デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
てんやわんやの事態が起こったデートが起こり、現在は18時30分。11月ともなれば日が落ちるのも早く、街はすでに深い闇に沈んでいた。
士道と折紙は、デートの締め括りとしてムードいっぱいの場所、街を一望できる高台の公園を訪れていた。
公園の外縁から数多の星を望みたいが、地上に輝く電気の光の方が強くて、星よりも輝いて見えるのはご愛敬と言う事で。
≪懐かしいではないか? 元の世界で〈プリンセス〉との初めてのデートで最後に訪れた場所で、同時に貴様が〈デビル〉に狙撃された場所で締め括りとは≫
確かに、元の世界で士道と十香、そして折紙にとっても、良くも悪くも因縁浅からぬ場所で折紙とのデートの締め括りにするとは、何とも奇妙な巡り合わせだ。
士道は少し苦笑いをしながら口を開く。
「流石にこの時間になると少し冷えるな」
「うん、日がある内は暖かかったから油断してたね。手袋を持ってくれば良かったかな?」
そう言って、折紙は苦笑しながら手と手を摺り合わせる仕草をした。
昼間こそ色々と暴走した彼女であるが、どうにか落ち着きを取り戻した。
≪小僧のヘソの撮影の後、いつの間にかまたスマホのレンズを向けたり、小僧の首筋の匂いを嗅いでいたり、手には持っていないのに小僧の飲み掛けのコップに何かを注ぐような仕草をしたりと、条件反射のような奇行を繰り広げていたが・・・・やはりこの娘、改変前の人格が目覚めかけているな。良くも悪くも・・・・≫
「(・・・・いやでも、何と言うか、やはり折紙は折紙だなあって(ぺチッ)いてっ)」
内心妙にホッとする士道は尻尾ド突き(威力極弱)で頭を叩かれる。
≪感性イカれているのか?・・・・まぁ今はそんな事よりも、女の子が手が冷たいと言ってるぞ。恋愛ゲームの訓練でもこういう展開があっただろう≫
「・・・・・・・・・・・・」
士道は暫し無言で目を泳がせた後、意を決して自分の手を、折紙の手に重ねた。ーーーー緊張の為か寒さの為か、士道の手も微かに震えているようだ。
「えっーーーー」
折紙は一瞬驚いたように目を丸くするが、すぐに士道の意図に気づいたようで、頬を紅潮させて、少し顔を俯かせた。
《ふふん、良い感じじゃない。好感度も悪くないわ。これは今日中に片を付けられるかも知れないわね。ーーーーただ、確実に封印するには後一押しって感じかしら?》
右耳のインカムから、琴里がフウムと唸るように言ってくる。すると、それに答えるように令音の声が響いた。
《・・・・ああ。後1つ、彼女の中に引っ掛かりがあるようだ。この反応は・・・・不安感に近いね。シンが自分を受け入れてくれるか分からない、と言った所だろう》
《不安感・・・・か。まあ、あんな奇行を繰り返した後じゃあねえ・・・・》
琴里が乾いた笑いを浮かべるように言う。
《ま、でもそれなら話は早いわ。彼女の不安感を解消すれば良いわけね》
≪それで、具体的にはどうするのだ?≫
ドラゴンの問いに、琴里がフフンと鼻を鳴らした。
《決まってるじゃないの。折紙は士道が自分を受け入れてくれるか分からないから不安になってるんでしょう? なら、言葉にしてあげるのが1番手っ取り早いじゃない》
≪・・・・まさか・・・・≫
《“愛の告白”、しかないわよねえ》
何となく予想できていたのか、士道は頬にタラリと汗を一筋垂らし。ドラゴンは半眼になった。
≪(元の世界でも、訓練の名目でこの娘に告白させられたが・・・・)≫
「(あの時のあれがきっかけになって、折紙が俺に積極的にアピールしていたけど・・・・この折紙はどうなるんだ?)」
士道&ドラゴンがそんな事を考えていると、琴里が急かすように声を響かせる。
《何躊躇ってるの。精霊狩りの〈デビル〉を封印するまたとないチャンスなのよ? 今日を逃したら、次の機会が巡ってくるまでに、他の精霊に被害が出るかも知れないわ》
「うーーーー」
確かにその通りだ。
不誠実だろうが、ここで折紙を封印しなければ、既に封印を施された精霊達やまだ見ぬ精霊達が、折紙が傷つけてしまう。或いはーーーー折紙自身と言う可能性も。
