デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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次は義妹と妖怪のコンビです!


攻略・士道4

ー琴里sideー

 

四糸乃が士道をデレさせた後。ガルーダ・ファントム達と〈バンダースナッチ〉の攻撃、そして士道の奥義によって、今にも崩落しそうな状態に陥った屋内プール施設の一角で、精霊達による臨時会議が行われていた。

 

「ーーーーよし。ウザったい茶々が入ったけど、これで残りは4人となったわ」

 

『おおっ』

 

琴里の言葉に、十香達が色めき立つ。

 

「うむ。中々順調ではないか」

 

「でも、問題はここからよ。裏を返せばまだ半分。その上、エレン・メイザースやファントム達も来てる。令音達が対応に当たって貰っているから、ここからはサポートが期待できないわ」

 

「うーん、それも問題なんですけど、それ以前にーーーーさっきまでの南国の楽園が、一気に紛争地帯みたいになってるんですけど・・・・こんなロケーションでどつやってだーりんをドキッとさせましょうかねー」

 

美九が顎に指を1本立てながら、周囲を見回してそう言った。

確かに、折角の特別施設が、不粋な連中のせいで台無しである。こんな場所で士道をデレさせるなんて不可能に近い。

が、琴里が心配ない、と言うように首を振った。

 

「安心して。それについては用意があるわ。ーーーーさっきセカンドシークエンスを発動させたから、もう準備ができてる筈よ」

 

「セカンド・・・・? 何なのだ、それは」

 

と、十香達が怪訝そうに眉根を寄せた。

 

「見てなさい」

 

琴里は右手の指を咥えると、そのままピィィィィィーーーーッ、と指笛を鳴らした。するとそれに応じるように、建物の壁がゴゴゴゴ・・・・と音を立てて振動を初める。

皆、ファントムやDEMからの攻撃かと思ったが、違うようだ。何故なら、青空を映し出していた壁が変形し、そこはかとない南国感を醸し出していたヤシの木か根元の金属部分を晒しながら可変し、プールの水が凄まじいスピードで排出され、地面全体がエレベーターのよつに沈んでいったのだ。

 

「お・・・・おおっ!?」

 

そして、地面が数メートル下方へと移動した処で天井にシェルターのような分厚い蓋がされ、人工砂浜が綺麗に割れて、下から臙脂色のカーペットが数を現す。

それだけでなく、やたらとメカニカルな駆動音が響き、証明が展開され、床からテーブルがせり上がり、煌びやかな装飾が次々と設営されていく。次いで、タキシードやナイトドレスでめかし込んだエキストラが辺りに散らばり、楽器を奏でたり、給仕を始めたり、ハイソサエティな話題に花を咲かせたりしていた。

僅か数分で、紛争地帯が一気に小洒落たパーティーホールへと変貌したのだ。

 

「な、何だこれは!?」

 

「ほう・・・・! 中々に豪華ではないか。それにこのメカ感・・・・中々に昂ぶるわ!」

 

「首肯。変形はロマンです」

 

「・・・・うわ、すっご。私の能力いらずじゃん・・・・」

 

精霊達が口々に驚きを発した。

だが、まだ足りない。この豪奢な空間に、琴里達の水着姿は場違い過ぎる。

 

「ーーーー着替え隊!」

 

『はい、ただいま!』

 

琴里が声を上げると、精霊達の元に何人もの女性スタッフが走り寄ってきた。

 

「な、何をする!?」

 

「ささ、どうぞこちらに」

 

「あ~ん! こんなに大勢のお姉様達にお持ち帰りされちゃうですぅ~!」

 

と、変な事を言う精霊は無視して、女性スタッフ達は精霊達をホールの端に設営されていたカーテンの向こうへと誘導されていった。

そして、数分後。

カーテンが開くと同時、綺麗なドレスに身を包んだ精霊達が、パーティーホールに姿を現した。

 

「おお、これは!」

 

「凄い・・・・です」

 

「きゃー! 素敵です皆さーん!」

 

皆のドレス姿を見て、美九が腰をクネクネさせる。

琴里はバッと手を広げながら高らかに宣言した。

 

