デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー八舞姉妹sideー
《聞こえているかい2人とも、①だ》
インカムから、令音の指示が届く。
「ふん・・・・成る程な。くく、我ら八舞にそんな事をされては、初心な士道はたまらんだろうて」
「注意。耶倶矢、こう言うのは思い切りが大事です。くれぐれも恥ずかしがってへっぴり腰にならないようにしてください」
「な、ならんわっ! 大丈夫だし! 心配されるまでもないし!」
顔に思いっきり『恥ずかしいです』と書かれていたが、夕弦に指摘され、顔を元に戻した。
「首肯。ならばーーーー行きましょう」
八舞姉妹は小さく頷き合ってからベンチに座る士道に向き直る。
そして士道にピッタリと沿うように腰掛け、腕を絡ませる。
「ん? どうした、2人共」
士道が目をパチクリさせながら2人を交互に見てくる。耶倶矢と夕弦は一瞬視線を交じらせると、声を発さず「せーのっ」と唇の動きだけを動かし、全くの同時に、士道の腕に耶倶矢の平均サイズの普乳を、夕弦の大きな巨乳を押し当てた。
「おっ?」
その感触に、士道は眉を跳ね上げ、八舞姉妹は頬を赤くしながらもニッと唇の端を上げた。
「く、くく・・・・どうだ士道。我らが色香にドキがムネムネだろう」
「同意。無理はしなくて良いのですよ。さあ、さあ」
いつもの士道ならば、この状態に一瞬で顔を真っ赤に燃やして、狼狽に満ちた声でキャーキャー!と、生娘みたいに喚きをあげる筈・・・・だが、士道はフッと息を吐くと、小さく首を振った。
「おいおい2人共、俺としては嬉しい限りだけど、嫁入り前の女の子が、みだりにそんな事をするもんじゃないぞ」
「な・・・・っ!?」
「驚愕。いつもの士道ではありません」
思わず八舞姉妹が汗を垂らした。
冷静にそう言われると、逆に2人の方が恥ずかしくなってしまう。ムウと唸ると、2人は気まずげに視線を逸らす。
すると士道が、2人の頭をポンポン、と撫でてきた。
「でも、ありがとうな。耶倶矢も夕弦も、俺を助ける為に、ドキッとさせようとしてくれたんだろ? その気持ちは、嬉しいよ」
「うぐ・・・・」
「赤面。何だがズルいです」
やり込められたような感覚に、八舞姉妹はグウと喉を鳴らした。
《・・・・そう悲観的になる事はない。耶倶矢、夕弦》
と、令音の声が聞こえてくる。
《・・・・シンは涼しい顔をしているようだが、君達に胸を押し付けられた瞬間、明らかに興奮値が上昇していた。もう一押しだ》
それを聞いて、八舞姉妹が目を見合わせた。
「く・・・・くく、何だ、ちゃんと反応していたのではないか」
「首肯。いつにも増してムッツリスケベです」
《・・・・次は②を試してみよう。ソフトクリーム越しにバニラフレーバーキッスだ。プールの端に、アイスクリームショップがあるだろう?》
令音に言われた方向を見ると、トロピカルな意匠の施された屋台があり、〈フラクシナス〉の機関員らしき女性が、ニコニコしながら立っていた。
2人は小さく頷き合うと、バッとその場に立ち上がった。
「くく、士道よ、暫し待つがいい! 雪の女神の口づけを届けてくれよう!」
「通訳。ソフトクリームを買ってくるで少し待っていて下さい」
言って2人は砂浜を駆けていき、屋台でソフトクリームを2つ注文して戻ってくる。
「ん?」
2人の手にあるソフトクリームの数を見て、士道は首を傾げた。
「何だ、2人分だけか? ひどいなあ」
苦笑する士道が肩をすくめるが、八舞姉妹は首を横に振る。
「ふっ、早計であるぞ士道」
