デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第十五章が始まります。


六喰ファミリー
再び対面・六喰


ー士道sideー

 

宇宙空間で〈ゾディアック〉こと星宮六喰と対峙する士道。

 

「ーーーー六喰」

 

「ーーーーーーーーふむん」

 

静かに名を呼ぶ士道。小さく息を吐きながら喉を鳴らす六喰。

 

「うぬもしつこいのう。それに、覚えも悪いと見える」

 

「ああ。諦めと物分かりの悪さには定評があるんでね」

 

士道がニッと唇の端を上げながら言うと、六喰はもう1度息を吐いた。

が、『感情』を自分の天使、〈封解主<ミカエル>〉で『封印』した六喰には、好意も悪意もなく、ただ自分の領域を侵す者を排除すると言う、まるで『人形』のような違和感しか無かった。

何故そんな事をしてしまったのか、何故地上から遠く離れた星の海でただただ浮遊しているのか、何故独りぼっちでいるのか。

それを知る為にーーーー士道はここに来たのだ。

1度は拒絶され、挫折しても、もう1度ここに舞い戻って来たのだ。

 

「それで。一体何をしに来たと言うのじゃ?」

 

六喰が首を傾げながら問うてくる。その無味な表情の為か、首を傾げると言う動作もまた、まるで相手に問いを発すると言う機能に紐つけられた行動に見えた。

 

「知れた事さ。もう1度、話をしにきたんだ。ーーーー六喰、お前とな」

 

「戯れ言。言った筈じゃろう。うぬの『偽善』に付き合わされるのは迷惑じゃと。むくは救いなぞ求めておらぬとーーーー」

 

「違う」

 

士道は六喰の言葉をピシャリと遮るように言って、ジッと六喰を見つめながら、続ける。

 

「俺が話をしに来たのは、“今のお前じゃない。〈封解主<ミカエル>〉で心を掛けていない、本当の星宮六喰だ”」

 

「・・・・ふむん?」

 

六喰は士道の言葉に、表情をピクリとも動かさないまま喉を鳴らした。

 

「異な事を。むくはむくでないと申すか。言った筈じゃ。むくの心に鍵を掛けたのはむく自身じゃと。むくの選択をうぬにとやかく言われる筋合いはない」

 

「ああ・・・・言ってたな。でも、そもそもなんで鍵を掛けたのか・・・・その質問には、明確な『答え』を貰っていなかった筈だ」

 

士道は、意志を強く持つようにグッと拳を握りながら言った。

そして脳裏に思い起こす。以前に六喰が発した言葉を。

 

【さて・・・・何故だったのかのう。必要が無かった・・・・いや、違うな。それを持つ事こそが不幸であると、嘗てのむくが思ったからではないかの。今のむくには、もう良く分からぬがな】

 

そう。以前言葉を交わした際、確かに六喰は自分の意志で心に鍵を掛けたと言った。しかしその理由を問うた時返ってきたのは、そんな曖昧な言葉のみだったのである。六喰が適当に誤魔化そうとしたのか、それとも本当によく覚えていなかったのかは定かではない。

だが、自分の感情を閉ざしてしまう理由など、軽い物である筈がなかった。

 

【『ーーーー貴様、あの娘の言葉を聞いて、“何か感じなかったのか”?』】

 

【俺は、六喰と向き合うのが、恐い・・・・】

 

「(あぁ・・・・本当に情けない。これじゃあドラゴンが愛想を尽かすのも当然だ・・・・!)」

 

自分よりも切れ者のドラゴンの事だ。

始めから六喰の『違和感』にとっくに気づいていた。そして遠回しだけど、自分にその『違和感』を伝えようとしていたのに、自分は六喰と向き合うのを恐れていた。

次に脳裏に、『平行世界の五河士道』の言葉が甦る。

 

【ーーーー“後で自分を殴りたくなるだろうから”】

 

