デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
ドラゴンから絶縁宣言をされ、トボトボと足取り重く司令室に戻ると、琴里やクルー達が若干驚いたように目を見開いた。その理由は分かっている。今の士道の顔がほんの数十分前とはうって変わって、酷い顔をしているからだろう。士道自身も自覚する程だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
見かねた琴里が司令席から立つと士道の頭に、ストン、とチョップを落とした。
「あたっ!?」
思わず素っ頓狂な声を発し、頭を押さえながらやれやれだぜ、といった顔になっている琴里の方を向く。
「ちょっと言い負かされた位で、何いっちょ前に思い悩んでるのよ? そんな顔をしてたら、またドラゴンにシバかれるわよ?」
「ーーーー安心しろよ。たった今、絶縁宣言されてきた所だ・・・・」
「・・・・あ、そう」
琴里も一瞬目を見開くが、今の士道の情けない貌を見れば、あの士道にはトコトンまで厳しいドラゴンならそうするだろうなぁと思ったのだろう。
そして士道の手を引っ張り、司令席の近くまで連れていくと、自分は席に腰掛け直してから、言葉を出す。
「六喰の言う事も分からないではないわ。でも、だからと言ってはいそうですかと従う訳にはいかないわ。ーーーー確かに精霊は救うべき者。でも忘れないで、精霊は、巨大な1個の『災害』でもあるの。地球の真上にあんな危険な力を持った存在を放置しておける訳無いじゃない」
確かに、その通りだが、士道は眉根を寄せた。
「でも・・・・俺達がまたちょっかいを掛けたら攻撃するって言ってたじゃないか」
士道が言うと、琴里は咥えたチュッパチャプスの棒をピンと立てながら返してきた。
「もし仮にそれが本当だったとして、よ。六喰は言ってたわよね。【ファントムやDEMにも伝えろ】って。・・・・彼女にとって人間は十把一絡げなのよ。もし私達が彼女に手を出さなかったとして、ワイズマン達やDEMはどうかしら?」
「うぐ・・・・」
渋面を作る士道。確かにその通りだ。士道達が、『あの精霊は危険だから接触するのは止めろ』、と言った所で、聞く耳を持つような連中ではない。否、それ処か、〈ラタトスク〉が介入しないのを良い事に、攻撃を仕掛けてくるに違いない。
士道の思考を察している琴里が、チュッパチャプスの棒を向けてくる。
「ーーーーファントム達やDEMが六喰の存在を知っている限り、必ずまた刺客を送り込むわ。そしてそれが成功すれば六喰は討たれて、その絶望のエネルギーから生まれた『魔獣ファントム』をワイズマンが、霊結晶<セフィラ>をウェスコットの物になりーーーーもし失敗すれば、六喰の報復によって地球の機能が『閉じ』られる。・・・・それが具体的にどんな事態を引き起こすのか分からないけど、今の人類が体験した事のない規模の天変地異が起こる事は間違いないでしょうね」
「・・・・っ、それは・・・・」
「結局、私達にできる事は1つ。ーーーー奴等が六喰を再攻撃する前に、六喰を封印する。それだけよ」
「・・・・・・・・・・・・」
琴里にジッと見つめながら言われ、士道は頭をクシャクシャとかいてから、細く息を吐き出した後、唇をうごかす。
「・・・・ああ、そうだな。その通りだ。悪い。少し、参ってた」
「良いわよ。士道の気持ちも、分からなくはないから」
琴里が、ふっと士道から視線を切る。
何故か、言葉にされた訳ではないが。ーーーー琴里もまた、士道と似たような葛藤を抱えていると、士道は何となく察してしまった。
琴里が語った理由は、全て最もな事である。確かにファントムやDEMがいる以上、六喰を放置しておく訳にはいかない。
しかしその理由はーーーー六喰が発した言葉に返せる者では無かった。
「(・・・・もしも、ファントムやDEMと言う敵が存在しなかったら。もしも、六喰の身に危機が迫る可能性が低かったら。琴里は一体、どうしたのかな?)」
またもや『たられば』の思考に浸る士道。そんな愚兄の思案を察したように、琴里は視線を寄越さず続ける。
「・・・・覚えておいて。あなたの『希望』になってくれたお陰で救われた精霊は、少なくともここにちゃんといるんだって」
「・・・・・・・・ああ、ありがとう。琴里」
