デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

152 / 278
第十二章開幕!


五河ディザスター
幻視する恐怖


ー琴里sideー

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」

 

ーーーー漆黒の空に、咆哮が響き渡る。

嗚呼、“それ”は人の形をしていながら、正しく怪物だった。

意思も自我もなく、ただ破壊を振り撒く暴虐の塊。圧倒的な力の権化。光を纏うその姿は、『魔獣ファントム』と同じく神代の怪異を彷彿させ、見る者に原始的で根源的な恐怖を覚えさせる。

“それ”を中心に霊力が渦を巻き、辺りの木々を放射的に薙ぎ倒す。月の無い夜を、“それ”が発する光が目映く輝かせた。

 

 

「うそ・・・・でしょ・・・・」

 

空気を、天を、地を揺るがす吼え声を聞きながら、琴里は震える指を制するように拳を握り締めた。

その震えは、恐怖による物であると確信できる。だがそれは、目の前で吼える怪物に対するモノでなくーーーー己が今なそうとしている行為に対する感情であるかも知れない。

そう。琴里は何年も前から、その覚悟を胸に秘めていた。その使命を、その背に負っていたのだ。

もしもこの『怪物』が現れたのならば。

その時は、自分がこの手でーーーー殺す、と。

だが、“それ”を目の前にして最初に去来したものは、使命感でも殺意でもなく、途方もない悲哀と、後悔であった。

 

「(何で、こんな事に・・・・。こうなってしまう前に、できる事がもっとあったかも知れないのに・・・・私は、私は・・・・!)」

 

そんな思いが心の中で渦巻き、息をするのも困難になる。

琴里は思ってしまう。

 

「(アイツが、“ドラゴンが生きていれば、こんな事にならずに”・・・・)」

 

そんな、『もしも』だなんて存在しないモノにすがるような情けない考えに浸ってしまう。目の前の『結果』が『現実』なのだ。

そしてーーーーもう遅い。

全てはーーーー決してしまった。

全てはーーーー終わってしまった。

後は、琴里が幕を引くしかない。

琴里が、引き金を引くしかない。

琴里は、今にも泣いてしまいそうな悲痛な声で、『怪物』の名を呼んだ。

 

 

「何で・・・・どうしてよ、“士道”・・・・!」

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」

 

 

 

 

そして話は、ほんの少し前に遡る。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

ー士道sideー

 

12月1日。まだ冬の序の口だと言うのに、今朝は曇天、今季1番の冷え込みに、士道はコートの襟と首の隙間を埋める。

かじかむ手を温めるように、はあと息を吹きかけた士道だかーーーー。

 

「っっ!!」

 

一瞬、通学路の電柱にーーーーメデューサがいた。

 

「うわぁっ!?」

 

が、電柱にはメデューサはいなかった。しかし、士道が街路樹を見ると、その影からグレムリンが、

 

「っ!」

 

現れなかった。

 

「(どうしたってんだ? おかしいぞ俺・・・・?)」

 

と、漸く学校に到着すると、そこで自分の足元に影が横切り、上を見ると、〈仮面ライダーヘルキューレ〉が。

 

「ひぃっ!」

 

と思えば、空を飛んでいたのはただのカラスだった。カラスは士道に向かって鳴き声をあげる。それが何となく馬鹿にされているような気になってしまう。

 

「シドー、大丈夫なのか?」

 

隣を歩いていたダッフルコートを纏ってマフラーを首に巻いた十香が、先ほどから何かに脅えきっている士道を心配するような声をあげる。

 

「あ、ああ。だ、大丈夫だ、十香・・・・」

 

「ふっ、そのような怯える仔犬のような憐れな姿を晒しておいてよく吼えるわ」

 

「怪訝。何を脅えているのですか士道。まるでこの間バイオでハザードな映画を見た後の耶倶矢のようです。夜おトイレに行けなくなっちゃいましたか?」

 

「って! 何余計な事言ってんじゃ夕弦!!」

 

