デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ーDEMsideー
DEMのとある執務室。
そこにノックスとバートン。『資材A』と呼ばれるDEM社が捕らえた精霊を何者かの攻撃によって逃げられた2人が立っていた。全身を包帯や湿布に覆われ、見るも痛々しい姿をしていた。そして彼らの顔色は、緊張の色に染まっていた。その理由は、目の前の椅子に座る若い男、しかし今年で48になるノックスですら、目の前の男が見た目通りの年齢とはとても思えなかった。
「・・・・ふむ」
男が手にした書類に視線を落として小さく唸る。
「・・・・ッ!」
「ーーーー!」
それだけの動作だけで、2人は顔中に汗を浮かべた。
目の前にいる男は、1代でDEMインダストリー社を築いた社の代表、サー・アイザック・ウェスコット。財界の怪物とまで言われている男だ。ノックスとバートンも、目の前の男が本当に怪物のような気がしてならない。
「・・・・ノックスさん。俺達、一体・・・・」
バートンが今にも消え入りそうな声で話しかけてくる。ノックスは視線を逸らさぬまま、ウェスコットに聞こえないよう細心の注意を払って声を返す。
「・・・・しっ、黙ってろ」
「・・・・・・・・」
ノックスの言葉に、バートンはそれきり黙った。
しかし、バートンの不安は痛い程に理解できる。自分達は先日の輸送任務を失敗し、『資材A』にまんまと逃げられたのだ。
無論、ノックス達も好きで逃がした訳ではない。あれは様々なアクシデントとイレギュラーが重なった上での事故だ。
が、そんな言い訳が通用する程、ウェスコットの精霊へのご執心は甘くない。解雇して、そのままノックス達を路頭に迷わせるーーーー否、そんな“優しすぎる物”ではない。
「・・・・・・・・・・・・」
ノックスがチラリとウェスコットの隣にいるーーーーDEMインダストリー最強の魔術師<ウィザード>、エレン・メイザースに視線を向けた。強大な力を有する精霊と互角以上に渡り合える人間の領域を越えた人間。ウェスコットが指示を出せば、何の躊躇いもなくノックス達の首を胴体から切り捨てる事をやる。
「ーーーー成る程」
と、ノックスが自分の『死』を覚悟しようとしている内に、ウェスコットが報告書から視線を上げ、その黒く濁った瞳でをノックス達の顔に向けた。
「・・・・う、く」
蛇に睨まれた蛙、と言う言葉が東洋にあるが、今まさにその心境だ。
しかし、ウェスコットはそれを気に留める風もなく、報告書を机の上に放ると、ゆっくりと椅子から立ち上がって2人の方に歩み寄り、目の前に至ると、気安い調子で唇を動かす。
ーーーー懲罰か、解雇通告か、はたまた処刑か。
2人は断頭台に首を差し出すような心境になる。だが。
「ご苦労だったね、2人共。怪我は顕現装置<リアライザ>を使えばすぐに治る。労災も下りるから十分身体を休めてから、また仕事に復帰してくれたまえ」
「「・・・・え?」」
2人は一瞬目を合わせてから、間の抜けた声を発した。
自分達の失態にお咎め無しに疑問を口にしたが、自分達に落ち度はない上に、『資材A』は、“いずれ野に放つつもりだった”と言い出したウェスコットに疑問を抱くが、これ以上踏み込めば危険と考え、逃げるように執務室から出ていった。
部屋を出てしばらく歩いて声が届かない処まで行くと、2人は緊張から解き放たれたかのように盛大に息を吐き出していた。
そんな2人の様子を知らず、ウェスコットは声を発した。
「いやはや、まさかあの騒動で『資材A』が逃げてしまうとは、偶然ーーーーいや、これはよもや必然と言った方が良いかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「エレン。イツカシドウの新たな力に敗北したのが相当堪えているね?」
「っ・・・・ええ」
「だがまあ、次にすれば良い。ヘルキューレの『オーバーリミットモード』はまだ未完成だ。新たな力を得たビースト<真那>と戦い、さらに我々でも知らない力を得た『伝承の魔法使い』、〈仮面ライダーウィザード〉と戦ったのだからね」
「言い訳をするつもりはありません。ですが、次こそはーーーー」
