デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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販売勝負・二亜

ー士道sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道は意を決し、前方へと歩いていった。

すると二亜が、士道達に気付いたように顔をあげてくる。

 

「・・・・うん?」

 

かけていた眼鏡のブリッジをクイとあげ、パイプ椅子から立ち上がる。

 

「奇遇だねぇ、少年。まさかこんな所で会うとは思わなかったよ。おや、皆さんもお揃いで。初めましての人が多いかな?」

 

二亜が士道の後ろに居並んだ精霊達に視線を送ると、十香と折紙、耶倶矢に七罪は警戒した様子を見せ、四糸乃と夕弦は小さく会釈し、琴里は腕組みしながら視線を返すのみ。ちなみに美九は顎に手を当てて目を輝かせ「ほうほう・・・・眼鏡装備のスレンダー美少女と言うのも中々・・・・今までいなかったタイプです(ピシッ)あひゅん♥️」と良く分からない事を呟くが、こっそりドラゴン(よしのんサイズ)がお尻でも叩いたのか、一瞬恍惚な貌になって黙り、七罪がちょっと距離を取った。

 

「・・・・で? 一体何しに来たの? そりゃあキミ達がコミコに来るのは自由だけど、一般参加者の入場は10時からだよ?」

 

肩を竦めながら言う二亜に、琴里が組んでいた腕をほどいて返す。

 

「ご忠告どうも。ーーーーでも、私達は一般参加者じゃないのよね」

 

そしてゆっくりと右手を持ち上げ、二亜の隣のスペースを指さし、二亜がその指先を視線で追い、怪訝そうな顔をした。

 

「ふうん・・・・? ああ、成る程」

 

二亜は小さく息を吐くと、机の上に置かれていたホール内のマップのような物を手に取った。

 

「おかしいと思ってたんだよねぇ。マップではここにスペースなんてない筈なのに、来てみたら増設されてたからさ。てっきり運営側のミスかと思ってたけど・・・・そっか、キミ達の仕業か」

 

「まあ・・・・そう言う事だ」

 

士道が答えると、二亜は士道達に不快感を示すような、それでいて予想外の事態を面白がるような表情を作った。

 

「・・・・にしても、凄い大所帯だね」

 

「あら、あなたの方も結構なものじゃない」

 

「ああ、皆バイトだよ。雇用関係って良いよね。払ったお金の分だけ働いてくれるって言うのが分かりやすくて良い」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

その言葉に、士道と琴里は微かに唇を噛んだ。ーーーー昨日話した、高城の言葉が頭を掠めたのである。

 

「それで? 参加するのは良いけど、何を売るの? 見たところ手ぶらみたいだけど」

 

「ええ」

 

ーーーーパチン!

 

琴里が指を鳴らすと、それに呼応するように、搬入口から中津川と川越と幹元が、段ボール箱を満載した台車を転がしてやってくる。

 

「ーーーーサークル〈ラタトスク〉の搬入物、お届けにあがりました!」

 

「ありがとう。そのスペースに積んで置いてちょうだい」

 

「「「はっ!」」」

 

クルー達が答え、段ボールをサークルスペースに積んでいく。その数、実に10箱。ちょうど、二亜のスペースの後方に積んである物と同じ数だ。

 

「500冊入りの箱が10・・・・ちょうどあなたの搬入した数と一緒よね、二亜」

 

「・・・・へえ? 良く調べたね。で、それでアタシより早く売ってみせる・・・・とでも言いたい訳? 考えたもんだね。確かにそれでも、アタシより売り上げが良いと言えなくもない」

 

「話が早くて助かるわ」

 

二亜の言葉に、琴里はニッと唇の端をあげる。

 

「肝心の精霊攻略は全くの『無能』だけど、こう言った事に関して、“だけ”は! 優秀なんだねぇ?」

 

「うぐくっ!」

 

「「「おうぅっ!!」」」

 

二亜の反撃の口撃に、琴里は悔しそうに頭に血管浮かばせながら怒りを堪えるような顔を作り、クルー達は苦しそうに胸を抑えて蹲った。

その様子に、士道達は苦笑するしかなかった。まぁ、ドラゴンと折紙、あとコッソリと七罪も、二亜の言葉に同意するようにウンウンと頷いていたが。

と、そこで、周囲のスペースの設営をしていた参加者達が、何やら中津川を見て、ヒソヒソと話をしており、『 〈妹々かぶり〉の代表 MUNECHIKA』と呼んでいたのを聞いて、士道と琴里が半眼になって中津川を見ると、