「これこそ士道攻略用セカンドシークエンス、エレガントスタイル! さあ皆! 上品なレディの手管で、士道をデレさせるのよ!」

 

『おー!』

 

それに応じるように皆は拳を突き上げた。あまりレディっぽい仕草ではあるが、それは置いておこう。

琴里は、腰に手を当てながら慎ましい胸を反らした。

 

「宜しい。ーーーーじゃあ、お手本を見せてあげるわ」

 

琴里がスカートを翻しながら言うと、皆が頷いた。

折紙が、琴里を見送るようにビッと親指を立てた。

 

「武運を」

 

「ええ、ありがとう」

 

琴里はヒールをカツカツと鳴らしながら歩いていくと、そのまま士道の正面に立った。

 

「お、漸くご登場かい、司令官殿」

 

装いを水着から瀟洒なタキシードに替わった士道が、微笑を浮かべながらからかうように言ってくる。

琴里が腕を組ながらフンと鼻を鳴らした。

 

「ええ。調子に乗った士道が、慣れないパーティーホールで狼狽えていると思って」

 

「それはそれは。で、琴里は一体何をするつもり何だ?」

 

おどけるように肩を竦める士道が、面白がるように言ってくる。琴里は組んでいた腕を解くと右手を高らかに頭上に掲げ、パチン! と小気味良く指を鳴らした。

するとそれに合わせて、ホールの奥で音楽を奏でていた演奏者達が、曲調を優美なものに変えた。

そして、辺りで談笑していた機関員達が、自然に男女のペアを作り、その曲に合わせてダンスを踊り始める。突然映画のような展開の光景に、士道が驚いたように目を丸くした。

 

「おお、こりゃ凄いな。本当にパーティーみたいだな」

 

言って、無邪気に目を輝かせる。そんな士道を見ながら、琴里はやれやれと息を吐いた。

 

「士道」

 

「ん、何だよ」

 

「ーーーーまさかこんな状況で、女の子から言わせるつもり?」

 

半眼を作りながら言うと、士道はすぐに琴里の意図を察したように小さく笑った。

 

「ああ・・・・そうだな」

 

「全く、“アイツ”がいたら、ド突かれている処よ?」

 

「っ・・・・!」

 

琴里の皮肉に一瞬、悔しそうに顔を歪めるが、すぐに余裕顔に戻して、琴里に礼をしながら、手を差し出してくる。

 

「ソコの綺麗なお嬢さん。私と踊っていただけませんか?」

 

「良くできました」

 

琴里はフッと唇を緩めながらそれに応じると、士道の手を取って膝を屈めてみせた。

2人で視線を交じらせた後、皆がダンスをしているエリアへと歩いていく。

だが、2人でホールの中心に立った所で、士道が声を発してきた。

 

「さて琴里。ここまで来て何だが、1つ困った事がある」

 

「何よ」

 

「おにーちゃんダンスとか全然やった事ない」

 

「・・・・・・・・」

 

まあ、それはそうである。今の士道は熱と霊力とコンプレックスの爆発で、言動が自信満々のプレイボーイになっているだけで、知らない事までできるようになった訳ではない。

 

「良いわ。それ位予想済みよ。ーーーー取り敢えず、左手で私の右手を軽く握ってみて」

 

「こうか?」

 

「ええ。そうしたら今度は、右手を私の腰に回して」

 

「分かった」

 

士道は素直に頷くと、右手を琴里の腰元に伸ばしてきた。しかしその際、ツツツ・・・・っと、琴里の背中を指でなぞってくる。

 

「きゃっ!?」

 

「あはは、可愛い声上げるじゃないか、琴里?」

 

「・・・・あなたねぇ」

 

恐らく先ほどの皮肉の仕返しだろう。琴里は頬を染めながらギロリと士道を睨み付けた。士道が軽い調子で笑ってくる。

 

「悪い悪い、そんなに睨まないでくれよ」

 

「・・・・全く。私がリードするから、曲に合わせて動いてみて」

 

「ああ、分かった」

 

士道が小さく頷き、曲と琴里の動きを感じ取りながらステップを踏んでいく。

 

「そう、リズミカルに。ワン、トゥー、スリー、ワン、トゥー、スリー」

 