「逃亡。【夕弦、一緒に寝よ・・・・!】と、涙目で夕弦に甘えていた耶倶矢は大変可愛らしかったです」

 

「余計な事を言うなコラーーーー!!」

 

と、キャメルのダッフルコートを着込み、耳にモコモコの耳当てをし、手は手袋(夕弦は普通だが、耶倶矢は指が出る革製)を着けている八舞姉妹が、ギャーギャー騒ぎながら士道達の周りを走り、学校の中へと向かった。

 

「シドー、私達も学校へ入ろう。ソコならば安心できるぞ」

 

「あ、ああ・・・・」

 

士道は十香に手を引かれ、学校に入ると、靴を脱いで下駄箱を開けた。

 

「ん・・・・?」

 

「む、どうかしたか、シドー」

 

「や・・・・下駄箱に俺の上履きが見当たらないんだ」

 

上履きがなく、怪訝そうに眉根を寄せた。

 

「何と。誰かが間違って履いてしまったのか?」

 

「・・・・そうかもな」

 

学校内での評価が地に落ちまくっている士道ならば、このようなよくあるイジメのやり方があっても、悲しいけど否定できないが、それを聞いて十香が不安がらせないようにする。

事務室で来賓用のスリッパを借りて、教室につき、自分の席に歩いていくと、そこで足を止めた。

理由は単純。ソコに先客がいたからだ。士道の席の机の下に潜り込むような滑降で床に膝をつき、椅子に頬をペッタリとつけながら士道を待ち構えていたのだ。周囲のクラスメートは、見て見ぬフリをしていた。

 

「・・・・何してんだ、折紙」

 

士道が半眼になって言った少女こそ、精霊〈デビル〉となった折紙だった。

通常、精霊達は纏めて五河家の隣の精霊マンションに住まうのだが、折紙は両親との思い出が詰まった家に住んでいるので、士道達と登校時間にズレがある。まぁ美九もマンションに住んでいないのだが。

士道の言葉に、折紙はガサゴソと机の下から這い出てきた。

 

「温めておいた」

 

「・・・・椅子をか?」

 

「それだけでない」

 

折紙はそう言うと、懐を探って一足の上履きを差し出してきた。

ーーーー折紙の体温でホカホカになった、士道の上履きを。

 

「これを」

 

「・・・・犯人はお前か」

 

ツッコミのテンションが低い士道に、折紙は少し怪訝そうな顔になるが、十香が声をはり上げた。

 

「折紙! シドーの上履きを取っては駄目だぞ! シドーはそのせいでスリッパになってしまったのだ!」

 

「・・・・!」

 

十香の言葉に弾かれるように、折紙は士道の足下を見た後、深々と頭を下げた。

 

「ごめんなさい。そこまで感慨が及ばなかった」

 

「いや。今度から、気を付けてくれ・・・・」

 

「今朝考案した、士道の椅子と上履きを同時に保温できるシステムの特許と商標を取らねばならないと思っていたら頭がいっぱいになって」

 

「・・・・木下藤吉郎かお前は?」

 

士道は心底疲れたように、ハァッとため息を吐き、自分の上履きに履き替え、机に鞄を掛け、コートを脱ごうとする。

 

「待って」

 

するとそこで、折紙が士道を制止するように声を上げた。

 

「ん? なんだ?」

 

「士道保温システム・零式」

 

淡々とした調子で折紙がそう言うと、士道が脱ぎかけていたコートの中に手を突っ込み、士道の身体にギュウと抱きついてきた。まるで、1つのコートを2人で着ているような格好になる。

 

「な・・・・っ!?」

 

「こ、こら折紙! シドーに何をするっ!」

 

十香が泡を食った様子で折紙を引っぺがしにかかる。だが折紙はその細腕から考えられない万力のような力で士道にしがみつき、離れようとしなかった。

だが、それから数秒後、折紙は何かに気づいたように士道の胸元に埋めていた顔を上げた。

 

「士道。既に体温が高い。熱があるの?」

 

