デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ーワイズマンsideー
『ふむ。上手く行ったか』
ワイズマンはDEM社の一室で、1人の魔術師<ウィザード>の亡骸を見下ろしてそう言った。
その女性の魔術師<ウィザード>は、エレンの部下である第2執行部の魔術師<ウィザード>だった。真那は裏切り、ジェシカは殉職したので、順番的に次のアダデプスナンバーの隊長を任されると思われていた女性だった。実力は・・・・・・・・ジェシカとほぼ同じ程度であるが。
しかし、女性はウェスコットCEOに呼ばれ、いよいよ出世だと意気揚々とこの部屋に入った。
だが、この部屋にはウェスコットでもエレンでもなく、ワイズマンとメデューサ、グレムリンと待ち構えていた。女性は逃げようとしたがグレムリンに押さえ付けられ、ワイズマンがゆっくりと近づくとその手を伸ばし、その手に魔法陣が展開され、自分の胸を貫かれてしまい、女性はそのまま絶命した。彼女が死ぬ事は、ウェスコットとエレンにはとっくに許可を貰っている。後は体の良い情報で操作すれば良いだけである。
そしてワイズマンが腕を抜くと、『魔力を帯びた結晶』がその手に握られていた。
『ワイズマン、その結晶が、『ゲートの核』ですか?』
『そうだ。精霊に霊結晶<セフィラ>があるように、この『核』に絶望のエネルギーを浴びる事で、我らファントムが現出するのだ』
『それで、その『核』を使ってどうするの?』
『何、ちょっとした実験を、な』
ワイズマンは、口角を僅かにあげて笑みを浮かべた。
ー士道sideー
士道は二亜の漫画仲間の女性漫画家、『高城弘貴』と言う、二亜と同じく男性名ペンネームの女性を見る。分厚い眼鏡をかけた20代後半くらいの女性。確か『アザーフェイク』と言う漫画の作家だった気がする。
「はじめまして、五河士道です」
「同じく、琴里です。今日はご足労いただき、ありがとうございます」
「おお、これはこれはご丁寧に」
2人が挨拶すると、高城はテーブルに手を突いて、ペコリと頭を下げた。
それから、高城が二亜との関係を伺ってくると、琴里が自分達は遠縁の親戚で、何年も連絡が取れなくなった“二亜お姉ちゃん”が心配で、色んな人に事情を聞いているーーーーと、顔色1つ変えずに尤もらしいアドリブをツラツラと並べた。妹に詐欺師の才能を感じてしまう士道。
≪あぁ言う交渉力を少しは見習え≫
「っ」
何故かドラゴンの声が聞こえ、一瞬渋面になる士道だが、高城は一応納得してくれたようで、少し困ったような顔になりながら話してくれた。
曰く、自分は二亜に嫌われてしまっている・・・・との事だ。
詳しく聞くと、9年程前の出版社のパーティー(何故か高城は脅えていた)で会い、それを縁に仲良くさせてもらっていたが、ある時から急に態度がよそよそしくなり、疎遠になってしまった、と。
高城本人は、1番仲の良い作家仲間だと思っていたが、知らず知らずの内に無礼をしてしまったのかもと言ったが、士道と琴里は微かに眉根を寄せ、思い至ったーーーー天使〈囁告篇帙<ラジエル>〉の存在に。
それから、高城の知る限りの話を聞き、それから数十分後、話が終わりお互いに会釈して帰ろうとする高城を見送ろうとしたその時、
「おっ、高城先生。奇遇やなぁ」
黒スーツに頭にゴーグルをかけた、関西弁をしゃべる、ワイルドな風貌の壮年男性が話かけて来た。しかし、その手には何故かコピシュと言う大鎌の武器を手に持ち、さらに何故かアイアンメイデンを抱えていた。
