デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ーメデューサsideー
暗い建物の中にいたミサ<メデューサ>とユウゴ<フェニックス>は、暗がりの向こうにいるファントムに話しかける。
「それで、〈ハーミット〉はどうだ?」
「まさか、あんな腰抜け精霊を絶望させられませんでした、だなんて言わねえだろうな?」
「ーーーーーーーーー」
「何? そんな物で〈ハーミット〉が絶望するのか?」
その人物が暗がりから見せた『ウサギの人形』を見ると、ミサは訝しそうに睨んだ。
ー士道sideー
≪『ディフェンド』だ≫
「っ!」
[ディフェンド プリーズ]
士道は『ディフェンド』のリングをすぐに取り出して翳すと、魔法が発動して、迫り来る雨を防いだ。
「お、落ち着け! 俺だ、俺!」
四糸乃はビクビクと振り向き、士道の顔を見て小さく息を吐いた。
士道は道端に放った傘を拾い、四糸乃に差し出す。
「よかったらこれ。・・・・もう濡れてっかもしれねえけど、無いよりマシだろ?」
「???」
「ああ、これはこうするんだ」
「・・・・! ・・・・! ・・・・!」
不思議そうに首を傾げる四糸乃の手に傘を握らせ、差してやると。雨粒が四糸乃の身体に触れなくなった事に、驚いたのか、四糸乃は目を丸くして頭上。見ると、透明なビニール傘に当たった雨粒が弾け、キラキラと光りながら落ちるのを見て、四糸乃は興奮気味に、傘を持っていない方の手をパタパタと動かした。
≪気に入ったようだな≫
「気に入ったんなら使え使え!」
と、士道が言うと、四糸乃は士道に問いかけるように目を向かる。
「あ、俺は大丈夫だ」
[コネクト プリーズ]
士道は『コネクトリング』で、家に置いてある折り畳み傘を取り出して差す。
「・・・・っ?!」
「ああ、そう言えばちゃんと自己紹介してなかったな? 俺は五河士道。『魔法使い』だ」
「ま、ほう・・・・?」
「ああ。俺の魔法で、『よしのん』を見つけてやるさ」
すると、士道は、『ガルーダ』・『ユニコーン』・『クラーケン』のリングを次々と取り出し、交互に指に嵌めて、ベルトに翳した。
[ガルーダ プリーズ]
[ユニコーン プリーズ]
[クラーケン プリーズ]
士道は『プラモンスター』の『レッドガルーダ』・『ブルーユニコーン』・『イエロークラーケン』を呼び出した。
「・・・・っ!?」
四糸乃は、またも驚いたように目を丸くした。
「コイツらは俺の仲間で、『ガルーダ』、『ユニコーン』、『クラーケン』って言うんだ。コイツらも『よしのん』を探すのを手伝ってくれるってさ」
『ピィッ! ピィッ!』
『ヒヒィーン!』
『キュゥッ! キュゥッ!』
プラモンスター達は四糸乃に近づいて、甘えるようにすり寄った。四糸乃は戸惑いながらも、士道とプラモンスター達を交互に見たのち。
「ぁ・・・・り、が・・・・ぅ・・・・」
ペコリとお辞儀をしてから、プラモンスター達と共に『よしのん』の捜索に戻った。
≪カッコつけめが≫
《格好良いことしちゃって》
「う、うるせ」
ドラゴンと琴理のからかう声が聞こえた。
《まあ、精霊がその気になったなら、濡れた服なんてすぐ乾かせるでしょうけどね。というかそれ以前に、不可視の皮膜を張って雨を弾くなんて造作もないことだし》
「そ、そうなのか?」
・・・・まあ、そこは別問題。小さな女の子が雨に濡れているのを見るのは忍びない。士道は雨に濡れた顔を軽く拭うと、『よしのん』の捜索を開始した。
ー琴理sideー
「どう? パペットは見たかった?」
「いえ、まだですね。見当たりません」
士道が四糸乃とともに捜索を開始してから二時間ほど経過し、雨の中の捜索で身体が冷え、疲労も溜まっているだろう。
〈ラタトスク〉の機関員も使えば四糸乃が怖がり、士道への感謝と好印象が向けられない可能性があるので協力できない。
琴理は、昨日の四糸乃とASTの交戦映像を解析していたクルーに声を投げる。
「映像の方は?」
「解像度が粗いですが・・・・なんとか」
「モニタに出してちょうだい」
