デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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琴里は引き金を引くか!?


もう、1人じゃない

ー琴里sideー

 

霊結晶<セフィラ>。それは謎の精霊〈ファントム〉が持つ、宝石のような形をした霊力の結晶である。折紙もまた、その力によって人間から精霊になったから。

 

「確かに、それならば。でも、そんな事が・・・・」

 

「・・・・そう。私達が完全に力を振るえる状態になっても、そんな事は不可能。私も〈ラタトスク〉で何度解析を受けたけれど、1度霊子レベルで結合した霊結晶<セフィラ>を排出するには、信じられないくらいの霊力が必要だったのよ。それこそーーーー現在確認されている精霊全ての力を、士道の中に封印しなければならないくらい」

 

「・・・・っ」

 

驚いたように目を見開く折紙。その反応を見て、随分と〈ラタトスク〉に疑問を抱いていたのを察した。

その心境は分かる。琴里とて、〈ラタトスク〉の全てを信頼しているのかと言えば、嘘になる。

 

「でもーーーーそれももう、今更ね」

 

これ以上お喋りしている余裕はない。琴里がスウっと息を吸うと、ボタンにかけられた指に力を入れようとした。

しかし、その時。

 

「琴里! 折紙!」

 

背後から、十香の声が響いてくる。見ると、精霊達が勢揃いしていた。どうやら折紙同様、琴里の後を追って来たようだ。

 

「皆ーーーー」

 

「水臭いぞ琴里! そんな事情があったなら、なぜ相談してくれなかったのだ!」

 

十香が勇ましい目をしながら言ってくる。全てを承知しているかのような口ぶりに、琴里は目を丸くしたがーーーー自分の耳に精霊達と繋がっているインカムを付けたままだった事を思い出した。チャンネルを合わせればインカム同士で会話が可能であるから、折紙との会話を全て聞かれたようだ。危機的な事態に、すっかり忘れてしまっていた。

 

「・・・・ごめんなさい、皆。でも、もう、終わりなのよ。何もかもーーーー」

 

「何も終わってなどいない!」

 

琴里の弱音を吹き飛ばすように、十香が叫ぶ。

 

「詳しい事は分からない。だが、もしそれが絶望的な状況だったとしても、それは琴里1人だったならの話だ!」

 

「・・・・・・・・!」

 

十香の言葉に。琴里はキュウと心臓が絞られるかのような感覚を覚えた。

 

「みん、な・・・・」

 

精霊達が、琴里の目を見ながら頷いてくる。

まるで琴里を叱咤激励するかのように。

 

「諦めるなんて、琴里さんらしくありませんよー!」

 

「そうです・・・・士道さんを助けましょう・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

ボタンに触れた指先が震える。

ーーーーこの端末を渡された時、琴里は怖くて怖くて仕方がなかった。万が一の時の備えとは言え、『士道を殺す手段』が手の中にあると言う事実に、数日間眠れなかった。時々そのプレッシャーに吐きそうになった事もある。

以前、ドラゴンに言われた言葉が脳裏に過る。

 

【小僧と同じで、お前ももう少し頭を使え〈イフリート〉】

 

そうあれは、DEMが衛星を天宮市に落下されそうになり、〈ラタトスク〉で対処しきれなくなった時に言われた言葉。

 

【〈フラクシナス〉は動けない。貴様1人ではどうにもできない。そんな時は・・・・彼女達に頼れ】

 

「(ーーーー嗚呼、そう、か・・・・)」

 

もう琴里は、1人ではないのだ。覚悟も持った、経験も積んだ、そして何よりもーーーー想いを同じくする、仲間がいる。

 

「(ーーーーそれなら、あの時と同じ結論しか出せない筈がない・・・・!)」

 

琴里の手から、端末が滑り落ちた。

 

 

 

 

ー円卓会議<ラウンズ>sideー

 

《何故だ、五河司令はなぜ撃たない!》

 