その言葉に、士道は葛藤を飲み込むように答えた。
そう。今はーーーー立ち止まっている場合ではない。
士道達が動かねば、世界に甚大な被害がもたらされるやも知れないのだ。
「そうだな。やるしか・・・・ないよな」
「ええ。・・・・そうよ」
するとそこで、令音が難しげにフウムと唸ってきた。
「その意気やよし。だが、そう簡単にはいかせてくれないようだ」
「令音・・・・? どういう事?」
「・・・・これを見てくれ」
令音に視線をやった琴里にそう行って、令音がモニタに表のようなものーーーー六喰の好感度や精神状態の推移を表したモノを表示させる。
そこに記されていたのは、全く数値が変化しておらず、並行な線が描かれているのみだった。
「・・・・シンが六喰と会話している間、ずっとモニタリングを続けていたのだが、感情値、及び好感度には一切の変化が見られなかった。ーーーー『心を閉じた』と言うのは冗談でも、慣用句的表現でもないようだ」
「な・・・・」
琴里が愕然と、目を見開くが、それも当然だ。
精神の力を封印する為には、精霊が士道に対して心を開いていなければ、精霊とキスして封印する事ができないのだ。
あれだけ士道と会話を交わしていながら、士道に対する好感度は、ゼロなのだ。今まで精霊に嫌われる事はあっても、直接の会話で微塵も心が揺れない精霊は初めてだ。
無論、このままでは六喰の霊力を封印する事などできはしない。
「・・・・六喰の持つ鍵の天使〈封解主<ミカエル>〉。その力は、『鍵を閉めた対象の力を封印』してしまう。それを自らの心に使ったとしたらーーーー彼女の心は、外部から掛けられるどんな言葉にも、さざ波1つ立てないと言う事になってしまう」
「そんな・・・・一体、どうすればーーーー」
と。
士道が情けなく表情を困惑に染めながら言いかけた処で、司令室の扉の方から、何やらミシミシと言う苧とが聞こえてきた。
「・・・・? 何の音ーーーー」
琴里が不審そうに言って扉の方を向いた次の瞬間。
ーーーーパシュンッ、ズザザザザザザザザッ。
扉が開き、別室で待機していた筈の精霊達が、司令室に雪崩れ込んできた。
「うがっ!」
「きゃ・・・・っ」
「圧迫。重いです耶倶矢。ダイエットした方がよいのでは?」
「何で全部私の重量扱いなの!?」
「む? 何やら二亜から良い香りがするぞ?」
「蒸かしたジャガイモの香り」
「いやー、ちょっと仕事でコロッケ工場に連れてかれてさ~」
どうやら皆で聞き耳を立てていたようだ。折り重なるように倒れ込んだ皆が、ヨロヨロと身を起こす。その姿を見て、士道は思わず声をあげた。
「! お、お前ら・・・・何やってるんだ、そんな所で!」
「むう・・・・すまぬ。盗み聞きするつもりてば無かったのだが」
十香が申し訳なさそうに肩をすぼめる。と、その肩を美九がガッと支えた。
「十香さんは悪くありませんよー! ハニーがいきなりやって来て、七罪さんの頭の上に乗って、不機嫌そうにふて寝したから、【あぁまただーりんがハニーを怒らせんたんだろうなぁ】、って皆で様子を見に行こうとしたら、だーりんが酷い顔で司令室に入るのを見て、心配になったからですー!」
どうやら精霊達の間では、士道とドラゴンが喧嘩が起こった時は、十中八九士道が原因と言う認識のようだ。
そして美九の言葉に、精霊達が同意するように頷く。それと、七罪のモフモフヘアの上では、ドラゴンが身体を丸めて寝ており、琴里が大きなため息を吐いた。
「あなた達ねえ・・・・」
困ったような顔を作りながら、琴里が頭をポリポリとかく。するとその目を真っ直ぐ見据えながら、折紙が唇を動かす。
「途中からだけど、話は聞かせて貰った。ーーーー私達にも出来る事はある筈」
「それは・・・・」
折紙に自分達の有用性を説かれて反論しづらいのか、琴里がムウと口ごもる。琴里としては、できる限り精霊達を危険に晒したくないのだが。
≪ーーーーだからそう言う考えは、攻略が上手く行っているヤツが言うモノだ≫
「っ!?」
突然のドラゴンの念話が聞こえ、七罪の頭の上で寝ているドラゴンに目を向けるが、相変わらず背を向けて寝ていた。
そして琴里の心中を察してか、精霊達が次々と声を上げる。
「このままじゃ地球ヤバいんでしょ? だったら渋ってる場合じゃないんじゃない? アタシも楽しみにしてる漫画の続き読めなくなるのは勘弁だし」