「譲渡。1つは士道の物です。どうぞ」
夕弦が手渡し、士道は目を丸くする。
「ん、ありがとう。でも夕弦の分は?」
「応答。夕弦と耶倶矢は1つで十分なのです。・・・・耶倶矢」
「・・・・ん」
夕弦が促すと、耶倶矢は少し恥ずかしそうにしてから、手にしたソフトクリームを夕弦に差し出し、夕弦がそれに優しく手を添える。
そして2人はコクリと頷き合うと、唇を開いて舌を覗かせ、士道の目の前でソフトクリームを舐め始めた。ーーーー2人、同時に。
「ん・・・・あふ」
「甘・・・・美。これは・・・・」
相手の吐息が頬を優しくくすぐる。白く甘いクリームを隔てて、互いの舌が蠢いているのが分かる。耶倶矢と夕弦の淫蕩な様が脳髄を焦がしていくような感覚を覚える。背徳的で官能的で蠱惑的な快感。かなり刺激的であるが・・・・。
《・・・・2人共、奮闘中の処申し訳ないのだが、それは耶倶矢と夕弦でではなく、シンとやるべきではないかな?》
令音の言葉を聞いて、動きが止まる。
「・・・・あっ」
「失念。言われてみれば」
字面で別の解釈をしてしまい、士道をデレさせる処か八舞姉妹のイチャツキを見せてしまったのを理解した2人は、自分達の行為への恥ずかしさと勘違いの恥ずかしさのライダーダブルキックで顔を真っ赤に染めた。
だがそこで2人は、士道の頬もまた、ほんのり色づいている事に気づいた。
「・・・・? あれ?」
「怪訝。間違ったのではないのですか?」
インカムから、男性クルー達が士道の興奮値が上昇している事に騒いでいた。どうやら視覚的に興奮を引き起こしたようだ。
《・・・・ああ、これは僥倖だ。だが、現在の興奮値は84。後一押し、何かがあれば》
令音の言葉に、2人は眉根を寄せた。
「・・・・何かって言われても・・・・」
「注意。耶倶矢、ソフトクリームが」
2人の体温で少し溶けたソフトクリームが、コーンから夕弦の大きな胸元に落ちてしまった。
「冷感。ひゃん」
夕弦がビクッと肩を揺らすと、溶けたソフトクリームは夕弦の胸の合間を通るようにして、今度は耶倶矢とスラリとした太ももに垂れ落ちた。
「うきゃっ! つ、冷たー・・・・」
耶倶矢は目をキュッと瞑った後、不快そうに渋面を作った。
「うわぁ。ベタベター。何か拭くものあったっけ?」
「提案。プールに入ればこれくらいは直ぐにーーーーはっ」
と、言いかけた処で、夕弦の頭に某小学生名探偵のような閃きが走った。耶倶矢が不思議そうに首を捻る。
「ん、どうしたの、夕弦」
「天啓。これならば」
夕弦はそう言うと、突然耶倶矢の背後に回り込み、その両肩を掴んでグイと士道の方へと差し出しそして、
「請願。士道、夕弦と耶倶矢はソフトクリームでベタベタになってしまいました。ーーーー士道の舌で、ペロペロと綺麗に舐め取って下さい」
「うん?」
士道が、目を丸くしながら返してくる。一拍置いて、夕弦の言葉の意味を理解した耶倶矢が声を上げた。
「ちょ・・・・っ!? な、何言ってるのよ夕弦!」
「制止。落ち着いて下さい耶倶矢。災い転じて福と為す。これこそ逆転の一手です。耶倶矢は胸のサイズは平凡ですが、張りのある肌は一級品です」
「平凡で悪かったわね!? て言うかそれなら夕弦の胸から綺麗にしてもらいなさいよ!」
「拒否。夕弦が先だと、耶倶矢の番になった時に刺激不足で興奮しないのかも知れません」
「誉めてんの!? 馬鹿にしてんの!?」
耶倶矢が悲鳴じみた叫びを上げると、すぐ目の前の士道がニッと笑った
「へえ・・・・? 綺麗にして欲しいのか、耶倶矢」
「・・・・! そ、それは・・・・」
「忠言。耶倶矢」
