デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「ーーーー【開<ラータイブ>】」
短い声と共に、六喰が鍵の天使〈封解主<ミカエル>〉を虚空に突き刺し捻ると、文字通り扉の鍵を開けたかのように、空間にポッカリと『扉』が開き、その中に六喰の周囲を浮遊していた岩石に機械の破片が、勢い良く吸い込まれていった。
「散れ」
「・・・・!」
そして次の瞬間、ウィザード<士道>を取り囲むように無数の『扉』が空間に口を開けたかと思うと、その中から、今し方消えた飛礫が一斉に飛び出してくる。
[ディフェンド プリーズ]
360度全方位からの一斉射撃に、ウィザード<士道>は魔法陣の障壁で自分を取り囲むように展開すると、飛礫とぶつかり合う。
「はぁっ!!」
ウィザード<士道>が力を込めて障壁を弾けさせると、無重力によって飛礫は跳ね飛ぶ。
それを見た六喰が、うっすらと目を細める。
「ほう。むくの天使の力を防ぐとはのう。うぬは本当に人間か?」
「一応、自分ではそのつもりだよ。ただーーーー」
[コネクト プリーズ]
ウィザード<士道>は六喰の目を見据え、ウィザーソードガンを召喚し、スウと息を吸って声を発した。
【ーーーーお前の元に至る為に、出し惜しみをしないって決めただけだ】
音の天使〈破軍歌姫<ガブリエル>〉。その力を込めた、声。
ウィザード<士道>の喉から発されたその魔性の言葉は、マスク下のウィザード<士道>の鼓膜を震わせ、その身体に、更なる力をもたらした。
「うおおおおおおおおおおおッ!」
中空でグッと足を縮め、一気に解き放つ。無論ここは踏ん張る地面などある筈がない中空。しかしウィザード<士道>の身を包む随意領域<テリトリー>は、その動作と意思を察知し、ウィザード<士道>の身体を前方はと跳ね飛ばし、凄まじいスピードで、宙に浮かぶ六喰の元へと迫る。
だか、その瞬間。
「・・・・ッ!?」
六喰の元に至る一瞬前。ウィザード<士道>の視界の端に、赤と銀の鎧の〈仮面ライダー〉が現れ、息を詰まらせた。
「ごめんね。その精霊は、私達が貰うよ」
その〈仮面ライダー〉、〈仮面ライダーヘルキューレⅡ〉が『ダーキンスレイヴⅡ<ツー>』を刺突の形をしながら、淡々とした調子で言った。
「お前はーーーー」
その〈仮面ライダー〉には見覚えがあった。ーーーーDEMの魔術師<ウィザード>にして、反転した二亜を襲った少女、アルテミシア・アシュクロフトが変身した〈仮面ライダー〉だ。
どうやら彼女も、〈ゲーティア〉と共に宇宙へとやって来ていたらしい。が、六喰に全神経を集中していたウィザード<士道>は、直前までその接近に気付く事ができなかったのだ。ドラゴンがいれば接近に気付いただろうなと思うウィザード<士道>は、既にヘルキューレⅡ<アルテミシア>の剣が、自分の喉元を捉えていると言う絶対絶命の状態なのに、ひどく冷静だった。別にヤケクソになった訳ではない。首を切断されても琴里の天使の能力でも、別れた首と胴体がくっつくか分からない(手足だったらくっつくのは実践済み)。仮にできるとしても、目の前の2人が懇切丁寧に待ってくれるとは思えない。
それに何より、ウィザード<士道>がここで死ねば、ヘルキューレⅡ<アルテミシア>は迷う事なく六喰を狙う。
無論、六喰とて精霊。彼女の〈封解主<ミカエル>〉ならば、いざとなれば誰もいない安全圏に逃れる事も可能だろうし、ヘルキューレⅡ<アルテミシア>を返り討ちにしてしまう事だって考えられる。
だがそれはすなわち、六喰の心が永遠に閉じられたままである事と同義であった。
『死』。或いは永遠の『停滞』。