ほの暗い会議室の中心に置かれた円卓。それに着くように投影された立体映像の1つから、怒りと焦燥を露にしながら、みっともなく叫び声を上げる人物の映像が映し出される。

今この場にいる5名の内、2名しかいない。円卓に着いた白髪の男性、『エリオット・ウッドマン』と、その背後に控える眼鏡の女性、『カレン・メイザース』のみ。

後は叫ぶ男と同じように、世界に存在する〈ラタトスク〉の支部から、回線を通じてこの会議に参加しているのだ。

 

《撃て! 撃つのだ、五河司令!》

 

「・・・・・・・・」

 

吠え癖のあるブルドックのような初老の男、『ローランド・クライトン』。

このような立ち振る舞いは円卓会議の幹部にふさわしいとは言えない男だ。が、その怒気も分からないではない。円卓の中央に置かれたモニタには、現在の日本にいる琴里達の、そして〈ラタトスク〉にとって最悪の状況が映し出されているのだ。

このままでは30年前の惨劇が繰り返される。実際、声高に叫んでいないが、他の2人もクライトンと似たような顔だった。

 

《ウッドマン卿》

 

と、押し黙っていた2人の内の1人、痩身に片眼鏡が特徴的な、何処かネズミを思わせる男、『ブレイザー・ダグラス』が頬に汗を垂らしながら声を発

《このままでは本当に大規模空間震が発生してしまう。〈ダインスレイフ〉の発動権限を五河司令にしか与えなかったのは何故です?》

 

それに同調するように、カートゥーンに出てくる意地の悪いネコのような雰囲気を持った男、『ギリアン・オルムステッド』が首肯した。

 

《そうです。いくら優秀とは言え彼女はまだジュニアハイの生徒だ。兄がこういう局面に陥った際、本当に正確な判断ができるとお思いですか?》

 

「(ーーーー君達に発動権限を与えていたら、躊躇いなくソレを撃つに違いないからだ)」

 

ウッドマンは無言のまま、心中で呟いた。

精霊を救う為の組織〈ラタトスク〉。しかし心からその理念に則って行動しているのは、ウッドマンを中心とした派閥のみ。他は、程度の差こそあれ、他に某かの旨味を見つけて参加しているに過ぎない。

自らの益になる事を最優先に考える。別にウッドマンはそれを否定するつもりはない。人間として、きっとその方が正常なのだ。

だが、それは同時に、リスクがリターンを上回れば、彼らは精霊達をあっさり切り捨てにかかる事を示していた。現に五河士道、『伝承の魔法使い』ーーーー〈仮面ライダーウィザード〉の事を、彼らは煙たがっていた。『世界最強の魔術師<ウィザード>』、エレン・メイザースを倒し、精霊の天敵『魔獣ファントム』を次から次へと討伐していく彼に、危機感を抱き始めていたのだ。

ーーーー彼がもし、自分達の敵となってしまったら。

と、邪推な考えを持ち始めた彼らだが、五河士道しか精霊の力を封印できないから、目の上のタンコブに敢えて何も言わなかった。故にこの状況は、彼らにとって好都合とも言えるのだ。

故にウッドマンは、託すに足ると思えたのが、琴里のみだった。

ーーーーそれが琴里に、最愛の兄を撃つ役目を強いる事になったとしても。

 

「落ち着きたまえ、諸君」

 

ウッドマンは、円卓で狼狽する馬鹿共を睥睨するようにしながら静かな声を発した。

 

「確かに今起きているのは、考え得る限り最悪な事態かもしれない。ーーーーしかし、まだ全てが決してしまった訳ではないだろう」

 

ウッドマンの言葉に、ダグラスとオルムステッドが怪訝そうな、クライトンが怒りにも似た表情を作る。

 

《この期に及んで卿は何を仰っているのか! 一体何がどうなればこの状況が改善すると言うのです!》

 

「さてね。だが、五河司令が諦めていない以上、私が諦める訳にはいかない」

 

