デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「星宮六喰・・・・それが君の名前?」
「左様」
言いながら、少女ーーーー六喰が頷く。
「それで、うぬはなんと言うのじゃ。人に名を尋ねて己は名乗らぬとは、無礼ではないかの」
「ああ、すまん。俺はーーーー」
と、士道が答えようとすると、インカムから選択肢の音声が流れた。
≪「・・・・・・・・・・・・・・・・」≫
その音を聞いて、士道とドラゴンは半眼で黙った。
「うん? どうしたのじゃ」
「いや、ちょっと待ってくれ、さっきまでの防御の疲労が来ちまった・・・・」
と、言い訳する士道に、六喰は小さく首を傾げた。
《ーーーー士道、選択肢よ》
≪「・・・・・・・・・・・・・・・・」≫
〈フラクシナス〉の選択肢が出た時点でのこの士道とドラゴンの反応から、2人の〈フラクシナス〉への信用度がどれだけ低いのかが窺える。
そしてドラゴンが琴里との経路<パス>を通して、選択肢の内容を士道に伝える。
①【俺は五河士道。俺と、友達になろう】
②【俺は五河士道。俺の、恋人になってくれ】
③【俺は五河士道。お前のご主人様になる男だ。俺の肉奴隷になれ。俺なしじゃ生きられない身体にしてやるよ】
明らかに③の選択肢がおかしい事に、毎度のように思うが、何でこんなリスキーな選択肢を出してくるのだろうかと、士道もドラゴンも呆れ果てる。
が、
《ーーーー士道、③よ》
「いや何でだよっっ!!!???」
士道が盛大にツッコミを炸裂させた。
《何よ士道。いきなり大声なんか出して》
「何よじゃねえっ! 何で③なんだよ!? 他のマトモな選択肢で良いだろう!? 何で毎度毎度リスキーな選択肢を選ぶんだよっ!?」
《興奮しないでちょうだい。ドラゴンが身体を操作してくれるなら、多少の危険はどうにかできるわ。ここは敢えて強めの言葉で相手の反応を見てみたいのよ。ほら、早く。六喰が待ってるわよ》
「うぐ・・・・」
確かに、これ以上六喰を放置する訳にもいかない。腑に落ちないが、躊躇いがちに口を動かした。
「俺は五河士道。・・・・お前の、ご主人様になる男だ! お、俺の肉奴隷になれ! 俺なしじゃ生きられない身体にしてやるよ・・・・!」
「ふむん。五河、士道か」
士道の言葉を聞いた六喰は、そう言って顎に手を当て、それ以外は、特に何も反応を起こさなかった。
『スルー!?』
≪・・・・・・・・・・・・≫
士道と琴里、クルー達の声が重なる。皆この選択肢に好反応を示してくれるだなんて欠片も思っていなかったが、完全な無反応は流石に予想外だった。
ただ1人、ドラゴンは彼女の様子をジッと観察していたが。
《精神状態と好感度の推移は!?》
《ど、どちらも全く変わっていません!》
《平坦過ぎて不安になる位です!》
《平坦って・・・・あんなに凹凸に富んでいるグラマーボディなのに!?》
《箕輪さん! それセクハラですよ!》
《トランジスタグラマーなんて邪道です! 司令のようなロリ体型こそ至高にして正道(ドゴッ!) おほぉぉっ!!》
神無月が何か言いそうになるが、琴里はシャイニングウィザードで黙らせた。
《・・・・どういう事? まさか聞こえてなかったとでも言うの? でも士道の名前は認識してるみたいだし・・・・》
琴里が訝しげに言うと、それに合わせるように、六喰が言葉を継いできた。
「質問を戻すが、うぬの目的は何じゃ。何をしにここへやって来たのじゃ」
「え? あ、ああ・・・・」
士道が答えようとすると、六喰は手にしていた錫杖を突き立てると、地球に錫杖を向ける。
「むくは偽りが好かぬ。これよりむくに空言を吐く度、星に礫を落とす」
「な・・・・!?」