ウィザード<士道>がここで命を失う事は、六喰にその2択しか残せなくなる事を示していた。
「そんなの・・・・許容できるかよ・・・・!」
無理矢理全身に号令を発し、手にした〈贋造魔女<ハニエル>〉が変身した〈封解主<ミカエル>〉を振り上げる。無論、防御が間に合うようなタイミングではない。だが、もしヘルキューレⅡ<アルテミシア>が少しでも怯むか、油断してくれていれば、文字通り首の皮1枚くらいは残るかもしれない。そしてその接点さえあれば、〈灼爛殲鬼<カマエル>〉が命を繋いでくれるかも知れなかった。
そんな『かもしれない』ばかりの、儚すぎる抵抗。しかしそれが、今のウィザード<士道> にできる精一杯の行動だった。
ヘルキューレⅡ<アルテミシア>の剣の切っ先が、喉元に触れる。刃先が肌を切り裂き、灼熱感を伴う鋭い痛みにさと、肉の焼ける嫌な臭いを生じさせた。
ーーーーしかし。
「・・・・!」
ソコで息を詰まらせたのは、ウィザード<士道>ではなく、ヘルキューレⅡ<アルテミシア>だった。
「えーーーー?」
それを耳にして、ウィザード<士道>は思わず声を発した。
一瞬前の絶対絶命に追い込まれて筈で、未だそれを認識する意識と、震わせる喉が存在していた。
一瞬置いて、理解する。
ウィザード<士道>の首を薄く裂いた剣が、下方から現れた刃によってかち上げられていた。
「ーーーー士道、無事?」
「折紙!?」
その場に現れた少女の名を呼んだ。
そう。ソコには、見慣れぬ機械の鎧を纏ったエンジェル<折紙>の姿があったのだ。
美しい流線型で以て形作られた、純白のCR-ユニットがエンジェルの鎧に被せるように纏い、肩や胸元を覆うパーツは西洋の甲冑のようであり、手に握った剣は、長柄の槍を思わせ、背面には『メタトロンウィンガー』が浮遊していた。
「その姿はーーーー」
「説明は後」
エンジェル<折紙>は短く言うと、姿勢を崩したヘルキューレⅡ<アルテミシア>を槍で薙いでから、メタトロンウィンガーの光線を放ち、ヘルキューレⅡ<アルテミシア>は少し距離を空けた。
「く・・・・!」
「・・・・っ」
先ほどの剣のぶつかり合いで、互いの力量を察し合ったのか、2人は加速して肉薄すると、魔力光を纏った刃がぶつかり、目映い閃光の軌跡を暗い宇宙空間に描いていった。
「シドー!」
と、窮地を脱し、一瞬放心状態になっていたウィザード<士道>の鼓膜を、声が震わせた。
次の瞬間、ガッシと腕を捕まれ、そのまま腕が抜けるのではないかと思える程の勢いで引っ張られる。
「うわっ!?」
思わず声を上げるがーーーーすぐにその意味を理解する。
一瞬前までウィザード<士道>がいた空間を、六喰が放った幾条もの光線が通り抜けていった。もしあのまま呆けていたら、エンジェル<折紙>のお陰で拾った命をまた捨てる事になる処だ。
「大丈夫か、シドー!」
「あ、ああ、助かったよーーーー十香」
ウィザード<士道>は額に滲む汗を拭いながら、今し方手を引いてくれたプリンセス<十香>の名を呼んだ。その手にはサンダルフォンブレードが握られていた。どうやらエンジェル<折紙>と共に、ウィザード<士道>を助けに来てくれたらしい。
が、安堵をしているような余裕はない。六喰がフンと息を吐くような仕草をすると同時、〈封解主<ミカエル>〉を掲げ、再び飛礫を放ってくる。
否、それだけではない。後方から無数の人形ーーーー〈バンダースナッチ〉の大群が現れ、ウィザード<士道>達や六喰目掛けて砲撃を放ってきた。
「く・・・・!」
[キャモナスラッシュシェイクハンズ! キャモナスラッシュシェイクハンズ! フレイム・スラッシュストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!]
