デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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その手を握る為に

ー折紙sideー

 

折紙がグールと交戦している最中、少し離れたデパートの壁を破壊して、火達磨になったアンノウン<ヘルハウンド>が、バイクに乗って飛び出してきた。

 

「っ!?」

 

と、その時、折紙はヘルハウンドの方を凝視しようとしたが、地上にいたグールが槍を投げつけてきて、回避した。

再びヘルハウンドの方を見ると、爆発していた。

少し気にはなったが、グール殲滅に戻った。

 

『グワァッ!?』

 

それから少し時間が経ち、最後のグールを倒した折紙の鼓膜に、燎子の通信が聞こえてくる。

 

《AST各員に通達。精霊に動きがあったわ。アンノウンとの連戦で疲れているだろうけど、精霊の反応が確認でき次第攻撃を再開》

 

「・・・・了解」

 

折紙は静かに返すと、グールとの交戦で少し弾薬が減った対精霊ガトリング〈オールディスト〉を持った両手を構え直した。

随意領域<テリトリー>によって研ぎ澄まされた超視力と超聴覚を活用し、ビルから現れるであろう〈ハーミット〉が出ても良いように構える。

その瞬間、ゴッ、と言う音と共に、ビルの窓が吹き飛び、ガラスの欠片が飛び散ると同時に、網膜に直接表示投影された精霊反応が点灯した。

 

《ーーー撃てッ!》

 

隊長である燎子の号令が響くと同時で、折紙達が一斉にトリガーを引いた。

けたたましい音を立てながら、幾百もの弾丸を〈ハーミット〉に放ち、さらに小型ミサイルポッドからホーミング弾を射出し、全ての弾幕が〈ハーミット〉に着弾したーーーーーー。

しかし、〈ハーミット〉に傷一つ、つける事ができず、精霊の身体と巨大な人形が、空間に溶け消えていった。

 

《消失<ロスト>・・・・した?》

 

誰かが呟いた言葉が、AST隊員全員の耳に届いた。

精霊が『隣界』と呼ばれる異空間に帰った事を、消失<ロスト>と呼ばれる。

オーバーテクノロジーであるCR-ユニットを有するASTでも、強大な力を持つ精霊を完全に倒すことは非常に困難であり、通常はこの消失<ロスト>を作戦終了に設定していた。

と、そこで雲の切れ間から日の光が差し込んでくる。随意領域<テリトリー>を叩いていた雨も、ぴたりと止んだ。

 

《総員、帰投するわよ》

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は燎子の声に銃口を下げ、臨戦態勢を解除した。だが、燎子の背を追って帰投する際ーーー

 

「・・・・?」

 

随意領域<テリトリー>で強化された視界に、気になるものを発見し、一時的に高度を下げた。

 

 

ー士道sideー

 

「おーい、十香ぁ~・・・・」

 

〈ハーミット〉が『隣界』に消失してからおよそ五時間。

〈フラクシナス〉で治療を受けた十香(頭に小さなコブができた)は、戻ってきてからずっと部屋に籠ってしまった。

士道はコンコンと部屋の扉をノックするが、まるで反応してくれなかった。

 

「十香・・・・頼むよ、話を聞いてくれ・・・・」

 

もう一度扉を叩くが、すると、ドンッ! と凄まじい音がして、家全体がビリビリと震えた。

 

「・・・・っ!」

 

≪・・・・うるさくて眠れん≫

 

突然の事で、士道は思わず肩をビクッと揺らした。

 

『・・・・構うな。・・・・少し1人にさせろばーかばーか』

 

扉の向こうから、くぐもった声が響き、それきりまた反応がなくなった。

 

「はぁ・・・・どうしろってんだよもう・・・・」

 

≪いい加減にしておけ。〈プリンセス〉も色々と混乱しているのだ。お前がイチャイチャしていた小娘が自分と同じ精霊で、自分と同じ境遇の存在だった。お前とイチャコラしていた怒りと、自分と同じ精霊が存在している事への戸惑いで、頭の中がゴチャゴチャになっているのだろう。今は自分なりに頭の中を整理しようとしているのだろう。お前ができる事はない≫