夕弦が耳元で囁く。耶倶矢は顔を真っ赤しながら頷いた。
「・・・・お、お願い・・・・しまふ/////////」
「ふうん?」
耶倶矢が言うと、士道は楽しげに微笑み、ペロリと唇を舐めた。そしてその場で膝を折り、ゆっくりと耶倶矢の太腿に顔を近づけてくる。
「・・・・っ////////」
士道の舌が、耶倶矢の肌に触れーーーーようとした処で。
《ーーーーパンパカパーン!》
突然右耳に、大音量のファンファーレが鳴り響き、八舞姉妹は同時に身体をビクッと揺らした。
「うひあっ!?」
「驚愕。何ですか今の音は? いいところで」
2人が目を白黒させていると、それに答えるようにインカムから令音の声が聞こえた。
《・・・・おめでとう、2人共。たった今、シンの興奮値が90を超えた。しかも君達2人に対してね》
「えっ! って言う事は・・・・」
「達成。士道が夕弦達にドキッ! としてくれたと言う事です。・・・・少し惜しかったです」
夕弦に最後に聞き取れない声を発したが、2人の様子から察したらしい士道が、フッと肩を竦めた。
「どうやら、やられちまったみたいだな。流石は八舞姉妹」
「え? あーーーーく、くくく! そうであろう! 颶風の御子八舞の魅力、思い知ったか!」
取り繕うように哄笑をあげる耶倶矢に、夕弦は半眼になり呆れが混ざった視線を向けていた。すると士道が、面白がるように目を細めながら、クリームに濡れた耶倶矢の太腿を指差してきた。
「・・・・で、続ける?」
「・・・・! あ、あうぅ・・・・////////」
耶倶矢は、再び頬を赤くし、目をグルグルと渦巻きにして顔を俯かせた。
「溜息。さ、耶倶矢。戻りますよ」
夕弦が耶倶矢の首根っこを掴んで引きずりながら退こうとした。が、途中で士道に顔を向けて口を開く。
「忠告。士道」
「ん? 何だい夕弦? まだ俺とイチャイチャ「夕弦と耶倶矢は2人で1人です」ん?」
士道の歯の浮くような台詞を聞かず、夕弦は続ける。
「進言。夕弦と耶倶矢は元々一心同体です。どちらか1人欠けては八舞ではなくなります。士道もそうです。『彼』がいなくなった士道は、きっと不完全な士道です」
「・・・・・・・・・・・・」
士道の顔から余裕の色が薄れた顔となる。
「結論。士道、今のままでは、きっと士道は、駄目な士道になってしまいます。それだけです。ではこれで。さ、耶倶矢いきますよ」
「えっ? ちょっと待って! 何か夕弦が良い事言ったっぽいし! 私も何か言いたいし! て言うか、引きずらないで! 自分で歩けるし! お尻が火傷するし!」
やっと正気に戻った耶倶矢の言葉を聞かず、夕弦は去っていった。
「・・・・・・・・・・・・」
ただ士道は、夕弦に言われた言葉を振り払うように首を横に振ると、次の精霊の元に向かった。
ー七罪sideー
色気のないワンピース水着を着る七罪(色気が無いのは水着だけのせいではない)は、施設に設営された岩の陰に隠れながら、八舞姉妹の様子を窺っていた。見つからないように少し離れた場所から、インカムのチャンネルを合わせて3人の会話を聞いてみると、2人は成功したようだ。
「(まぁ、同然ね。2人共美少女だし、個性的だしね。他の皆も問題ないわね。四糸乃は女神だし、十香は可愛くてスタイル抜群だし、琴里は義妹の背徳感とツンデレがあるし、妖怪だけど美九は精霊の中で1番の巨乳だし、折紙だって・・・・捕縛術があるし、皆士道をドキッ! とさせられるでしょう・・・・でも)」
七罪はこの作戦の問題点をあるのを察していた。他ならぬ七罪本人だ。
「ドキッ! とさせろって・・・・何なのよその条件」