士道と琴里と令音が異様なその男性を見るが高城は、この世の終わりのような貌となった。
「こ、これは、クワ□ラさん・・・・!」
「あの、あなたは?」
琴里が聞くと、クワ□ラと呼ばれた男性は名刺を取り出して差し出した。
「俺は編集者のクワ□ワちゅうもんや。高城先生の担当編集者やないんやけど、『敵対出版社』が団体でカチコミしてきた時に担当が負傷してもうてな。代理として来たんや」
どうやら出版社の人のようだが、手に持っている武器とメイデンと『敵対出版社』だの『カチコミ』だの理解不能な単語に、士道達は首を傾げた。
「それで高城先生、漫画の進捗はどうや?」
「あの、その、あとちょっとだけ待って・・・・」
「ああ分かった分かった。後の作業はーーーーメイデンの中でやろうな」
クワ□ラがにこやかにそう言うと、メイデンの扉が独りでに開くと、真っ黒な手が無数に伸びていった。
「ひぃっ!?」
「「っっ!!?」」
「・・・・」
高城が小さく悲鳴をあげ、士道と琴里が目を見開き、令音は無表情に見ているのを尻目に、真っ黒な手は高城の身体を掴むと、高城はメイデンの引き込まれいく。
「た、助けーーーー」
目に涙を浮かばせ、恐怖に貌を染めた高城が助けを求めようと手を伸ばすが、無情にもメイデンの扉は閉まり、中に閉じ込められた。
「ほな、これでな」
そう言って、クワ□ラはそのままにこやかにメイデンを引きずって去っていった
戦慄に顔を染めた琴里が口を開く。
「・・・・・・・・・・・・何なのアレは?」
「そう言えば、前に二亜が言ってたな・・・・」
【お願いお願いお願い! マジ手が足らなくてさー! このままじゃ次の原稿が間に合わないのよ! そんなの事になったら武術を修めた編集者の人に殺されちゃう! 運良く殺されなくても、出来上がるまで棘のないアイアンメイデンの中に監禁されるか! 時間内に出来上がらなかったらコロッケにされる工場に亜空間を使って連れていかれちゃうのよっ!!】
「って・・・・」
「・・・・どうなっているのだろうね、出版業界って言うのは?」
「それも二亜がーーーー」
【知らないの少年? 出版業界ってのは世紀末世界でヒャッハーしてるような豪傑達が蔓延っている魔窟なんだよ】
「って・・・・」
士道が琴里と令音にそう説明すると、2人はそれ以上何も聞かず、いや、聞くのが恐くなったのか、令音は頬に汗を垂らし、琴里は頬をヒクヒクとさせるしかなかった。
◇
異常な事態が起こったが、士道と琴里は先ほどと同じ車に乗りながら、窓の外の景色を眺める。
高城の話から、二亜は人当たりの良い性格で、誰とでもフレンドリーに話す事ができる。
が、漫画家になる以前の事はあまり離したがらない事。特に、昔の友人関係の事を問われると曖昧に言葉を濁す事。
そしてーーーー高城のように仲良くなれそうな人が現れると、逆に疎遠になってしまうと言う事だ。
「・・・・どう思う? 琴里」
「どうもこうもーーーー」
士道の問いに答えるように、琴里が唇を動かす。
「〈囁告篇帙<ラジエル>〉の存在が関わっているのは間違いないでしょうね。・・・・考えてみれば可笑しな事じゃないわ。“世界の全てを知れる天使”なんて物を持っていたら、誰だって周りの人間の事を調べたりするでしょうね」
「そうだな・・・・でも」
「ええ。恐らく、それによって二亜は人間に不信感を抱いてしまった。ーーーーそれはそうよね。四六時中聖人のような振る舞いをしている人間なんて存在しないわ。影口も言えば誰も見ていない所では悪さもする。〈囁告篇帙<ラジエル>〉があれば、人間なんて醜いモノに思えてしまうのも当然よ」