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

だからと言って放っておく事ができない士道は途方に暮れていたが。

 

《士道。ちょっといい? 確認しておきたい事があるのだけど》

 

右耳に付けっぱなしのインカムから、琴理の声が聴こえた。

 

「あ・・・・? 何だよ、こっちは今それどころじゃーーー」

 

≪黙って聞いておけ≫

 

「(何だよドラゴンまで・・・・)」

 

《士道、あなた、ちゃんと〈ハーミット〉とキスしたのよね?》

 

「・・・・っ、はぁっ? いきなり何を・・・・」

 

《いいから、答えてちょうだい。士道はあの時、〈ハーミット〉と唇を合わせた。それに間違いはないわね?》

 

「・・・・あ、ああ・・・・」

 

《ふむ・・・・》

 

「(なんなんだドラゴン?)」

 

≪気づかんのかこのカビだらけ脳ミソが。キスしたと言うのになぜ“〈ハーミット〉は天使を顕現できた?”≫

 

「(えっ・・・・?)」

 

≪ここまで言ってもまだ気づかんか、この下等生物。“精霊の力が封印されていない”とい言う事だ≫

 

「あっ!」

 

士道は、言われてようやく理解した。確かに〈ハーミット〉は力を振るっていた。

 

「琴理、これってどういう事だ??」

 

《さぁね。十香ほど好感度が上がっていた訳でもないからかも知れないけど、少しも封印できていないというのはちょっと引っ掛かるわね》

 

言って、琴理はまたもむむうとうなる。

 

《やっぱりコミュニケーションを取っていたのが〈ハーミット〉本人ではなく、パペットだったから、封印ができなかったのか・・・・》

 

「な、なあ、琴理。あの子の方も大変だと思うんだが・・・・その」

 

《ーーーああ、十香の事ね。どうなの様子は》

 

「どうもこうも・・・・さっきから呼びかけてはいるんだが、全然駄目だ」

 

《なるほど。まあ数値を見るに、不機嫌って訳では無いわね。自分以外の精霊がいた事に戸惑っているのでしょ。十香なりに気持ちと考えを整理しようとしているのだから、下手に貴方が言っても逆効果になりかねないわ。士道はいない方がいいわね》

 

「いや、でも・・・・」

 

《・・・・シン。もしよろしければなんだが、その件は私に任せてくれないか?》

 

インカムから妙に眠たげな声が聞こえた。令音だ。

 

「え・・・・?」

 

《・・・・さすがに今は混乱しているのだろう。確か明日は土曜だったね。日中、私に十香を預けてくれないか? そうだな・・・・名目は生活用品の買い出しとでもしておいてくれ》

 

「それは構いませんけど、なんでまた」

 

士道が言うと、令音は数瞬の間黙ってからため息をこぼした。

 

《・・・・こういうのは、当事者<シン>がいない方がいいのさ。女心の機微だ。覚えておきたまえ》

 

「は、はあ・・・・」

 

ドラゴンだけでなく琴理や令音からも、『いない方がいい扱い』されて、憮然となりながら頬をかく士道。

 

≪それにお前自身も気持ちの整理とかをしておけ≫

 

「(えっ・・・・?)」

 

≪まだ精霊をデートしてデレさせる事に躊躇しているのだろう?≫

 

「っ・・・・」

 

≪中途半端な気持ちで世界の命運を左右するかもしれん事態に首を突っ込むな馬鹿者めが・・・・!≫

 

「・・・・・・・・琴理。少し外に出てる」

 

《何ですって?》

 

「これからの事を、少し自分なりに整理したいんだよ」

 

《・・・・分かったわ》

 

士道はインカムを外すと家を出て、『マシンウィンガー』で外を走り、今の自分の気持ちを誰かに聞いてほしくて、バイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

「とにかく俺、自信が無いんだよ・・・・!だって、下手すれば世界の存亡に関わる事態なんだぜ! 俺には、荷が重すぎるよ・・・・!」

 

