デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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折紙を救出のラストスパート!


その手を掴む

ー折紙?sideー

 

折紙の頭の中で、2つの記憶が混じり合う。

自分の中にもう1人の自分がいるのを、まるでテレビの2画面で同時に見ているかのような奇妙な感覚。だが、それもその筈、『元の世界の折紙』も、『この世界の折紙』も、折紙自身である事に変わりはないのだ。

この2つの記憶を持つ事で、『この世界の折紙』は全てを理解した。

今日、士道とデートした時に生まれた奇妙な違和感。士道に会ってから時々、自分の身体が自分とは別の意思によって動くような感覚。それは、折紙の身体が、潜在意識が、士道の存在に反応して起こったものだったと、聡明な折紙は理解したのだ。

今のこの異常な状態もそうだ。本来ならば『この世界の折紙』は『今』ーーーー精霊の力が発現している状態で目を覚ます事はない筈だった。

しかし、士道と言う存在の影響によって『元の世界の記憶』と『この世界の記憶』の境界が曖昧になりーーーー結果、折紙は2つの記憶が接触すると言うイレギュラーを起こしてしまったのだ。

そしてそれは、折紙に途方もない混乱をもたらした。心を閉ざし、全てを捨て去ろうとする『元の世界の折紙』と、それをどうにか止めようとする『この世界の折紙』が、1つの器で複雑に絡み合う。

 

(私は5年前、お父さんと、お母さんをーーーー)

 

(ーーーーこの世界では、そんな事は起きてない! お父さんとお母さんは5年前、五河くんのお兄さんが助けてくれた・・・・!)

 

折紙の言葉と同時、両親を光線から救ってくれ仮面の戦士の姿が浮かび上がる。

嗚呼、思えばそれは『士道の兄』ではなく、士道自身であった。『元の世界の記憶』を有した今だからこそ、そう確信できた。

そしてそれに次いで、火災の後両親と過ごした1年の優しい時間が、『この世界の折紙』の脳髄に染み渡っていく。微笑む父と母。温かい団欒。親子3人で過ごした宝石よりも燦然したかけがえのない時間。きっとこの記憶があったなら。この光景が脳裏に残っていたならば。『元の世界の折紙』はもっと別の生き方をしていただろう。

ーーーーしかし。

 

(なら・・・・これは何なの? 私の中にあるこの記憶は、一体何だと言うの・・・・!?)

 

辺りの景色が燃え上がる。炎が揺らめく街の光景が浮かび上がる。道に刻まれたクレーター。散らばる人間だった部品。ながれる事なく焦げた血。空を見上げる幼い折紙。

それは正しく、『元の世界の折紙』が体験した、5年前の出来事だった。

地獄のような記憶に、『この世界の折紙』は強烈な目眩と嘔吐感を覚える。

 

(う、ぁ・・・・、あ・・・・)

 

鮮烈な現実。それはそうだ。この地獄を経験したのは、『折紙』自身なのだから。

 

(私は、もうーーーー駄目なの。もう・・・・私は

・・・・)

 

(そんな・・・・事・・・・)

 

悲哀と憤怒と凄まじい嫌悪が混ざり合い、感情を押し潰されそうになりながらも、『この世界の折紙』は声を上ようとした。

しかし、それを途絶えさせるように、別の記憶が浮かび上がってくる。知る筈の無い世界の出来事。反転する視界。空に広がる闇。全てを破壊する光。崩壊する街。そのあまりにも凄惨な光景に、思わず悲鳴をあげそうになる。

 

(ぁ、あ、あ、ああああああ・・・・ッ)

 