士道は息を詰まらせた。礫・・・・とは、恐らく校庭に落ちたあの隕石の事だろう。
「よいな?」
六喰が、返事を求めるように言ってくる。それを聞いてか、琴里が小さく息を吐いた。
《・・・・本気ね。良いわ、士道。正直に話してあげましょう。こう言う手合いは、煙に巻こうとすると痛い目を見るわ》
「ああ・・・・分かった」
士道は六喰と琴里、2人に返事をするように、頷いた。
「俺はーーーー君みたいな精霊を助ける為に活動をしてるんだ」
そして、士道は話し出した。自分の目的。〈ラタトスク〉と、それに敵対するDEMと言う組織の事。そしてーーーー自分に備わった能力の事を。
「・・・・ふむん」
全てを聞き終えた六喰は、小さくそう呟くと、表情を変えぬまま士道の方に顔を向けてきた。
長い髪の合間からチラと覗いた金色の目に見つけられ、思わず息を呑む。
「空言ではなさそうじゃの。ほうほう。暫く見ぬ内に星は斯様な事になっていおったか」
「ああ・・・・だから、六喰。地上に降りてきて、お前の霊力を、俺に封印させてくれないか? 俺がお前のーーーー『最後の希望』に」
「断る」
六喰は、少しの逡巡を見せる事なく、そう返してきた。
とは言え、予想していなかった事ではない。今までもこう言う事はあった。微かに眉根を寄せながら、言葉を続ける。
「ぐ・・・・た、確かに、急に現れてこんな事を言う俺をすぐに信じろって方が無理なのかも知れない。でも、本当なんだ。俺はお前をーーーー」
「別に、疑って等おらぬ」
「え・・・・?」
意外な返答に、士道は思わず目を見開いた。
「うぬの言う事は、きっと本当なのだろうよ。うぬの言葉には、純粋な善意が窺える」
「じ、じゃあ、何で」
士道が問うと、六喰は変わらぬ調子で返してきた。
「うぬは考えは理解した。だが、むくにはその施しを受ける必要がない、と言っておるのじゃ。むくはここで漂っていられればそれで善い」
「で、でも、それじゃあまた魔獣ファントムやDEMが攻撃して来るかも知れないんだぞ!?」
「ふぁんとむ。でー、いー、えむ」
六喰は拙い発音で士道の言葉を復唱すると頷いた。
「ああ。先程屠った鉄屑と化生か。あのような者、いくら来ようともむくの敵ではない」
「違うんだ。魔獣ファントムは精霊の能力が通じないし、DEMには、さっき現れたような奴等とは比べ物になら無い力を持った魔術師<ウィザード>だっている。このままじゃ六喰が危ないんだ!」
しかし、士道が必死に訴えかけるも、六喰は表情1つ変えない。
「同じ事よ。むくの天使に勝てる者等存在せぬ。ーーーーもし仮にいたとして、〈封解主<ミカエル>〉で『孔』を開けて逃げれば済む話じゃ。別に彼の星に未練がある訳でもなし。〈封解主<ミカエル>〉の気の向くまま、銀河を泳ぐのも楽しいじゃろうて。それとも、うぬの言う、ふぁんとむに、でー、いー、えむには、光年の先までむくを追ってくる怪物がいると申すか?」
「それは・・・・」
言葉を詰まらせる士道。六喰にそんな事が可能ならば、それを捕らえる事は困難なのではないかと思ってしまう。
しかし、だからと言って引き下がる訳にはいかない。魔獣ファントムのワイズマン、メデューサとグレムリン。DEMにはヘルキューレ<エレン>やヘルキューレⅡ<アルテミシア>、それに〈神蝕篇帙<ベルゼバブ>〉を得て、まだ実力の全てを見せていないソーサラー<ウェスコット>がいるのだ。何をしてくるか分からない。
それにーーーー士道が六喰を地上に呼びたい理由はそれだけではない。小さく首を振ってから続ける。
「でも、地上には楽しい事が沢山あるんだ。お前と同じ精霊達だって沢山いる。こんな所にいたら、寂しいだろう・・・・?」
「寂しい。・・・・ふむん」