「てやッ!!」
「はぁッ!」
燃え盛る炎を纏った斬撃が火龍となり、プリンセス<十香>がサンダルフォンブレードの斬撃で攻撃を打ち落とす。
しかし無論、それだけで攻撃が止む訳はない。ウィザード<士道>達〈ラタトスク〉に、精霊を捕らえんとするDEM、そしてそれら全てを敵と見なす六喰。それぞれがそれぞれの目的の為、霊力と、魔力の雨を宇宙空間に降らせていく。
「・・・・っ!」
だが、その渦中にあっても、ウィザード<士道>は恐れなかった。否ーーーー正しく言うのなら、恐怖よりも先に、別の考えが頭を支配した。
「十香! チャンスだ!」
「うむ! 露払いは任せろ!」
ウィザード<士道>の言葉に、どうやら同じ考えだったプリンセス<十香>が声を上げる。しかしそれは当然だ。戦闘時の十香の判断力は、〈仮面ライダーウィザード〉として戦ってきた士道以上に鋭く、素早いのだ。
如何に六喰と言えども、こんな一瞬でも気を抜けば死が待っている三竦みの激戦で、ウィザード<士道>達だけに集中する事はできないだろう。事実六喰は、自らの身に迫る魔力光を打ち払い、或いは天使で開けた『扉』に導いている。
今ならば、先ほどよりも六喰の隙を突ける可能性が高くなった。
「行くぞ、十香!」
「おおっ!」
2人は光の流星群の中に身を躍らせた。
ー???sideー
「どうするのよ・・・・?」
『待て。チャンスを待つんだ』
と、そんな戦場に誰にも気づかれる事なく隠れている、“2人”がいたーーーー。
ー折紙sideー
暗い宙を銀の光と白の光が絡み合い、ぶつかり合いながら横切っていく。
エンジェル<折紙>は装備した〈ブリュンヒルデ〉の随意領域<テリトリー>を操作し、細かく軌道を調整しながら、幾度目ともしれない攻撃をヘルキューレⅡ<アルテミシア>に繰り出す。
「ふーーーーッ」
「甘いよ!」
エンジェル<折紙>はレイザースピアの1撃が、ヘルキューレⅡ<アルテミシア>のダーキンスレイヴによって止められる。魔力光が火花を散らせ、エンジェル<折紙>の視界を目映く照らした。
「くーーーー」
幾度かの攻撃の応酬を経て、エンジェル<折紙>はメタトロンウィンガーで牽制しながらヘルキューレⅡ<アルテミシア>から距離を取る。
マスク内の頬に汗が伝う。
〈仮面ライダー〉に変身し、更に最新鋭の装備を纏っても埋めきれない実力差。それこそーーーーエレン・メイザースと対した時を思い起こさせる圧倒的なプレッシャーだ。こんな圧倒的な強者2人と互角以上に戦える士道とドラゴンの『インフィニティスタイル』には、本当に感服してしまう。
しかし、今のウィザード<士道>は最強の形態になれない。今ここで目の前の彼女をウィザード<士道>の元へ行かせれば、インフィニティ処か『オールドラゴンスタイル』にもなれないウィザード<士道>が危ない。
「(せめて、士道が六喰を攻略するまで時間を稼げれば・・・・!)」
「ふぅん・・・・」
エンジェル<折紙>が思考を巡らせていると、興味深そうにこちらを眺めていたヘルキューレⅡ<アルテミシア>が、小さく声を発した。
「面白い装備だね。見慣れないCR-ユニットだけど、君、魔術師<ウィザード>よね。どうして精霊を助けたりするの?」
「・・・・・・・・」
その言葉に、違和感を覚える。アルテミシアは折紙と面識がある筈だ。健忘症でもない限り、忘れているとは考えづらい。
「・・・・、アルテミシア。あなたは何故SSSを抜けてDEMにいるの。あなたは、DEMに対して決していい感情を持っていなかった筈」