「おいおい、あまり押さないでくれよ。俺と密着していたいのは分かるけどさ」

 

「だ、誰がっ! 良いからほら、早くする!」

 

琴里は顔を赤くしながら叫びを上げた。・・・・いやたあ、確かに踊る為にはピタリと身体を密着させねばならないし、それが士道をドキッとさせる為の方法の1つでもあるのだがーーーー本人に指摘されると何だか無性に恥ずかしくなってしまう。

しかし、此方が緊張していては本末転倒である。琴里は平静な風を装って、さらにグイと身体を寄せた。そして互いの吐息を感じながら、優雅な曲調に合わせてホールを巡るように踊っていく。

最初こそぎこちなかったものの、数分も経った頃には士道も動きに慣れたのか、段々と足取りが大胆になってきた。

 

「そうそう、中々飲み込みが早いじゃない」

 

「はは、先生が良いからかな?」

 

「ええ、そうね。それ以外に考えられないわ」

 

「謙遜しないのかよ」

 

士道が冗談めかすように言いながら、琴里の目を見つめてくる。

 

「でも、ちょっと驚いたよ。いつの間にこんな事覚えたんだ?」

 

「レディの嗜みよ。男子3日会わざれば・・・・何て言うけれど、それは女子だって同じ事だと思わない?」

 

言って、琴里は士道を挑発するように、上目遣いの視線を送った。

 

「私だって、いつまでも子供じゃないんだから。ーーーー手に入れた力で遊んでいる内に、置いて行っちゃうわよ、“おにーちゃん”?」

 

「ーーーー」

 

琴里の言葉に、士道は一瞬息を呑むかのように目を丸くする。

そしてその後、噴き出すように鼻から息を吐いた。

 

「ははは・・・・参ったな。まさか琴里に、こんなやり方でドキッとさせられるだなんて」

 

「何か引っ掛かる言い方ね・・・・って、士道、今なんて」

 

《ーーーーパンパカパーン!》

 

思わずダンスを止めて聞き返そうとした琴里に、一拍遅れてインカムからファンファーレが鳴り響く。

それが聞こえた訳ではないが、士道は悠然とした調子で微笑むと、誤魔化す事なく繰り返す。

 

「ああ・・・・ドキッとしたよ。流石だな琴里、やられたよ」

 

「・・・・っ!」

 

恥ずかしがる風もなく、真っ直ぐな瞳で見据えて言ってくる士道に、琴里の方が赤面してしまう。琴里は少し目を剃らしながら強がるように慎ましい胸を反らしてみせる。

 

「ふ、ふん・・・・当然じゃない。士道をデレされるだなんて、私にとっては赤子の手を捻るようなものなんだから」

 

「ああ、まさか琴里がこんな大人びたアプローチをしてくるだなんて予想だにしてなかったからな。ギャップにやられちまったよ。琴里がダンスを促してきた時はてっきり、踊っている最中に盛大にスッ転んでスカート全開、俺に向かってバックプリント付きのパンツを晒してドキッとさせようとしてくるもんだと思ったから」

 

「それは流石に馬鹿にし過ぎじゃない!? て言うかバックプリントなんてもう穿いてないからね!?」

 

「分かってるって。冗談だよ、冗談」

 

「・・・・全く」

 

士道が笑いながら言ってきて、琴里は息を吐く。そして、このままじゃ少し悔しいから、琴里が、“今士道が1番気にしている事”を話し出した。

 

「・・・・士道、私だって“アイツ”の事、良い感情はあまり持ってなかったわ」

 

「・・・・っ!」

 

“アイツ”、それが誰なのか、士道は良く知っている。士道の反応を見て、琴里は続ける。

 

「“アイツ”はいつも上から目線だし、偉そうだし、高圧的な物言いも凄い腹立つわ・・・・!」

 

「(それ、琴里が言うか・・・・?)」

 

《『(同族嫌悪ですか? 司令?)』》

 

司令官モードの琴里も似たようなもので、士道だけでなく、クルーの大半も苦笑しながら内心そう呟いた。

が、琴里は気づかず続ける。

 

「でも、何が気に入らなかったって言うのは、あなたが私達〈ラタトスク〉よりも、“アイツ”を頼りにしているって事が、1番腹立たしかったわ」

 