「うん。そう思って、ダーインスレイヴもイージスも改修中だ。ーーーーそれに、漸くこれも完成する」
ウェスコットがタブレットを操作すると、液晶に改修中のヘルキューレの武器。そして、ある物が映し出されていた。
「アイク・・・・」
「ふふふふふ、これで益々、面白くなるよ・・・・」
ーグレムリンsideー
そして、執務室の外、ノックス達が出たすぐにその場に現れたグレムリンは、ウェスコットとエレンの会話を立ち聞きしていた。
「ふぅん。面白く、ね」
口の端を歪ませて笑うグレムリンは、そのまま部屋から離れていった。
ー士道sideー
「精、霊ーーーー」
士道は怪訝そうな顔で、目の前の少女ーーーー本条二亜。漫画家・本条蒼二を名乗る少女を見つめた。
ドラゴンが言った、【この女は精霊だ】、と。
精霊の気配を感知するドラゴンの言葉だ。疑う余地は無い。しかし、それより気になるのは、この少女は士道の名前だけでなく、士道が精霊を攻略している事さえ、知っていたのである。
「二亜・・・・何で、そんな事を知っているんだ?」
「ふふん」
すると二亜は、眼鏡を外すと、何処か気怠げに前髪をあき上げる。
「さぁて、なんでだろうねぇ、不っ思議だねぇ」
「は、はぐらかす(バシンッ!)ナガッ!?」
≪一々この女のペースに付き合うな≫
「わ、分かったよ。・・・・そ、それじゃぁ、お前が精霊である証拠を見せろよ」
「ありゃま。簡単に立て直したね? やっぱり保護者がいると頼りになる?」
「ほ、保護者って何だよ?」
「えっ? 知らない? 少年と一緒にいる精霊達や実妹ちゃんや〈フラクシナス〉、だっけ? そこのクルーの人達はみぃーんな、ドラゴンくんと少年の関係は、飼い主とペットって見てるよ。あぁ勿論、飼い主はドラゴンくんで、ペットは少年」
「嘘、だろう・・・・?」
自分でも何とかなくそんな気がしていたが、まさか十香達全員からそう思われていた事に、少なからずショックを受けていた。
「落ちるのは後にしてさ少年。詳しく教えてあげるよん」
項垂れる士道に、二亜は軽めの調子のまま、その『名』を呼んだ。
「ーーーー〈神威霊装・2番<ヨツド>〉」
「はっ!?」
≪霊装か!≫
二亜がその名を呟いた瞬間、2人が驚くのと同時に、二亜の周囲に光が渦を巻いて二亜の身体に絡み付いていったのである。
その光に目を細めながら士道は確信した。これはーーーー。
「霊装・・・・ッ!?」
そう。精霊が纏う絶対の鎧にして、城。濃密な霊力で編み込まれた光の衣である。やがて光が収まると、メイド服から様変わりした二亜の全貌が見えた。
幻想的な淡い輝きを放つ、法衣のような霊装。要所に十字の意匠が施され、頭部を覆うケープは、何処と無く修道女を思わせた。
「これで、ご理解いただけた?」
二亜が肩を竦めながら不適に微笑む。士道とドラゴンはその姿を頭頂から爪先まで見つめる。
≪識別名称を付けるならばーーーー〈シスター〉と言った処か・・・・≫
「二亜、お前、本当に精霊・・・・なのか?」
「うん。ーーーーまあ、こんな回答ができる生物なんて、『魔獣ファントム』くらいのもんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」
冗談めかして言いながら二亜が笑うが士道は、この状況に何とか頭を整理させようとするしていたが、それが不満だったのか、腰に手を当てて口をへの字に結んできた。
「何よー。もうちょっとリアクションないの? 何か勿体ぶって変身したあたしがバカみたいじゃん。そりゃあ変身は〈仮面ライダーウィザード〉の少年の専売特許みたいなもんだけどさぁ」
「・・・・へ?」
先ほどまでと変わらぬ気安い調子に、士道はポリポリと頬を掻いた。部屋中に満ちていたシリアスが、目に見えて霧散していくのが分かる。
「もっとこう、『な、なんだってー!?』みたいに劇画風になるヤツとかさぁ。もしくはパターン変えて突然変貌した女の子の姿にドキッ! みたいな。ほらそらぁ、結構この霊装エロいと思わない? 足の付け根んとこスリットズッパー入ってんの。全体的に不思議素材で半透明だからうっすら身体のライン見えちゃうしさぁ」