「え? ああ・・・・いや、そんな事は無いさ、大丈夫だ」

 

「そう」

 

折紙はそう言うと士道から身を離した。そしてクルリと身体の向きを変える。

 

「折紙? 何処に行くんだ?」

 

「ちょっと」

 

短く残して、折紙は教室を出ていったしまった。

その背を見送りながら、十香がプンスカと腕組みした。

 

「全く、油断も隙も無いやつめ!」

 

「・・・・何て言うか、折紙は折紙だな・・・・」

 

士道は本当に心底疲れ、席に座り周りを見たその瞬間ーーーークラスメート全員が、グールとインプに見えた。

 

「っっっ!!? うわぁっ!!」

 

士道はガタッと椅子を後ろに引かせると、椅子の足が床に引っ掛かりバランスを崩して後ろに倒れた。

 

「シドー! 大丈夫か?」

 

「ぁ!・・・・・・・・あ、ああ・・・・」

 

士道は十香に起こされ、再び席に座った。クラスメート達も何だ?と思ったが、すぐに自分達の会話に戻っていった。

 

「(どうなってんだよ・・・・!? 俺、どうしちまったんだよ・・・・!?)」

 

士道は、ここ数日間、妙な幻覚を見るようになってしまい、混乱していた。

そうーーーー“ドラゴンが消えてしまってから”。

 

 

 

 

ー折紙sideー

 

「・・・・あああああああああああああああああ」

 

因みに、折紙は『改変前の自分』と『改変後の自分』の士道への思いが暴走した事に、強烈な羞恥心を覚え、両手で顔を覆い、喉を震わせていた。

 

 

 

ー琴里sideー

 

士道が幻覚に脅えながら学校生活を過ごしている間に、〈ラタトスク〉が所有する天宮市内の地下施設の一角に、司令官モードの琴里が1人腰掛け、先月封印に成功した精霊〈デビル〉こと、折紙の資料に目を通していた。資料には詳細なデータは勿論、聞き取り調査の結果が記されている。

 

「・・・・ふむ」

 

小さく唸りながら、紙面の項目に視線を落とす。

『世界改変』、『人格統合』と興味深い話はあったがーーーー琴里が最も目を惹き付けたのは、折紙が狂三の時を司る天使〈刻々帝<ザフキエル>〉の力によって、『5年前の天宮市』に戻った時の話である。

それは、精霊となった折紙が、両親を救う為に舞い戻り、『とある存在』と対峙したのだ。

ーーーー精霊〈ファントム〉。琴里や美九、折紙らに精霊の力を与えた謎の存在と。

 

「尻尾を掴んだ・・・・何て言えるようなレベルではないけれど」

 

誰ともなく、琴里は呟いた。

5年前、琴里は1度だけ、〈ファントム〉と直接会った。しかし〈ファントム〉は身体中をノイズのようなもので覆われ、変声機を通したような声になっていた為、その実像は全く掴めなかった。それは美九も同様である。

しかし、折紙はこの〈ファントム〉と交戦し、天使〈絶滅天使<メタトロン>〉でノイズの障壁を剥ぎ取り、一瞬ではあるが、その声と後ろ姿を見たのだと言う。

曰くーーーー〈ファントム〉は年若い少女であった。

そして、【私には目的がある】と、言った。

琴里は、折紙の記憶を元に描かれた〈ファントム〉のスケッチを睨むようにしながら、唇を動かした。

 

「〈ファントム〉・・・・あなたは何者なの? 『目的』って、一体」

 

5年も掛かって、漸く尻尾の先端に指先が触れた〈ファントム〉に向けた言葉に合わせるように、部家の扉がノックされた。

 

「はい、誰?」

 

『・・・・私だ』

 

「ああ令音、入ってちょうだい」

 

琴里が答えると同時に扉が開き、琴里の親友・令音が入ってくる。

 

「どうしたの?」

 

「・・・・ん、端末に連絡を入れようと思ったのだが、今日は琴里が来ていると聞いてね」

 

「ああ」

 