『この世界』では起こっていない。しかし確かに、折紙が引き起こした光景。

『この世界の折紙』は、視界がグニャリと歪むのを感じた。自分の存在が黒く染められていくかのような錯覚に、意識を保つ事さえ困難になる。

ーーーーだが、駄目なのだ。『この世界の折紙』が意識を失ってしまったら、もう『元の世界の折紙』を止める者がいなくなってしまう。

5年前の出来事は『無かった事』になったから、もう気にするな等とは言えない。

『元の世界』で起こした大破壊はここでは起こっていないから、忘れろ等とは言えない。

しかし、『この世界の折紙』がここで全てを諦めてしまったなら、まだ何も起こっていない『この世界』で、『折紙』は同じ事をしてしまう事になる。

きっと幾つもの街が滅びるだろう。きっと何人、いや、何万人か何億人もの人が死ぬだろう。

そうしたなら、きっと『折紙』はもう永劫に、元に戻れなくなる。それだけは、何としてでも止めなければならなかった。

だが、

 

(う・・・・ッ、あ、ああーーーー)

 

次々と流れ込んでくる負の感情の奔流に、『この世界の折紙』は遂に膝を突いてしまった。

きっと『この世界の折紙』も分かっている筈だ。犯してしまった過ちが、『この世界』では存在しない事も。『この世界』でならやり直せる事も。何故なら『元の世界の記憶』が共有されたように、『この世界の記憶』も、『元の世界の折紙』も持っているのだから。

しかし、それを認識してもなお、『この世界』で自分が生き続けて良い筈がない、と言う感情が、『この世界の折紙』の中で暴れ回っていた。

 

(や・・・・めて、私はーーーー、あ、あああああああああああああああ・・・・ッ!!)

 

『この世界の折紙』は、悲鳴を上げた。

 

(ーーーー私の声だけじゃ、足りない・・・・!)

 

『この世界の折紙』だけでは、『元の世界』の折紙を救う事はできない。『この世界の記憶』を共有し、『元の世界の折紙』の目を開かせる事が精々だ。

そうーーーー『この世界の折紙』には、『元の世界の折紙』の背を押す事しかできない。

『元の世界の折紙』を救う為には、外から誰かが声をかけてくれなければならなかった。誰かが、その手を取ってくれなければならなかった。

だが、反転し、世界に絶望撒く『元の世界の折紙』に、手を伸ばしてくれる人間などーーーー

 

 

「ーーーー折紙・・・・っ!」

 

 

が、そんな何も無い空間に、声が響いた。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

『折紙』の空間にその声が響く少し前、ウィザード<士道>は現実世界に顕現したウィザードラゴンの背に乗り、漆黒と純白の光線の雨の中をーーーーいや、最早豪雨と読んでも良い程の隙間すら無い光線の中を突っ切りながら折紙の元へと向かった。

 

『ぬぅぅぅぅ! 流石にこれ程の光線の中を突っ切ろうとする馬鹿はそうはいないだろうなっ!』

 

「それでも行くんだ! 折紙が彼処にいる!」

 

ドラゴンが自分達を囲むように、『リフレクター』と『ディフェンド』を2重に張っていなければ、今ごろレンコンのような穴だらけなど生ぬるい、肉体の欠片すら残らない状態になっていただろう。それこそ、琴里の〈灼爛殲鬼<カマエル>〉の再生能力でも治癒できるか分からない程に。

 

『やはりウザったいのはあのファントムだな! ヤツが〈デビル〉の〈魔王〉を代わりに使い始めている!』

 

折紙を両手で包んでいるエンジェル・ファントムが、折紙の〈救世魔王<サタン>〉に操作し始めた。〈救世魔王<サタン>〉自体、本来ならば折紙が操るべきの物を折紙が操作しないでいた為に、操作の主導権をエンジェル・ファントムが握り始め、徐々に漆黒と純白の『羽』が連携を取り始めた。

 

「クソッ! 先ずはコイツを倒してからかよっ!?」

 

『馬鹿者! 攻撃するには1度防御を解除するしかない! こんな状態で解除したら一瞬で塵芥にされるわっ!!』

 