それだけは、士道には許容できない。
スウッと深呼吸をすると、折紙の手を握ったまま彼女の方を向いた。
「なあーーーー折紙」
「何、五河くん」
「その・・・・聞いて欲しい事があるんだ」
士道がそう言うと、折紙は神妙な面持ちで士道の目を見返してきた。
折紙とこうして見つめ合った瞬間、途端に心臓の鼓動が大きくなっていくのが分かる。
こうして貌を見つめると、改めてその可憐さを認識できた。額に煙る前髪。長い睫に彩られた透き通るような双眸。少しでも触れれば心奪われそうな桜色の唇ーーーー十香達もとてつもなく美少女であるが、折紙も全く負けていない。こんな少女に好かれていただなんて、元の世界の士道は何て果報者なのだろうかと言う考えが頭を掠めた。
≪(ま、その美貌を一瞬で消滅させてしまう変態奇行があったからだろうがな)≫
いつまでも感慨に耽っている訳にはいかない。士道はゴクリと息を呑むと、折紙の心に蟠る不安を取り除くべく、唇を開こうとした。
が、その一瞬前に。
「実は、私も・・・・五河くんに言わなきゃならない事があるの」
折紙が静かにそう言ってきた。
「い、言わなきゃならない事・・・・?」
何となく告白タイムをずらされて、士道は聞き返した。
すると、折紙は数瞬の間、迷うように視線を逸らしながら、ゆっくりと唇を動かした。
「私がASTーーーー陸自の対精霊部隊にいた事は知ってるんだよね」
「ああ・・・・知ってるよ」
「でも私、少し前にASTを辞めてるんだ」
「・・・・・・・・」
≪余計な事を言うなよ≫
言葉を濁しそうになる士道をドラゴンが止める。
「・・・・そう、なのか。・・・・この間みたいに、貧血で意識が途絶えるようになったからか?」
士道が言うと、折紙はフッと目を伏せた。
「うん。それも原因の1つ。危険な武器を扱う仕事に、その症状は致命的だからね。でもーーーーその症状が出てきてからかな。私、良く分からなくなってきちゃって」
「分からなくなった? 何がだ・・・・?」
そう言うと、折紙は気まずげに苦笑した。
「・・・・空間震の原因である精霊を倒すのがASTの仕事なのに・・・・私、それが本当に正しい事なのか、なんて思っちゃって」
「なーーーー」
≪っ!≫
士道は元の世界であれほど精霊を憎み、精霊を殺す事のみを人生の目的として生きていた折紙の意外な言葉に思わず声を詰まらせ、ドラゴンは一瞬で思案した。
≪(両親が精霊に殺された『真実』を塗り替えた事が大きな要因なのだろうが、おそらく無意識下で自身も精霊となった事を感じたのだろうか。・・・・やはり我らの知る無表情娘とは違うようだな)≫
折紙は士道の反応をどう受け取ったのか、申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「・・・・ごめんなさい。精霊は、五河くんのお兄さんを殺した仇の筈なのに」
「あ、謝る事なんてない!」
「え・・・・」
折紙は、意外そうな顔を作った。正確には士道自身だがーーーー兄を殺された筈の士道がそんな事を言うだなんて思っていなかったのだろう。
「俺は、折紙のその考えが悪いだなんてこれっぽっちと思わない。俺ーーーーじゃなくて、兄貴だって、きっとそう言うに決まってる!」
「五河くん・・・・」
折紙が震える声でそう言うと、微かに肩を震わせながら、今にも泣きそうな顔をした。
「あ、ご、ごめん・・・・私、何でこんな」
言って、誤魔化すように顔を逸らす。士道はそれ以上追及する事はせず、折紙の手を握った手を、さらに強く力を込めた。
すると、その時。
「・・・・!」
≪今まで1番楽だったな≫
不意にインカムから、ファンファーレのような音が聞こえてきた。
《ーーーー好感度、急上昇!》
《ポイント、上限に達しました!》
《・・・・ふむ、どうやら彼女に残っていた不安感は、これが原因だったようだね》
次いで、令音達クルーの声が聞こえた。
≪〈デビル〉は自分の中に芽生えた精霊への今までとは違う感情を、小僧がどう思うかを悩んでいたようだな≫
《よし・・・・! 士道、良い感じよ! そのまま一気にクライマックスを決めちゃいなさい!》
