デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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この世界のドラゴンは、電王のイマジンズ、ウルトラマンタイガのタイガみたいに、士道に話しかけたり、アドバイスしたり喧嘩したりしています。


精霊

琴里を中学校に送った士道は、そのまま自分の高校である来禅高校に向かい、学校近くにあるバイクも停める事が出来る駐輪場にバイクを停めて、学校に向かった。

 

≪わざわざ駐輪場に停めなくても、リングを使えば簡単だろうに≫

 

「そんなズルはしたくないんだよ」

 

≪ハッ、面倒くさいヤツだ≫

 

端から見れば士道が独り言を言っているようだが、士道の中にいるドラゴンは士道としかコミュニケーションが取れないので仕方ない。

士道は学校に到着し、昇降口で上履きに履き替え、廊下に貼り出されたクラス表を確認した。

 

「二年四組、か」

 

時間はまだ八時十五分頃、士道は母校の来禅高校の設立を思い返していた。三十年前の空間震の後、東京都南部から神奈川県が空間震によって更地にされた一帯はさまざまな最新技術のテスト都市として再開発され、士道が通う都立来禅高校もその一つであり、充実した設備の他に旧被災地の高校らしく、地下シェルターまである。

 

「(入試倍率は低くなくて、家に近いから受けた俺は苦労したけどな・・・・)」

 

なんて考えている内に士道は教室に入ると、ホームルームまでは少し時間があったが、すでに多くのクラスメート達が同じクラスになった事を喜びあったり、一人机についてつまらなそうにしていたり、さまざまな反応をしていた。

 

≪おい、油断しているんじゃない。あの“小娘”が後ろにいるぞ≫

 

「ーーー五河士道」

 

「っ!!」

 

後方から聴こえた抑揚のない声に、士道は少し緊張しながら振り向いた。

 

雪のように白い肌と細身の華奢な体躯。肩口をくすぐるくらいの銀色の髪。人形のような端正な顔立ちはその美貌と表情が無いから言われる顔立ちの少女。

 

「(鳶一、折紙・・・・!)」

 

『鳶一折紙』。士道と同じ学年で首席の成績を修める才女、運動神経も抜群で、その美貌も相まった文武両道の完璧超人。

およそ士道と接点が無い少女だが、士道は彼女の事を一年生の頃から知っていた。イヤ、警戒の意味も込めて彼女の事を知ったのだ。一年前にドラゴンがーーーーー。

 

【≪おい、あの小娘<鳶一折紙>、お前の事を観察しているぞ≫】

 

最初はドラゴンの妄言だと思っていたが、気になったので一応警戒して、『プラモンスター』達に鳶一折紙をこっそり監視してもらったら、別のクラスである彼女が本当に自分を観察している事を知り、もしかして『ファントム』の手の者ではないかと警戒しているのだが。

 

「(彼女は『ファントム』じゃないと思うけどな)」

 

≪確かに『ファントム』ではないが、警戒はしておけ≫

 

「(でも、鳶一は悪人には見えないけど・・・・)」

 

≪フン、これだから頭の天辺から足の裏まで平和にボケまくったボンクラは。この小娘、時折お前をまるで『ゲート<獲物>』を狙う『ファントム』のような目付きで見ている事に気づかんとはなぁ≫

 

「(お前は人間を悪く見すぎなんだよ!)」

 

≪お前が人間を善意優先で盲目的に見すぎなのだ! この似非平和主義の偽善者がっ!!≫

 

「(なんだと、この馬鹿トカゲっ!!)」

 

「どうかしたの?」

 

「えっ!?」

 

脳内でドラゴンと口喧嘩していた士道は鳶一折紙に話しかけられてハッと正気に戻る。ドラゴンとコミュニケーションをしていると百面相してしまうので不審がられたと思った。

 

「あぁ悪い! えっと、俺の名前、何で知ってるんだ・・・・?」

 

平静を取り繕うとする士道が訊くと、鳶一折紙は不思議そうに首を傾げた。

 

「覚えていないの?」

 

「・・・・あぁ~」

 

「そう」

 