光線の豪雨を防ぎながらも突き進むドラゴン。しかし、エンジェル・ファントムが完全に〈救世魔王<サタン>〉の力を使いこなしてしまえば、形勢はこちらが不利になる。

プリンセス<十香>達もドラゴンから防御魔法をかけられているが、近づこうにもこの光線の豪雨に遮られて動けない。

他のドラゴンスタイルも呼び寄せたくても、メデューサ達と交戦していてそれも不可能。

 

『(何故奴等は追ってこない?)』

 

だが、ドラゴンはメデューサ達と交戦しているハリケーンドラゴン達の様子をちょくちょく片目でハリケーンドラゴン達の状況を、まるで二面画面で見るように眺めながら、訝しそうに眉根を寄せた。

ハリケーンドラゴンもウォータードラゴンもランドドラゴンも6対3の不利な状況で必死に食らい付いているが、幹部級が2体もいる上に、何やらメデューサとグレムリンはまるで、“手を抜いて戦っているかのような違和感”を感じてならなかった。

 

『FAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 

しかし、そんな思考をすぐに切り替えさせるように、エンジェル・ファントムから咆哮が上がると、『漆黒の羽』と『純白の羽』がそれぞれ一纏めになり、砲口から濃密な霊力と魔力が収束されていった。

 

「ドラゴン! あれは・・・・!」

 

『不味いな! あんな2つの砲撃を全て防ぎきるのは至難だ! 1発でも地上に当たれば甚大な被害が出る!』

 

ウィザード<士道>とドラゴンが前に出る。

あの2つの収束砲から放たれるであろう、濃密な漆黒と純白の極大の光線を防ごうと、魔力を全開にしようとしたその瞬間ーーーー。

 

「「はぁああああああああああっ!!!」」

 

ーーーーズガンッ!

 

ーーーードカンッ!

 

ーーーーバシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!×2

 

その2つの大砲を下から突っ込んできた2つの影が上空に向けさせると、2つの光線は天高く昇っていった。

何事か!? と思ったウィザード<士道>だが、その2つの影を見て叫んだ。

 

「琴里!ーーーー真那!!」

 

宙に浮いていたのは、〈仮面ライダーイフリート〉となった琴里と、〈仮面ライダービースト〉となった真那だった。

 

「どうも兄様! 助っ人登場! でやがりますよ!」

 

「さっさと終わらせるわよ!」

 

「琴里、お前どうして!?」

 

「知らないわよ! 落ちそうになった〈フラクシナス〉を『白い魔法使い』が『テレポート』で〈ラタトスク〉が所有する地下施設に運んでくれたと思ったら、いきなりブリッジに真那と一緒に現れて、無理矢理連れてこられたんだから!」

 

憤慨した様子で怒鳴り出すイフリート<琴里>。自分の艦を撃墜されたのだから仕方ないと言えるが。

ビースト<真那>は苦笑いを浮かべたような声を発する。

 

「まぁまぁ琴里さん、抑えるでやがりますよ。とりあえず。天使のような姿をした大型は真那達に任せやがってください!」

 

『小僧。あのリングを』

 

「あっ!・・・・真那! このリングを使え!」

 

ウィザード<士道>は、『ミラクルウィザードリング』をビースト<真那>に投げ渡した。ビースト<真那>はそれを受け取ると、一瞬首を傾げるが、ビーストドライバーにセットした。

 

[ミラクル! ゴー!]

