デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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琴里に、最悪の選択が迫る。


破滅の鍵

ー十香sideー

 

「く・・・・!?」

 

突然の士道の変貌に、十香は咄嗟の事で踏ん張りが利かず、軽々と吹き飛ばされた。数メートル後方にゴロゴロと転がった後、テーブルにぶつかって漸く停止した。

 

「十香! 大丈夫!?」

 

「む・・・・ああ、琴里か。私は大丈夫だ。それよりシドーは!」

 

痛む頭をさすりながら頭を上げるとそこには、タキシードから元の制服に戻り、濃密な霊力を纏いながら浮遊する士道の姿があった。

 

「シドー!」

 

叫ぶがーーーー返事がない。眠っている訳ではないが、顔に表情はなく、その視線はボウッと虚空を眺めていた。

 

「琴里、シドーは一体どうしてしまったのだ!?」

 

「分からないわ・・・・! タイムリミットまではまだ時間はあった筈なのに!」

 

2人が悲鳴染みた声の応酬をしていると、前方に浮遊した士道に変化が現れた。

士道の周囲に蟠った霊力の塊が一層輝きを増したかと思うと、その光が、施設全体を包み込むように広がっていく。

 

「あぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「シドーーーーー」

 

十香の声が最後まで発されるよりはやく。

ーーーー士道から発された光の線が、パーティーホールの天井を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

ー真那sideー

 

ーーーー空に、幾つもの閃が煌めく。

ヘルキューレ<エレン>が振るう〈ダーインスレイヴ〉。そしてそれと斬り結ぶビーストハイパー<真那>の〈〉ダイスサーベル〉と〈ミラージュマグナム〉である。

上段、下段、横一文字、光弾。ヘルキューレ<エレン>はビーストハイパー<真那>が繰り出す攻撃を正確に受け止め、その合間を縫うようにして光の軌跡を描いてきた。幾度目ともしれぬ剣閃を紙一重で回避し、ヘルキューレ<エレン>に2撃目を放たせる前に、ビーストハイパー<真那>は反撃の刃を振るう。

 

「ふーーーーッ」

 

流石は最新型のドライバーと元最強の魔術師<ウィザード>。士道の最強形態『オールドラゴンスタイル』と互角以上に渡り合える相手だ。ビーストハイパー<真那>もパワーアップしたと言うのに簡単に倒せる相手ではなかった。

とは言え、ビーストハイパー<真那>の目的はあくまでも時間稼ぎ。ここでヘルキューレ<エレン>と捨て身で戦うつもりは毛頭ない。別の場所で動いているメデューサ達には『彼』が足止めしている筈だ。

 

「(この調子で目的通り時間を稼ぎやがりますよ。琴里さん達が兄様を何とかしてくれまで)」

 

≪(そうじゃなーーーーむっ! 真那! 何やら施設で妙な気配がーーーー)≫

 

ライオンが叫ぶと同時に。

ビーストハイパー<真那>達の下方にある〈ラタトスク〉の施設が発光したかと思うと、空に向かって光線が発射され、凄まじい衝撃波がビーストハイパー<真那>の背中を叩いた。

 

「・・・・なッ!?」

 

ビーストハイパー<真那>は咄嗟にキマイラ達が身体を動かして回避したが、仮面越しに思わず目を見開いた。

と、その一瞬の隙をヘルキューレ<エレン>か見逃すなどせず。

 

「隙だらけです」

 

「っ、くーーーー」

 

ヘルキューレ<エレン>にとってその一瞬は、敵に致命的な1撃を叩き込むに足る時間だ。

〈ダーインスレイヴ〉からの1撃をどうにか腕の〈フリンジスリンガー〉で防御したが、その威力を完全に殺しきれず、まるでテニスかバレーのスマッシュを受けたボールのように、ビーストハイパー<真那>の身体が地上へと落下していく。

 

「うぐ・・・・っ!」

 

落下の衝撃を〈フリンジスリンガー〉を繭のように全身に包んで防いで、地面に至る。

僅かに朦朧とする頭をフルフルと振る。

 

「あたた・・・・やってくれるじゃねーですか。・・・・にしても、今のはーーーーっ!」

 

ビーストハイパー<真那>は油断なく上空に気を張りながら、簡単に周囲の様子を窺った。そして小さく息を詰まらせる。

地面に叩きつけられたビーストハイパー<真那>のすぐ近くに、霊力の光を湛えながら浮遊した士道の姿があったのだ。

 

「兄様!?」

 

≪何じゃあれはっ!?≫

 