琴里は、クシャクシャと頭を掻いた。
「・・・・以外と根が深いわね。2次元のキャラクターが好きなんて聞いた時は、何をふざけてるのかって思ったけど・・・・それって要は、自分を裏切る事の無い存在にしか心を開けないって事でしょう? そんなの・・・・悲し過ぎるじゃない」
「・・・・・・・・・・・・」
琴里の言葉に。士道は、少しの間黙り込んだ。
確かに琴里の言う事は尤もである。二亜が友人関係を話したがらない理由も、2次元に嵌まり込んだ理由も、恐らくそれが原因なのだろう。
だけれど、最後の1点。高城と疎遠になってしまった理由についてだけは・・・・士道の心に、小さな違和感が残っていた。
「・・・・、士道?」
「え? ああ・・・・」
士道が返すと、琴里はブスッとした顔をしてきた。
「徹夜の作業で眠いのは分かるけど、大事な問題よ。ボーッとしないでくれる?」
「ああ・・・・悪い」
士道が短く返事をすると、目まぐるしく動く風景を見つめながら、拳を握った。
「兎に角ーーーー今は、同人誌を完成させよう。何をするにしても、二亜ともう1度話す事のできる場所を作らない事には、話にならない」
士道が言うと、琴里は少し意外そうな表情をしてから頷いた。
◇
ーーーー作業も佳境の12月31日午前1時。
精霊マンションの作業部屋には、フラフラになった士道達が、虚ろな目でペン入れをしていた。
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
無言で、机にかじりつくように前傾姿勢を取り、七罪の引いたキャラクターの戦を丁寧に丁寧になぞっていく。
手には原稿を汚さないよう指先の切られた手袋が、額には眠気を取る為の冷却シートが装着され、ついでに机の端には、栄養ドリンクの空き瓶やコーヒーの空き缶が並んでいた。
『・・・・1時に、データを送って仕上げをさせるとしても、そろそろタイムリミットだ』
「・・・・み、皆・・・・ラ、ラスト、スパート、だ・・・・!」
「・・・・うーい・・・・」
「応・・・・答。こちらはもう少しです・・・・」
「・・・・・・・・」
作業開始からほぼ丸1日。士道と耶倶矢と夕弦と折紙は、食事とトイレと仮眠以外は席を外さず、作画をし続けていた。緊張を強いられる作業の連続は、予想以上に精神を疲弊させた。もはや目には令音のような隈ができて状態で頭がフラフラとしている。唯一平然としているのは折紙だが、そんな彼女ですら、数時間に1度に電源が切れたように動かなくなる事があった。
しかし、今この部屋の中で最も危険な状態にあるのは、間違いなく七罪である。
部屋の最奥の机で、長い髪を無造作に括って作業をしていたが、作業開始から1度も仮眠を取らずいる為、目は充血し、指先は小刻みに震えていた。幾度もドラゴンや士道が休むように言っても、七罪は筆を置こうとしなかった。ドラゴンはできるだけ負担を減らそうとするが七罪はそれを拒み、士道こと〈仮面ライダーウィザード〉と〈アクマイザー〉との戦いを描いていた。
〈ガーラ〉とランドスタイルのダイナミックなパワー対決。
巨大なダチョウ〈ガーラッチョ〉になった〈ガーラ〉と『リキッド』を使うウォータースタイルの戦い。
〈イーラ〉とハリケーンスタイルの高速空中戦。
〈アクマイザー〉の必殺技『悪魔陣アタック』で重傷を負う士道。