「えっ? 俺が・・・・?」

 

琴里の言葉が以外だったのか、士道は僅かに目を見開いた。

 

「だってそうでしょう? ファントムと戦う時も、精霊達との攻略も、あなたは私より“アイツ”に、1番に相談し、頼りにしていたじゃない」

 

「あっ・・・・」

 

「平和ボケで甘ちゃんの士道が、これまでファントムと戦ってこられたのも。『世界最強の魔導師<ウィザード>』を打ち破り、その称号に泥を塗れたのも。あなたは自覚していたかどうか分からないけど、四糸乃とよしのんの言う通り、誰よりもあなたの傍にいて、誰よりもあなたの背中を支えたり、叩いたり、誰よりもあなたの傍で、あなたと一緒に戦ってくれたのはーーーー他の誰でもない、“アイツ”でしょう?」

 

「・・・・・・・・」

 

士道は顔を徐々に俯かせていく。

 

「私達の霊力を手に入れたからって、今まで一緒に戦ってきた『相棒』をあんな風に言うだなんて、私のおにーちゃんは、そんな情けない薄情者な人じゃないでしょう?」

 

「・・・・・・・・」

 

「私達が“アイツ”の事を言うのは気に食わないでしょうけど、これは、士道が1番分かっている事なんじゃないの?」

 

「・・・・・・・・っ」

 

士道は琴里の目から顔を反らした。まるで不貞腐れた子供のような兄の態度に、琴里は内心、反抗期の息子を持った母親の気持ちになる。

 

「・・・・兎に角、話を戻すけど、ドキッとした事で、私は条件をクリアしたって事よ」

 

琴里がそう言うと、士道は余裕顔に戻し、気取った態度となって、琴里の手を取る。

 

「・・・・ああ、勿論さ。ーーーー今日の12時が楽しみだな、俺のシンデレラ」

 

そして琴里の手の甲にチュッ、と口づけした。その突然の行動に、琴里は目を白黒させ、今さっきまで抱いていた気持ちが、一瞬で霧散した。

 

「な・・・・な・・・・!?/////」

 

「ん? 随分顔が赤いじゃないか。“大人の琴里さん”は、これくらいじゃ動じないと思ったんだけどな?」

 

「ーーーーっ、と、当然じゃない! 別にこれくらい、挨拶よ、挨拶!」

 

明らかに強がっている琴里に、士道は意地悪そうに唇を歪めた。

 

「こうだよな。思えば俺達、既に2回もキスしてるもんな。今さらこの位で慌てたりなんかしないよな」

 

「そ、そりゃあそうよ。もう・・・・2回もしてるんだから/////」

 

言いながらも、琴里は自分の顔が熱くなっているのを感じてしまった。5年前と半年前のキスを、当然琴里も良く覚えているのだが、改めて指摘され、認識すると、自分の意思とは関係なく心臓がドキドキと鳴り始めてしまうのだった。

士道はまるで、そんな琴里の動悸を見透かしているかのように微笑むと、琴里の耳元に唇を近づけ、囁くように声を発してきた。

 

「琴里もいつまでも子供じゃないんだし・・・・3回目は、大人のキスにしようか」

 

「へっ!?」

 

耳をくすぐる吐息と共に発されたその言葉に、琴里は声を裏返らせた。

 

「お、大人の・・・・きしゅ・・・・?/////」

 

あまりの驚きに、呂律が回らなくなる。

 

「(ーーーーキス。大人の、キス。嫌一応言葉としては知ってるわ。知識の上では知ってるわ! だけど、過去2回のキスも、唇と唇を触れさせただけの物だったし、今日の12時にするであろうキスも、今まで通りの物だと思っていたけど! ーーーーえっ、うそ、何それ? 大人のって、そんな、嫌、駄目な訳じゃないけどもうちょっとこう、心の準備って言うかーーーー/////)」

 

「ーーーーはむっ」

 

と、琴里の思考がリミットブレイクしかけた所で、不意に士道が、琴里の耳たぶを唇で甘噛みしてきた。

 

「うひあっ!?」

 

突然の事に、飛び上がってしまった。そんな様子を見てか、士道がアハハと笑った。

 