≪どうなってんだ!?≫

 

≪真那ちゃんのお兄さん、霊力を纏っているわ!?≫

 

≪あれじゃまるで精霊だよっ!≫

 

≪んもっ!?≫

 

ビーストハイパー<真那>が仮面を解除し、キマイラビースト達と戦慄していると、士道はゆっくりと真那に視線を寄越してきた。

まるで薬物によって意識が朦朧としているかのような、ボンヤリとした目で真那を見ながら、小さく唇を開いてくる。

 

 

 

「ああーーーー真那。“良かった、無事だったんだな”」

 

 

 

そして優しげな声で、そう呟いた。

 

「兄・・・・様?」

 

兄の言葉に、真那は妙な違和感を覚え、眉根を寄せる。

額面通りに取れば、ただ真那の身体を心配しているようにも聞こえる。現に真那はヘルキューレ<エレン>によって手痛い1撃を貰ったばかりだ。

だがーーーー何故かその士道の言葉には、それ以外の意味が内包されているようにも聞こえて仕方なかった。

士道は忘我の境地に入っているような調子のまま、言葉を溢すように続ける。

 

「心配・・・・していたんだぞ。お前がDEMの奴等に拐われて・・・・でも、良かった。本当に・・・・」

 

「・・・・拐われて? 兄様、どういう事でいやがりますか?」

 

「ーーーー『ミオ』は・・・・何処にいるんだ? アイツが助けてくれたんじゃないのか・・・・?」

 

「だから、何を言ってやがるんですか、兄さーーーー」

 

と、言いかけた瞬間、真那の頭に鋭い痛みが走り、思わず額を押さえ、顔をしかめた。

 

「う・・・・く・・・・!」

 

ただの頭痛ではない。

ーーーー『ミオ』。士道が発したその名を聞いた瞬間、真那の頭の中に、見た事のない景色が幾つも浮かんできた。

 

「こ・・・・れ、は・・・・」

 

まるで映画のフイルムのように頭の中で幾つもの場面が切り替わっていく。

友人と遊んだ公園。教室で授業を行う先生。兄の士道が祝ってくれた誕生日。

そしてーーーー髪の長い少女の後ろ姿。

 

「あ・・・・」

 

その姿が脳裏に浮かんだ瞬間、真那は視界が明滅するかのような感覚を覚えた。

 

「(何で、やがりますか? この少女の顔が、思い出せないでやがります。知っているのに、私は確かに、知っている筈なのに・・・・)」

 

≪≪≪≪≪真那(ちゃん)!!≫≫≫≫≫

 

真那の身体をビーストキマイラが動かし、その場から離れる。真那の居た地点に、光弾が飛んできて弾けた。

 

「ーーーー私を前に考え事ですか。舐められたものです」

 

頭上から、高圧的なヘルキューレ<エレン>の声が響き、真那のすぐ近くまで降下し、〈ダーインスレイヴ〉を振り上げていた。

 

「・・・・! しまっーーーー」

 

仮面を展開した真那は〈フリンジスリンガー〉で防御しようとした。

 

「・・・・ッ!」

 

しかし。ビーストハイパー<真那>の腕に衝撃が来なかった。

〈ダーインスレイヴ〉が届く寸前、士道を包む霊力が膨張し、魔力の刃を受け止めたのだ。

 

「ほう・・・・?」

 

ヘルキューレ<エレン>は怪訝そうな声を上げるが、すぐに忌々しげな声で士道を睨む。

 

「ーーーー五河士道。随分と素敵な姿になったではありませんか。成る程、本当に精霊達の霊力を取り込んだようですね? これならばアイクが欲しがるのも頷けます」

 

言ってヘルキューレ<エレン>が〈ダーインスレイヴ〉を構える。

そして士道は、その表情を険しいものに変えた。

 

「DーーーーE、M・・・・ッ・・・・うーーーーあ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

そして呼吸を荒くすると、獣のような雄叫びを上げた瞬間、士道を取り巻いていた霊力の渦が一層激しさを増し、近くにいたビーストハイパー<真那>もろともヘルキューレ<エレン>を吹き飛ばした。

 

「・・・・!」

 

「なっ!?」

 

≪真那ちゃん!≫

 

ドルフィンの声でビーストハイパー<真那>は両腕を動かし、〈フリンジスリンガー〉に水の防御膜を纏わせて衝撃を中和し、そのままファルコの能力で空中に静止し声を張り上げた。

 

「兄様! 何なんですかこれは! それに今のは一体ーーーー『ミオ』って誰なんですか!?」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」