そして、岸和田のアンダーワールドで、岸和田から生まれたファントム、口を開けた空中戦艦〈ザイダベック〉に乗り込んだ〈アクマイザー〉とウィザードラゴンに乗ったウィザードとの激戦。
〈ザイダベック〉と共に消滅するイーラとガーラ。
辛くも脱出し、仲間の復讐に燃える〈ザタン〉とフレイムスタイルのウィザードの剣を交えた死闘。
そして何よりも、精霊達の中でも観察力の優れた七罪は、ドラゴンの記憶の中の岸和田の僅かな視線と表情から、彼の心境をこと細かく描いていき、士道との友情を描いた。
その執念は、一夜にして七罪にプロの凄味を付与していた。
そんな彼女の姿を見せつけられ、ドラゴンは七罪を全力でサポートし、士道も弱音を吐かず、気力を振り絞り、ラストスパートをかけた。
「よし・・・・これで・・・・終、了・・・・」
士道が震える声で呟くと、そのまま力なく机に突っ伏した。ーーーー無論原稿はプラモンスター達が回収して、乾かしている。
時をほぼ同じくして、八舞姉妹も作業を終えて、士道と同じように机に崩れ落ち、折紙がピンと背筋を伸ばしたまま、少しの間動かなくなる。
後はインクが乾くのを待ち、消ゴムにかけてアシスタントチームに送るだけ。後はもう〈ラタトスク〉の面々に任せて大丈夫だろう。
と、それに合わせるように、作業部屋の扉が開き、別行動を取っていた琴里達が、大きな段ボールを抱えてやって来た。
「・・・・ハイ、士道」
「ああ、琴里・・・・って」
声に応じるように琴里達の方を見ると、思わずショボショボの目を見開く。
部屋に入ってきた琴里と十香、四糸乃に美九までも、士道達と同じように眠そうな顔をしていたのだ。
「お前ら・・・・その顔、何してたんだ?」
問うと、彼女らは顔を見合わせてから士道の方に視線を戻した。
「それは秘密だぞ、シドー」
「お楽しみ・・・・です」
「うふふ・・・・本当なら睡眠不足は美容の大敵何ですけど、だーりん達にだけお仕事をさせる訳にはいきませんからねー」
そう言って、3人は疲れた顔だが楽しそうに笑う。不思議そうに首を捻る士道は、大方経路<パス>を通して知っているだろうドラゴンに目を向けるが、
『(今貴様の相手のしてる暇など粉微塵もない! 七罪の作業の邪魔を一瞬でもするならば、今すぐ三途の川を渡る準備をしろ・・・・!!)』
と、無言の圧力<プレッシャー>が来て、そのまま閉口するが、琴里が話しかけた。
「それより、作業の方はどう?」
「ああ・・・・俺は丁度今終わった所だ。後はゴムかけしてスキャンしたら、アシスタントチームに送れる。耶倶矢と夕弦と折紙も多分、終わったんじゃないかな」
「そう。お疲れ様。じゃあ後はーーーー」
言いながら、まだ部屋の最奥で作業を続ける七罪とドラゴンに目をやった。士道も起き上がり、八舞姉妹や折紙も起き、琴里達と七罪の元に集まった。
「七罪・・・・? ドラゴン・・・・? 大丈夫か?」
『七罪、頑張れ・・・・あとちょっとだ・・・・』
「おぉ~・・・・・・・・」
2人とも聞こえていないようで、作業を続けた。
「七罪?」
『(ギロッ!)』
「うっ!」
「十香。四糸乃」
「「うむ/は、はい」」
ドラゴンが尻尾ド突きをくり出そうとしたが、琴里が士道の前に十香と四糸乃を出すと、尻尾がピタッと止まった。七罪と同じくらいに可愛がっている2人が相手では、ドラゴンも手出しはできない。
ドラゴンがフリーズしている内に、もう1度七罪に声をかけた。
「七罪?」
「・・・・! あ、ああ・・・・うん・・・・」
漸く七罪がビクッと肩を揺らして、疲労の色がありありと浮かんだ顔をあげてきた。目は真っ赤で分厚い隈も浮かんでいる。誰の目から見ても限界が近い。