士道が言うと、六喰は小さく首を傾げた。
「心配痛み入るが、問題はない。むくは“寂しさと言うモノを感じぬのじゃ”」
≪(“寂しさを感じない”? ーーーーまさか)≫
ドラゴンは六喰の言葉から推測を並べるが、士道は六喰を説得する。
「そんか、強がらなくても、皆と一緒にいた方がーーーー」
「違う。そう言った意味ではない。もっと正確に言うのなら、『孤独』のみではなく、『痛痒』も、『悲哀』も、『憤激』も、或いは『興奮』も、『歓喜』も、『享楽』もーーーー『愛』も、感じぬのじゃ。心に、『鍵』を掛けておるのでな」
「え・・・・?」
六喰の言葉に、士道は眉をひそめた。
「か、鍵?」
「左様。むくの〈封解主<ミカエル>〉でな」
言いながら、手にした鍵のような錫杖の天使を示した。
『物に鍵を描掛け、その物の動きを封じる』のが〈封解主<ミカエル>〉の能力の1つ。もしかしたら、その天使の力が、目に見えないモノにさえ及ぶとしたら。
ーーーー六喰の言うように、感情を生み出すと言う心の機能に『鍵』を掛けてしまう事も可能なのかも知れない。
「な、何で・・・・そんな事を。『寂しさ』や『悲しさ』だけじゃなく、『楽しさ』まで何て!」
「さて・・・・何故だったのかのう。必要が無かった・・・・いや、違うな。それを持つ事こそが不幸であると、嘗てのむくが思ったからではないかの。今のむくには、もう良く分からぬがな」
≪・・・・・・・・・・・・≫
「でも、六喰はこうやって俺と話して・・・・」
「言葉を交わす機能くらいは残しておるよ。物言わぬ屍と成り果てる事を望んだ訳ではない。あくまでも、むくは己が身に何も起こらぬ事を望んだだけなのじゃ。だからこそ、誰の手も届かぬ宙<ここ>にいた。そして、怒り狂い、恋い焦がれ・・・・等と言った、今のこの状況を崩してしまう感情を、封じただけなのじゃ。ーーーー星に礫を降らせた事も、別に憎しみからの事ではない。ただ、この領域を侵す者に、警告をしただけじゃ」
≪・・・・・・・・・・・・≫
表情を変えぬまま、六喰が言う。ドラゴンは目を細めて、六喰を見据える。
が、まるで世捨て人ーーーー否、仙人か何かのようなその無味な六喰の貌に、士道はグッと拳を握り締めた。
「そんな・・・・そんなの、悲し過ぎるじゃないか。頼む。地球に降りてきてくれ。俺はお前に、幸せになって欲しいんだ・・・・!」
「・・・・・・・・」
士道が叫ぶと、六喰は暫しの間無言で士道の顔を見てきた。そしてそれから、ゆっくりと唇を開く。
「ーーーーのう、士道。うぬは何か、勘違いをしておるのではないかの」
「勘・・・・違い?」
「左様。ーーーーむくの幸福を、うぬが勝手に決めるでない」
「・・・・・・・・っ!」
士道は思わず息を詰まらせた。
六喰はそのまま、声を荒げず、煽らず、ただただ静かに続ける。
「確かにうぬに救われた精霊もいるのしゃろうよ。むくはそれを否定しようとは思わぬ。じゃが、むくはむくじゃ。なぜ今の状況に満足しているむくに、余計な手を差し伸べようとするのじゃ?」
「え・・・・?」
予想外の言葉に、士道は情けない声を漏らしながら目を見開いた。
六喰は構わず、言葉を継いでくる。
「大人しく聞いておれば、希望になるだの、救うだの幸せだのと・・・・お節介も甚だしいわ。それはうぬのエゴを押し付けているだけではないか? うぬの達成感と自己満足の為に、むくを利用するでない」
「そ、そんな、事は・・・・」
≪おい、何を言い淀んでいる? 散々我が言ってきた事だろうが≫
震える声になる士道に、ドラゴンが言う。
確かに、今までドラゴンに言われた事だ。それを振り切って今まで攻略をしてきた。六喰は言い方は異なるが、ドラゴンの言っていた事と同じである筈だ。