士道が言い淀んでいると、鳶一折紙は特に落胆することもせず、短く言って窓際の席まで歩き、そのまま椅子に座ると机から分厚い技術書のようなものを取り出し読み始めた。

 

≪やはりあの小娘、怪しいな・・・・≫

 

「(イヤでもよ・・・・)」

 

ドラゴンは鳶一折紙により警戒を抱くが、士道も鳶一折紙を少し怪しいと思うが、それでも彼女が悪人ではないと主張しようとするが。

 

「とうッ!」

 

「げふっ」

 

ぱちーん!と、見事な平手打ちが背中に叩き込まれた。

 

≪げふっだと? 無様な悲鳴をあげおって、あんな攻撃の気配を察さないとはつくづくボケているな≫

 

「ってぇ、何しやがる殿町!」

 

ドラゴンの嫌味と背中の痛みで痛がっている士道。しかし犯人は既に分かっているので背をさすりながら叫ぶ。

 

「おう、元気そうだなセクシャルビースト五河」

 

士道の友人・『殿町宏人』は、同じクラスになった喜びよりも、ワックスで逆立てられた髪と筋肉質の身体を誇示するように、腕を組み軽く身を反らしながら笑った。

 

「・・・・セク・・・・なんだって?」

 

「セクシャルビーストだ、この淫獣め。いつの間に鳶一と仲良くなったんだ、ええ?」

 

言って殿町が士道の首に腕を回し、ニヤニヤしながら訊きながら顎をしゃくって窓際の鳶一折紙の席を示し、士道も鳶一折紙の席を見る。

ふと、士道の視線に気づいたのか、鳶一折紙が目を書面から外しこちらを見る。

 

「(ヤッベ!)・・・・」

 

士道は息を詰まらせ、気まずそうに目を背けた。

反して殿町は馴れ馴れしく笑って手を振る。

 

「・・・・・・・・」

 

鳶一折紙は別段殿町に何も反応を示さないまま、手元の本に視線を戻した。

 

「ほら見ろあの調子だ。うちの女子の中でも最高最善最大難度、永久凍土とか米ソ冷戦とかマヒャデドスとか天の道を行く美少女とまで呼ばれてんだぞ。一体どうやって取り入った」

 

「イヤ取り入ったと言うか、なんと言うか・・・・」

 

まさか自分の中にいる魔獣が警戒しているからと言える筈もなく、士道はしどろもどろと言い淀んでいた。

 

「しかもだぞ。鳶一折紙は去年の『恋人にしたい女子ランキング』で第3位になったんだぜ」

 

「そうなのかよ」

 

「ついでに『恋人にしたい男子』もあってな、五河は52位だったからな」

 

「全然嬉しくねぇぞそれ!」

 

「匿名希望さんから一票入っての52位だがな」

 

「なんのフォローにもなってねぇよ!」

 

「まぁ五河は『女の子に興味無さそう』『ぶっちゃけホモっぽい』とコメントがあったがな」

 

≪コイツはちゃんと異性が好きだぞ。ただのカッコつけのムッツリスケベだ≫

 

「謂われ無き中傷と失礼の極みに死の鉄槌を!」

 

「そう言うなよ。一票も入らなくて358位の俺やその他の皆さんからすればうらやましい限りだぜ」

 

≪この貧弱小僧が一票の52位と言う事は、それ以下の順位は0票だったわけか≫

 

「お前358位かよ! なんだその自傷行為!!」

 

「ちなみにコメントでは『愛が重そう』『毛深そう』『足の親指の爪の間が臭そう』でした」

 

「そのランキングってただのワーストランキングじゃねぇか!」

 

「まぁでも良いんだ。俺には彼女がいるからなぁ~♪」

 

殿町はスマホに表示された彼女の映像を恍惚とした表情で見つめる。その彼女が“二次元彼女”だと言うのに。

 

「・・・・・・・・」

 

≪おい、もしもコヤツが万が一にイヤ、億が一に『ゲート』だったら、見殺しにしても良いのではないか?≫

 