全くその通りだ。

今すぐにでも自分で自分を思いっきり殴り飛ばしたい気持ちだ。こんな簡単な事に気付かなかった。拒絶の言葉に戸惑い、恐怖してしまい、六喰と本当に向き合おうとしなかった。

 

「(何が『希望』になる、だ。六喰と本気で向き合おうとしないで逃げていた奴が、滑稽極まりないぜ・・・・!)」

 

【『貴様、この1年近くの間、何をしてきた? 何を見てきた? 何を学んできた? 結局貴様は何1つ成長していない。力は手にいれても、頭の中はお子ちゃまのままだな?』】

 

ドラゴンの辛辣過ぎる言葉が次々と思い返される。確かにその通りだ。精霊達は皆、それぞれに辛い事があり、それぞれの理由で心を閉ざしていたと言うのに、六喰のそれにまるで気付かなかった。 

 

【『貴様のような、“いつまで経っても、どれだけ学んでも、何も成長しないヤツ”、敢えて言うならーーーー『クズ』だな。『クズ』にこれ以上無駄に時間をかけるつもりはない』】

 

「(ーーーーあぁ、その通りだドラゴン。俺は何も成長していなかった。それ処か、拒絶された程度で向き合うのを恐れていた『クズ』だ・・・・)」

 

だが、ここでまた逃げたらもう2度と六喰にも、十香達にも・・・・ドラゴンにも顔向けができない。

士道は意を決して六喰に向けて声を発する。

 

「改めて聞く。六喰。お前は何でこんな処にいるんだ。何で心に鍵を掛けたりしたんだ。一体お前にーーーー何があったんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

六喰は冷淡な表情のまま無言になると、数秒の後、フンと息を吐いた。

 

「ーーーーまあ、よい」

 

そして、士道の言葉なんて聞こえていなかったかのようにそう言うと、手にした〈封解主<ミカエル>〉をブンと回して、その先端を士道に向けた。

 

「警告に従わぬはうぬの自由じゃ。ーーーーじゃが、それに対し何を行うかもまた、むくの自由じゃ」

 

するとその宣言と同時、六喰の周囲を漂っていた岩石やデブリが、六喰の視線に導かれるように士道に向かって降り注いだ。

 

「ーーーーっ!」

 

[ディフェンド プリーズ!]

 

攻撃が来る事など、この間でたっぷりと教えられたのだ。士道は一瞬魔法陣の障壁を展開すると、障壁が岩石や機械の破片を防ぐ。

が、徐々に岩石や破片が次々と飛んできて、士道を押し潰そうとする。

 

「ーーーーらぁっ!」

 

士道は魔法陣の障壁を振ると、大気圏へと落下した。息を吐く間もなくすぐにまた岩石や機械の破片がまた飛んで来る。

が、次の瞬間。

 

「ーーーーえ?」

 

また『ディフェンド』を使おうとした士道は、六喰から放たれた無数の飛礫が、1発も士道に直撃する事なく、後方へと抜けていき、素っ頓狂な声を発した。

六喰が弾道を操作した訳ではない。どちらかと言うと、士道の身体が飛礫の軌道を察知して移動したかのようだった。まるで、水面に浮くブイが、波に押されて船の道をかけるかのようだ。

 

「これは・・・・」

 

士道が唖然としていると、耳に装置していたインカムから、琴里の声が響いてきた。

 

《ーーーーやらせやしないわよ。うちのおにーちゃんを》

 

後方に位置するその艦は今、辺り一帯に随意領域<テリトリー>で覆い、士道の身体を保護、また空気のない空間で士道の声を六喰に伝える為のサポートをしているのである。

 

《原理的には〈フラクシナス〉の自動回避<アヴオイド>と同じよ。随意領域<テリトリー>が接近物を察知し、士道の身体への接触を防ぐの》

 

「成る程・・・・悪い、助かったよ、琴里」

 

と、士道が言うと、インカムから琴里とは別の声が聞こえてくる。

 

《お礼は琴里だけですか?》

 

「はは・・・・ありがとう、マリア」

 