「俺達の方は作業終わったから、代わるよ。疲れただろ? 先に寝てくれ」
「・・・・ううん、いい。もうちょっとだから・・・・」
しかし七罪は首を振り作業を続ける。目が霞みとゴシゴシと目元を擦る。
「もうちょっとって・・・・七罪、昨日から1度も仮眠を取ってないじゃないか。しかもネーム、下書きと1番作業している筈なのに・・・・」
「そうであるぞ。本番は即売会だ。後は我らに任せて、常闇の眠りに誘われるがよい」
「同意。少し働き過ぎです、七罪」
「休養も立派な仕事」
一緒に作業していた八舞姉妹に折紙が言うが、七罪は一向に作業を止めず、虚ろな目で原稿を見つめながら、一心不乱にペンを動かし続ける。
「・・・・大丈夫・・・・だから」
「で、でも・・・・」
士道が言うと、七罪は震える指で綺麗な線を引きながら続けてきた。
「・・・・多分、私、本番じゃ役に立たないし、私にできるのなんて・・・・これくらいだから。・・・・だから、やらせて。こんな私が必要とされるなんて、思っても見なかった。私だって、皆の役に立ちたい・・・・」
「七罪・・・・」
「・・・・私ね、士道や、皆に助けられて、本当に嬉しかったんだ・・・・それで、今度は別の精霊を助ける為に、一緒に力を合わせられる。それが、本当に・・・・本当に嬉しいの。だから、辛くなんてない。楽しくて楽しくて仕方がないわ。あの二亜って言う分からず屋にも・・・・早く教えてあげたい」
七罪は小さく笑うと、ペンを持ったまま腕をゆっくりと持ち上げた。
「ーーーー友達ってーーーー、素敵だよ・・・・って」
そして七罪は最後の線を引くと同時、そのままガクンと椅子から崩れおれるように落ちそうになるが、ドラゴンが身体を七罪くらいの大きさにして支えた。
「おい、七罪、大丈夫か!?」
『安心しろ。精根尽き果てて寝てるだけだ』
「・・・・すぅ、すぅ・・・・」
心配そうに声をかける士道に、ドラゴンがそう言うと、七罪は寝息を立てていた。
『ご苦労様だ、七罪』
「・・・・頑張ったな、七罪」
2人はそう言うと、微笑みながら士道は七罪の頭を、ドラゴンは七罪の頬を撫でた。
すると、士道の後方に立っていた美九が、ウルウルと目に涙を溜めながら声を上げた。
「ううっ、感動しましたぁ! つきましてはだーりん、私が七罪さんをお部屋に寝かせてきますので・・・・」
「士道、七罪を部屋に運んであげて。鍵をかけるのを忘れずにね」
「あぁん、琴里さんのいけずぅ」
美九の言葉を遮るように琴里が言うと、美九が身をくねらせる。
『・・・・ならば美九。我のリフレッシュに少し付き合って貰おうか』
「えっ?」
ドラゴンがそう言うと、美九の首に自分の尻尾を巻き付けて、ズルズルと引きずり、防音設計された部屋に連れ込んだ。
「お、おい、琴里、何だあの部屋?」
「・・・・ドラゴンが特注で作らせた部屋よ。何に使うのかはーーーー聞かないでちょうだい」
琴里は七罪が着いていた机から、ペン入れの終わった原稿を手に取ると、それを見つめて小さく頷いた。
「ーーーーお見事」
そしてその後、皆の方に視線を寄越してくる。
「七罪の魂の玉稿よ。これで、武器は揃ったわーーーー皆、この勝負、絶対に勝つわよ」
『おおっ!』
琴里の言葉に、士道達は拳を突き上げて応えた。
「さて、ドラゴンと美九にも伝えておこうかしら」
そして琴里は、防音部屋の扉を少し開けて中にいるドラゴンと美九にも声をかけようとした。その瞬間ーーーー。
「ーーーー!!!/////」
ーーーーバンッ!!