士道は、輪島が経営する、骨董品店『面影堂』に赴いていた。

士道はここに来て、夕飯を済ませると、輪島のおっちゃんに今まで貯めていた気持ちを吐露した。

輪島は嫌な顔一つせず、真剣に士道の話を聞いていてくれた。

 

「・・・・確かにな。たった16~17歳の高校生に、世界最大にして最悪の厄災、『空間震』を何とかしろだなんて、あまりにも酷な話だな」

 

琴理達にリングの事を説明する際、輪島にも事情を聞かせていたので、輪島も空間震や精霊の事や、それを止められるのは士道だけとの事は聞いていた。

 

「きついよ・・・・俺、ファントムとの戦いだけでも、きついのに・・・・さらに精霊達とデートしてデレさせるだなんて、あまりにも突拍子無さすぎだよ・・・・!」

 

頭を抱える士道に、輪島をまっすぐに向き合いながら、口を開いて優しい声で言葉を発する。

 

「・・・・・・・・士道。お前が不安を感じるのも、自信が無いって言うのも分かる。正直、俺がお前の立場だったら逃げ出したくなる。精霊とか世界とか、あまりにも大きなモノを背負う事になったんだからな。・・・・でもお前は、“逃げたりしないだろう”?」

 

「えっ・・・・?」

 

「お前は、精霊と呼ばれる子達を見捨てる事はしないだろう。お前の大嫌いな“絶望”に染まった子達をさ」

 

「・・・・・・・・」

 

「覚えているか士道? お前がベルトとリングを持って、この店に来た日の事を・・・・?」

 

「・・・・・・うん」

 

あの日、儀式<サバト>の日から始まった、魔法使い<ウィザード>としての戦い。

ただ絶望に染まりそうになる『ゲート』である人達を守りたいと思い、ずっと戦ってきた。

その思いに嘘偽りは無い。だからこそ、どんなにファントム達に傷つけられても諦めずに戦ってこられた。

 

「士道。精霊も、『ゲート』の人達と同じように、絶望に苦しんでいるのかもしれない。だがな、その子達の苦しむ声に耳を傾け、助けを求めて伸ばされた手を掴んであげられるのは、お前だけなんだぞ」

 

「(・・・・・・・・俺だけが、十香やあの子の手を握ってあげられる)」

 

十香は言っていた。『よしのん』は言っていた。今まで自分達は、自分達を殺そうとするASTだけしか知らずにいた。

訳も分からず自分は殺されそうになった。世界に否定されていた。

そんな彼女達を、助けられるのが自分だけしかいない。

 

「・・・・ありがとうおっちゃん。少し楽になったよ」

 

士道は少し気が楽になったような笑みを浮かべる。

 

「ああ。それじゃこれも持っていけ」

 

輪島は懐から、2つのウィザードリングを士道に渡した。

 

「おっちゃん。このリングは・・・・」

 

「このリングが、きっとお前の行く道を照らしてくれる。もう1つのリングは、お前の力にきっとなってくれる。だから士道、負けるなよ」

 

「・・・・ああ!」

 

士道はそう言って、面影堂を出ていった。輪島はその背中をじっと見つめる。

 

「・・・・やっぱり似ているな、“アイツ”に。“竜雄”と“遥子ちゃん”も、そう思っているのかもな・・・・」

 

 

 

 

「・・・・と、言うわけで、十香。買い物に行こうと思うのだが、ご同行願えるかな?」

 

翌日の5月13日の土曜日。午後10時。

いつもの白衣や軍服ではなく、胸元に傷だらけのクマのぬいぐるみが覗いたカットソーと暗色のボトムス。そして鞄を肩がけにしたお買い物スタイルの令音が、五河家を訪れ、十香の部屋の扉の前で言った。

 

『令音か? すまんが今は放っておいてくれ・・・・』

 

昨日よりも気持ちが落ちついてはいるが、弱々しい語気の十香に士道はため息を吐いたが、令音は鞄から小さなパソコンのような端末を取り出すと片手で操作し始める。令音は画面を眺めてから端末をしまい、扉の向かって一歩踏み込んだ。