士道は苦笑しながら、〈フラクシナス〉のAIである『マリア』にそう返した。

 

《分かれば良いのです。ーーーーですが、過信はしないで下さい。〈フラクシナス〉本体を覆う物に比べれば、強度も精度も劣ります。飛礫位ならば問題ありませんが、天使の攻撃等を受けたならひとたまりもありません。それにーーーー》

 

マリアの言葉を継ぐように、今度は琴里の声が響いてくる。

 

《ええ。悪いけれど、あまり音声サポートは期待しないでちょうだい。こっちも、お客様の対応をしなきゃならないものだから》

 

「・・・・ああ、分かってる」

 

お客様。士道はその言葉に後方をチラリと見やりーーーー表情を険しくした。

そう。DEMインダストリーの4隻の空中艦だ。その中心には、〈フラクシナス〉と因縁浅からぬ空中艦〈ゲーティア〉が存在している。しかも乗っているのは〈仮面ライダーウィザード〉である士道にとって因縁の強敵(相手にとっては怨敵)のエレン・メイザースが操縦しているのだ。如何に進化した〈フラクシナス〉と言えど、士道のサポートをしながらソレに対する事は困難だろう。

士道は決意を新たにするようにコクリと頷くと、改めて六喰の方を向いた。

 

「随意領域<テリトリー>で十分だ。ーーーーこっちは、俺に任せてくれ」

 

そして静かにそう呟いて、ゆっくりとリングを嵌めた右手を前に、六喰へと向けた。

 

「何度でも、言ってやるよ六喰。俺がお前のーーーー『最後の希望』になる!」

 

相手は強大なる力を持った精霊。しかも、今までの対応からも分かるように、心に鍵を掛けている為、士道の言葉が届かないのだ。しかし士道とて、何の方策も持たずに彼女の前に立った訳ではない。

そう。士道は六喰の心の鍵を開ける方法を、1つだけその手に有している。

 

「・・・・・・・・」

 

呼吸を整え、精神を集中させる。心を細くし、変質させていくイメージ。六喰を救いたいという願いを標に、ボンヤリとした光の中から、1つの形を浮かび上がらせる。

そして、呼ぶ。その形の名を。協力無比な力を持った天使の名を。

ーーーー今この状況を打破し得る可能性を有した、唯一の『鍵』の名を。

 

「〈贋造魔女<ハニエル>〉」

 

次の瞬間、身体を流れる血潮が熱を帯びたかのような感覚と共に右手が淡く輝き、そこに長柄の箒が現れた。いつもはドラゴンが顕現させるのを手伝うが、今回は士道が自分の力で顕現させた鏡の天使、七罪の〈贋造魔女<ハニエル>〉だ。

 

「・・・・ふむん? 天使じゃと? 精霊には見えぬが・・・・成る程。それがうぬが言っていた、霊力の封印か。ふむん、どういう原理かは知らぬが、精霊から天使を奪ったと言う事じゃな。むくの力を求めるも当然じゃの」

 

突然虚空より現れた天使の姿に、六喰が反応を示したが、すぐに合点がいったと言うように目を細める。

 

「人聞きの悪い事を言ってくれるなよ。ーーーー確かにこれは俺の力じゃない。でも、奪ったつもりなんてないぜ。お前を救う為に、貸して貰ってるだけさ」

 

「まだ性懲りもなく斯様な事を宣うか。不可能じゃ。確かにそれは天使のようじゃが、むくの〈封解主<ミカエル>〉に勝る天使等存在せぬ」

 

「そうかい。じゃあーーーー本気で行くぜ!」

 

[ドライバーオン プリーズ]

 

ウィザードライバーを顕現させ、起動させた。

 

[シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャバドゥビタッチヘンシン~♪]

 

「変身!」

 

[フレイム プリーズ ヒーヒー ヒーヒーヒー!!]