 

「昔の話でございます」

 

と、ニヒルな笑みを浮かべ、それ以上聞くと面倒そうなので作業に戻った。

サークルスペースの後方に歩き、段ボールを1箱開け、中に入っている本を取り出す。印刷したての為か、ほんのり温かい。

 

「うお・・・・」

 

完成品を見るのは初めてだった。七罪の描いた線画に、綺麗な彩色が施され、タイトルロゴ〈希望の魔法使い<ウィザード〉と入っていた。どう見ても、僅か2日で作られた本には見えなかった。

士道の頭にドラゴンが座り、士道は二亜の方に向き直ると、その目をジッと見据え、居住まいを正して本を差し出した。

 

「ーーーー今日はよろしくお願いします。サークル〈ラタトスク〉の五河士道です」

 

「・・・・っ!」

 

士道が言うと、二亜はピクリと眉を動かした。

そして数秒の逡巡の後、自分のスペースに並んでいた本を1冊、士道に差し出していく。

 

「サークル〈本条堂〉の本条二亜です。今日はよろしく」

 

そして2人は軽く頭を下げ合うと、互いの本を交換した。これはスペースが隣になったサークル参加者は本を交換する通例(中津川談)なのだ。

二亜が、この手で来たか、と言わんばかりに苦々しい表情を作る。

 

「・・・・この場で礼を失する事はしたくないから、一応受け取っておくけど、アタシがコレを読むかどうかは、今日の結果で決めさせてもらうよ」

 

「ああ。それで構わない。ーーーー楽しい1日にしよう」

 

「・・・・・・・」

 

士道が手を差し出すと、二亜がため息を吐いてからそれを握った。軽く数度上下させ、無造作に離す。

 

「確かに狙いは面白いけど、キミ達の勝ち目は薄いよ思うよ? アタシ、一応プロだし。5000部って数字も、久々のイベントだから控えたってだけだし。カタログにさえ載ってない新興サークル、しかも素人が急拵えで作った本じゃ、勝負にすらならないよ」

 

「さあ・・・・それはどうかしらね」

 

琴里は不敵に微笑むと、後方の精霊達の方に目をやった。

 

「ーーーー皆、準備にかかるわよ!」

 

「「「おー!」」」

 

『やるしか、無いのか・・・・!』

 

十香と四糸乃と美九が、それに応じるように声をあげる。逆に渋面を作っているドラゴン以外の作画班は首を傾げていた。

 

「準備・・・・一体何の事であるか?」

 

「疑問。夕弦達は何も聞かされていません」

 

「・・・・なんか嫌な予感がするんだけど」

 

「良いから良いから。兎に角皆はこっちに来て。ーーーー士道、すぐ戻ってくるから、それまで川越達と一緒にスペースの準備をしててくれる?」

 

琴里が渋る七罪の背を押しながら言う。疑問符は残るが、了承する。

 

「ドラゴンどうしたんだ?」

 

『我の事は良いから、さっさと設営をしろ・・・・!』

 

「あ、あぁ・・・・じゃあ、こっちも設営を始めましょう」

 

妙に懊脳しているドラゴンから一端視線を外し、士道の言葉にクルー達は頷き、スペースを目立つように仕立てていく。

と、しばらくそんな作業を続けていると、壁際のスペースの前方に、何やら人が集まってくるのが見て取れた。

やがてそれらの人々が、サークルスペースの前に列を作り始めた。特に、二亜のサークルの前には、かなりの人数が並んでいた。

 

「あれ・・・・? 開場はまだですよね。あの人達は・・・・」

 

「ああ、私達と同じ、サークル参加者でござりますよ。サークルチケットを持っていれば、一般参加者より先に入れますからな。こうして一足早く目当てのサークルの前に並ぶんです」

 

「えっ、そう言うのアリ何ですか?」

 

「うーむ・・・・私の口からは何とも」

 

『(昔やったなコヤツ・・・・)』

 

曖昧な返事をする中津川をドラゴンが半眼で見ていた。

 

「ん・・・・でも、って事は」

 

「そ。漸く分かった?」

 

士道の声に、隣のスペースに立つ二亜が答えた。

 