ドラゴンと琴里が、ゴーサインを出すように言う。
≪・・・・ムードもへったくれも無いが、さっさとやれ≫
ドラゴンの呆れた言葉に内心同意しながら、士道は折紙の手を握ったまま苦笑したが、好機なのは確かであった。呼吸を整え、心臓の鼓動が緊張で大きくなるのを抑えると、静かに折紙に向き直った。
「折紙、あのなーーーーっっ!!」
≪むっ!≫
士道が告白しようとしたその瞬間、ゾッとする殺気を感じ、ドラゴンも何かの気配を感知したように視線をソチラに向け、それに遅れて、士道も顔をソチラに向けた。
「五河くん・・・・?」
折紙も士道の視線を追うと、ロングコートを羽織った、季節は秋なのに、まるで冬にいるような気分にさせられる冷酷な目をした自分達と同い年の少女と、羽根つき帽子を被った少々軽薄そうな男性、そしてその二人の後ろをまるでSPのように控えている、黒服の四
人の女性達だった。
「五河くん、あの人達って・・・・?」
「何で、ここにアイツらが・・・・!」
そうーーーー現れた彼らは、ASTが識別名称〈アンノウン〉と呼称する、『魔獣ファントム』。
その幹部である『メデューサ・ファントム』が変身したミサ。『グレムリン・ファントム』のソラ。そして後ろに控える女性達はおそらく、『ガルーダ・ファントム』と『ユニコーン・ファントム』、『クラーケン・ファントム』に『ゴーレム・ファントム』の人間態であろう。
「・・・・成る程。こうして近づいて見れば確かにこの気配は・・・・。しかも、『ゲート』ーーーーいや、少し違うな? 『ゲート』ではあるが、“気配が二つもある”・・・・」
「ふぅん。改めて見ると、本当に信じられないよ。僕達を何度も邪魔したり攻撃してきた〈デビル〉が、こんな可憐な女の子だったなんて」
「っ!」
「えっ? 〈デビル〉・・・・? 何の事・・・・?」
グレムリンの言葉に折紙は意味が分からず首を傾げた。
このままでは折紙に悪影響だと感じた士道は前に出る。
「折紙! ここは俺が何とかする! ここから離れるんだ!」
[ドライバーオン プリーズ シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]
ドライバーを起動させた士道がリングを構える。
「変身っ!!」
声を上げて叫ぶと、『フレイムリング』のメガネを下ろし、ベルトにスキャンした。
[フレイム プリーズ ヒー! ヒー! ヒーヒー、ヒィー!!]
左手を横に伸ばすと、その先に魔方陣が現れ、左から右に移動して、士道の身体を魔方陣が通過すふと、赤い烈火の魔法使い、〈仮面ライダーウィザード フレイムスタイル〉へと変身した。
「少し遊んでやるか」
ミサがそう言うと姿を変貌させ、他のメンバーも『魔獣ファントム』へと変貌した。
「あ、〈アンノウン〉・・・・!?」
「折紙! 早く離れろ!」
[コネクト プリーズ]
ウィザード<士道>はウィザーソードガンを構えて、銀の銃弾を放つ。が、グレムリンは刃を取り出すと全て叩き落とし、加速でウィザード<士道>を切りつける。
「ぐぁっ!?」
『はは、僕と戦うのって初めてだよねぇ? 士道くん?』
『『『『っ!』』』』
ガルーダが2本の翼のような剣を、ユニコーンが角のように太いレイピアを、クラーケンが銛を、ゴーレムが大きな両手を擦り合わせて、ガンガンと音を立てながら、ウィザード<士道>に向かった。
『シャァッ!』
「ぐぁ!」
『はあ!』
「あぁ!」
『ほらほら!』
「うぅっ!」
『りゃぁっ!』
「うわぁぁぁぁっ!!」
十字に切られ、レイピアと銛に左肩や右脇を貫かれ、両の拳で殴られ、ウィザード<士道>はゴロゴロと倒れ、ウィザーソードガンを落とした。
「ぐっ・・・・うぅっ・・・・!」
「五河くん!!ーーーーえっ?」
折紙が悲痛な声をあげ、近くに転がってきたソードガンを持って、銃口をグレムリン達に向けて構える。
が、その時、ウィザード<士道>を見て、呆然と声を発する。
「くぅぅぅ、これを使うか!」
先日輪島のおっちゃんに貰った、『ドラゴンの目が燃えているリング』をバックルに翳した。
[エキサイト プリーズ]