琴理が言うと、〈フラクシナス〉の艦橋モニタの一部に、映像が映し出された。
攻撃の余波に巻き込まれないように、自立カメラも距離を取って撮影していたため、多少画質が悪かった。
「精霊がロストする瞬間の映像では、もう既にパペットを持っていません」
一時停止すると、落ち行く四糸乃の姿がアップされる。
「ASTの攻撃が着弾する前の映像では、天使の口元にパペットを確認する事ができます。この攻撃によって紛失下と考えるのが妥当でしょう」
「で、肝心のパペットは?」
「非常に煙が濃いため、確実ではありませんが・・・・落下している影が確認できますので、攻撃の際に燃えてしまっているという最悪のパターンにはなっていないと思われます」
「・・・・ふむ」
琴理は顎に手を当てる。
「四糸乃がロストしたあとの、この近辺の映像は残っていないの?」
「さ、探してみます!」
と、そこでスピーカーから、きゅるるるるるる、という間の抜けた音が聞こえた。
ー士道sideー
「四糸乃?」
「・・・・!」
『よしのん』の捜索を始めてから、二時間ほど。
ガルーダとユニコーンとクラーケンが、建物の隙間やら、建物の屋根とかを見ながら探していた。
士道は濡れた髪をかけ上げながら、隣で『よしのん』を探す四糸乃の方を向くと、やたらと可愛い音が響いてきた気がする。
四糸乃はまたも怯えるように肩を震わせるが、少しは士道の声に慣れたのか、水の弾丸や針を放ってはこなかった。
「・・・・腹減ったのか?」
士道が問うと、四糸乃は顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振った。が、そのタイミングで、またも四糸乃のお腹がきゅるるるるるると鳴った。
「・・・・・・・・っ!」
四糸乃はその場にうずくまると、フードを引っ張って顔を完全に隠してしまった。
プラモンスター達が四糸乃にかけよる。
≪〈プリンセス〉も封印前からかなりの大食らいだったが、精霊も腹を空かせるようだな≫
精霊はそういった生命維持に必要な事柄を全て霊力でまかなう事が可能と聞いていた。
「・・・・どうしたもんかね」
四糸乃はおそらく昨日から『よしのん』を探しているのだろう。空腹になってもおかしくない。士道自身も、少し小腹が空いてきた。
「(どうするドラゴン?)」
≪一度休憩がてら飯にしておけ≫
「(だな・・・・)四糸乃、少し休憩しよう」
士道は四糸乃に話しかけると、四糸乃は首を横に振ったが、そこでまたもお腹が空腹を訴えるように鳴る。
「・・・・!」
「ほら。無理すんなって。お前が倒れたら『よしのん』が探せなくなっちまうぞ」
四糸乃は少しの間考えを巡らせるように唸ってから、躊躇いがちに首肯した。
「よし。じゃあ・・・・」
≪そんなずぶ濡れのネズミのような姿で店に入るつもりか? ただでさえ目立つ格好し、おそらく見知らぬ大勢の人間がいるところが大の苦手そうな〈ハーミット〉を連れて行っては逆効果だぞ≫
言われて士道は「あ」と納得し、しばらく顎に手を当ててから、インカムを小突いた。
「・・・・なあ、琴理。休憩する場所なんだが、ウチでも大丈夫か?」
《わお。少し見ない間に随分大胆になったわね。押し倒すなら気を付けなさいよ》
「・・・・おい」
大仰に驚いたような琴理の声に、士道は憮然となる。
《わかってるわよ。・・・・ま、他に場所も無いでしょうし、特別に許可するわ》
「おう」
士道は短く返事をすると、四糸乃に声をかけた。
「じゃあ・・・・行くか」
「・・・・・・・・(コクン)」
四糸乃は、無言のまま、小さく頷いた。
ー十香sideー
「・・・・むう」
十香は令音と共に雨の街を歩き、ファミレスに入り、禁煙席の一番奥に腰を落ち着け、すぐにメニューに目を通して料理を大量に注文した。
そして料理が来るまでの間、どうにか腹を保たせようと、店員がテーブルに置いていった水を一気に飲み干した。
しかし、気分が優れない。別に悪い感じはしない。昨日の昼から何も食べてない空腹感とあまり睡眠を取れていないが、どうにも優れない。
「・・・・十香」