「同人誌の初動は、前評判で決まるの。勿論アタシはブランクがあるし、今回は急な参加だったからカタログにも載ってないけど、少し前からブログで告知打ってたからね。アタシの本を第1に手に入れようって参加者が、少なからず存在するんだよ。だから悪いけど、同じ部数をどっちが早く捌くかだなんて、最初から勝負にならないんだよね」

 

眼鏡のフレームの上から、士道を覗きあげるように、二亜が言った。

 

「なーーーーそんな・・・・!」

 

「ーーーーそれはどうかしら?」

 

瞬間。琴里の声が士道の言葉を遮った。

 

「琴里? って・・・・ええっ!?」

 

『グギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!! やはりソレをやるかぁっ!!』

 

声の方向に視線をやり、士道は驚愕に目を見開き、ドラゴンは苦渋の判断をしたかのような態度で見る。

ソコにはーーーー可愛らしいバニーガールのコスチュームに身を包んだ精霊達の姿があったのだから。

 

「お、お前ら、その格好・・・・」

 

「うむ! 売り子と言うらしい」

 

「昨日・・・・皆で、作りました・・・・! ちょっと恥ずかしいですけど・・・・頑張ります・・・・っ!」

 

士道の問いに、十香と四糸乃が答えた。成る程、作画班とは別に、十香達が作業をしていたのは、コレの事だったようだ。

しかし、

 

「良く、ドラゴンのヤツが承諾したな・・・・?」

 

精霊達ーーーー特に十香と四糸乃と七罪を可愛がっているドラゴンが、精霊達がこんな刺激的な格好をするのを許す筈が無いので疑問に思ったが、琴里が髪をかき上げながら不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「フッ・・・・十香と四糸乃に2時間も説得とおねだりをして貰って、何とかお触りは絶対にさせないって条件で承諾させたわ」

 

『さもなければ我が精霊達に、こんな破廉恥な格好をするのを許す訳がないだろう・・・・!!』

 

「そ、そう、か・・・・そう、だよな・・・・」

 

目を血走らせ、血涙まで流しながらそう言うドラゴンの迫力に、士道は苦笑と頬に汗を垂らしながら目を反らすしかなかった。

そして、突然現れたコスプレ美少女軍団に、周囲の参加者達が色めきたつ。

 

「なんだあのサークル・・・・スッゲェ可愛い子ばっかじねえか」

 

「えっ、カタログには無かったぞ、あんなの」

 

「て言うかあの中にいるの、誘宵美九じゃないか?」

 

中にはアイドル・誘宵美九の姿を認め、にわかにざわめきが広がり、あちこちから、カシャ、カシャとスマホのシャッター音が聞こえる。

本来であればあまり褒められた行動ではないが、美九はそれを咎めず、むしろ女の子の方にだけはポーズまで取った。

それを見て、二亜が不思議そうに首を傾げる。

 

「・・・・誘宵美九?」

 

「うふふー、バレちゃいましたかー」

 

美九が得意気に豊満な胸を反らすが、二亜は怪訝そうに眉根を寄せた。

 

「・・・・ゴメン、全然知らない、何してる人?」

 

「あうっ!? ハニ~~!」

 

『よしよし』

 

二亜の一言に、美九がショックを受けたようによろめくと、ぬいぐるみのふりをして士道の頭に乗っているドラゴンを抱き寄せると、ドラゴンがコッソリと慰める。

 

「お、落ち着け美九。二亜は最近までDEMに捕まってたから、芸能人とか分からないんだよ」

 

「そ、そうですねー・・・・ありがとうございます、だーりん」

 

「ほら、しっかりなさい。もうすぐ、始まるわよ」

 

美九が力なく笑いながら体勢を直すと、琴里が気合いを入れるようにその背を軽く叩いた。

するとそれに合わせるように、時計の針が10時を指し示し、会場にアナウンスが響いた。

 

《ーーーーただ今より、コミックコロシアムを開催したします》

 

ソレと同時、会場中から、万雷の拍手が鳴り響き、その迫力に、士道達は思わず目を丸くして辺りを見回した。

が、ソレはまだまだ序の口。拍手が鳴り止むか止まないかの所で、今度は遠くから、ゴゴゴゴゴゴ・・・・と地鳴りのような音と、微かな振動が伝わってきた。

 

「こ、この音は・・・・」

 

士道は声を震わせーーーーしかしすぐに気づいた。

その音が、外から大挙として押し寄せる、一般参加者の足音だったのだ。

 

「お、おお・・・・!?」

 

「・・・・すっご、何あれ」

 