 

音声が響くと、ビースト<真那>の身体に魔法陣が浮かび上がり、その中からーーーー。

 

ーーーーガォオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

ビーストキマイラが飛び出した。

 

「おおっ! 皆っ!」

 

『ありゃ?』

 

『何じゃこりゃぁ!?』

 

『私達、真那ちゃんから出てるわっ!』

 

『これなら戦える!』

 

『ンモォウ!!』

 

『それで出来る限り時間を稼げ!』

 

そう言うと、ドラゴンは折紙に向かって再び翼をはためかせて向かう。

 

『FAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 

エンジェル・ファントムがそれを妨害しようとする。がーーーー。

 

『『『『『おりゃぁあああああああああああああああああああああ!!』』』』』

 

『っっ!!』

 

ビーストキマイラは全ての頭部の目から光線を放ち、エンジェル・ファントムを折紙から引き剥がした。

 

『真那! 取り敢えずワシらはあのファントムじゃ!』

 

「了解でやがります! 琴里さん!」

 

「たくっ! 八つ当たりさせてもらうわ!!」

 

ビーストキマイラに跨がったビースト<真那>の後ろに跨がったイフリート<琴里>が、カマエルブレイカー・バスターモードで攻撃する。

そして、プリンセス<十香>達も合流し、全員でエンジェル・ファントムを相手に飛び出していく。

それを背後に、ウィザード<士道>は漸く、折紙の元にたどり着き、ドラゴンの背から立ち上がり、頭の変身を解除すると折紙に向かって声を発した。

 

「ーーーー折紙・・・・っ!」

 

 

 

 

ー折紙sideー

 

(・・・・・・・・!)

 

不意に響いた声に。『折紙』は、顔を上げた。

 

(士、道・・・・)

 

そう。何も無い筈の空白の世界に響くその声は、五河士道のモノに他ならなかった。

ピシリ、と皹が入る音がして、真っ白い空間に亀裂が入る。

 

(どう、してーーーー)

 

『折紙』からの声は、きっと士道には届いていない。しかし、士道は声を張り上げ続けた。

『折紙』に、呼び掛けるように。

 

「1人で抱え込まないでくれ! 5年前、言ったよな!? お前は1人じゃないって・・・・!」

 

(あーーーー)

 

士道の言葉に、『元の世界の折紙』の中で5年前の記憶が思い起こされた。

 

【お前の哀しみは、俺が引き受ける・・・・! お前の怒りは、俺が受け止める・・・・! 迷ったなら、俺を頼れ! どうしようもない事態に直面したら、俺を使え! 全部、全部俺にぶつけくれて構わない! 俺が、俺がお前の! 『最後の希望』になる!! だから、だからーーーー!】

 

(あ、ああ・・・・)

 

「【絶望だけはーーーーしないでくれ・・・・ッ!】」

 

記憶の中の士道の声と、耳に伝わる士道の声が、重なった。

折紙は、辺りの空間に入った亀裂が、さらに大きくなるのを感じた。

 

「お前が何度世界を壊そうが、俺が必ず何とかしてやる! 何度絶望しそうになっても、必ず助けてやる・・・・! 俺がお前の、『最後の希望』になる・・・・!!」

 

(私、は・・・・)

 

「だから、手を伸ばしてくれ! 俺にはーーーーお前が、必要だ!」

 

(ーーーーーーーー)

 

その言葉を聞いた瞬間ーーーー。

折紙は、自分の身体が自分とは別の意思で動くのを感じた。

嗚呼、思えばそれは。

今日、この世界で士道とデートした時の奇妙な感覚と良く似ていた。

あの時は、『元の世界の折紙』の記憶が、無意識の内に『この世界の折紙』の身体を動かしていた。

しかし、今は。

それとは逆に、『この世界の折紙』の記憶が、折紙の手を士道に向かって伸ばさせたように思えたのである。

まるでーーーー折紙に、生きろと言っているかのように。

 

ーーーーバリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ・・・・!!

