デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
異常な状況に士道達が唖然となり、二亜は未だに脅えている中、年齢も背格好も違う女性3人がスペースを訪れた。1人は背の高い20代後半くらいの女性。もう1人は小柄な少女。もう1人はハーフと思しき金髪の少女だった。
「何か向こうが騒がしいわね」
「編集者同士でバトルしているようですよ」
「何で編集者の人達が戦っているんですか?」
「ーーーー隊長」
その女性3人に、折紙が声をかけた。
「あ、いた。折紙! 一体何なのよ、急に呼び出したりして」
「あーーーー」
士道は思い出した。確か女性の方は、ASTの隊長の草壁燎子だ。因みに仮面ライダーウィザード<士道>が始めてASTと交戦した時に、「おばさん」と言った相手だ。他の2人も折紙の関係者のようだ。
「折紙さん! お久しぶりです!」
「あー、もしかして髪切りました? 思いきりましたねー」
「ミケ、ミルドレッド」
折紙が淡々と名を呼ぶと、ミケと呼ばれた小柄な少女が、ううっと涙を拭うような仕草を見せた。
「うう・・・・折紙さんが急にASTを辞められてから、寂しい日々が続いています。戻ってきて下さいよぉ・・・・」
「そうですよー。何で急に辞めちゃったんですかー?」
「仕方ない事。申し訳ないけれど、ASTに戻る気はない」
「そうですか・・・・残念でーーーー(ポカッ)あたっ!」
と、そこで、燎子がミケの頭を軽く小突いた。
「・・・・あんた達ねぇ、何こんな所でペラペラとASTの話してるのよ」
「あ・・・・! す、すみません、つい・・・・」
「大丈夫。この場所に置いては、そんな単語埋もれてしまう」
折紙が淡々とした調子で言うと、ミケが不思議そうな顔をして折紙を見つめた。
「・・・・っていうか折紙さん、少し雰囲気変わりました・・・・?」
すると折紙は隣にいた士道の腕に、自分の腕を絡ませた。
「彼の影響」
「んな・・・・っ!?」
「きゃー! えっ、そう言う事だったんですかー!?」
折紙の電撃発言に、ミケが愕然とし、ミルドレッドが頬を赤らめる。しかし、騒ぎだそうとした2人の頭を、燎子が両手で押さえつけた。
「ほら、騒ぐんじゃないの。ーーーー折角来たんだから買わせて貰うわ。取り敢えず3部貰える?」
「まいど」
折紙が淡々とお金を受け取り、本を手渡すと、燎子は訝しげな顔で十香達の方を眺め始めた。
「・・・・ねえ折紙。あの子達、どっかで見た事ある気がするんだけど・・・・」
「気のせい」
「そうかしら。確か・・・・」
「気のせい」
「いや、でも」
「ありがとうございました」
「・・・・・・・・・・・・」
折紙の有無を言わせぬ調子でお辞儀をすると、燎子は追及を諦めたように息を吐き、ミケとミルドレッドを連れて去っていった。去り際ミケが、「ま、負けませんよっ!」と士道を指差してきたが、士道にはどう反応すれば良いか分からなかったが。ドラゴンは『(折紙が美九と同じ趣向にならなければ一生不可能だがな)』と、ミケを煉憫の眼差しで見た。
だがーーーーサークル〈ラタトスク〉の前に並んだ列は、明らかにサクラだけではないと思えたが、中津川がそれを察して、このスペースは突如発生した『幻のサークル』であり、隣に大人気サークル〈本条堂〉の隣に居を構えているのが、来た人達に興味を抱かせたのだと説明した。
他にも、中津川関連での会話が参加者達から聞こえてくるが、取り敢えず無視する。
しかし、これで漸く勝負らしくなってきた。他の一般参加者達も、サークル〈ラタトスク〉に並んでくる。
それを見てか、琴里が川越から追加の本を受け取りながら声を上げる。
「良し・・・・一気に畳み掛けるわよ。二亜のサークルは売り子が3人、列整理が2人、在庫整理及び雑用が1人の計6人。対してこっちは、川越達を合わせて12人。1度に捌ける人数なら、此方の方が遥かに上よ!」
琴里の声に精霊達が呼応し、次々と本を売っていく。背後に積まれた段ボールが、1つ、また1つとなくなっていく。
そして、やがてサークル〈ラタトスク〉は、圧倒的な差を付けられていた〈本条堂〉と、在庫数をほぼ同じにまで減らす事に成功した。