入口の方から、人が波のように押し寄せてくる。その様は、まるで城門の開いた敵陣へ詰めかける兵士だ。精霊達が驚愕に目を見開き、しばし呆然とする。

だが、驚いてばかりもいられない。一般参加者に先んじて、既にスペースの前に並んでいたサークル参加者達が、次々と二亜の本を購入していく。

それをスタッフと捌きながら、チラッと士道達を見て、「勝てるものならやってみろ」と言うように唇を歪めた。

 

「くーーーー俺達も、始めるぞ」

 

「そうね。じゃあ皆、手筈通りに!」

 

『おおっ!』

 

琴里の号令に従い、精霊達がズラリとスペースの前後に展開する。そのあまりに煌びやかな様子に惹かれたのか、目当ての本を買い終えた参加者達が、チラホラと士道達のスペースの前で足を止めるようになった。

 

「おお、いらっしゃいだ!」

 

通りかかって本の表紙を見ていた青年に、十香が太陽のような笑顔で買うか迷っていた青年は本を購入した。青年は恥ずかしそうだが、何処か嬉しそうに、ブンブン手を振る十香に、小さく手を振り返して去った。

その光景に思わず苦笑する。

 

「はは・・・・こういうのもアリ・・・・なのか?」

 

そう言う士道に、中津川はこれくらいしないと無銘のサークルが5000部もの本を捌ききれないと断言した。

サークル〈ラタトスク〉の華やかな売り子達で順調に売り上げを積み上げていくが、二亜の〈本条堂〉とは既に数倍の本を売り抜いている。しかも時間と共に、サークル前に並んでいた行列はさらに長くなっていた。このままでは、一気に押しきられてしまう。

 

「く・・・・このままじゃあ・・・・(ペシッ)あてっ!」

 

圧倒的なペースの違いに、士道は渋面を作るが、ドラゴンが尻尾で頭を叩き、すかさず可愛らしいコスチューム身を包んだ琴里が、チュッパチャプスの棒をピンと立ててくる。

 

「何情けない顔してるのよ、士道。ーーーー勝負はこれからよ」

 

「え・・・・?」

 

首を傾げる士道だが、徐々にサークル〈ラタトスク〉の前に人が集まり、列を作る。琴里は八舞姉妹を列整理に向かわせた。

良く見れば、列にいるのは〈ラタトスク〉の機関員だった。

 

「・・・・これって、『サクラ』って言うんじゃないのか?」

 

二亜に聞こえないように声をひそめて話しかけるが、琴里はフンと鼻を鳴らして半眼を作る。

 

「人聞き悪いわね。『お友達』がサークルに遊びに来てくれただけよ。自費出版した本を知り合いが買うのなんて、至極普通の話じゃない」

 

『物は言いようだな。しかし、正道では勝てないから邪道か。流石は琴里。セコくイヤらしい手段を使わせたら精霊達の中では時崎狂三<〈ナイトメア〉>に匹敵する底意地の悪さだな?』

 

「煩いわね・・・・! 皆にも、友達に連絡して貰うようにお願いしてあるわ」

 

「・・・・“皆にも”?」

 

士道が不吉な予感を感じてると、次の瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「やっほー! 十香ちゃーん、来たよー」

 

「スッゴい人の数だねー」

 

「マジ引くわー。コンゴの湿地戦を思い出すわー」

 

言って、列に並んできた少女達を見て、士道はヒッと息を詰まらせた。何しろソコにいたのは、ある意味最強の3人組、亜衣麻衣美衣トリオであった。

 

「おお、来てくれたのか3人共!」

 

十香が嬉しそうに声を上げる。すると3人は、フフッと口元を緩めて見せた。

 

「そりゃあね。十香ちゃん頼みとあっちゃあ断れないわよ」

 

「ウンウン。コミコってのもちょっと興味あったし」

 

「・・・・って、あ! 隊長! 怪人ナンパ男を発見しました! マジ引くわー!」

 

「な~に~!?」

 

士道の顔を見るなり、3人が鬼の顔がついた棍棒、イヤ、太鼓のバチとラッパのような銃とギターの形をした剣を出して、戦闘態勢を取ってくる。士道は諦めたように息を吐き、それに応対した。

 

「・・・・やあ、3人共。久しぶり・・・・」

 

「気をつけて皆!」

 

「また女の子を口説くつもりよ!」

 

「注意しないと妊娠させられるわ! マジ引くわー!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

『(自業自得だな)』

 