しかし・・・・士道は否定する言葉が継げなかった。
すると六喰が、何かに気付いたように士道の顔を覗き込んでくる。
「いや・・・・そもそも本当にそれはうぬの意志なのか? “なぜそうまでして、精霊の力を束ねようとするのじゃ”。何かは分からぬが・・・・どうも“臭い”のう。一体うぬは・・・・いや、うぬらの後ろにいる者は、何を考えておるのじゃ」
「それは・・・・どういうーーーー」
後ろにいる者。その言葉に、士道は眉根を寄せた。
それは、士道をバックアップしてくれる〈ラタトスク〉と言う事なのだろうか。それともーーーー。
士道がそんな考えを巡らせていると、六喰が『ソレに』続けてきた。
『ふぁんとむ、でー、いー、えむ、とやらも星におるのじゃろう。仮にむくの力を封印したとして、むくは本当に、ここにいるよりも安全に暮らせるのか? 今までうぬが救ったと言う精霊達は、敵に1度も襲われなかったのか?』
「・・・・! そ、れは・・・・」
六喰の言葉に、士道は声を掠れさせ、今までの戦いが、脳裏に過ぎる。
・・・・嗚呼、そうだ。士道は確かに、精霊達の能力を封印してきた。
それが精霊達の為になると信じていたし、実際、精霊達もソレを喜んでくれた。
だがーーーーそれによって彼女達にもたらされた危機も、少なからず存在していたのである。
六喰が、そんな士道の葛藤を見透かしたように、六喰が静かに言葉を発する。
「簡単に言ってやろう、士道。ーーーーうぬの偽善に巻き込まれるのは迷惑じゃ。2度とむくの前に現れるでない」
「・・・・・・・・ッ!」
ーーーー頭を、ドラゴンのド突きよりも強烈に殴られたかのような衝撃。
否・・・・本当に殴られただけならばどんなに良かった事か。六喰の言葉は、震動のように素早く、毒のように全身を冒していった。
《・・・・士道。顔を上げなさい。あなたのしてきた事は決して間違い何かじゃないわ》
耳に琴里のーーーー初めて士道が封印した精霊の声が聞こえてくる。
だが、士道はそれに返す事ができなかった。
頭では、琴里の言う事が理解出来ている。しかしーーーー。
「ーーーー話は終いじゃ」
士道の思考を遮るようにして、六喰が言葉を発してくる。
「むくが望むのは平穏のみじゃ。今のこの現状が続く事のみじゃ。もし性懲りもなく誰がむくの前に現れたならばーーーーそうさな」
そう言うと六喰は、手にした錫杖を地球に向けて見せた。
そして、抑揚の無い声で、続ける。
「この星の巡りを、〈封解主<ミカエル>〉で止めてくれよう」
「な・・・・!?」
≪っ・・・・!≫
ーーーーその、あまりにも致命的な言葉を。
《まさか、そんな事が・・・・!》
琴里やクルー達の狼狽が、鼓膜を震わせる。
「うぬらの敵にもそう伝えよ。ーーーーでは然らばじゃ、士道。もう会う事も無いじゃろう」
六喰は錫杖で士道の身体の胸元を、チョン、と軽く押すと、茫然自失となった士道は地球の重力に引っ張られ、大気圏に落下する。
≪おいこのグズ! カス! トンマ! ノロマ! タコメンチ! ボケなすび! フグちょうちん! 何を呆けておるのだ! さっさと体勢を整えろ!!≫
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ドラゴンの罵倒にも何の反応も示さず、落下する士道の身体が、少しずつ摩擦熱で赤くなり始める。
≪ええいっ!!≫
ドラゴンが士道の身体を操作すると、マスクが展開され、ウィザード<士道>の全身を魔力で丸型の結界で包み込むと、摩擦熱が消え、そのまま大気圏を抜けると、天宮市からざっと数キロ離れた街の上空へと到達した。
≪ふん!≫
[チョーイイネ! グラビティ! サイコー!!]