琴里が腕くみしながら、隣のサークル視線を送る。
「ふふん、どうよ、二亜。追い付いたわよ。1度に会計できる数が限られている以上、トップスピードで勝るこちらが有利みたいね、それともこんな方法は邪道かしら?」
挑発的に唇を歪めながら言う。精霊相手にあまり刺激しない方が良いのではと思うが・・・・恐らく勝負がついてから二亜が約束を反故にさせないように釘を刺したのだろう。
だが、漸く正気に戻った二亜は、そんな琴里の挑発に対して、あっけらかんとした調子で答える。
「(あぁ怖かった)・・・・んー? いや、そんな事言わないって。良いもの描いても売れないと仕方ないからねぇ。できる事は何でもするべきだよ。・・・・ま、確かに、君達がここまでやるとは思ってなかったけどね」
二亜がパチパチと拍手をして見せる。
「でも・・・・自信満々になるのはまだ早いんじゃない?」
「・・・・何ですって?」
二亜の言葉に、琴里が眉をひそめる。
するとそれからすぐ、会場に変化が訪れた。
サークル〈ラタトスク〉の前にできていた列が、段々と少なくなっていき、対して〈本条堂〉の列は未だ通りだった。
「こ、これは・・・・どう言う事?」
狼狽する琴里に、二亜が声を発する。
「どう言う事って、ただ正しい状態に戻っただけじゃない? 可愛い売り子に大量のサクラ。そして諸々の話題性。確かに人の目を惹くには有効な手段かも知れないけど、それはあくまで一過性の物だよ。5000部って言う数字を売り抜けるような力はない。ーーーーさっきアタシは、良い本を描いても売れなきゃ仕方ないって言ったけどさ、結局参加者が欲してるのは、『面白い本』何だよね。ブランクがあるとは言え、今まで何年もの間その実績を示してきたアタシと、一体何を描いているのか分からない新人<君>達との最大の差は、ソコなんだ。そな差は、一朝一夕で埋まるようなモノじゃあないんだよ」
「く・・・・!」
コミコを甘く見るなド素人、と言われた気がしたのか、琴里が悔しげに奥歯を噛む。
だが、二亜の言う通りだ。何とか飛び道具でやって来たが、遂にサークル〈ラタトスク〉から列が消える。〈本条堂〉はまだ長蛇の列が作られている。
精霊達の間に動揺が広がり、士道は必死に考えを巡らせる。
「何か・・・・何か手はないのか・・・・! このままじゃ・・・・!」
が、手段が思い付かない、このまま負けてしまえば、二亜を攻略するチャンスが失われる。
だが、いくら焦っても、妙案が浮かぶ訳がない。通り過ぎる参加者を見つめるしかできない士道は、机にガクリと手を突いた。
と、そこで、ため息混じりにドラゴンが声を発する。
『・・・・美九よ。頼めるか?』
ドラゴンがそう呟くと、失意に沈んでいた士道の手に、ソッと美九が柔らかな手が添えた。
「え・・・・?」
顔を上げると、美九がニコリと微笑みかける。
「うふふ、諦めるなんて、だーりんらしくないですよー? まだ終わってません。寧ろ、これからです」
「美九・・・・?」
美九の言葉に、士道は頭に疑問符を浮かべる。
無責任に励ましているように見えない美九は小さく頷くと、二亜の方に視線を向けた。
「さあ二亜さん、勝負です」
そしてそう言って、ビッと二亜に指を突きつける。
その行動を見てか、二亜が不思議そうな顔を作った。
「・・・・? 何をするつもり分からないけど、流石にここから挽回するのは難しいんじゃない?」
「うふふ、それはどうでしょうねー。ーーーーねぇ二亜さん。長い間DEMに捕まっていたらしいですけど、SNSって言うのはご存知ですかー?」
「ああ、ソーシャル・ネットワーキング・サービスでしょ? 一応、知ってるよ。仮にも全知の天使の宿主だからね」
「・・・・でも私の事は知らなかったんですねー。調べるような興味もなかったですかー。そうですかー」
「・・・・いや、ゴメンって」
美九は恨み言を呟いて、二亜が手を合わせて謝罪すると、美九は気を取り直すように首を振った。
「とにかく! 今SNSは、全国民の半数以上が使用しているサービスなんです。ーーーーそして、今この会場にいる人達の年齢層だと、その割合はもっと上がるんじゃないですかねー」