と、そこで令音が、分厚い隈に飾られた双眸を十香に向けてきた。
「なんだ?」
「・・・・料理が運ばれてくるまでの間、少し話をしたいのだが・・・・いいかな?」
「ぬ・・・・まあ、構わんが・・・・一体何を話すのだ?」
十香は、少し警戒を示すように身体を離しながら頷いた。
十香は目の前の村雨令音の事を、少々気味悪がっていた・・・・いつも何を考えているのか分からない、そのくせこちらの考えを全部見通さていれる気分がするからだ。
そして令音は、そんな十香の思考に気づいているのかいないのか、ボウっとした挙動のまま鞄から機械のようなものを取りだし、テーブルの上に広げる。
「なんだ、それは」
「・・・・ああ、気にしないでくれ」
そう言って、令音が片手でそれをカタカタカタ・・・・と軽やかに操作する。
目一杯気になるが、十香はどうにかそれを無視して、令音の顔に視線を戻した。すると令音も十香に目を戻し、唇を開いた。
「・・・・まあ、話が得意なわけでもなし、単刀直入にいこう。十香、君は戸惑っているーーー否、今まさに戸惑いと苛立ちも覚えている、その理由と原因を教えてくれないかな?」
「ーーーっ」
令音の言葉に、十香は思わず息を詰まらせる。
「っ、私は、別にーーー」
「・・・・やはり、シンが別の女の子、それも自分と同じ精霊と会っていたことに、戸惑いと許せない気持ちがせめぎ合っているのかな?」
『シン』。それは令音が士道を呼ぶ際の名前だった。
「なっ、なぜそこでシドーが出てくるのだ・・・・っ」
「・・・・おや、関係が無かったのかな?」
「・・・・・・・・」
十香はテーブルに肘を突くと、観念したように頭をくしゃくしゃとかいた。
そして大きなため息を吐いてから、重苦しい調子で話し出す。
「・・・・わからないのだ」
「・・・・わからない?」
首をかしげながら聞き返してくる令音。十香は俯けた顔をさらに前に倒し、頭を抱えながら言葉を続ける。
「うむ・・・・自分でも、なぜこんな気分になってしまっているのか、わからないのだ・・・・。昨日・・・・シドーが私を学校に置いて・・・・その、女の子と、キスとやらをしていたのだ」
十香は“キス”の単語を出すだけで、何故か胸の辺りが痛んだ。
「・・・・ああ、そのようだね」
「別に・・・・何がいけないわけでもないはずなのだ。シドーがどこで誰と会おうが、誰とキスしようが、私にそれを咎められるはずもない。・・・・だが、それを見た瞬間、もう、なんというか、とてもーーーそう、とても嫌な感じがしたのだ」
「・・・・ふむ」
「気づいたときには・・・・声を荒げていた。だが、あの娘が、私と同じ精霊とシドーが教えてくれて、あの娘も、私と同じようにASTやファントムに命を狙われ、誰にも助けて貰えず、ずっと辛い思いをしていたと思ったのだ。だから、グゥル達から守ろうと思ったのだ。同じ精霊の、“仲間”として・・・・」
「・・・・・・・・」
「シドーが私の力を封印したと琴理達から聞かされ、おそらくあの娘も、シドーが封印しようとしているのだなと、理解したのだが、しかし・・・・シドーがあの娘を大事にしているような態度が、私よりもあの娘の方が大事なのか、と思うと、どこか悲しくて、怖くて、でも私もあの娘を助けたいと思って。・・・・自分でも意味がわからなくなってしまった・・・・こんなことは初めてだ」
頭では士道の行動を理解している、しかし、心が納得していないジレンマに、再び大きなため息を吐く十香。
「やはり・・・・どこかおかしいのだろうか」
「・・・・いや、おかしくなどないさ。それは非常に健康的<ヘルシー>な感情だ」
「そ、そうなのか?」
「・・・・ああ。あのキスに関しては完全な事故だし・・・・シンが十香、あの女の子だけではなく、君の事も大事に思っているよ。絶対にね」
「っ、ほ、本当か・・・・?」
「・・・・本当だとも。君の事を大切に思っていなければ、自らの命を危険に晒してまで君を助けはしないと思うがね」
「あ・・・・」
言われて、十香は言葉を失くした。
胸に、腹に渦巻く訳のわからない感情に気を取られ、完全に失念してしまっていた。