 

ーーーー何も存在していなかった空間が、音を立てて砕け散った。

 

「ーーーーーーーー士・・・・・・・・道・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「ーーーーーーーー士・・・・・・・・道・・・・・・・・」

 

死体のような顔をしていた折紙の目に、微かな光が灯る。士道は思わず目を見開いた。

 

「・・・・! 折紙ッ!!」

 

折紙は辺りの様子を見るようにゆっくりと目を動かした後、震える唇を開いた。

 

「わ、たし・・・・は・・・・」

 

「・・・・・・・・ッ」

 

押し殺したような声に、士道はドラゴンの背に立ったまま、折紙を抱き締めた。

まるで、5年前のあの日のように。

 

「士、道・・・・」

 

折紙が、小さな声で続ける。

 

「ありが・・・・とう。士道・・・・私を、呼んでくれて」

 

「折紙ーーーー」

 

「士道がいなかったら・・・・また、取り返しのつかない琴をしてしまう所だった」

 

折紙の目から涙が流れ落ち、士道の肩を熱く濡らす。

 

「私が・・・・お父さんとお母さんを殺してしまった事実は、消えない・・・・『元の世界』で、街の人達を殺してしまった罪も・・・・永劫、消える事は、ない。ーーーー例えそれが、『無かった事』になっていたとしても・・・・」

 

「・・・・っ、それはーーーー」

 

≪違う、等と簡単に言うでない。貴様も分かっているだろう≫

 

念話でドラゴンがそう言ってきた。それに士道も開きそうになった口を閉じる。

 

≪『この世界』で起こっていない、誰も覚えてすらいない惨劇。ーーーー貴様がその手で、そして一応我も手を貸して、『無かった事』にした事実だ。しかし、貴様が彼女の立場であったら、そう考えて割りきれるか?≫

 

「・・・・・・・・」

 

士道は、ギリと歯を噛み締めてから、呻くように言った。

 

「・・・・、そうだ。それは・・・・お前がこれから背負っていかなきゃならない『罪』だ」

 

この上なく残酷な宣告をする。それを折紙が望んでいる事と分かっていても。

士道にそんな事を言う資格は無いのも分かっている。多くの命を救う為とは言え、自分勝手に歴史を改変したのは、紛れもない士道とドラゴン、2人の『罪』だ。

しかし、士道は言葉を偽れない。己の考えで誤魔化して綺麗事を吐く事は、『元の世界』の折紙の両親、街の人々、そして折紙に対して、途方もない冒涜になってしまう。

 

「・・・・私は、わた、し、は・・・・、あ、うぁぁ・・・・あぁぁぁぁぁっ・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・」

 

身体を微かに震わせると、士道の身体にしがみつくようにして、ドラゴンの背中に士道と座り込み、折紙は大声で泣き始めた。

まるで、5年前のあの日のように。あの日から折紙は泣かずに過ごしてきた。10代の少女にとってあまりにも長い5年間、折紙は己を律し続けたきた。

士道はこの時、この瞬間に漸くーーーー本当の折紙の顔を見て、本当の折紙の心に触れた気がした。

だが、悠長にはしていられない、まだエンジェル・ファントムとメデューサ達がいるのだ、と思っていたら、折紙が、士道にしがみついたまま、静かに声を発してきた。

 

「・・・・士道、あなたにも、謝らないと」

 

「俺に・・・・? 何をだ?」

 

問うと、折紙は士道から身体を離し、士道の顔を見ながら続けた。

 

「きっと・・・・私が士道に抱いていた感情はーーーー愛でも、恋でも・・・・無かった」

 

「え?」

 

「私は・・・・ただ、依存していただけ。・・・・両親を失った場所に、偶々彼処にいたあなたを、当て嵌めていただけ。自分の弱さを誤魔化す為に、あなたに縋っていただけ。・・・・そんな自分勝手な感情の為に、あなたに沢山迷惑をかけてしまった。・・・・心から、謝罪したい」

 

「・・・・・・・・」

 

『(・・・・・・・・まぁ、訴えられるレベルだったな)』

 

ドラゴンがそう考えているが、士道は、ふうと息を吐いた後、唇の端を上げた。

 

「ーーーーソイツは、光栄だ」

 

「え・・・・?」

 