琴里は小さく頷いた。平日であれば、学校に行っている筈である。

 

「ちょっと調べたい事があってね。あ、勿論ちゃんと出席日数は計算しているから大丈夫よ。ーーーーそれで、何か用?」

 

「・・・・ああ。少し気になる事があってね」

 

「気になる事?」

 

首を傾げる琴里に、令音はタブレット端末を示してきた。

画面には、様々な数値と、幾つもの線が重なったグラフが表示されている。

 

「これは・・・・」

 

「・・・・ここ最近の、皆の霊波数値のグラフだ。これを見てくれ」

 

言って、令音が1つの線を指さす。ーーーー1つだけ、極端な上昇を示しているそれを。

 

「何これ? ここ数日、皆の精神状態は安定してる筈よね? 一体誰のーーーーまさか、鳶一折紙?」

 

肩を揺らした琴里は、封印されたばかりで、元々反転精霊〈デビル〉として猛威を振るっていた折紙に、何かしらのイレギュラーが起こったのではと考えた。

しかし、令音はゆっくりと首を横に振った。

 

「・・・・いや」

 

「それじゃあ誰よ。七罪がまたネガティブ思考を暴走させて『地獄の兄弟』の妹になったの? 美九が可愛い新人アイドルでも見て欲情して『猫系の欲望の怪人』に寄生された? それとも十香? 四糸乃? まさか私なんて言わないでしょうね?」

 

「・・・・いや、違うんだ。これはーーーー」

 

令音が静かに、その名前を告げた瞬間、琴里は目を見開くと同時に、ここ数日、妙に精神状態が不安定になっているーーーー兄の姿が思い浮かんだ。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「どうした五河? 幽霊に遭遇して恐怖体験でもしたか?」

 

「な、何でもない、大丈夫だ・・・・!」

 

授業は三時間目の体育(体力測定)となり、士道は何やら挙動不審な状態で、殿町ですら心配する程だった。

 

「本当に大丈夫なのかシドー。保健室行くか?」

 

「無理はしないで士道。保健室で待っている」

 

「あれ? 鳶一さん、文法おかしくない?」

 

折紙の発言に、半眼になって苦笑する殿町。

 

「だ、大丈夫だって。殿町、すぐ行くから先に行っててくれ」

 

「・・・・はぁ、そこまで言うなら行くけどよ。あんま無理すんなよ。お前って人には気を遣う癖に自分の体調には無頓着だったりするからな」

 

「はは・・・・気を付けるよ。琴里にも似たような事言われたしな」

 

「妹ちゃんにまでそう言われているなら、少しは改めろよな。・・・・それはそうと、俺と琴里ちゃん気が合うんじゃないですかねお義兄様」

 

「良いからさっさと行け」

 

士道が犬を追い払うように手を動かすと、殿町は軽く笑いながら教室を出ていった。

殿町にですら心配されるとは不覚と思いながらも、十香と折紙に視線を向けて、あんまん本気を出さないように釘を差すが、2人は大丈夫と言った。まあ寧ろ心配なのは、張り合って記録を伸ばそうとする耶倶矢と夕弦の方だが。

体操着に着替えようと、2人と別れて更衣室に入った。

折紙が何故かついていこうとしたが、十香が女子更衣室に引っ張って連れて行かれる。

 

 

 

 

ー十香sideー

 

「全くお前は!」

 

「・・・・十香」

 

「何だ?」

 

「士道の不調・・・・あなたは心当たりがある筈、いえ、あなただけでなく、私を含め、士道に封印された精霊達全員に・・・・」

 

「っ・・・・!」

 

十香は、折紙の言葉に顔を少し俯かせた。まるで、その『理由』を受け入れたくないように。

 

 

 

ー士道sideー

 

「はぁ・・・・本当に、どうしちまったんだよ俺は・・・・!」

 

着替えを終えて校庭に出る途中、ファントムやDEMの幻影を見るようになった自分に苛立ちすら感じながら校庭に出た士道。

するとすぐに始業のチャイムが鳴り、体育担当の教師が現れて、生徒達を整列させる。

 