忌々しげに拳を握る。
透けて見える悪意。見目麗しい精霊達の中で、1人だけ平均点を下げる問題児・七罪を狙っているかのような条件だ。
皆が当然のように達成できる条件を、1人だけクリアできない焦燥。皆に迷惑をかけてしまう恐怖。当事者にならなければ理解できない大きなプレッシャー。
例えるならば、クラス対抗縄跳びで、自分1人だけが足を引っ張った為に負けてしまったような感覚だ。
「(だから私縄跳び苦手って言ってたじゃん! 何でちゃんと跳べるヤツが縄回してんの!? 持つ者と持たざる者を虐げる社会なのコンチキョー!!)」
と、無性に喉を掻きむしりたくなる。
「・・・・と、兎に角、この条件じゃ私には不可能よ・・・・」
頭をガリガリと掻きながら暗い声を発する七罪は、考えを巡らす。
「(私が士道をドキッ! とさせる事ができなくても、今夜12時に皆がキスをして経路<パス>を広げていけば、きっと士道は今より弱体化する。そうしたら皆に士道を抑えて貰って、無理矢理キスをする・・・・まぁズルい気はするけど、緊急事態何だから、皆も納得してくれるでしょう・・・・)よし、これで行こう」
「どれで行くんだ?」
「だから、まずは皆にーーーーって、ひゃぁっ!?」
突然かけられた声に、七罪は甲高い声を上げて跳び跳ねた。
「しっ、士道!?」
いつの間にか背後に現れたのは、士道だった。クロックアップでもしたかのような高速移動だ。
「おう。こんな処で何してるんだ、七罪」
「・・・・っ、べ、別に・・・・何もしてないわよ・・・・それより、早く他の子の処に行きなさいよ。ほら、十香とかアンタ探しているっぽいし・・・・」
「うーん」
七罪が言うと、士道は何やら考えるような仕草を見せた後、悪そうな恵美を浮かべた。
「イヤだって言ったら、どうする?」
「は・・・・? な、何言ってんのよ。意味が・・・・」
「だから、七罪が俺をドキッ! とさせてくれるまで、他の精霊達の所には行かないって言ってるんだよ」
「・・・・へぁッ!?」
士道の言葉に、七罪は目を白黒させた。
「ちょ・・・・ちょちょちょちょ待ちなさいよ何ソレ嘘でしょ!? じ、順番はこっちの自由じゃないの!? 第1何で私なのよ!」
「気分」
「っざっけんなコラァァァァァァァァァァァっ!?」
《・・・・落ち着きたまえ、七罪》
と、七罪が金切り声を上げるのと同時に、インカムから令音の声が響いた。
ー令音sideー
モニタに選択肢が表示され、クルー達が選択する。
①未熟なカラダを活かしての無邪気アプローチにドキドキ。
②余裕溢れる大人のお姉さん的対応でギャップ勝負。
③老獪なロリババァ的魅力で勝負。
クルー達が選択する。
結果はーーーー②を
①は七罪には多少酷。中津川だけが③を選んでいた。ある意味消去法だ。
「・・・・聞こえるかい七罪。②だ」
令音がインカムに繋がったマイクに向けてそう言った。
ー七罪sideー
「・・・・っ」
指示を受けた七罪は、ゴクリと息を呑む。
ーーーー余裕溢れる大人のお姉さん的対応ギャップ勝負。お姉さんモードでもないのに、それを士道にやれと言うのか。
ドクンドクンと心臓が脈打ち、緊張の為か身体中にブワッと汗が噴き出す。
いつもならここまで精神状態が不安定になれば、霊力が逆流している筈なのに、それがほとんどせず、拠り所である変身能力が使えないのだ。
人見知りで対人恐怖症で生まれ変わったら単為生殖が可能な生物になりたい七罪には、土台無理な話だ。