などと言いながら、二亜は手近な椅子に左足を上げて見せると、大胆な切れ込んだスリットから、彼女の白い太腿がチラリと覗く。
≪(ソコまであっけらかんと言われると色気よりも残念な雰囲気が強いがな。色気ならば時崎狂三<〈ナイトメア〉>の方が圧倒的に上だったわ。・・・・まぁ、この童貞坊やには効果覿面だろうがな・・・・)≫
「・・・・っ!///////////」
半眼になって呆れるドラゴンと違って、士道は顔を赤くし、視線を逸らした。
「お! それそれ! そういうヤツ! えっへっへ、良いよ良いよー少年。もしかして足派だった? 成る程なー。若いんだからもっと貪欲に行こうよー」
手をクイクイと動かしながら煽り立てる二亜。貞淑な修道女の装いとは真逆なモノだ。
士道は頭をドラゴンに【落ち着け】と言わんばかりに頭をペシペシと尻尾で叩かれながら、再び二亜に視線を戻した。
「・・・・二亜、お前が精霊だってのは理解した。でもどうして、俺やドラゴンの事を知ってるんだ? 俺が〈仮面ライダー〉だって事や、その、精霊と対話しているって事まで、茶化さないで説明してくれ」
「ああ、それ?」
士道の問いに、二亜は椅子から足を下ろし、片手をゆっくりと身体の前に持ち上げた。
「職業柄あんまりネタバレするのは好きじゃないんだけど、まあ特別に教えてあげましょう」
そして、その動作に合わせて唇を動かしーーーーその名を呼ぶ。
「〈囁告篇帙<ラジエル>〉」
すると次の瞬間、二亜の手元の空間がたわんだかと思うと、ソコから、何かの聖典を思わせる巨大な1冊の本が姿を現した。表紙は革とも金属とも言いがたい不可思議な素材で覆われており、二亜の霊装と同じく、大きな十字の意匠が施されていた。
「それは・・・・天使!?」
「そう。あたしの天使、〈囁告篇帙<ラジエル>〉。ーーーーこの世の全てを見通す、全知の天使だよ」
「な・・・・」
≪(ピクッ)≫
二亜の言葉に、士道は眉根を寄せて、ドラゴンは興味深そうに身体を動かした。
「“全知”・・・・? どういう事だ?」
「どういう事って言われてもなぁ。読んで字の如く、よ。〈囁告篇帙<ラジエル>〉は、森羅万象ーーーーあっ、“例外”を除けば全てをあたしに教えてくれるのんだよね。今世界で何が起こっているのか、誰が何をしているのか。例えばーーーーそう、あの時君が買い物を終えて、あの道を通ろうとしていた事なんかもね」
「なーーーー」
二亜の言葉に、士道は顔を戦慄に歪め、二亜はそれを面白がるようにクスクスと笑った。
「ーーーーまさか、本当に偶然だなんて思ってた? 偶然道に倒れている女子を介抱したら、それが偶然精霊でしたって? イヤイヤ、普通考えたらあり得ないでしょ。少なくともあたしなら、そんな物語導入はしないなぁ」
≪・・・・貴様、見た目が綺麗な女に絵画とかを勧められても断れよ≫
「(誰が良いカモだっ!)・・・・つまり、俺がお前を助けると踏んで、あそこでわざと倒れてたって言うのか?」
「まあ、そう言う事になるね」
二亜が大仰に頷きながら答えてくる。士道は緊張にゴクリと喉を鳴らした。
「・・・・じゃあ、俺にご飯を作らせたのも、暗黒出版社に酷い目に合わされるからとか言って原稿を手伝わせたのにも何かの意図がーーーー」
「あ、ソッチは普通に温かいご飯が食べたかったらだよ。後ーーーー原稿の方はマジで助かりましたアザっす・・・・! 昔よりも出版社の人達のサイコっぷりが上がってて本当に恐かったから・・・・! 精霊になっても、生命の危機って原始の本能には敏感なんだねぇ・・・・!」
「意図は無かったのかよっ!?」
顔面蒼白になってうっすらと額に脂汗を流し、目は恐怖で虚ろになり、全身を小刻みにブルブルと震わせる二亜を見て、最近の出版社ってどうなってんの? と、頭を捻りそうになる士道。それに気づいた二亜が口を開く。