あまりにも痛々しい友人の姿に士道は哀れみの目になり何も言えず、ドラゴンのコメントにも何とも言えなかった。と、殿町と馬鹿なコントをやっていると一年生の頃から聞き慣れた予鈴が鳴り、士道は黒板に書かれた席順に従い、窓際から数えて二列目の席に鞄を置いた。

 

「・・・・あ」

 

≪何の因果だこれは・・・・?≫

 

ドラゴンの言うとおり、何の因果か運命か、士道の席はドラゴンが絶賛怪しんでいる学年首席様の席のお隣だった。

 

「・・・・・・・・」

 

鳶一折紙は予鈴が鳴り終わる前に本を閉じて机にしまい込んだ。そして視線をまっすぐ前に向けて定規で計ったかのような美しい姿勢を作る。

 

「(き、気まずい・・・・)」

 

≪(さっきまであの小娘が読んでいた本、一瞬だったが、“盗聴機の作り方”と書いてあったような?)≫

 

士道は折紙と同じように視線を黒板の方へやると、教室の扉が開き、そこから縁の細い眼鏡をかけた小柄な女性が現れて教卓についた。

 

「はい皆さんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を勤めさせていただきます、『岡峰珠恵』です」

 

女性の名前は『岡峰珠恵』。社会科担当の教諭でサイズが合っていないのか眼鏡がずり落ち慌てて両手で押さえる。贔屓目に見ても生徒と同年代くらいに見える童顔と小柄な体躯とのんびりとした性格で、生徒達から絶大な人気を誇り『タマちゃん』と好意的なあだ名で呼ばれている。その証拠に生徒達は小さくざわめきながらも、「タマちゃんだ」「マジで、やったー」と好意的なコメントを出していた。

 

≪ネコかアザラシのようなあだ名を付けられているな≫

 

「(まぁそれだけ皆から好意を貰っているって事だな)」

 

≪(しかしあの教諭、中々に強い“絶望”を抱えているな。『ゲート』であれば『ファントム』が喜びそうだ)≫

 

士道がドラゴンと脳内で駄弁っていて気づかないが、鳶一折紙がじーっ、と士道に視線を送っていた。

 

 

* * *

 

それからおよそ三時間後。

始業式を終えて帰ろうした士道に殿町が昼飯に行こうと誘われるが、琴里との約束があると言って殿町と別れ、バイクを停めてある駐輪場についた士道がバイクのエンジンを吹かした、その瞬間。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・・・・・・っ!? ドラゴン、この警報ってまさか?」

 

≪空間震警報だな・・・・≫

 

空間震警報。空間震の前震が観測された時に空間震の発生が予想された時に鳴る警報。しかし士道は落ち着いていた。30年前の空間震によって深刻な被害が起こった為に、士道達は幼稚園の頃からしつこいほどの避難訓練をしてきたからだ。

 

「どうする? 避難するか?」

 

≪面倒だが仕方あるまい≫

 

ドラゴンは面倒臭そうな声をあげるが、士道も避難する為に来禅高校の地下シェルターに向かおうと学校に戻ろうとすると、昇降口から女子生徒が走って出てきた。

 

「鳶一・・・・?」

 

スカートをはためかせながら学校から離れようとするのは、鳶一折紙だった。

 

「おい! 何してんだ! そっちにはシェルターなんてーーーー」

 

「大丈夫」

 

折紙は一瞬足を止め、それだけ言って再び駆け出した。

 

「大丈夫って・・・・何が?」

 

≪おい、そんな事よりも、お前の妹に一応の連絡はしたのか?≫

 

「っ!?」

 

ドラゴンに言われて、士道はポケットから携帯電話を取り出し、着信履歴から『五河琴里』を選んで電話をかける。がーーーー繋がらない。何度も試すが結果は一緒だった。

 

「・・・・駄目か」

 

≪まさかと思うが、ファミレスに行ったのではないか?≫

 

ドラゴンに言われた士道は、朝琴里が「約束だぞー!」の言葉を思い出す。

 

「いやいやまさか、さすがにそこまで馬鹿では・・・・っと、そうだ、あれがあった」

 

琴里の携帯にGPS機能があった事を思い出した士道は、位置確認サービスを使って琴里の場所を調べると。琴里の居場所は、約束のファミレスの位置で表示されていた。

 