「(でも、そんな事言っていられない状況よね・・・・ここで私が諦めたら、士道が最悪死んじゃうし、そんな事になったら四糸乃達も悲しむしーーーー私だって絶対ヤダ・・・・あぁ、ドラゴンがいてくれたら背中を叩いてくれるのにぃ・・・・!)」
自分が対人対応でヘタレそうになると、ドラゴンがフォローをしてくれていた。だがーーーーそのドラゴンはもういない。
そして士道は、そのドラゴンを『必要ない』とほざいたのだ。
「(・・・・・・・・何か、ちょっとムカつく」
七罪は、士道に対して少し腹を立てた。
今の自分がいるのは士道のお陰だし、緊張で目眩いと声が上擦る。しかし、今の士道を見ていると何やらムカムカする気持ちが少しずつ込み上がってくる。一言言ってやりたい気持ちでいっぱいだ。
「・・・・・・・・」
「七罪、どうした?」
《何をしてるんだい七罪?》
士道と令音の声が響くが、七罪は意を決して声を発する。
「(ーーーー助ける前に、士道に1発かましてやる!)・・・・ちょっと待ってなさい!」
「え?」
士道が目を丸くしているが、七罪はそれを無視してバッと身を翻すと、先ほど着替えを済ませた更衣室の方へと走っていった。
その更衣室には、様々なサイズとデザインの水着が備えられ、士道が来る前に皆で吟味し、それぞれに合う水着を見繕った。七罪は地味なのを選んだが。
七罪はその水着の山から、美九か夕弦くらいのナイスバディな女の子用の大胆なビキニタイプの水着を選び出した。
「よし・・・・」
七罪は拳を握り、着ている水着を脱いで全裸となった。
今の状態で霊力を顕現させるのが危険なのは重々承知している。だが、士道に一言言ってやらないと気が済まない。
七罪は細く息を吐くと、意識を集中させ、ネガティブ妄想を展開させる。
「・・・・コンチキショォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォっっ!!!」
叫び声を上げると、七罪の身体が淡く発光すると、身体がやせっぽっちのチンチクリンから、グラマラスな女性へと変貌した。
ーーーー大人のお姉さんモードである。
「うふふ・・・・じゃあ、士道くんに一言言ってあげましょうか」
七罪は、先ほどまでとは打って変わって自信に溢れた所作で鏡の前でポーズを取った後、更衣室を出ると、令音の声が響いた。
《・・・・七罪、その姿ーーーー霊力を使ったね? 危険だ。今すぐ元に戻るんだ》
「ふふ、ごめんなさいね。で・も、今のちょ~っとお調子に乗ってる士道くんに、お姉さんがお説教してあげないと、ね」
《・・・・駄目だ。危険すぎる。すぐにーーーー》
「ハイハイ、分かったわよーーーーすぐに士道にお説教してあげるわ」
七罪はすぐに鼻を鳴らして士道の元へ歩いていった。
「士道くん、お・待・た・せ♪」
「ああ、七罪・・・・ってお前、その姿は」
士道が驚いたように目を丸くしてくると、七罪は余裕のある笑みを浮かべながら士道にピッタリと身を寄せ、その腕をつつ・・・・指先でなぞった。
「この姿? ふうん・・・・士道くんたら、私の身体に興味あるんだーーーーあうっ!」
悪戯っぽく言いながら、七罪が士道を弄ぶように続けようとした瞬間、突然の胸の痛みが走り、七罪の身体が小刻みに震え始めた。
「く、くぅ・・・・これは・・・・」
「おい、七罪? どうかしたのか?」
脂汗を浮かべながら身体を折る七罪に、士道が心配そうに声を掛ける。しかし、痛みは一向に引かず、段々と身体が熱を帯び始め、呼吸までも苦しくなる。
そしてーーーー七罪の意識が途絶えそうになった瞬間。