何故か、顔を真っ赤にして部屋の扉を閉め、何処からか『KEEP OUT』のテープを持ってきて、扉に貼り付けまくった。
「こ、琴里? 何があった?」
「何もないわ!/////」
「いや、でもドラゴンと美九が・・・・」
「何にもないから! とりあえず誰もこの部屋の扉を開けちゃ駄目よっ!/////」
「だがーーーー」
「駄・目・よっ!!/////」
『は、はい・・・・』
顔を真っ赤にして目を力強く見開いた琴里の凄まじい形相に、士道も十香達とただ頷くしかなかった。
一瞬だが、士道も僅かに開いた扉の隙間から中が見えたが、気のせいだと思った。
ーーーーSMのような縛りをされ床に横になり、恍惚とした貌の美九がお尻を突きだす格好をし、その美九のお尻に座り、尻尾でお尻をパンパン叩いていたドラゴンの姿など、きっと気のせいであろう。
◇
そして夜が明け、午前7時30分。戦場の扉が、開いた。
コミックコロシアムの会場である大型コンベンションセンター・天宮スクエアに並んでいたサークル参加者達が、一斉にホールの中へと入っていく。閑散としていた空間に、夥しい数の足音と、ガラガラとキャリーカートを転がす音が響き渡った。
コミックコロシアムとは、夏と冬に年2回行われる大型同人誌即売会である。それぞれ3日間の日程は分けて行われ、全国から漫画とアニメのファンが集結する一大イベントだ。その年にとよるが、3日間で50万人以上の参加者が集まると言われている。
それだけの巨大イベントなのだ。一般参加は勿論だが、同人誌を出展するサークル参加者もかなりの数に上がる。ホールを開場されてから暫くは、まるで地響きのように人々の行進が建物を震わせた。
ーーーーその開場からおよそ1時間。サークル参加者達の波が一通り収まった所で、士道達、サークル〈ラタトスク〉は、漸く人通りが少なくなったゲートの前に立った。
「よし・・・・行くぞ皆」
「うむ、準備は万端だ!」
「が、頑張ります・・・・!」
士道の声に、すっかり本調子に戻った精霊達が力強く頷く。
少し休んだ程度で万全な体調に戻った訳ではない。あの後崩れ落ちるように眠りにつき、起きてもまだ疲れが残っていた一同に、『ドラゴンがシャキッとした姿の緑色のリング』を取り出し、それを読み込ませると、[リフレッシュ プリーズ]と言う音声と共に自分達の身体を魔法陣が取り囲み、疲労が完全に落ちたのだ。
どうやら寝不足に疲労回復の効果のある魔法だったようだ。
ちなみに目が覚めた時、士道のすぐ隣には折紙がピタリと張り付いていた。鳶一容疑者は容疑を否認しており、あれは寝相であると言い張っているが、〈ラタトスク〉は意識があったと見て捜査している。
さらに、防音部屋から出たドラゴンは気分爽快と言わんばかりにツヤツヤとした顔色になり、その手にはリードを持ち、リードの先には首輪を着けた美九が、これまたツヤツヤとした顔色で頬をほんのり紅くして微笑んでいたが、士道と精霊達も〈ラタトスク〉も、恐くて捜査しなかった。
ともあれ、今は決戦の時。士道は精霊達を引き連れ、広い連絡通路を歩いていった。
そして東ホールに辿り着き、目的のスペースへと向かう。
ホール内は、既に幾人ものサークル参加者でごった返していた。皆忙しそうに、テーブルにクロスを敷いたり本を並べたりして、自分達のスペースを設営している。
「へえ・・・・初めて来たけど、凄いもんだな」
「首肯。皆、工夫を凝らしています」
「ですねー。この雰囲気、何だかライブに通じるとのがある気がしますー」
精霊達が、周囲の様子を興味深そうに眺めながら、キャッキャッと言葉を交わす。
と、ホールの壁が見えてきた所で、琴里が皆に声を発した。
「ーーーーいたわ。二亜よ」
その言葉で、全員に緊張が走る。
士道はコクンと唾液を飲み下すと、前方のサークルスペースに目をやる。
ソコに、精霊・二亜の姿があった。数名のスタッフと共に長机に本を並べていた。
次回、勝負が始まる。