「・・・・・・・・あ、やべ」

 

そこで士道は、微かに眉根を寄せた。

ここに来て、先ほどまではなかった強烈な立ち眩みに襲われたのだ。

全身が発熱したように熱くなり、段々と意識がぼうっとして来る。担当教師が体力測定の説明をしているが、頭に入ってこない。

 

「う・・・・(保健室に行った方が良かったか・・・・?)」

 

靄のかかったような意識で霞む目を擦っていると、不意に背中がトントンと叩かれた。

 

「・・・・ん・・・・うわぁあああっ!!!」

 

士道が、霞む目で後ろを見るとソコにはーーーーグレムリンがいた。

 

「お、おい、どうしたんだよ五河?」

 

「え?」

 

視界が少し晴れると、殿町が驚いたような顔で立っており、他の生徒達も驚いたような顔で士道を見ていた。

 

「な、何だ、殿町か・・・・」

 

「何だ、じゃねぇよ。握力計、次はお前だろ?」

 

「あ、ああ・・・・」

 

ボウとしている間に、士道の番が来ていたようだ。

 

「本当に大丈夫かよ?」

 

「だ、大丈夫だ・・・・」

 

士道はフラフラの足取りで前に出ると、アナログ式握力計を右手に取り、記録用のクリップボードを手にした教師が見ていた。

士道はやるしかないと思い、右手に力を入れたその瞬間、パンっ、と音が響き、何と士道が握っていた握力計が破壊された。

生徒達はざわめくが、古かったから壊れたんだと思われた。

が、次のハンドボール投げで空の彼方まで放り投げたり、男女混合の50メートル走では十香と折紙を置いてまるでアクセルフォームかクロックアップのような速度で追い抜くと、力無くその場で倒れた。

 

 

 

 

「・・・・どうしちまったんだ、俺」

 

数時間前の体力測定で起こした自分の異常な身体能力に、保健室のベッドの上に寝ている士道が、朦朧とする意識の中で、思考を巡らせていた。

身体が怠いと言う事で暫く休ませて貰っているが、目は霞み、頭はボウッとし、身体は熱を帯び、途方もない倦怠感が全身を襲う。質の悪いインフルエンザかと思ってしまう。

が、今の士道は震える自分の手を見て、先ほどの異常にクラスメートや教師以上に困惑していた。

はっきり言って、『エキサイト』の魔法を使わず、平々凡々が少しマシになった程度の自分の身体能力を出せる筈がない。

掠れた声で呟く。あれではまるでーーーー。

 

「・・・・精霊・・・・」

 

そう。あの力は、十香達精霊のものに近いように思えた。

確かに士道は、心を開いた精霊の霊力を、キスによって封印できる。ドラゴンの補助で、限定的だが、精霊の力である天使を顕現させる事もできる。

しかしーーーーもうドラゴンはいないのだ。『レギオン』と呼ばれるファントムに殺されたのだ。

 

「これって、一体・・・・」

 

「士道!」

 

と、ソコで、ベッドの周りに引かれたカーテンが、勢い良く開かれると、席を外していた養護教諭ではなく、中学の制服を着た琴里であった。

 

「あれ・・・・琴里? お前、何でこんな所に・・・・」

 

「十香達から連絡があったのよ。士道が熱を出して倒れてーーーーしかも精霊のような力を使ったって。体調に問題は・・・・って、聞くまでもないわね」

 

士道の様子を見て、深刻な顔となる琴里。

 

「もしかして・・・・何か心当たりがあるのか・・・・? ここ数日、ファントムやDEMが現れる幻覚も見るし・・・・身体もおかしいし・・・・何が何だか・・・・」

 

「・・・・兎に角、〈ラタトスク〉の施設で調べて見ましょう。学校の裏に車を回してるわ。歩ける?」

 

「ああ・・・・それくらいなら・・・・」

 