 

「・・・・十香」

 

『放っておいてくれと言っているだろう・・・・! まだ私はーーー』

 

「買い物ついでに外で食事でもと思っているのだが、どうかな?」

 

令音が言うと、十香が黙り込み、そして数十秒後。

部屋の扉が開かれ、中から不機嫌そうな顔をし、昨日から着替えてないのか、身に纏った制服は、まだしっとりと濡れており、あまり寝ていないのか目には令音のような隈を浮かばせた十香が出てきた。

 

「な・・・・っ」

 

≪解析官の女と並ぶと姉妹に見えるな・・・・≫

 

冷静なドラゴンと違って、士道は驚愕に目を見開いた。

 

「れ、令音さん・・・・? 一体何をしたんですか・・・・?」

 

「・・・・何も。十香の空腹値が上昇していたからね。そろそろ限界とは思っていたんだ」

 

≪なるほど。それで出てきたのかこの腹ペコ精霊≫

 

「それって、昨日の夕飯も食べてなかったんですか?」

 

昨夜士道は輪島の所で夕飯を済ませ、琴理達は出前を頼んだと帰宅後に聞いていたが、どうやら十香は食べていなかったらしい。

 

「・・・・フム、どうやら昨日は食事も喉を通らなかったようだね」

 

「っ!?」

 

≪あの〈プリンセス〉が飯を喰わんとは、相当堪えたようだな・・・・≫

 

あの大飯喰らいの十香が食事を抜く事に、士道とドラゴンは驚愕した。

ようやく出てきた十香は、士道の顔を見るなり、ぷいっと顔を背け、のしのしと歩いて行った。

 

「早く行くぞ」

 

「・・・・ん、そうしよう。今日も朝から雨が降っている。傘を忘れないようにしてくれ」

 

令音は士道に、「任せてくれ」とでも言うように目配せをしてきた気がした。

 

「・・・・お、お願いしまーす」

 

≪何がお願いします、だ。この脳足りん≫

 

「うるせっ!・・・・はぁ、学校も休みだし、俺も買い物に行くか・・・・」

 

士道は手早く着替えて、ウィザードリングのチェーンをベルトに付け、まだ寝ている琴理を置いて、傘を持って家に鍵をかけて買い物に出掛けた。

 

 

 

 

そしてどれくらい歩いたか、商店街に向かう途中。

 

≪っ! おい小僧、〈ハーミット〉の気配だ≫

 

「えっ!?」

 

士道が〈ハーミット〉の気配を関知したドラゴンにナビゲーションしてもらいながらその場所に向かうと、見覚えのあるウサギの耳を付けた緑色のフードの後ろ姿を発見した。

昨日の空間震によって破壊され、立ち入り禁止になったエリアの向こうに、精霊・〈ハーミット〉の姿があった。

士道は塀に身を隠すと、〈ハーミット〉の様子をじっと見つめた。

 

「警報は・・・・鳴ってねぇよな?」

 

≪うむ。おそらく〈プリンセス〉と同じく、空間震を起こさず、隣界とこちらの世界を往き来しているのだろう。とりあえずだ。一応お前の妹に連絡しておけ≫

 

士道もドラゴンに同意し、携帯で琴理に連絡した。しばらく呼び出し音が続くと、明らかに今起きたような感をした眠たげな声の琴理の声が聞こえた。

しかし士道は〈ハーミット〉を見つけたと言うと、すぐさま電話口の向こうから、パチン! パチン! と、頬を思い切りひっぱたくかのような音が聞こえた。

そしてすぐに、凛とした声が響いた。

 

《詳しく状況を聞かせてちょうだい》

 

「お、おう」

 

≪寝ぼけ眼を覚ましたようだな≫

 

士道は今の状況を簡単に説明した。

 

《・・・・なるほど。また静粛現界か、厄介ね。ーーーそれで、まだ士道の存在は精霊に気づかれていないのね?》

 

「ああ・・・・多分な。どうすればいい?」

 

《インカムは持ってる?》

 

「え? ああ、一応」

 