「・・・・っ! 美九、あなたまさかーーーー」
琴里が何かに気づいて、ポケットからスマホを取り出して何やら画面を操作すると、数秒後にハッと息を呑んだ。
「これ見なさい」
琴里がスマホの画面を士道に向けると、近くの精霊達と覗き込んだ。
ソコに表示されていたのは、とあるSNSのページなのだが、ソコに美九が使用しているアイコンと共に、
【Miku Izayoi:お友達のサークルのお手伝いでコミコに来てまーす! 今東A-20・5サークル〈ラタトスク〉で本のお渡し会を実施中! 写真もOKですよー!】
「な・・・・!? み、美九!?」
驚愕する士道に、美九はニッと笑いながら士道の胸元をトン、と人差し指で突いてきた。
「だーりんや皆さんが必死になって頑張ってるのに、私だけ全力を出さないなんて、我慢できません。私だって七罪さんと同じです。皆さんのーーーー力になりたいです」
「美九・・・・!」
美九は一瞬目を伏せると、バッと顔を上げ、二亜の方に向き直り、挑発的に指を向ける。
「確かに正道では二亜さんに敵わないかも知れません。なら私達は、邪道に邪道を重ねて、あなたの道理をぶち破って見せます! さあ、見せてあげますよ、二亜さん。あなたが知りもしなかった女の力を。そして心に刻んであげます。この私ーーーー誘宵美九の名を!」
そして美九が、歌劇を演ずるかの如く両手を広げる。
その瞬間、まるでそれに合わせたように、ホールの入口から、まるで開場の時のように夥しい数の足音が響いてきた。
「ーーーーさあ、ショータイムです!」
美九が手を掲げ、パチンと指を鳴らすと、ホールにやって来た集団が、一斉にサークル〈ラタトスク〉の前に殺到した。
「わっ! ホントに美九たんじゃん!?」
「マジか、本物!? 何でこんなところに・・・・!」
「あ、あの、お渡し会やってるって聞いたんですけど、本当ですかね・・・・?」
オズオズと、1人の少年が問うてくる。美九は一瞬男性の姿に息を詰まらせたものの、すぐにニコリと微笑む。
「ええ、本当ですよー。皆さんいつも応援ありがとうございます」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーッ!!』
美九の言葉に、集まった参加者達が雄叫びのような叫びを上げ、次々とサークル〈ラタトスク〉に押し寄せてきた。
「・・・・! 耶倶矢、夕弦! 列の生理をお願い! 川越達は本の補充とお金を払った参加者の誘導を!」
呆気に取られていた琴里は司令に戻り、指示を飛ばしていく。
「士道、十香、折紙、四糸乃は、続けて私と料金の回収! 七罪は販売をしつつ、ドラゴンと一緒に美九が対応に疲れたら体力回復の為に抱きつかせてあげて!」
「何か私達だけ役割おかしくむぐっ!」
『勝負の為だ。捨て石になるぞ』
七罪が不平が上がりそうだったが、ドラゴンが口を塞いで黙らせ、精霊達もそれぞれの仕事をこなす。
それを見て、二亜は微かに眉根を寄せてくる。
「ふうん・・・・やるねぇ、ホントに有名人だったんだ、その子」
「・・・・ああ。凄いだろ。俺達の自慢のアイドルだ」
「まさか、今さら卑怯だなんて言わないわよね」
士道と琴里が視線を返しながら言うと、二亜は肩を竦めながら頷いた。
「勿論。ーーーーでも、今から追い付ける?」
視線を鋭くして唇の端を上げてくる二亜に、士道は力強く頷いた。
「・・・・当然だ! 追い付いて見せる。俺を支えてくれた皆の為にも! そして二亜! お前の為にもな・・・・!」
すると二亜は、本を捌きながらハッと笑う。
「そいつはどーも。でもそんな事言ってもおまけはしてあげないからねー!」
「問題ない! 勝てば良いんだからな!」
「あっははは! そうだねぇ、その通りだ! 本当に勝てるなかーーーー」
と、そこで愉快そうに笑っていた二亜が、不意に声を止めた。二亜のサークルに、昨日士道達が話を聞き、メイデンの中に閉じ込められた漫画家、高城弘貴がやって来たのだ。
「あはは、お久しぶりですな、本条先生。久々に先生がサークル出展されていると聞き及び、メイデンでの執筆が終わったので来てしまいました」
「あ、ええと・・・・そりゃ、どうも・・・・後、お勤めご苦労様でした・・・・」