そして士道は琴里の手を借りて保健室を出る。

すれ違う生徒達の視線を気にする余裕もない。

 

「ーーーーシドー! 琴里!」

 

前方から十香の声が響き、顔を向けると、折紙や八舞姉妹が小走りで近寄ってきた。

 

「・・・・お前ら。どうしたんだ、こんなところで・・・・」

 

その問いに、八舞姉妹がバッとポーズを取った。

 

「知れた事。昼休みになったので士道の様子を見に衛星室へ赴く処だったのだ」

 

「質問。士道こそどうしたのです。休んでいなくて善いのですか」

 

「体調が悪そうだから早退させるのよ。車も用意しているわ」

 

琴里がそう言うと、4人は首肯した。士道が早く行こうと身体を動かそうとした瞬間、丁度士道の横を男子生徒が通りすぎたその時、朦朧とする意識が声を聞いた。

 

『終わりだね☆』

 

その男子生徒がグレムリンになって、自分の首を斬ろうとする幻聴と幻覚が・・・・。

 

「うわあああああっ!!」

 

勿論、グレムリンなどいないのだが、驚いた士道が、窓に手が触れたその後瞬間。士道が手を触れた位置をが起点となり、窓に放射状にヒビが入り、パンと乾いた音と共に、ガラスの破片が弾け飛んだ。

 

『な・・・・!?』

 

琴里達が一瞬にして風通りの良くなった窓を見つけ、周囲です生徒達も、目を丸くし、偶然ソコには亜衣麻衣美衣トリオもおり、声をあげた。

 

「えっ? 何今の音・・・・」

 

「うわ、あれ、ガラスが割れてる!」

 

「何? 五河くん昼に校舎の窓ガラス壊して回ってるの? 何から卒業したいの? マジ引くわー」

 

「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・」

 

しかし、士道は呼吸が荒くなり、その眼には亜衣麻衣美衣ではなく、ガルーダファントム達に見え、

 

「く、来るな・・・・!」

 

後ずさった時、壁に手を突いてしまう。すると、固い壁がスポンジケーキのようにゴッソリと抉れる。

 

「わっ! えっ! 何あれ!?」

 

「触れるモノ皆傷付けてる!?」

 

「マジ引くわー! それなんてギザギザハート!?」

 

「し、シドー! どうしたのだ先ほどから! それは一体ーーーー」

 

亜衣麻衣美衣トリオが驚愕し、十香が心配そうに言ってくる。

 

「あ、あぁ・・・・!」

 

が、士道のその眼には、十香の姿がーーーー『レギオン』に見えてしまった。

 

「ひぃいっ!! くっ、来るな・・・・! 来るな、来るな、来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな、来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

恐怖で錯乱した士道の声が衝撃波になって、廊下中に放たれると窓ガラスが全て割れ、壁や天井、床にヒビが走り、十香達や他の生徒達を廊下の向こうまで吹き飛ばした。

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

その発生源となった士道は肩で息をしながら、脅えきった瞳で周りを見ていた。

 

「こ、殺される・・・・! このままじゃ俺はーーーー殺される・・・・!! うぐっ!!」

 

逃げようとした士道だが、そのまま崩れ落ちるように廊下に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

ーウェスコットsideー

 

「何ですって・・・・? グレムリン、今なんと?」

 

DEMインダストリー日本支社の一室にいたウェスコットとエレンは、人間態のグレムリンからの報告を受け、エレンが目を鋭くして問い直した。

 

「だから、士道くん。もう〈仮面ライダー〉じゃなくなったんだよ」

 

グレムリンも、いつものチャラついた態度ではなく素っ気ない態度でそう応えた。

 

「それは少し残念だ。『伝承の魔法使い』をもう少し観察して見たかったんだけどね」

 

ウェスコットが大仰な態度で肩をすくめた。

 

「そう言われてもねぇ、ワイズマンがそう指示したから仕方ないじゃん」

 

「っ!」

 