「あんの、馬鹿・・・・ッ」

 

士道は持っていた鞄から“幾つもの指輪を付けたチェーン”を取り出し、腰のベルトに付けて、その指輪の中から“穴の中からドラゴンが出ているリング”を右手の中指に嵌めて、右手を翳せる形の手形のバックルに翳した。

 

[コネクト プリーズ]

 

音声が鳴ると、士道の隣に魔方陣が現れる。魔方陣で空間と空間を繋ぎ、遠くの物を手に取ったりできる『コネクト』の魔法である。士道は駐輪場のバイクを取り出してバイクに乗り込み、ヘルメットを被り、バイクを吹かせてファミレスに向かう。

 

≪避難しなくて良いのか?≫

 

「妹がファミレスにいるんだ! 避難なんてしていられるかよ!」

 

≪(あの妹がそんなヘマするとは思えんがな・・・・)≫

 

兄である士道ですら知らない琴里の“もう一つの面”を何となく察しているドラゴンは、欠伸を漏らしながら昼寝をしようとしていた。

 

 

* * *

 

士道は琴里にデコピン乱舞の刑に処す事を決意しながらバイクを走らせていると。

 

「うわ・・・・ッ!?」

 

突然進行方向の街並が、まばゆい光に包まれ、次いで耳をつんざく爆音と凄まじい衝撃波が士道に襲いかかろうとした。

 

「チッ!」

 

士道はバイクを止めて、『コネクト』と違う“ドラゴンが盾を構えているリング”を取り出し嵌めて翳した。

 

[ディフェンド プリーズ]

 

音声が鳴ると、士道の前に魔方陣が現れ、衝撃波を防いだ。大型台風もかくやというほどの風圧により土煙が舞い、士道の視界をふさいだ。

 

「ーーーーはーーーー?」

 

≪ん?≫

 

ようやく土煙が晴れて、視界に広がる光景を見て士道は間の抜けた声を発し、ほとんどうたた寝していたドラゴンも目を覚ました。今の今までにあった街並みが、跡形もなく“無くなって”いたからだ。

何の比喩でも冗談ではなく、まるで隕石でも落ちたかのように。否、どちらかと言えば、地面が丸ごと消し去ったかのように、街の風景が浅いすり鉢状に削り取られていた。

 

「な、なんだよ。なんだってんだよ、これは・・・・いてッ!」

 

≪落ち着け。これが空間震による被害なのだろう≫

 

呆然となる士道に、体内のドラゴンが頭を小突いたかのような衝撃が走った。

 

「これが、空間震・・・・ん、なんだ・・・・?」

 

ヘルメットを外してバイクから降りた士道は、クレーターのようになった街の一角の中心に向かい、そこに何やら金属の塊のようなものが聳えていたのを見た。

 

≪何が起こるか分からん。ドライバーの準備はしておけ≫

 

「あぁ・・・・」

 

士道はバックルの手形と同じ“黒い手形のリング”を取り出して嵌め、バックルに翳した。

 

[ドライバーオン プリーズ]

 

また音声が鳴ると、士道が付けていたバックルが大きなベルトへと変化した。

士道は警戒しながら遠目で細かい形状は見とれないが、ロールプレイングゲームの王様が座っている玉座のようなフォルムをしているのが見えたが、重要なのはそこではない。

その玉座の肘掛けに足をかけるようにして、奇妙なドレスを纏った少女が一人立っていた。

 

≪何だ、あの小娘は?≫

 

「あの子ーーーーなんであんなところに」

 

朧気にしか見えないが、長い黒髪と不思議な輝きを放つスカートだけは見て取れた。女の子である事は間違いないだろう。

と、少女は気怠そうに首を回し、ふと士道の方に顔を向けた。

 

「ん・・・・?」

 

士道に気づいた・・・・のだろうか。遠すぎてわからない。士道がソッと“大きな紅玉石<ルビー>の指輪”を指に嵌めていると、少女はさらに動きを続けた。ゆらりとした動作で玉座の背もたれから生えた柄のようなものを握ったかと思うとゆっくりとそれを引き抜いた。