途端、二亜は気まずそうな顔を作り、しどろもどろになる。
「突然すみませぬ。気分を害されたなら申し訳ない。でも1つだけ・・・・お聞かせ願えぬでしょうか」
高城が二亜の顔を眼鏡のレンズ越しに見つめると、居心地悪そうに視線を逸らす二亜。
「・・・・小生、気付かぬ内に何か粗相をしてしまったのでしょうか? もしそうならば、謝らせていただきたい」
言って、高城がペコリと頭を下げると、二亜は慌てたように目を泳がせ、
「そ、そんな事・・・・ある筈ないじゃないですか!」
声を上擦らせるように喉を震わせた。
それは、二亜お得意の軽い調子とは少し違うように思えた。
「そうなのですか?」
高城が目を丸くする。が、二亜は歯切れ悪く言葉を濁した。
それから暫く、無言の状態が続き、高城はこれ以上スペースを塞いではいられないと判断したのか、小さく息を吐くと、本を1冊買ってもう1度ペコリとお辞儀をした。
「例え嫌われていたとしても・・・・小生は、本条先生の本を楽しみにしておりますよ」
「あ・・・・」
二亜は何か言いかけたが、結局言葉を続けられず、ただ頭を下げたのみだった。
『「・・・・・・・・」』
その様子を見て、士道は高城に話を聞いた時に覚えた違和感が確信になり、ドラゴンは二亜の態度から頭に閃きが走った。
「二亜」
「・・・・! ああ、少年。みっともない処を見せたね。でも勝負はーーーー」
「お前・・・・あの人の事、“好き”なんだな」
「は!? な、何言ってんの、少年? アタシそっちの趣味はないんだけど」
目を丸くした二亜がそう言い、聞こえていた美九が「それでは私がレクチャーを(ペシッ!)はぅん♥️」と、不穏な事を口走りそうになったが、ドラゴンが黙らせる。
それを無視して士道は続ける。
「いや、そう言う意味じゃなくて。人間として・・・・って言うか、“友達”として」
そう。それが士道が覚えた違和感だ。
〈囁告篇帙<ラジエル>〉の力故に、人間に落胆し、自分を裏切らない2次元に癒しを求め、結果、漫画家になったのは事実だ。
しかし、美九のように人間に絶望した精霊と違う点が1つあった。
二亜は人間社会で身を立てていく上で、最低限のコミュ力を身に付けていた。
それが違和感の正体だ。
琴里は、二亜が天使で親しかった高城の事を調べてしまった為に、その本性を知り、疎遠になったと推測したが、士道は思った。二亜ならば、本性を知り落胆した人間を相手にしたなら、むしろドライに表面上は円滑化な人間関係を継続しているのではーーーーと。
「(・・・・チラッ)」
『(・・・・コクン)』
士道は美九に頬擦りされているドラゴンをチラリと見ると、その推察に同意するように頷かれ、1つの『可能性』を口にした。
「二亜、お前・・・・もしかして、怖かったのか?」
「は? な、何をーーーー」
「あのまま仲良くしてたら、いつか好奇心に負けて天使を使いそうだからーーーー漸く出来た友達に失望したくないから、身を引いたのか?」
士道が問うと、一瞬うっと言葉を詰まらせた二亜は、プイッと顔を背け、本を売りながら返してきた。
「はッ、少年が何言ってんのか全然分かんないねーーーーあ、500円です」
「じゃあ何だよさっきのは! お前、嫌いな人間には寧ろ普通に対応できるだろ!?ーーーーありがとうございました!」
『(何だこのトンチキな言い合いは?)』
二亜と士道が一般参加者に応対しながら視線を交じらせ、そのシュールな光景にドラゴンネスト半眼になる。
「うるさいなぁもう! 販売に集中しなよ!ーーーーあ、最後尾はあちらです!」
「悪いがそうはいかない! 俺が勝負に勝ちたいのはお前を助けたいからだ! ならこの問題を放置してちゃ意味がない!ーーーーはい、本の受け渡しはあちらです!」
「ぐぅぅぅぅぅ・・・・!」
士道の言葉に、二亜は苛立たしげに唸り、応対の手を休めず、渋面を作りながら焦れたように叫ぶ。
「そうだよ! 怖くて何が悪いんだよ! アタシだって友達欲しいっての! でもどうしようもないじゃん! 『地球の本棚』ヨロシクな能力で相手の一生をずっと覗けるような奴が、友達作れる筈ないじゃん!ーーーー1000円お預かりします!」