 

士道は〈仮面ライダーウィザード〉へと変身した。精霊相手に変身するのは悪手とも言えるが、生半可な事で六喰の心の鍵を開けるのは不可能と判断し、持てる力を全て使おうと考えたからだ。

 

≪・・・・・・・・少しは覚悟ができたようだな≫

 

ボソリ、とドラゴンの声が聞こえた気がしたが、ウィザード<士道>は構わず〈贋造魔女<ハニエル>〉の柄を握る手に力を入れ、喉を震わせた。

 

「〈贋造魔女<ハニエル>〉ーーーー【千変万化鏡<カリドスクーペ>】!」

 

するとその声に呼応するかのように、〈贋造魔女<ハニエル>〉が淡く輝いたかと思うと、まるで粘土を捏ねるかのように、その形を変質させていく。

そして数秒の後、輝きが収まると〈贋造魔女<ハニエル>〉の形がーーーー〈封解主<ミカエル>〉へと変貌していた。

六喰の心は、六喰の天使〈封解主<ミカエル>〉によって閉じられた。つまり六喰の心を開く事は、六喰自身にしかできない。

その絶対的なルールに風穴を開ける唯一の存在こそが、意外にも七罪の天使〈贋造魔女<ハニエル>〉だったのだ。

 

「(ーーーー本当に、いざって時に頼りになるぜ! 七罪は!)」

 

 

 

 

ードラゴンsideー

 

『(当然だ愚か者。七罪はいざと言う時にこそ、実力を発揮する子なのだ)』

 

「へっくしゅんっ! へっくしゅんっ!」

 

〈フラクシナス〉の艦橋で、士道の様子を見ていた七罪の頭の上で横になっているドラゴン(思念体)が内心そう呟くと、七罪は謎のくしゃみを連続でした。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「・・・・何じゃと?」

 

流石に予想外だったのか、六喰が訝し気な声を上げる。

 

「面妖な。〈封解主<ミカエル>〉を模したと言うのか」

 

「そう言う事だ。これならーーーー」

 

ウィザード<士道>はカシャリと音を鳴らしながら、〈封解主<ミカエル>〉の先端を六喰に向けた。

 

「本当のお前と話をする事が、できる」

 

「不遜なり。身の程を知るがよい。如何に形を真似ようが、うぬに〈封解主<ミカエル>〉を使いこなせる物か」

 

「さあ、どうかな。試してみようじゃないか」

 

ウィザード<士道>はリズミカルに鼓動を刻む心臓を落ち着かせるながらそう言うと、〈封解主<ミカエル>〉を両手で構えた。

 

「ーーーー行くぞ、六喰。お前の心を開いてやる」

 

 

 

 

 

ー琴里sideー

 

〈フラクシナス〉艦橋のスピーカーから、ウィザード<士道>な決意に満ちた声が響き、艦長席に座る琴里はコクリと頷いた。

 

「ーーーーそっちは任せたわよ、士道」

 

一言一言に意志を込めるように区切りながら言って、キュッと瞼を閉じる。

ウィザード<士道>がこれから相手をする六喰は、狂三や反転精霊にも比肩する危険度だ。如何に〈仮面ライダー〉に変身し、随意領域<テリトリー>で保護しているとは言え、『インフィニティスタイル』ではないウィザード<士道>1人で相手をさせるのに抵抗がないと言えば嘘になる。

が。『インフィニティ』になる為に必要不可欠なドラゴンは未だに士道との絶縁状態を解除していないし、〈フラクシナス〉には人類最強の魔術師<ウィザード>エレン・メイザースが駆る高速戦闘艦〈ゲーティア〉が迫って来ている。

『改変前の世界』で完膚なきまでに惨敗した艦<相手>だ。微塵も油断は許されない。

 

「総員、戦闘準備! 相手は世界で1番厄介な相手よ! 気合いを入れなさい!」

 

『は・・・・ッ!』

 

琴里の声に、緊張が滲んだ返事で応えるクルー達に、琴里は首肯を以て応ずると、後方にいる精霊達を見やった。

 

「「琴里(!)」」

 