それは、幅広の刃を持った巨大な剣。虹のようであり、星のような幻想的な輝きを放つ不思議な刃。

少女が剣を振りかぶると、その軌跡をぼんやりとした輝きが描いていった。そしてーーーー。

 

≪頭を下げろ!!!≫

 

「うおっ!?」

 

ドラゴンの怒鳴り声で思わず頭を下げる士道、少女が士道の方へ向けて剣を横凪ぎにブン、と振り抜くと、今まで士道の頭があった位置を刃の軌跡が通り抜いて、士道の後方にあった家屋や店舗、街路樹や道路標識などが一瞬の内にみんな同じ高さに切り揃えられていた。

一拍遅れて、遠雷のような崩落音が響いた。

 

「な、なんつー威力! まさかアイツ、『ファントム』かっ!?」

 

≪イヤ、あの娘には『ファントム』の気配がしない。ヤツは『ファントム』ではないな≫

 

「マジかよ・・・・!!」

 

士道は戦慄しながら腰に巻いた“手形のベルト”を起動させようとするとーーーー。

 

「ーーーーお前も・・・・か」

 

「は?」

 

ひどく疲れたような声が頭の上から響いた。視覚が一拍遅れて思考に追いつく。目の前に、一瞬前まで存在しなかった少女が立っていた。今の今までクレーターの中心にいた少女が。

 

「あーーーー」

 

意図せず声が漏れた。その少女は歳の位は士道と同じ頃か少し下。膝まであろうかという長い黒髪、愛らしさと凛々しさが兼ね備えられた貌。その中心には水晶に様々な色の光を多方向から当てているかのような不思議な輝きを放つ双眸が鎮座していた。装いは布なのか金属なのかよくわからない素材が、まるでお姫様のドレスに騎士の鎧の一部を付けたかのようなフォルムを形作り、さらにその継ぎ目やインナー部分、スカートなどに至っては物質ですらない不思議な光の膜で構成されていた。そして手には身の丈ほどあるであろう巨大な剣が握られていた。

 

「ーーーー、ーーーー」

 

≪おいしっかりしろ≫

 

士道はドラゴンの声も聞こえない程に、その姫騎士のような少女の姿に目が釘付けになっていた。それこそ暴力的なまでに、彼女が美しかったのである。

 

「ーー君、は・・・・」

 

士道は呆然となりながらも、声を発していた。少女がゆっくりと視線を下ろしてくる。

 

「・・・・名、か」

 

心地良い調べのごとき声音に空気が震える。しかし・・・・。

 

「ーーーーそんなものは、ない」

 

「ーーーーっ」

 

その時、士道と少女の目が、初めて交わった。それと同時に“名無しの少女”が酷く憂鬱そうなーーーーまるで今にも泣き出してしまいそうな表情を作りながら、カチャリと音を鳴らして剣を握り直す。

 

≪あ、これは死んだな≫

 

「ちょっ・・・・、待った待った!」

 

その小さな音とドラゴンの呟きに、戦慄が蘇り、士道は必死に声を上げた。

 

「・・・・なんだ?」

 

少女はそんな士道に不思議そうな目を向ける。

 

「な、何しようとしてるんだよ・・・・っ!」

 

「それはもちろんーーーー早めに殺しておこうと」

 

≪敵はすぐに殺すか、中々良い心掛けだ。この甘ちゃん小僧にも見習って欲しい所だな≫

 

さも当然のごとく言った少女にドラゴンは感心し、士道は顔を青くする。

 

「な、何でだよ・・・・っ!」

 

「なんで・・・・? 当然ではないか」

 

少女は物憂れげな顔になり続けた。

 

「ーーーーだってお前も、私を殺しに来たのだろう?」

 

「は?」

 

≪何を言っている??≫

 

予想外の言葉に士道とドラゴンは揃ってポカンと口を開いた。

 

「・・・・っ、そんなわけ、ないだろ」

 

「ーーーー何?」

 

そう言った士道に、少女は驚きと猜疑と困惑が入り交じったような目を向けてきた。

 

≪・・・・っ! おい、“奴等”が来たぞ≫

 

「何?!」

 