「・・・・? 何を言っているの? 何で私の名前を知って・・・・って言うか、SSS・・・・?」
ヘルキューレⅡ<アルテミシア>は不思議そうな様子を見せた後ーーーー額に手を当てた。
「く・・・・、ぅ・・・・?」
そして苦し気に呻いた後、頭痛を振り払うように首を振り、エンジェル<折紙>に視線を戻してくる。
「・・・・まあ、いいや。君を倒さないと任務が遂行できないって言うのは確かみたいだし」
ヘルキューレⅡ<アルテミシア>は手にしたダーキンスレイヴを構え直した。
「アルテミシア・アシュクロフト。あなたは強い。私よりもずっと」
エンジェル<折紙>はスウッと息を吸いながら、精神を集中させる。
「ーーーー“魔術師と、しては”」
「・・・・っ!?」
折紙は1度変身を解除すると、〈仮面ライダー〉の鎧が消え、身体が輝く。
それを見てヘルキューレⅡ<アルテミシア>は少し防御の姿勢をとった。戦闘中に、突然相手の身体が輝き出したとしたら、警戒するのは当たり前だ。
「これは・・・・」
そして、ヘルキューレⅡ<アルテミシア>が驚いたような声で折紙を見つめる。
“折紙の身体が、2つになったのだから”。
ーーーー光り輝く限定霊装した折紙と、仮面ライダーエンジェルの姿が重なると、エンジェルの姿が更に変わった。
仮面ライダーエンジェルのプロテクターの所々に、霊装の装飾がされ、さらにその上にCR-ユニットを纏った姿であった。
精霊、魔術師<ウィザード>、そして仮面ライダー、3つの力を1つにした、恐らく折紙にしか顕現できない、世界唯一の奇跡のハイブリッド体であろう。
「〈仮面ライダーエンジェル トリニティスタイル〉、とでも名付けようか」
「はは・・・・君って精霊だったんだ」
ヘルキューレⅡ<アルテミシア>は含み笑みを交えて声を発した。
「良かった。ーーーー精霊なら、心置きなく、殺せる」
「・・・・・・・・」
エンジェル<折紙>とヘルキューレⅡ<アルテミシア>は、静かに視線を交わすとーーーー凄まじいスピードで宙を蹴った。
ー琴里sideー
そしてその頃、エレンが駆る〈ゲーティア〉の圧倒的な機動性に苦戦する琴里達。
顕現装置<リアライザ>も艦の性能も、以前の〈フラクシナス〉よりも上回っている筈なのに、これほど差を作っているのは一重にーーーーエレン・メイザースの存在だ。
彼女が直接制御し、物理法則など完全無視した動きを見せる。それが〈ゲーティア〉が最強の艦たる所以である。果てしなく癪だが、流石は世界最強の魔術師<ウィザード>と認めざる得ない。こんな怪物とマトモに戦えている士道とドラゴンには本当に脱帽してしまう。
そうーーーー現状のままであったなら。
「ーーーー神無月!」
「ええ」
琴里が声を上げると、艦長席の脇に控えていた神無月が、顕現装置<リアライザ>に脳波を伝える為のヘッドセットを装着していた。
「マリア、〈フラクシナス〉の制御をマニュアル操作に変更してください」
『了解。制御顕現装置<コントロール・リアライザ>一基残し、残りを魔力生成に宛てます』
マリアが言うと、神無月はヘッドセットに手を置きながらニッと唇の端を上げた。
「残念ながら私は覚えていませんが、どうやら『改変前の世界』では手痛い敗北をプレゼントされたようですね。ーーーー許せません。司令の美しい世界樹に傷を付けた彼の魔術師<ウィザード>も、そして守りきれなかった私自身も」
珍しい程に真剣な神無月であった。
「気に病む必要はないわ。でも、その敗北はここで雪いで貰うわよ」