 

しかし。士道は何も返さない。先ほど溢していた言葉も、もう聞こえなかった。ただ膨大な霊力を放出しながら、獰猛な獣の如く低いうなり声を上げている。

 

「く・・・・」

 

尋常な状態でない事が明らかだ。可能ならばもっと話を聞きたいが、元が付いているが人類最強の魔術師<ウィザード>がそれを許してくれない。仮面越しに奥歯をギリと噛み締めると、士道から視線を切った。

 

 

 

ー琴里sideー

 

「けほっ・・・・けほっ・・・・だ、大丈夫、皆!?」

 

凄まじい霊力の光によって崩壊したパーティーホールで。舞い上がった土煙に咳き込みならも、琴里は声を張り上げた。

するとすぐ隣で仰向けに倒れていた十香が身を起こしながら声を上げる。

 

「うむ・・・・大事ない。しかし、一体何がどうなったのだ・・・・?」

 

キョロキョロと当たりを見回す十香に合わせるように琴里と顔を上げた。

とっくにの士道の霊力によって、天井と壁面に大穴が空いていたが、他の精霊達や機関員は、見る限り無事のようだ。すぐに起き上がった精霊達が声を上げる。

 

「無事ですかー!?」

 

「・・・・な、何だってのよ、一体」

 

「ーーーー琴里さん!」

 

だがその中に、想定外の声が響いてきて、琴里は思わず目を見開いた。

 

「この声・・・・真那!?」

 

そう。真那が変身する〈仮面ライダービーストハイパー〉だったが、それだけでなく、DEMのヘルキューレ<エレン>もまた、ビーストハイパー<真那>と対するように剣を構えていた。

 

「あなた、一体何をして・・・・!」

 

ビーストハイパー<真那>はヘルキューレ<エレン>から視線を外さぬまま、小さく手だけを振って琴里に応じると、右手にミラージュマグナムを握り、銃口をヘルキューレ<エレン>に向けながら叫びを上げた。

 

「詳しい話はまた後で! 今はとにかく・・・・兄様を頼みます!」

 

そして空を蹴り、水色の魔力光を纏ってヘルキューレ<エレン>に斬り込む。ヘルキューレ<エレン>も白金の魔力光を纏って、何度もぶつかり合いながら、夜空へと上がっていった。

 

「(令音が言っていた『もしもの時の備え』って、真那の事だったのね)・・・・全くあの子は・・・・私には連絡先教えないでいたくせに・・・・!」

 

頭をクシャクシャとかきながら、ビーストハイパー<真那>がヘルキューレ<エレン>を押さえてくれるのは助かる。琴里は改めて士道を見やった。

ーーーーしかし。

 

「あ・・・・」

 

その姿を見て、琴里は無意識に声を震わせた。

ソコに立っていたのは、いつもの優しい士道でも、先ほどまでの調子に乗った不敵な士道でもなかった。

5色の光を放ちながらソコに君臨する“ソレ”は、最早人間とは呼べない代物に成り果てていたのである。

士道の身体を中心に渦巻いた濃密な霊力が、鼓動のように明滅する。そしてそれに合わせて、微かな震動が琴里達の身体に伝わってきた。まるで空気が、地面が、空間そのものが、士道の力に呼応して脈打っているかのような感覚だ。

嫌、ソレだけではなく。霊力の1部が光輝く幕や、金属の破片のようなモノを形成していく。まるでそれは、精霊が霊装を纏うように。

そして。

琴里がその姿を認めた次の瞬間。

琴里の耳に、インカムを通して不吉なアラームが聞こえた。

 

「あーーーー」

 

それは空間震の予兆や精霊の精神状態の異常のアラームと異なるもの。

ソレを琴里が聞いたのは今まで1度だけ。

『そういう』警報があるから覚えておけ、と。そして、『コレ』を聞かずに済むようにするのが最善である、とテストで聞かされた時のみだった。

 

「う・・・・そーーーー」

 

琴里は、指先、小刻みに震えるのを感じた。動悸が激しくなり、呼吸が苦しくなり、視界が歪んで、マトモに立っている事さえ困難になる。まるでーーーー自分はまだ『ゲート』であり、自分の『魔獣ファントム』、『イフリートファントム』が蘇り、自分の身体を喰い破りながら世界に現出していくあの感覚が、再び起こったように錯覚する。

そうそれはーーーー御使いの吹く終焉のラッパ。決して聞いてはならなかったソレを耳にして、琴里の意識は数字

瞬の間寸断された。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」

 