魔法陣がウィザード<士道>の身体を通過すると、ウィザード<士道>の身体が二回り大きくなり、筋骨隆々の身体となった。まるでアメリカンヒーローの緑色の超人のようだ。
「(ええ、こういう魔法・・・・?)」
≪良いから、さっさとやれ筋肉達≫
「たくっ、うおおおおおおおおおおっ!!」
ウィザード<士道>は雄叫びを上げながら、メデューサ達に向かって、大木のようになった腕で振る。
『っ!』
『おっと!』
メデューサとグレムリンは回避したが、ガルーダ達は殴り飛ばされた。
『『『『あああああああああ!!』』』』
「ふぅーーーー」
すぐに肉体を元に戻したその瞬間ーーーーインカムから、耳をつんざくサイレンが鳴り響いた。
《・・・・!! 士道! 折紙が!》
「えっ!」
琴里の叫びが鼓膜を震わせると同時、ウィザード<士道>は折紙に目を向けた。
折紙はウィザード<士道>に視線を向けたまま、ソードガンを構えていた両手をダラン、と力無く下ろし、ソードガンを地面に落とす。
≪っ! しまった! 小僧! 貫かれた傷がっ!≫
「っ!」
その時、ウィザード<士道>も気づいた。ユニコーンとクラーケンの1撃を受けた時、僅かに傷が生まれていた。そして、その傷を舐めるように、〈イフリート〉、琴里の霊力の炎が揺らめいていた。
「・・・・・・・・・・・・」
折紙は先ほどとはまるで印象の違う虚ろな目で、呟く。
「ーーーーーーーー精霊・・・・・・・・」
「・・・・・・・・っ!」
ウィザード<士道>は目を見開いた。
それは、先日屋上で見たものと、全く同じ光景であったからだ。
ーーーー折紙が、精霊・狂三を目撃者した時と。
令音の話した『仮説』が、士道の脳裏を掠める。
【折紙は、精霊を目にした時に限り、元の世界の記憶を取り戻しーーーー精霊と化す】
そして、ウィザード<士道>の身体を舐めた炎こそまさに、精霊〈イフリート〉の力であった。
「ぁ、ぁ、ああ、あ、ぁ、ああ・・・・」
折紙は、虚ろな目で空を見上げながら、身体を小刻みに痙攣させ、唇の端からはヨダレが垂れ、尋常でない様子を表していた。
「お、折紙、待ーーーー」
『やはり!』
『へぇっ!』
ウィザード<士道>が泡食って折紙に呼びかけようとするのと同時に、メデューサが頭の蛇達を折紙に向かわせ、グレムリンが加速して折紙に刃を振り下ろそうとしたその瞬間、折紙の身体の周りに凄まじい霊力のベールが生じ、ウィザード<士道>とメデューサ、グレムリンの身体を軽々と後方に吹き飛ばした。
「ぐ・・・・っ!?」
ウィザード<士道>はどうにか体勢を整え、吹き飛ばされながら地面に着地するが、ズザァァ、足から土煙を上げてブレーキをかけた。漸く止まり、顔をあげるとソコにはーーーー折紙を中心とした真っ黒いクモの巣のような物が放射状に広がり、それが渦のように折紙の身体に纏わり付いていった。
「あれはーーーー」
喪服の如き漆黒の霊装。
その姿はーーーー紛れもなく。
元の世界で天宮市を蹂躙し尽くした、あの反転体の姿だった。
≪それだけではない! 足元を見ろっ!≫
ドラゴンが叫び、ウィザード<士道>は折紙の足元を見た。ソコには漆黒の影がまるで円形の沼のように広く、大きくなっていく。そしてその闇の中から、何かが出てこようとしている。
「ま、まさか・・・・!?」
≪その、まさかだ・・・・!!≫
ウィザード<士道>が戦慄に染まりながら声を発し、ドラゴンが苦い声でその戦慄の理由を肯定したその時、闇の沼の中から、それと対となるような、純白の光を纏い、これまた何枚もの純白の翼に包まれた巨大な存在。
見る人間によれば、天使か神が闇の中から現れたように思えるーーーーその神々しくも恐ろしい異形の怪物が現れた。
「・・・・エンジェル、ファントム・・・・!!」
そう、精霊となった折紙が絶望した事によって生まれた『魔獣ファントム』ーーーー『エンジェルファントム』だった。
『FAAAAAAAAAAAAAAAAAA・・・・!』
「・・・・・・・・!!」
≪援軍を呼ぶ≫
その歌声にも感じる雄叫びを聞いて、身体を硬直させるウィザード<士道>に、一応ドラゴンが、念話を発動させた。
ー十香sideー