「六喰さんも、この世界の良い所を知れば、壊そうなんて思わない筈です・・・・! お願いします、私達にも、手伝わせて下さい・・・・!」
「皆・・・・」
琴里は皆の意気に圧されるように軽く身を反らしながら、令音の方をチラと見た。
「・・・・・・・・・・・・」
するとその視線に気づいた令音が、仕方ない、と言うように、小さく頷くと、琴里が諦めたようにハアと息を吐いた。
「・・・・はぁ。分かったわ。あなた達もここにいてちょうだい」
琴里の言葉に、精霊達がパアッと顔を明るくした。
が、琴里が忠告をするように強い口調で続けた。
「でも、今回の精霊は力押しで何となるような相手じゃないわ。好感度を上げないと霊力が封印できないのに、そもそもそれ自体が封じられているようなモノだもの」
「質問。六喰の閉じられた心を、再度開ける方法と言うのは、存在するのでしょうか」
夕弦が令音の方を向きながら問う。皆の視線が、それに倣うように令音に向けられた。
「・・・・断言できないが、方法があるとすれば、1つだろう」
「! 方法があるのか!?」
十香が目を丸くしながら言い、他の精霊達も、それに合わせるように前のめりになった。
「・・・・期待させて悪いが」
令音が、前置きをしてから言葉を続ける。
「・・・・天使によって閉じ込められた心は、天使によって開くしかない。鍵の天使〈封解主<ミカエル>〉を、もう1度六喰に使うしかないだろう」
「それは・・・・」
士道は喉を鳴らすようにして唸り声を上げた。
確かに令音の言う通り。天使とは『形を持った奇跡』。それが起こした現象を覆すには、天使の力を用いるしかない。
しかし、当然であるが、文字通り鍵となる〈封解主<ミカエル>〉は、六喰本人の手に握られているのである。そしてーーーー六喰の心は閉ざされており、こちらの声は届かないときたものだ。
例えるならば、鍵を中に置いたまま、宝箱の錠を閉めてしまったようなものである。
すると耶倶矢が、フフンと得意気に胸を反らして見せた。
「ふん、天使ならばここに幾らでも揃っているだろう。我が無理矢理にでもこじ開けてくれようぞ」
言って、槍を捩り込むような動作をしてみせる。しかし、それに対するように夕弦が難しげな顔を作った。
「疑問。仮にそれが可能だとして、そもそも六喰は宇宙にいるという話です。どうやってソコまで行くのでしょうか」
「うぐ。それは・・・・」
「・・・・インフィニティになれば、そんなの」
耶倶矢が口ごもるのに合わせて、士道は『インフィニティウィザードリング』をバックルに翳した。がーーーー。
[エラー]
「ん?」
[エラー] [エラー] [エラー] [エラー] [エラー]
『エラー』と音声が流れるだけで、〈インフィニティスタイル〉になれなかった。
「イ、インフィニティにーーーーなれない!?」
『・・・・・・・・・・・・はぁ』
狼狽する士道だが、精霊達もクルー達は、予感していたのか、盛大なため息を吐いた。
そして二亜が口を開く。
「多分、漫画やアニメに良くあるパターンで、ドラくんと不仲になったから、最強モードになれなくなったんじゃない?」
「そ、そんな・・・・」
士道が愕然となる。インフィニティになれないのであれば、六喰に心を開く開けないを話し合うのは滑稽と言うモノだ。先ずは彼女と元へ行く手段を見つけなければならない。
ーーーーが、その横で。
「宇宙・・・・宇宙、ね」
琴里は、口に咥えたチュッパチャプスの棒を小刻みに上下させると、ニッと唇の端を歪めた。
「ーーーーグッドタイミングよ。何とかなるかも知れないわ」
「え・・・・?」
自信ありげな琴里の言葉に、士道は首を傾げた。
ーエレンsideー
「ーーーー全滅?」
エレンはDEMインダストリー日本支社の通信室で。数時間前衛生軌道上へと飛び立った艦の末路の報告を受けたエレンは、訝しげな声を返した。
薄暗い空間の中に幾つものモニタの明かりが灯り、辺りをボンヤリと照らしている。エレンはその一角に腰掛け、【SOUND ONLY】と表示された黒い画面を睨み付け、その画面から音声のみが響いた。
《は・・・・空中艦3隻、〈アンノウン〉85体、〈バンダースナッチ〉90機、悉く・・・・対して精霊は、傷1つ負っていません。加え、報復とばかりに地上に攻撃を・・・・!》