「やっぱり、琴里にはちょっと早かったかな?」

 

「ぐ、ぐぅ・・・・!/////」

 

琴里は悔しげに、しかし何処か安堵しながら士道を睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

「琴里さーん! やりましたねー!」

 

美九が元気な声で出迎えると、未だ頬から赤みが引かない様子の琴里が、小さく手を上げるようにして帰った来た。

 

「・・・・ええ、何とかね」

 

「うむ、凄かったぞ琴里!」

 

「綺麗な・・・・ダンスでした」

 

「ん・・・・ありがとう」

 

口々に言う精霊達に返すように、琴里が小さく頷く。が、

 

「琴里だけ『大人のキス』と言うのは不公平」

 

折紙が静かな声でそう言った瞬間、琴里は今しがたの士道とのやり取りを思い出したのか、顔が茹で上がった。

 

「だっ、だから! それは士道が勝手に言っただけで・・・・!」

 

「まあまあ、落ち着いて下さいよー。それより、次は私が行っても良いですかー?」

 

「ひッ」

 

美九が琴里を落ち着かせるように手を置き、次いでに首筋に息を吹きかけお尻をさすりながら言うと、琴里は息を詰まらせたような悲鳴をあげ、目を剥いた。

 

「・・・・え、ええ、勿論それは構わないけど」

 

「ありがとうございますー。つきましてはちょっとやりたい事があるんですけど、こう言うのってお願いできますか?」

 

美九が内緒話をするように口元に手をかざすと、琴里は警戒しながら耳を寄せ、美九は声をひそめながら、その内容を説明する。

 

「・・・・って言う感じなんですけどぉ」

 

「成る程、分かったわ。準備させておくから、頃合いになったら合図を頂戴」

 

「はいっ! ありがとうございます!ーーーーふうっ」

 

「あひゃぁっ!?」

 

美九は元気に言うと、琴里の耳に息を吹きかけ、琴里は小さく悲鳴をあげた。

 

「うふふ、では皆さん、行ってきますねー」

 

「こ、この・・・・!」

 

琴里が耳を押さえながら甲高い声を上げてくる。美九は口元に手を当てて、淑やかに笑うと、大仰に礼をした後、綺麗なウォーキングで士道の元へと歩いていった。

 

「・・・・・・・・飼い主<ドラゴン>がいなくなって、抑えが効かなくなったのが、士道以外にもう1人いたわね・・・・」

 

ヒョッコリと、十香の背後にいた七罪の言葉に、精霊達全員が、ウンウンと頷いた。

 

 

 

 

ー美九sideー

 

「ーーーーはぁい、ご指名ありがとうございます、だーりん。あなたの美九ですよー」

 

美九は士道の前まで至ると、スカートを翻すようにクルンとターンし、精霊の中で1番豊満な胸を、文字通り弾ませながらポーズを取って見せた。指名された訳ではないが、雰囲気である。

 

「お、次は美九か。はは、その服も似合ってるじゃないか」

 

「ありがとうございますー。うふふ、だーりんも素敵ですよー。でも、私達みたいなナイトドレスも似合うんじゃないですかねー? 1度士織さんの姿になってお揃いにして見るって言うのはどうですかねー?」

 

「ああ、多分使えるんじゃないかな。でも、本当に変身して良いのか? 士織がそんな服を着てたら、美九は鼻血くらい噴いちまうかも知れないぜ?」

 

「本・望です!! 例えそれで失血死したとしても、最後の瞬間目に映るのが士織さんの大胆なナイトドレス姿であれば悔いはありませんっ! 背中の露出は多めで!」

 

《撮影は任せて》

 

身を捩って目をキラキラさせた美九が熱弁し、インカムから折紙の声が響いた。士道はそんな美九を宥めるように頭を撫でてきた。

 

「はは、それは光栄だ。でも、そんな事で天下のアイドルを失う事になったら、俺が美九のファンに殺されちまうよ。いいやーーーーそれ以前に、もし本当にそれが原因で美九が死んじまったら、俺は泣きながら後を追うしかないじゃないか」

 

「だーりん・・・・! ソコまで私の事を・・・・!」

 