「むー・・・・」
折紙が反転体となる少し前、精霊マンションの十香の部屋にて士道に封印された全精霊達が集まったいた。
十香は大きなクッションを抱えながらソファに転がっており、八舞姉妹はアイスを賭けてレースゲームで対戦し、その後方では四糸乃と七罪が談笑している。
士道と琴里が大事な用があって留守。ドラゴンも今日は自宅で留守番をしなさいとも言われており、十香の部屋に集まったのだ。
「ぬう・・・・」
何度目かの唸り声をあげる十香は寝返りを打つ。
別に留守番に不満はない。何度かこういう事はあった。
士道のご飯が食べられないのは少し寂しいが、士道達も忙しいのだから我が儘を言って困らせてしまう訳にはいかないと、ドラゴンが聞けば猫可愛がりしそうな事を考える十香。
しかし、十香はここ数日、妙な胸騒ぎを感じていた。あの転入生が来てから、どうも胸の辺りがムズムズしている。
十香はそれが何故なのか分からず、難しげに喉を震わせていると、今日はOFFだったのか、遊びに来ていた美九が十香と背もたれの隙間に潜り込み、十香の背中に顔を押し当て、息を荒くして呼吸した。
保護者<ドラゴン>がいなくて暴走する美九を引き剥がそうとする
ーーーーと、その瞬間。
「・・・・・・・・ッ!?」
十香は思わず眉をひそめた。
はっきりと理由はわからない。だがーーーー身体が何かを感じ取った。まるで頭の中で火花が散ったような感覚だ。
「な・・・・」
「戦慄。今のはーーーー」
対戦していた八舞姉妹も、その後方で談笑していた四糸乃と七罪も、十香にしがみ付いていた美九もまた、十香と同じように感じたようで、眉根をよせながら視線を巡らせた。八舞姉妹はその際コントロールん誤ったのか、テレビ画面では、世界的に有名な赤い帽子の配管工とその弟である影の薄い緑色の配管工の乗る車が、クラッシュしていた。
「な、何でしょうか・・・・」
「ーーーーーーーー」
驚いた顔を作っていた美九の拘束が弛んだ隙に離れた十香は、本能的に危険を察知すると、ソファから飛び起き、窓を開けて素足のままマンションのベランダに出て、手すりから身を乗り出すようにして右へ左へ目をやると、夜空の中、遠くの高台辺りから、ボンヤリと光を放っている事が分かった。
「あれは・・・・!」
普通の人間であれば、さして気にも留めなかったであろう程度の明かり。しかし、精霊である十香は一目で気づいた。あの輝きが、霊力によるものであると。
「(ーーーーあの場所に、とてつもない力を持つ者がいる・・・・!)」
「ふん、キナ臭いな。この感じは・・・・」
「首肯。精霊ーーーーですね」
他の皆も十香の後に続いてベランダに出てきて、十香と同じように霊力を感じた方向に視線をやる。
「あの・・・・あそこって」
「あー、確か公園がある辺りでしたっけ?」
「・・・・・・・・!」
美九がそう言った瞬間、十香の頭の中に、今ここにいない士道の顔が過った。
「(そうだ。言われてみればあそこは、シドーと初めてデートで連れていって貰った場所だ・・・・!)」
それを認識した瞬間、十香の心臓が早鐘のように鳴った。
別にソコに士道がいると決まった訳ではない。だが、脳裏に浮かんだ士道の顔が、今までずっと蟠り続けていた違和感と混ざり合って、十香の心拍数を荒くした。
その時ーーーー。
≪緊急召集! 全員、今見ている公園に集まってくれっ!!≫
『「「「「「っ! ドラゴン(さん)(くん)(ハニー)っ!?」」」」」』
ドラゴンからの念話が届くと同時に、十香は半ば無意識のうちにベランダの手すりに足をかけ、そのまま夜闇に身を踊らせ、『スピリッドライバー』を腰に着けて、『プリンセスリング』を翳した。
[ドライバー セット シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]
「変身!」
[プリンセス プリーズ!]
十香は〈仮面ライダープリンセス〉に変身すると、真っ直ぐに空を駆け、その場所へと向かった。
その時、目的の場所から、純白の光が現れ、さらに魔獣ファントムのような、ゾワンギゾワンゴな気配を、プリンセス<十香>は感じ取った。