目を鋭くしたエレンが、ナイフ型のレイザーブレイドでグレムリンの喉元に突き立てようとするが、グレムリンも腕を怪人態に変え、刃をエレンの喉元に突き立て、膠着状態となった。

 

「エレンちゃんさぁ。僕に八つ当たりしないでよね。僕だって士道くんから力を奪うのはフェアじゃないって思っていたから、不本意なんだよ」

 

「我々に何の話も通さず、勝手な事を・・・・!」

 

「エレン。そこまでだ」

 

「しかしアイク!」

 

「我々は同盟相手で主従関係ではない、彼らにも彼らの考えあっての事だ。それに、もはや〈仮面ライダー〉ではなくなったイツカシドウには、精霊を絶望させる為のトリガーになる以外に価値はなくなった。それで良いじゃないか」

 

「~~~~~!!」

 

エンマは憤怒を隠そうとせず、レイザーブレイドを引っ込めると、グレムリンも腕を引っ込めた。

 

「・・・・少し外に出てきます」

 

そう言って、エレンは部屋を出ていった。

 

「エレンちゃん、不機嫌クライマックスだね」

 

「仕方ないさ。エレンにとってイツカシドウは、いや、〈仮面ライダーウィザード〉は、『倒すべき宿敵』だからね」

 

『世界最強の魔術師<ウィザード>』の称号に敗北の泥を付けた相手である〈仮面ライダーウィザード〉こと五河士道とウィザードラゴン。

彼らを倒す事こそが、『最強』の称号にこだわるエレンの戦う理由であっだ。その宿敵がもう変身できない、普通の人間になってしまった事に、エレンは怒りを抱かずにいられないのだ。

 

「それで、そのイツカシドウの魔獣を葬ったファントムはどうしたんだい?」

 

「レギオンはその危険性から、“ワイズマンがずっと幽閉させていた奴”だ。そんなのが大人しくしている筈ないよ」

 

「逃げ出した・・・・か。しかしMr.ソラ。君もなにやら不服そうだね?」

 

「そりゃね。僕も士道くんには期待を寄せていたんだ。その彼があんな無様になったんじゃねぇ」

 

「それではこの話は一旦止めて、少し気になる話をしよう」

 

「〈デビル〉、鳶一折紙ちゃんの事?」

 

『改編前の世界』を知らない彼らにとって、反転体となった折紙は貴重なサンプルであった。それが〈ラタトスク〉の手に落ちた事は、既に知っていた。

 

「精霊が元から反転した状態で現れる事はないだろう。ーーーー〈デビル〉は一体どのような理由で絶望の淵に立ったのだろうね。興味は尽きないよ。できる事なら捕獲してご教授願いたいくらいだ」

 

そう言いながら、ウェスコットは立ち上がる。

 

「実はーーーーネリル島と言うにある施設から連絡が入ってね」

 

「ソコって、太平洋の小さな島とその地下をDEMの実験施設の事だよね?」

 

「ああ。そこで『資材A』と呼称している『モノ』の“処理”が完了した。〈プリンセス〉の反転のお陰によって、大きな前進をもたらしてくれた。推定成功率75%。ーーーーかつてエレンが捕らえ、監禁していた特殊災害指定生命体がやってくるよ」

 

「へぇ~、それってさ」

 

グレムリンが口元に笑みを浮かべて聞くと、ウェスコットも唇を歪める。

 

「ーーーーそろそろ、我らと『完璧な反転体』を1つ、作ってみたいと思ってね」

 




恐慌状態となった士道はどうなる!?
あ、あと七罪が変身する〈仮面ライダーウィッチ〉の説明です。


ー仮面ライダーウィッチー

七罪が変身する仮面ライダー。霊装がウィザード風に変化した姿、大人verと子供verでスペックが変わる。
専用武器『ハニエルブルーム』に股がり空を飛んだり幻影を見せたりする。必殺技は無数の鏡を相手の周囲生み出し、自分の眼前に現れた鏡に入り込んで、無数の鏡から幻影の自分達で相手を包囲して仕留める『ミラージュエンド』。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。