通信機を通して、微かに震えた部下の声が聞こえてくる。
するとそれに応じるように、
「ーーーー素晴らしい」
後方から、ソラ<グレムリン>を伴ったウェスコットの声が響いた。
「あれぇ、Mr.ウェスコット。あんな戦力で精霊をどうにかできると思った?」
「無論、先遣隊で倒せるなどとは思ってはいないよ。しかしまさかこごまでの力を持つ精霊だったとはね。ふふ・・・・実に素晴らしい」
ウェスコットとグレムリンが、楽しげに会話をするのをエレンはチラリと一瞥してからフムと考えを巡らせた。
「(確かに先遣隊はあくまで新たに発見された精霊の能力を調査し、あわよくば追い立て地上に逃亡させるのが目的でした。しかしーーーー作戦は失敗。それどころか破壊したDEM艦の残骸を、まるで隕石の如く地球の各所に投擲と言うオマケ付き。DEMの艦と分かれば、また各国への対応をしなければならないですね。・・・・全く面倒です)」
エレンは不愉快そうにフンと鼻から息を吐いて。こんな事ならば勿体ぶらずに、最初からヘルキューレ<エレン>が出るべきであったかも知れない。
「ーーーー精霊はまだ当該地点にいるのですか?」
《は、はい。対象は未だに衛生軌道上に留まったまま・・・・恐らく、地上への攻撃準備をしているものと思われます》
「ふむ・・・・」
エレンはもう1度唸るように言うと、顔をあげ、ウェスコットの方を見た。
「ーーーーアイク」
すると、エレンの意図を察したらしいウェスコットが、大仰に頷いてくる。
「ああ。これ以上DEMの施設に穴を開けられるのも困りモノだ。君とアルテミシアで対応してくれ。Mr.ソラ。ファントム側はどうだい?」
「んー、前に捕らえた魔獣の躾が忙しいからねぇ。メデューサと僕は行けないから、3体ほど送るよ」
「それは助かる。ではエレンーーーー戦果を期待しているよ」
「は。必ず」
エレンは短く答えると、敬礼をして通信室を出ていった。
ーウェスコットsideー
ーーーーエレンが通信室から去った後。
「ねえねえMr.ウェスコット?」
「おや、何かなMr.ソラ」
グレムリンが、いたずらっ子のような笑みを浮かべながら話しかけ、ウェスコットもにこやかに応える。
「良いのかなぁ? エレンちゃんを宇宙に上げちゃって、さっき魔術師<ウィザード>のお姉さんに聞いてみたんだけど、“この後君が行く所の事”を教えなくて? 後で怒られちゃうかもよ?」
グレムリンがカラカラ笑いながら言うと、ウェスコットはフッと息を吐きながら肩を竦めた。
「ああーーーーそうだろうね。でも、だからこそ、それで良いんだ」
ウェスコットは右手を掲げると、そこに〈神蝕篇秩<ベルゼバブ>〉が出現した。
そしてそこに記された文字ーーーー新たな精霊の居場所と並列に探っていた、“とある情報”に視線を落とす。
「エレンを連れていきたいのは山々だが、久方ぶりの再会が血生臭くなってしまうのは避けたいだろう?」
ウェスコットは、薄い唇を笑みの形にしながら、そう言った。
「ふふふ、向こうにはきっと士道くん達もいるよ? 派手な再会になっちゃうだろうね♪」
「くくく、それはそれでーーーー良い余興になるだろう」
グレムリンとウェスコットは、小さく笑いながらそう言った。
ー士道sideー
ーーーーそして今士道達は、巨大な輸送ヘリの中にいた。
士道の他に精霊や〈フラクシナス〉のクルー達が、向かい合う形でヘリの中の長椅子に腰掛け、低い駆動音と断続的な震動が鼓膜と身体を震わせる。
「・・・・なあ、琴里。結局俺達、どこに向かってるんだ?」
隣に腰掛けた琴里に声をかけた。半ば問答無用で輸送ヘリに乗せられてから数時間。満足な説明もされていないのだ。正直何処に連れて行かれるのか、不安になったのだろう。十香と耶倶矢など、初めて乗る大きなヘリを楽しんでいる者もいるが。
ドラゴンがいれば、『一々狼狽えるな』と、尻尾ド突きをおみまいするだろうが、相変わらず士道に背を向けて七罪の頭の上で寝ていた。
そんな士道の懸念を察している琴里が、小さく息を吐いてチュッパチャプスの棒を小刻みに上下させる。
「悪いけれど、詳しい場所は言えないの。別に皆を疑ってる訳じゃないんだけれど、いまから向かう場所は、まさに〈ラタトスク〉の技術の中枢とも言える場所だから」
「・・・・、そこに行けば、六喰のいる場所まで行く方法があるんだよな?」