士道が暴走した時に3人を口説いており、その誤解を解いていなかったのだ。自業自得とは言え、かなりキツい。

 

『しゃんとしろ。客だぞ』

 

「五河くん」

 

「っ!」

 

「ほえっ!?」

 

亜衣麻衣美衣トリオが本を購入すると、士道は聞き覚えのある声が聞こえ、目を向けると、サークル〈ラタトスク〉のテーブルの前にやって来た、文科系少年を見て、士道は嬉しそうに頬を緩ませ、亜衣は素っ頓狂な声をあげた。

 

「岸和田! 久しぶりだな!」

 

「うん久しぶり。最近あまり話せていなかったね」

 

そう。この漫画のキャラクターとして描かれている岸和田だった。

 

「どうしてここに来たんだ?」

 

「前からコミックコロシアムに興味があったし、五河くんが本を出してるって聞いたから来てみたんだ」

 

ソレを聞いて、折紙がコッソリと琴里に訊ねた。

 

「呼んだの?」

 

「一応許可なしでモデルになって貰っていた謝罪を込めて、ね」

 

そう話していると、岸和田は同人誌を購入して本を読んでいった。琴里達は気を使って、士道と岸和田だけ話をさせた。亜衣麻衣美衣トリオは硬直してしまった亜衣を甦らせようとしていたが。

 

「ーーーースゴいね。あの時の事や僕が思っていた事をそのまま描かれているよ」

 

あの時感じた恐怖。絶望。士道に勇気付けられた事。まだ1年しか経っていないのに、まるで何年も昔の事に感じてしまう。

 

「ああ。懐かしいな」

 

「うん。所で最近、五河君に対して良い噂を聞かないけど・・・・」

 

「いやそのな・・・・」

 

岸和田の言葉に、士道は頬をヒクヒクさせた。高校2年生になってから、『男の敵ランキング』と『女の敵ランキング』でぶっちぎりの1位になった事を言っているのだろう。

 

「大丈夫。きっと五河君は、誰かの希望になる為に頑張っているんだなって、分かってるつもりだよ」

 

「岸和田・・・・!」

 

岸和田の言葉に、士道は思わず涙ぐんでしまう。

 

「今回のコレも、それに関係しているの?」

 

「まぁ、な。それでさ岸和田。悪いけど、アイツらの相手してくれないか?」

 

「山吹さん達を・・・・うん。任せて」

 

士道は此処にいられるとどんなドンチャン騒ぎを引き起こすか分からない亜衣麻衣美衣トリオをどうにかして欲しいと言うが、岸和田は快く引き受け、フリーズしている亜衣に話しかける。

 

「山吹さん」

 

「ウェイっ!!?」

 

フリーズしていた亜衣が起動すると、上擦った声を発した。

 

「僕、コミコって始めてだから不安なんだ。一緒に回っても良いかな?」

 

「(パァァァァ~・・・・)」

 

岸和田がそう言うと、亜衣の背中に天使の羽が生え頭に天使の輪まで現れ、そのまま天へと昇天ーーーー。

 

「「しちゃ駄目でしょ亜衣!!」」

 

しそうになるが麻衣と美衣が現世に引き戻した。

 

「はっ!」

 

「駄目、かな? 山吹さん?」

 

「イエイエイエイエイエイエイエイーエっ!! こ、こちらこそ、よろしくお願いいたしますです!」

 

「あっ、亜衣。私達ちょっと他の所回ってくるから!」

 

「マジ引くわー! 岸和田君、亜衣をよろしくー!!」

 

麻衣と美衣はそう言って2人から離れる。

 

「それじゃ山吹さん。一緒に行きましょうか。えっと、やっぱり、離れないように、手を繋いでも大丈夫、かな?//////」

 

「あっ、いえ、大丈夫です、はい・・・・//////」

 

初々しい雰囲気で、2人はその場を離れ、岸和田は士道に小さく手を振り、士道も小さく振り返した。

と、そんな士道の前を、身を屈めながらコッソリと麻衣と美衣が後をつけていた。

 

「亜衣のトロピカってる青春を私達は見守るわよ! あ、十香ちゃんまたね~」

 

「マジ引くわー。コレをオカズにご飯が進んでデリシャスマイル~だわー! 頑張ってね十香ちゃんー!」

 

「うむ!」

 

そう言って、十香は2人に向けて手を大きく振った。

 

 

 

 