ウッドマンが視線を鋭くしながら言うと、3人が明らかに不服そうな顔を作るが、気持ちは分からないでもない。ウッドマンの言い分は、傍から聞いていると駄々と変わらないだろう。

だがウッドマンは、まだ五河士道が己を取り戻す可能性があると確信していた。1つ問題があるとすればーーーーその『可能性』を目の前の馬鹿共が、ソレを話すに足る人間とは思えない事だ。

ならば自分にできる事は、少しでも時間を作ってやる事だ。ウッドマンは交渉を持ちかけるように言葉を続ける。

 

「そうだな・・・・私も無理を言っているのは分かっている。ではこうしよう。これから1分待つ毎に、私の保有するアスガルド・エレクトロニクスの株を、1%ずつ君達に譲渡する」

 

()()()()()()()

 

ウッドマンの言葉に、3人は驚愕の表情を作る。

DEMを除けば世界で唯一顕現装置<リアライザ>を製造する事ができるアスガルド・エレクトロニクス社は、〈ラタトスク〉の技術の要であり、ウッドマンの生命線でもある。3人としては、喉から手が出るほど欲しい。

しかし、馬鹿だが悪知恵は働く彼らは、あまりにも旨すぎる話に不信感を覚え、即答できず黙った。

 

「(ーーーーそれでいい。悩んでくれていれば時間が作れる)」

 

心中で笑うウッドマンだが、悩んでいる3人の思考を中断させるように、画面に表示された霊力値がまたも上昇し、けたたましいアラームが鳴り、クライトンが息を詰まらせる。

 

《!・・・・やはり駄目だ! 経路<パス>を広げる事は不可能! 霊力の暴走は止まらない! 最早我らにできる事は、一刻も早く五河士道<アレ>に止めを刺してやる事だけです!》

 

立体映像のクライトンはそう叫ぶと、懐こら小型端末を取り出し、ウッドマンは息を詰まらせた。

 

「・・・・ッ! クライトン、それは」

 

ソレは、琴里とウッドマンのみが持っている筈の、〈ダインスレイフ〉の起動キーだった。

 

「クライトン、何故それを」

 

《備えあれば・・・・とは日本の諺でしたかな。抜け道は何処にも存在すると言う事です》

 

「やめろ。馬鹿な真似はーーーー」

 

ウッドマンの言葉を無視し、クライトンは微塵の逡巡も見せずーーーーボタンを押した。

 

 

 

ー琴里sideー

 

「・・・・・・・・」

 

琴里は手の甲で涙を拭うと、ズズッと鼻を啜い、

 

「・・・・笑いなさいよ。いつも散々偉そうに言っておいて、いざとなったらこの体たらく。毎度のように醜態を晒す。何が司令官よって話よね」

 

自嘲気味に言うが、折紙は静かに首を横に振った。

 

「そんな事はない。あなたが士道の妹でいてくれて、本当に良かった」

 

「折紙・・・・」

 

「まだ、何か手がある筈。諦めないで」

 

折紙の言葉に、他の精霊達も琴里を勇気づけるように頷いてくる。

 

「そうとも。我らに不可能などない」

 

「同調。夕弦達もお手伝いします」

 

「・・・・まあ、何とかなるんじゃないの。知らないけど」

 

がーーーーその瞬間。

皆の声を遮るかのように、先ほど琴里が落とした端末からアラームが鳴り響いた。

 

《ーーーー〈ダインスレイフ〉起動コードを確認しました。当該目標への攻撃を開始します》

 

「・・・・ッ!?」

 

琴里は思わず息を詰まらせると、端末を拾い上げた。聞き間違いであって欲しかった琴里だったが、画面には確かに、起動を表す文字が記されていた。

折紙が、顔を戦慄に染めながら覗き込んでくる。

 

「どういう事。まさか、落下の衝撃で」

 

「その程度で誤作動するようにはできていないわ! 一体何でーーーー!」

 