「(無事に方法を見つけて、六喰の所に行ったとしても、今の士道じゃ・・・・)・・・・ええ。もうそろそろ着く頃だと思うけどーーーー」
内心、士道に対して懸念を抱いている琴里が、そう言いかけた所で、機内のスピーカーから音声が流れてきた。
《ーーーー司令、目的地に到着します。準備をして下さい》
「あら。私の体内時計も捨てたものじゃないわね」
琴里が冗談めかした調子で言うと、クルー達に指示を発した。
そして数分後、ズン・・・・と軽い衝撃の後、機体から発されていた震動と駆動音が消え、次いでガコッと言う音が響いたかと思うと、機体後部のハッチが開かれた。
「お疲れ様です。ーーーーこちらへどうぞ」
作業員らしき男が、皆を外に促してくる。士道達は一瞬目を見合わせた後、先んじて歩き出した琴里の後を追って、ヘリの外へと出ると、士道は周囲を見回し微かに眉をひそめる。
「ここは・・・・」
ソコは高い壁に四方を覆われた広い空間だった。上方に目を向けると、空が見えない。ドームかと思ったが、壁際には機体の整備に使うような様々な樹木が置かれており、作業服姿の機関員達が、各々の仕事に従事していており、ドームと言うよりも。
「格納庫・・・・?」
「ま、そんなところ。ーーーーこっちよ。ついてきて」
琴里はそう言うと、カツカツと靴音を響かせながら歩き、〈フラクシナス〉のクルー達がその後を順についていく。ーーーー何となく、昔テレビドラマで見た、病院院長の総回診シーンみたいだった。
「シドー、私達も行こう」
「ああ・・・・そうだな」
十香に言われ、辺りをキョロキョロと見回しながら歩く精霊達と共に、士道も琴里についていく。
格納庫を出ると、長い廊下を歩き、厳重なセキュリティの施された扉を数枚くぐった後、またも格納庫の入り口を思わせる大きな扉の前に辿り着いた。
「ここよ」
琴里は皆の方を一瞥しながらそう言うと、扉の横に設えられた装置に手の平を当てると、小さな電子音が鳴り、その巨大な扉が左右に開きーーーーその中にあった“物”が士道達の目に飛び込んできた。
「・・・・! これは・・・・!」
予想通りの広い格納庫にあった『ソレ』を見て、思わず目を見開いた。
士道の後ろにいる精霊達も、同様に驚愕の声をあげた。
「おお・・・・!」
「かか、成る程な。確かにこれであれば、何処へなりと赴けるだろうて」
「ほぁー、すっご。何これ。ねえ妹ちゃん。資料用に写真撮って良い? 写真」
「駄目に決まってるでしょ。最高機密よ」
興奮してスマホを構えようとする二亜の手を、琴里が半眼で返す。
とは言え、彼女達の反応も分からないではない。士道も、『ソレ』を初めて見たら、同じ行動をしていた。
ゴクリと息を呑んで、改めて『ソレ』を見上げた。
そこにあったのはーーーー巨大な1隻の『艦』であった。
白と瑠璃色で構成された先鋭的な艦体。その直中に抱かれた砲身。そして、まるで大樹の枝のように広がった艦体後部と、そこに輝く幾つもの金属製の『葉』。
『戦艦』とは根本的に設計思想が異なるフォルム。大海をではなく天空を駆けるその姿はーーーー。
「〈フラクシナス〉・・・・」
士道は、微かに震える声でその艦の名前を呼んだ。
2ヶ月前、反転した折紙によって損傷して以来、改修されていたその艦が、完璧な姿でそこに鎮座していた。
だが、
「形が・・・・少し違う」
そう、目の前にある〈フラクシナス〉は、士道の知る〈フラクシナス〉と、少し形状が異なっていた。
ソレを聞き、前方の琴里がフフンと鼻を鳴らす。
「良く気付いたわね。ーーーーそう。これは今までの〈フラクシナス〉じゃないわ。〈ラタトスク〉最新鋭の顕現装置<リアライザ>を搭載し、あらゆる性能をグレードアップした改良型ーーーーその名も、〈フラクシナスEX<エクス・ケルシオル>〉!」
琴里が高らかに叫ぶと、背後にいた神無月とその両脇にいた他のクルー達がソレに合わせるように、両手足を広げ、アルファベットの『X』のようなポーズを取る。1人ポーズを取らず残った令音は、ポケットから取り出した紙吹雪を無表情で舞い散らせた。
ードラゴンsideー
『(『艦』が新しくなってもーーーー乗る人間達がアレではなぁ・・・・)』
七罪の頭の上で横になっていたドラゴンが、新しい〈フラクシナス〉を見た後、クルー達を見て、冷ややかな感想を述べた。