士道の言葉に、美九はハッと口元を覆いながら目を潤ませた。

 

《・・・・毎度の事だけど、何してるのよ美九》

 

と、感激している美九のインカムに、琴里の呆れた声が響くと、美九は身体の向きを士道から外し、小さな声で返す。

 

「どうしましょう琴里さん。私的にはだーりんと一緒にお墓に入るのは全然オーケー何ですけど、だーりんにはちゃんと天寿を全うして欲しいんです。でも私の毛細血管が士織さんのナイトドレス姿の衝撃に耐えられるかどうか・・・・」

 

《だから何の話をしてるのよ!? 時間が無いって言ってるでしょ!》

 

「はっ、そうでした。すみません琴里さん。何だからソコはかと無く耽美なだーりんと話をしているとつい」

 

琴里の金切り声に、美九は正気に返り頬をポリポリと掻いた。

 

《全く・・・・しっかりしてよね。本当に大丈夫なの?》

 

「ええ、任せて下さい。じゃあそろそろ、いかせて貰いますよー」

 

美九は小声で言うと、ニコッと微笑みながら士道の方に向き直った。

 

「と言う訳でだーりん。折角何ですが時間が押しているようなので、早速だーりんをデレさせていただきます」

 

「へえ? 随分自信があるじゃないか。一体どうするんだ?」

 

士道が面白がるように言うと、美九は口元を綻ばせながらクルリと振り返り、大きな声を発した。

 

「ーーーーそれじゃあ皆さん、よろしくお願いしますー! さぁ、ショータイムですー!!」

 

すると美九の号令に合わせて、楽器を携えた演奏家や、煌びやかな衣装に身を包んだ女性達がホール奥に設えられたステージ上に現れ、その中央に、銀色に輝くスタンドマイクが置かれた。

美九はそれを確認すると、カツカツとヒールを鳴らしながら壇上へと上がり、マイクの前に立つ。

瞬間、ホール内の照明が落とされ、美九目掛けてカッとスポットライトが照射された。それに合わせて、ホール内のギャラリーがワアッと盛り上がり、拍手が鳴り響く。

美九は拍手が落ち着くまで待ってから、チラと後方に目をやり、演奏者に視線で合図を送る。すると演奏者達が小さく頷き、ジャズ調の曲を奏で始める。

美九はその曲に合わせて身体でリズムを取りながら、スタンドマイクに手をかけーーーー甘い声で歌を歌い始めた。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

癖のある曲調。英語の歌詞。いつものアイドルとして歌う美九が歌う曲とは、全てが異なる一曲。

しかさ、歌に込められた想いは何1つ変わらない。ーーーー甘い甘い、愛の歌。

そう。美九が士道をデレさせる方法は、1つのみ。

美九はスタンドマイクからマイクを取り外すと、艶かしいウォーキングでステージを闊歩し、曲に合わせて踊っていた女性の1人に身を寄せ、顎を指でなぞりながら、挑発的な視線を士道に向ける。

するとそれに合わせて、カッと士道にスポットライトが当たる。

 

「っ」

 

士道は意外そうに目を丸くした。

 

「ふふっ」

 

美九は妖しく微笑むと、曲の伴奏に合わせるようにしながらステージを上がり、士道の方へと歩いていった。美九に注がれていたスポットライトとバックダンサー達が、それを追うようにホールへと移動していく。

美九は士道の目前まで至ると、その手を取って士道をリードするように移動していく。少し驚いた士道だが、美九に身を任せて付いていく。

向かった先には、いつの間にか大仰なソファが用意されており、まるでその一角だけバーにでもなったような風情である。

美九はソコに士道を座らせると、おもむろにその膝の上に腰を落ち着け、お姫様抱っこのような形を作りながら、曲の続きを歌い始めた。

 

「ーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーー」

 

そして曲に合わせ、甘い吐息を交えながら、士道の頬をなぞり、鼻の先を指先でツン、とつつく。士道がハハッと苦笑した。

加え、駄目押しとばかりに士道の両脇や後方に、綺麗な衣装を身に着けた女性バックダンサー達が現れる。まるで贅を尽くして遊びに耽る、何処かの国の放蕩王子のようである。

しかし、今この場で陶酔しているのは間違いなく美九であった。“大好きな士道”の膝の上で歌を歌いながら、綺麗な女性達に囲まれているが、その顔には一瞬、悲哀が浮かんでいるように見えた。