理由は分からないが、〈ダインスレイフ〉が発動してしまった事だけは確かだった。慌ててコードを取り消そうと端末を操作するが、もう遅い。

闇夜に一瞬の流れ星のようなものが瞬いたかと思った瞬間。琴里達の視界いっぱいに、光が溢れたのである。

 

「士道ーーーーッ!!」

 

琴里が喉が潰れんばかりに絶叫を上げると、士道に向かって手を伸ばした。

しかし、それで運命は変えられる筈がない。士道の身体は光と消え、その余波が地面を抉り、周囲にいる琴里達は凄まじい衝撃波はよって吹き飛ばされーーーー“無かった”。

 

「え・・・・?」

 

身を硬くしていた琴里や他の精霊達は、目を数度しばたたかせてから顔をあげ、頭上を見上げる。

士道の真上に霊力で編まれた防壁のようなものが展開され、〈ダインスレイフ〉の一撃を防いでいたのだ。

 

「なーーーー」

 

驚愕に目を見開いた琴里は、一瞬士道がその有り余る霊力を以て防壁を展開したのかと思ったがーーーー。

 

 

【ーーーーやれやれ、危ないね】

 

 

いつの間にソコに現れたのか、士道の頭上に、別の精霊の姿があった。

否・・・・それは『精霊』なのかさえ分からない。男か女かさえも分からない、ノイズに覆い隠された人影であった。

 

「あなたーーーー!」

 

琴里は微かに指先を震わせながら言う。他の精霊達も、程度の差はあれ琴里と同じように驚愕の表情を作っていた。

特に、『ソレ』と直接対峙した事がある美九と折紙の反応は顕著だった。美九は動揺を、折紙は警戒を顔を滲ませながら、そのノイズの塊を見つめる。

そう。精霊を生む精霊。

美九や折紙、そして琴里に霊結晶<セフィラ>を渡し、精霊に変えた存在。

ーーーー識別名称〈ファントム〉と呼ばれる精霊が、ソコにいたのだ。

 

「〈ファントム〉・・・・ッ!?」

 

琴里がその名を叫ぶ。

忘れたくても忘れられない、その異様な存在感。5年前、幼い琴里の前に現れ、琴里を精霊に変えた存在。全てが闇に包まれ、5年間探し続けても手がかりが掴めなかった謎の精霊。知りたい事に確かめたい事が山ほどあるのに、ソレを目の前にして、琴里は数秒間思考がショートしたかのように言葉を失った。

そしてノイズに包まれた『ソレ』が、まるで機械を通しているかのような声質の声を発した。

 

【・・・・人間も、中々荒っぽい事をするね】

 

冗談めかすような口調で、〈ファントム〉は言って身を翻した。同時に、傘のように士道を覆っていた障壁が空気に溶ける。

 

「・・・・っ、どの口がーーーー!」

 

この状況の元凶である癖に、まるで他人事のような〈ファントム〉の物言いに、琴里は顔をしかめるが、疑問も浮かんだ。

何故ーーーー〈ファントム〉が現れ、〈ダインスレイフ〉から士道を助けたのか。

 

「〈ファントム〉・・・・あなた、一体」

 

琴里が問うように言葉を発するが、〈ファントム〉は答えようとせず、士道の方を向く。

 

【・・・・成る程、確かに彼は今危険な状態だ。君の悲痛な覚悟も分からないではない。ーーーーでも、まだ彼には生きていてもらわないと困るんだ】

 

「な・・・・何を言って・・・・」

 

狼狽の声をあげる琴里。〈ファントム〉は高度を下げ、士道の目前に降り立った。士道の周囲に渦巻いている霊力など、まるで気にせず。

 

【・・・・いい子】

 

そして優しげな声音でそう言うと、〈ファントム〉が士道の額に触れた。

するとーーーー。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

士道が天を震わすような絶叫をあげ、苦しげに身を捩った。

 