「知らないの少年? 出版業界ってのは世紀末世界でヒャッハーしてるような豪傑達が蔓延っている魔窟なんだよ。あたしの担当の編集者は女性で、アニメ声でギザギザ歯で目が星になっているくノ一の忍者で、トランジスタグラマーなボインちゃんよ。そのボインちゃんがアイアンクローをかましてくるし、ノーザンライト・スープレックスされたりしてね。まあその時に、そのボインちゃんのおっぱいが背中に当たってね、【うわっ、デッケェ・・・・!】って思ったね。後、ある横浜のような場所で自伝を書いてる作家さんなんて、『南斗編集戦斧拳』って、バトルアックスを使う『人類最凶』と言っても良い編集者を担当にされててね。毎度ように締め切りを破っては唐揚げにされる工場に連れていかれたり、精神をゴリゴリと削られる恐怖体験をしていたりしてるよ。そんな目に何度もあってるのに、何であの人締め切りを何度も破るのかなぁ? ドMなのかなぁ?」
「だから! 何処の暗黒出版社だよっ!?」
≪出版業界とは人外魔境なのか?≫
士道は悲鳴じみた声を上げる。
気を取り直すように首を振ってから二亜に向き直る。
「それでーーーー二亜。お前の目的はなんだ? 何で・・・・俺をここに?」
顔を強ばらせる士道とは対照的に、二亜は身体の震えが止まり、リラックスしたような調子で肩を竦めた。
「そんなに構えないでってば。別に、用って程の事でもないよ。強いて言うなら、少年、君を自分の目で見てみたかっただけ。いくら〈囁告篇帙<ラジエル>〉で君の事を知れるって言っても、それはあくまで“情報”だからね。実物にはどうしても敵わないし」
≪つまり、その天使の出す情報は、辞典のような文字だけと言う訳だな≫
ドラゴンが天使の能力をある程度分析していると、空中に制止した〈囁告篇帙<ラジエル>〉の表紙を指先で撫でながら続ける。
「後はーーーーそうだなぁ、一応、お礼を言っておきたかったってのもあるかな」
「お礼・・・・?」
怪訝そうに眉をひそめる士道に、二亜が説明する。
「ーーーー今月の頭、君に助けられたんだよ」
「へ?」
≪今月の頭・・・・小僧が暴走して滅茶苦茶に暴れて、新たな黒歴史の1ページを刻み付けた頃だな?≫
「(うるせぇ!)」
「あっれぇ、覚えてない? ほら、あたしの呼び掛けに応えて、輸送機を落としてくれたじゃん。あたしアレのお陰で脱出出来たんだから」
「呼び掛け・・・・って、あーーーー(そう言えば、意識が朦朧としていたけど、確かに誰かに呼ばれて霊力を放出したような覚えがある・・・・!)」
≪それが起因となって暴走を早めたと言う訳か・・・・≫
「まさか、アレがお前の・・・・? でも輸送機って・・・・」
「あたしが乗せられてた輸送機だよ。ーーーーDEMインダストリーの、さ」
「・・・・ッ! DEM!?」
≪っ≫
予想外の言葉に、士道は顔を険しく、ドラゴンは視線を鋭くした。
「何でDEMの輸送機に二亜が・・・・」
訝しげに顔に微かな警戒を乗せて士道がそう問うと、二亜はあっけらかんとした調子で続けてきた。
「んー? そりゃあ、あたしがアイツらに捕まっちゃってたからだよ。いやー、長いこと地下に閉じ込めてくれちゃってさ。お陰で身体バッキバキよ。抱えてた連載も長い間中断する事になっちゃったしもう、サイアクだ」
言いながら、ケープの裾から手を突っ込み、ワシワシと頭を掻くと、アホ毛がピョコンっと立った。
そのあまりに何気ない口調に、一瞬聞き流しかけた士道だがーーーードラゴンにピシッと叩かれ、その内容を理解して目を剥いた。
「捕まってた!? DEMにーーーー!?」
「うん。そだよー。もう5年は前になるかな? ほら、なんつったっけ、〈仮面ライダー〉に変身するあの虚弱体質」
二亜がそう呟くと、左手の指で〈囁告篇帙<ラジエル>〉の表紙を撫でた。
すると〈囁告篇帙<ラジエル>〉がそれに反応するかのように微かに震え、そのページが淡い輝きを放ちながら、自動的にパラパラと捲られる。
二亜はその紙面に視線を落とし、ポンと手を打った。
「ーーーーああ、そうそう。エレンだ。エレン・ミラ・メイザース。アイツにやられちゃってさー。マジでまいったよアレ。待ち伏せされていきなりドーンだもん」
「エレンーーーー」
≪あの女か・・・・(しかし虚弱体質とは?)≫
何度も死闘を繰り広げている宿敵の名に、士道とドラゴンは強ばった顔をさらに険しくする。たしかに彼女ならば、精霊を捕らえる事は十分考えられる。
「だ、大丈夫・・・・なのか?」