グラビティで空中を浮かぶと、インカムから令音の声が響いてくる。
《・・・・ドラゴン。そのまま北東に飛んでくれ、天宮市はその先だ》
「≪ーーーーああ≫」
士道の口からドラゴンの声が響くと、ドラゴンはウィザード<士道>の身体を操作して、飛んでいく。
その最中、士道は仮面を解除し、インカムを取り外す。
「俺、は・・・・」
士道は拳を握り締め、喉から絞り出すように声を溢す。
「(ーーーー六喰の言葉に返す事が、できなかった)」
精霊を救う。無論それははじめ、〈ラタトスク〉からの要請された事だ。
しかし、精霊達と触れ合う中で、士道自身も、彼女達を助けたいと願うようになっていった。
≪(嵌まったな、『落とし穴』に・・・・)≫
宇宙に上がる前に予期していた嫌な予感が実現し、ドラゴンは「本当にこのド愚物は・・・・」と、呆れ果てる。
「なぁ・・・・ドラゴン・・・・」
≪ん≫
「俺が・・・・俺達が何もしなければ、十香達は危険な目に合わずに済んだんじゃないのか?」
≪ドアホが。二亜の時の事を忘れたのか? 貴様が封印して、〈ラタトスク〉が保護しなければどうなっていたと思う? 全員もれなくDEMに捕まって、二亜がされたような、おぞましい拷問の数々を受けておった筈だ≫
士道の脳裏に、血達磨になった二亜の姿が浮かんだ。その二亜の姿が、十香達の姿に変わる事を考えると、背筋が凍る。あんな事になるなんて想像もしたくない。
だが・・・・もしかしたら。
天宮市にたどり着き、〈ラタトスク〉の建物の屋上に到着しそうになった瞬間、士道が声を発する。
「もしかしたら・・・・俺が干渉して失われてしまった、十香達の別の未来も、あったんじゃないか・・・・?」
『・・・・・・・・・・・・は?』
それを聞いた瞬間、ドラゴンは即座に、いきなり、変身を強制解除した。
「うわっ!?」
空中で突然変身も魔法も止められ、士道は屋上への着地に失敗し、ゴロゴロと屋上の床を転がり、フェンスにぶつかった。
「ーーーーかはっ! な、何すんだよドラうわっ!?」
ヨロヨロと起き上がる士道が文句を言いそうになるが、ドラゴンは構わず士道の身体を操作して、『アバターウィザードリング』を士道の指に嵌めて、読み込ませた。
[アバター プリーズ]
すると、魔法陣から士道のアバター・・・・ではなく、ドラゴンのアバター(サイズはいつもの小型)が現れると、今度は『ドラゴライズウィザードリング』に変えて読み込ませた。
[ドラゴライズ! プリーズ]
士道の身体からドラゴンの思念体が飛び出すと、ドラゴンはアバターの中に入り込んだ。
『ーーーーふむ・・・・仮初めの肉体だが、悪くない。我の『本体』は貴様の中に置き、『意識』と『力の大半』をこの『アバター』で作った仮初めの『肉体』に移す方法、うまくいったな』
「ド、ドラゴン・・・・お前(パシンッ)っ!」
アバターで肉体(仮)を作って、思念体を入れると言うやり方をしたドラゴンに面食らった士道が話しかけようとすると、ドラゴンは士道の頬に、尻尾ではなく、前足でビンタした。
何故だろうかーーーーいつものド突きよりも、このビンタの方が脳や身体に響くほどの衝撃があるのは。
士道がそう考えると、ドラゴンは士道の首に尻尾を巻き付け自分の眼前まで引き寄せると、目を鋭くして士道を睨み、静かに怒気を孕んだ声を発した。
『貴様。我が散々言ってきた台詞を精霊に言われたからと言って、何だその無様は? やる気あるのか?』
「っ・・・・・・・・・・・・」
『しかも何ださっきの台詞は? 【俺が干渉して失われてしまった、十香達の別の未来も、あったんじゃないか・・・・?】、だと? くだらん仮定の話を持ち出しおって』