「ぐーーーーが、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

その瞬間、周囲の景色を抉るように吹き飛ばし、一時止めていた進行を再開する。何かに向かって、一直線に進むかのように。

 

「し、シドー!?」

 

「だーりん!」

 

「己貴様、一体士道に何をした!」

 

「同調。状況が悪化している気がします」

 

精霊達が言うと、〈ファントム〉はフウと息を吐くような動作をしたきた。

 

【ーーーーご挨拶だね。折角、君達にチャンスをあげたのに】

 

「何ですって・・・・!?」

 

「! 琴里! 見るのだ!」

 

十香の驚いた叫びに、眉をひそめていた琴里が士道に目を向けると気づいた。士道を包む霊力が、少しだけ弱くなっている事に。

 

「これはーーーー」

 

【!】

 

ーーーーシャァアアアアアアアアッ!!

 

琴里が何か言おうとすると、獣の叫び声が〈ファントム〉から響き目を向けると、無数の蛇の大軍が、〈ファントム〉に牙を突き立てようとしていた。

 

【・・・・・・・・】

 

が、〈ファントム〉はその蛇に向かって手を伸ばしたような動作をすると、障壁のような物が展開され、蛇達を弾き飛ばした。

 

「きゃー! 何ですかぁ!? あの蛇の団体さんは!?」

 

「あれは、まさかーーーー!」

 

美九は悲鳴をあげ、琴里は顔を戦慄させると、暗がりから、ワイズマンが、メデューサとグレムリン、セイレーンとベルゼバブを引き連れて現れた。

 

「ワイズマンっ!? それにメデューサ達までっ!」

 

驚愕する精霊達だが、ワイズマンはまるで意に返さず、〈ファントム〉に向かって声を発する。

 

『漸く会えたな。全ての精霊達の始まり、始原の精霊ーーーー〈ファントム〉よ』

 

【こうして会うのは初めてだね。“この世界の理の外の存在”ーーーー『魔獣 ファントム』よ】

 

両者の間に凄まじい殺気と威圧が嵐のように吹き荒れているように見えるのは、おそらく気のせいではないだろう。

琴里達は気絶しそうになるが、気をしっかり保っていた。しかし、両者の威圧感に身動き処か、声1つあげる事すらできなかった。幸いか、メデューサ達も自分達の頭目の威圧感で動けなくなっていたが。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

そして、この空気に水を差すように雄叫びをあげるのが、士道だった。

ワイズマンは士道を一瞬だけ一瞥すると、吐き捨てるように言葉を発した。

 

『ーーーー無様、だな。恐怖に駆られ、力に溺れ、力を制御できず、唯唯暴走するだけのケダモノに成り下がるとは』

 

【・・・・いいや。まだ時間がある。ここからは彼女達の領分だからね。健闘を祈っているよ】

 

〈ファントム〉が硬直してしまった琴里達を一瞥するように動いた。

 

【ーーーーじゃあね、“私の可愛い子供達”】

 

「・・・・!?」

 

琴里は声を発する事ができず、睨むくらいしかできなかったが、〈ファントム〉は意に返さす素振りもなく身を翻すと、そのまま空気に溶けていった。

 

『ーーーーふむ。アレはいずれと言う事にしておこう』

 

『ぷはぁッ!!!』

 

〈ファントム〉が消えた事を確認し、ワイズマンも威圧と殺気が収まると、その場にいた全員が息を吐き出し、新鮮な空気を取り込もうと呼吸をする。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・琴里、シドーは、どうなった、のだ?」

 

ゆっくりと息を整えようとする十香に、琴里も漸く呼吸が落ち着き声を発する。

 

「・・・・そうね、〈ファントム〉が何をしたか分からないけど、士道を包む霊力に綻びができているわ。これなら、間に合うかもしれなーーーー」

 

『させると思うか?』

 

琴里の言葉を遮るように、ベルゼバブが声を発すると、琴里達の背後から、何者かが、自分達を取り押さえた。

 