その中でも、琴里が止めても聞く耳持たないと気炎を目に宿した十香と折紙が同時に声を上げた。

琴里は立場上、精霊達を戦場に送り出す訳には行かないが、そんな事を言っている状況でも相手でもないので、微かに表情を歪めながら、細く息を吐いた。

琴里が頼もうとすると、他の精霊達も声を上げる。

 

「私も・・・・お手伝い、します!」

 

「可々、我ら八舞の手にかかれば、大気無き宙にも風が吹こうと言う物よ!」

 

「同調。こんな時に大人しくしていろだなんて言わせません」

 

「ですよー! 私の可愛い皆さんが戦うのに、私だけ黙っている訳にはいきませんー!」

 

「・・・・四糸乃が行くなら、私も」

 

「んー! いいねぇ、何かこのクライマックスな最終決戦感? 皆か力を合わせる展開みたいなやつ! あ、でもあたしは霊力弱いから、艦内からのサポートにさせてもらうわ。ごめんねー」

 

仲間達が口々に言うと、琴里は皆を見渡してから、了承を示すように頷いた。

 

「分かったわ。あなた達の力、貸してちょうだい」

 

『おー!』

 

琴里の言葉に、精霊達は拳を上げ、プラモンスター達も声を上げた。彼女達の元気な声が艦橋に反響し、琴里を叱咤するように全身を叩いた。

彼女達の気勢にあてられたのか、クルー達も緊張感が僅かに緩み、新たな決意と熱気で心を引き締めた。

がーーーーそんな空気は、そう長く続かなかった。

メインモニタが捉えたDEMの艦隊から、無数の機影、〈バンダースナッチ〉が、ウィザード<士道>と六喰の方へと飛び立っていく。

 

「ち・・・・! アイツらーーーー」

 

「し、司令! この反応・・・・〈バンダースナッチ〉だけではありません!」

 

琴里の言葉を遮るように、箕輪が慌てた様子で声を発すると、メインモニタから赤と銀の鎧を纏った、戦乙女のような姿をした〈仮面ライダー〉が、無数の〈バンダースナッチ〉に共に現れたのだ。

 

「あれは・・・・!」

 

ーーーーそう。世界最強の魔術師<ウィザード>エレン・メイザースに次ぐ実力の魔術師<ウィザード>が変身する〈仮面ライダー〉・・・・。

 

「ーーーーアルテミシア・アシュクロフト、〈仮面ライダーヘルキューレⅡ〉」

 

モニタに目をやった折紙が、落ち着いている口調だが、微かに緊張が浮かび、手をキュッと握り締めた。日頃感情を表に出さない彼女にとって珍しい反応だが、それも当然とも言える。

アルテミシアを向かわせる訳には行かない。焦燥感の滲んだ声を琴里が発する。

 

「くーーーー何ヵ所かに分けて転送するから、先ずは十香と折紙、転送装置に乗って!」

 

「うむ!」

 

「了解」

 

[[ドライバーセット! シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]]

 

「「変身(!)」」

 

[プリンセス プリーズ!]

 

[エンジェル プリーズ!]

 

2人が応え、〈仮面ライダー〉に変身すると、艦橋内に設置されていた転送装置の上に移動する。それを横目で見ながら、琴里はマリアに指示を出すと、少しのやり取りをしてから、コンソール下部が引き出しのように展開し、中に収められた銀色のドックタグを琴里が摘まみ上げ、エンジェル<折紙>に向かって放り、エンジェル<折紙>は片手でキャッチし、手のひらを広げてマジマジと見つめた。

 

「これは・・・・緊急着装デバイス?」

 

「ええ。アスガルド・エレクトロニクス製CR-ユニット、AW-111〈ブリュンヒルデ〉。うちの最新型よ。役立ててちょうだい」

 

琴里がそう言ってビッと親指を立てると、エンジェル<折紙>は全てを理解したようにデバイスを握る手に力を込め、コクリと頷いた。

 

「ーーーー心得た」

 

「良し、じゃあいくわよ。座標確認、転送ーーーー開始!」

 

《了解。転送を開始します》

 

琴里の声に応え、マリアが音声を発すると、転送装置が起動し、プリンセス<十香>とエンジェル<折紙>の姿が淡く輝いた。

が、2人の身体が消えかけた、その瞬間。

 

ーーーーズゥゥゥゥゥゥゥゥンンッ!