その答えに、折紙は意外そうに目を見開く。

 

「少なくとも俺は・・・・折紙、お前に出会えて良かったと・・・・心から思ってる。そりゃあ迷惑を被った事もあるけど・・・・もしお前が俺を頼ってくれたのがその感情によるものだとするなら、それに感謝したいくらいだ」

 

「士道・・・・」

 

折紙が震える声で言う。その目に、再び涙を滲ませ、それを見てーーーー士道は小さく頷いた。

 

「そうだ・・・・お前に、返さないとな」

 

「返・・・・す?」

 

「ああ」

 

不思議そうに首を傾げる折紙に、士道は首肯する。

 

「あの時俺が預かったのはーーーー涙だけじゃない筈だ」

 

その言葉で、折紙も思い出した。5年前のあの日。

 

【私の涙は、あなたに預けます。私の笑顔は、あなたにあげます。喜びも楽しい事も、希望も全部、あなたが持っていて下さい】

 

「あの、私は」

 

「折紙」

 

士道が折紙の目を見据えながら名を呼ぶと、折紙は一瞬ビクッと肩を震わせてから、恥ずかしそうに頬を染めーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

ぎこちない、しかし確かなーーーー笑みを、作った。

その瞬間ーーーー。

 

「・・・・・・・・!」

 

折紙がハッと目を見開いたかと思うと、その身を覆っていた漆黒の霊装が、目映い光を放ち、純白に染まっていった。

それは、『元の世界』で目にした、精霊・折紙の本来の姿だった。

同時に、エンジェル・ファントムに操られていた『羽』が、光の粒となって消えていく。

 

「士道・・・・私」

 

花嫁衣装のような霊装に身を包み、笑みを浮かべたその姿はーーーーまるで、本物の天使のように見えた。

 

『FAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

「「っ!!?」」

 

『む!?』

 

と、その時、上空でプリンセス<十香>達が戦っていたエンジェル・ファントムが、辺りに響き渡る程の雄叫びをあげる。

その声からは、まるで美九の天使〈破軍歌姫〉ような衝撃波を放ち、プリンセス<十香>達を後退させた。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

エンジェル・ファントムはゆっくりと、自分の身体を振り返り背中を見せるように動くそしてーーーーそこから現れたのは背中ではなく、漆黒に染まったエンジェル・ファントム?だった。

純白の翼は漆黒に、天使のように美しい姿は禍々しくも妖しい姿にはまるでそうーーーー悪魔のようだった。

 

『BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

『悪魔のような姿、デビル・ファントムと言った処かっ!?』

 

「な、何で折紙のファントムがあんな姿に!?」

 

「っ! そう言えば、あのファントムが『この世界』に顕現する際、『この世界の私』から、『何か』を抜き取ったような感覚があった・・・・!」

 

『成る程。その時に『この世界の鳶一折紙』の魔力を吸収し、お前が本来の姿に戻ったのと対照的に、別の姿となったと言う訳か』

 

デビル・ファントムを見上げてそう呟くと、折紙は立ち上げる。

 

「・・・・士道。あのファントムを倒さないといけない」

 

「折紙・・・・」

 

「あのファントムは、私の5年間の『負の感情』を取り込み、そして『あの日の真実』を知った際に生まれた『真実への絶望』。『運命への憎悪』。『自分自身への怨嗟』。それらが複雑に混ざり合って生まれた存在。もう、解き放ってあげなければならない。そうしないと、救えない・・・・」

 

折紙のその目にはーーーー自分の分身とも言える『絶望』に対して、悲哀が込められていた。

 

「・・・・分かった。行こう、折紙」

 

「(コクン)」

 

折紙が頷き、士道はマスクを展開させ、折紙と並び立つ。

 

「さぁ、ショータイムだ!」

 

ウィザード<士道>が指輪を眼前に持って、そう宣言した。




次回、激戦必至。そして、遂にーーーー。
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