ドラゴンの言葉に、士道は顔を俯かせる。
「ーーーーでも、六喰の言う通り、俺達が干渉しなければ、十香達にも別の可能性があったかも知れないだろうっ!?」
『そんな『たられば』等と存在しないモノにすがるような情けない考えに浸っていたのか? 今この時、この瞬間にあるモノが『現実』なのだ。あの娘の事もそうだ。大体会って30分も経っていない小娘の言葉に、何を今さら躊躇する?』
ドラゴンがそう言うが、士道は弱々しく呟く。
「で、でも、六喰は、今の自分の状況に満足しているって、余計な手を伸ばすなって言うんだ・・・・」
『ーーーー貴様、あの娘の言葉を聞いて、“何か感じなかったのか”?』
「感じたよ! 六喰にとって俺のやろうとしている事は、余計なお節介だって、偽善だって・・・・!!」
士道がそう叫ぶと、ドラゴンの目に、どんどん怒気が、否、感情が薄れていくように光が無くなる。
『貴様。もう1度彼女と向き合おうと思わんのか?』
「俺は、六喰と向き合うのが、恐い・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・・あ?』
「六喰の言う事も一理あると思うんだ。俺達が何もしなければ、六喰は何もしないんじゃないか・・・・え?」
士道が顔を上げて、唖然となる。何故ならーーーー。
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
ドラゴンの自分を見る目に、殺気も怒気も冷徹さも、何も無い。完全なる虚無的な瞳だった。ドラゴンは、何の感情も入っていない声を吐き出した。
『ーーーー貴様には、ほとほと愛想が尽きたわ』
「・・・・えっ?」
『貴様、この1年近くの間、何をしてきた? 何を見てきた? 何を学んできた? 結局貴様は何1つ成長していない。力は手にいれても、頭の中はお子ちゃまのままだな?』
「な、何だとっ!?」
『貴様のような、“いつまで経っても、どれだけ学んでも、何も成長しないヤツ”、敢えて言うならーーーー『クズ』だな。『クズ』にこれ以上無駄に時間をかけるつもりはない』
「うわっ!」
ドラゴンはそう言うと、士道をゴミでも捨てるように放り投げると背を向けて、その場から去ろうとする。
「お、おいドラ(バシンッ)いって!」
手を伸ばして止めようとするが、尻尾でその手を叩かれ、痛みで呻く士道。だが、ドラゴンはそんな士道に一瞥もくれずーーーー。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
無言のまま、士道の元から去っていった。
「な、何だよ・・・・! 何だってンだよーーーーっ!?」
士道は、去っていくドラゴンの背中に向けて、叫び声を上げる事しかできなかった。
ー???sideー
そして、士道のいるビルから少し離れた位置にあるビルの屋上にて、“空から降りてきた2人の男性”が、士道の様子を見ていた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
士道より少し歳上の緋色の瞳の少年は、士道の様子を見て呆れたように大きくため息を吐いて肩を落とし、もう1人の大学生位の青年は、士道の様子を見ると、渋面を作って、拳をきつく握り締めた。
『ーーーーーーーー』
「「(・・・・コクン)」」
と、その時、青年の手にあった“デバイス”から声が響き、青年と少年は頷くと、その場から離れ、“ある場所”へと向かっていった。
書いていて、本当に士道って成長していない、と思います。