「無論です。ーーーーあ、でも自分の知らない所で屈辱を与えられていたって、昏睡状態の時にアレコレされたみたいでちょっと興奮しません?」
やはり変態<神無月>は汚物<神無月>であった。
『琴里。やっぱりイヤです。こんな人に機体制御を任せたくありません。〈ラタトスク〉の人事には問題があるとしか言いようがありません』
「気持ちは凄く分かるけど耐えてちょうだい」
うんざりしたようなマリアの言葉に、琴里はため息交じりに返し、他のクルー達の大半と精霊達の大半もマリアに同意するように頷いた。当の神無月は気にしていないーーーー否、寧ろその言葉さえ快感として受け取った。
が、神無月は急接近してくる〈ゲーティア〉を巧みな随意領域<テリトリー>の操作で〈ゲーティア〉を回避した。改修した〈フラクシナス〉は随意領域<テリトリー>の中に艦隊のみを包む随意領域<テリトリー>をもう1枚張り、随意領域<テリトリー>同士を反発させる事で、今までにない自由な駆動ができるのだ。
「まあこの着想の元が、『改変前の世界』で見た〈ゲーティア〉だって言うのは気に入らないけどね」
「でも妹ちゃん、本当に大丈夫? それって相手の真似っこしてスピードを上げただけで、追いつけた訳じゃないでしょ?」
と、難しげに眉根を寄せる二亜が尤もな意見を言った。琴里よりも先にマリアが答える。
『何ですかこの人は。文句を付ければ格好いいと思っているタイプですか?』
「いや、別にそう言う訳じゃないけどさー・・・・」
『クレーマー気質と言う奴ですね。こういう人が将来子供を持った時、モンスターペアレンツと化すのです。恥ずかしいので止めてください』
「えっ、何かこの子アタシにだけ当たり強くない?」
「ーーーー何にせよ、手持ちのカードで戦うしかないのよ。今は〈ゲーティア〉に集中する事」
二亜が困惑気味に眉を歪める。琴里は肩を竦めながら言って、咥えていたチュッパチャプスの棒で、モニタの〈ゲーティア〉を指し示した。
ーエレンsideー
エレンは〈フラクシナス〉の改良に少し目を見開いた。しかし、所詮兎が狐になった程度、エレンにとっては脅威ではない。問題があるとすれば〈フラクシナス〉な艦内にいる精霊達だ。彼女達を巻き沿えにする訳にはいかないので、なるべく敵艦の原型を止めて無力化させないとならない。だが、自分には造作もない事だ。
「早く片付けて、あちらに行きたいですね」
エレンはモニタの1部に映し出された、宇宙空間で精霊と戦っている相手ーーーー愛しいとすら思える仮面ライダーウィザード<怨敵>をチラッと見る。
本来ならアルテミシアではなく自分が行きたい所であったが、〈ラタトスク〉に邪魔されたくないので〈フラクシナス〉を封じようとしていた。
エレンは〈ゲーティア〉を操作し、〈フラクシナス〉に肉薄した。
「私の領域に踏み込んだ事は褒めてあげましょう」
そして無防備な艦体に、砲門を向ける。
「ですが天に挑みし者は、翼をもがれるのが必定ですーーーー神の火に灼かれ、落ちなさい愚者<イカロス>」
臨界直前まで充填された生成魔力が一気に放出され、〈フラクシナス〉に向かって伸びていく閃光。
この距離とタイミング、そして〈ゲーティア〉との戦いで僅かに穴が開いた随意領域<テリトリー>では避けるのも防ぐのも不可能。
だがーーーー。
「・・・・っ?」
着弾の瞬間、〈フラクシナス〉の艦影が一瞬ブレたかと思うと、〈ゲーティア〉の魔力砲が後方に抜けていき、エレンは思わず息を詰まらせた。
「これは・・・・」
目を見開いたエレンは、〈フラクシナス〉を改めて見る。
否ーーーー見ようとした。