「・・・・っ!?」

 

士道はドラゴンの呟きに自分の横の方向を睨んだ。少女も一瞬ゾクッとしたように身体を振るわせると、士道の目線を追うようにその方向に目を向けると、そこにいる“異形の集団”に目を剥いた。

 

『グゥゥゥゥゥ!』

 

『ほう、あれが『精霊』か?』

 

石のように罅割れた灰色の体色のオレンジ色の角をした鬼のような姿をした異形達がうなり声を上げ、その中に一際大きな体躯をし、青いの体色をした甲冑のような鎧を付け、長い柄をした斧を構えた、青い体色の牛のような大きな角をした異形がそこにいた。

 

「・・・・・・・・」

 

ブウゥンッ!!

 

「フン」

 

「っ!?」

 

“名無しの少女”が剣を振りかぶり、刃の軌跡のような斬撃を放つが、その斬撃を牛の異形は長い柄をした斧で止めて、バチバチと火花を散らした。

 

『ヌゥゥゥン、フゥンッ!!』

 

気合いを込めた牛の異形は、少女の放った斬撃を空の彼方に放り投げた。

 

「なんだと?」

 

『ほぉこれが『精霊』の攻撃か・・・・。だが我等『ファントム』とは相性が悪いようだな?』

 

牛の異形は少女の攻撃を受け止めて弾いた。それは少女にとっても以外だったのか驚いていた。

 

『さて、時間もあまり無いようだ。我等に付いて来て貰おうか、『プリンセス』』

 

≪どうやら奴等の狙いは、『プリンセス』と呼ばれているこの小娘のようだな≫

 

「・・・・ドラゴン、力を貸してくれ」

 

≪フン、良いだろう。我もこの小娘に興味が出た≫

 

士道は立ち上がると、“名無しの少女”を庇うように前に出る。

 

「何のつもりだ・・・・」

 

「さっき言ったけどな。俺はお前を殺しに来たんじゃない」

 

「・・・・・・・・」

 

少女はさっきまでと少し雰囲気が変わった士道に少し怪訝そうに見る。

 

「俺はお前を殺しに来たんじゃない。コイツらを倒しに来たんだ」

 

「何・・・・?」

 

「とりあえずソコにいろよ。話の続きはコイツらを片付けてからだ」

 

士道は手形のベルトを起動させる。

 

[シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]

 

「変身っ!!」

 

左手を顔のところに上げて叫ぶと、紅玉石<ルビー>のリング、『フレイムリング』のめがねを下ろしベルトにスキャンする。

 

[フレイム プリーズ]

 

音声が響くと、左手を左に向けて伸ばす。

 

[ヒー! ヒー! ヒーヒー、ヒィー!!]

 

左手の先に“赤く燃える魔方陣”が現れ、左手から右に移動して、士道の身体を“魔方陣”が通過する。

 

「なに・・・・!?」

 

『まさか!?』

 

『プリンセス』と呼ばれた少女と、牛の異形、『ファントム ミノタウロス』が驚いたような声を上げる。

 

全身の雰囲気は黒を基調とし長く黒いロングコートが風に靡き、体の各所や頭部は銀の装飾で覆われて黒い全身に煌めき、顔を覆う丸い紅玉石の仮面には銀の線が走り、額には黄色く輝く小さな魔法石が煌めき、胸部や腹部の正面を彩るは真っ赤に燃えるように輝く赤い魔法石、手首と足首にも赤い魔法石がブレスレットとアンクレットとして巻かれいた。

 

『貴様! まさか、『魔法使い<ウィザード>』か!?』

 

「フッ」

 

ミノタウロスが叫ぶのを聴いて、士道は仮面越しにニヤリと笑う。

 

「さあ、戦闘開始<ショータイム>だ」

 

左手を顔の隣に上げて、『フレイムウィザードリング』を嵌めた手を見せ、赤く輝く魔法石の指輪が煌めいた。

 

 

 

今、『悲しき精霊』と『絶望の魔獣』が犇めく舞台に、『希望の魔法使い』が現れたーーーー。

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。次回は戦闘描写を上手く書けると良いなぁ・・・・。
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