 

「ーーーーーーーーーーーー」

 

美九は、一瞬の悲哀を消すと、一層色を帯びた声音で曲を歌い上げーーーー。

最後に士道に指を向けながら、「バン☆」と心臓を撃ち抜くような仕草をした。

 

「DarlingーーーーI love you」

 

言って、パチリとウインクしてみせた。

 

「・・・・!」

 

《ーーーーパンパカパーン!》

 

するとその瞬間、士道が目を丸くしーーーーインカムからファンファーレが鳴り響いた。

 

「うふふ、ドキッとしてくれたみたいですね、だーりん」

 

「ああ・・・・どうやらそのようだ。こんなに真正面から落とされるとちょっと悔しいな」

 

士道が苦笑して言うと、美九はフッと微笑みながら、指先で士道の唇に触れた。

 

「そんな事ありませんよー。ーーーー忘れてました? 私、だーりんより1歳お姉さん何ですよ? たまには翻弄させてくれてもいいじゃないですか」

 

「あはは、そうだな」

 

美九がそう言うと、士道は小さく笑い、降参を示すように手をあげた。

すると美九は、何処か哀愁のある大人の雰囲気で士道を諭す。

 

「・・・・だーりん、私、だーりんが大好きです。ほんの少し前の私だったら、男の人にこんな事を言わなかったです」

 

「あぁ、そうだな」

 

人間だった頃の経験で、人間嫌い(特に男)だった美九ならばそうだろう。

 

「でも私ーーーー“ハニー”の事も大好きなんです」

 

「っ・・・・」

 

美九の言う“ハニー”を聞いて、士道の肩が小さく揺れた。

 

「あの頃の私、“ハニー”の言う通り、『空っぽな歌』を歌っていました。自分1人だけが歌を楽しみ、音楽への情熱や、ファンの皆さんへの感謝も何もない、『空っぽな歌』でした。音楽って、音を楽しむって書くのに、私は自分しか楽しめない歌しか歌っていませんでした。天使の力や、磨いてきた技術と表現力で誤魔化しているだけのつまらない歌でした。・・・・でも、今なら私は、あの頃よりも素敵な歌を歌えるようになりました。それは、だーりんと“ハニー”って、お2人の素敵な魔法使いさん達が届けてくれた・・・・たった1つの奇跡です・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道は、美九の言葉を正面から聞いた。琴里のように顔を反らす事が、何故かできなかった。

 

「私、幸せです。可愛い精霊の皆さんだけでなく、大好きなだーりんと大好きな“ハニー”に囲まれて、心の底から、私は世界1幸せですって、世界中に叫びたいくらいです・・・・!」

 

でも、と口にした美九の目が、僅かに潤んだ。その“大好きなハニー”が、もういなくなってしまったからだ。

 

「美九・・・・」

 

士道が声をかけようとしたが、美九は我慢して笑顔を浮かべながら続ける。

 

「・・・・大丈夫です。“ハニー”はきっと私が哀しむのを、望んでいませんから。だーりん。私は、“ハニー”と一緒にいるだーりんも大大大好きです。だから、私の大好きなだーりんを、“ハニー”と一緒に私のファンでいてくれるだーりんを、嫌いにさせないで下さい」

 

「っ」

 

美九は士道の膝の上から降りて立ち、悲しみが混ざった笑みを浮かべる。

 

「ちょっと偉そうな事を言っちゃいましたね。ーーーーでも、忘れないで下さい。私、だーりんと“ハニー”、お2人が一緒にいる姿が、1番大好きだって事を・・・・」

 

そう言うと美九は背を向けて、名残惜しそうだが、優雅な足取りで士道から離れた。

 

「・・・・・・・・何なんだよ・・・・!」

 

士道は顔を俯かせ、四糸乃だけでなく、美九にまであんな悲しそうな顔をした事に、何処か苛立たしい気持ちになり、ボソッと呟いた。




次回、満を持して、あの2人が動きます!
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