「んー、ぶっちゃけなんか良く覚えてないのよね。色々機械に繋がれたりウザったくはあったけど。ーーーーあ、いや、訂正。1つキッツい事あったわ。アイツらあたしを監禁してる最中、ぜーんぜん漫画描かせてくんないでやんの。全く・・・・アンだけペン握ってなかったら勘が鈍るっての。コミックスの売り上げ落ちたら補償してくれてんでしょうね。もしも当時のあたしの担当編集者が、編集力がそんなに高くない新人じゃなくて、あの『人類最凶の編集者』だったら編集者総出で首級獲りに絶対助けて貰ってたつーの」
「出版社って言うのは血と異世界転生にでも飢えているのかよ?」
等と言って、苛立たしげに腕組みする。士道は顔を青くしながら一瞬眉をひそめた。本人にとっては、深刻なのだろうが・・・・。
「(・・・・どう思うドラゴン?)」
≪あのDEMにしては随分と手緩いやり方だな。逃げたこの女を放置しているのも気になる。追っ手としてエレン<ヘルキューレ>が現れても不思議ではない≫
「(俺もそう思うけど、それよりも・・・・)二亜。お前。お前の天使は全知何だろ? なら待ち伏せなんて・・・・」
「あー、違う違う。そうじゃないの」
二亜は否定を示すように手をパタパタ振った。
「と言うと?」
「〈囁告篇帙<ラジエル>〉は確かに全知の天使だけど、あくまでもあたしが求めた情報を引き出してくれるだけなの。未来の事まで覗ける訳じゃないし、自動的に危機を関知してくれる訳でもない。ーーーー要は、あたしが思いも寄らない事は避けようが無いって訳。考え方としては、超々高性能検索エンジンって言うのが近いかもね」
「なる・・・・ほど」
ポリポリと頬を掻きながら、これまでの精霊達の天使と比べて、そんなに凄くなそうだと言いそうになったその時・・・・。
ーーーーバシイィィィィィィィィィンンンッ!!
「ジオングッ!!?」
「お。それが噂の尻尾ド突き? 痛そうだねぇ。ちなみにあたしは赤い彗星には赤いザコの方が似合うと思うよ」
フローリングに盛大に頭を叩きつけた士道に、二亜はカラカラと笑った。
「な、何すんだよ、ドラゴン・・・・!」
≪バカめ。アホめ。ボケめ。カスめ。グズめ。ポンコツめ。ボンクラめ。脳ミソがついていないと前から心の底から思っていたわ。確かに十香に折紙、耶倶矢に夕弦、琴里に四糸乃のような戦闘向けの能力ではなく、美九に七罪。ついでに時崎狂三<〈ナイトメア〉>のようなサポート特化の能力だが、〈囁告篇帙<ラジエル>〉の能力は極めて脅威的だ≫
「ど、どゆこと?」
≪分からんのか? 今すぐ脳ミソをクリーニングするか、外科で新しい脳ミソでも移植して貰わんといかんな。・・・・要するに、あの女がその気になれば、各国の秘匿情報から個人情報ーーーー貴様のクラゲ脳ミソでも分かるように言うと、貴様がこれまでの人生で積み重ねて来た、“『黒歴史』も知る事ができると言う事だ”≫
「っっっ!!!???」
士道が顔面蒼白になって二亜を見ると、二亜はその視線の意味を察したようにニィッと笑みを浮かべながら、〈囁告篇帙<ラジエル>〉の表紙を撫で、ページを捲り、その紙面を見ながら顎に手を当てた。
「必殺読破! フムフム・・・・。なるほどなるほど・・・・。『瞬閃轟爆破』? へえ、カッコいいじゃん。あ、オリキャラ見っけ黒衣の闘士リーヴァンかー。あー、分かる分かる。黒格好いいよねえ黒。あ、でもこれを主人公にして話を組み立てていくなら、読者の共感とお話の緊張感を考えて、1つのウィークポイントを付けた方が良いかも。それと、もしかしたら当時の年齢的に女の子のキャラを描くのが恥ずかしかった時期なのかも知れないけど、ヒロインの設定はもう少し詰めておいた方が良いわよー。何だかんだ言っても売り上げに直径するポイントだからねぇ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! プロの視点でアドバイスしないでぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
士道は頭を抱えて身を捩らせた。見えないナイフで臓腑を抉られるにも等しい痛みを伴った。
≪貴様はどうしてこんな恥を作ってきたのだ?≫
「(うぅっ・・・・若気の至りとしか言いようがありません・・・・!!)」