 

「きゃ・・・・っ!?」

 

〈フラクシナス〉の艦橋が凄まじい振動と衝撃に襲われ、琴里が思わず悲鳴を上げて艦長席から転がりかけるが、すんでで踏み留まる。

しかし、席に着いていた者達と違い、艦橋に立ち並んでいた精霊達は盛大にバランスを崩して倒れそうになるが・・・・。

 

「きゃ・・・・っ!」

 

突然精霊達の身体がフワッと浮かび、そのままゆっくりと優しく床に下ろされた。七罪の頭の上にいるドラゴンが、黄色の魔法陣を展開していたので、恐らく『グラビティ』を使ったのだろう。

 

『・・・・何事だ?』

 

七罪の頭の上から、艦橋全体に響くような声を発するドラゴンに答えるように、クルー達の声が響く。

 

「げ、〈ゲーティア〉からの砲撃です!」

 

「随意領域<テリトリー>による防御に成功した為、損傷はありません!」

 

「・・・・ちっ」

 

その言葉に、琴里は忌々し気に眉を歪め舌打ちをした。

〈ゲーティア〉が通常で魔力砲を撃っても、随意領域<テリトリー>で阻める。

つまりエレンはそれを承知で随意領域<テリトリー>ごと艦橋を振動させてきたのだ。

そうーーーーあたかも、扉をノックするように。

 

「舐めた真似をしてくれるじゃない、エレン・メイザース・・・・!」

 

咥えていたチュッパチャプスにギリッと歯を立てると、タイミング良く艦橋のスピーカーから、外部通信を報せるブザーが鳴った。

相手は・・・・考えるまでもない。琴里は不機嫌そうに声を上げた。

 

「・・・・繋いでちょうだい」

 

「はっ!」

 

クルーの声と同時、モニタにノイズが走り、エレン・メイザースの姿が写し出された。

 

「・・・・エレン・メイザース」

 

《ええ、こうして対面するのは久しぶりですね、五河琴里》

 

フッと頬を笑みの形に歪めながら言葉を返すエレン。その余裕綽々の態度に、琴里は『改変前の世界』での屈辱的な敗北を思い出してしまう。

 

「性懲りもなく現れたわね。でも、今度はあなた達の好きにはさせないわよ」

 

《ふふ、自身の源はその艦ですか? 見た所新型のようですがーーーー無駄ですよ、“また”、沈めて上げましょう》

 

「減らず口をーーーー」

 

と、そこでエレンが言った『また』と言う単語に、琴里は小さく息を詰まらせた。

『改変後の世界』のエレンが、『改変前の世界』での〈フラクシナス〉の敗北を知っているのだ。

 

「・・・・成る程。それも〈神蝕篇帙<ベルゼバブ>〉の恩恵って訳ね」

 

琴里が小さく呟いてから、言葉を続ける。

 

「ふん・・・・あなたの所の社長、随分とはしゃいでるみたいじゃない。まるで新しい玩具を買って貰った子供みたい」

 

「子供、ですか。ふーーーーあながち、的外れとも言えませんね」

 

「ええ。漫画でもあるまいし、マトモな判断力を持っているなら、“組織の親玉が敵の本拠地に乗り込んだりなんかしないでしょうよ”」

 

《・・・・っ?》

 

と、琴里の言葉を聞いた瞬間。エレンの顔に初めて、小さな動揺らしきものが浮かんだ。

 

《今、何と言いました、五河琴里。アイクが〈ラタトスク〉の基地を・・・・?》

 

そして訝しげにーーーー或いは憤怒に震えるようにーーーー喉から声を絞り出す。

 