琴理にインカムを付けて、〈ハーミット〉を見失わないように待機するよう言われるて、電話を一方的に切られると、5分と経たず支度を整え、〈フラクシナス〉に移動した琴理から連絡が入り、〈ハーミット〉に声をかけようとしたら、琴理から、〈ハーミット〉を刺激しないよう3パターンの選択肢が出たらしい。

そして待つこと2分ーーーーーー。

 

「士道、声をかける前に全裸になりなさい」

 

【こちらが丸腰である事を示すため、全裸になって声をかける】を選択したらしい。

 

「ごめんだよ!」

 

≪前から思っていたが、馬鹿なのかお前の妹は?≫

 

ただでさえ臆病そうな〈ハーミット〉に、いきなり全裸で話しかけたら間違い無く怯えだろうが! と、士道とドラゴンは同時に思った。

 

「・・・・っ!?」

 

「・・・・! やべっ」

 

士道の叫びが聞こえたようで、〈ハーミット〉が、ハッとした様子で振り向くと、顔を蒼白にして歯をカチカチ鳴らし、全身を小刻みに震わせ始める。

 

「・・・・ひっ、ぃ・・・・っ」

 

そして、今にも泣き出してしまいそうな顔を作ると、右手をバッと高く掲げる。

 

≪おい! 〈氷結傀儡<ザドキエル>〉を呼ぶつもりだぞ!≫

 

「ちょ・・・・っ、待て! 落ち着け!」

 

《士道! 今から間に合うとしたらーーー腹を見せて転がりなさい!》

 

もう1つの選択肢【声をかけると同時に仰向けに転がって腹を見せ、敵意が無いことをアピール】を選択した。ちなみにもう1つは【すぐさまギュッとハグして、こちらの愛を伝える】だった。

 

「は、はぁ・・・・っ!?」

 

《早く!》

 

「(あぁクソッ!)」

 

士道はやぶれかぶれで、傘をその場ぬ投げ捨てると、雨に濡れた道の上に、ごろーん、と寝転がった。

 

「参った! 降参!」

 

「・・・・っ!?」

 

瞬間、手を下ろしかけていた〈ハーミット〉が、呆気にとられたような顔となり、恐る恐るといった調子で右手を元の位置に戻し、士道の様子を窺い始めた。

 

「・・・・せ、成功・・・・したのか?」

 

《ーーー多分ね。刺激しないよう話しかけなさい》

 

「よ、よう・・・・昨日ぶり・・・・」

 

≪無様極まり無い様だな≫

 

「(うるせぇよっ!)」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道は寝転がったまま首だけをゆっくり起こして声をかけるも、〈ハーミット〉は警戒するように睨んでくるだけだった。

 

「き、今日はどうしたんだ・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「す、すごい雨だよな・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

しかし、〈ハーミット〉は言葉を返してこようとはしない。

 

「(・・・・どうしたもんかね、ドラゴン?)」

 

≪・・・・妙だな≫

 

「(ん? 妙って?)」

 

≪〈ハーミット〉の左手、『よしのん』と名乗っていたパペットを着けていなかったぞ≫

 

「えっ!?」

 

士道が一瞬驚いて〈ハーミット〉の左手を見ようとしたら、琴理が静止し、〈フラクシナス〉に表示された選択肢を指示した。

 

①【ねばり強く話しかけながら歩み寄り、距離を詰めていく。】

 

②【一旦態勢を立て直すため、退却する。】

 

③【パペットを着けていない事を訊いてみる。】

 

《士道、③よ。パペットを無くしてしまって、探しているのかもしれないわ。とにかく何か反応が欲しいところだし、パペットの事を訊いてみなさい》

 

「・・・・了解」

 

士道は小さく首肯すると、唇を開いた。

 

「なあ・・・・お前、もしかして、『よしのん』を探してたりする・・・・のか?」

 

「・・・・!」

 

士道が行ったとたん、〈ハーミット〉が目をカッと見開いて、士道の元にバタバタと走り寄ってきたかと思うと、士道の頭をガッと掴み、問い詰めるように揺さぶってくる。

 