士道はしばしの間その場でのたうつと、ハァハァと息を荒くしながら立ち上がった。すると二亜が、得意気な調子で微笑んでくる。
「どうよ。〈囁告篇帙<ラジエル>〉の恐ろしさ、少しは分かってくれた?」
「・・・・はい。すごくすごいです。舐めた口きいてすみませんでした」
士道がそう言って頭を下げると、二亜は満足げに頷いた。
「よろしい。ーーーーけど、実は〈囁告篇帙<ラジエル>〉の能力はこれだけじゃないんだよねぇ」
二亜が不敵に笑うと、左手をゆっくりと持ち上げた。そしてケープに付いていた装飾に指を引っ掻けて一気に引き抜くと、今まで隠れていたその先端が、まるでペン先のような形状をしているのが分かる。
二亜はそのペンを構えると、右手の〈囁告篇帙<ラジエル>〉に、何かを書き込み始めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・あの、何してるんですか?」
「待って。もうちょっとだから」
二亜が真剣な眼差しでそう言うと、再び天使に書き込む。そして数分後。
「ーーーー良し、こんなトコかな」
二亜はそう言って漸く顔を上げ、ペンを元の位置に戻してから、〈囁告篇帙<ラジエル>〉を指先でトンと叩くと、その動作に合わせるように、〈囁告篇帙<ラジエル>〉がボンヤリとした輝きを放ち始めた。
「な、何だ?」
「すぐに分かるよ。ほら、そろそろじゃない?」
「え?[ドライバーオン プリーズ]へ?」
士道が間の抜けた声を発した。が、それも当然である。何しろ身体が、自分の意思とは無関係に動き、ドライバーを召喚したのだ。
「お、おい。ドラゴン! お前また俺の身体を勝手に」
≪このサナダムシめ。我は何もしておらんわ。貴様が勝手に動いているのだ≫
「は?」
戸惑う士道だが、身体は勝手に動き、ドライバーを起動させる。
[シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]
「ど、どうなってんだ!?」
[フレイム プリーズ ヒー! ヒー! ヒーヒー、ヒィー!!]
士道の意思に従わず、身体が〈仮面ライダーウィザード〉に変身した。
「こ、これって・・・・」
「おぉぉぉぉぉっ! それが〈仮面ライダーウィザード〉ね! ほうほう! こんなデザインになってんだねぇ! フムフムなるほどなるほど・・・・!」
戸惑う士道に構わず、弱冠興奮した二亜はスケッチブックとペンを持って、〈仮面ライダーウィザード〉になった士道をあらゆる角度からスケッチしていった。
「お、おい二亜! これもお前の天使の力か!?」
「そそ」
スケッチしながら二亜が〈囁告篇帙<ラジエル>〉の表紙を軽く叩き、その紙面を士道に見せる。
ソコには、今し方二亜が描いたと思しき漫画が、士道に良く似たキャラクターが変身する姿が描かれていた。
「『未来記載』。言ったでしょ。〈囁告篇帙<ラジエル>〉に記されたモノは全て真実。ーーーーそう。例えそれが、“新たに加えられたものであっても”、ね」
「・・・・ッ!? な、何だって・・・・!?」
≪この世の全てを知るだけでなく、未来を自分の望む通りに作り出す神に近い能力ーーーーこれが知の天使〈囁告篇帙<ラジエル>〉の能力か・・・・! しかし・・・・≫
ウィザード<士道>とドラゴンは驚愕したが、1つ気になる事があった。
「・・・・何で漫画何だ? 文字の方が速いんじゃ」
「んー、だってこうしないと、何か感じが掴めないんだもん。でもほんの数十秒の出来事を描写するのにやたら時間かかるし、こんなの描いてる暇あったら仕事しなきゃいけないしで、言うほど使い勝手は良くないのよねぇ」
「・・・・俺を変身させたのは?」
「これも言ったっしょ? 〈囁告篇帙<ラジエル>〉は文面で教えてくれるから、生の映像は見せてくれないのよ。やっぱモノホンのヒーローは文面じゃなくて、生で見るべきじゃん。あたし特撮も全然イケる口だし」
「あ、そう・・・・」
真面目な顔でスケッチする二亜に、もうツッコミを入れるのも無駄だと思い、士道はしばらく、基本スタイル4つを二亜の気が済むまでスケッチされるのであった。
〈囁告篇帙<ラジエル>〉は凄いのに、使っている精霊がアホだったのが幸いした。