そうしていると士道が、人とは思えない咆哮を上げる。火花か放電現象のように霊力がバチッバチッと弾け、辺りを明るく照らす。

 

「・・・・!」

 

士道はそのまま両足を屈めると、地面を蹴って飛び上がる。今琴里達がいるのは元の施設の地下なのだが、そんな高さお構い無しに、地上へと軽々と出て、そのまま木々を薙ぎ倒すような破壊音を響かせながら、何処かへと移動していく。

 

「琴里さん! どうしたんですかー! だーりんを追いかけないと!」

 

「・・・・・・・・」

 

美九の声に反応するように顔を上げると、小さく唇を開こうとした。

一瞬、言葉が出ない。しかし無理もなかった。それを発すると言う事は、『最低で最悪の決断』を下す事と同義だったから。

だが、琴里は言わなければならない。

この国為に。

世界の為に。

人類の為に。

ーーーーそして何より、士道の為に。

それが〈ラタトスク〉司令官としてのーーーー5年前、士道に救われた者としての、責任に他ならなかった。

琴里は、声の震えをどうにか抑えながら、口を開いた。

 

「・・・・皆は、ここに待機しててちょうだい。ーーーー私が、何とかするわ」

 

琴里が言うと、精霊達は驚いたような顔になる。

 

「待機だと? 我らにも何か手伝わせるが良い」

 

「首肯。琴里らしくありません」

 

精霊達が口々に言ってくる。だが、連れていく訳にはいかない。琴里はスウっと息を吸うと、努めて明るい声を作りながら続けた。

 

「ーーーーだから、士道を何とかする為に、よ。私に任せてちょうだい。こういう事態に陥った時の為に、〈ラタトスク〉はちゃんと手段を用意しているんだから」

 

精霊達はまだ少し不安がある様子だが、やがてコクリと頷いた。

 

「じゃあ、お願いしますよー!」

 

「頑張って・・・・ください・・・・!」

 

「ええ」

 

琴里は短く答えると、精霊達と〈ラタトスク〉機関員をその場に残し、階段を上がって地上へと向かった。

 

「・・・・・・・・」

 

唯1人、折紙が何かを思考している事に気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

地上に出た琴里の目に映ったのは、全身から霊力を放ち、迫りくるグールやインプを周りの木々ごと薙ぎ倒している士道の姿だった。このままではやがて市街地に出てしまう。

琴里は、士道を見据えながら、細く息を吐き、ドレスの懐から、小さな端末を取り出した。

ーーーー絶対に使うまいと心に決めていた、『破滅の鍵』を。

 

「・・・・・・・・」

 

琴里は震える指先でその端末を操作すると、指紋認証と網膜認証、そしてパスワード認証を済ませーーーー手を前方に掲げながらボタンに指をかけた。

士道に狙いが定められた衛星軌道兵器〈ダインスレイフ〉の起動ボタンに。

 

「(“アイツ”がいれば・・・・どうしていないのよ・・・・ドラゴン・・・・)」

 

もういなくなってしまった、認めたくはないが、士道の『最高で最強の相棒』の名を囁く。

 

「・・・・ごめんなさい、おにーちゃん」

 

そして呟くように、琴里は言葉を溢した。

 

「こんか幕引きしかできない私を・・・・許して」

 

だがーーーーその瞬間。

左方から刺すような殺気を感じ取り、琴里は一瞬意識を乱された。

続いて、カチャリと言う音と共に、琴里のコメカミに冷たく固い感触を感じた。

すぐに気付く。ーーーー銃口が、自分に押し付けられている事に。

 

「・・・・!」

 

目線だけを動かし、その方向を見るとソコには、他の精霊達と地下に残っている筈の折紙がいた。

剣呑な眼差しと、無骨な9mm拳銃の銃口を琴里に向けながら、折紙は静かな、それでいて底冷えする声を発した。

 

「その手の物は何。一体、士道に何をするつもり? 五河琴里、あなたはーーーー」

 

折紙は途中で言葉を止めた。沈着冷静な彼女にしては珍しく、ピクリと眉の端を揺らす。

折紙の方を向いた琴里の顔を見てしまったのだ。

ーーーー涙と鼻水でグチャグチャになった、見るに堪えない悲痛な表情を。

 

「・・・・説明して。一体、どういう事なの」

 

眉根を寄せながら、折紙が続ける。

聡明な折紙に、適当な事を言っても誤魔化す事はできない。だがこのまま強行しようものなら、妨害は目に見えている。琴里は観念したように口を開いた。

 