ー二亜sideー

 

二亜はその様子をコッソリと見ていた。

 

「ふぅん。青春だね」

 

「本条先生」

 

「っっっっ!!!???」

 

と、ソコで、サッと顔面蒼白になった二亜のスペースに、黒の長髪に眼鏡をかけ、能面のような笑顔をし、黒スーツを着こなし、何故かバトルアックスを持った長身の男性が現れた。その人物を見て、二亜は持っていた本をポトリ、とおとした。

 

『(何でバトルアックス?)』

 

士道と精霊達が首を傾げそうなるが二亜はーーーー。

 

「ほぎゃばらめな♯△‡♪§┛/†%*:╋!!」

 

およそ女性、嫌、人間の言語とは思えない奇声を発して、その場でドテーン! と盛大に倒れた。

 

「おや大丈夫ですか本条先生?」

 

「フ、フフフフフ●マささささんんんっ!? ななななななななななな何でここにににににににににっ!?」

 

「我々編集者も、このコミックコロシアムに参加しているのですよ。中には編集者だと言う事を隠しながら参加している人もいますが」

 

テーブルに腕を乗せて、ヨロヨロと、ビクビクと、ガタガタと、まるで根源的な恐怖を目の当たりにしたように震えながら這い上がる二亜に、編集者の人がそう言うと、何やらその人と同じ服装と武器を所持した人がチラホラいた。

 

「ななななな、何故に編集者の方々がこんなにいるのでございましょうかっ!?」

 

「実は本条先生のように名を変えてコミコに参加している作家さんがいたりしますので、その作家さんが別の出版社にスカウトされたりしないようにガードしていたり、コミコに参加している人達から、素質のあるフリーの作家さんをスカウトしたりしているのです。最近ではネット小説からスカウトするやり方があるように、漫画家はこういった場所でスカウトする事もあるんですよ」

 

「な、成る程・・・・!」

 

戦々恐々としている二亜の様子に、士道達は訝しそうな顔をしていた。と、そこで、編集者の人が士道達のスペースへと移動する。二亜は編集者の見えない所で、何処からか数珠を持って手を合わせ、「南無阿弥陀仏! 悪霊退散! ナンマンダー・・・・!!」と、必死に呟いていているのは気のせいだろう。

 

「すみません。これをお1つ、いただけますか?」

 

「あ、はい」

 

士道が編集者の人に答えると、編集者の人はその場で漫画で読み始めた。

 

「・・・・あの~・・・・」

 

「失礼」

 

声をかけようとする士道に、髪を剃り上げたスーツの人がやって来て、コッソリと士道に名刺を渡そうとする。

 

「初めましてわたくし、胸◯出版の者ですが、この漫画を書いた作家さんはこちらに(シュピ・・・・)うっ・・・・!」

 

「おや、大丈夫ですか?」

 

その人が突然意識を失い倒れそうになるが、編集者の人が抱き止めた。

 

『(・・・・み、見えなかった・・・・!?)』

 

おそらく編集者の人が何かをしたようだが、あまりの速さに士道や琴里だけでなく、動体視力の優れた十香に折紙、八舞姉妹ですら追えなかった。唯一ドラゴンだけは、何とか微かに見えた程度である。

と、ソコで、別のスーツの人達が2人現れた。

 

「野郎! よくもマサを・・・・!」

 

「よせ」

 

若くガタイの良く、どちらかというとヤ◯ザの構成員のような男性が向かおうとしたが、初老の女性が静止した。

 

「見えない手刀による1撃・・・・〈1級編集者〉だ。相手の『編集力』を見誤り、迂闊に接近してしまったマサが悪い」

 

『(『編集力』って何っ!?)』

 

「あーーーーん!!」

 

士道達が驚愕するが、二亜だけは何故か泣いていた。

すると遠くで、一般参加者の人達の声が響いてくる。

 

「おい! 向こうで編集者同士のガチバトルがはじまってるぞ!」

 

「マジか!? そんな感動的な対決、見なきゃ損だ!」

 

「うあーーーーん!!」

 

二亜は号泣してしまい、しばらく動けなくなってしまった。

 




余談だが、岸和田は将来出版社で働こうと考えており、最近では『北斗編集鉄扇拳<ホクトヘンシュウテッセンケン>』と言う武術を学んでいるらしく、才能があったのかメキメキと腕をあげ、現在はフレイムドラゴン級の実力を得ているとかいないとか・・・・、
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