「ーーーー」

 

その予想外の反応に、琴里は思わずコクンと唾液を飲み下し確信した。

エレンは、知らないのだ。ーーーーアイザック・ウェスコットが〈ラタトスク〉の基地を襲撃した事を。

 

「・・・・へぇ、その反応じゃあ知らなかったみたいね。そんな重要な作戦を知らされていないなんて、側近面してるみたいだけど、意外と信用されてなかったかしら?」

 

《・・・・・・・・》

 

一瞬沈黙した後、今迄にない形相で琴里を睨んでくる。

が、エレンは独り言を呟くように小さく唇を動かしたかと思うと、すぐに表情を戻して、長い前髪をかきあげる。

 

《安い挑発ですね。私が敵の言葉を信じるとでも?》

 

「信じられないのなら確かめて見れば良いじゃない。それとも怖いのかしら?」

 

《聞く価値もない妄言ですね。ですがーーーー良いでしょう。あなたがソコまで言うのなら、すぐに確かめて上げます》

 

そう言ってエレンは、キッと視線を鋭くし、言葉を続ける。

 

《ーーーー精々、5分もあれば十分でしょうしね》

 

その言葉と同時、通信がブツリと途絶え、それと入れ替わりに、メインモニタに表示されていたDEM艦隊に変化が現れた。

〈ゲーティア〉を中心として、他の3隻が〈フラクシナス〉を覆うように展開し始めたのである。

戦いの火蓋はこの上なく分かりやすい形で切られた。琴里はフンと鼻を鳴らすと、クルー達に指示を発し始めた。

 

「随意領域<テリトリー>の属性を防性に設定の上、後退! 〈ゲーティア〉以外は雑魚とは言え、囲まれるのは上手くないわ! 何か仕掛けてくる前にーーーー」

 

「琴里さん!」

 

と、そこで美九が琴里の言葉を遮るように声を発した。

 

「先に私達を艦外に転送して下さい! 余計な敵は私達がやっつけますー!」

 

それに呼応するように、他の精霊達も声を上げる。

 

「琴里さんは、〈ゲーティア〉を・・・・!」

 

「くく、士道の方には十香と折紙が行ったのであろう。ならば、我らはその帰る場所を守ろうではないか」

 

「あなた達・・・・」

 

一瞬逡巡した後、琴里は小さく首を振った。

 

「ーーーーいえ、お願い。あなた達はここにいてちょうだい」

 

「! そんなぁ! 私達だって何かお手伝いを・・・・」

 

「落ち着いて。あなた達の力が必要になるかも知れないからこそーーーーお願いしたいの」

 

「え・・・・?」

 

「疑問。どういう事でしょうか」

 

「本当なら私だけで何とかしたい。でも、相手は〈ゲーティア〉。もしかしたらーーーー」

 

琴里が精霊達の顔を順に視線を向けていると、ソコで不意に言葉を止めた。

理由は単純。ここにさっきまでいた“2人”の姿がなくなっていたのだ。

 

「あれ・・・・? あの2人どこに・・・・」

 

「! 〈ゲーティア〉、前進してきます!」

 

が、その瞬間、クルーの声が響き、琴里の意識はソッチに引っ張られた。

考える時間はない。もし彼女に過保護なアイツが避難させたならそれもいい。元より、琴里に協力を強制させるつもりなど微塵も無いのだ。

バッと手を振り、琴里が指示を出す。

 

「皆は一先ず待機したいて!ーーーー総員、覚悟なさい! 行くわよ!」

 

『了解ッ!』

 

クルーの声が艦橋下段から響いてくる。琴里はペロリと唇を舐めると、メインモニタに映る白金の空気艦を睨み付けた。

 

「行くわよ愛しい我が宿敵。新しい〈フラクシナス〉の力、見せてあげる」

 

そして、モニタに指を突きつけならがら、唱える。

その、言葉を。

 

「さあーーーー私達の戦争<デート>を、始めましょう」

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