昨日、士道は、先月と同じように、十香を庇い、ファントムから守ってくれたではないか。
また、凶弾倒れる可能性があったにも拘わらず。
十香は、胸のあたりを手で押さえながら、ゴクンと唾液を飲み込んだ。
「・・・・っ、私は」
なんて、馬鹿な事を。
十香はうめくようにのどを震わせると、再び頭をくしゃくしゃたかきむしった。
そして、、バッとその場から立ち上がる。
「・・・・十香?」
「すまん、今日の買い物、後日に回してもらうことはできないか?」
十香は、唇を噛みしめてから再び声を発する。
「・・・・シドーに、謝らねばならん」
令音は顎に手を当ててから、小さく頷いた。
「・・・・行きたまえ」
「感謝する」
十香は短く言うと、ファミレスの扉を抜けて傘を取り、雨の街を走っていった。
ー令音sideー
「・・・・ふむ。まあ、一件落着・・・・かな?」
1人残された令音は、小型端末の画面に表示されたグラフと数値に目をやりながら、誰ともなく呟いた。
「・・・・まあ、ジェラシーも、立派な恋のうちさ」
呟きながら、端末を閉じる。
「・・・・ただ、気をつけたまえよ。恋<それ>はきっと、世界を殺す感情だ」
そう呟いた令音の元に、店員が突然現れ、テーブルに十香が注文した夥しい数のハイカロリーな料理が運ばれ、それらを前に頬をかいた。
「・・・・これは・・・・困ったな」
ー士道sideー
士道は家に帰るとすぐに着替えを済ませ、四糸乃は少しも濡れていないウサギのコートでソファに座りながら、物珍しそうに辺りを見回しながら、プラモンスター達と戯れる四糸乃がいた。
「ちょっと待っててくれ。すぐにできるから。あ、暇だったらテレビでも見てな」
「・・・・?」
親子丼を作ろうと調理作業をする士道が四糸乃に指示をし、四糸乃はその指示に従ってリモコンを押すと、壁際に置かれたテレビが点き、わははははは! という笑い声が響くと。
「ーーーーーーっ!」
その瞬間、四糸乃が身をすくませたかと思うと、流し台に溜まっていた水がボコボコと隆起し、弾丸のようになってテレビの画面に突き刺さる。
「な・・・・っ」
≪テレビがオシャカだな≫
《馬鹿ね。驚かすなって言ったでしょうに》
琴理の非難じみた声が右耳に聞こえ、四糸乃は瞑っていた目を開いたのち、慌てたように士道に頭を下げ、プラモンスター達が四糸乃を慰めるように肩や頭に乗り慰める。
≪おい、フォローしろ≫
「い、いや・・・・気にすんな。驚かして悪かった」
士道は乾いた笑みを浮かべながら、調理を再開し、そして10分も経たず、調理を終えた。
「ほら、できた。しっかり腹ごしらえして、早いとこよしのんを見つけてやろうな」
リビングのテーブルに置かれた親子丼を置き箸と念のためスプーンを置き、四糸向とむかい合うように座った。
「さて、んじゃ、いただきます」
士道の仕草を真似た四糸乃は、スプーンを手に取り、士道謹製親子丼を一口、口に運んだ。
「・・・・・・・・!」
すると、四糸乃はカッと目を見開いて、テーブルをペシペシと叩いた。
「ん?」
しかし士道が目を向けると、恥ずかしそうに目を逸らすが、何かを伝えたいが言葉を発するのが恥ずかしい、みたいな顔を作ってから、グッ、と士道に親指を立て、それを見てプラモンスター達がはしゃぐようにピョンピョンと飛び跳ねた。
≪気に入ったようだな・・・・≫
「お、おう・・・・」
士道は苦笑しながら、返答とばかりに親指を立てた。
よほどお腹が減っていたのか、四糸乃は小さな口を目一杯広げ、すぐに平らげてしまった。
そして四糸乃の食事が終わるのを見計らうようにして、琴理が喋りかけてきた。
《まだ少し休憩するでしょう? できるだけ精霊の情報が欲しいわ。ちょうどいい機会だし、幾つか質問をしてみてくれない?》
「質問?」
士道が小さな声音で問い返すと、すぐに琴理が質問事項を提示した。
「・・・・ああ、そうか」
士道は、丼を空にして満足そうに息を吐く四糸乃に目を向けた。
「なあ・・・・四糸乃。ちょっと訊きたい事があるんだがーーー幾つか質問してもいいか?」