「・・・・っ! ・・・・っ!」

 

「あッ、あてててててててて・・・・っ! ちょっ、止めろって」

 

言うと、〈ハーミット〉がハッとしたように士道の頭から手を離した。

士道は身を起こして、もう一度問いかける。

 

「やっぱり・・・・『よしのん』を探しているのか?」

 

「・・・・っ! ・・・・っ!」

 

〈ハーミット〉が何度も力強く頷き、不安そうな瞳で士道を見つめる。

 

≪どうやら、お前がパペットの所在を知っているか問いかけているようだな≫

 

「(なるほど・・・・)すまん。俺も『よしのん』がどこにいるのか知らないんだ・・・・」

 

「っ!・・・・ぅえ・・・・っ、ぇ・・・・っ」

 

士道がそう言うと、〈ハーミット〉はこの世の終わりを告げられたような顔となり、その場にへたり込むと、顔をうつむかせ、嗚咽を漏らし始める。

 

≪小僧。とりあえず一緒にパペットを探してやれ≫

 

《士道、彼女と一緒にパペットを探してあげなさい》

 

ドラゴンと琴理の声が同時に聞こえ、士道は〈ハーミット〉に話しかける。

 

「あ、あのだな・・・・」

 

「・・・・っ!」

 

≪っ、避けろ!≫

 

「のわっ!?」

 

〈ハーミット〉がまたもビクッと身体を震わせて、バッと手を振りかぶると、辺りなできた水たまりが隆起し、弾丸のようになり士道の座っている地点のすぐ近くに炸裂するが。士道は後方に跳んで隆起した水を回避し、濡れた地面に片膝を付いたポーズになる。

こういう時ほど本当に魔獣ファントムの戦闘経験が役に立つと思った。

 

「す、すまんッ! 脅かすつもりは無いんだ!」

 

士道は無抵抗を示すように両手を上げながら、言葉を続けた。

 

「その・・・・も、もしよかったら・・・・俺も、『よしのん』を探すのを手伝おうか?」

 

「・・・・!」

 

士道が言うと、〈ハーミット〉は驚いたように目を見開き、数秒後、初めて顔を明るくし、ウンウンと力強く首を縦に振った。

ようやく士道は、濡れた地面から立ち上がる。

 

「ええと・・・・それで、なんだけど。『よしのん』は、いつどこで無くしたんだ?」

 

〈ハーミット〉は逡巡するように視線を泳がせながら、桜色の唇を開いた。

 

「・・・・き、のう・・・・」

 

ウサギの耳付きのフードをきゅっと握って顔をうつむけ、目元を隠すようにしながらたどたどしく言う。

 

「こわい・・・・人たち、攻撃・・・・され・・・・気づいたら・・・・、ぃなく、なっ・・・・」

 

「ええと・・・・? 昨日、ASTに襲われたのか?」

 

≪あの後でか・・・・≫

 

〈ハーミット〉が首肯するのを見て、士道とドラゴンもようやく察した。

それに合わせるように、琴理の声が響いた。

 

《ーーーこっちからもカメラをあるだけ送るわ。できるだけ彼女とコミュニケーションを取りながら捜索してちょうだい》

 

士道は了解を示すようにインカムを小突くと、再び〈ハーミット〉に目をやった。

 

「よし・・・・じゃあ、探すか・・・・えっと・・・・」

 

「・・・・!」

 

〈ハーミット〉はしばし口をモゴモゴさせてから、声を発した。

 

「わ、たし・・・・は、」

 

「ん?」

 

「私・・・・は・・・・『四糸乃』。『よしのん』は・・・・私の、友だち・・・・」

 

「『四糸乃』・・・・? それが君の名前なんだな?」

 

士道が問い返すように名を呼ぶと、〈ハーミット〉ーーー『四糸乃』が走って行こうとする。

 

「あ・・・・ちょっと!」

 

と、その声に驚いたのだろうか、またも『四糸乃』は肩を震わせると、その瞬間ーーー『四糸乃』の周囲の雨が突然、針のようになって士道の方に飛んできた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」

 

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