もうその時には〈フラクシナス〉の姿は存在しておらず、その代わりに凄まじい衝撃と振動に襲われる。
「な・・・・ッ!?」
コックピットが激しく揺さぶられる。
「何事ですか!」
艦の表面に随意領域<テリトリー>が巡らせてあるので、隕石等が当たっても、ここまでの衝撃は来ない。それができるのは、生成魔力の攻撃のみ。
そうーーーー〈フラクシナス〉だ。
その艦体の各所が展開するように可変し、銀色の炎のような輝きを纏う〈フラクシナス〉が、信じられないような速度で〈ゲーティア〉の背後を取り、攻撃を仕掛けてきた。
それを確認すると同時に、霊波反応を示すアラームが鳴る。
つまり目の前の艦からは、随意領域<リアライザ>によって生成された魔力ではなくーーーー精霊の力が観測された。
「ーーーー〈フラクシナス〉・・・・ッ!」
全てを察したエレンは目を血走らせると、怨嗟に満ちた声を発した。
ー琴里sideー
「ーーーー切り札が1つだけだなんて、誰が言ったかしら?」
袖で冷や汗を拭いながら、琴里はモニタに映る、魔力砲の直撃を受けて装甲の内側を晒した敵艦を見る。
今、琴里は、艦長席に深く腰掛け、ソコから伸びた電極のような装置を身体の各所に張り付けている。それだけでなく、艦長席の後方に円柱形の装置がせり上がっており、精霊達がソコに手を翳していた。
「ーーーー助かったわ、皆。多分、私の霊力だけじゃ足りなかったと思う」
「いえ・・・・お役に立てて、嬉しいです」
「かか! 我らが力を合わせれば無敵と言う事であるな!」
「首肯。夕弦達の前に敵はありません」
「これって、私達の霊力が混じり合った訳だすよねー! 1つになってる訳ですよねー! 何だか凄く幸せな気分何ですけどぉー!?」
琴里の言葉に、精霊達(若干1名が気持ち悪く)が喜ぶように声を返した。
ともあれ、〈ゲーティア〉に一矢報いる事ができた。
〈フラクシナスEX<エクス・ケルシオル>〉に搭載された新たな奥の手だ。
精霊から直接霊力を供給する事によって、僅かにでは時間だが、随意領域<テリトリー>の極限を超えた力を付与する事が可能となるのだ。
無論、ドラゴンが士道から霊力の逆流を調整して貰っている。“今は姿がない”ので、四糸乃に念話で頼んで貰ったのだが。しかも、5人分の霊力を使用したのだ。
今の〈フラクシナス〉に、『艦』と言う言葉は相応しくない。ーーーー意思を持って縦横無尽に空を翔ける1発の弾丸だ。
「情けない物よね。随意領域<リアライザ>や艦の性能自体は、僅かながらまだ〈ラタトスク〉が勝っていると言うのに、こんな反則技を使わなきゃならないなんて」
実際、真の意味で能力差や『改変前の世界』での黒星をひっくり返したとは言い難い、士道とドラゴンの2人なら、真正面から正々堂々と戦ってエレンを倒せるだろうが、自分はこんな搦め手や反則技を使わなければ勝たないのが少し情けなく、そして悔しい。
だがーーーー。
「今この瞬間は、私達の勝ちよ。墜ちなさい、最強の魔術師<ウィザード>」
琴里はビッと親指を立て、下に向けた。
するとそれに合わせるように〈フラクシナス〉から2撃目の魔力砲が放たれーーーー損傷の為か反応が遅れた〈ゲーティア〉に突き刺さる。
最強の名を恣にした白金の艦は、黒煙を上げながら地球に墜ちていった。
ー〈仮面ライダーエンジェル トリニティスタイル〉ー
仮面ライダーエンジェルにCR-ユニットと霊装を纏う姿。魔術師<ウィザード>と精霊と仮面ライダーの力を融合させた姿。が、長時間使うと体力と霊力と魔力を消費して変身が強制解除される。