聞いて、士道は二亜の孤独が腑に落ちた気がする。
二亜は、自分の好奇心に負けて相手の事を調べてしまうではないかと言う不安と共に・・・・相手の事を好き勝手に覗く事ができてしまう自分にもまた、負い目を感じていたのだ。
神にも等しい超越的な天使を持ってしまったが故の苦悩。対等な者が存在しない為の孤独。それは、まさに精霊の力を持たぬ者には理解出来ないものだ。
しかしーーーー士道は構わず声をあげた。
「そんなの、やってみなきゃわからねぇじゃねぇか!」
「はッ! 綺麗事だね! じゃあ逆に聞くけど、少年。君は四六時中、それこそトイレやお風呂まで自分の事を好き勝手に覗ける人間と、自分の知られたくない過去を勝手に漁れる人間と、心の底から仲良くなれるって言うのかい!?」
二亜が悲痛な叫び声を上げる。が、士道は一瞬キョトンとした後、
「はは・・・・はははははははははははははははははははっ!」
「な、何が可笑しいのさ!」
大きな笑い声を上げる士道に、二亜は困惑したように返してくる。士道は細く息を吐くと、荒々しく髪をかき上げてみせる。
「ーーーー悪いが、“そう言う手合”には死ぬ程慣れててね! ああ・・・・今漸く分かったよ。俺とお前は相性ピッタリだ! プライバシー!? 何それ美味しいの!? 寧ろそれを気に病んでくれるお前が天使に見える!」
『(まぁ確かに、プライバシー覗きまくって黒歴史を根掘り葉掘りする義妹や、盗聴機に隠しカメラを設置しているストーカーもいるくらいだからな)』
「(うぐっ・・・・煩いわね!)」
「(何の事か分からない)」
「は、はぁっ!?」
義妹は渋面を作り、ストーカーはとぼける。が、二亜は士道の言っている事が分からず眉をひそめた。
そんな顔を横目で見ながら士道はさらに喉を震わせる。
「覗きたいなら好きなだけ覗け! 漁りたいなら好きなだけ漁れ! 俺はそれでも! お前を嫌ったりしない!ーーーー俺がお前の! 『最後の希望』になるっ!!」
「・・・・・・・・ッ!」
士道の叫びに、二亜は息を詰まらせる。しかしその後、悔しげに歯噛みしながら返してくる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 何勝手な事言ってんの!? 君の事くまなく覗いたら、アタシが君を嫌いになると思うんだけど!?」
言葉の応酬をしている間にも、怒涛の如く時は過ぎ、次々と本が売れていきそしてーーーー。
「「ありがとうございましたぁッ!」」
最後の本を売り切った2人の声が、全くの同時に会場に響き渡った。
「・・・・!」
「・・・・っ!?」
はぁ、はぁと息を切らしながら、お互いに視線を寄越した。
双方、真冬だと言うのに頬を上気し、額に玉のような汗が浮かんだ。二亜に至ってはうっすらと眼鏡が曇っている。
と、2人が呼吸を整えていると、双方のサークルから、同時に声が響いてきた。
「〈ラタトスク〉、完売です!」
「〈本条堂〉、完売です!」
隣り合ったサークルの本は、全くの同時に売り切れた。
その宣言と共に、まだ並んでいた参加者達が残念そうに声を上げるが、抗議も不満も言わず、その場から去っていった。
参加者達が去っていってから、士道と二亜は、同時に大きく息を吐き、ガシャンと音を鳴らしパイプ椅子に座り込んだ。
「・・・・さて、どうやら引き分けみたいだけど」
琴里が少し表情を険しくしながら、二亜の方を向く。
「・・・・・・・・」
するとそれから数秒後、椅子の背もたれに身体を預かるような格好で天を仰いでいた二亜が、眼鏡を外し、服の袖で汗を拭った。
そして士道をギロリと睨み付けてから、机の下を探り、先程交換した士道達の同人誌を手に取って見せる。
「・・・・いいよ。〈仮面ライダーウィザード〉の活躍も見たいし、ここまで来たご褒美だ。ーーーー読もうじゃないの」
『・・・・!』
二亜の言葉に、士道達〈ラタトスク〉は顔を見合せ、歓声をあげた。
『ふぅ~・・・・(さて、まだまだ終わりではない。これからが本番だな・・・・)』
ただ、ドラゴンだけは一瞬だけ安堵の息を吐いてから、気を引き締めた。
そう、これからなのだ。もう1度、二亜攻略のチャンスを掴むのは。