七罪の身体が淡く輝き、元の姿に戻ってしまった。しかも、大人のお姉さんモードに替えた水着が、七罪の胸に留まらず、辛うじて片方の片紐のみを残した状態でヒラヒラと落ちていった。
「ギャーッ!?」
七罪は悲鳴を上げてその場に蹲り、胸元と下腹を手で覆い隠した。
士道は暫しの間、そんな七罪の様子をポカンと眺めると、
「ーーーーぷ、ふふ、ははは、あははははははははははっ!」
やがて、堪えきれないと言った様子で腹を抱えて笑いだした。
「う・・・・う、うるさぁぁぁぁぁぁぁいっ! 笑う《ーーーーパンパカパーン!》なっとと!?」
叫びそうになった七罪の右耳のインカムから、クリアを示すファンファーレが鳴り響いた。
《・・・・おめでとう七罪。クリアーだ。シンは君の艶姿に、ちゃんと心動かされているよ》
「ーーーーえ?・・・・嘘。ホントに・・・・?」
インカムから聞こえた令音の言葉が信じられず、呆然となる。すると士道が、近くに設置されていたビーチベッドから薄手のパーカーを取ってくると、七罪の肩に優しく掛けた。
そして数秒の間七罪を見つめたかと思うと、フッと唇を緩める。
「・・・・な、何よ」
「ふふ・・・・いや、悪い。七罪、お前って本当に・・・・可愛いな」
「な・・・・っ!?///////」
その言葉に、七罪が赤くなりそうだったが、すぐに深呼吸して、士道に声を発する。
「ねえ士道、私が何でお姉さんモードになるか知ってるわよね?」
「ん? ああ」
「あの姿はね、言うなれば『仮面』なのよ私の」
「ん?」
今一七罪の言いたい事が分からない士道が首を傾げるが、七罪は続ける。
「自分に自信が無くて、カナブンにも劣る存在で、周りの目が恐くて怖くて仕方ない、貧弱で脆弱で軟弱でどうしようも救い用もないヘタレで臆病者の私がそれを隠す為に被る『仮面』なの」
「ふむ」
「・・・・今の士道。私と同じよ」
「えっ?」
「“失ったヤツ”の代わりに霊力を手に入れて、自分の弱さを必死に隠してる。まさに私と同じよ」
「っ」
七罪の言葉に、士道は余裕顔が僅かに崩れ息を呑む。
「言ってたじゃない。【女の子は天使なんて使わなくたって、『変身』できるんだって事をさ】って、私に教えてくれたじゃない。そのアンタが、そんな『変身』なんてしないでよ。アンタの付ける『仮面』は、アンタがする『変身』はーーーーソレじゃないでしょう!? アンタがいて、“アイツ”がいるからアンタ達はーーーー」
七罪は気持ちを込めて叫んだ。
「ーーーー〈仮面ライダーウィザード〉なんでしょう!?」
「っっ!!」
「だから、その・・・・う、うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うわっ!!」
最早色々キャパオーバーした七罪が、士道にドロップキックをおみまいし、士道はプールに落ちてしまった。
「うぅっ、うぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
七罪はそのまま、更衣室へと走り去っていった。
ー士道sideー
「・・・・・・・・・・・・」
【『彼』がいなくなった士道は、きっと不完全な士道です】
【アンタがいて、“アイツ”がいるからアンタ達はーーーー〈仮面ライダーウィザード〉なんでしょう!?】
士道はプールの底に落ちていきながら、夕弦や七罪に言われた言葉が、頭の中をグルグルと回っていた。
「(・・・・何だよ、もう俺は、“アイツ”無しで皆を守れるのに、何で夕弦も七罪も、あんな事言うんだよ・・・・!)」
士道は悔しそうな顔になりながらも、プールから出る時には、もう“余裕の顔の『仮面』”を付け直していた。