「な、何々っ!?」

 

「あ、あなた達は?」

 

七罪と四糸乃だけでなく、他の精霊達も驚愕した。

自分達を取り押さえているのは、地下施設にいる筈の〈ラタトスク〉の機関員だったのだ。

 

「何をしているのあなた達! 早く離しなさい!」

 

『無駄だよ琴里ちゃ~ん☆』

 

『その人間共は、我が使い魔達によって人形になっている。貴様らの事など分かりはしない』

 

「っ! 何ですって!?」

 

『ありゃ、何か変な虫みたいなのがくっついてるよ!』

 

よしのんがそう言って、よく目を凝らして見てみると、首筋辺りに虫のような蛭のような生物が張り付いていた。

 

「まさか、これがベルゼバブの能力!?」

 

『そ♪ ベルゼバブくんは、自分の使い魔で人間を操れるんだよ☆ あ、その使い魔を取っても無駄だよ♪ ベルゼバブくんが生きている限り、1度洗脳された人間は元に戻らないから☆』

 

「なっ!?」

 

『無駄話はそこまでにしておけ。アソコの『爆弾』をさっさと始末するぞ』

 

セイレーンが苦しんでいる士道を刺してそう言った。

 

「き、貴様ら! 士道を殺すつもりかっ!?」

 

『はぁ? 〈ラタトスク〉機関の上層部は『アレ』を見て、何もしないと思うのか? 第一、我々にとっても、『アレ』を生かすておく理由もない』

 

その通りだ。ファントム達にとって〈仮面ライダー〉でなくなった士道は簡単に殺せる存在だ。寧ろ今日までなにもしてこなかったのは、いつでも殺せるからだったからだろう。既にメデューサにとって、士道は『アレ』と、呼称する程度の存在であるようだ。

 

「そんな事、させるかぁぁぁぁ!!」

 

「っ!!」

 

「ふんにゅぅぅぅぅ!!」

 

「気合。うぅぅぅぅぅぅ!!」

 

十香と折紙、八舞姉妹が振りほどこうと足掻くが、精霊達の中でも運動神経抜群型の十香達には、特に屈強の機関員達が数人がかりで手足を拘束しており、苦戦していた。

 

『さて、そろそろ・・・・』

 

[チェイン ナウ!]

 

『っっ!?』

 

ファントム達が苦しむ士道に向かおうとしたその時、突如音声が響くと、無数の鎖がファントム達を拘束し、暗がりからその人物が現れた。

 

『・・・・・・・・』

 

「『白い魔法使い』!?」

 

そう、身体を覆うマントが所々キズだらけで汚れていたが、白い魔法使いだった。

白い魔法使いは琴里達に目を向けず、別のリングをバックルに読み込ませた。

 

[タイム ナウ!]

 

音声と共にオレンジ色の魔法陣が士道の足元に展開されると、魔法陣から光が昇り、士道を包み込んだ。

 

「あ、あぁ、がーーーーお、おれはーーーー」

 

「シドー!」

 

『士道(くん/さん/だーりん)!!』

 

士道の身体を包んでいた霊力が小さくなっていき、正気に戻ったような士道が目をパチクリさせると、白い魔法使いが士道の前に移動する。

 

「『タイム』。本来は対象の時間を一時的に停止させる魔法だが、魔力を調整すれば対象の状態を数時間前に戻す事ができる。今の私の魔力量では、2時間程前に戻すのが精一杯だが、丁度良い・・・・!」

 

「し、白い、魔法つか「バキッ!!」ぐぁあっ!!」

 

『えっ!?』

 

間抜け面で唖然となる士道の横面に、白い魔法使いはリングを着けた拳で思いっきり殴り付けた。




〈ラタトスク〉も、DEMも、トップの方針が違うだけで、根っこは似た物ですね。そして、鉄拳(+指輪)を炸裂させた白い魔法使い。
次回、調子に乗っていた士道に、魔獣達がせまる!
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