四糸乃が、不思議そうに小首を傾げてくる。
「その・・・・随分大切にしてるみたいだけど、『よしのん』って、お前にとってどんな存在なんだ・・・・?」
問うと、四糸乃は恐る恐る、たどたどしく唇を開いた。
「よしのん、は・・・・友達・・・・です。そして・・・・ヒーロー、です」
「ヒーロー?」
四糸乃はウンウンと頷いた。
「よしのんは・・・・私の、理想・・・・憧れの、自分・・・・です。私、みたいに・・・・弱くなくて、私・・・・みたいに、ウジウジしない・・・・強くて、格好いい・・・・」
「“理想の自分”・・・・ねぇ」
≪(確かに、デパートの時でしゃべっていたパペットと、今の〈ハーミット〉の口調と態度は明らかに違う、まるで・・・・いや、まさか・・・・)≫
ドラゴンが思案を巡らせている間に、士道は口を開いた。
「俺は・・・・今の四糸乃の方が好きだけどなぁ・・・・」
多少言葉が聞き取りづらいとは言え、たどたどしくても誠実に答えようとしてくれている今の四糸乃の方が、ずっと好感か持てる。
だが士道がそう言った瞬間、四糸乃は顔をボンっ! と真っ赤に染め、背を丸めフードをたぐって顔を覆い隠した。
「よ、四糸乃・・・・? どうした?」
士道が顔を覗き込むようにしながら声をかけると、四糸乃がフードを握っていた手を離し、そろそろと顔を上げた。
「・・・・そ、そんなこと、言われた・・・・初め・・・・った、から・・・・」
「そ、そうなのか・・・・?」
四糸乃が、深く首肯した。と、そこで琴理の声が聞こえた。
《士道、今の・・・・計算?》
「は? 計算って何だ・・・・?」
《・・・・いえ。違うならいいわ》
≪天然ジゴロの才能があったか・・・・≫
「は、はぁ・・・・?」
よく分からない事を言う妹とトカゲに、士道は小さく眉をひそめた。
《気にしないで。今のところ問題はないわ。ーーー存外落ち着いてるじゃない。一応同居訓練の成果が出てるのかしら?》
「・・・・さあてね。・・・・それで四糸乃、お前はASTに襲われても、ほとんど反撃しないらしいじゃないか。何か理由があるのか?」
訊くと・・・・四糸乃は、またも顔をうつむかせた。
十香の霊装と同じように、光の膜で構成されたインナーの裾をギュッと握るようにしてから、消え入りそうな声を出してくる。
「・・・・わ、たしは・・・・いたいのが、きらいです。こわいのも・・・・きらいです。きっと、あの人たちも・・・・いたいのや、こわいのは、いやだと・・・・思います。だから、私、は・・・・」
「・・・・っ、四糸乃・・・・お前、そんな理由ーーーーーー」
油断していれば聞き逃してしまいそうなほど小さな、掠れるような声音。しかし、士道はその言葉に、心臓を穿たれたよう衝撃を覚え、言葉を最後まで続けられなかった。
四糸乃が全身を小刻みに震わせながら、言葉を続けた。
「でも・・・・私、は・・・・弱くて、こわがり・・・・だから。1人だと・・・・ダメ、です。いたくて・・・・こわくて、どうしようも、なくなると・・・・頭の中が、グチャグチャに・・・・なって・・・・きっと、みんなに・・・・ひどい、ことを、しちゃい、ます」
後半は涙声になり、ずずっと鼻を啜る、プラモンスター達は心配そうに四糸乃に駆け寄り、四糸乃はさらに続けてくる。
「だ、から・・・・よしのんは・・・・私の、ヒーロー・・・・なんです。よしのんは・・・・私が、こわく、なっても・・・・大丈夫って、言って・・・・くれます。そした、ら・・・・本当に、大丈夫に・・・・なるんです。だから・・・・だ、から・・・・」
「・・・・・・・・っ」
≪・・・・・・・・・≫
ドラゴンは四糸乃を見据え、士道は無意識に唇を噛み、両手はとうに、血が出るのではないかというほどに強く握る。耐えられないからだ。
四糸乃は。この小さな少女は。あまりにも優しくて、あまりにも悲しすぎる。『いたいの』や『こわいの』はきっと嫌だろうからと。
何度も自分に敵意と殺意、そして悪意を突き付けてきたはずの相手を慮り、傷つけないようにする。それが、一体どんなに困難なことか。
四糸乃が、“弱い”?