 

 

「・・・・士道を、殺すわ」

 

 

 

琴里の言葉に、折紙は更に険しい顔になる。

 

「どういう事? それも〈ラタトスク〉の命令だと言うの?」

 

「・・・・半分当たりで半分外れ・・・・今の士道は、言うなれば時限爆弾よ。霊力の膨張を繰り返し、このまま放っておけば南関東大空災を越える爆発を引き起こすわ」

 

「・・・・っ」

 

琴里が自嘲気味に言い、折紙が、ギリと奥歯を噛み締めた。

 

「だから、殺すと?」

 

「・・・・そうよ。それが『失敗』してしまった私に課せられた最後の仕事。臨海前に士道を殺す事ができれば、爆発の規模は小さくて済む。・・・・千万単位の人命と共に士道が死ぬのを見守るか、士道1人を殺すのか、そう言われたら、私は後者を選ぶわ。ーーーー自分のせいで人が沢山死ぬだなんて、士道は悲しむに違いないから」

 

「・・・・・・・・」

 

折紙の指が微かに震える。琴里は視線を士道に戻した。

 

「このスイッチを押せば、衛星軌道上にある〈ダインスレイフ〉から魔力砲が発射されるわ」

 

「〈ダインスレイフ〉・・・・?」

 

「・・・・士道の身体を調べ尽くして、『士道を殺す為だけに作られた呪い』よ」

 

それが〈ダインスレイフ〉。琴里はこれ以上に最悪な顕現装置<リアライザ>の使い方を知らなかった。それをDEMではなく、自分の所属する〈ラタトスク〉機関の上層部・円卓会議<ラウンズ>が生み出したのだ。つくづくDEMと変わらないと思う。如何に琴里の再生能力を持った士道でも、体組織を破壊し尽くされれば再生のしようがない。

 

「・・・・ふざけるな。それが〈ラタトスク〉のやり方?」

 

折紙は射殺すような目のまま続ける。

 

「封印した霊力が均衡を保てなくなったら殺す? そもそも精霊の霊力を士道に封印させていたのは〈ラタトスク〉の筈。自分達の目的の為に士道を散々利用しておいて、不都合になったら処理すると言うの? それじゃあDEMと変わらない。あなたはそれほど士道を想っているのに、何故そんな命令に従おうとーーーー」

 

「ーーーー違うッ!」

 

折紙の言葉を遮るように、琴里は喉を震わせた。

 

「確かに、〈ラタトスク〉の目的と、士道の能力は奇跡的な合致をしていたわ。ーーーーでも、少なくともウッドマン議長は士道の事を気にかけてくれていた。人間の身体に精霊の力を封印しようだなんて、万事上手くいく筈がない。もしリスクがあるようならば、別の手段を探そうって。でも・・・・遅かったの。士道が〈ラタトスク〉に見出だされた時点で、士道の身体にはもう既に、“1体分の霊力が封印されていたのよ”」

 

「・・・・それは、まさか」

 

「そう。ーーーー私よ」

 

震える声で、告げる。

それは避け得ない矛盾。〈ラタトスク〉は、士道が琴里の霊力を封印したと言う事実を以て、士道の存在を知ったのだから。

 

「士道は5年前のあの日から既に、この臨界状態に陥ってしまう可能性を有してしまっていたの。しかも、霊力を私本人に戻そうと、1度繋がった経路<パス>は完全に消える事がない。・・・・私は図らずも5年前、士道にとんでもない爆弾を押し付けてしまっていたのよ」

 

「・・・・、だとしても、その上にさらに多くの霊力を封印する事で、臨界のリスクを増やすーーーーはっ! まさか・・・・」

 

言葉の途中で、折紙はある事に気づいた、士道の身体の中に、精霊の霊力をその身に吸収できる、“もう1人の存在”がいた事に。

 

「そう。私がーーーー〈ラタトスク〉が、ドラゴンの存在を黙認していた最大の理由は、彼の存在が、臨界状態になる士道のリスクを半減できるからなの。精霊の霊力と魔獣の魔力は反発する。でも、ドラゴンはその相反する力を融合させる事ができる稀有な存在。士道を完全に安定させる事ができるもう1つの方法・・・・だけど、彼がいなくなった以上・・・・1つしか無くなってしまった」

 

「それは、一体・・・・」

 

折紙の問いに、琴里は士道から視線を離さないまま言った。

 

「ーーーー士道自身が、内にある霊力を、霊結晶<セフィラ>として体外に排出する事」

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