な台詞を言っても効果はなく、次第に思考がおかしな方に混乱していく、意識も朦朧としていく、右手を止める左手から力が抜けていきーーーー。

 

 

 

ー士道sideー

 

「おう、悪いな折紙。待たせたーーーー」

 

≪・・・・・・・・≫

 

トイレから戻ってきた士道は、テーブルの前で足を止め、ドラゴンも唖然となった。

理由は単純。折紙が士道のスプーンを手に取り、この上なく淫蕩な表情で舌を伸ばしている現場に遭遇したのだ。

 

「お、折紙・・・・?」

 

言うと、折紙が今士道の存在に気づいたようにハッと肩を揺らした。淫魔に取り憑かれたかのようなウットリとした双眸に光が差し、途端に顔中から脂汗を浮かべ始めた。

 

「ち、違うの! これは・・・・違うの!」

 

何が違うのか分からなかったが、折紙が慌てた様子で声を上げた。

 

「い、いや、大丈夫だから・・・・慣れてるし」

 

≪いや、慣れるな≫

 

「聞いて! 本当に違うの! そ、そう、あの、あれ! 席を立とうとした五河くんのスプーンが床に落ちちゃって! それを拾った処なのっ!」

 

≪では床に落ちたスプーンを何故舐めようとしたのだ?≫

 

折紙が士道に縋るように叫び、ガタンと音を立ててその場に立ち上がる。

すると、その際の衝撃でテーブルの上に置いてあったコップがグラリと揺れ、士道の方に向かって倒れてしまい、士道のシャツの裾に、水が飛び散る。

 

「おっと・・・・」

 

「あっ! ご、ごめんなさい、私、慌てちゃってーーーー」

 

「はは、これ位は大丈夫だって。すぐ乾くだろうし」

 

恐縮する折紙を宥めるように言って、士道はシャツの裾を摘まみ、水を切るように軽く絞った。その際、チラっと士道のヘソが覗いた次の瞬間ーーーー。

 

「ーーーーーーーー!」

 

折紙がクロックアップしたような超加速で、ポケットからスマホを居合い抜きの如く抜くと、流れるような動作でレンズを士道のヘソに向け、連続でシャッター音を響かせた。

 

「えっ?」

 

「はっ!」

 

士道が驚きに目を見開くと、何故か折紙も同じように驚愕の表情を作った。まるで、自分の意思に反して身体が動いたかのように。士道がドラゴンに身体を動かされた時と同じように。

 

「信じて、五河くん・・・・! わ、私・・・・身体が勝手に・・・・!」

 

折紙の目がグルグルと渦巻きになり、涙を浮かべながら訴えてくる。しかし彼女の指はその間中、連続してシャッターを切っていた。

 

「ーーーー何で!? 何でぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

折紙の涙声と絶え間無いシャッター音が、昼下がりのレストランに響き渡った。

 

≪やはりこの娘、元の世界の性癖と人格が残っているな≫

 

《だから、どんな性癖だったのよっ!?》

 

ドラゴンの言葉に、琴里は盛大なツッコミを入れた。

 




本能的な士道への求愛。元の人格、反転していても士道への欲は抜けていないとか、マジで恐い・・・・!
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