四糸乃が己を評した言葉に首を振る。弱くなど、あるものか。
しかし、それは、非道く、非道く歪な慈悲。
「ーーーーーー」
士道は思わず席を立ち、テーブルを迂回して四糸乃の隣に腰を下ろすと、そのまま、四糸乃の頭をワシワシと撫でた。
「・・・・っ、あ・・・・っ、あのーーー」
「俺が」
「ーーーっ、・・・・?」
「俺がーーーお前を救ってやる」
言うと、四糸乃が目を丸くするが、構わず、士道は続けた。
「絶対によしのんを見つけ出す。そして・・・・お前に渡してやる。それだけじゃない。もうよしのんに守ってもらう必要だってなくしてやる。もう、お前に『いたいの』や、『こわいの』なんて近づけたりしない。俺がーーーお前の、ヒーローに、希望になってやる!」
フード越しに左手で頭を撫でながら、右手の『ドライバーオンリング』を突き出す。
四糸乃の優しさには、重大な欠落がある。
聖人のようなその慈悲が、1つも自分に向けられていないのだ。
なら、それは、外部から与えられるしかない。
もう、精霊がどうとか、そんな話は関係ない。
四糸乃に。このあまりに優しすぎる少女に、何も救いがないだなんて、そんなのは絶対に許されない。
そう思ってしまった。
「・・・・? ・・・・?」
四糸乃はしばしの間、目を白黒させ、数十秒の後、小さく唇を開いた。
「・・・・あ、りがとう、ございま・・・・す」
「・・・・おう」
四糸乃が素直にそう言ってくれたのが嬉しく、士道は小さく頷いた。
≪おい小僧。いい雰囲気のところ悪いが、厄介な事がやって来たぞ≫
「えっ?」
ドラゴンの言葉を聞き返そうとしたその瞬間ーーー。
「シドー・・・・! すまなかった、私はーーー」
突然扉が開かれたかと思うと、朝方出たはずの十香が、肩で息をしながらリビングに入ってきた。
そして四糸乃の頭を撫でる士道の姿を見るなり、ぴき、と身体を固まらせる。
「とーーーとッ、ととととととととととととととととととととと十香・・・・ッ!?」
「・・・・あ・・・・っ」
士道は顔中に、ぶわっと汗を噴き出し、四糸乃は十香を見ると目をパチクリさせた。
「し、シドー・・・・その娘は・・・・」
「(ど、どどどどどどうするよドラゴンっ!!??)」
≪腹を括って状況説明をしておけ≫
「いや、十香・・・・! これはその・・・・!」
≪なんだその浮気現場に踏み込まれたダメ男のような態度は?≫
「お、お前、無事だったのか・・・・?」
「≪ん?≫」
呆気に取られた士道とドラゴンに構わず、十香はゆっくりと、いつの間にか士道の背中に隠れる四糸乃に近づく。
「あ・・・・その・・・・」
「・・・・ぁっ・・・・ぅ・・・・」
十香と四糸乃は気まずそうにお互いを見て、モジモジとしていた。が、十香の方が唇を開いた。
「わ、私は・・・・十香・・・・夜刀神、十香だ・・・・」
「よ、四糸、乃・・・・です・・・・」
「よ、四糸乃か、その・・・・私も、お前と同じ精霊だ・・・・だから、その・・・・よろしく・・・・」
「・・・・っ」
十香が恐る恐る手を差し、四糸乃も恐る恐る差し出された十香の手を握った。
「よろ、しく・・・・おね・・・・がい、します・・・・」
「うむ・・・・」
「(・・・・なんなんだろうな、ドラゴン?)」
≪ふん、〈プリンセス〉も馬鹿ではない。ただ、子供だと言うだけだ。そして、少し大人になったのだろう≫
戸惑う士道と違って、ドラゴンは十香の成長を、どこか微笑ましそうな声音で説明した。